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【事件名】土木工事積算システムの不正競争事件
【年月日】平成14年2月14日
 東京地裁 平成12年(ワ)第9499号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年11月22日)

判決
原告 株式会社公共土木積算研究所
訴訟代理人弁護士 成海和正
被告 A
被告 有限会社彩優システム
被告 B
被告 C
被告ら訴訟代理人弁護士 中川隆博


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して、185万1851円及びこれに対する被告Cについては平成12年6月1日(訴状送達の日の翌日)から、その余の被告らについては同年5月21日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Aは、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成12年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
 原告は、公共土木工事の積算システムのコンピュータソフトウエアの販売等を目的とする株式会社である。被告A、同B及び同Cは、いずれも原告会社の元従業員であり、被告有限会社彩優システム(以下「被告会社」という。)は、被告Aを代表者、被告B及び同Cを従業員とする有限会社であって、原告と同種の営業を目的としている。
 本件において、原告は、被告A、同B及び同Cが原告会社在職中に原告の営業秘密を不正に取得し、被告会社がこれを利用して営業活動をしていると主張して、被告らに対し、不正競争防止法2条1項4号、5号、5条等に基づき損害賠償(被告らに訴状が送達された日の翌日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求めるとともに、被告Aに対し、退職後の秘密保持契約に違反したことを理由に違約金の支払(遅延損害金については上記と同じ。)を求めている。
1 当事者間に争いのない事実等(証拠により認定した事実については、末尾にその証拠を掲げた。)
(1) 原告は、公共土木工事の積算システムのコンピュータソフトウエアの販売を主たる目的とする会社である(なお、原告は、本訴提起後の平成12年6月6日に旧商号「日東通信株式会社」を現在のものに変更した。)。
(2) 被告Aは、平成11年4月1日から同年8月25日まで、被告Bは同年2月26日から同年8月20日ころまで、被告Cは同年6月11日から同年9月30日まで、それぞれ原告会社に在籍していた。
(3) 被告Aは、平成11年8月27日、城北企画有限会社という名称の会社を買い取り、商号及び事業目的を変更して被告会社とし、自らその代表者に就任した。被告会社は、公共土木工事の積算システムのコンピュータソフトウエアの販売等を目的としている。被告B及び被告Cは、被告会社の従業員である。
(4) 原告及び被告会社の扱う公共土木工事の積算システム用コンピュータソフトウエアは、建設業者等が都道府県の公共土木工事について入札する際の入札額を決定するに当たり必要となる当該土木工事の見積額の積算を、工事の種類や数量等の必要なデータをコンピュータに入力等することにより自動的に行うというものである。
 原告は、自らが販売する上記ソフトウエアに埼玉県など首都圏の5都県の資材単価等に係るデータを入力して販売している。そのうち、埼玉県については、県庁土木部技術管理課作成の平成11年度4月1日時点の土木工事設計単価に係る単価表の単価等の情報のうち非公開とされているものを入力している旨の説明をしている(甲13の1、2、甲14の1、2、甲16〜18。以下、原告のソフトウエアに入力されているという上記情報を「本件情報」という。)。
(5) 被告会社は、平成11年10月ころ、原告が同年4月ころ販売活動を行っていた相手方である埼玉県入間市所在の有限会社金子庭園(以下、単に「金子庭園」という。)に対し、売主の名義を株式会社システムイン国際(以下、単に「システムイン国際」という。)、リース契約の相手方を三洋電機クレジット株式会社とする契約を締結させて、システムイン国際が開発した「土木マスター」という商品名のコンピュータソフトウエアを販売した。
(6) 被告Aは、別紙の内容の「退職後の秘密保持誓約書」と題する誓約書(以下「本件誓約書」という。)に署名押印の上、これを原告会社に提出している。
2 本件の争点
(1) 原告が保有する本件情報は営業秘密に当たるか。特に、秘密としての保護に値する有用性が認められるか。(争点1)
(2) 被告ら(被告会社を除く。)は、本件情報を不正に取得し、被告会社はこれを入力したソフトウエア(土木マスター)を金子庭園に販売したか。(争点2)
(3) 原告に生じた損害の額(争点3)
(4) 被告Aは本件誓約書に基づく違約金の支払義務を負うか。(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件情報の営業秘密該当性)について
原告の主張
ア 本件情報の有用性について
 一般に、県や市町村が公共工事を民間の業者に発注する形態としては、一般競争入札と指名競争入札とがあるが、いずれの態様においても、発注元の地方公共団体は、当該公共工事についての適正な工事を施工し完工するために必要な適正価格を積算した上で、この価格を伏せて入札に付している。
 競争入札に参加する業者の立場からすれば、入札価格が地方公共団体において適正価格として設定した価格(以下「予定価格」という。)を超えていれば、落札することは困難である。逆に、入札価格が予定価格を下回れば、落札できる可能性はあるが、その価格が低廉にすぎると発注元である地方公共団体は手抜き工事を疑って当該業者に落札させないし、業者としても安価で入札すれば、自らの利益が減ることになり得策ではない。
 したがって、入札を希望する業者としては、予定価格を探り、これに限りなく近い価格で落札することが最も望ましいが、他の入札参加業者の動向に配慮しながら、予定価格から何パーセントか安い価格で入札することを目指している。
 本件情報は、非公開のものであり、これにより建設業者としては地方公共団体が公共工事の入札に当たって設定する予定価格につき、容易かつ的確に予想することが可能になる。その結果、業者にとってより予定価格に近い価格、すなわち落札可能な範囲において最も有利な価格で落札することができるという有用性を有する。
イ 本件情報の入手先について
 原告は従前からシステムイン国際の開発した「土木マスター」を建設業者に販売していたが、平成10年、顧客であった埼玉県内の建設業者から土木工事設計単価表を見せられ、この単価表中の単価を「土木マスター」に入力してはどうかと提案された。原告は、この提案を容れて当該建設業者から同年以降毎年単価表の提供を受けるようになった。本件情報(平成11年度4月分)についても、平成10年度と同様、上記の建設業者から入手したものである。
 埼玉県庁で非公開の扱いとされている本件情報を上記の建設業者が知るようになった経緯については、公共工事の受注後、工事の進捗状況の把握、監理、検査、指導のため、県庁の担当部署と受注した大手建設業者との間で各工事における種目、工種、種別、細別の単価及び金額に係る膨大な項目について突き合わせの作業を行っているところ、その過程で県が大手建設業者を信頼して、上記単価表を業者に渡し、突き合わせ作業の能率化を図っていることに起因するものと推測される。
ウ 秘密として管理されていたことについて
 原告会社では、本件情報を含む公共土木工事の資材単価に係るデータをフロッピーディスクに収納してマル秘扱いで保管していた。従業員に対しては、業務上必要な場合を除き上記フロッピーディスクの社外への持ち出しを禁じるほか、本件誓約書を提出させるなどして、本件情報を含む資材単価に係るデータの管理に注意を払っていた。
 なお、本件情報の入力された「土木マスター」については、平成11年4月の時点で、所定の対価を支払う限り、不特定の顧客がこれを入手することが可能であった。しかし、「土木マスター」を起動させるためには、顧客のコンピュータにコピー防止のためのハスプ(HASP)と呼ばれる制御装置を設置することが必要であり、この装置が設置されると「土木マスター」を複製することは不可能な仕組みになっていたから、本件情報が顧客から更に他の第三者に漏洩することはあり得ない。
エ まとめ
 以上によれば、本件情報は、性質上非公知のもので、有用性を有し、かつ秘密として管理されていたものであるから、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する。
被告らの主張
ア 本件情報の有用性について
 営業秘密の保護に関する不正競争防止法の規定の趣旨は、秘密として管理されている情報をすべて保護するというものではなく、当該情報が法的保護に値する社会的な意義と必要性を有する場合に限り保護するというものである。
 原告の主張によれば、本件情報は、埼玉県庁内部の特定の者だけが知り得たもので、第三者には公開されていない情報であり、原告はこれを埼玉県から適法とはいえない何らかの方法で取得したものである。
 このように非公開の情報を違法な手段で入手することが許されないことは当然であり、仮に何らかの事情によりそのような情報を知ったとしても、これを入手した者が当該情報につき何らかの法的保護に値する地位を取得するものではない。
 したがって、本件情報は何ら法的保護に値しないものであり、不正競争防止法上の営業秘密に該当しないというべきである。
イ 秘密として管理されていたことについて
 原告会社においては、データの管理はきちんとされておらず、従業員の誰も本件情報を含む非公開の単価についての資料が社内にあることを認識していなかった。
 また、フロッピーディスクを自宅に持ち帰って作業をしていた従業員もおり、秘密保持に関する社内規則もなかった。本訴で証拠として提出されている本件誓約書(甲1、2)は、被告A及び同Cが退職後に書かされた書面である。
(2) 争点2(被告らによる本件情報の不正取得等)について
原告の主張
 被告A、同B及び同Cは、平成11年8月ころ、共謀の上、本件情報を含む平成11年度の公共土木工事の資材単価に関する情報の記録されているフロッピーディスクを複写するなどして、その内容を原告会社から持ち出し、この情報を被告会社に開示した。
 被告会社は、開示を受けた情報について、上記被告らによる不正取得行為によるものであることを知りながら、システムイン国際の基本ソフトである「土木マスター」にこれを入力して前記1(5) のとおり金子庭園に販売した。
 被告会社が埼玉県において「土木マスター」の販売を開始したのは、平成11年9月中旬であるが、被告A、同B及び同Cはいずれも原告会社に入社する以前には土木・建設業の経験が全くなかったのであり、本件情報を不正に取得しこれを利用するのでなければ、原告会社を退社してわずか1か月足らずの短期間に商品としての価値のあるデータを入力したコンピュータソフトウエアとしての「土木マスター」を販売することは不可能である。
被告らの主張
 被告Aらが本件情報を不正に取得して被告会社に開示し、被告会社がこれを情を知って使用した旨の原告の主張は、否認する。
 被告Aらは、原告の保有するデータを一切利用していない。現在、被告会社が販売している「土木マスター」には、東京都、埼玉県、神奈川県についての資材単価等の情報が入力されているが、資材単価については、すべて公表されたデータを入力している。埼玉県に関しても、県が公表しているデータ及び顧客の要望によりその顧客から入手した資材単価の一覧表によるデータを入力したものである。
(3) 争点3(原告に生じた損害)について
原告の主張
 被告会社は、前記1(5) のとおり金子庭園に「土木マスター」を販売したが、その販売代金は185万1851円であり、それにより同額の利益を得た。したがって、原告は、同金員に相当する額の損害を被った(不正競争防止法5条1項)。
 そして、被告A、同B及び同Cは、被告会社と共同して不正競争行為を行ったものであるから、民法719条により上記損害につき被告会社と連帯して賠償の責任を負う。
 なお、仮に本件情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当しないとしても、本件情報が法的保護に値する利益であることは明らかであるから、被告らは、一般不法行為責任を理由として上記と同じ金額の損害賠償を連帯して支払うべきである(民法709条、719条)。
 よって、原告は、被告らに対し、損害賠償として、主位的には不正競争防止法5条1項に基づき、予備的には民法709条に基づき、連帯して、185万1851円及びこれに対する被告Cについては平成12年6月1日から、その余の被告らについては同年5月21日(いずれも訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
被告らの主張
 原告の主張は否認し、争う。
 仮に、原告に何らかの損害が発生したとしても、その額は、システムイン国際からの仕入代金を、販売代金から控除したものとされるべきである。
(4) 争点4(被告Aの違約金支払義務)について
原告の主張
 被告Aは、平成11年8月25日、原告会社を退社したが、退社後の同年9月24日、前記1(6) のとおり、「退職後の秘密保持誓約書」と題する本件誓約書に署名押印して、原告会社に差し入れた。
 この契約において、被告Aは、@秘密保持義務として、原告会社が保有する東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県及び茨城県の公共土木工事積算に係る資材単価等の情報につき、原告会社を退社した後も、同被告自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために、開示、漏洩若しくは使用しないこと、A競業避止義務として、原告会社退社後1年間は、原告会社と競合関係に立つ事業者に就職し又は役員に就任しないこと、原告会社と競合関係に立つ事業を自ら開業又は設立しないこと、を原告会社に誓約した。
 そして、被告Aが上記各義務に違反する行為をした場合には、違約罰の趣旨としての違約金1000万円を原告会社に支払うことを約した。
 しかるに、被告Aは、上記@の秘密保持義務に違反して被告会社に営業秘密である上記資材単価等の情報を開示し、原告会社と競合関係に立つ被告会社を開業してその役員に就任して、上記Aの競業避止義務に違反した。
 したがって、被告Aは、原告に対し、違約金として1000万円及びこれに対する平成12年5月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
被告Aの主張
 原告主張のうち、被告Aが原告会社に対し本件誓約書を差し出したことは認め、その余は否認し、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(営業秘密性)について
(1) 不正競争防止法にいう「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう(同法2条4項)。
 不正競争防止法は、このように秘密として管理されている情報のうちで、財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なものに限り保護の対象としているが、この趣旨は、事業者の有する秘密であればどのようなものでも保護されるというのではなく、保護されることに一定の社会的意義と必要性のあるものに保護の対象を限定するということである。
 すなわち、上記の法の趣旨からすれば、犯罪の手口や脱税の方法等を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は、法的な保護の対象に値しないものとして、営業秘密としての保護を受けないものと解すべきである。
(2) そこで、本件につき検討するに、原告が営業秘密であると主張する本件情報は、「公共土木工事に関する埼玉県庁土木部技術管理課作成の平成11年度4月1日時点の土木工事設計単価に係る単価表の単価等の情報のうち非公開とされているもの」であるところ、原告の主張によれば、本件情報は埼玉県庁の中でも上記部署に属する者のみが知りうる情報で非公開の扱いとされており、これについて公共土木工事に入札しようとする業者が事前に知ることができれば、その業者にとっては県や市町村等が設定した予定価格に近い落札可能な範囲における最も有利な価格で落札することができ、その点において情報としての有用性を有するというのである。
 上記の原告の主張内容によれば、本件情報は、地方公共団体の実施する公共土木工事につき、公正な入札手続を通じて適正な受注価格が形成されることを妨げるものであり、企業間の公正な競争と地方財政の適正な運用という公共の利益に反する性質を有するものと認められるから、前記のような不正競争防止法の趣旨に照らし、営業秘密として保護されるべき要件を欠くものといわざるを得ない。
 したがって、本件情報は法的保護に値するものということができず、不正競争防止法にいう「営業秘密」に該当しない。
(3) 以上によれば、原告の不正競争防止法に基づく請求は既に理由がないが、なお付言するに、以下の点に照らしても、理由がないことが明らかである。
 すなわち、原告は、本件情報を埼玉県内のある建設業者から入手したと主張しているが、原告の主張によれば、本件情報は外部の者、特に入札に参加する資格を有する業者が容易に入手することのできないはずの性質の情報である。したがって、入手経路に関する原告の主張を裏付ける的確な証拠が存在せず、原告も入手経路の具体的な内容を明らかにしていない本件においては、本件情報を原告が入手したという事実自体、これを認めることができない(原告は、「平成11年度土木工事設計単価表4月1日」と題する資料〔甲17〕にある単価等のデータのうち、「平成11年度公共工事設計単価表(平成11年4月1日)」と題する資料〔甲18〕により公表されている情報を除いたものが本件情報であると主張するが、「平成11年度土木工事設計単価表4月1日」と題する資料に記載されている情報と前記埼玉県庁の担当課が非公開としている単価等の情報が同じ内容であることを認めるに足りる証拠はなく、これを確認することは事実上不可能であるから、原告が上記資料を所持しているという事実から本件情報を入手したことを認定することもできない。)。
 さらに、本件情報の入力された「土木マスター」については、原告会社が金子庭園に販売の営業活動を行ったという平成11年4月の時点で、所定の対価を支払う限り不特定の顧客において入手可能であったことは、原告が自認しているところ、これによれば、本件情報は不特定多数の者が入手可能な状態にあったものであって、原告会社において秘密として管理されていたということもできない。
(4) そして、前記認定の本件情報の性質に照らせば、これが不法行為法上の保護に値する利益に当たると認めることもできないから、原告が予備的に請求する一般不法行為(民法709条)を理由とする損害賠償請求もまた理由がない。
2 争点4(被告Aの違約金支払義務)について
(1) 証拠(甲1、乙4)によれば、原告と被告Aの間では、別紙のとおりの本件誓約書に基づいて秘密保持等を内容とする契約(以下「本件契約」という。)が成立していることが、一応認められる。
 本件契約において、被告Aが秘密として保持することを約した情報は、本件情報を含む本来非公開の公共土木工事に係る資材単価等のデータであるが、これらの情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当せず、不法行為法において保護されるべき利益を有するものとも認められないことは、前記1において説示したとおりである。
 そうすると、このように法的保護に値せず、かえって公共の利益に反する内容の情報については、これを秘密として保持する旨の契約をしても公序良俗に反するものとして、契約当事者はその内容に拘束されないと解するのが相当である(民法90条)。
 したがって、被告Aには、原告主張の秘密保持義務違反を認めることはできない。
(2) 次に、競業避止義務については、本件誓約書には「私は前項(退職後の秘密保持の誓約)を遵守するため、貴社退職後1年間にわたり、下記の行為をしないことを誓約致します。」との記載があることからみて、本件契約の趣旨としては、秘密保持義務を担保するために課されていることが明らかである。
 そうすると、被告Aに秘密保持義務の違反を認めることができない以上、被告Aが被告会社の代表者に就任しているという事実があるとしても、秘密保持義務に付随する競業避止義務について、その違反を認めることはできないというべきである。
(3) 以上によれば、被告Aは、本件契約に基づく違約金の支払義務を負わないというべきである。
3 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 和久田道雄
 裁判官 田中孝一
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