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【事件名】薬品の「原価セール」事件
【年月日】平成14年2月5日
 東京地裁 平成13年(ワ)第10472号 不正競争防止法に基づく損害賠償等請求事件
 (平成13年11月13日 口頭弁論終結)

判決
原告 大正製薬株式会社
訴訟代理人弁護士 宮代力
同 伊従寛
同 庭山正一郎
同 小泉淑子
同 山岸和彦
同 佐藤りか
被告 株式会社ダイコク
被告 株式会社グレープダイコク
被告 株式会社エビスダイコク
被告 株式会社エース・ダイコク
被告 有限会社イーエフ
被告 A
被告ら6名訴訟代理人弁護士 西野弘一
同 川村哲二


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求の趣旨
1 被告株式会社ダイコク及び被告Aは、原告に対し、各自1億円及びこれに対する平成13年6月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ダイコクは、原告に対し、別紙動産目録記載1の動産を引き渡せ。
3 被告株式会社グレープダイコクは、原告に対し、別紙動産目録記載2の動産を引き渡せ。
4 被告株式会社エビスダイコクは、原告に対し、別紙動産目録記載3の動産を引き渡せ。
5 被告株式会社エース・ダイコクは、原告に対し、別紙動産目録記載4の動産を引き渡せ。
6 被告有限会社イーエフは、原告に対し、別紙動産目録記載5の動産を引き渡せ。
7 被告らは、原告発売にかかる商品の仕入価格を、原告又は被告ら以外の者に開示してはならない。
8 被告株式会社ダイコクは、原告に対し、3966万2834円及びこれに対する平成13年5月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
9 被告株式会社グレープダイコクは、原告に対し、120万6171円及びこれに対する平成13年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
10 被告株式会社エース・ダイコクは、原告に対し、1289万5000円及びこれに対する平成13年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
11 被告有限会社イーエフは、原告に対し、18万9000円及びこれに対する平成13年5月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
12 訴訟費用は、被告らの負担とする。
13 第1項ないし第6項、第8項ないし第12項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
 原告は、日本有数の大手製薬会社であるところ、ドラッグストアを営む被告会社5社(以下、被告らのうち、被告Aを除く被告会社5社を総称して「被告各会社」という。)との間に取引基本契約を締結して、被告各会社に対し原告発売に係る医薬品等の商品を卸売りしている。被告ダイコクは、原告からの仕入価格を明示してその価格による安売りセールを行ったところ、原告が、原告からの仕入価格は営業秘密であり、被告ダイコクがこれを開示して安売りセールを行ったことなどは、不正競争防止法上の不正競争行為に該当するとともに上記契約に違反し、不法行為又は債務不履行を構成すると主張して、被告ダイコク及びその代表者である被告Aに対して損害賠償を求めるとともに、被告らに対して仕入価格の開示行為の差止めを求めている。
 また、原告と被告各会社は上記契約に伴ってサポートVAN(付加価値通信網)システムの貸与契約(以下「サポートVAN契約」という。)を締結していたところ、原告は、被告ダイコクの安売りセールにより、原告と被告各会社の間の信頼関係が破壊されたから、取引基本契約及びサポートVAN契約を解除したと主張して、被告各会社に対し、同システムに使用されていた機器の返還及び精算金の支払(ただし、被告エビスダイコクに対しては、機器の返還のみ)を併せて求めている。
1 争いのない事実
(1) 当事者等
ア 原告は、医薬品等の製造販売等を業とする株式会社である。
イ 被告株式会社ダイコク、被告株式会社グレープダイコク、被告株式会社エビスダイコク、被告株式会社エース・ダイコク、被告有限会社イーエフは、いずれも、ドラッグストア等の店舗において、医薬品、化粧品等の販売を行うこと等を業とする株式会社又は有限会社である。
ウ 被告Aは、被告各会社のうち被告エビスダイコクを除く各会社の代表者であり、被告各会社の株式又は持分の大半を有する実質的オーナーである。
(2) 取引基本契約及びサポートVAN契約の締結
ア 原告は、被告各会社との間に、それぞれ取引基本契約を結び、原告発売にかかる医薬品等の商品(以下「原告商品」という。)を継続的に販売してきた。
イ 原告は、小売店の販売支援のために原告が企画・開発したサポートVANシステムを、被告各会社がドラッグストア等の店舗において利用できるように、各店舗ごとに、被告各会社との間でサポートVAN契約を締結した。そして原告は、この契約に基づき、被告各会社にPOSレジ端末(附属品を含む。)、オプション機器(附属品を含む。)、その他の機械設備等を貸与したが、その機械設備等の動産の内容及び現在の所在場所は別紙動産目録1ないし5記載のとおりである。
ウ サポートVAN契約16条には、同契約が終了した場合には、被告各会社は直ちに原告貸与の設備及びマニュアル類を返還する旨、及び、原告の帰責事由以外で同契約が修了した場合には被告各会社は原告に対し所定の精算金を支払う旨が定められている。
(3) 被告らの行為
ア 被告ダイコクは、奈良県、広島県、岡山県、愛媛県、徳島県、熊本県等に所在するドラッグストアにおいて、平成13年春から、少なくとも10数品目、多いときは90品目以上の原告の主力商品を、反復・継続的に販売チラシ等にその仕入価格(卸価格。以下、原告から見たそれを「卸価格」といい、被告らから見たそれを「仕入価格」ということがあるが、同じ価格を指す。)と定価を併記して比較した販売チラシを用い、「原価セール」と題して、仕入価格により消費者に販売するようになった(以下、被告ダイコクの上記の行為を「原価セール」という。)。
イ さらに、被告ダイコクは、ダイコクゴールド会員(誰でも、一定金額以上の買い物をすれば会員となることができる。また、セール期間中であれば、そのような金額の限定なしに、会員となることができる。)に対しては、いつでも仕入価格により販売するとして、同会員に対して、期間を限定せずに、仕入価格により原告商品の販売を行っている。
ウ 被告ダイコクが行った、原告商品の原価セールの実施状況は、少なくとも別紙「原価セール実施状況一覧」のとおりである。
 チラシの配布状況については、被告各会社は、1回のセールにつき、当該セールが行われる地域の全世帯に行き渡るに足りる20万部ないし30万部の新聞折り込みチラシを配布している。
(4) 原告の解除通知
 原告は、被告各会社に対し、平成13年5月20日付け解除通知(以下「本件解除通知」という。)により、原告が被告各会社と締結しているサポートVAN契約をそれぞれ即時解約する旨通知し、本件解除通知は、被告ダイコク、同エビスダイコク及び同イーエフには平成13年5月21日に、同グレープダイコク及び同エース・ダイコクには翌22日に、それぞれ到達した。
2 争点
(1) 不正競争行為の成否
 被告ダイコクが原価セールを行った行為が、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為を構成するか(争点1)。
(2) 被告ダイコクの原価セールの債務不履行・不法行為該当性
ア 被告ダイコクが原価セールを行った行為が、原告との間の取引基本契約上の債務不履行を構成するか(争点2)。
イ 被告ダイコクが原価セールを行った行為が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)の規制するおとり廉売や不当廉売に該当し、あるいは不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に違反するものとして、不法行為を構成するか(争点3)。
ウ 原告の損害(争点4)
(3) サポートVAN契約の解除に基づく精算金及び動産返還請求の可否
 被告ダイコクの上記行為により、原告と被告各会社の間の信頼関係が破壊され、被告各会社との間のサポートVAN契約が原告の解除により終了したか(争点5)。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為を構成するか)について
(1) 原告の主張
 原告商品の仕入価格は、不正競争防止法上の営業秘密に当たり、被告ダイコクが仕入価格を開示した行為は、同法2条1項7号の不正競争行為に該当する。その理由は以下のとおりである。
ア 営業秘密の要件について
(ア) 秘匿性(秘密管理性)
 卸価格は、商慣習上秘匿性ある情報とされており、また、原告会社内において秘密情報として厳重な管理がされ、かつ当事者間の黙示の合意及びサポートVAN契約により、契約上も秘密保持義務が課されていることにより、秘密として管理されている。
a 商慣習上の秘密保持義務
 仕入価格(卸価格)は、商慣習により当然に秘匿性ある情報とされている。卸価格が秘密情報であり、取引当事者以外の第三者に対する開示は行ってはならないことについては、医薬品業界に限らず、広く取引社会一般における正当な商慣習として認められている。したがって、原告と取引先の販売業者との間においても、卸価格が秘密情報であることは当然の了解事項である。
 あるメーカーの卸価格が他の競業メーカーに知られた場合、それを知った競業者は、それを前提にして自己の販売政策を策定することが可能となるから、卸価格を知られたメーカーがそれを知ったメーカーよりも競争上不利益な立場に陥ることは明らかである。また、販売業者から見た場合、卸価格は流通経路によって同じでないから、自己以外の販売業者に対する卸価格が自己に対する卸価格よりも低い場合、メーカーに対して卸価格の引下げを要求することが可能となる。また、販売業者は、競争関係にある販売業者に対する卸価格が公開された場合、その価格と販売価格との関係によっては、消費者から、値下げの要求をされる可能性が出てくる。殊に本件においては、被告ダイコクは、卸価格を開示してその価格で販売する旨の広告宣伝を行なっていたのであるから、そのおそれが大であることはいうまでもない。それゆえに、メーカーも、その取引先も、互いに、卸価格を他に漏らさないことを前提とした取引を行なっているのである。
 このように、当事者間の取引基本契約等で合意するまでもなく、商慣習上、被告ダイコクは、原告の卸価格を一般に開示してはならない義務を当然に負う。
b 原告の社内規定
 卸価格情報は、原告会社内において、機密情報として取り扱われ、管理されている。卸価格は取引先に対して提示されることを本来の目的とする営業情報であるが、取引先に提示された当該情報は、取引先が秘密保持義務を負うから、取引先への提示行為によって情報の秘密性が失われるものではない。また、卸価格が、社内における秘密情報である以上、原告の社員(たとえ営業部員であっても)が、卸価格情報を担当取引先への営業目的以外のために開示・使用し、又は営業に関係のない第三者に開示・使用するようなことがあれば、社内規程違反として処分の対象となる。
c 契約上の秘密保持義務
 仕入価格(卸価格)を第三者に開示しないことについては、当然守るべき義務として取引当事者に了解されているものであり、取引関係の基礎ないし内容をなすものである。取引関係、とりわけ本件のような信義則に基づく継続的な取引関係にあっては、契約条項として書面に明記されているか否かにかかわらず、当事者間では仕入価格の秘密保持義務が黙示的に合意され、取引契約上の義務となっている。
 さらに本件では、原告と被告各会社との間で締結されたサポートVAN契約書の5条には、被告各会社の秘密保持義務が明確に定められている。すなわち、同条1項には、「甲(被告各会社)は、本契約の内容並びに本契約に基づき取得した乙データ及び乙資料を機密に保持し、理由のいかんを問わず本契約内容、当該データ、資料又はそれらの複製物を第三者に開示、譲渡、貸与もしくは使用許諾してはならない。」と規定されている。ここでいう「乙データ」とは、@「甲データ」(甲(被告各会社)が端末から入力する仕入、売上、支払、在庫等に関するデータ)又はA「甲データ及びその他のデータに乙(原告)が処理加工を加えて作成したデータ」を指す(サポートVAN契約書2条)。原告商品の仕入価格は、被告各会社が原告との取引の過程で、仕入れ、支払等において処理するデータであり、上記「乙データ」である「商品マスター」上の「単価」欄に仕入価格として登載されるものである。それゆえ、仕入価格情報が、被告各会社の秘密保持義務の対象となる「乙データ」に該当することは明らかである。なお、サポートVAN契約上、仕入価格が、サポートVAN契約を結んでいない取引先に提示されることがあるとしても、仕入価格がサポートVAN契約の「乙データ」に該当することに何ら変わりはない。このように、被告各会社は、原告商品の仕入価格情報について、契約上も秘密保持義務を負っている。
(イ) 非公知性
 原告の卸価格は、不特定の者に知られるものでない非公知の情報である。原告は取引の過程で、卸価格が取引当事者以外には秘密であることを当然の前提として、薬局、薬店に個別に卸価格を提示する。かかる卸価格の非公知性は、個別の取引の相手方である薬局、薬店の数により影響されるものではない。原告は、開示が必要な取引先に対してのみ、必要な範囲で個別に卸価格を提示するのであり、不特定かつ多数の者に対して卸価格を開示ないし公表しているわけではないからである。情報開示を受けた取引先は守秘義務を負うので、競争業者、他の取引先、消費者等取引当事者以外の第三者に対する秘密性が失われることはない。
(ウ) 有用性
 原告商品の仕入価格(卸価格)は、被告ダイコクがこれを顧客を誘引する手段として用いていることからも明らかなように、経済的な利用価値のあるものであり、情報に有用性があることは明らかである。しかも、被告ダイコクが開示したのは、少数の原告商品の個別の仕入価格ではなく、原告商品の著名商品群の「仕入価格表」というべきものである。すなわち被告ダイコクは、事実上原告商品だけを標的にして、一般消費者に対してチラシで、多いときには原告商品の90品目以上にわたる著名商品群の仕入価格表を公表した。顧客リストが個々の顧客の住所・連絡先自体とは異なった、さらに有用性、秘密性の高い秘密情報と理解されているのと同様、価格表も個別の原告商品の価格とは異なった、さらに有用性、秘密性の高い秘密情報に該当する。文献においても、「価格表」が企業にとって、重要な秘密とされる場合のあることが肯定されている(小野昌延「営業秘密の保護」等)。
イ 被告ら全員に対する差止めの必要性
 原告商品の仕入価格(卸価格)を開示する行為を行ったのは被告ダイコクであるが、被告各会社はいずれも実質的なオーナーである被告Aの一体的経営・管理の下で原告の営業秘密である原告商品の仕入価格に関する情報を保有しており、被告A自身もまた同情報を保有している。そして、被告A及び同被告のコントロール下にある被告各会社は、いずれも原告商品の仕入価格を今後も一般に開示して原告の利益を侵害するおそれがあるから、原告は、被告ら全員に対して、営業秘密たる原告商品の仕入価格の開示の差止めを請求することができる。
 また、被告Aは、原告商品の原価セールについて、「今までの私どもの経営理念に即した商法の一環として行ってきたもの」と述べており、原告が被告各会社との取引基本契約を解除したとしても、被告各会社の在庫又は他の情報源から入手した原告商品の仕入価格の開示がされるおそれがあり、これによる原告の不利益を防止するためにも、原告は、被告ら全員に対し、原告商品の仕入価格の開示の差止めを求める必要がある。
ウ 被告ダイコク及び被告Aの損害賠償責任
 被告ダイコクが原告商品の仕入価格(卸価格)を開示した行為は、同被告の代表者である被告Aの指示により行われたものであるから、被告ダイコク及び被告Aは共同不法行為者として、連帯して、不正競争行為に基づく損害賠償義務を負担する。
(2) 被告らの主張
ア 卸価格(仕入価格)の秘密保持義務について
(ア) 商慣習上の秘密保持義務について
 原告は、卸価格が取引当事者以外には秘密であることを、取引の条件として明示していないので、秘密として管理されているとはいえない。したがって、仮に原告においてそれを当然の前提としていたとしても、被告らが法的な秘密保持義務を負うことはない。
(イ) 原告の社内規定について
 原告は、社内において卸価格に関する情報が機密情報として扱われ、管理されていると主張するが、原告の挙げる「だいなも付録」「お知らせ」などの文書によっても、秘密情報としての取扱いがされていない。また、「社内限定秘」というのは、その性質上、社外に開示してはならないものであるが、卸価格は、性質上社外に開示されるべき性質を持つものであり、社内限定秘たる性質を持つものではない。
(ウ) 契約上の秘密保持義務について
 原告は、契約上、取引先に開示された卸価格情報について、取引先が当然に秘密保持義務を負うと主張する。しかし、原告の主張によれば、売買において当然に必要な情報である卸価格に関する情報が営業秘密に当たり、その情報を取得した取引先は、何らの明示の合意もないのに、卸価格の情報について秘密保持義務を負わされることになる。単に取引関係にあるだけで、取引先がこのような秘密保持義務を負わされることはないはずであり、原告の主張は不当である。
 また、サポートVAN契約書5条により、被告らが秘密保持義務を負うとの主張については、仕入価格に関する数値は、サポートVANのシステムとは無関係に存在するデータであり(同システムの契約を結んでいない取引先にも開示される。)、同契約2条に定義される「乙データ」に該当しないから、同契約により被告らが秘密保持義務を負わされることはない。
イ 差止めの必要性について
 差止めの必要性についても、被告ダイコクの行為と被告A及び被告ダイコクを除く被告会社4社の行為を同視できるとの原告の主張は、被告Aあるいは同被告の妻が代表取締役を務め、株式等の大半を所有しているというだけで被告各会社の法人格を否定するもので、暴論といわざるを得ない。
2 争点2(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、原告との間の取引基本契約上の債務不履行を構成するか)について
(1) 原告の主張
 原告は、医薬品等の製造販売活動において、薬事法の下で、同法に従って、医薬品等の製造販売を適切に行い、消費者の保健ニーズに適切に対応することを、基本理念としている。取引基本契約は、原告のこの理念に賛同した販売業者に原告の医薬品等を継続的に供給するための基本契約であり、この契約に基づいて原告の医薬品等の個別売買契約が締結される。取引基本契約3条前段は、販売業者は一般消費者に原告の商品を推奨販売することを定めているが、「推奨販売」とは、消費者の保健ニーズに適切に対応できるように、薬事法の趣旨を体して必要な場合に消費者に薬剤師等を通して各種の助言を与えつつ推奨し販売することをいい、かかる販売を義務付けている。原告は、このような義務が適切に行えるように販売業者に対して販売に必要な販売方法に関する各種の情報提供と販売支援を行うこととし、この1つの方法としてサポートVANシステムの提供を行うものとし、このシステム利用については別途契約(サポートVAN契約)を締結することとしている。さらに、取引基本契約3条後段の「もって」以下は、原告の商品販売における同契約の理念が、当事者相互の共同の利益の増進と円滑な取引の維持にあることを明らかにしている。「共同の利益の増進」とは、原告の医薬品を上記のように適切に販売し、それぞれの当事者が利潤を得て円滑に取引を遂行することである。共同の利益は、単に契約の二当事者だけの利益ではなく、取引基本契約が平等の条件で各販売業者に適用され、個々に取引契約が締結されることにより、結果として、原告商品の全国の取扱店の共同の利益が増進され、円滑な取引が維持されるとの考えに立っている。
 上記のような取引基本契約の見地からみた場合、被告ダイコクが原告の主力商品を特に選び出し、その数十品目以上について上記のように当然秘密とされている仕入価格を大々的にチラシ広告で公然と開示し、仕入価格によるコスト割れ販売を行って、原告商品を出血目玉商品として用い、自己の店舗の宣伝や自己の店舗への客寄せ又は他の商品の販売促進の道具に用い、加えて原告がこの販売行為に協力しているとの事実に反するチラシ広告を行ったことは、取引基本契約3条前段に定める「適正な推奨販売」及び同条後段の「円滑な取引の維持」に明らかに違反する。
 被告ダイコクの原価セールは同被告の代表者である被告Aの指示の下で行われたものであるから、被告ダイコク及び被告Aは連帯して、取引基本契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負担する。
(2) 被告らの主張
ア 取引基本契約の内容について
 取引基本契約が、原告の主張するような医薬品に関する経営理念に賛同した販売業者との間での医薬品の継続的供給のための基本契約であることは、否認する。原告の主張するような、薬事法に基づく規制に従うことは当然であるが、そのことが取引基本契約の約定内容となっているものではない。取引基本契約では、例えば3条では、商品の陳列や販売方法についての協議等の規定が存し、4条では販売促進のためのキャンペーン実施条件の取決めがなされていることからも明らかなように、他の商品の取引の取引基本契約と異なるものではなく、特段の理念の維持義務が定められているものではない。
イ サポートVAN契約について
 サポートVAN契約についても、原告は、薬局等に薬事法の趣旨に即した販売を行わせるため、それに適した情報を提供するためのものであるかのように主張するが、サポートVANは商品の数量、単価等に係る商品情報等に関わるサービスであって、薬事法が要求する保健ニーズに関する情報提供をするためのシステムではない。まさに、数千以上のアイテムを取り扱う薬局・薬店が効率的に経営を行うことを目的とした販売戦略上のシステムであり、薬局・薬店に対し、上記のような理念に沿った義務を負わせるものとはなり得ない。
3 争点3(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、独占禁止法の規制するおとり廉売や不当廉売に該当し、あるいは景品表示法に違反するものとして、不法行為を構成するか)について
(1) 原告の主張
ア 被告ダイコクによる、被告各会社の原告商品の仕入価格の開示等の行為は、以下に述べるとおり、独占禁止法の規制するおとり廉売や不当廉売に該当し、あるいは景品表示法に違反するものとして、不法行為を構成する。
イ 卸価格が営業秘密であり、それを開示した場合の不利益が大きいことは、1(1)ア(ア)aに述べたとおりであるが、被告ダイコクの上記のような行為により、実際に次のような弊害が生じている。
(ア) 被告ダイコクにより仕入価格の開示がされたことにより、正当な利潤を乗せて原告商品を販売している他の販売業者の小売価格につき、仕入価格を知った消費者から被告ダイコク同様の値引きを要求され、また、これに応じないとして、他の販売業者が消費者から不満・苦情を多く受ける事態となっている。規模の大きなドラッグストアチェーンである被告各会社が仕入価格(原価割れ価格)で原告商品を反復継続して販売する場合には、街の小さな薬局、化粧品店は到底これに追随することができないため、閉店、廃業に追い込まれる事態さえ生じかねず、業界は大混乱に陥っている。このような被告ダイコクの行為は独占禁止法19条、不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号。以下、「一般指定」という。)6項所定の不当廉売に該当するものであり、原告取引先の営業活動を妨げ、ひいては、原告に不利益を与えるものである。
(イ) 被告ダイコクが原価割れ販売行為を反復継続し、また、被告らが販売チラシに「大正製薬の協力により、大正製薬の商品を仕入価格で販売!」と虚偽の表示をしたために、他の販売業者が、原告が被告ダイコクの原価割れ販売行為を支援しているのではないかとの疑念を抱く結果となり、原告と販売業者との信頼関係が損なわれつつある。
 また、原告は、被告らの行為に何ら協力も関与もしていないのであるから、被告らによる上記チラシの宣伝は、原告の信用を無断で使用し、虚偽の宣伝に用いているのであって、当然原告に不利益を与えるものである。さらに、被告ダイコクは、販売チラシにおいて、原告の主力商品について「定価」と「仕入価格」とを併記し、仕入価格で販売すると広告宣伝を行っているが、この広告はあたかも原告が定価販売制を採用しているとの誤認を一般消費者に与え、原告に不利益を与える。
(ウ) 被告らによる仕入価格の開示行為により、小売価格と卸価格との具体的な開きを消費者が知ると、消費者は、一般医薬品販売の流通の実情や専門的知識に乏しいことが通常であるため、原告が販売業者に過大なマージンを与えているのではないかとの不信感を抱き、原告商品に対する良好なイメージが損なわれ、原告の信用が失われるおそれがある。とりわけ本件では、被告ダイコクは、開示した仕入価格で大量の原告商品を実際に販売しているため(しかも、「大正製薬の協力により」などと記載したチラシを頒布して)、消費者は原告商品をディスカウント品とみなし、「売れなくなったのではないか」、「古いものを売るのではないか」、「メーカーが経営不振になって安売りを始めたのではないか」など様々な憶測をし、悪いイメージを抱くおそれが強く、原告のブランドイメージは著しく害された。
ウ おとり廉売
(ア) おとり廉売とは、販売業者が行なう商品の販売にあって、その商品の販売により利潤を得ることを目的としたものではなく、他の商品を購入しそうな顧客を当該商品の販売を行う店舗に誘引すること又はその他の自己の事業の宣伝を行なうことを目的とするものをいう。
(イ) 被告ダイコクが取り扱うすべての商品を仕入価格で販売すれば、同被告の経営が成り立たないことは明らかであって、原告商品をおとりとして利用して他の商品を販売することにより同被告店舗全体として経営が成り立つのであるから、結局、同被告の販売方法は、原告商品を手段・道具として他社商品を販売し、また自己の事業を宣伝するため以外の何物でもなく、被告らがいわゆるおとり廉売を行ったことは疑いがない。
(ウ) 独占禁止法上、この行為の顧客に対するぎまん性からすれば、「自己の供給する商品‥‥の取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく‥‥有利であると顧客に誤認させることにより、顧客を自己と取引するよう不当に誘引する」ぎまん的顧客誘引(一般指定8項)に該当し、この行為の違法で差別的なコスト割れ販売による一般消費者への不当な利益供与からすれば、「不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するよう誘引する」不当な利益による顧客誘引(同9項)にも該当する。いずれも独占禁止法2条9項3号の不当な顧客誘引行為に該当し、同法19条に違反する行為である。
エ 不当廉売
 不当廉売が規制されるのは、コストを下回る、他の商品の販売による利益その他の資金を投入するのでなければ販売を継続することができないような低価格を設定することによって競争者の顧客を獲得するというような販売方法は、正常な競争手段といえないことに基づく。
 被告ダイコクの原告商品の原価割れ販売によって、他の小売店等事業者の事業活動を困難にするおそれがあることは、「医薬全商連だより」(甲33)に、「激安店『ダイコクドラッグ』全国に波及」「原価割る安さ、業界に不安広がる」と題する記事が掲載されていることなどからみて明らかである。
 よって、被告ダイコクの行った原告商品の原価割れ販売行為は、不当廉売の構成要件である、「正当な理由がないのに」、「商品の供給に要する費用を全く考慮せず」、「継続的に供給を行い」、「他の小売業者の事業活動を困難にさせたもの」であり、まさに一般指定6項の不当廉売に該当するものである。
 このように、被告ダイコクの販売方法は、独占禁止法による不当廉売に該当するもので、かかる販売方法の結果、同被告の店舗の周辺に所在する原告取引先小売店に直接の損害を与えたものである。独占禁止法による不当廉売の規制は、同業小売業者の事業活動への影響に着目したものであるが、このような原告主力商品の廉売行為は、原告の取引先小売店に直接の損害を与える販売方法であり、原告の販売網に打撃を与えるものである。
オ 景品表示法違反
 被告ダイコクは、販売チラシにおいて、「大正製薬の協力により、大正製薬の商品を仕入価格で販売!!!」との広告を行っているが、この広告は大正製薬が全く関与していない虚偽の広告であり、原告主力商品に関する被告の価格その他の取引条件について一般消費者に誤認を与えるものであって、景品表示法4条2号の「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される」表示に該当するので、同号に違反する行為である。
 また、被告ダイコクは、販売チラシにおいて、原告の主力商品の希望小売価格について「定価」と表示し、それと「仕入価格」を併記し仕入価格で販売すると広告宣伝を行っているが、この広告は、あたかも原告が定価販売制(再販売価格維持制度)を採用していることから、同被告の競業者は定価販売を行っているのに対して、同被告のみが定価によらず仕入価格による安売りをしているとの誤認を、一般消費者に与えるものであって、景品表示法4条2号に違反する。
カ 被告ダイコク及び被告Aの不法行為に基づく損害賠償責任について
 被告ダイコクの原価セールは同被告の代表者である被告Aの指示の下で行われたものであるから、被告ダイコク及び被告Aは、共同不法行為者として、連帯して、不法行為に基づく損害賠償義務を負担する。
(2) 被告らの主張
ア 競業者間の競争上の不利益について
 被告らは、原告の競業者である他の医薬品メーカーとも取引を行っており、自由競争において許容される販売方法の結果として、仮に一部のメーカーが競争上不利益な立場に立つ結果となるとしても、違法と評価されることはない。もし原告主張のような、卸価格を他に漏らさないようにして当該メーカーを競争上不利益に陥れないという義務があるとすると、複数のメーカーから仕入れを行っている流通業者には、常に各メーカー間の競争関係が増大しないように注意しながら行動する義務が一般的に存することになるが、そのようなことは独占禁止法上の観点からも認め難い。したがって、仮に、被告ダイコクの原価セール開催の結果、原告が競業者との関係で不利益な立場に立ったとしても、被告ダイコクの行為を違法と評価することはできない。
イ 取引小売店への営業妨害について
原告の主張は、他の小売店に対する被告ダイコクの廉価販売の影響をいうものでしかない。安売り自体には違法性はなく、安売りによって他の小売店への悪影響が出ることを理由として取引を中止するなどの行為は、市場における有力な事業者による再販売価格維持を目的とする取引拒絶であり、明らかに独占禁止法違反の行為である。
 原告は、「正当な利潤を乗せて原告商品を販売している他の販売業者‥‥が消費者から不満・苦情を多く受ける事態となっている。」と、あたかもこのような事態に至った責任が被告らにあるかのようにいう。しかし、他の販売業者がどのような利潤を乗せ得るかを考慮する義務が被告らにないことは当然である。例えば、原告商品である風邪薬等を例にとっても、メーカー希望小売価格は、仕入価格に多額の利潤を上乗せした額として設定されている。この結果、消費者は不当に高い価格の商品を購入させられることになるのであるが、このような一般医薬品の流通慣行の中で、小売業者において、法的にも保護されるべき「正当な利潤」とは何を意味するのか、全く不明である。原告の主張は、このような法的に保護されているわけでもない他の小売店の高率の利益を保護すべきものとするものであって、不当である。
ウ 対消費者のイメージへの影響について
 原告の主張は、消費者に取引実情を知らしめないことにより原告商品のイメージが維持されると主張しているものであり、メーカー及び販売者の身勝手な論理にすぎない。
エ おとり廉売について
(ア) おとり廉売の定義について
 原告の主張する定義のような販売方法は、小売店の販売活動でよく見られるものであり、違法あるいは不当なものでないことは明らかである。通常、おとり販売行為が違法とされるのは、後記の景品表示法に基づくおとり表示規制違反行為をいうものである。
(イ) 原告は、被告ダイコクの行為が、一般指定8項所定のぎまん的顧客誘因、同9項所定の不当な利益による顧客誘因に該当すると主張する。しかし、本件において、被告ダイコクは、顧客すなわち消費者に対して何らの優良誤認をさせていないから、「ぎまん的顧客誘因」に該当しないことは明らかである。また、原則として自由であるはずの廉価販売が消費者に対する不当な利益供与であるはずがなく、9項所定の行為にも該当しない。
(ウ) なお、この一般指定8項及び9項については、講学上も一般消費者に対するものは景品表示法により規制されているものとされており、結局のところ、一般指定8項及び9項で規制されるのは、一般消費者に対するものでない、事業者らに対する表示等の行為に限られる。独占禁止法によるおとり販売の規制は、一般小売業については、「おとり広告に関する表示」(平成5年公正取引委員会告示第17号)によってなされている。
 その具体的行為は、
@ 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示
A 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示
B 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客1人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示
C 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示
 である。
 被告各会社の宣伝・販売行為は、上記告示の定める4つの場合のいずれにも該当しないから、違法なおとり販売に当たらない。
エ 不当廉売について
 独占禁止法上禁止されている不当廉売(一般指定6項)は、正当な理由がないのに商品・役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品・役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合である。
 ここでいう「供給に要する費用を著しく下回る対価」は、昭和59年11月20日公正取引委員会事務局の「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」において、仕入価格を下回るかどうかを1つの基準とすることが明示されており、しかもここにいう仕入価格は、名目上の仕入価格ではなく、実際の取引で値引き、リベート、現品添付が行われている場合、これらを考慮した実質的な仕入価格であることも、明示されている。本件の原価セールは、この名目上の仕入価格をいうものであり、これを下回らないので、不当廉売に当たらない。
 また、本件の価格開示は、一部店舗の開店セールなどの限られた期間に行われたものであって、反復継続してなされたものではなく、継続して供給されたものでもない。したがって、不当廉売に当たらない。
4 争点4(原告の損害)について
(1) 原告の主張
 被告ダイコクの原価セールは、平成13年1月30日から開始された。こうした原価セールの結果、消費者が同被告以外の店舗において原告商品の購入を控えることになったことは明らかである。また、原告商品のブランドイメージの低下に伴って、原告商品の競争力が他メーカー商品と比較して相対的に悪化したことによる売上の減少も無視できない。これらを通じて原告が被った業務上の有形無形の損害、業務上の信用・ブランドイメージの低下による損害は、計り知れないものであり、その損害額は1億円を下回るものではない。
 また、上記原価セールにより、被告ダイコクが得た利益は、1億7349万1200円ないし1億8794万8800円を下回るものではないから(その内容の詳細は、平成13年11月5日付け原告準備書面(2)参照)、原告は、不正競争防止法5条により、同被告が得た同額の利益を損害とすることができる。
 よって、原告は、被告ダイコク及び被告Aに対して、債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償又は不正競争防止法違反を理由とする損害賠償(一部請求)として、1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告らの主張
 原告の主張する不正競争防止法違反を理由とする損害の額は、原価セールが行われた時期における原告商品の売上実績と原価セール前の原告商品の売上実績のデータ比較を根拠としている。しかし、上記算定は、商品の売上動向が種々の要因によって影響を受け、変化するものであるという点を全く無視し、売上比較のみによって算定しようとするものであり、妥当でない(被告らの主張の内容の詳細は、平成13年11月13日付け被告ら準備書面(2)参照)。
5 争点5(被告ダイコクの原価セールにより、原告と被告各会社の間の信頼関係が破壊され、被告各会社との間のサポートVAN契約が原告の解除により終了したか)について
(1) 原告の主張
 上記のとおり、被告ダイコクの行為は、取引基本契約3条及びサポートVAN契約5条に違反するものであるばかりでなく、不正競争防止法及び独占禁止法に基づく公序良俗にも違反するものであり、原告と被告ダイコク間の信頼関係は破壊され、もはや修復し難いものである。グループの中核企業である被告ダイコク及び被告各会社の実質的オーナーである被告Aが、このような行為を行った以上、被告各会社との関係で原告との信頼関係は、破壊されたものというべきである。よって、原告は、被告ダイコクの原価セールを理由として、被告各会社との間において、解除通知により取引基本契約を解約し、さらにサポートVAN契約をすべて解約した。
 サポートVAN契約16条5項においては、原告の責に帰すべき事由以外で同契約が終了した場合、同契約に基づき設置した設備毎に精算金を支払うことを被告各会社に義務付けており、同条所定の計算式により支払うべき精算金は、被告ダイコクにつき3966万2834円、被告グレープダイコクにつき120万6171円、被告エース・ダイコクにつき1289万5000円、被告イーエフにつき18万9000円である(なお、被告エビスダイコクには、精算金は発生していない。)。
 よって原告は、被告各会社に対し、それぞれサポートVAN契約の解約に伴い、同契約に基づいて原告から交付していた各動産の返還を求めるとともに、被告エビスダイコクを除く被告会社4社に対し、上記金額の精算金及び解除通知到達の日の翌日以降の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告らの主張
 前記1(2)に述べたように被告ダイコクは仕入価格について秘密保持義務を負っていないし、被告ダイコクが自由競争において許された販売方法を採用したことで、原告に何らかの不利益が発生したとしても、そのことをもって、契約解約の理由とすることはできない。しかも、同被告の仕入価格開示行為は、短期間のセールとして単発的に行われたものにすぎず、契約当事者間の信頼関係を著しく破壊する程度に至る行為とは到底考えられない。したがって、仕入価格の開示行為をもって、取引基本契約の解約理由とすることは認められない。
 仮に、被告ダイコクの上記行為が契約の解約理由となるとしても、個別に契約を交わしている他の被告会社4社との間でも契約を解約することは不当である。また、サポートVAN契約は、他メーカーとの取引を含め営業上のシステムに関する契約であり、商品の売買取引に関する取引基本契約とは目的を異にする契約である。したがって、サポートVAN契約における信頼関係の破壊については別途考慮する必要があるところ、被告ダイコクの上記行為が、同契約に関して信頼関係を破壊するものとは到底考えられない。したがって、原告の主張は、不当である。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為を構成するか)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(甲13ないし32、39)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告ダイコクが、その経営する各地のドラッグストアにおいて、概ね別紙原価セール実施状況一覧及び一覧表のとおり(ただし、別紙一覧表のうち、@及びMについては、証拠上明らかでない。)、原告商品の仕入価格を明らかにして原告商品を仕入価格で販売するというセール(原価セール)を開催したことが認められる。
(2) そこで、上記のように被告ダイコクが開示した仕入価格が、不正競争防止法2条1項7号の営業秘密に当たるかどうかについて、検討する。
 不正競争防止法は、2条4項において、「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と規定する。
 また、同法2条1項7号は、「営業秘密を保有する事業者(以下『保有者』という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」を、不正競争と規定している。
 本件においては、被告ダイコクが、原告商品につき、その仕入価格を公表して消費者に販売した行為が、同法2条1項7号所定の不正競争行為に該当するかどうかが争われているところ、不正競争防止法の上記の各規定によれば、特定の売買契約における売買価格が秘密として管理され、公然と知られていない場合には、当該売買価格が「事業活動に有用な営業上の情報」として、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し、それを保有する事業者から当該売買価格を示された者が、その保有者に損害を与える目的でこれを開示したときには、当該開示行為が同法2条1項7号所定の不正競争行為に該当することがあり得るものと解される。
 しかしながら、売買価格は、民法上の典型契約たる売買の主要な要素であり、契約当事者たる売主と買主との間での折衝を通じて形成されるものであるから、両当事者にとっては、それぞれ契約締結ないし価格の合意を通じて原始的に取得される情報というべきであり、各自が自己の固有の情報として保有するものというべきである。
(3) そうすると、本件において、原告から被告ダイコクへの原告商品の卸売価格(仕入価格)は、被告ダイコクが上記原価セールにおいて開示するまでは公然と知られていないものであったから、原告がこれを秘密として管理していたのであれば、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し、原告からこれを示された第三者が原告に損害を与える目的でこれを開示したときには、同法2条1項7号所定の不正競争行為に該当することがあり得るものということができる。
 しかし、被告ダイコクは原告と共に原告商品の売買の当事者となっている者であり、原告商品の仕入価格(卸売価格)は、被告ダイコクが売買契約の当事者たる買主としての地位に基づき、売主との間の売買契約締結行為ないし売買価格の合意を通じて原始的に取得し、同被告自身の固有の情報として保有していたものであって、原告が保有し管理していた情報を取得し、あるいは原告から開示を受けたものではない。したがって、被告ダイコクとの関係においては、原告商品の仕入価格(卸売価格)は、その保有者から示されたもの(不正競争防止法2条1項7号)ではなく、また、不正な手段により取得され(同項4号)、あるいは取得に際して不正取得行為(同項5号、6号)若しくは不正開示行為(同項8号、9号)が介在等したものに該当する余地もないから、被告ダイコクが、原告商品の仕入価格(卸売価格)を上記原価セールにおいて広く消費者に開示したとしても、当該開示行為は、不正競争防止法上の不正競争行為に該当しないと解するのが相当である。
 また、仮に売買価格につき買主が売主との間で秘密保持の合意をしたとしても、それは買主が、自己の地位に基づいて原始的に取得して保有する固有の情報につき本来的に有する自己の開示権限を、自主的に制限することを約したというにとどまるから、そのような合意に反して買主が売買価格を開示したとしても、売主との間で契約上の義務違反の問題を生ずることはあっても、不正競争防止法上の不正競争行為に該当することにはならないというべきである(なお、後記2のとおり、本件においては、原告商品の仕入価格についてこのような合意があったという事実を認めることもできない。)。
(4) 以上によれば、本訴における原告の請求のうち、被告ダイコクの不正競争行為を理由として、被告ら全員に対して原告商品の仕入価格の開示の差止めを求めるとともに被告ダイコク及び被告Aに対して損害賠償を求める部分は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 争点2(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、原告に対する取引基本契約上の債務不履行を構成するか)について
(1) 取引基本契約について
 証拠(甲1ないし5)によれば、原告と被告各会社の間に原告商品の継続的売買に関する取引基本契約が締結されていることが認められる。
 原告は、@取引基本契約は、原告の医薬品等の製造販売活動において、薬事法の下で、同法に従って、医薬品等の製造販売を適切に行い、消費者の保健ニーズに適切に対応するという基本理念に賛同した販売業者に原告の医薬品等を継続的に供給するための基本契約であり、同契約3条前段の推奨販売の規定にそのことが明らかになっていること、A同条後段の規定の、同契約の理念が当事者相互の共同の利益の増進と円滑な取引の維持にあることを明らかにした部分において、「共同の利益の増進」とは、原告の医薬品を上記のように適切に販売し、それぞれの当事者が利潤を得て円滑に取引を遂行することであること、B被告ダイコクが仕入価格によるコスト割れ販売を行って、原告商品を目玉商品として用い、自己の店舗の宣伝や自己の店舗への客寄せ又は他の商品の販売促進の道具に用いたなどの行為は、取引基本契約3条前段に定める「適正な推奨販売」や、同条後段の「円滑な取引の維持」に違反すること、を主張する。
 しかしながら、前掲証拠(甲1ないし5)によれば、前掲取引基本契約の契約書は、「取引基本契約書」と題された全7箇条からなる簡略な契約書であって、まず、前文として、
 「大正製薬株式会社(以下甲という)と株式会社ダイコク○○店(以下乙という)とは、甲の取扱商品(以下商品という)の継続的売買取引に関する基本的事項を定めるため、次のとおり本契約を締結します。」と記載され、それに続いて、次の内容の1条ないし4条が置かれている。
 「第1条 甲が乙に売り渡す商品の品名、包装、数量、支払条件等必要な事項は、原則として取引の都度甲乙協議して定めるものとします。甲が乙に売り渡す価格は、予め甲が定めます。」
 「第2条 乙は、商品受領後遅滞なく商品の検査を行うものとし、商品に引渡前の事由による瑕疵があった場合は、甲に対し当該商品の返品又は交換を求めることができます。引渡後の事由による商品の瑕疵については乙が責任を負うものとします。」
 「第3条 乙は、商品の推奨販売に努め生活者に商品を販売するものとします。甲は、必要に応じ商品の陳列、販売方法等を乙と協議することにより、乙の販売を支援し、もって共同の利益の増進と円滑な取引の維持に資するものとします。」
 「第4条 甲が商品の各種キャンペーン又は歩戻付き特売を提案する場合の条件は、甲が別途定めるものとします。」
 上記によれば、取引基本契約は、通常の継続的商品供給契約の範囲を出ないものというべきである。原告が挙げる同契約3条にしても、その主たる趣旨は、4条と相まって原告の販売支援義務を定めた後段にあるものであり、原告の主張するような理念が条項中の文言に明示的に記載されているものではない。また、取引基本契約締結時に、原告主張のような取引理念が、契約文言には記載しないにしても当事者間で黙示的に合意されたという事実も、証拠上認められない。
 そして、被告ダイコクの原価セールは、原告商品を客寄せのための目玉商品として用いることにより、自己の店舗の宣伝及びセール期間中の他の商品の売上げ増加による利得を図ったものと認められるが、被告ダイコクのこのような行為が、上記取引基本契約3条に定められた内容に違反するものとは直ちには認められない。
 また、取引基本契約は、5条において、次のとおり、契約解除及び損害賠償の事由について定めている。
 「第5条 1.次の@又はAのいずれかの事由が発生した当事者は、本契約及びその他の甲乙間の契約から生じた債務について直ちに期限の利益を失うものとします。この場合、他方当事者は当該当事者に何らの催告なしに(但し、金銭債務を除く@の事由に該当する場合は催告の上)これら契約に基づく全部又は一部の取引を停止し又はこれら契約若しくはその個別契約を解除することができるものとします。
@本契約、その個別契約又は甲乙間のその他の契約に違反した場合
A仮差押、差押、競売申立、破産申立、又は不渡その他資産、信用状態の悪化若しくはその虞があると認められる場合
2.前項の場合、他方当事者は取引停止または解除の有無にかかわらず被った損害を当該当事者に請求することができるものとします。
 これによれば、取引基本契約においては、同契約及びその個別契約等の契約に違反したことを契約解除及び損害賠償の事由としているものであるところ、前記のとおり、本件において原告が取引基本契約の解除事由として被告ダイコクが違反したものと主張する取引理念は、取引基本契約の条項に定められているものではなく、また、黙示的に合意されたことも認められない。また、後記のとおり、サポートVAN契約の内容が、原告の主張する取引基本契約の解除事由の存否について、上記判断を左右するものでもない。
 したがって、原告が取引基本契約3条違反として主張する事由は、被告ダイコク及び被告Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求並びに被告各会社に対する動産の返還及び精算金支払の請求の理由とならない。
(2) サポートVAN契約について
ア 前記争いのない事実に証拠(甲12、46ないし83。枝番号の記載は省略する。)によれば、原告と被告各会社との間では、サポートVAN契約が締結されている。前掲証拠(甲12、46ないし83)によれば、サポートVAN契約の契約書は、「サポートVAN契約書」と題された全20箇条からなる契約書であって、まず、前文として、
 「株式会社ダイコク(以下甲という)と大正製薬株式会社(以下乙という)とは、乙が企画・開発したサポートVAN(以下本システムという)を実施する間、本システムを利用した情報処理業務等に関し、以下の事項を約定し、サポートVAN契約(以下本契約という)を締結する。」
 と記載されている。このことからも分かるように、サポートVAN契約は、商品の継続的供給契約に伴う付随的なサービスを提供するためのものであと認められる。
 このようなサポートVAN契約については、上記のように、あくまで付随的な契約であり、前掲証拠によれば、その契約内容は通常の通信システムの貸与契約の範囲を出ないものであって、被告ダイコクが違反していると原告の主張する前記取引理念と、結び付くような内容も認められないから、サポートVAN契約の内容が、原告が取引基本契約3条違反として主張する解除事由の存否についての前記判断を左右するものではない。
イ なお、原告は、被告ダイコクが原告商品の仕入価格を開示した行為をもって、サポートVAN契約2条所定の「乙データ」を開示するものであり、同契約5条1項の定める秘密保持義務に違反すると主張するが、そのような義務違反は認定できない。
 すなわち、サポートVAN契約5条1項は、
「第5条(機密保持)
@ 甲は、本契約の内容並びに本契約に基づき取得した乙データ及び乙資料を機密に保持し、理由の如何を問わず本契約内容、当該データ、資料又はそれらの複製物を第三者に開示、譲渡、貸与もしくは使用許諾してはならない。また、甲は本契約に関連して乙から貸与又は交付を受けた本システムに関するマニュアルその他の書類(以下マニュアル類という)、フロッピーディスク等の記憶媒体に含まれる情報及びソフトウェア並びに本契約に基づき知り得た本システムに関するノウハウ、企画及びその他の情報についても同様に守秘義務を負うものとする。」
 というものであるが、ここにいう「乙データ」等については、同契約2条が、次のとおり定義している。
「第2条(定義)
本契約書に用いられる下記用語は、それぞれ次の意味を有する。
@甲データ:甲が端末から入力する仕入、売上、支払、在庫等に関するデータをいう。
A乙データ:甲データ又は甲データ及びその他のデータに乙が処理加工を加えて作成したデータをいい、ファイル化したものも含む。
B乙資料:乙データに基づき出力される売上月報、その他のデータリストをいう。」
 これによれば、被告ダイコクは、「サポートVAN契約に基づき取得した乙データ」について同契約5条1項に基づく守秘義務を負うものであるが、前述のとおり、原告商品の仕入価格は、被告ダイコクが売買契約の当事者たる買主としての地位に基づき、売主との間の売買契約締結行為ないし売買価格の合意を通じて原始的に取得し、同被告自身の固有の情報として保有していたものであって、「サポートVAN契約に基づき取得した」ものではないから、同契約5条1項に基づき被告ダイコクが守秘義務を負う情報に該当しない。
 原告は、原告商品の仕入価格は、「乙データ」である「商品マスター」上の「単価」欄に仕入価格として登載されるから、被告ダイコクの秘密保持義務の対象となる「乙データ」に該当すると主張するが、商品マスターが乙データに当たるからといって、そこに記載される各項目がすべて被告ダイコクが守秘義務を負う乙データとなるということはできない。このことは、例えば、被告各会社が原告から購入して各店舗の店頭に並べて販売する原告商品の商品名が、商品マスターの項目に含まれるとしても、守秘義務の対象と解されないことに照らしても、明らかである。
 したがって、サポートVAN契約について、同契約の条項違反を理由とする解約事由(同契約15条)が存在するということもできない。
3 争点3(被告ダイコクが原価セールを行った行為が、独占禁止法の規制するおとり廉売や不当廉売に当たり、あるいは景品表示法に違反するもので、不法行為を構成するか)について
(1) 被告らの行為がおとり廉売に当たるか
 原告は、被告ダイコクが原価セールを行った行為が、一般指定8項の「ぎまん的顧客誘引」又は同9項の「不当な利益による顧客誘引」に該当すると主張する。
 しかし、事業者による一般消費者に対する虚偽・誇大広告の規制は、景品表示法に委ねられており、独占禁止法が対象としているのは、事業者に対する表示等の行為に限られるものというべきである。一般小売業については、「おとり広告に関する表示」(平成5年4月28日公正取引委員会告示第17号)がこれを類型化しているが、被告ダイコクが仕入価格を開示する行為は、上記告示の掲げる4つの場合(前記争点に関する当事者の主張3(2)エ(ウ)参照)のいずれにも該当せず、景品表示法及び独占禁止法により規制されるおとり表示に該当しない。
 なお、独占禁止法の一般指定をみても、まず「ぎまん的顧客誘引」についていえば、一般指定8項は、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するよう不当に誘引すること」と規定する。しかしながら、被告ダイコクは、現物の商品を、多くは現金で、販売しているだけ(現物売買、即時売買)であり、顧客に対し何ら「取引に関する事項について‥‥有利であると誤認させ」ていないので、これに該当しないというべきである。
 また、「不当な利益による顧客誘引」についても、一般指定9項は「正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するよう誘引すること」と規定するが、ここにいう「不当な利益」とは、過大な景品や懸賞等、売買契約の本質的要素に関わらない部分での利益で、顧客の射幸心を煽り、顧客を釣ろうとする行為を指すものであり、これらの行為は、本来品質と価格に基づき判断されるべき顧客の商品選択を妨げ歪めるものとして、規制の対象とされているのである。したがって、廉価販売のような、売買契約の本質的要素である価格によって顧客に利益を供与することは、不当な利益供与には当たらないというべきである。
(2) 被告らの上記行為が不当廉売に当たるか
 独占禁止法上禁止されている不当廉売につき、一般指定6項は、「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」と規定している。
 ここにいう「供給に要する費用を著しく下回る対価」については、「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(昭和59年11月20日公正取引委員会事務局)において、仕入価格を下回るかどうかを1つの基準とするものとされており、さらに、ここにいう仕入価格は、名目上の仕入価格ではなく、実際の取引で値引き、リベート、現品添付が行われている場合、これらを考慮に入れた実質的な仕入価格であるとされている。
 本件についていえば、被告ダイコクが販売した価格が、上記名目上の仕入価格と一致することは、弁論の全趣旨から明らかである。本件において、原告商品の仕入に際して、リベート(歩戻し)、現品添付等が行われて実質的な仕入価格がこれよりも低額であったかどうかは、証拠上確定できないが、いずれにしても、被告ダイコクの原告商品の販売価格が実質的な仕入価格を下回っていたとは認められないから、上記基準に該当しない。したがって、同被告が原告商品を「供給に要する費用を著しく下回る対価」により販売したとは認められないから、同被告の行為は、不当廉売に当たらない。
 さらに、被告ダイコクが行った仕入価格による原価セールの全容は、ほぼ前記1(1)のとおりであるところ、この程度のものを継続的な廉価販売行為ということもできない。いずれにせよ、同被告の行為は、不当廉売に当たらないというべきである。
(3) 被告ダイコクの上記行為が景品表示法に違反するか
 原告は、被告ダイコクが、販売チラシにおいて、原告の協力の下で同被告が原告商品を仕入価格で販売する旨をうたったことが、原告が全く関与していないから虚偽の広告であり、景品表示法4条2号の「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される」表示に該当する、と主張する。また、被告ダイコクが、販売チラシにおいて、原告商品の希望小売価格について「定価」と表示したことが、原告が定価販売制(再販売価格維持制度)を採用していることから同被告の競業者は定価販売を行っているのに対して同被告のみが定価によらず仕入価格による安売りをしているとの誤認を、一般消費者に与えるもので、同号に違反する、と主張する。
 たしかに、証拠(甲32、39)によれば、被告ダイコクの販売チラシに、原告の主張するような表記があることが認められる。しかしながら、前者については、上記(1)に判示したのと同様、同被告は、現物の商品を、多くは現金で、販売しているだけ(現物売買、即時売買)であり、顧客に対し何ら「有利であると誤認させ」ていない。また、原告がセールに協力しているかどうかは、売買の条件と全く関わりがない。
 そして、被告ダイコクの販売チラシにおける「定価」という表示についても、これが原告の主張するような誤認を一般消費者に与えるとは直ちに認められない(また、そのような誤認を与えるとの立証は、全くされていない。)。
 さらに、被告ダイコクの前記各表示は、いずれも、社会通念上許容される限度を著しく超えるものとは認められない。したがって、同被告の上記各行為が、景品表示法4条2号に違反するとは認められない。
(4) 小括
 以上によれば、原告の主張する被告ダイコクの行為については、独占禁止法、景品表示法等に違反するものではなく、また本件において証拠上認められる全事情に照らしても、原告に対する不法行為に該当するとまでは認められない。したがって、原告の請求のうち、被告ダイコク及び被告Aに対し、不法行為を理由とする損害賠償を請求する部分は、理由がない。
4 争点5(被告ダイコクの原価セールにより、原告と被告各会社の間の信頼関係が破壊され、被告各会社との間のサポートVAN契約が原告の解除により終了したか)について
 既に判示したとおり、被告ダイコクが原告商品の原価セールを行った行為は、不正競争防止法上の不正競争行為に該当するものではなく、原告に対する不法行為に該当するということもできない。また、原告との間の取引基本契約3条、サポートVAN契約5条1項に違反する行為ということもできないから、原告に対する債務不履行にも該当しない。
 したがって、原告との間の信頼関係破壊ないし取引基本契約及びサポートVAN契約上の義務違反を理由として、取引基本契約及びサポートVAN契約の解除をいう原告の主張は、失当である。サポートVAN契約の解除を理由に、被告各会社に対し、動産の返還を求めるとともに、被告エビスダイコクを除く被告会社4社に対し精算金の支払を求める原告の請求は、理由がない。
5 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 青木孝之
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