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【事件名】ジーンズの標章類似事件(2) 【年月日】平成13年12月26日 東京高裁 平成12年(ネ)第3882号 不正競争行為差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁 平成8年(ワ)第12929号) (平成13年9月3日 口頭弁論終結) 判決 一審原告 リーバイ ストラウス アンド カンパニー 訴訟代理人弁護士 関根秀太 同 後藤康淑 同 武藤佳昭 同 石村善哉 同 伊藤毅 同 達野大輔 訴訟復代理人弁護士 藤井康広 一審被告 株式会社エドウィン商事 訴訟代理人弁護士 田中克郎 同 宮川美津子 同 中村勝彦 同 寺澤幸裕 同 長坂省 同 菊田行紘 訴訟復代理人弁護士 多久島逸平 主文 1 一審原告及び一審被告の各控訴を棄却する。 2 一審原告の当審で追加した請求を棄却する。 3 当審における訴訟費用中、一審原告の控訴に係る費用及び一審原告の当審で追加した請求に係る費用は一審原告の、一審被告の控訴に係る費用は一審被告の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 一審原告の控訴につき (一審原告) (1) 原判決中、一審原告敗訴部分(ただし、原判決別紙原告標章目録(六)記載の標章及び原告商標目録(六)記載の商標に基づく被告標章目録(八)−一〜四及び(九)記載のハウスマークロゴに係る請求に対する部分を除く。)を取り消す。 (2) 一審被告は、別紙被告標章目録3ないし7及び10記載の各標章を付した被服を販売してはならない。 (3) 一審被告は、上記(2)の被服を廃棄せよ。 (4) 訴訟費用は一、二審とも一審被告の負担とする。 (一審被告) (1) 一審原告の控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は一審原告の負担とする。 2 一審被告の控訴につき (一審被告) (1) 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 上記(1)の部分に係る一審原告の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は一、二審とも一審原告の負担とする。 (一審原告) (1) 一審被告の控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は一審被告の負担とする 3 一審原告の当審における追加的請求につき (一審原告) (1) 一審被告は、別紙被告標章目録3及び4記載の各標章を付した被服を販売してはならない。 (2) 一審被告は、上記(1)の被服を廃棄せよ。 (一審被告) 一審原告の請求を棄却する。 第2 事案の概要 本件は、一審原告が、一審被告に対し、@別紙原告標章目録1、2、3、4、5−1、5−2、5−3、5−4記載の各標章(以下、同目録の番号に従い「原告標章1」、「原告標章5−1」などのようにいい、原告標章5−1、5−2、5−3、5−4は併せて「原告標章5」ともいう。)が一審原告の商品等表示として著名又は周知であるところ、一審被告は原告標章1、2に類似する別紙被告標章目録1、2、3、4記載の各標章、原告標章3、4に類似する同目録5記載の標章並びに原告標章5に類似する同目録1、3記載の各標章(いずれもタブ部分)及び同目録6、7、10記載の各標章(以下、被告目録記載の標章は、同目録の番号に従い「被告標章1」などのようにいう。)を付した被服を販売して、一審原告の商品と混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項2号又は1号及び3条により、上記各販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を請求するとともに、A一審原告は、別紙原告商標目録1、2、3、4記載の各商標権(以下、同目録の番号に従い「原告商標権1」などのようにいい、その商標権に係る商標を「原告商標1」などのようにいう。)を有するところ、一審被告の被告標章1、2、3、4を付した被服の販売行為は原告商標権1、2を、被告標章5を付した被服の販売行為は原告商標権3を、被告標章6、7、10を付した商品の販売行為は原告商標権4をそれぞれ侵害するとして、商標法36条により、上記各販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を請求する事案である。 原判決は、原告標章1、2に基づき不正競争防止法2条1項1号及び3条により、また、原告商標権1、2に基づき商標法36条により、被告標章1、2を付した被服の販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、一審原告は原判決中請求棄却部分(ただし、原判決別紙原告標章目録(六)記載の標章及び原告商標目録(六)記載の商標に基づく被告標章目録(八)−一〜四及び(九)記載のハウスマークロゴに係る請求に対する部分を除く。)を不服として、また、一審被告は原判決中請求認容部分を不服として、それぞれ控訴をした。 一審原告は、当審において、@別紙原告標章目録2−2記載の標章(以下「原告標章2−2」という。)が一審原告の商品等表示として著名又は周知であるところ、一審被告は原告標章2−2に類似する被告標章3、4を付した被服を販売して、一審原告の商品と混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項2号又は1号及び3条により、上記販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求、A一審原告は、別紙原告商標目録1−2記載の商標権(以下「原告商標権1−2」といい、その商標権に係る商標を「原告商標1−2」という。)を有するところ、一審被告の被告標章3、4を付した被服の販売行為は原告商標権1−2を侵害するとして、商標法36条により、上記販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求を追加する旨の訴えの変更をしたほか、第4回口頭弁論期日において、本件の不正競争防止法に基づく請求と商標法に基づく請求とは、不正競争防止法に基づく被告標章1、3(いずれもタブ部分)に係る請求を除き、選択的併合である旨陳述した。 一審被告は、一審原告の上記訴えの追加的変更に対し、それが請求の基礎を変更するものであり、かつ、著しく訴訟手続を遅滞させるものであるとして、訴えの変更を許さない旨の決定の申立てをした。 なお、一審原告は、不正競争防止法又は商標権に基づく被告標章3、4、5、6、7及び10を付した被服についての販売差止めの請求につき、仮に、「被服」については販売差止めの請求が理由がないとされる場合であっても、少なくとも、「被服」中の「ジーンズ」(別紙素材目録記載の素材を使用したズボンをいう。以下同じ。)については、請求を理由がないとする根拠が失われるから、ジーンズに限定した一部認容の判決がされるべきであるとも主張する。 1 前提となる事実(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 一審原告は、ジーンズ等の被服の製造販売等を業とする米国法人であり、一審被告は、ジーンズ等の被服の製造販売を業とする日本法人である。 (2) 原告標章 一審原告は、一審原告の製造販売するジーンズ(以下「原告ジーンズ」という。)に関して、原告標章1、2、2−2、3、4、5を以下のとおり使用している。 ア 一審原告は、原告ジーンズのバックポケット部分に、ステッチによって原告標章1、2、2−2を付して使用し、また、これを原告ジーンズの宣伝広告に使用している。なお、ステッチとは、本来、刺繍、針目の意味であるが、原告標章2−2は、塗料によって針目形状にプリントをしてなるものである。 イ 一審原告は、原告ジーンズのうち、製品番号「501」及び「505」の各商品のパッチ(つぎ布、あて布の意味で用いる。)及びラベル部分に、それぞれ原告標章3、4を付して使用し、また、これを原告ジーンズの宣伝広告に使用している。 ウ 一審原告は、原告ジーンズのバックポケットの横部分に、原告標章5−1、5−2、5−3又は5−4のタブを付して使用し、また、これを原告ジーンズの宣伝広告に使用している。 (3) 原告商標権 一審原告は、原告商標権1、1−2、2、3及び4を有する。(甲第1〜第4号証の各1、2、第306号証の1、2、弁論の全趣旨) (4) 被告標章の使用 一審被告は、一審被告の製造販売するジーンズ(以下「被告ジーンズ」という。)に関し、被告標章1、2、3、4、5、6、7、10を以下のとおりの態様で使用している。 ア 一審被告は、昭和59年から被告標章1、2を、平成6年から被告標章3、4を、いずれも被告ジーンズのバックポケット部分に付して使用している。 イ 一審被告は、平成6年から被告標章5を被告ジーンズに付して使用し、また、これを被告ジーンズの宣伝広告に使用している。 ウ 一審被告は、昭和39年から被告標章6を、平成6年から被告標章7を、それぞれ被告ジーンズのバックポケットの横部分に付して使用し、さらに、被告標章10を同様に被告ジーンズのバックポケットの横部分に付して使用している。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 〔不正競争防止法に基づく請求について〕 (1) 争点1(原告標章1、2、2−2に基づく被告標章1、2、3、4に係る請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告標章1、2との関係で、また、被告標章3、4の使用行為が、原告標章2−2との関係で、それぞれ不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。 (一審原告の主張) ア 原告標章1、2、2−2の商品等表示性について ジーンズのバックポケット部分のステッチの形状は、ジーンズというスタイル、生地、形の限られている商品において、他の商品と差別化する際に大きな威力を有している。ジーンズにおいて、バックポケットのステッチは、それのみで商品の出所表示機能を有し、その識別力は他の部分におけるパッチより強い。 ジーンズのバックポケットの大きさは、パッチの大きさの四、五倍もある。ジーンズを着用したとき、ウエスト部分に付されたパッチは上着やバンド等で隠れる場合が多いのに対し、腰部分のポケットに付されたステッチは隠れることがない。需要者が商品の出所や種類を区別する指標は、購入後に取り外される紙ラベルや、遠くからは認識できないパッチに記載された文字ではなく、バックポケットに施されたステッチである。 各ジーンズメーカーは、ステッチをジーンズの自他識別機能を有するものとして重視し、登録商標を取得するだけでなく、商品カタログ、雑誌、テレビコマーシャル等においても、ステッチが目立つような宣伝広告方法、例えば、ポケットのステッチを大写しにする方法や、ポケットのステッチが見えるような形でジーンズを並べる方法等を採用しており、一審被告も、ポケットのステッチによる標章について登録商標を有している。一般需要者においても、メーカーによってバックポケットのステッチが異なることは、当然のこととして受け入れている。 一審被告は、ジーンズが店舗に陳列される場合に、バックポケットのステッチは紙ラベルに隠れて見えにくい旨主張するが、紙ラベルによってステッチが完全に隠れることはまれであるのみならず、宣伝広告の際には、紙ラベルが取り外された状態でステッチが示されるから、需要者は、紙ラベルが付されている状態よりも取り外されている状態の商品を目にすることが多い。 イ 著名性、周知性及び一審被告の先使用について 原告標章1、2、2−2は、長年の使用によって、原告ジーンズを示すものとして著名又は周知となっている。 すなわち、原告標章1、2、2−2のような、並行する2本の弓形の曲線が結合した図形のバックポケットのステッチは、アーキュエットステッチと称され、米国においては、19世紀末から一貫して原告ジーンズに使用され、一審原告の商品等表示として著名性、周知性を獲得している。 我が国において、原告標章1、2は、遅くとも昭和48年に、他社が製造販売する類似品と明確に区別して、原告ジーンズであることを示すために一審原告が初めて使用したものであり、以後、その使用を継続し、かつ、原告ジーンズの特徴を強く表すものとして、これを強調した雑誌広告、テレビコマーシャル等を継続的かつ精力的に行ってきた結果、需要者の間に一審原告の商品等表示としての著名性、周知性を獲得している。 また、原告標章2−2は、1930年代から1960年代にかけて一審原告が製造販売したジーンズのバックポケットに付されていたステッチであり、当時、世界一のジーンズメーカーであった一審原告の販売するジーンズに使用されたことによって、遅くとも昭和59年までには我が国でも著名又は周知となっていたものであるが、平成4年頃以降のいわゆるビンテージブームにおいて、1960年以前に製造販売されたビンテージ物と称されるジーンズが需要者の注目を集め、原告標章2−2等のその特徴が雑誌等によって盛んに紹介されたり、ビンテージ物をモデルとして一審原告が製造販売した多くの復刻版商品(ビンテージシリーズ)に原告標章2−2が使用されたことにより、需要者の間で更に著名又は周知となったものである。 一審被告は、一審原告が使用してきたステッチの形状に統一性はなく、原告標章1、2、2−2が継続的に使用されていたということはできない旨主張する。 しかしながら、一審原告は長い社史を有するため、各年代において生産されていた製品ごとにアーキュエットステッチに変遷が見られることは当然であり、また、過去に製造販売されたビンテージ物の復刻版商品(ビンテージシリーズ)においては、そのバックポケットのステッチの形状も完全に復元したため、多少のずれのあるアーキュエットステッチを示しているにすぎない。このような変遷又はずれによって、原告標章1、2の一審原告の商品等表示としての著名性、周知性に影響は全く生じない。 また、一審被告は、被告標章1、2は、女性用ジーンズについてのみその使用をしてきたものであるから、被告標章1、2の使用を不正競争行為とする主張との関係においては、原告標章1、2の著名性又は周知性の有無を判断すべき「需要者」は女性としなければならない旨主張するが、原告標章1、2、2−2は、女性の需要者の間においても著名又は周知であるのみならず、ジーンズは、男性労働者の作業着を起源とするものの、現代においては、男女を問わず愛用される被服となり、男女差のない商品と認識されているものであるから、上記主張の前提として、女性用ジーンズ市場と男性用ジーンズ市場とを別々に想定すること自体が誤りである。 さらに、一審被告は、アーキュエットステッチは、多くのジーンズメーカーがこれに類似した図形のバックポケットのステッチを使用しており、一審原告が独占的に使用してきたものではないとも主張するが、一審原告は、それらの類似標章を使用したジーンズを販売するメーカーに対しては警告等の措置を執っているのみならず、そのような類似標章を使用したジーンズの売上高は一審原告の売上高と比べて明らかに少なく、それらのジーンズが、原告標章1、2の出所表示機能に影響を与えたものということはできない。 なお、一審被告は、被告標章1、2につき先使用を主張するが、一審被告が被告標章1、2の使用を開始した昭和59年までには、原告標章1、2、2−2は、需要者の間で著名又は周知となっていたものである。 ウ 類似性について 一審被告は、本件における不正競争行為を構成する原告ジーンズのバックポケットのアーキュエットステッチ(原告標章1、2)、「501」、「505」という数字のみを使用した印象的な商品名(原告標章3、4)、赤又はオレンジ色の布を用いたいわゆる赤タブ(原告標章5)についての模倣のほか、原審において取り上げた一審原告のハウスマーク(当審における審判の対象外)の模倣をし、また、一審原告のビンテージ物の特徴や、これを示す「ビンテージ」との語を模倣した上、これと同様に「X」、「B」、「Z」等のアルファベットを商品名である数字の後に付した「ニュービンテージシリーズ」との商品を販売し、さらには、ジェームス・ディーン、ブラッド・ピットら一審原告のテレビコマーシャルに起用された俳優と同一人を起用して、全体のイメージを模倣したテレビコマーシャルを制作するなど、原告ジーンズのすべての特徴的要素を網羅的に模倣するものであって、一審原告の企業ブランドが有する顧客吸引力にフリーライドしようとする不正の目的を有するものであることは明らかである。 そして、不正競争防止法における商品等表示の類似性の判断においては、上記のような不正の目的が認められる場合には、類似性を緩和して考慮しなければならず、その点を考慮すれば、原告標章1、2と被告標章1、2、3、4とは類似するものと認められる。すなわち、原告標章1、2と被告標章1、2については、線対称の左右二つのアーチからなり、それぞれのアーチは、ほぼ平行な2本の曲線によって構成され、両端部分から中央部分に向かって円弧を描くようにして次第に落下し、中心部で交差する点で共通であり、両端部分と中央部分の高低差の違い及び中央部のいわゆる「ダイヤモンドポイント」の有無については、上記の共通点と比較してわずかな差異にすぎない。また、原告標章1、2と被告標章3、4についても、左右二つのアーチからなり、それぞれのアーチは、ほぼ平行な2本の曲線によって構成され、両端部分から中央部分に向かって円弧を描くようにして次第に下降し、中心部で交差する点で共通であって、類似することは明らかである。 原判決は、原告標章1、2と被告標章3、4につき、@被告標章3、4は2本の曲線が平行ではないこと、A被告標章3、4は左右のアーチが線対称でないこと、B原告標章1、2はほぼ下向きの曲線で構成されているのに対し、被告標章3、4は弓形曲線で構成されていることを挙げて非類似と判断した。しかしながら、@とAは被告標章3、4が被告標章1、2を崩した図形であることを異なるいい方で表現するものにすぎないのみならず、@については、需要者にとって最も印象に残るのは2本の曲線が並んで走る全体形状であって、それが完全に平行であるかどうかという点まで着目して観察することは通常の取引の状況においてはあり得ないし、Aについては、左右のアーチの上部が平行となるようにバックポケットを傾けて観察した場合には、左右のアーチが線対称となるのであり、実際にジーンズを着用した場合には、体型に合わせて曲線的に観察され、線対称のように見えることも多い。さらに、Bについては、原告標章1、2は、ステッチがポケットの両端から最初はわずかに上方に向かって進行し、やがて下方に向かう曲線であって、ほぼ下向きの曲線と認識されることはない。仮に、これらの点で原告標章1、2と被告標章3、4に差異が認められるとしても、離隔的観察においては類似性が認められる。したがって、原判決の上記判断は誤りである。 原告標章2−2と被告標章3、4との類似性に関しては、原告標章1、2と被告標章3、4とについて述べたことがほぼそのまま当てはまるところであるが、原告標章2−2は、左右のアーチの高低差が大きく、弓形曲線で構成されていることが明確であるから、原判決の挙げたBの差異点は存在せず、両者が類似することはより強く認められる。 エ 混同について 上記のとおり、ジーンズという商品において、需要者がその出所や種類を区別する指標は、紙ラベルやパッチに記載された文字ではなく、バックポケットに施されたステッチであり、ステッチが類似する場合、需要者は、それらの商品が同一人又は関連する者によって製造販売されていると認識するものである。そして、原告標章1、2と被告標章1、2、3、4及び原告標章2−2と被告標章3、4とは上記のとおり類似するものであるから、これらの被告標章が被告ジーンズに使用された場合、需要者は、被告ジーンズについて、その出所が一審原告であるかのように、あるいは少なくとも一審原告と資本関係又は提携関係を有する者であるかのように誤認するおそれは極めて高く、したがって、一審被告による被告標章1、2、3、4の使用は、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行為」に当たることが明らかである。 (一審被告の主張) ア 当審における訴えの変更を許さない旨の決定の申立て 一審原告は、当審において、原告標章2−2を一審原告の商品等表示として、不正競争防止法2条1項2号又は1号及び3条により、被告標章3、4を付した被服の販売行為の差止め等を求める請求を追加する旨の訴えの変更をした。 しかしながら、原告標章2−2は、原告標章1、2とステッチの形状の差異が著しいから、上記訴えの変更に係る請求は、原告標章1、2を一審原告の商品等表示として、同法2条1項2号又は1号及び3条により、被告標章3、4を付した被告ジーンズの販売行為の差止め等を求める従来の請求との関係で、請求の基礎を変更するものである。 また、原審の審理の過程において、ステッチに関し、一審原告の主張する商品等表示は、多くの時間を費やしてようやく原告標章1、2に特定されたものであるところ、新たにこれと異なる商品等表示として原告標章2−2を追加することは、その商品等表示性、著名性又は周知性、類似性、混同の有無等の審理のため、著しく訴訟手続を遅滞させることになる。 したがって、上記訴えの変更は許されるべきではない。 イ 原告標章1、2、2−2の商品等表示性について ジーンズのバックポケット部分のステッチの形状は、単にバックポケットのデザインとして使用されているのみであり、商品識別機能を有しないから、商品等表示には該当しない。 すなわち、ステッチは、ジーンズのバックポケットの一部に縫われた針目であるところ、ステッチを構成している糸とジーンズを縫製した糸は同色の糸が使用され、ステッチが強調されているわけではなく、需要者は、一般に、バックポケットに付されたステッチを意識することはない。ジーンズが店舗に陳列される場合、通常、右側バックポケットが表向きとされるが、その上には大きな紙ラベルが縫い付けられていることが多く、バックポケットのステッチは、紙ラベルに隠れて極めて見えにくい。ジーンズの陳列時に目立つのは、商品の標章を表記した上記紙ラベル及びパッチである。最近では、多くのジーンズが、漂白によりインディゴ染めのブルーを中古風にしているので、一層ステッチが目立たなくなっている。ステッチが一番目立つのは、原色の強いブルージーンズであるが、そのようなジーンズが占める割合は小さい。さらに、共糸ステッチを使用しているカラージーンズの場合、ステッチを構成する糸は生地と同一ないし類似の色の共糸が使用されており、一審原告も、同様のカラージーンズを数多く販売している。女性用ジーンズにおいては、ステッチを使用できない素材を用いるものも多く、最近では、バックポケットにステッチを使用しないことが流行となって、一審原告もそのようなジーンズを販売している。このようなステッチの用いられ方からすれば、バックポケットのステッチは、バックポケットの単なるデザインとして使用されているにすぎない。 一般に、ジーンズを購入しようとする需要者は、パッチ、紙ラベル及び価格やサイズ表示とともにブランド名が表示されているカードの各記載、さらには、ブランドごとに分けられてジーンズが陳列されている売場の場所等の全体から、ジーンズのブランド(出所)を判断するものであり、バックポケットのステッチを部分的に見ることによってその判断をするものではない。このような取引の実情に照らせば、原告標章1、2が商品の出所表示機能を有するものでないことは明らかであり、原告標章1、2と被告標章1、2のみを部分的に取り上げ、出所表示として比較すること自体が誤りである。 ウ 著名性、周知性及び一審被告の先使用について 一審原告は、原告標章1、2、2−2がアーキュエットステッチと称され、その継続的な使用、雑誌広告、テレビコマーシャル等によって需要者の間に一審原告の商品等表示としての著名性、周知性を獲得している旨主張する。 しかしながら、一審原告の主張自体によっても明らかであるとおり、一審原告は、アーキュエットステッチと称するものであっても、様々な形状のステッチを使用してきており、その形状に統一性はなく、原告標章1、2、2−2が継続的に使用されていたということはできない。 また、原告ジーンズについての雑誌広告、テレビコマーシャル等は、特段バックポケットのステッチを際立たせたものではない。 さらに、一審原告がアーキュエットステッチと称する、並行する2本の弓形の曲線が結合した図形のバックポケットのステッチは、多くのジーンズメーカーが使用しており、一審原告が独占的に使用してきたものではない。この点につき、一審原告は、それらのジーンズメーカーに警告をし、また、そのようなステッチを使用したジーンズの売上高は一審原告の売上高と比べて明らかに少ない旨主張するが、一審原告の警告は、平成5年から平成7年までの短期間に行われたものにすぎず、かつ、その後においても、バックポケットに上記図形を付したジーンズが販売され続けている。加えて、一審被告は、「SOMETHING」ブランドの女性用ジーンズについてのみ昭和59年から被告標章1、2を使用したものであるところ、「SOMETHING」ブランドのジーンズは、同年以降、女性用ジーンズとしては第1位の売上高を挙げており、非常に高い知名度を有しているが、一審原告からは、本件訴えの提起に至るまで、被告標章1、2を使用することにつき何らの警告等もなかった。 なお、上記のとおり、女性用ジーンズについてのみ使用されてきた被告標章1、2に係る不正競争行為の主張との関係では、原告標章1、2の著名性又は周知性の有無を判断する基準である「需要者」は、女性としなければならないところ、一審原告の主張立証においては、この点が明らかではない。また、原告標章2−2が使用された原告ジーンズは、我が国においては平成11年に初めて販売されたものであり、それより前に販売されたことはない。 さらに、一審被告は、上記のとおり、「SOMETHING」とのブランド名で販売していた女性用ジーンズについて、昭和59年に、後述のとおり不正競争の目的なく、被告標章1、2の使用を開始し、同ブランドの女性用ジーンズについてのみその使用をしてきたものである。したがって、不正競争防止法11条1項4号又は3号により、昭和59年より前に原告標章1、2が著名性又は周知性を獲得していなければ、一審被告による被告標章1、2の使用を不正競争とすることはできないところ、一審原告の主張立証においては、この点が全く明らかではないから、一審被告の先使用により、そもそも同法2条1項2号又は1号の適用がない。 エ 類似性について 一審原告は、一審被告が原告ジーンズのすべての特徴的要素を網羅的に模倣するものであって、一審原告の企業ブランドが有する顧客吸引力にフリーライドしようとする不正の目的を有するものである旨主張する。 しかしながら、バックポケットのステッチについては、「SOMETHING」ブランドの女性用ジーンズに、女性のヒップラインを意識した曲線を取り入れ、かつ、「EDWIN」の「W」字をかたどって、2本の曲線の上部のみ結合し、下部は結合していない被告標章1、2を採用したものであり、また、被告標章3、4は、ニュービンテージシリーズのジーンズについて、そのコンセプトや当時の流行に合わせ、手縫いの乱暴さを表現するために、被告標章1、2を大胆に変形して用いたものである。いずれも原告ジーンズを模倣するような意図はなく、男性用ジーンズを対象とした原告標章1、2を、コンセプトの全く異なる女性用ジーンズについて模倣する必要もなかった。 また、我が国のジーンズ市場において、多くのメーカーが「501」や「505」を含む500番台の3桁の製品番号を積極的に使用してきたところであり、それを付したものが一審原告のジーンズとして需要者に認識されるということはなかったところ、一審被告は、ジーンズが古くから「5ポケット」と称されることを意識して、ジーンズの原点のスピリットを継承する意味合いの強かったフロンティアシリーズ、さらにはこれを受け継いだニュービンテージシリーズのジーンズに500番台の製品番号を用いたものである。 赤タブについては、ブランドを表示するためのジーンズの一般的な方法の一つとの認識の下に使用を開始したものにすぎず、これを「模倣」とすることは、織ネームのようなものを独占しようとする暴論である。 一審原告のハウスマークと一審被告のハウスマークとは、ブランド名を表す文字部分のみならず、図形部分においても類似しておらず、一審被告が、一審原告のハウスマークを模倣したとすることが誤りであることは明らかである。 「ビンテージ」との用語は、一審原告の古いジーンズに限って使用されるものではなく、また、一審被告のニュービンテージシリーズが、一審原告のビンテージ物を模倣したものでもない。同シリーズは、過去のジーンズの単なる復刻版ではなく、過去のジーンズの特徴である古いデニム生地(ムラ糸を使用し両脇に「耳」のついたセルビッチ生地)に最新技術を融合させたコンセプトよりなるものである。なお、「B」はボタン仕様、「Z」はジッパー仕様を意味し、「X」は「エクストラ」ということであって、ニュービンテージシリーズの基本的特徴のうちシルエットのみを「極太」から多少通常のストレートに近づけたもの、「XX」は更に通常のストレートのシルエットに近いものの製品番号に付加した記号であり、一審原告の古いジーンズは全く意識されていない。 テレビコマーシャルについては、一審被告は、その時々で人気の高い俳優を起用しているのであり、一審原告のテレビコマーシャルにおける俳優の起用とは関連がない。ただし、ジェームス・ディーンについては、同人が生前、米国Lee社の製造販売する「Lee」ブランドのジーンズの愛好者であったことから、その事実を強調する「Lee」ブランドの商品の広告に用いたものであり(一審被告は、Lee社とのライセンス契約に基づき「Lee」ブランドのジーンズの国内生産をしている。)、むしろ、同人が「Lee」ブランドのジーンズを着用して出演している映画のシーンを使用して、あたかも原告ジーンズを着用していたかのような誤解を視聴者に与えようとする一審原告のテレビコマーシャルにこそ問題がある。 以上のように、一審被告が原告ジーンズのすべての特徴的要素を網羅的に模倣し、不正の目的を有するから、類似性を緩和して考慮しなければならないとする一審原告の主張は全く理由がない。 そして、以下のとおり、原告標章1、2と被告標章1、2、3、4とは類似するものではない。 すなわち、原告標章1、2と被告標章1、2については、原告標章1、2が、バックポケットの左右両端からほぼすぐにそれぞれ2本の線が中央下方に向かって大きな角度でカーブするため、左右両端と中央下端部分との高低差が大きく、中央下端は下向きに尖った「V」字状となっており、また、中央部分で、左右両端からのそれぞれ2本の線が交差して、一審原告が「ダイヤモンドポイント」と称するひし形の図形及びその中央の横線が形成され、さらに、バックポケットの外周部の五角形を構成する2本の線によるステッチのうち、左右両辺を形成するそれぞれ縦方向のステッチは上記2本の線がいずれも平行でないのに対し、被告標章1、2は、ポケットの左右両端から中央に向かうそれぞれ2本の線の間隔が原告標章1、2より狭く、この2本の線がほぼ水平に進んでから中央付近でなだらかに下がるため、左右両端と中央下端部分との高低差が非常に小さく、また、中央部分は、2本の曲線の上部のみ結合し、下部は結合せずに、「EDWIN」の「W」字を形成するようにしたことにより、中央下端は上側に凹み、ひし形の図形やその中央の横線は形成されておらず、さらに、バックポケットの外周部の五角形を構成する2本の線によるステッチはほぼ平行である。 原告標章1、2と被告標章3、4については、原判決が指摘する被告標章3、4は2本の曲線が平行ではないこと、被告標章3、4は左右のアーチが線対称でないこと、原告標章1、2はほぼ下向きの曲線で構成されているのに対し、被告標章3、4は弓形曲線で構成されているという差異点のほかに、原告標章1、2は、中央部分で、左右両端からのそれぞれ2本の線が交差して、一審原告が「ダイヤモンドポイント」と称するひし形の図形及びその中央の横線が形成されているのに対し、被告標章3、4は、中央部分で、左右両端からのそれぞれ2本の線のうち、下部の線同士は結合しておらず、先端に上向きの三角形がデザインされ、ひし形の図形やその中央の横線は形成されておらず、また、バックポケットの外周部の五角形を構成する2本の線によるステッチの形状も原告標章1、2と大きく異なるという差異点を有し、さらに、一審被告が被告標章3、4を付して現実に販売するジーンズ(SOMETHING505)のバックポケットには、その中央部に2本又は1本の濃紺の横線によるステッチが縫い込まれており、洗濯後はこの横線が明確に浮き出て(店頭で実際に販売される商品の大半は洗濯をしてから納品され、この横線が浮き出ている。)、原告標章1、2との印象は更に異なるものとなる。 なお、原告は、原告標章1、2と被告標章3、4に差異が認められるとしても、離隔的観察においては類似性が認められるとも主張するが、上記各差異点は、離隔的観察を行う場合においても重要な意味を有するものである。 原告標章2−2と被告標章3、4についても、原判決が、原告標章1、2と被告標章3、4について挙げた、被告標章3、4は2本の曲線が平行ではないこと、被告標章3、4は左右のアーチが線対称でないこと、原告標章1、2はほぼ下向きの曲線で構成されているのに対し、被告標章3、4は弓形曲線で構成されているという差異点が基本的に妥当するほかに、原告標章2−2は、中央部分で、左右両端からのそれぞれ2本の線が、上側及び下側の線同士で互いに交差しており、また、バックポケットの外周部の五角形を構成する2本の線によるステッチの形状が線対称ではないのに対し、被告標章3、4は、中央部分で、左右両端からのそれぞれ2本の線のうち、下部の線同士は結合しておらず、先端に上向きの三角形がデザインされ、また、バックポケットの外周部の五角形を構成する2本の線によるステッチの形状が線対称であるという差異点を有しており、さらに、上記のとおり、一審被告が被告標章3、4を付して現実に販売するジーンズのバックポケットには、その中央部に2本又は1本の濃紺の横線によるステッチが縫い込まれ、原告標章1、2との印象は更に異なるものとなる。 オ 混同について 上記のとおり、ジーンズのバックポケットのステッチは、商品の出所表示機能を有するものではないから、ステッチの形状によって、商品の出所を混同するようなことはあり得ない。 通常、販売店におけるジーンズの売場は、各メーカー別に明確に分けられ、それぞれ看板等により、商品の出所を明らかにして販売されている上、購入者がジーンズを手にとっても、バックポケット部分のステッチは紙ラベルで隠れているので確認できず、購入者は、パッチや紙ラベルによって、商品の種類や出所等を確認し、さらに、必ず、自己の体型に合うかどうかを試着して、デザイン、素材、色の好み、価格、出所等を吟味してから購入するものであるから、購入時において、商品の出所を混同することはない。 原告は、ジーンズを着用したときにおける類似等について主張し、購入後の出所の混同を問題とするが、そのような混同は、不正競争防止法2条1項1号所定の「混同」には含まれていない。 (2) 争点2(原告標章3、4に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告標章3、4との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。 (一審原告の主張) ア 原告標章3、4の商品等表示性、著名性、周知性について 原告標章3は1890年から、原告標章4は1960年から原告ジーンズの商品名として使用されており、これらは単に製品番号にとどまるものではなく、一審原告の商品等表示として著名性、周知性を獲得している。 すなわち、商品の品質等と直接関係のない「501」等の数字をそのまま商品名としたことは前例のない画期的なことであり、独創性の高いものであったところ、一審原告は、原告ジーンズであることを商品名から容易に判断できるよう、「501」から始まる500番台の3桁の数字を1世紀以上にわたって原告ジーンズの商品名として採用し続け、その結果、このような500番台の3桁の数字が付されたジーンズは一審原告の製造販売に係るものであることが世界中の需要者に知れわたっている。そして、原告標章3が付されたジーンズ及び原告標章4が付されたジーンズは、いずれも一審原告の主力商品であって、我が国においても販売され、かつ、一審原告の多大な宣伝広告によって、原告標章3は昭和47年ころまでに、原告標章4は昭和55年ころまでには、我が国における一般需要者の間で著名又は周知となったものである。 原判決は、「505」との数字から構成される原告標章4について、特定の商品又は出所を示すものとして継続的な宣伝広告をした等の事実を認めることができないから、原告商標4は一審原告の商品又は営業を示す機能を有さないとして、その商品等表示性を否定したが、原告標章4を付した原告ジーンズについても継続的な宣伝広告がされており、また、上記のように、一審原告が「501」から始まる500番台の3桁の数字を1世紀以上にわたって原告ジーンズの商品名として採用し続けたことにより、「501」以降の一連の数字は、一審原告のシリーズ又はファミリーを構成する商品群を示すものとして著名又は周知となっているから、原判決の上記判断は誤りである。 なお、原告標章3は、数字の組合わせであるにもかかわらず、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に関わる商品であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)に該当すると判断され、商標登録(原告商標3)されている。 イ 類似性について 原告標章3と被告標章5とは、外観において、それぞれ3桁からなる数字のうち上2桁が同一であり、観念においては、それぞれ500番台の数字の1番目と5番目と観念され、500番台という大きな桁の部分が一致する以上、近接する数字として類似するものであり、また、称呼においても、原告標章3は「ゴーマルイチ」と称呼されるのに対し、被告標章5はテレビコマーシャルで「ゴーマルゴ」と称されていて、各音節のうちほぼ三分の二が共通するから、原告標章3と被告標章5とは、外観、観念及び称呼において類似し、互いに類似する標章である。 原判決は、特定の数字を特定人の独占的使用に委ねることに弊害があるから、数字で構成される標章につき特別な識別力が生じたとしても、その独占的使用を許すべき範囲は厳格に解すべきであるとして、原告標章3と被告標章5とが類似しないと判断したが、誤りである。 すなわち、「505」というような3桁の数字は、ジーンズの品質、機能等とは何ら関係がなく、ジーンズの名称を3桁の数字に限定する必然性も慣行も存在しないから、ジーンズの新たな商品に対して選択できる名称はいくらでもあるといえるし、また、原告標章3のような数字で構成される標章が、ロット番号としての数字の使用を排除するものでもない。したがって、505という数字が使えなくなることによる弊害は実際には想定し得ないものである。のみならず、一審原告は、本訴においては、被告標章5の使用の差止めを求めているのみであって、一審被告が主張するように3桁の数字全部の使用を問題とするものではない。一審被告は、我が国では、各ジーンズメーカーにおいて、ジーンズの製品番号として数字、特に500番台の3桁の数字を用いる例が多いとも主張するが、500番台の3桁の数字を標章として使用しているのは主に一審被告であり、我が国のジーンズ業界全体として、このような標章を使用する必要性があるものではない。 原告標章4と被告標章5とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一である。 ウ 混同について 一審被告は、被告製品の商品等表示として被告標章5を使用した「エドウィン505」、「505チノーズ」、「サムシング505」、「フィオルッチ505」、「リー505.B」、「リー505.Z」の各商品を製造販売している(以下、これらの商品を「被告505商品」という。)。 被告標章5が被告505商品に使用されることによって、需要者は、被告505商品について、その出所が一審原告であるかのように、あるいは少なくとも一審原告と資本関係又は提携関係を有する者であるかのように誤認するおそれは極めて高く、したがって、一審被告による被告標章5の使用は、原告標章3、4にフリーライドするものであり、原告標章3、4に対するダイリューションであって、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行為」に当たることが明らかである。 なお、一審被告は、被告標章5に係る数字「505」の上1桁が「5ポケット」に由来し、下2桁が極太のシルエットを表す製品番号であると主張するが、製品番号の上1桁にポケットの数とは無関係の「4」や「7」が用いられている商品もあること、シルエットの太さを製造番号に付加した「X」、「XX」等の記号で表すことは、一審被告の自認するところであり、被告標章5の数字の根拠についての上記主張は信用することができない。 また、一審被告は、被告標章5が、一審被告内部の製品番号基準に従って付した製品番号であり、商品等表示ではないとも主張するが、単に商品管理上の必要性のみに基づく使用であれば、対内的な商品管理面でのみ使用すれば足りるにもかかわらず、一審被告は、被告標章5を被告製品自体に付しているだけでなく、カタログにも大きく「505」と表示しているし、雑誌の宣伝広告にも「505」と表記している。このような被告の使用態様に照らし、一審被告の被告標章5が自他商品の識別機能を果たすための商品等表示として使用されていることは明白である。 (一審被告の主張) ア 原告標章3、4の商品等表示性、著名性、周知性について 原告標章3、4は、商品識別機能を有せず、著名又は周知な商品等表示とはいえない。 すなわち、原告標章3、4は、製品番号に由来する3桁の数字を構成要素とするものであるところ、このような単なる数字の羅列は、極めて簡単、かつ、ありふれた標章にすぎず、識別力がないので、商品等表示に該当しない。また、単なる数字を特定人の独占的使用に委ねることは、公益上、弊害が生ずることも明らかである。 一審原告は、「501」の表示を、原告ジーンズに付した表示においても、広告においても、「LEVI'S 501」のように「LEVI'S」という表示とともに用いていて、「501」の表示のみを単独で用いておらず、また、「505」の表示については、一審原告独自の広告宣伝活動は一切行っていない。これらのことからも、一審原告が「501」、「505」という表示を単なる製品番号として使用し、商品名として扱っておらず、原告標章3、4が商品等表示性を有していないことは明らかである。 なお、一審原告は、原告標章4の著名性又は周知性に関して、一審原告が「501」から始まる500番台の3桁の数字を1世紀以上にわたって原告ジーンズの商品名として採用し続けたことにより、「501」以降の一連の数字は、一審原告のシリーズ又はファミリーを構成する商品群を示すものとして著名又は周知となっている旨主張するが、我が国では、各ジーンズメーカーにおいて、ジーンズの製品番号として数字、特に500番台の3桁の数字を用いる例が多く、「501」、「505」の数字が付されたジーンズも、他社から販売されていて、一審原告がこれらの表示を独占的に使用していたわけではないのみならず、一審原告による500番台の3桁の数字の用い方には、それ自体に、あるいは、例えば、600番台の3桁の数字を用いる例と比較して、統一的、一体的な基準は見いだせないので、「501」以降の500番台の3桁の数字が、一審原告の特定のシリーズを構成する商品群であるとは認識できず、また、500番台の3桁の数字が付された原告ジーンズを、一審原告の「50」シリーズ等として紹介している例もないから、上記主張は失当である。 一審原告は、原告標章3について商標法3条2項に該当するものとして商標登録されたとも主張するが、同商標登録は根拠を欠くものであり、また、原告標章4について「505」の標章のみからなる商標登録出願は行われていない。 イ 類似性について 原判決が指摘するとおり、商取引において、特定の数字を特定人の独占的使用に委ねることに弊害があることは容易に推測することができ、公益上妥当ではない。 一審原告は、そのような弊害は実際には想定し得ないと主張するが、ほぼ無限にある文字の組み合わせ等と違い、3桁の数字であれば、わずか1000種類しかないから、数字の独占の弊害は明らかというべきである。さらに、上記のとおり、我が国では、ジーンズの製品番号として3桁の数字を用いる例が多いから、その弊害はジーンズ業界において顕著である。 したがって、仮に、原告標章3につき、一審原告の商品等表示として周知であると認められたとしても、その類似の範囲は、同一標章又はこれと同視し得べき標章の範囲に限定して解釈すべきである。 そうとすれば、原告標章3と被告標章5とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似しないので、両標章は非類似である。 ウ 混同について ジーンズの購入者が、購入時において、商品の出所を混同するようなことがあり得ないことは、上記のとおりである。 また、被告505商品は原告商標4が付された原告ジーンズと全く異なる特徴を有する商品である。すなわち、被告製品における製品番号は、昭和62年にライセンス契約を締結した米国Lee社の3桁の数字からなる製品番号を意識して、一審被告独自に設定したものであって、3桁の数字のうち上1桁をインターナショナルベーシック(4)、ソフトジーンズ(7)等の商品コンセプトに合わせ、下2桁で、ブーツカット(01)、細身のストレート(02)、普通のストレート(03)、ゆったりストレート(04)、極太ストレート(05)等のシルエットを表すものであるところ、一審被告は、平成5年に、古い時代のデニム生地を使用した点に特徴を有するフロンティアシリーズの製品番号の上1桁として、ジーンズが古くから「5ポケット」と称されていることを意識して「5」を採用し、製品番号「502」、「503」、「504」の各ジーンズを発売し、さらに、フロンティアシリーズの流れを受け継いだニュービンテージシリーズとして、平成6年に「EDWIN505B」、「EDWIN505Z」を発売したものである。したがって、これらの被告505商品は、股上が深く極太のルーズ感のあるシルエットを有するジーンズであるのに対し、原告商標4が付された原告ジーンズは従来の一般的なものであり、股上が浅くタイトなシルエットを有するジーンズである。そして、被告505商品は大ヒット商品となった。このことからしても、需要者が被告505商品を一審原告又はこれと関係のある者の商品であるかのように誤認混同するおそれはない。 なお、被告ジーンズに付された被告標章5は、一審被告が内部の製品番号基準に従って付した製品番号であり、商品等表示ではない。 (3) 争点3(原告標章5に基づく被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10の使用行為が、原告標章5との関係で不正競争防止法2条1項2号又は同項1号に当たるか。 (一審原告の主張) ア 原告標章5の商品等表示性、著名性、周知性について 原告標章5は、いずれもジーンズのバックポケットの横側上部に縫い付けられて立体的に表された赤又はオレンジ色の布(タブ)であり、総称して「赤タブ(レッドタブ)」と呼ばれることが多い。 原告標章5−1は原告ジーンズの10%に付され、遅くとも1972年から使用されている。原告標章5−2は1971年以前に製造された原告のジーンズのほぼすべてに、原告標章5−4は同年以降に製造された原告のジーンズのほぼすべてにそれぞれ付されている。原告標章5−3は1960年代から原告のジーンズに付されている。 我が国においては、戦後、原告ジーンズが輸入されるようになった時点において、原告ジーンズに原告標章5−2が付されていたから、原告標章5−2は昭和35年ころには著名性又は周知性を獲得したものであり、原告標章5−1、5−3及び5−4は、いずれも昭和45年ころには著名性又は周知性を獲得したものである。 原判決は、原告標章5の赤色ないしオレンジ色のタブの色彩が、その色彩上の特徴の故に、原告の商品等表示として著名ないし周知であるということはできない旨判断し、また、一審被告は、原告標章5について、赤い長方形の布やオレンジ色の布に刺繍されているという点は、いずれも識別力を有しないと主張する。 しかしながら、赤タブは、元来、一審原告が原告ジーンズを類似品から区別するために考案して1936年に使用を開始し、以後、一貫して使用し続けた上、それが原告ジーンズを識別する指標であることを、特にその赤色の色彩を強調して繰り返し宣伝広告してきたものである。また、現在では、一審原告は、赤タブを一審原告のブランドのいわば象徴としてマーケティングの基本に据え、これを中心とした宣伝広告をしている。さらに、このような一審原告自身の宣伝広告のほか、雑誌等において原告ジーンズを扱う際には、原告ジーンズの特徴の一つとして赤タブが拡大され、詳しく紹介されているのであって、そのような雑誌等を目にする需要者は、当然に原告標章5の色彩も原告ジーンズを表すものと認識する。「赤タブ(レッドタブ)」との通称が原告標章5を表すものとして一般に通用していること自体、原告標章5の赤色ないしオレンジ色のタブの色彩が商品等表示の機能を果たしていることを示している。したがって、上記の原判決の判断及び一審被告の主張は誤りである。 なお、一審被告は、我が国にジーンズが登場した当初から現在に至るまで赤タブが一般に用いられていた旨主張するが、我が国にジーンズが登場した当初は、国産ジーンズメーカーが存在しておらず、赤タブは一審原告のみが使用していたのであり、その後、昭和35年ころから、国産メーカーがジーンズを販売するようになったが、それらのメーカーは、原告ジーンズの特徴的部分を模倣することによって発展したものである。国産メーカーがバックポケットの横の部分に縫い付けられた赤タブを使用していたとすれば、原告ジーンズの特徴的部分を模倣したからにほかならず、当時、一審原告は日本支店を有しておらず、原告ジーンズの我が国における流通は輸入代理店を中心とする形態であったために、これに対して一審原告が法的措置を執ることが困難であったとはいえ、取引者、需要者は原告ジーンズの模倣であることを認識できたはずであるから、原告標章5が著名性又は周知性を獲得することの妨げとはならない。 イ 類似性について 一審被告が、原告ジーンズのバックポケットのアーキュエットステッチや赤タブを始めとして、原告ジーンズのすべての特徴的要素を網羅的に模倣するものであり、一審原告の企業ブランドが有する顧客吸引力にフリーライドしようとする不正の目的を有するものであることは上記のとおりである。特に、タブは、ジーンズの機能とは全く関係しないものであるのに、色彩のみならず、部位、サイズ、縦横の比率、付け方に至るまで原告ジーンズを模倣した一審被告の行為について、不正の目的を否定することはできない。そして、不正競争防止法における商品等表示の類似性の判断において、このような不正の目的が認められる場合には、類似性を緩和して考慮しなければならないことも上記のとおりであり、その点を考慮すれば、原告標章5と被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10とは、以下のとおり、類似するものである。 すなわち、この場合の類似性判断において、原告標章5につき重要な部分は、バックポケットの横側上部に立体的に付された赤色又はオレンジ色の長方形の布片であって、何らかの文字又はRの記号が記載されているものという点であり、その記載の内容は重視すべきではない。原判決は、赤色又はオレンジ色のタブの色彩は原告標章5の特徴部分ではなく、原告標章5−2、5−3、5−4の「LEVI'S」又は「Levi's」との記載部分が要部であり、このような一審原告の通称の記載がない原告標章5−1は原告の商品等表示に当たらないとするが、タブは比較的小さな布であって、「LEVI'S」等の記載部分は、店頭において、あるいは着用状態にあるものにあって、通常の目線の高さからの観察ではほとんど読み取ることができず、この場合に、需要者の印象に残るのは、タブの形状、色彩及び取付位置のみであり、逆に、それらによって出所表示機能を持つように工夫されたものがタブなのである。原判決は、上記のような取引の実際を看過してタブの色彩の有する効力を過小に評価したものであって、原告標章5の赤色又はオレンジ色の色彩がその重要部分であることは明らかである。 そして、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10はジーンズの、バックポケットの横側上部に立体的に付された赤色又はオレンジ色の長方形の布片であって、何らかの文字が記載されているものということができ、さらに、上記の一審被告の不正の目的を併せ考えれば、原告標章5と類似するものというべきである。 ウ 混同について 原告標章5と被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10との類似性にかんがみれば、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10が被告ジーンズに使用されることによって、需要者は、被告ジーンズについて、その出所が一審原告であるかのように、あるいは少なくとも一審原告と資本関係又は提携関係を有する者であるかのように誤認するおそれは極めて高く、したがって、一審被告による被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10の使用は、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品・・・と混同を生じさせる行為」に当たることが明らかである。 (一審被告の主張) ア 原告標章5の商品等表示性、著名性、周知性について 原告標章5−1は、単に赤色の布にRの文字が刺繍されているにすぎない標章であって、このような単純な標章は商品識別力がなく、商品等表示になり得ない。また、原告標章5−2、5−3、5−4においては、布上に刺繍された「LEVI'S」又は「Levi's」という標章部分の識別力が非常に強いため、赤い長方形の布やオレンジ色の布に刺繍されているという点は、いずれも識別力を有しない部分といえる。 ジーンズのバックポケットの横の部分に縫い付けられた赤又はオレンジ色の長方形の布(タブ)は、我が国にジーンズが登場した当初から現在に至るまで一般に用いられていたのであり、原告ジーンズに限られたものではない。すなわち、国産第一号のジーンズとして有名となったCANTONのバックポケットには赤タブが付けられていたし、昭和40年発売のビッグジョンの第一号ジーンズにも赤タブが付けられていた。また、一審被告も、昭和39年から現在まで、「EDWIN」という文字が付された赤色のタブを使用しているが、その間、タブの色の種類を増やしたほかは、長方形の形状を変更していない。 仮に、原告ジーンズを模倣して赤タブの使用を行った日本のメーカーがあるとしても、市場において長期にわたり赤タブが多数のメーカーのジーンズに使用されてきたという客観的な事実が存在する以上、消費者にとって赤タブにより当該商品の出所を識別することは不可能であり、赤タブが特定の出所を表示するものとして機能していないということができる。 この点につき、一審原告は、原告ジーンズの我が国における流通は輸入代理店を中心とする形態であったために、原告ジーンズの模倣に対して一審原告が法的措置を執ることが困難であったと主張するが、それは一審原告の内部事情にすぎないのみならず、実際には、日本支店がなくとも、代理店や弁護士を通じて警告活動をすることは十分可能であったのであり、一審原告は、それをしなかったにすぎない。 なお、一審原告自身も、少なくとも10種類以上に及ぶ様々な色のタブを使用しており、赤タブだけに特別な商品識別力を見いだす根拠はない。 イ 類似性について 上記のとおり、原告標章5−1は商品等表示になり得ない。また、原告標章5−2、5−3、5−4においては、赤い長方形の布やオレンジ色の布という点はいずれも格別の識別力がなく、「LEVI'S」又は「Levi's」という文字部分に特徴があって、その部分が要部といえる。他方、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10の要部は「SOMETHING」又は「EDWIN」との文字部分である。 そして、原告標章5−2、5−3、5−4と、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10とを対比すると、両者は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似しない。 〔商標権に基づく請求について〕 (4) 争点4(原告商標権1、1−2、2に基づく被告標章1、2、3、4に係る請求) 一審被告による被告標章1、2、3、4の使用行為が、原告商標権1、2の侵害行為に、また、被告標章3、4の使用行為が、原告商標権1−2の侵害行為にそれぞれ当たるか。 (一審原告の主張) ア 商標的使用について 一審被告は、被告標章1、2、3、4を商標として使用している。 一審被告は、被告標章1、2、3、4を装飾的に用いているので、商標的な使用に当たらないと主張するが、一審原告、一審被告を含めたジーンズメーカーは、バックポケットのステッチをジーンズの自他識別機能を有するものとして重視し、ステッチを強調する宣伝広告をしていること、被告自身がバックポケット上のステッチ(被告標章1、2、3、4とは別のもの)について登録商標を得ていることから、一審被告が被告標章1、2、3、4を商標として使用していることは明らかである。 一審被告は、需要者がジーンズを購入する際には、パッチ及び紙ラベルにより出所を識別するとも主張するが、商品に付された出所識別機能を果たす特徴が一つだけであるとは限らないのであるから、パッチ及び紙ラベルが出所識別機能を有するからといって、被告標章1、2、3、4が商標として使用されていないことにはならない。 イ 類似性について 原告商標1、2と被告標章1、2、3、4は類似する。また、原告商標1−2と被告標章3、4は類似する。 原判決は、原告商標1と被告標章3、4との類似性を否定したが、誤りである。すなわち、両者を離隔的、全体的に観察した場合に、出所表示機能の観点から意味のある差異点は、弧の曲率と線対称ではないという外観のみであるところ、これらの差異点は、原告商標1に「ハンドソーイングの風合い」の変形を加えたにすぎないものであり、需要者が被告標章3、4を観察した際に、それからハンドソーイングの風合いを取り除いた原告商標1の印象が容易に得られるのである。したがって、両者は、同一の出所を表示するものと認識されるのであり、類似の商標といえる。 また、原告商標1−2は、左右のアーチが端部から中央部へ向かって一端上方に進んだ後、下方に進むという弓形曲線で構成されており、その点で被告標章3、4と共通するものであって、これと被告標章3、4とを対比した場合には、更に類似することが明りょうである。 (一審被告の主張) ア 当審における訴えの変更を許さない旨の決定の申立て 一審原告は、当審において、一審被告の被告標章3、4を付した商品の販売行為は原告商標権1−2を侵害するとして、商標法36条により、上記販売行為の差止め等を求める請求を追加する旨の訴えの変更をした。 しかしながら、原告商標1−2は、原告商標1とステッチの形状の差異が著しいから、上記訴えの変更に係る請求は、被告標章3、4を付した被告ジーンズの販売行為が原告商標権1を侵害するとして、その行為の差止め等を求める従来の請求と、請求の基礎を異にするものである。 また、原告商標1−2は、原告商標1と連合商標として登録されたものであり、平成8年法律第68号による改正前の商標法の下においては、原告商標1の商標的使用が認められれば、原告商標1−2は、使用していなくとも、不使用による取消しを免れていたものであるところ、そのような関係にある原告商標1−2に基づき、一審原告が、原判決において原告商標1との類似性が認められなかった被告標章3、4の使用行為の差止め等を求めることに対しては、それが連合商標制度の弊害を顕在化させるものであって、権利の濫用に当たること等の審理のため、著しく訴訟手続を遅滞させることになる。 したがって、上記訴えの変更は許されるべきではない。 イ 商標的使用について 一審被告は、被告標章1、2、3、4を、バックポケットのステッチとして、装飾的に使用しているのであって、商品の識別標識として使用しているわけではない。このような装飾的使用は、商標としての使用に該当せず、商標権侵害行為を構成しない。 この点につき、原判決は、一審原告、一審被告を含めたジーンズメーカーは、バックポケットのステッチをジーンズの自他識別機能を有するものとして重視し、ステッチが目立つような宣伝広告方法を工夫していること、一審被告がポケットのステッチによる標章につき登録商標を有していることを挙げて、一審被告による被告標章1、2、3、4の使用を商標としての使用である旨認定するが、一審原告、一審被告とも、特にバックポケットのステッチを強調するような宣伝広告をしているものではなく、とりわけ、女性誌においてはそうである。また、ポケットのステッチと同様の図形標章につき登録商標を有していることから、実際に女性用ジーンズのポケットに付したステッチを商標的使用であると判断することには飛躍がある。 需要者がジーンズを購入する際には、ステッチよりもパッチ及び紙ラベルの方がはるかに目立つ態様で使用されているのであり、需要者は、これらや価格及びサイズ表示とともにブランド名が表示されているカードの各記載、さらには、ブランドごとに分けられてジーンズが陳列されている売場の場所等の全体から、ジーンズのブランド(出所)を判断するものであり、バックポケットのステッチを部分的に見ることによってその判断をするものではない。少なくとも、被告標章1、2、3、4が付された「SOMETHING」ブランド名の女性用ジーンズについては、ステッチが商品の出所識別機能を果たしていないこと、すなわち、商標として用いられていないことは明らかである。このような取引の実情に照らせば、原告商標1、2と被告標章1、2、3、4のみを部分的に取り上げ、比較すること自体が誤りである。 ウ 類似性について 原告商標1、2と被告標章1、2、3、4、原告商標1−2と被告標章3、4はいずれも類似するものではない。 原告商標1は2本の線からなる単純な図形から、原告商標2はありふれたポケットの形状の図形からそれぞれなるものであって、ともに、特定の称呼や観念を生ずるものではない。これに対し、被告標章1には「SOMETHING」との記載のあるタブが付されており、この部分を要部と見るべきであって、「サムシング」との称呼が生ずるものである。また、被告標章1、2のポケット内部のステッチの形状は、原告商標1の形状及び原告商標2のポケット内部のステッチの形状と著しい差異がある。したがって、原告商標1、2と被告標章1、2とは類似するものではない。 さらに、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推認させる一応の基準にすぎず、したがって、上記三点のうちに類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきであるところ、上記の取引の実情や、「EDWIN」、「SOMETHING」の各ブランド名の著名性等を考慮すれば、商品の出所を誤認混同するおそれは一切ないということができ、この点からも、原告商標1、2と被告標章1、2との類似性は否定されるべきである。 (5) 争点5(原告商標権3に基づく被告標章5に係る請求) 一審被告による被告標章5の使用行為が、原告商標権3の侵害行為に当たるか。 (一審原告の主張) 原告商標3と被告標章5は類似する。 原告商標3は「501」との数字を横書きしてなるものであり、被告標章5は「505」との数字を横書きしてなるものである。 両者は、構成数字の三分の二が同一であり、かつ、残りの「1」と「5」はともに数字である点で共通するのみならず、両者ともに3桁の数字としてとらえられ、共通する大きい桁の数字が看者の注意を惹くことを併せ考えれば、外観上、類似するということができる。 また、原告商標3は500番台の1番目の数字との観念を、被告標章5は500番台の5番目の数字との観念をそれぞれ生ずるところ、これだけ近接する数字であれば、需要者は両者の間に何らかの関係があると考えるのが通常であるから、両者は、観念上、類似するということができる。 さらに、原告商標3は「ゴーマルイチ」との称呼を、被告標章5は「ゴーマルゴ」との称呼をそれぞれ生じ、両称呼は冒頭の「ゴーマル」の部分が同一であるところ、長音を含む部分は強い印象を残すのみならず、呼称の冒頭の部分が類似する場合には、末尾の部分の差異により、全体として決定的な違いを伴って聴取されない以上、両称呼は類似するというべきであるから、原告商標3と被告標章5とは、称呼上、類似するというべきである。 したがって、原告商標3と被告標章5は、外観、観念及び称呼のいずれにおいても類似するものであり、全体として類似するものである。 (一審被告の主張) 原告商標3と被告標章5とは類似するものではない。 (6) 争点6(原告商標権4に基づく被告標章6、7、10に係る請求) 一審被告による被告標章6、7、10の使用行為が、原告商標権4の侵害行為に当たるか。 (一審原告の主張) 原告商標4と被告標章6、7、10は類似する。 原告商標4は、指定商品のジーンズに対して対照的な鮮やかな赤色をしており、かつ、被服の外側に縫い付けられた状態という特殊な外観を有するものであって、内部の文字部分が社名という本来的に識別力の高いものであったとしても、離隔的観察においては、文字部分はほとんど印象に残らないから、文字部分以外の要素の有する上記特徴を要部として理解し、外観的要素を中心に類似性の判断をすべきである。 そうとすれば、原告商標4と被告標章6、7、10とは、外観において、内部の白抜きの文字が異なるだけであって、他の特徴はほぼ同一であるから、類似するものというべきである。 (一審被告の主張) 原告商標4と被告標章6、7、10は類似するものではない。 一審原告は、原告商標4につき、指定商品のジーンズに対して対照的な鮮やかな赤色をしており、かつ、被服の外側に縫い付けられた状態という特殊な外観を有する旨主張するが、原告商標権4の指定商品は「被服、布製身回品、寝具類」であって、ジーンズに限られるものではない。また、原告商標4は立体商標ではないから、被服の外側に縫い付けられた状態という外観を有するとの主張も誤りである。 また、原告商標4が文字部分以外の要素の有する特徴を要部とする旨の一審原告の主張は根拠がないが、仮に、文字部分を除いた外観で比較したとしても、原告商標4は赤色の長方形部分を、黒色網目の入った四角形が大きく取り囲んでおり、被告標章6、7、10と明確に相違することは明らかである。 〔不正競争防止法及び商標権に基づく請求について〕 (7) 争点7(権利濫用) 一審原告の原告標章1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点1)及び原告商標権1、2に基づく被告標章1、2に係る請求(争点4)が、権利の濫用に当たるか。 (一審被告の主張) 上記のとおり、一審被告は、不正競争の目的なく、「SOMETHING」ブランドの女性用ジーンズについて昭和59年から被告標章1、2を使用したものであり、女性誌、テレビ等において「SOMETHING」ブランドのジーンズの広告宣伝活動を積極的に行ってきた結果、「SOMETHING」ブランドのジーンズに対する需要者の認知度は極めて高くなり、同年以降、女性用ジーンズとしては第1位の売上高を挙げていた。 このような状況は、一審原告においても十分に認識していたにもかかわらず、一審原告は、平成8年6月21日に初めて被告標章1、2についての警告状を一審被告に送付し、その直後の同年7月8日に、原告標章1、2及び原告商標権1、2に基づき被告標章1、2の使用差止めを求める請求を含む本件訴えを提起したものである。 しかしながら、一審原告が、12年以上の長期にわたって一審被告による被告標章1、2の使用に何らの異議も唱えなかったのに、市場において同標章の認知が非常に高まっている状況を無視して、突然本件訴えを提起したことにかんがみれば、仮に、被告標章1、2の使用差止めを求める一審原告の権利が存在したとしても、その権利行使を認めることは、長期間の事実状態等への一審被告の正当な信頼を損なうものであるのみならず、市場に混乱をもたらすものであるから、一審原告の上記請求は権利の濫用として許されないものと解すべきである。 (一審原告の主張) 一審被告の権利濫用の主張は時機に後れてされたものであるから、その却下の申立てをする。 仮に時機に後れてされたものでないとしても、一審原告は類似した商品を製造販売する会社に対して警告等の措置を継続して行っていたものであり、一審被告による被告標章1、2の使用も容認してきたものではない。一審原告が被告標章1、2の使用を明示的に許諾した等の事実があるのならともかく、単に時間的間隔が空いたことを理由として、正当な知的財産権の行使を権利の濫用とすべきものではない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告標章1、2、2−2に基づく被告標章1、2、3、4に係る請求)について (1) 訴えの変更の許否について 一審原告が当審においてした、原告標章2−2を一審原告の商品等表示として、不正競争防止法2条1項2号又は1号及び3条により、被告標章3、4を付した被服の販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求を追加する訴えの変更に対し、一審被告は、原告標章2−2が、従来の請求(原告標章1、2に基づく被告標章3、4に係る請求)に係る原告標章1、2とステッチの形状の差異が著しいから、請求の基礎を変更するものであり、かつ、原告標章2−2の商品等表示性、著名性又は周知性、類似性、混同の有無等の審理のため、著しく訴訟手続を遅滞させることになるとして、訴えの変更が許されるべきではない旨主張する。 しかしながら、原告標章2−2は、原告標章1、2と形状が異なるから、商品等表示性、著名性又は周知性、類似性、混同の有無等を基礎付ける事実関係が原告標章1、2の場合と全く同一といえないことは明らかであるものの、原告標章2−2は、原告標章1、2と同様、原告ジーンズのバックポケットのステッチとして使用されているものであり、その形状も、原告標章1、2と共通性を有しているから、上記事実関係を共通にする部分も少なくないと認められるほか、追加された請求において販売行為の差止め及び廃棄を求める対象が被告標章3、4を付した被服であることは、上記従来の請求の場合と変わりがないから、追加された請求は、上記従来の請求と、密接に関連する社会的関係に起因するものであり、訴訟資料の多くを共通にするものとして、請求の基礎に変更がないものと認めるのが相当である。 また、上記の事情のほか、訴えの変更がされた時期等にかんがみれば、訴えの変更により著しく訴訟手続を遅滞させるということもできない。 したがって、上記訴えの変更は許すべきものである。 (2) 商品等表示性、著名性、周知性及び一審被告の先使用について ア 昭和50年発行の「メンズモード事典」(甲第37号証、以下、枝番のある書証は枝番を含む。)、昭和51年発行の「メンズクラブ」11月号(甲第216号証)及び昭和57年発行の「ホットドッグプレス」4月10日号(甲46号証)には、それぞれ、ジーンズのバックポケットのステッチの形状がメーカーによって異なることを前提とする趣旨において、10社ないし十数社のメーカーの代表的なバックポケットのステッチを比較し得るように並べて表記した記事が掲載されている。このことに照らせば、遅くとも昭和59年までには、上記10社ないし十数社のメーカーのバックポケットのステッチの形状が全部周知となっていたかどうかはともかく、少なくとも、ジーンズのバックポケットのステッチの形状がメーカーによって異なること、したがって、その形状によってジーンズの出所を識別し得ること自体は、需要者に広く知られていたものと認めることができる。なお、上記のような各メーカーのバックポケットのステッチの形状を紹介した雑誌記事のほか、後記認定に係るものを含む一審原告のカタログ、雑誌広告等(後掲以外のものとして、甲第34号証等)や、一審被告の雑誌広告(乙第59号証、甲第218号証等)など、メーカー自身の宣伝広告において、自社製のジーンズに係るバックポケットのステッチの特定の形状を強調することも、ジーンズのバックポケットのステッチの形状がメーカーによって異なることが周知となることに寄与したものと推認することができる。 そして、このことに、昭和47年から昭和57年までの間の発行等に係る、以下に掲記する雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告若しくは原告ジーンズの紹介記事等又はテレビコマーシャル等において、継続して、原告ジーンズのバックポケットのステッチとして、原告標章1、2が強調されて表示されていることを併せ考えると、一審被告が被告標章1、2を被告ジーンズのバックポケット部分に付して採用を開始したことに争いのない昭和59年までには、原告標章1、2が原告の商品等表示として需要者に広く認識され、周知となっていたことが推認される。 昭和47年発行 「日本繊維新聞」5月31日号(甲第28号証) 「ストアーズレポート」7月号(甲第70号証) 昭和50年発行 「メンズクラブ」8月号(甲第192号証) 「メンズクラブ」9月号(甲第193号証) 「アン・アン」11月20日号(甲第35号証) 「メンズカタログ」12月号(甲第36号証) 「男子専科メンズモード事典」、甲37号証) 昭和51年発行 「メンズクラブ」3月号(甲第194号証) 「メンズクラブ」7月号(甲第47号証) 「メンズクラブ」11月号(甲第216号証) 昭和52年発行 「ジーンズの本」(甲第43号証) 昭和56年発行 同年5月20日株式会社草思社発行のエド・クレイ著「リーバイス ブルージーンズの伝説」(甲第157号証) 昭和57年発行 「ホットドッグプレス」4月10日号(甲第46号証) 「ウイズ」4月号(甲第48号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(甲第64号証) 「メンズクラブ」11月特別増刊号(甲第45号証) 昭和54年、昭和56年、昭和58年放送のテレビコマーシャル(甲第138号証) また、これに引き続いて、昭和60年以降においても、以下に掲記する雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告若しくは原告ジーンズの紹介記事等又はテレビコマーシャル等において、継続して、原告ジーンズのバックポケットのステッチとして、原告標章1、2が強調されて表示されているから、原告標章1、2は、現在においても、原告の商品等表示として需要者に広く知られ、周知の状態であるものと認められる。 昭和60年 「メンズクラブ」7月号(甲第81号証) 昭和61年 「リーバイスブック」(甲第127号証) 「リーバイスブック」2号(甲第128号証) 昭和62年 「メンズクラブ」1月号(甲第53号証) 「リーバイスブック」3号(甲第132号証) 「リーバイスブック」4号(甲第133号証) 昭和63年 「メンズクラブ」2月号(甲第54号証) 「メンズクラブ」3月号(甲第92号証) 「リーバイスブック」5号(甲第134号証) 平成元年 「ホットドッグプレス」7月25日号(甲第56号証) 「メンズノンノ」8月号(同) 「ファインボーイズ」8月号(同) 「ポパイ」8月16日号(甲第89号証) 「ホットドッグプレス」8月25日号(同) 「メンズノンノ」9月号(同) 「ファインボーイズ」9月号(同) 「チェックメイト」9月号(同) 「ブーン」11月号(甲第93号証) 平成2年 「メンズクラブ」8月号(甲第83号証) 「ホットドッグプレス」10月10日号(甲第91号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(同) 平成3年 「ノンノ」3月号(甲第313号証) 「メンズノンノ」10月号(甲第168号証) 「ホットドッグプレス」12月25日号(甲第57号証) 平成4年 「ポパイ」3月4日号(甲第110号証) 「チェックメイト」5月号(甲第103号証) 平成5年 「キャラウェイ」2月号(甲第164号) 「メンズノンノ」7月号(甲第67号証) 「メンズノンノ」8月号(同) 平成7年 「ブーン」3月号(甲第88号証) 「ブーンイクストラ」5月20日号(甲第160号証) 平成8年 「リーバイスブック」22号(甲第129号証) 昭和60年〜昭和63年、平成3年、平成5年、平成6年放送のテレビコマーシャル〔甲第138号証、なお、同号証に記載されたジーンズのバックポケット部分のステッチが撮影されている一審原告のテレビコマーシャルと、ビデオテープ(検乙第21号証)に録画された一審原告のテレビコマーシャルとは、1例(甲第138号証中、1993年(平成5年)の「American Love Affair <Traffic>」と題するものと、検乙第21号証中、1993年(平成5年)11月の「登る」と題するもの)のみが同一のテレビコマーシャルと認められるが、同テレビコマーシャルにおいて、バックポケット部分のステッチが強調されていることは、検乙第21号証によっても認めることができる。〕 これに対し、一審被告は、ジーンズのバックポケット部分のステッチの形状は、単にバックポケットのデザインとして使用されているのみであり、また、一般に、ジーンズを購入しようとする需要者は、パッチ、紙ラベル、売場の場所等の全体から、ジーンズのブランド(出所)を判断するものであり、バックポケットのステッチを部分的に見ることによってその判断をするものではないとして、原告標章1、2が商品の識別機能、出所表示機能を有するものではないと主張する。 しかしながら、上記のとおり、昭和59年までには、ジーンズのバックポケットのステッチの形状がメーカーによって異なるものであることが広く知られ、さらに、そのような各メーカーによるジーンズのバックポケットのステッチの形状のうち、少なくとも原告標章1、2については、それが一審原告の商品等表示として需要者に周知となっていたことが認められるから、一審被告の上記主張は採用することができない。なお、ジーンズのパッチや紙ラベル等によっても、そのジーンズのブランド(出所)を識別することが可能だとしても、そのことが、バックポケットのステッチの形状である原告標章1、2が、一審原告の商品等表示として、商品の出所表示機能を果たすことと相容れないものでないことは明らかである。 また、一審被告は、原告ジーンズについての雑誌広告、テレビコマーシャル等につき、特段バックポケットのステッチを際立たせたものではないと主張するが、上記認定に照らして、この主張は採用することができない。 さらに、一審被告は、一審原告が、様々な形状のステッチを使用しており、その形状に統一性がないから、原告標章1、2が継続的に使用されていたということはできないと主張するが、原告ジーンズに係る雑誌等の広告又はテレビコマーシャルにおいて、原告標章1、2が、継続して原告ジーンズのバックポケットのステッチとして強調されていたことは上記のとおりであり、検乙第25号証〜第28号証及び当審における検証の結果からも明らかなとおり、年次に応じて多少の変化が見られるとしても、上記事実関係の下では、原告標章1、2として継続的に使用されていたものというべきであり、上記のとおり、昭和59年までには一審原告の商品等表示として需要者に周知となったものと認めることができる。なお、仮に、一審原告が、原告標章1、2のほかに、様々な形状のステッチを使用しており、その形状に必ずしも統一性がないとしても、そのことによって、上記のとおり、継続使用されていた原告標章1、2の周知性自体が直接に影響を受けるわけではない。 一審被告は、被告標章1、2が女性用ジーンズについてのみ使用されていたから、被告標章1、2の使用を不正競争行為とする主張との関係においては、原告標章1、2の著名性又は周知性の有無を判断する基準である「需要者」は、女性としなければならないとも主張する。しかしながら、現代においてジーンズという被服が男女を問わず広く用いられていることは公知の事実であり、したがって、メーカーにおいて、男女の体格ないし体型差により、ジーンズに男性用ジーンズ、女性用ジーンズという区別を設けて製造販売しているとしても、それは、単に同一商品の男性用、女性用という程度の差異にしかすぎず、例えば、ハンドバッグのような女性用品について、男性がその商品等表示に関心や知識を持たないとして、その需要者層を女性に限定する必要があるような場合とは異なるものと解されるから、一審被告の上記主張は採用することができない。 また、一審被告は、原告標章1、2のような並行する2本の弓形の曲線が結合した図形のバックポケットのステッチは、多くのジーンズメーカーが使用しており、一審原告が独占的に使用してきたものではない旨主張する。 そして、一審被告が被告標章1、2を昭和59年から、被告標章3、4を平成6年から使用していることは当事者間に争いがないほか、平成元年発行の「ノンノ」2月20日号(乙第276号証)、平成3年発行の「mcシスター」5月号(乙第282号証)、平成3年発行の「レイ」5月号(乙第285号証)、平成7年発行の「モア」9月号(乙第291号証)、平成7年発行の「マイン」5月号(乙第300号証)にそれぞれ掲載された記事中には、並行する2本の弓形の曲線が結合した形状のステッチがバックポケットに用いられた、一審原告及び一審被告以外の第三者が販売するジーンズが表示されており、さらに、平成5年ないし平成7年ころ、一審原告が、並行する2本の弓形の曲線が結合した形状のステッチをバックポケットに用いたジーンズの製造販売者である第三者に対し、警告等の措置を講じたこと(甲第225〜第257号証、第264〜第276号証)、その後も同様の形状のステッチがバックポケットに用いられた第三者製造のジーンズが販売されていたこと(検乙第2、第6、第10〜第12、第19、第34〜第38号証、当審における検証の結果)が認められる。 しかしながら、上記のとおり、原告標章1、2は、昭和59年までには周知性を獲得していたものと認められ、一審被告又は第三者による上記標章の使用が開始されたのはその後であること、第三者による上記標章の使用期間及び使用数量は明らかでないこと、さらに、一審被告又は第三者の使用に係る上記標章は並行する2本の弓形の曲線が結合した図形よりなり、原告標章1、2と共通する点はあるものの、必ずしも、全部が原告標章1、2と類似するともいえないこと等を併せ考えれば、一審被告又は第三者による上記標章の使用によって、原告標章1、2の周知性が直ちに損なわれるものと認めることはできないから、一審被告の上記主張も採用し難い。 さらに、一審被告は、昭和59年に、不正競争の目的なく、被告標章1、2の使用を開始し、「SOMETHING」とのブランドの女性用ジーンズについてその使用をしてきたとして、不正競争防止法11条1項3号に基づく先使用権を主張するが、上記のとおり、原告標章1、2は、昭和59年までには周知性を獲得していたものと認められるから、上記主張を採用することもできない。 なお、本件各証拠によっても、原告標章1、2が、原告の商品等表示として、著名であるとまでは認めることができない。 イ 平成3年発行の「ノンノ」3月号(甲第313号証)、同年発行の「JJ」4月号(甲第314号証)、平成4年発行の「チェックメイト」1月号(甲第316号証)、「ゴールド・モノ」6月30日号(甲第318号証)にそれぞれ掲載された原告ジーンズの宣伝広告若しくは原告ジーンズの紹介記事には、原告ジーンズのバックポケットのステッチとして、原告標章2−2が強調されて表示されており、また、上記広告又は記事によれば、原告標章2−2は、元来、戦時中から1960年代にかけて、米国において製造された原告ジーンズのバックポケットに採用されたものであり、平成3、4年ころにその復刻版が日本でも発売されたことがうかがわれるが、この事実を考え併せても、平成3、4年に限ったこの程度の広告又は記事によって、原告標章2−2が一審原告の商品を識別する機能を備え、商品等表示性を有するに至ったものと認めることはできず、他にこの点を認めるに足りる証拠もない。 したがって、原告標章2−2を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 (3) 類似性について ア 一審原告は、一審被告が原告ジーンズのすべての特徴的要素を網羅的に模倣するものであって、一審原告の企業ブランドが有する顧客吸引力にフリーライドしようとする不正の目的を有するものであるとした上、このような不正の目的が認められる場合には、不正競争防止法における商品等表示の類似性の判断において類似性を緩和して考慮すべきである旨主張する。 しかしながら、一審被告の模倣に係る原告ジーンズの特徴的要素として一審原告が主張するもののうち、原告標章3、4及び原告標章5については、後記のとおり、原告標章4が商品等表示性を獲得したといえないのみならず、一審被告が使用する被告標章5並びに被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10が、それぞれ原告標章3及び原告標章5に類似するものとはいえず、また、被告のハウスマーク(原判決別紙被告標章目録八−一〜四、九)が原告のハウスマーク(同原告標章目録六)に類似するものと認めることもできないから、全体的に見て、一審被告がこれらの被告標章を用いることが一審原告の模倣であるとまでいうことはできない。さらに、「ビンテージ」の語は、「ワインの醸造年。特定の地域・年に醸造した高級ワイン」(株式会社岩波書店発行「広辞苑第五版」)を意味し、元来、ぶどうの当たり年に生産された良質なぶどう酒を形容する語であり、転じて他の商品分野においても、古風さのゆえに珍重される過去のモデルを指して一般に用いられていること(乙第334号証)は公知の事実であるから、一審被告が一審原告に後れてこの語を用いたとしても、それ自体が一審原告の模倣ということはできないことは明らかであり、また、アルファベットを商品名の特に最後に用いることも各商品分野において普通に見られるところであるから、上記のように一審被告の被告標章5の使用が一審原告の標章の模倣といえない以上、アルファベット26文字のうちのいずれであれ、これを用いることが一審原告を模倣したということはできない。さらに、一審被告及び一審原告のテレビコマーシャルを録画したビデオテープ(甲第324号証)によれば、一審被告のテレビコマーシャルに、背景音楽及びジーンズを着用したままバスタブに入るシーンにおいて一審原告のテレビコマーシャルと共通する点があることが認められるが、一審原告のテレビコマーシャルはそもそも我が国以外で放映されたものであることがうかがわれる上、このテレビコマーシャルが当該音楽又は当該シーンのゆえに我が国において話題を呼び、当該音楽又は当該シーンが原告ジーンズと結びついて需要者の印象、記憶に残っているなどの特段の事情はうかがわれないから、上記のような程度の共通性があるからといって、一審被告のテレビコマーシャルが一審原告のそれを模倣し、一審原告の企業ブランドが有する顧客吸引力にフリーライドしようとする不正の目的があるとはいえない。このことは、仮に、一審被告が、一審原告がそのテレビコマーシャルに過去に起用したことのある俳優と同一人を起用してテレビコマーシャルを制作した事実が存在するとしても同様である。 そうすると、一審被告が不正の目的を有することを前提とする一審原告の上記主張は採用することができない。 イ そこで、原告標章1、2と被告標章1、2とを対比すると、両者は、ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって、バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであって、バックポケット内部に形成された部分は、バックポケットの左右各辺からバックポケット横方向中央にかけての部分に、それぞれがほぼ平行な2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ、計二つ形成され、それが横方向中央において結合する形状からなり、上記左右の各アーチは、バックポケット横方向中央に想定される縦軸について線対称であるという基本的な構成態様において共通である。また、両標章は、細部の形状において、バックポケット内部の左右のアーチが、いずれもバックポケット左右の各端部から横方向中央部分に向かって、最初はわずかに上昇するものの、すぐに下降し、バックポケット横方向中央部において結合する位置が、左右の各端部の位置よりも低くなっている点、バックポケット外周に沿う2本の線が、上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの、左右各辺に沿う部分においては、2本の線の間隔が上方で下方よりも広がっているという点でも共通性を有するものである。 他方、両標章は、細部の形状において、原告標章1、2が、被告標章1、2と比較して、バックポケット内部の二つのアーチの曲率が大きく、バックポケット横方向中央部において結合する位置と左右の各端部の位置の高低差がより大きい点、二つのアーチがバックポケット横方向中央部において結合する位置における形状が、原告標章1、2においては、アーチを形成する2本の線によって縦長のひし形を形成し、その中央付近に横線が設けられているのに対し、被告標章1、2においては、二つのアーチを形成するそれぞれ2本の線のうち上側の線同士は互いに交差するものの、下側の線同士は結合せず、扁平な「W」字状となっている点、バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がり具合が、原告標章1、2の方が被告標章1、2よりも多少大きい点において差異が見られる。 そして、これらの共通点及び差異点を総合すると、基本的構成態様における共通点が看者に与える視覚的影響は強く、細部の形状における各共通点と相まって、両標章が類似するとの強い印象を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、ごく小さい局部的な形状の差異であるか、又は全体としての共通点の中におけるきん差であって、特に離隔的観察をする場合には共通性に包摂される程度のものであり、これらの差異点による印象が上記共通点による強い印象を凌駕するものとは到底認められず、原告標章1、2と被告標章1、2とは類似するものと認められる。 ウ 次に、原告標章1、2と被告標章3、4とを対比すると、両者は、基本的構成態様において、ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって、バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであり、バックポケット内部に形成された部分は、バックポケットの左右各辺からバックポケット内部に向かうそれぞれが2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ、計二つ形成され、それぞれのアーチがバックポケット内部において次第に下降して結合する形状からなる点で共通であり、また、細部の形状において、バックポケット外周に沿う2本の線が、上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの、左右各辺に沿う部分においては、上方が下方よりも間隔が広がっているという点で共通する。 しかしながら、両標章は、バックポケット内部の左右のアーチを形成するそれぞれ2本の曲線が、原告標章1、2においてはほぼ平行であるのに対し、被告標章3、4においてはバックポケット左右の各端部で2本の曲線の間隔が広く、バックポケット内部の左右のアーチが結合する位置に近づくほどその間隔が狭くなって平行ではない。また、上記左右の各アーチが、原告標章1、2においては横方向中央において結合し、バックポケット横方向中央に想定される縦軸について線対称であるのに対し、被告標章3、4においては、左右のアーチの結合する位置がバックポケット横方向中央ではなく、左右の各辺のいずれか一方に寄っており、その結合位置とバックポケット左右の辺との間隔が狭い方に形成されるアーチは、バックポケット左右の端部から、内部の結合位置に向かいほぼ下向きの曲線によってなるが、結合位置とバックポケット左右の辺との間隔が広い方に形成されるアーチは、バックポケット左右の他一方のアーチより下方で概ね結合位置と同程度の高さの位置を端部とし、バックポケット内部に向かいいったん上昇するが、他一方のアーチの端部の高さにまでは至らないうちに下降して結合位置に至るものであって、このような左右各アーチの形状の違いにより、各アーチの大きさが明りょうに異なり、かつ、左右のアーチが、全体としてバックポケットの上辺に対し斜めに(小さい方のアーチが上方に)形成されているように表現されている点において差異がある。これらの差異点は、原告標章1、2及び被告標章3、4において、それぞれ一見して看者の目を惹くバックポケット内部の二つのアーチの基本的形状を規定する点における差異であるから、両標章の基本的構成態様における差異点といわざるを得ない。さらに、両標章は、細部の形状において、二つのアーチがバックポケット内部において結合する位置における形状が、原告標章1、2においては、アーチを形成する2本の線によって縦長のひし形を形成し、その中央付近に横線が設けられているのに対し、被告標章3、4においては、二つのアーチを形成するそれぞれ2本の線のうち、上側の線同士は互いに交差するものの、下側の線同士は結合せず、かつ、大きい方のアーチの上側の線と小さい方のアーチの下側の線とはいったん交差した後横線によって結合し、「W」字状の下に上向きの小三角形が形成されている点、バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がりが、原告標章1、2においては2本の線がほぼ直線状となって広がっているのに対し、被告標章3、4においては2本の線のうち内側の線が極めて緩やかな曲線を描いて広がっている点で差異を有するものである。 そして、これらの共通点及び差異点について見るに、両標章の基本的構成態様において、共通点に包摂されない顕著な差異があって、両標章を離隔的に観察する場合においても、それぞれ別異の印象を看者に与えることは明白であるといわざるを得ず、細部の形状における各共通点及び各差異点を総合考慮しても、両者は全体として非類似の標章というべきである。 この点に関して、一審原告は、被告標章3、4のバックポケット内部の左右のアーチを形成するそれぞれ2本の曲線が平行ではない点につき、需要者にとって最も印象に残るのは2本の曲線が並んで走る全体形状であって、それが完全に平行であるかどうかという点まで着目して観察することは通常の取引の状況においてはあり得ないと主張し、また、被告標章3、4の左右のアーチが、線対称ではなく、全体としてバックポケットの上辺に対し斜めに形成されているように表現されている点につき、バックポケットを傾けて観察した場合には、左右のアーチが線対称となり、実際にジーンズを着用した場合には、体型に合わせて曲線的に観察され、線対称のように見えることも多いと主張する。 しかしながら、左右のアーチを形成するそれぞれ2本の曲線が被告標章3、4のように結合点から左右両端に向かうにつれて明りょうに広がっている場合には、看者は、おのずから、左右の広がりとともに結合点に向かう奥行きを感じ取ることが明りょうであって、2本の曲線が並んで走る点とともに、強く印象に残ることは明らかである。また、被告標章3、4の構成上、たとえバックポケットを傾けた場合であっても、左右のアーチが線対称となるように観察されることはないと認められるのみならず、左右のアーチが斜めかどうかは、基準となる線に対する相対的な関係として感得されるものというべきところ、被告標章3、4の構成においては、バックポケットの上辺をその基準線としてとらえることが自然であり、そうであれば、バックポケットを傾けた場合においても、また、SOMETHINGのカタログ(甲第137号証、第311号証)の各3枚目の写真にあるように、ジーンズを着用した場合であっても、左右のアーチは斜めに形成されているように感じ取られることが明らかである。 したがって、一審原告の上記主張は採用することができず、原告標章1、2を一審原告の商品表示等とし、被告標章3、4を対象とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。 (4) 混同について 上記(2)のアのとおり、原告標章1、2は、一審原告の商品等表示として、昭和59年までには周知性を獲得し、その後も継続的な宣伝広告がされ、各種雑誌の記事において繰り返し取り上げられていること等により、現在においては相当程度広く知られていることが認められる。そうすると、上記(3)のとおり、原告標章1、2と類似する被告標章1、2を付したジーンズが販売された場合には、需要者において、その出所が一審原告であるかのように、あるいは少なくとも、被告標章1、2を付したジーンズを販売する者が一審原告と資本関係又は何らかの提携関係を有する者であるかのように誤認混同するおそれがあるものと認められる。 この点につき、一審被告は、販売店におけるジーンズの売場は、各メーカー別に明確に分けられ、それぞれ看板等により、商品の出所を明らかにして販売されている上、バックポケット部分のステッチは紙ラベルで隠れているので確認できず、購入者は、パッチや紙ラベルによって、商品の種類や出所等を確認し、さらに、出所等を吟味してから購入するものであるから、購入時において、商品の出所を混同することはない旨主張する。 しかしながら、ジーンズを販売するあらゆる店舗において、各メーカー別に明確に分けてこれを販売しているものと認めるに足りる証拠はなく、また、一般にジーンズの販売時にバックポケット部分のステッチが紙ラベルで覆われているとしても、その覆われている程度や、販売者、購入者等の行動などにより、購入者が当該ステッチを確認し、これをその出所の判断資料とすることが全くないと認めるに足りる証拠もないから、一審被告の上記主張は採用することができない。 2 争点2(原告標章3、4に基づく被告標章5に係る請求)について (1) 商品等表示性、著名性、周知性について ア 以下に掲記する昭和50年以降の発行に係る雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告又は原告ジーンズの紹介記事等において、継続して、原告ジーンズのうちの特定の商品を示すものとして、原告標章3が使用され、又は原告標章3が付された当該商品のパッチが表示されている。 昭和50年 「メンズクラブ」8月号(甲第192号証) 昭和51年 「メンズクラブ」7月号(甲第47号証) 昭和52年 「平凡パンチ」5月2日号(甲第69号証) 昭和56年 「アンアン」8月28日号(甲第154号証) 「アンアン」10月30日号(甲第72号証) 昭和57年 「メンズクラブ」11月特別増刊号(甲第45号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(甲第64号証) 「スコラ」11月25日号(甲第65号証) 「アンアン」5月2日号(甲第71号証) 「ポパイ」10月25日号(甲第152号証) 昭和59年 「チェックメイト」2月号(甲第49号証) 「チェックメイト」6月号(甲第50号証) 「ホットドッグプレス」12月25日号(甲第51号証) 昭和60年 「メンズクラブ」2月号(甲第52号証) 「メンズクラブ」7月号(甲第81号証) 昭和61年 「リーバイスブック」(甲第127号証) 「リーバイスブック」2号(甲第128号証) 昭和62年 「メンズクラブ」1月号(甲第53号証) 「リーバイスブック」3号(甲第132号証) 「リーバイスブック」4号(甲第133号証) 昭和63年 「メンズクラブ」2月号(甲第54号証) 「リーバイスブック」5号(甲第134号証) 平成元年 「グラン・マガザン」6月号(甲第90号証) 「ブーン」11月号(甲第93号証) 平成2年 「メンズクラブ」8月号(甲第83号証) 平成3年 「ホットドッグプレス」12月25日号(甲第57号証) 平成4年 「ファインボーイズ」2月号(甲第101号証) 「チェックメイト」5月号(甲第103号証) 「ブーン」9月号(甲第104号証) 「ポパイ」3月4日号(甲第110号証) 平成5年 「メンズノンノ」7月号(甲第67号証) 「メンズクラブ」7月号(甲第97号証) 「メンズクラブ」9月号(甲第98号証) 「キャラウェイ」2月号(甲第164号証) 平成6年 「メンズノンノ」9月号(甲第66号証) 「メンズクラブ」5月号(甲第94号証) 「メンズクラブ」8月号(甲第95号証) 「メンズクラブ」9月号(甲第96号証) 平成7年 「メンズクラブ」1月号(甲第87号証) 「ファインボーイズ」4月号(甲第109号証) 「ブーンイクストラ」5月20日号(甲第160号証) 平成8年 「フォーブス日本版」6月号(甲第8号証) 「リーバイスブック」22号(甲第129号証) そして、これらの雑誌等の記事のうち、「チェックメイト」昭和59年2月号(甲第49号証)の記事に掲載された「トランスカジュアル・ファッション用語集」には、「イタリアン・カジュアル」、「コーディネーション」等の項目と並んで「501」が掲記され、「今ではほとんど信仰的対象となっているジーンズの原点。むろんリーヴァイス社のものであり、501とはその製品番号に他ならない」と記載されているほか、例えば、「ホットドッグプレス」昭和59年12月25日号(甲第51号証)の記事中に「501を語らずしてジーンズは語れない」と、「メンズクラブ」昭和60年7月号(甲第81号証)の記事中に「501に代表されるオーセンティック」と、「リーバイスブック」(甲第127号証)に「リーバイス501は、ジーンズと呼ばれるあらゆる商品のオリジナル(原形)である」と記載され、他にも同旨の記載のある記事又は広告が数多くあることにかんがみれば、原告標章3は、元来、一審原告において商品管理のために使用する製品番号であり、また、単に3桁の数字を羅列しただけのものであるものの、その製品番号に係る一審原告の特定の商品が、ジーンズという被服の最初のモデルとして位置付けられるものであるという特別の事由を有し、かつ、そのことが一審原告やマスメディアにより繰り返し宣伝されたことに伴って、相当程度以前から需要者にも広く知られるに至り、原告標章3自体によって、特定の商品をその出所とともに識別する機能を備えるとともに、周知となったものと認めることができる。 すなわち、原告標章3は、商品等表示性を備え、既に周知性を獲得したものと認められるが、本件各証拠によるも、それが原告の商品等表示として、著名であるとまでは認めることができない。 一審被告は、原告標章3について、単なる数字の羅列で極めて簡単かつありふれた標章にすぎず、識別力がないとして、また、一審原告が原告標章3を単なる製品番号として使用しているとして、原告標章3は商品等表示性を有していない旨主張するが、上記のとおりであるから、その主張は採用することができない。 イ 以下に掲記する昭和51年以降の発行に係る雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告又は原告ジーンズの紹介記事等において、原告ジーンズのうちの特定の商品を示すものとして、原告標章4が使用され、又は原告標章4が付された当該商品のパッチが表示されている。 昭和51年 「メンズクラブ」7月号(甲第47号証) 昭和57年 「ウイズ」4月号(甲第48号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(甲第64号証) 「メンズクラブ」11月特別増刊号(甲第45号証) 昭和59年 「チェックメイト」6月号(甲第50号証) 昭和60年 「メンズクラブ」7月号(甲第81号証) 昭和61年 「リーバイスブック」(甲第127号証) 「リーバイスブック」2号(甲第128号証) 昭和62年 「メンズクラブ」1月号(甲第53号証) 「リーバイスブック」3号(甲第132号証) 「リーバイスブック」4号(甲第133号証) 昭和63年 「リーバイスブック」5号(甲第134号証) 平成元年 「グラン・マガザン」6月号(甲第90号証) 「ポパイ」8月16日号(甲第89号証) 「ホットドッグプレス」8月25日号(同) 「メンズノンノ」9月号(同) 「ファインボーイズ」9月号(同) 「チェックメイト」9月号(同) 「ブーン」11月号(甲第93号証) 「ファインボーイズ」12月号(甲第82号証) 平成2年 「メンズクラブ」8月号(甲第83号証) 「ホットドッグプレス」10月10日号(甲第91号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(同) 平成3年 「ホットドッグプレス」7月10日号(甲第320号証) 平成5年 「メンズノンノ」7月号(甲第67号証) 「メンズクラブ」7月号(甲第97号証) 「メンズノンノ」11月号(甲第68号証) 「メンズクラブ」11月号(甲第84号証) 平成6年 「メンズクラブ」2月号(甲第85号証) 「メンズクラブ」5月号(甲第94号証) 「メンズノンノ」9月号(甲第66号証) 平成7年 「メンズクラブ」1月号(甲第87号証) 「ブーン」3月号(甲第88号証) 「ファインボーイズ」4月号(甲第109号証) 平成8年 「リーバイスブック」22号(甲第129号証) しかしながら、原告標章4は、原告標章3と同様、元来、一審原告において商品管理のために使用する製品番号であったものと推認される(「メンズクラブ」昭和51年7月号(甲第47号証)の「ロット505」との表記からもそのことがうかがえる。)ところ、原告標章3は、上記のとおり、その製品番号に係る一審原告の特定の商品が、ジーンズという被服の最初のモデルとして位置付けられるものであるという特別の事由が宣伝されたことにより、それ自体によって、特定の商品をその出所とともに識別する識別力を備えるに至ったと認められるが、原告標章4については、そのような特別の事由を有すると認めるに足りる証拠はない。そうであれば、上記の程度の宣伝広告又は雑誌等による紹介がされたからといって、単に3桁の数字を羅列しただけにすぎない原告標章4が、それ自体によって一審原告の商品を表示する機能、すなわち商品等表示性を備えるに至ったものと認めることはできない。 一審原告は、「501」から始まる500番台の3桁の数字を1世紀以上にわたって原告ジーンズの商品名として採用し続けたことにより、「501」以降の一連の数字は、一審原告のシリーズ又はファミリーを構成する商品群を示すものとして著名又は周知となっている旨主張するが、我が国において、「501」以降の一連の数字がそのようなものとして需要者に認識されているものと認めるに足りる証拠はないから、上記主張は採用することができない。 したがって、原告標章4を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 (2) 類似性について 一審被告に、一審原告が主張するような不正の目的があるとまで認定することはできず、一審被告がこのような目的を有することを前提として、不正競争防止法における商品等表示の類似性の判断において類似性を緩和して考慮すべきである旨の一審原告の主張を採用することができないことは上記のとおりである。 そこで、原告標章3と被告標章5とを対比する。 原告標章3は「501」の、被告標章5は「505」の、いずれも特徴のない字体による数字によってなるものである。 両者は、外観上、最初の2字が共通するものの、全体の三分の一に当たる末尾の1字に差異があり、かつ、その差異を構成する「1」と「5」は格別見誤りやすいものではないから、両標章が外観上類似するとまでいうことはできない。 また、両標章はいずれも3桁の数字ととらえることができるから、原告標章3からは「501」という数の、被告標章5からは「505」という数の観念が生ずるが、数というそれ自体は抽象的な概念において、単に値として接近しているというだけでは、観念上類似するということはできない。なお、原告標章3は、上記のとおり、その製品番号を有する特定のジーンズが、ジーンズという被服の最初のモデルとして需要者にも広く認識されていることから、ジーンズの元祖というような観念も生ずるものと認められるが、被告標章5からそのような観念が生ずるものと認めることはできない。したがって、両者は、観念において類似するとはいえない。 さらに、それぞれの構成に従って、原告標章3からは「ゴヒャクイチ」、「ゴーゼロイチ」又は「ゴーマルイチ」との、被告標章5からは「ゴヒャクゴ」、「ゴーゼロゴ」又は「ゴーマルゴ」との称呼がそれぞれ生ずるものと認められるから、両標章の称呼は、語頭部の「ゴヒャク」、「ゴーゼロ」又は「ゴーマル」の部分で共通であり、語尾の「イチ」と「ゴ」において差異が存するものである。そして、両標章とも全体の称呼が長音を含めて4〜6音からなるにすぎず、また、差異音が末尾にあるとはいえ、上記のように、両標章は、いずれも3桁の数字ととらえることができ、これを称呼する際、語尾を明りょうに発音することは通常行われるところであるから、両商標の称呼は、上記差異音により聴き誤るおそれはなく、識別されるものと認められ、両者が称呼において類似するとすることもできない。 そうすると、原告標章3と被告標章5とは、外観、観念及び称呼のいずれの点においても類似せず、非類似であると認められる。 したがって、原告標章3を一審原告の商品等表示とし、被告標章5を対象とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 3 争点3(原告標章5に基づく被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10に係る請求)について (1) 商品表示性、著名性、周知性について ア 原告標章5−2、5−3、5−4は、原告ジーンズに縫い付けられた赤色又はオレンジ色の布片(タブ)に「LEVI'S」又は「Levi's」との文字を刺繍によって記載したものであるところ、当該文字により表される「リーバイス」が一審原告の著名な略称であることは公知の事実というべきであるから、原告ジーンズに付された原告標章5−2、5−3、5−4は、当該文字部分の存在により、一審原告の商品等表示として著名性を備えるものと認められる。 イ 原告標章5−1は、原告ジーンズに縫い付けられた赤色の布片(タブ)にRの記号を付したものである。そして、一審原告は、原告標章5−1のみならず、原告標章5−2、5−3、5−4についても、その赤色又はオレンジ色の色彩的特徴自体によって、識別力を備え、商品等表示性を有するものと主張するので、この点について検討する。 a 原告標章5−1は、主として赤色の色彩に特徴を有するものであり、「ホットドッグプレス」平成3年10月号(甲第102号証)に、原告ジーンズに使用されるものとして表示されているほか、「ブーン」平成4年9月号(甲第104号証)に、原告標章5−1自体の表示はないものの、それが原告ジーンズに使用されることが記載されている。また、「チェックメイト」平成4年5月号(甲第103号証)及び前掲「リーバイス ブルージーンズの伝説」(甲第157号証)には、Rマークについての言及はなく、標章自体の表示もないものの、文字のない赤色のタブが原告ジーンズに使用されていることが記載されており、さらに、昭和47年5月31日付け「日本繊維新聞」(甲第28号証)に掲載された一審原告の広告には、Rマークのない赤色無地のタブを原告ジーンズに使用することが示されている(なお、「リーバイスブック」29号(甲第310号証)には、原告標章5−1が原告ジーンズに使用されるものとして表示されているが、同冊子は、一審原告の日本法人と考えられるリーバイ・ストラウス ジャパン株式会社が平成13年に発行したものであり、本訴の経過との時間的関係を考慮すれば、その記載を重視することはできない。)。 しかしながら、上記の程度の紹介記事又は広告があったからといって、原告標章5−1のように、赤色の色彩のほかは特段の特徴を有していない標章が一審原告の商品を識別する機能を備え、商品等表示性を有するに至ったものと認めることができないことは明らかである。 なお、一審原告は、赤タブが、元来、原告ジーンズを類似品から区別するために考案されたものである旨主張し、上記紹介記事中には同旨の記載があるものもあるが、このような一審原告の主観的意図によって、客観的な商品等表示性の有無が左右されるものではない。 したがって、原告標章5−1がその赤色の色彩的特徴自体によって、識別力を備え、商品等表示性を有するとの一審原告の主張は採用することができず、原告標章5−1を一審原告の商品等表示とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 b 以下に掲記する昭和47年以降の発行に係る雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告又は原告ジーンズの紹介記事等には、原告標章5−2が表示されている。 昭和47年 5月31日付け「日本繊維新聞」(甲第28号証) 「ストアーズレポート」7月号(甲第70号証) 昭和50年 「メンズクラブ」9月号(甲第193号証) 昭和61年 「リーバイスブック」2号(甲第128号証) 昭和62年 「リーバイスブック」3号(甲第132号証) 「リーバイスブック」4号(甲第133号証)、 昭和63年 「リーバイスブック」5号(甲第134号証) 平成元年 「ブーン」11月号(甲第93号証) 平成2年 「メンズクラブ」8月号(甲第83号証) 平成3年 「ホットドッグプレス」10月10日号(甲第102号証) 平成4年 「ファインボーイズ」2月号(甲第101号証) 「チェックメイト」5月号(甲第103号証) 「ブーン」9月号(甲第104号証) 平成7年 「ファインボーイズ」4月号(甲第109号証) 「ブーンイクストラ」5月20日号(甲第160号証) 平成8年 「リーバイスブック」22号(甲第129号証) また、昭和57年発行の「メンズクラブ」11月特別増刊号(甲第45号証)及び昭和63年発行の「メンズクラブ」3月号(甲第92号証)に掲載された原告ジーンズの紹介記事等には、原告標章5−3が表示されている。 さらに、以下に掲記する昭和50年以降の発行に係る雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告又は原告ジーンズの紹介記事等には、原告標章5−4が表示されている。 昭和50年 「メンズクラブ」8月号(甲第192号証) 昭和56年 同年5月20日株式会社草思社発行のエド・クレイ著「リーバイスブルージーンズの伝説」(甲第157号証) 昭和57年 「メンズクラブ」11月特別増刊号(甲第45号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(甲第64号証) 昭和59年 「チェックメイト」6月号(甲第50号証) 昭和60年 「メンズクラブ」6月号(甲第80号証) 昭和61年 「リーバイスブック」(甲第127号証) 「リーバイスブック」2号(甲第128号証) 昭和62年 「メンズクラブ」1月号(甲第53号証) 「リーバイスブック」3号(甲第132号証) 「リーバイスブック」4号(甲第133号証) 昭和63年 「メンズクラブ」2月号(甲第54号証) 「リーバイスブック」5号(甲第134号証) 平成元年 「ブーン」11月号(甲第93号証) 平成2年 「ファインボーイズ」1月号(甲第63号証) 「メンズクラブ」8月号(甲第83号証) 「ホットドッグプレス」10月10日号(甲第91号証) 「ホットドッグプレス」11月10日号(同) 平成3年 「ホットドッグプレス」10月10日号(甲第102号証) 「ポパイ」3月号(甲第155号証) 「ポパイ」4月号(同) 平成4年 「チェックメイト」9月号(甲第103号証) 「ブーン」9月号(甲第104号証) 平成5年 「メンズノンノ」11月号(甲第68号証) 平成6年 「メンズノンノ」9月号(甲第66号証) 平成7年 「ブーンイクストラ」5月20日号(甲第160号証) 平成8年 「リーバイスブック」22号(甲第129号証) しかしながら、上記各雑誌等に掲載された原告ジーンズの宣伝広告又は原告ジーンズの紹介記事等において、原告標章5−2、5−4を「赤タブ」と称するものも多く見られ、また、原告標章5−3を「オレンジタブ」と称するものもあるが、これらの広告又は紹介記事が、必ずしも、原告標章5−2、5−3、5−4の赤色又はオレンジ色の地の色彩が、「LEVI'S」又は「Levi's」との文字から独立して、それ自体により当該タブの付されたジーンズが原告ジーンズであることを表示するとしているものとは認められない。なお、上記「メンズクラブ」昭和63年2月号(甲第54号証)には、原告標章5−4に関連して「昔は赤タブというだけでリーバイスというイメージだった」との記載があるところ、ここでいう「赤タブ」が、タブの地の色彩を意味していることが明らかであるから(「Levi's」との文字を含めていっているのであれば、「昔」でなくとも一審原告を表示するものであることが明白である。)、少なくとも昭和63年当時においては、原告標章5−4の赤色の地の色彩自体は、一審原告の商品を識別する機能を果たしていないことを示唆するものということができる(なお、「リーバイスブック」29号(甲第310号証)には、原告ジーンズに付されたタブにつき、殊更その赤色の色彩を強調した記載があるが、同冊子の記載を重視し得ないことは上記のとおりである。)。 c 他方、以下に掲記する昭和44年以降の発行に係る雑誌等に掲載されたジーンズの宣伝広告又はジーンズの紹介記事等には、一審原告以外のジーンズメーカー(下記に併記する一審被告又は第三者、ただし、第三者はブランド名によって表示する場合もある。)の製造販売するジーンズに赤色又はオレンジ色のタブが付されたものがあることが示されている。 昭和44年 「メンズクラブ」12月号(乙第49号証)・ビッグジョン社 昭和45年 「メンズクラブ」7月号(乙第50号証)・ビッグジョン社 「メンズクラブ」11月号(乙第51号証)・バイソン社 昭和47年 「メンズクラブ」10月号(乙第53号証)・一審被告 「メンズクラブ」12月号(乙第54号証)・一審被告 昭和48年 「メンズクラブ」6月号(乙第56号証)・一審被告 「メンズクラブ」7月号(乙第57号証)・一審被告 「メンズクラブ」8月号(乙第58号証)・一審被告 「メンズクラブ」10月号(乙第59号証)・一審被告 「メンズクラブ」12月号(乙第61号証)・一審被告 昭和49年 「メンズクラブ」3月号(乙第62号証)・一審被告 「メンズクラブ」4月号(乙第63号証)・一審被告 昭和52年 「メンズクラブ」11月号(乙第67号証)・一審被告 昭和53年 「メンズクラブ」6月号(乙第68号証)・一審被告 「メンズクラブ」7月号(乙第69号証)・ビッグジョン社 「メンズクラブ」9月号(乙第70号証)・ビッグジョン社、一審被告 「メンズクラブ」11月号(乙第71号証)・ビッグジョン社、一審被告 昭和54年 「メンズクラブ」1月号(乙第72号証)・ビッグジョン社 「メンズクラブ」3月号(乙第73号証)・ビッグジョン社 「メンズクラブ」6月号(乙第74号証)・一審被告 「メンズクラブ」9月号(乙第75号証)・一審被告 「メンズクラブ」11月号(乙第77号証)・一審被告 昭和55年 「メンズクラブ」9月号(乙第79号証)・ビッグジョン社 「メンズクラブ」10月号(乙第80号証)・一審被告 昭和56年 「メンズクラブ」4月号(乙第83号証)・一審被告 平成元年 「ボブソン」89/90冬号(乙第94号証)・ボブソン社 「ラングラー ブルーブック」89春夏号(乙第104号証)・ラングラー社 平成2年 「スウィートキャメル」90春夏号(乙第113号証)・カクタス社 平成6年 「ラングラー ブルーブック」94秋冬号(乙第40号証)・ラングラー社 「ボブソン」94/95秋冬号(乙第92号証)・ボブソン社 平成7年 「ジーエルハート」7号(乙第36号証)・ビッグジョン社 平成8年 「チェックメイト」2月号(乙第15号証)・ビームス東京ほか 「ラングラースタイルブック」96秋冬号(乙第41号証)・ラングラー社 平成9年 「コレクション・モノ」5号(乙第14号証)・ストーミーブルーほか 「ストリートギアカタログ」2号(乙第17号証)・ジョー・マッコイほか 「ラングラースタイルブック」97秋冬号(乙第102号証)・ラングラー 「ブレイク・ギア」10月号(乙第127号証)・ジョー・マッコイほか 平成10年 「にっぽんのジーンズ」(乙第142号証)・ドゥニームほか 「クールトランス」5月号(乙第132号証)・ウェアハウスほか 「カウゾ」4月号(乙第133号証)・C.A.B.クロージング 「モノ・マガジン」2月2日号(乙第134号証)・シュガーケイン 「モノ・マガジン」3月2日号(乙第135号証)・リクルほか 「ブーン」2月号(乙第137号証)・シルバーストーン 「ブーン」4月号(乙第138号証)・アルキャミストほか 「ゲットオン」3月号(乙第140号証)・シルバーストーンほか 「ジーンズ人気ブランドカタログ」(乙第143号証)・ボブソン 「ラングラースタイルブック」98春夏号(乙第148号証)・ラングラー なお、当審における検証の結果によれば、一審原告以外のジーンズメーカーの製造販売したジーンズである、検乙第38号証(ダイエー社製)及び検乙第32、第33号証(いずれも一審被告製)の各ジーンズにも赤色のタブが付されていることが認められる。 これらの事実によれば、我が国においては、遅くとも昭和47年以降、継続して、一審被告、ビッグジョン社、ボブソン社、ラングラー社その他多くの内外のジーンズメーカーによって、地の色彩を赤色又はオレンジ色とするタブをジーンズに付することが行われており、一審原告のみが赤色又はオレンジ色のタブを使用してきたものではないことが認められる。 この点につき、一審原告は、国産メーカーが赤タブを使用していたとすれば、原告ジーンズの特徴的部分を模倣したからにほかならず、当時、日本支店を有していなかった一審原告はこれに対して法的措置を執ることが困難であったが、需要者は、それが原告ジーンズの模倣であることを認識できたはずであるから、原告標章5が著名性又は周知性を獲得することの妨げとはならないと主張する。 しかしながら、国産メーカーに限らず、ラングラー社のような米国メーカーも地の色彩を赤色とするタブを付したジーンズを我が国で販売しているのみならず、上記のように多数のメーカーが地の色彩を赤色とするタブを付したジーンズを販売している状況下において、需要者が、それが原告ジーンズの模倣であると認識し得たかどうかは極めて疑わしく、一審原告の上記主張は採用することができない。 d 上記b及びcの各事実に照らせば、原告標章5−2、5−3、5−4が、そこに記載された「LEVI'S」又は「Levi's」との文字から独立して、その赤色又はオレンジ色の地の色彩自体によって、一審原告の商品を識別する機能を果たしているものと認めることはできず、したがって、その赤色又はオレンジ色の色彩的特徴自体によって、識別力を備え、商品等表示性を有するとの一審原告の主張は採用することができない。 (2) 類似性について 一審被告に、一審原告が主張するような不正の目的があるとまで認定することはできず、一審被告がこのような目的を有することを前提として、不正競争防止法における商品等表示の類似性の判断において類似性を緩和して考慮すべきである旨の一審原告の主張は採用することができないことは上記のとおりである。 そこで、原告標章5−2、5−3、5−4と被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10とを対比する。 一審原告は、原告標章5と被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10との類似性判断において、原告標章5につき重要な部分は、バックポケットの横側上部に立体的に付された赤色又はオレンジ色の長方形の布片であって、何らかの文字が記載されているものという点であり、その記載の内容は重視すべきではない旨主張するが、原告標章5−2、5−3、5−4が、その赤色又はオレンジ色の地の色彩的特徴自体によって、商品等表示性を備えるものでないことは上記のとおりであり、また、バックポケットの横側上部に立体的に付された長方形の布片であることがこれに加わって、一審原告の商品等表示としての識別力を備えるに至ったと認めるに足りる証拠もない。かえって、原告標章5−2、5−3、5−4は、上記のとおり、タブに記載された一審原告の著名な略称を示す「LEVI'S」又は「Levi's」との文字部分の存在により、一審原告の商品等表示として著名性を備えるものであると認められるから、その要部が当該文字部分にあることは明らかである。 他方、被告標章1、3(いずれもタブ部分)は紺色の、同6、10は赤色の、同7はオレンジ色の地のタブであるが、「SOMETHING」(被告標章1、3のタブ部分)又は「EDWIN」(被告標章6、7、10)の文字が記載されたものであり、その各文字部分が原告標章5−2、5−3、5−4の要部である「LEVI'S」又は「Levi's」との文字部分と、外観、観念及び称呼のいずれにおいても類似するとはいえないから、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10は、全体として原告標章5−2、5−3、5−4と非類似であるといわざるを得ない。 なお、一審原告は、タブは比較的小さな布であって、「LEVI'S」等の文字部分は、通常の目線の高さからの観察ではほとんど読み取ることができず、この場合に、需要者の印象に残るのは、タブの形状、色彩及び取付位置であり、それらによって出所表示機能を持つように工夫されたものがタブであるとも主張する。 しかしながら、原告標章5−2、5−3、5−4の文字部分を除いた、タブの地の色彩、形状、取付位置等によって、一審原告の商品等表示としての識別力を備えるに至るとは認められないことは上記のとおりである。そして、「LEVI'S」又は「Levi's」との文字部分が小さくて、通常の目線の高さからの観察によっては看取し難いとすれば、それは、原告標章5−2、5−3、5−4の商品等表示としての機能が、そのような観察に耐えられない程度のものであることを意味するにすぎない。 したがって、原告標章5−2、5−3、5−4を一審原告の商品等表示とし、被告標章1、3(いずれもタブ部分)及び6、7、10を対象とする不正競争防止法に基づく請求は理由がない。 4 争点4(原告商標権1、1−2、2に基づく被告標章1、2、3、4に係る請求)について (1) はじめに ア 一審原告は、原告商標権1、2に基づいて被告標章1、2に係る請求をするが、同請求は、一審原告の原告標章1、2を商品等表示とする被告標章1、2に係る不正競争防止法に基づく請求と選択的併合の関係にあるところ、この不正競争防止法に基づく請求が理由があることは前記1及び後記7のとおりであるから、原告商標権1、2に基づく上記請求については判断を要しない。そこで、以下、被告標章3、4に係る請求について判断する。 イ まず、原告商標権1−2に基づく請求に係る訴えの変更の許否について検討するに、一審原告が当審においてした、一審被告の被告標章3、4を付した商品の販売行為が原告商標権1−2を侵害するとして、商標法36条により、上記販売行為の差止め等を求める請求を追加する旨の訴えの変更に対し、一審被告は、原告商標1−2が、従来の請求(原告商標権1、2に基づく被告標章3、4に係る請求)に係る原告商標1、2とステッチの形状の差異が著しいから、請求の基礎を変更するものであり、かつ、平成8年法律第68号による改正前の商標法の下において、原告商標1と連合商標として登録されていた原告商標1−2に基づき、原判決において原告商標1との類似性が認められなかった被告標章3、4の使用行為の差止め等を求めることが権利の濫用に当たること等の審理のため、著しく訴訟手続を遅滞させることになるとして、訴えの変更が許されるべきではない旨主張する。 しかしながら、原告商標1−2は、原告商標1、2と構成上共通する部分が少なくないのみならず、その商標権の存在の審理に多くの訴訟資料を要するものではなく、さらに、追加された請求において販売行為の差止め及び廃棄を求める対象が被告標章3、4を付した被服であることは、上記従来の請求の場合と変わりがないから、追加された請求は、上記従来の請求と、密接に関連する社会的関係に起因するものであり、訴訟資料の多くを共通にするものとして、請求の基礎に変更がないものと認めるのが相当である。 また、仮に、上記事由に基づく権利濫用の主張がされたとしても、その内容に照らして、その点の審理に不相当な時間を要すると予想されないこと(なお、一審被告は上記事由に基づく権利濫用の主張をしていない。)のほか、訴えの変更がされた時期にかんがみれば、訴えの変更により著しく訴訟手続を遅滞させるということもできない。 したがって、上記訴えの変更は許されるべきものである。 (2) 商標的使用について 一審被告がその製造販売する被告ジーンズのバックポケット部分に被告標章3、4を付して使用していることは当事者間に争いがなく、そうとすれば、一審被告は被告標章3、4の商標的使用をしているものと認めることができる(商標法2条1項、3項1号、2号)。 一審被告は、被告標章3、4を、バックポケットのステッチとして、装飾的に使用しているのであって、商品の識別標識として使用しているわけではないとし、また、需要者がジーンズを購入する際にバックポケットのステッチを部分的に見ることによってそのブランド(出所)を判断をするものではない旨主張するが、バックポケットのステッチがジーンズの出所識別標識としての機能を有すること、需要者がジーンズを購入する際にも、バックポケットのステッチによってその出所を判断するものではないとは認められないことは上記のとおりであり、一審被告の上記主張は採用することができない。 (3) 類似性について ア 原告商標1、1−2と被告標章3、4とを対比するに、被告標章3、4は、ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって、バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものである。 この両部分のうち、バックポケット外周に沿う2本の線の部分は、概ねバックポケット自体の形状を表しているにすぎないものではあるが、前掲「メンズモード事典」(甲第37号証)によれば、この部分自体の形状についても様々なバリエーションが存在することが認められるから、この部分に識別力が存在しない(すなわち、バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分のみが要部である)ということはできない。そして、バックポケット外周に沿う2本の線の部分とバックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とは、同一のバックポケット上に、同じように形成されたステッチからなるものであって、部分的に交差していること等にかんがみ、上記両部分は、一体として、その識別力を形成するものと認められ、全体を不可分のものとして対比することが相当である。 そうとすれば、原告商標1、1−2と被告標章3、4とは明らかに構成を異にするものであって、非類似であると認められる。 イ 次に、原告商標2と被告標章3、4とを対比すると、両者は、ポケット形状の外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、ポケット形状の左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであり、ポケット形状の内部に形成された部分は、ポケット形状の左右各辺からポケット形状の内部に向かうそれぞれが2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ、計二つ形成され、それぞれのアーチがポケット形状の内部において次第に下降して結合する形状からなる点で共通であり、また、細部の形状において、ポケット形状の外周に沿う2本の線が、上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの、左右各辺に沿う部分においては、上方が下方よりも間隔が広がっているという点で共通する。 しかしながら、原告商標2と被告標章3、4とは、ポケット形状の内部の左右のアーチを形成するそれぞれ2本の曲線が、原告商標2においてはほぼ平行であるのに対し、被告標章3、4においてはポケット形状の左右の各端部で2本の曲線の間隔が広く、ポケット形状の内部の左右のアーチが結合する位置に近づくほどその間隔が狭くなって平行ではない。また、上記左右の各アーチが、原告商標2においてはポケット形状の横方向中央において結合し、横方向中央に想定される縦軸について線対称であるのに対し、被告標章3、4においては、左右のアーチの結合する位置がポケット形状の横方向中央ではなく、左右の各辺のいずれか一方に寄っており、その結合位置とポケット形状の左右の辺との間隔が狭い方に形成されるアーチは、左右の端部から、内部の結合位置に向かいほぼ下向きの曲線によってなるが、結合位置とポケット形状の左右の辺との間隔が広い方に形成されるアーチは、ポケット形状の左右の他一方のアーチより下方で概ね結合位置と同程度の高さの位置を端部とし、ポケット形状の内部に向かいいったん上昇するが、他一方のアーチの端部の高さにまでは至らないうちに下降して結合位置に至るものであって、このような左右各アーチの形状の違いにより、各アーチの大きさが明りょうに異なり、かつ、左右のアーチが、全体としてポケット形状の上辺に対し斜めに(小さい方のアーチが上方に)形成されているように表現されている点において差異がある。これらの差異点は、原告商標2及び被告標章3、4において、それぞれ一見して看者の目を惹くバックポケット内部の二つのアーチの基本的形状を規定する点における差異であるから、両者の基本的構成態様における差異点といわざるを得ない。さらに、両者は、細部の形状において、二つのアーチがバックポケット内部において結合する位置における形状が、原告商標2においては、アーチを形成する2本の線によって縦長のひし形を形成し、その中央に横線が設けられているのに対し、被告標章3、4においては、二つのアーチを形成するそれぞれ2本の線のうち、上側の線同士は互いに交差するものの、下側の線同士は結合せず、かつ、大きい方のアーチの上側の線と小さい方のアーチの下側の線とはいったん交差した後横線によって結合し、「W」字状の下に上向きの小三角形が形成されている点、バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がりの程度が、原告商標2より被告標章3、4の方が大きい点で差異を有するものである。 そして、これらの共通点及び差異点について見るに、原告商標2と被告標章3、4の基本的構成態様において、共通点に包摂されない顕著な差異があって、これらを離隔的に観察する場合においても、それぞれ別異の印象を看者に与えることは明白であるといわざるを得ず、細部の形状における各共通点及び各差異点を総合考慮しても、両者は全体として非類似であるというべきである。 ウ したがって、原告商標権1、1−2、2に基づき、被告標章3、4を対象とする請求は理由がない。 5 争点5(原告商標権3に基づく被告標章5に係る請求)について 原告商標3は「501」の、被告標章5は「505」の、いずれも特徴のない字体による数字によってなるものであるところ、これらが非類似と認められることは、上記2(争点2について)の(2)に、原告標章3と被告標章5について述べたと同様である。 したがって、原告商標権3に基づき、被告標章5を対象とする請求は理由がない。 6 争点6(原告商標権4に基づく被告標章6、7、10に係る請求)について 原告商標4は、黒色網目の入った四角形内部の中央より左寄りに赤色の縦長長方形が配置され、その長方形内部に白抜きで「LEVI'S」の欧文字を縦書きした構成よりなる平面商標であり、その構成上、「LEVI'S」の文字部分から、「リーバイス」との称呼が生じ、また、上記のとおり、それが一審原告の著名な略称であるから、一審原告(米国リーバイス社)の観念を生ずるものと認められる。 他方、被告標章6、7、10は、赤色又はオレンジ色の地のタブで、「EDWIN」の文字が記載されたものであり、外観、観念及び称呼のいずれにおいても原告商標4と類似するとはいえないから、被告標章6、7、10は、全体として原告商標4と非類似というべきである。 なお、一審原告は、原告商標4につき、指定商品のジーンズに対して対照的な鮮やかな赤色をしており、かつ、被服の外側に縫い付けられた状態という特殊な外観を有するものであって、離隔的観察においては、文字部分はほとんど印象に残らないから、文字部分以外の要素の有する上記特徴を要部として理解すべきである旨主張する。 しかしながら、原告商標4において赤色であるのは縦長長方形部分のみであり、その周囲の四角形部分は黒色の網目地であるのみならず、赤色がその指定商品(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第17類「被服、布製身回品、寝具類」)の色と対照的であるかどうかは使用する指定商品との関係で定まるものである。また、たとえ離隔的観察をする場合でも、文字部分が印象に残らないということはできず、文字部分以外の要素の有する特徴を要部として理解すべきである旨の一審原告の主張が、「LEVI'S」の文字部分が要部ではないとの趣旨であれば、採用することができない。 したがって、原告商標権4に基づき、被告標章6、7、10を対象とする請求は理由がない。 7 争点7(権利濫用)について (1) 一審被告の権利濫用の主張に対し、一審原告は時機に後れたものとして、その却下の申立てをするが、一審被告が、当該権利濫用を基礎付けるものとして主張する事実の多くは従前すでに主張していた事実であり、当該主張はこれらの事実に基づき権利濫用の法的構成をしたともいえるものであって、その立証のため新たに人証の尋問等を要するものではない。そうすると、一審被告の当該主張は時機に後れたものということができないから、一審原告の上記申立ては理由がない。 (2) 一審被告が、被告標章1、2を、昭和59年から被告ジーンズのバックポケット部分に付して使用していることは当事者間に争いがなく、また、被告標章1のタブ部分に「SOMETHING」との記載があることに照らして、一審被告は、被告標章1、2を「SOMETHING」とのブランドの商品に用いてきたことが推認され、このことは一審被告の自認するところでもある。 そして、昭和62年9月5日から平成8年10月5日までの間に発行された「ノンノ」その他の雑誌(乙第204〜第301号証)には、「SOMETHING」ブランドの被告ジーンズの宣伝広告又は紹介記事が継続して掲載されており、また、株式会社矢野経済研究所発行の「ジーンズ白書」1990年版〜2000年版(乙第318〜第328号証)に掲載されているジーンズのブランド別売上高ランキング表には、「SOMETHING」ブランドの被告ジーンズが、年間約57〜80億円の売上高を挙げ、2.9〜3.9%のシェアを占めていることが記載されている(ただし、シェアの記載があるのは1990年版〜1995年版のみ)。 これらの事実によれば、「SOMETHING」ブランドの被告ジーンズは、平成8年当時においてすでに需要者に広く知られていたものと認められ、また、一審原告が、同年6月21日に一審被告に警告状を送付するまで、被告標章1、2の使用について警告等の措置を執らなかったことは、一審原告において明らかに争わないところである。 しかしながら、昭和59年当時、原告標章1、2が原告の商品等表示として需要者に広く認識され、周知となっていたこと、被告標章1、2が、彼我の共通点により原告標章1、2及び原告商標2に類似するとの強い印象を看者に与えることは上記のとおりであり、これらの事実は当然一審被告においても認識し、あるいは認識し得るものと推認される。また、一審原告は、もとより本訴において「SOMETHING」の商品等表示それ自体の使用の差止等を求めるものではなく、「SOMETHING」ブランドの被告ジーンズに使用されている被告標章1、2の使用の差止めを求めるにすぎないのであり(その余の一審原告の請求がいずれも理由がないことは上記のとおりである。)、これらの事実を併せ考えれば、上記のように、一審原告が一審被告による被告標章1、2の使用に対し適切な措置を執らないまま期間が経過するうちに、「SOMETHING」ブランドの被告ジーンズが需要者に広く知られるに至ったからといって、原告標章1、2又は原告商標2に基づき、被告標章1、2の使用の差止めを求める請求をすることが、直ちに権利濫用に当たるものということはできず、他に、これを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。 (3) そうすると、一審原告が一審被告に対し、原告標章1、2を一審原告の商品等表示とし、不正競争防止法2条1項1号及び3条に基づき、被告標章1、2を付した被服の販売行為の差止め及び当該被服の廃棄を求める請求は理由がある。 8 以上の次第で、一審原告の請求中、一審被告に対し、原告標章1、2を一審原告の商品等表示とする被告標章1、2に係る不正競争防止法に基づく請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、一審原告及び一審被告の各控訴を棄却し、一審原告の当審で追加した請求は理由がないから、これを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条、67条1項を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利 |
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