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【事件名】ショルダーバッグの模倣事件 【年月日】平成13年12月27日 東京地裁 平成12年(ワ)第20801号 不正競争行為差止等請求事件 (平成13年10月2日 口頭弁論終結) 判決 原告 株式会社レジャープロダクツ 訴訟代理人弁護士 永井均 被告 株式会社ファイブ・フォックス 訴訟代理人弁護士 大川宏 主文 1 被告は、原告に対し、311万円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙物件目録(二)記載の商品を輸入し、譲渡し又は引き渡してはならない。 2 被告は、原告に対し、770万円及びこれに対する平成12年10月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要 本件は、原告が被告に対し、被告が輸入、販売している別紙物件目録(二)記載の小型ショルダーバッグ(以下「被告商品」という。)の形態が、原告の販売している別紙物件目録(一)記載の小型ショルダーバッグ(以下「原告商品」という。)の形態を模倣したもので、被告の行為は不正競争防止法2条1項3号に定める不正競争行為に該当すると主張して、その輸入、譲渡及び引渡しの差止め並びに損害賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 当事者 原告は、各種バッグ、カバン、袋物(特に、旅行・レジャー用バッグ)の企画、製造、輸入及び販売を業とする株式会社である。 被告は、衣料品、ハンドバッグ、アクセサリー、靴、洋品雑貨の製造及び販売を業とする株式会社であり、いわゆるアパレル業者である。 (2) 原告商品及び被告商品の販売 原告は、平成10年3月から、自社で創作したバッグを、「アドベンチャートラベル」シリーズと名付けて商品化し、販売しているが、その中の1つに原告商品がある。 被告は、平成12年1月ころから、別紙物件目録(二)記載の被告商品(ただし、被告は、同目録記載の被告商品の商品番号及びサイズを争っている。)を中華人民共和国(以下「中国」という。)所在の被告工場で製造し、輸入して、販売している。 (3) 原告商品の形態 原告商品の形態は、次のとおりである。 ア 原告商品は、軽量・コンパクトで、旅行や街歩きに必要な小物類(小型ペットボトル・携帯電話・パスポート・航空券・地図・ガイドブック・カード類・ペン・メモ帳・ドキュメント類・CDプレイヤー・小型カメラ・鍵等)を、目的別に区分して収納することにより、バッグに装着したままの状態でも素早く容易に収納物を取り出せるように、機能性を高めてデザインしたもので、かつ収納物の紛失・盗難防止等の安全性にも工夫し、それらを有機的に組み合せた形態にデザインしたものである。 イ 原告商品は、別紙物件目録(一)添付図面A−1ないし5記載のとおりの形状である。 ウ 寸法 縦(高さ) 21.0p 横(幅) 23.0p 奥行き(厚さ) 7.0p エ 素材 次のような三層ファブリック構造で、軽量・高防水性と衝撃吸収性を兼ね備える。 一層(表面) ナイロンリップストップ 二層(内蔵) ポリウレタンフォーム 三層(裏面) ナイロンタフタ (4) 被告商品の形態 ア 被告商品は、別紙物件目録(二)添付図面B−1ないし5記載のとおりの形状である。 イ 素材 一層(表面) ナイロンリップストップ (5) 原告商品と被告商品の比較 原告商品と被告商品とを比較対照すると、次のとおりである。 ア 正面の形状 (ア) 原告商品(図A−1) @ 前室、後室、ボトル収納部をカバーするかぶせ式の上蓋を付け、それを下部TSR−20のワンタッチ・プラスチックバックルにより開閉する。 A 上蓋に2個の小物用ジッパーポケットを設けてある。 (イ) 被告商品(図B−1) @ 開閉するためのTSR−20ワンタッチ・プラスチックバックルを左右横それぞれに設けている。 A (ア)Aに同じ。 イ 上蓋を開けた右側 (ア) 原告商品(図A−2) @ 旅行・タウンユース・アウトドアでの利便性を考慮し、ペットボトルポケットを配置した。 A ペットボトルポケットの内部に、水を嫌う精密機器である携帯電話の収納ポケットを設けている。 B ペットボトル、携帯電話の固定ストラップとして、ナイロンテープと面ファスナー(いわゆるマジックテープのこと。)を設けている。 (イ) 被告商品(図B−2) (ア)に同じ ウ 上蓋を開けた正面 (ア) 原告商品(図A−2) 本体収納部は、前室、後室で構成される。前室の前面には、メッシュ素材で面ファスナー付きのポケットを設けてある。 (イ) 被告商品(図B−2) (ア)に同じ エ 上蓋裏側 (ア) 原告商品(図A−2、3) @ 透明素材を用いて、観光地図、スケジュール表等を収納できるマップポケットを設けている。 A 面ファスナーが上蓋上側に2か所横長に縫いつけてあり、面ファスナーの着脱によりポケットが展開して、収納物を引き出さずに表裏を容易に一覧できる。 (イ) 被告商品(図B−2、3) @ (ア)@に同じ A 面ファスナーが上蓋下側に付属しているが、見た目も仕様も原告商品と同じである。 オ 前室オーガナイザーポケット (ア) 原告商品(図A−4) @ 前室(オーガナイザールーム)は、ジッパーにより逆Uの字型に開閉する構造である。前室外側パネルは、小物脱落防止を考慮した三角布で本体と接続し、行動中でも収納物の出し入れが安全に行える。 A 3本のペンが収納できるペンホルダーをオーガナイザーパネル左に配置している。その右側に4段のカードポケットとパスポート用のポケットを配置している。それら収納部の奧には、航空券が折らずに収納できる全幅ウォールポケットを設けている。また、オーガナイザーパネルの向かい側の前室外側パネルには、全幅ポケットを設けている。 B 前室内右上部に、取り外し式プラスチックキーホルダーを取り付けてある。 (イ) 被告商品(図B−4) @ (ア)@に同じ A (ア)Aに同じ B プラスチックキーホルダーを、前室中央部に取り付けてある。 カ 後室メインルーム (ア) 原告商品(図A−5) @ 後室は、左右非対称(左側約3分の2、右側約3分の1開口)にジッパーで開閉する構造になっている。 A 後室は、ガイドブック、小型カメラ、ポータブルCD・MDプレイヤー等が収納できるサイズとしてある。また、キーホルダー、アクセサリー等をかけられるDリングを設置してある。 (イ) 被告商品(図B−5) @ (ア)@に同じ A (ア)Aと同仕様の後室であるが、Dリングは設置されていない。 キ 背面 (ア) 原告商品 ジッパー開閉式ポケットを設けている。 (イ) 被告商品 (ア)に同じ ク ジッパー (ア) 原告商品(図A−1) ひも状素材をバータックミシンで金属スライダー(ジッパーのスライドする部分)に直接固定しており、引き手の縫糸にアクセントカラー(茶)を用いている。 (イ) 被告商品(図B−1) ひも状素材を金属引き手に通し、バータックミシンで間接的に金属スライダーに接合している。引き手の縫糸に、同様にアクセントカラー(緑)を用いている。 (6) 被告商品の小売価格は1個6900円である。 2 争点 (1) 被告商品は、原告商品の形態を模倣したものかどうか(争点1) (2) 原告の損害(争点2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告商品は、原告商品の形態を模倣したものかどうか)について (1) 原告の主張 ア 被告商品は、原告商品のデザインを参考にしたという程度のものではなく、争いのない事実(3)記載の原告商品の基本的特質、重要な構成要素において全く同一であり、原告商品の形態を模倣したものであることが明らかである。 このことは、争いのない事実(5)記載の原告商品と被告商品の比較からも明らかである。 イ 被告は、争いのない事実(2)記載のとおり、被告商品を中国で製造し、輸入して、自らの店舗等で販売している。そのため、原告の営業活動は、直接的に大きな打撃を被っているものであり、原告は、被告の上記行為を差し止める利益を有する。 (2) 被告の主張 ア 被告商品と原告商品の相違について 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とはいわゆるデッドコピーをいうものであり、被告商品と原告商品との間には次に述べるような相違があるから、被告商品は原告商品の模倣ではない。 (ア) 正面の形状について 原告商品は横長の形状であるが、被告商品は一見して縦長に見える。バックルの個数及び位置、中央部にメッシュの素材を用いているかどうか、ジッパーのスライダーに直接布が取り付けられているか(原告商品)、金具があるか(被告商品)の相違がある。 (イ) 上蓋を上げた右側について ペットボトルポケットの下部は、原告商品ではとも地が使用されているのに対し、被告商品ではメッシュの生地が用いられ、水がたまらないようにしてある。 (ウ) 上蓋を上げた正面について 原告商品と被告商品とでは、前室のサイズが異なるうえ、原告商品ではメッシュに裏地がないが、被告商品ではメッシュに裏地があり、前室の生地が見えないようになっている。 (エ) 上蓋裏側について 原告商品と被告商品とでは、透明ビニール製マップポケットの展開方向が逆である。このことにより、肩に掛けて携行する際、被告商品では、マップポケット内部の物を容易に取り出し得、マップポケットに収納した地図類の表面と裏面を容易に見ることができるが、原告商品ではそうではない。 (オ) 前室オーガナイザーポケットについて 原告商品と被告商品とでは、キーホルダーの位置が違うほか、側面の三角布が最下部までつながっているか(原告商品)、下部が開放されているか(被告商品)の相違がある。 内部の構造は、カバン類に一般に使用されているもので、ショルダーバッグを新たにデザインする場合、当業者であれば誰でも想到する類のものであり、特に原告商品だけにある独創的な形態ではない。 (カ) 後室メインルームについて 原告商品、被告商品とも、左右非対称になっているのは、右側にペットボトルポケットがあるための技術的制約であり、特にデザインされたものではない。 (キ) 背面について 原告商品、被告商品とも、ごくありふれたものである。ジッパーの位置が、肩掛け用ベルトの付け根よりも下部にあるか(原告商品)、肩掛け用ベルト取付金具よりも上部にあるか(被告商品)の相違がある。 (ク) ジッパーの引き手について 前記(ア)のとおりの相違がある。 (ケ) ベルトの取付方法 原告商品は、肩掛け用ベルトを本体に直接縫い付けてあるので、実際に使用するとベルトの取付部がよじれる。これに対し、被告商品は、本体にベルトを取り付ける金具を設け、ベルトを本体と脱着可能にしてあるのでこのようなことがないという相違がある。 イ 商品番号及びサイズについて 被告商品の商品番号はPPFM35−26X13である。サイズは、 縦 25p 横 22p 奥行き 8p である。 ウ 原告商品の形態がありふれたものであること 次に述べるように、原告商品独特の形態的特徴として原告の主張する内容は、いずれもランドセルやビジネスバッグではありふれた構成、配置であり、同種製品が通常有する形態にすぎない。したがって、上記アのように多数の相違がある被告商品は、原告商品を模倣したものとはいえない。 原告の主張する原告商品の特徴は、次のようなものである。 (ア) 上蓋 @ 下部にワンタッチ・プラスチックバックル A 2個の小物用ジッパーポケット B 裏面にマップポケット が設けられている。 (イ) 本体右側 @ ペットボトルポケット A 上記ポケットの内部に携帯電話収納ポケット が設けられている。 (ウ) 本体収納部 @ 前室、後室で構成される。 A 前室 a 前面にメッシュ素材のポケット b 外側パネルに小物脱落防止の三角布 c 内部に、左から、ペンホルダー、カードポケット、パスポート用ポケットが配置され、その奧に、航空券用ポケットがあり、向かい側に全幅ポケット、右上部にキーホルダー を設けている。 B 後室 a 左右非対称に開閉する構造 b Dリングを設置している (エ) 背面 @ ジッパー開閉式のポケット A 上蓋にマップポケット が設けられている。 上記のような、原告商品の形態のうち、(ア)、(ウ)及び(エ)の構成は、カバン類では、ランドセルに代表されるように古くから一般によく見られる形態であり、ビジネスバッグにもかかる構成のものは多数存する。また、(イ)については、本体収納部の横に何らかの収納部を設けることも、ランドセルに見られるように古くから多用されている。 そのほか、上蓋にジッパーポケットが設けられていること、上蓋の止め具の取付方、携帯電話収納部及びペットボトルポケットを設けることなど、いずれも些細で誰でも想到する、又はありふれた形態にすぎない。 したがって、原告商品の形態の基本構造自体には、独自性や特徴はほとんどないのであり、原告商品がその独自性や特徴を主張し得る領域は狭く、被告商品は原告商品の模倣に当たらない。 エ 差止請求について 原告は、平成10年3月から原告商品を販売している(不正競争防止法2条1項3号による商品形態の保護期間は、商品が最初に販売された日から3年間である。)。 被告は、平成12年4月12日を最後に、被告商品の製造を中止しており、同年6月には、販売も中止している。したがって、原告には、差止めを求める利益がない。 2 争点2(原告の損害)について (1) 原告の主張 ア 被告の得た利益 (ア) 本件において、被告が被告商品の販売によって得た利益は、500万円を下らない。 被告は、被告商品を少なくとも1200個製造した。その輸入原価は1個当たり1656円であり、その販売に要する販売管理費は15%程度である。よって、被告の利益は、500万円を下らない。 {6,900-1,656-(6,900×0.15)}×1,200=5,050,800 (イ) ところで、被告は、被告商品はデパート等で販売されているから、販売手伝い員の人件費その他の販売管理費を要し、被告からデパート等への納入価格は平均して末端販売価格の65%を上回らないと主張する。仮にこの主張を前提に検討するとしても、被告の利益は、次のとおり、286万円となるというべきである。 a デパート等への納入価格 4657円 被告商品のデパート等における顧客への販売価格は6900円である。デパート等への納入価格は、その70%の場合もあれば、65%の場合もある。その中間値を取ると、上記金額である。 b 販売管理費 15% 被告の販売管理費は、被告の開示する資料によれば、53.3%とされているが、これは、アパレル商品特有の販売形態によることに基づく。しかし、被告商品は、被告のブランドであるPPFMの売場でも1.2%しか売られていない特異な商品であり、被告の本業である服を売るための経費がそのまま本件商品の販売経費に当てはまるものではない。バッグは、アパレル商品のような季節に合わせた販売戦略が不要であり、サイズバリエーションによる在庫リスクがなく、管理の手間も販売ロスも少なくて済む。したがって、被告商品における販売管理費の比率は、通常のバッグ販売における比率である15%を超えるものとはいえない。 被告商品の仕入原価及び販売個数は、被告の開示するところによれば、それぞれ、1565円と1195個である。よって、被告の得た利益は上記金額となる。 {4,657-1,565-(4,657×0.15)}×1,195≒2,860,000 イ 信用毀損による無形損害 200万円 原告は、長年にわたって地道に研究・開発してきた旅行・レジャー用バッグ作りの成果として原告商品を創作した。すなわち、原告は、原告商品の開発と商品化のため、多大なる努力と資金を投下して、限りない試行錯誤を繰り返し、さらに消費者ニーズに合わなければ失敗するというリスクを負って商品化したものである。 しかるに、被告は、原告商品の成功を見てから被告商品を企画し、自ら資金・労力を投下することなく、原告商品を模倣して、競争上有利な地位を占めた。原告は、上記のような原告の存在価値を示すものの1つである原告商品を模倣され、オリジナリティある原告商品の価値を減少させられた。また、先行開発者としての誇りを持ってデパートや専門店に営業展開してきたのに、被告の行為により、その誇りと信用を傷つけられた。上記損害を償うには、上記アの不正競争防止法上の損害に加えて、信用毀損による無形損害に対する賠償として、200万円を要する。 ウ 弁護士費用 70万円 本件の弁護士費用として、上記金額を原告は代理人弁護士に支払っており、これを被告に負担させるのが相当である。 エ 損害額のまとめ よって原告は、被告に対し、770万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うことを求める。 (2) 被告の主張 ア デパート等への納入価格について 被告商品は、デパート等で販売されている。デパート等では、売場として指定された場所に内装を施し、什器・備品を備えたコーナーを設け、販売手伝い員を派遣し、顧客に販売された時に被告からデパート等に売り渡されたことになるという処理が行われている。このような販売の実情に照らせば、被告からデパート等への納入価格は、平均して末端販売価格(小売価格)の65%を上回ることはない。 イ 販売管理費について 被告のように、デパート等で商品を販売するには、被告は販売手伝い員を派遣しなければならない。被告の被告商品を取り扱う部門であるPPFMでは、この人件費は、22.1%である。この費用は、被告商品を販売するために直接かかる費用であるから、変動費である。 ウ 寄与率について 被告は、昭和51年12月に設立され、年商1225億円を上げている大手アパレル業者であり、主要ブランドとして「コムサ デ モード」、「ペイトン プレイス」、「KT」、「コムサ コムサ コムサ」などを有している。被告は、衣料品市場では5本の指に入る大手であり、古くからその知名度は高く、根強いファンを抱えている。被告商品のブランドは「PPFM」であるが、これは「ペイトン プレイス フォー メン」の頭文字を取ったものであり、この商標を付した商品は、高校生、大学生及び社会人1・2年生の若い男性を対象に販売されており、かかる層に根強い人気がある。 被告商品の売上げには、被告の大手アパレル業者としての信用力、ブランドの知名度、専門店での販売及びファッション性が大きく寄与しており、商品形態が売上げに寄与したのはわずかである。商品形態の寄与率は、多く見積もっても10%である。 エ 信用毀損について 原告は、原告商品につき、そのタグやラベルで、原産地がアメリカであるような、「MANHATTAN PASSAGE.」、「NEWYORKCITY. N.Y. U.S.A.」などといった表示をし、また、原告がアメリカ製のショルダーバッグを輸入している輸入総代理店であるかのような表示をしている。原告は、原告商品の開発と商品化のため、多大なる努力と資金を投下したとか、先行開発者としての誇りを持ってデパートや専門店に営業展開してきたと主張しているが、真実は、原告商品は中国製であり、品質の低い素材を用いた自社開発商品であるにもかかわらず、米国製のカバンであると認識させ、自身輸入総代理店であるということにして原告商品を販売してきたのである。原告自身の上記のような行為に照らせば、原告の信用が毀損されたとの主張は失当である。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告商品は、原告商品の形態を模倣したものかどうか)について (1) 原告商品の形態について 前記争いのない事実及び証拠(甲1、3の1ないし6、検甲1)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ア 原告商品は、「マンハッタンパッセージ・コンプレックス」という名称の、旅行又は街歩き用の小型ショルダーバッグである。原告商品は、後記ウのように、最大の収納部分である後室と、これとほぼ同じ幅でその前に付けられた薄い収納部分である前室(オーガナイザールーム)、さらにこれらの右側に設置されたペットボトル等の収納ポケットから成るという基本的な構造を有している。 原告商品の寸法は、縦(上蓋の高さ)が21.0p、横(上蓋の幅)が23.0p、奥行き(厚さ)が7.0pである。 原告商品は、次のような素材より成る三層ファブリック構造で、軽量・高防水性と衝撃吸収性を持たせている。 一層(表面) ナイロンリップストップ 二層(内蔵) ポリウレタンフォーム 三層(裏面) ナイロンタフタ 原告商品には、黒、グレー(カーキのような色)、赤の3色がある。 イ 正面の形状(図A−1) 前室、後室、ボトル収納部をほぼ本体最下部まで被うかぶせ式の上蓋が付けられてあり、それを本体最下部に設置されたTSR−20という形式のワンタッチ・プラスチックバックル1個により、開閉するようになっている。この上蓋の中間あたりに水平方向にメッシュの部分が設けられており、これがデザイン上のアクセントになっている。このメッシュ部分の上端部の真上と、下端部の直下の2か所に、水平方向に2個の小物用ジッパーポケットが設けられている。その間隔は6.5pである。このジッパーには、布製のジッパー引き手紐がスライダーに直接付けられており、この紐の中央部分にバッグ本体と異なった色の糸でジグザグのステッチが付され、デザイン上のアクセントとなっている。 上蓋の左端下部には、表面及び裏面に「MANHATTAN PASSAGE.」と記載された赤色の布地(タグ)が縫い付けられている。 ウ 上蓋を開けた状態(図A−2) 上蓋を開けると、後室とその前に付けられた前室、さらにこれらの右側に設置されたペットボトル等の収納ポケットが見られる。ペットボトルポケットの内部に、携帯電話の収納ポケットが設けられている。このような場所に、水を嫌う精密機器である携帯電話の収納ポケットを設けたという、ある意味で非合理的なところが特徴といえる。これらのポケットに、ペットボトル及び携帯電話の固定ストラップとして、ナイロンテープと面ファスナーを設けている。 前室の前には、メッシュ素材で面ファスナーを設けた大きなポケットが設けてある。前室及び後室は、いずれも、左右どちらへでも開閉できるようにした2つのジッパーで開閉される。このジッパーには上記イのような引き手紐が設けてある。 エ 上蓋裏側(図A−3) 透明素材を用いて、観光地図、スケジュール表等を収納できるマップポケットを設けている。このポケットは、面ファスナーが内側に2か所横長に縫いつけてあり、面ファスナーの着脱によりポケットが下方より上方へ展開して、収納物を引き出さずに表裏を一覧できる。 オ 前室オーガナイザーポケット(図A−4) (ア) 前室(オーガナイザールーム)は、ジッパーにより逆Uの字型に開閉する構造である。前室外側パネルは、小物脱落防止のためのメッシュ素材の三角布を側面に設け、これで本体と接続し、行動中でも収納物の出し入れが安全に行えるようになっている。 (イ) オーガナイザーパネル左には、3本のペンが収納できるペンホルダーを配置している。その右側に4段のカードポケットとパスポート用のポケットを配置している。それら収納部の奧には、航空券が折らずに収納できる全幅ウォールポケットを設けている。また、オーガナイザーパネルの向かい側の前室外側パネル内側には、全幅ポケットを設けている。 (ウ) 前室内右上部に、取り外し式プラスチックキーホルダーを取り付けてある。 カ 後室メインルーム(図A−5) (ア) 後室は、左右非対称(左側約3分の2、右側約3分の1開口)にジッパーで開閉する構造になっている。 (イ) 後室は、ガイドブック、小型カメラ、ポータブルCD・MDプレイヤー等が収納できるサイズとしてある。また、キーホルダー、アクセサリー等をかけられるDリングを、後室内側最上部左端に設置してある。 キ 背面 上部に肩掛け用ベルトが縫い付けてある。その縫い付け部の直下に、水平方向に、ジッパー開閉式ポケットを設けている。ジッパーの引き手紐は、上記イと同様のものである。 (2) 被告商品の形態について 前記争いのない事実及び証拠(甲2、乙1、検甲2)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ア 被告商品は、「PPFM35−26X13」という商品番号の商品であり、原告商品同様に、旅行又は街歩きを用途としていると思われる小型ショルダーバッグである。被告商品も、原告商品同様、最大の収納部分である後室とその前に付けられたほぼ同幅で薄い収納部分である前室、さらにこれらの右側に設置されたペットボトル等の収納ポケットから成るという基本的構造を有している。 被告商品の寸法は、縦(上蓋の高さ)が25p、横(上蓋の幅)が22p、奥行き(厚さ)が8pである。 被告商品は、ナイロンリップストップによる一層構造で、クッション材は入っていない。 被告商品には、黒、カーキ、ベージュ、ネイビーの4色があり、前2者は原告商品とほぼ同様である。 イ 正面の形状(図B−1) 原告商品同様、前室、後室、ボトル収納部をほぼ本体最下部まで被うかぶせ式の上蓋が付けられている。この上蓋を開閉するのは、原告商品同様、TSR−20という形式のワンタッチ・プラスチックバックルであるが、原告商品と異なり、本体横左右の2か所に設置されている。この上蓋の中間あたりに、メッシュでなく、本体と色違いのカラーテープが2本水平方向に貼り付けられており、これがデザイン上のアクセントになっている。この上の部分のカラーテープの真上と、下のカラーテープの直下の2か所に、水平方向に2個の小物用ジッパーポケットが設けられている。その間隔は、原告商品同様、6.5pである。このジッパーには、布製のジッパー引き手紐が付けられているが、これはひも状素材を金属引き手に通し、間接的に金属スライダーに接合している。引き手の縫糸に、原告商品同様に、アクセントカラーを用いてジグザグのステッチが付されている。 上蓋の左端下部に、「PPFM」と記載された、本体と同一色の布地(タグ)が縫い付けられている。 ウ 上蓋を開けた状態(図B−2) 上蓋を開けると、後室とその前に付けられた前室、さらにこれらの右側に設置されたペットボトル等のポケットが見られること、ペットボトルポケットの内部に携帯電話の収納ポケットが設けられていること、これらのポケットにペットボトル及び携帯電話の固定ストラップとしてナイロンテープと面ファスナーを設けていること、前室の前にメッシュ素材で面ファスナーを設けた大きなポケットが設けてあること、前室及び後室が、いずれも、左右どちらへでも開閉できるようにした2つのジッパーで開閉されること、このジッパーに上記イのような引き手紐が設けてあることは、いずれも原告商品と同様である。 異なっているのは、ペットボトルポケットの底部に、原告商品ではとも地が用いられているのに対し、被告商品ではメッシュの生地が用いられ、水がたまらないようにしてあること、原告商品ではメッシュのポケットに裏地がないが、被告商品ではメッシュのポケットに裏地があり、ポケットの中味が見えないようになっている点である。 エ 上蓋裏側(図B−3) 被告商品においても、原告商品同様、透明素材を用いて、観光地図、スケジュール表等を収納できるマップポケットを設けている。このポケットは、面ファスナーが内側に2か所横長に縫いつけてあり、面ファスナーの着脱によりポケットが展開して、収納物を引き出さずに表裏を一覧できる。異なっているのは、原告商品では、マップポケットが下方より上方へ展開するのに対し、被告商品では、上方より下方へ展開する点である。 オ 前室オーガナイザーポケット(図B−4) 前室がジッパーにより逆Uの字型に開閉する構造であること、前室外側パネルは小物脱落防止のためのメッシュ素材の三角布を側面に設け、これで本体と接続していること、3本のペンが収納できるペンホルダーをオーガナイザーパネル左に配置していること、その右側に4段のカードポケットとパスポート用のポケットを配置していること、それら収納部の奧に全幅ウォールポケットを設けていること、オーガナイザーパネルの向かい側の前室外側パネルの内側に全幅ポケットを設けていること、前室内右上部に取り外し式プラスチックキーホルダーを取り付けてあることは、いずれも原告商品と同様である。異なっているのは、取り外し式プラスチックキーホルダーの取り付け位置、前室外側パネル側面の小物脱落防止のためのメッシュ素材の三角布が、原告商品では最下部までつながっているのに対し、被告商品では最下部はつながっていない点である。 カ 後室メインルーム(図B−5) 後室が左右非対称(左側約3分の2、右側約3分の1開口)にジッパーで開閉する構造になっていることは、原告商品と同様である。 原告商品に設置されているDリングは、設けられていない。 キ 背面 水平方向にジッパー開閉式ポケットを設けている点、上記イのようなジッパー引き手紐を使用している点は、原告商品と同様である。肩掛け用ベルトが縫い付けてある(原告商品)か、ベルト取り付け金具を介して取り付けてある(被告商品)か、ジッパー開閉式ポケットの位置が、肩掛け用ベルトの縫い付け部の直下(原告商品)か、ベルト取り付け金具の真上(被告商品)か、は両者で異なっている点である。 (3) 原告商品と被告商品の対比 ア 「模倣」の意義 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に類似していることを要するものである。そして、問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して、当該相違部分についての着想の難易、改変の内容・程度、改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに、当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて、当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には、両者を実質的に同一の形態ということはできない。 イ そこで、被告商品と原告商品の形態につき検討するに、上記(1)(2)に認定したように、被告商品と原告商品の形態はほとんど同じである。大きな後室とほぼ同幅の薄い前室を重ね、その右側にペットボトルポケットを設けているという基本的構成はもちろん、上蓋正面に2個の小物用ジッパーポケットを設け、その間を正面から見た場合のデザイン上のアクセントにしていること、ジッパー引き手紐の形態、同一形式のワンタッチ・プラスチックバックルにより開閉すること、上蓋裏側に大きな透明のマップポケットを設けたこと、前室オーガナイザーポケット内の構造や小さなポケットの配置、前室内上部に取り外し式プラスチックキーホルダーを取り付けてあること、後室メインルームの開け方、背面にジッパーポケットを設けていることなど、すべて同じである。殊に、原告商品の特徴の1つとして、ペットボトルポケットの内部に携帯電話の収納ポケットが設けられている点が挙げられるが、このような場所に水を嫌う精密機器である携帯電話の収納ポケットを設けたことは、ある意味で非合理的なものであるが、この点も被告商品において同じである(このような点まで同じであることは、被告商品が、他にもある選択肢の中から、ことさら原告商品を模倣したことを裏付けるものということができる。)。 被告商品と原告商品との間で異なっている点は、全体的な印象として原告商品がやや横長に見えるのに対し、被告商品がやや縦長に見える点のほか、上記(2)で認定したような細部の点にすぎない。そうすると、被告商品は、その基本的な形態はもちろん、多くの点が原告商品とほとんど同一であって、その相違点はきわめて些細なもので、当該改変を加えるにつき着想が困難であるとはいえないし、これらの改変によって被告商品に相応の形態的特徴がもたらされているということもできない。以上によれば、被告商品と原告商品とは、実質的に同一の形態というべきである。 ウ 原告商品の形態は、同種製品が通常有する形態か ところで被告は、原告商品の形態的特徴として原告の主張する内容は、いずれもランドセルやビジネスバッグにおいてはありふれた構成、配置であり、同種製品が通常有する形態にすぎないので、上記認定のような相違がある被告商品は原告商品を模倣したものということはできない、と主張する。 そこで検討するに、不正競争防止法2条1項3号が「同種の商品が通常有する形態」を保護の対象から除外したのは、先行商品の開発者において特段の資金・労力を要さずに容易に作り出せるような、特段の特徴もない同種の商品に共通するごくありふれた形態は保護に値せず、また、同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態については、これを保護対象とすると商品の形態を超えて同一の機能・効用を有する同種の商品そのものの独占を招来することとなり、複数の商品の市場における競合を前提としてその競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨そのものにも反することとなるためであると解される。 原告は、平成10年3月から原告商品を販売しているところ(このことは、「ビーパル1998年5月号」(甲3の1)の記事において原告商品が採り上げられていることからも、裏付けられる。)、バッグ類の通常有する形態を示すものとして被告の提出する証拠(乙8ないし13)中には、原告商品発売時以前の商品において、原告商品と同一又はその基本的な特徴を備えたものは認められない。また、原告商品の有する上記(1)の特徴が必ずしもすべて原告の着想したものでないとしても、それらを組み合せた具体的な商品の存在は認められない。さらに、原告商品の形態が、同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態ということもできない。以上によれば、原告商品の形態は、同種製品が通常有する形態とはいえない。 上記のように、被告商品は、その基本的な形態はもちろん、多くの点が原告商品とほとんど同一であって、その相違点は些細なものであり、当該改変を加えるにつき着想が困難であるとはいえないし、これらの改変によって被告商品に相応の形態的特徴がもたらされているということもできない。以上より、被告商品と原告商品とは、実質的に同一の形態ということができる。また、証拠(乙1)によれば、被告商品は、平成11年11月ころ、企画・製造された物であることが認められ、前記認定のとおり、この時点では既に原告商品は雑誌の記事に採り上げられていたものであるところ、前記のとおり、被告商品と原告商品とが基本的形態のほかその特徴の多くを同じくするものであることに照らせば、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものといわざるを得ない。 エ 差止請求について 原告商品は、上記ウ認定のとおり、平成10年3月ころには、発売され若しくは発売可能な状態にあったものと認められる(原告もそのように主張している。)。ところで、不正競争防止法2条1項3号の定める商品形態の保護期間は、商品が最初に発売された日から起算して3年間であるので、原告が同号に基づいて被告商品の輸入及び譲渡等の差止めを求め得るのは、上記時点より3年を経過した、遅くとも平成13年3月末日ころまでといわなければならない。本件口頭弁論終結時においては、既にこの期間を経過しているから、原告のこれらの行為の差止請求は理由がない。 2 争点2(原告の損害)について (1) 被告の不正競争行為による損害 上記のとおり、被告商品の輸入・販売は、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するものであるから、被告は同行為により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 ア 被告商品の仕入原価及び販売数量について 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は、その仕入原価が1個当たり1565円であること、仕入数量1196個のうち、販売されたのが1195個であることの各事実が認められる。 イ 被告商品の販売管理費等について (ア) 証拠(乙2、14ないし16)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、数々のブランドを有するいわゆる大手アパレル業者であり、被告商品はデパート等において販売されていること、デパート等では、顧客に販売された時に、デパート等に対して売り上げたことになり、その際の納入価格は、小売価格の60ないし75%であることが認められる。そうすると、他に特段の事情の認められない本件においては、被告商品のデパート等への納入価格としては、上記の中間値である小売価格の67.5%に当たる4657円と認めるのが相当である。 (イ) 損害額に関する原告の主張は、不正競争防止法5条1項に基づいて被告が本件不正競争行為により得た利益の額を原告の損害額と推定するものであるが、ここでいう「利益」とは、純利益を指すものではなく、売上高から売上額に比例して増減する、いわゆる変動経費を控除したものを意味するというべきである。 販売管理費については、上記証拠によれば、被告のようにデパート等で商品を販売するには、販売手伝い員を派遣しなければならないこと、被告の被告商品を取り扱う部門であるPPFMでは、この人件費は、納入価格の22.1%であることが認められる。被告は、上記販売手伝い員の人件費は、被告商品を販売するために直接かかる費用であるから変動費である旨主張する。しかしながら、販売手伝い員は、被告商品のみを販売するために派遣されているものではないから、この人件費は、被告商品の売上げに従って変動するものではなく、変動費とは認められない。変動費たる販売管理費としては、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨により、バッグ類等の販売に通常要すると考えられる、納入価格の15%と認めるのが相当である。 ウ 被告商品の販売による利益について 上記によれば、被告が被告商品を販売したことによって上げた利益は、286万円となる。 {4,657-1,565-(4,657×0.15)}×1,195≒2,860,000 エ 寄与率について 被告は、被告商品の売上げには、被告のブランドの信用力や知名度、ファッション性等が大きく寄与しており、商品形態の寄与率は、多く見積もっても10%であると主張する。しかしながら、そもそも不正競争防止法2条1項3号所定の形態模倣行為においては、特定の形態が商品の売上げに寄与するからこそ当該形態の模倣が行われるものであるから、特段の事情のない限り、商品形態以外の要素が売上げに寄与していることを、たやすく認めることはできないところ、本件においては、被告商品は旅行や街歩きにおける機能性を売り物としたバッグであって、ファッション性を重視した洋品雑貨の分野に属する商品ではなく、本件全証拠によっても、被告のブランドの信用力や知名度、ファッション性等が被告商品の売上げに大きく寄与していることを認めるに足りない。被告の主張は、採用できない。 (2) 信用毀損による無形損害について 原告は、被告の模倣行為により、原告商品の価値を減少させられ、また、先行開発者としての誇りと信用を傷つけられたと主張し、これによる無形損害の賠償を請求している。しかしながら、財産権の侵害に対しては、特段の事情のない限り、財産上の損害に対する填補がされれば足り、これに加えて無形損害を賠償させる必要は存しないというべきところ、本件において、被告の不正競争行為により、財産上の損害に加えて、信用毀損による無形損害が発生したことを裏付ける特段の事実の立証はないから、原告のこの点の主張は理由がない。 (3) 弁護士費用について 本件事案の内容、上記認定の損害額、本件訴訟の審理経過その他一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係あるものとして被告に負担させるべき弁護士費用は、25万円をもって相当と認める。 (4) 損害額の合計 上記認定の損害額を合計すると、被告が賠償すべき金額は、311万円となる。 3 結論 以上のとおり、原告の本訴請求は、311万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村量一 裁判官 村越啓悦 裁判官 青木孝之 |
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