判例全文 line
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【事件名】石油精製技術書をめぐる著作者人格権侵害事件
【年月日】平成13年12月25日
 東京地裁 平成13年(ワ)第788号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年10月5日)

判決
原告 A
訴訟代理人弁護士 菊池武
被告 B
被告 株式会社コスモ総合研究所
上記被告ら訴訟代理人弁護士 佐野隆雄
同 村上久
同 高橋成明
同 佐久間学
被告 エルゼビア・サイエンス株式会社
訴訟代理人弁護士 福島栄一
同 宮崎裕子
同 米津航


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告エルゼビア・サイエンス株式会社は、別紙被告書籍目録記載の各書籍を販売、頒布してはならない。
2 被告B及び被告株式会社コスモ総合研究所は、原告に対し、各自金7000万円及びこれに対する平成13年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告B及び被告株式会社コスモ総合研究所は、原告に対し、別紙謝罪広告目録(日本語文)記載の謝罪広告を日本経済新聞の全国版に、別紙謝罪広告目録(英語文)記載の謝罪広告をニューヨークタイムス及びテレグラフの各全国版に、標題部を写植13級活字で、その余の部分を写植11級活字で、各1回掲載せよ。
第2 事案の概要等
1 争いのない事実等
(1) 当事者
ア 原告は、昭和36年4月に丸善石油株式会社(以下「丸善石油」という。)に入社した。
 昭和61年4月、丸善石油、大協石油株式会社及び両社の精製子会社が合併して、コスモ石油株式会社(以下「コスモ石油」という。)が設立された。
 原告は、昭和56年4月から昭和62年3月まで、丸善石油(コスモ石油)中央研究所の燃料プロセス部門第2グループ長(昭和57年3月以降は、「第1研究室第2グループ長」、昭和61年4月以降は、「プロセス研究室触媒研究グループ長」と改称)であった。
 原告は、平成10年5月31日、コスモ石油を退職した。
イ 被告株式会社コスモ総合研究所(以下「被告コスモ総研」という。)は、昭和63年1月、コスモ石油の研究部門が独立して設立された、石油の生産、精製、貯蔵、流通等に関する技術開発、調査研究及びその受託等を目的とする株式会社である。
ウ 被告Bは、昭和58年4月1日、丸善石油中央研究所の第1研究室長(昭和61年4月以降は「コスモ石油中央研究所プロセス研究室長」)に着任し、昭和61年10月には、コスモ石油中央研究所副所長、昭和62年4月には、同研究所所長となり、被告コスモ総研の常務取締役を経て、平成6年9月に退職した。
エ 被告エルゼビア・サイエンス株式会社(以下「被告エルゼビア」という。)は、出版物の輸出入等を目的とする株式会社である。
(2) 本件書籍と被告各書籍
ア 別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)には、原告、C、Dの3名の氏名が記載されている。本件書籍は、昭和63年3月に開催された米国石油精製業協会の年次総会に際して発表された。
イ 別紙被告書籍目録(1)記載の書籍(以下「被告書籍(1)」という。)には、被告B、C、Dの3名の氏名が表示されている。被告書籍(1)は、昭和63年5月28日から同年6月1日の間にオランダで開催された「1988年ケッツェン触媒シンポジューム」において発表された。
 また、別紙被告書籍目録(2)記載の書籍(以下「被告書籍(2)」といい、被告書籍(1)と併せて「被告各書籍」という。)には、被告B、C、Eの3名の氏名が表示されている。被告書籍(2)は、平成元年に発行された「Studies in Surface Science and Catalysis」(表面科学と触媒の研究)第44巻291−298頁に掲載された。
2 事案の概要
 本件は、原告が、「(1)原告は、本件書籍の共同著作者である、(2)被告Bは、本件書籍に依拠して被告各書籍を作成し、発表した、(3)被告コスモ総研企画部の担当職員及び担当役員は、被告各書籍の作成、発表を被告Bと共謀して行った、(4)被告各書籍を作成し、発表した行為は、原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害する。」と主張して、同被告らに対し、損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めると共に、被告エルゼビアに対し、被告各書籍の販売、頒布の禁止を求める事案である。
3 本件の争点
(1) 原告が本件書籍の著作者であるかどうか
(2) 被告B及び被告コスモ総研による原告の著作者人格権侵害行為の有無
(3) 本件請求に係る損害賠償請求権及び名誉回復措置請求権は消滅時効により消滅したかどうか
(4) 損害の存否及び額
(5) 原告の被告エルゼビアに対する差止請求の成否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【原告の主張】
(1) 原告は、触媒開発に関する研究成果に基づき、同じプロジェクトチームの研究員であったC及びDと共に、本件書籍を作成し、昭和63年3月に行われた米国石油精製業協会の年次総会要旨集に掲載発表した。この論文は、原告、C及びDの共同著作物である。
(2) 本件書籍は、残油水素化分解技術の理論を説明した叙述(以下「叙述」という。)と、原告がC及びDと協力して行った残油水素化分解技術の実験データを示した図表(以下「図表」という。)より構成される。そして、これらの叙述及び図表は、革新的な石油精製技術に関する極めて創作的な表現であり、著作権法上の著作物に該当する。
(3) 本件書籍には、原告、C、Dの3名が著作者として表示されているから、著作権法14条により、これら3名が著作者と推定される。
(4) 本件書籍は、コスモ石油の著作名義の下に公表されるものではないので、職務著作物ではない。
【被告B及び同コスモ総研の主張】
(1) 本件書籍の著作者は原告ではない。
ア 本件書籍は、被告B、D、Cら原告以外の者が協力して作成したものである。日本語文の執筆者は、昭和63年3月に行われた米国石油精製業協会における講演の発表者であったDであり、Cが加筆訂正し、被告Bが全体の監修補足をして作成された。原告は、本件書籍の作成に一切関与していない。
イ 本件書籍の内容は、その大部分が、重質油対策技術研究組合(以下「本件組合」という。)「残油水素化分解第2グループ」甲研究室(昭和58年4月以降は、本件組合「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発グループ」甲研究室・乙研究室)が行った研究開発のうち実用化技術の開発研究及び工場実装置における実証化研究の実績に係るものであり、これらの実用化技術の開発研究・実証化等は、丸善石油中央研究所第1研究室(昭和61年4月以降は「コスモ石油中央研究所プロセス研究室」)第1グループによって主導実施されていた。しかし、原告は、同グループには所属していなかった。
ウ 原告の名前が本件書籍に記載されているのは、上記実用化・実証化開発研究の担当者と共に縁の下の努力をした基礎研究グループの名誉を尊重する意味で、当時の慣行により、前記第2の1(1)アのとおり、同グループの責任者(グループ長)であった原告の名前を挙げたにすぎない。
(2) 本件書籍は、コスモ石油の職務著作物である。
ア 本件書籍は、コスモ石油の発意に基づき、同社の業務に従事する被告B、C、Dらにおいて職務上作成された著作物であって、同社の名義の下に公表されるものであるから、コスモ石油の職務著作物である。
イ 本件書籍は、本来コスモ石油の名前を記載して発表すべきであったが、米国石油精製業協会の年次大会やその他の学会等においては、法人名や団体名での発表が認められていないため、開発研究に直接又は間接的に関与した多数の者のうちの一部の者の個人名を記載している。そして、本件書籍には、単にCら3名の名前が記載されているのではなく、「コスモ石油株式会社 研究開発センター」の名称が記載されており、Cら3名の所属部署も記載されている。したがって、本件書籍にCらの名前が記載されていることは、本件書籍がコスモ石油の「名義の下に公表されるもの」であることの妨げとはならない。
ウ なお、本件書籍作成当時、コスモ石油の就業規則等において職務著作に関する別段の定めはなかった。
(3) 以上によると、原告は、本件書籍の著作者ではない。
2 争点(2)について
【原告の主張】
(1) 被告Bは、自らを筆頭著者としてC及びDとの共著の形で、被告書籍(1)を作成し、前記第2の1(2)イのとおり発表した。
 また、被告Bは、自らを筆頭著者としてC及びEとの共著の形で、被告書籍(2)を作成し、前記第2の1(2)イのとおり発表した。
 これら2つの論文は、被告B、C及びD又はEの共同著作物である。
(2) 本件書籍と被告書籍(1)とを対比してみると、別紙「対比表」のとおり、被告書籍(1)には、本件書籍の叙述及び図表と全く同一又は極めて類似したものがそのまま用いられている。
 また、本件書籍と被告書籍(2)とを対比してみると、別紙「対比表」のとおり、被告書籍(2)には本件書籍に記載された図表と全く同一又は極めて類似したものがそのまま用いられている。
(3) 被告Bは、本件書籍には何らの関わりも持たなかったにもかかわらず、原告に無断で、原告の名前を隠匿しつつ自分の名前を筆頭著作者として、本件書籍に基づいて本件書籍を改変して被告各書籍を作成し、発表した。
 このような被告Bの行為は、本件書籍に関する原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するものである。
(4) 被告コスモ総研の研究活動の発表に関しては、機密保持並びに発表内容の事前審査及び発表事項の管理把握のために、対外研究活動に関する管理規定が制定されており、被告各書籍もその対象となっていた。同管理規定によれば、被告コスモ総研における研究活動を社外に発表しようとするものは、社外発表許可申請書に所要事項を記入し、それを被告コスモ総研企画部に提出して、同部の代表者の承認を受けた後、さらに担当役員の決済を受けることとされていた。
 原告の研究業績については、被告コスモ総研企画部の担当職員及び担当役員の熟知するところであり、また、被告各書籍の作成及び発表に際して、被告コスモ総研企画部の担当職員及び担当役員は、その内容、記載などに十分検討を加える立場にあった。実際に被告コスモ総研企画部の担当職員及び担当役員は、被告各書籍の内容に十分な検討を加え、それらの対外発表を許可したのである。したがって、被告コスモ総研企画部の担当職員及び担当役員は、被告Bが本件書籍に基づいて原告に無断で被告各書籍を作成することを被告Bと共に共謀したといえるから、被告コスモ総研は、民法715条に基づき責任を負う。
【被告B及び同コスモ総研の主張】
(1) コスモ石油においては、昭和62年ないし昭和63年当時、自社開発触媒の販売促進を目的として、開発研究の成果を発表することとした。
 そこで、本件組合「残油水素化分解第2グループ」甲研究室(昭和58年度以降は、本件組合「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発グループ」甲研究室・乙研究室)の本件組合に対する「試験研究成果報告書」をとりまとめた上で英訳したものを作成し、それに基づいて、前記第2の1(2)イ記載の米国石油精製業協会の年次総会及びケッツェン触媒シンポジューム並びに昭和63年7月にドイツで開催された世界触媒セミナーにおいて発表することを計画した。
 本件書籍及び被告書籍(1)、(2)は、それぞれ米国石油精製業協会の年次総会、ケッツェン触媒シンポジューム、世界触媒セミナーにおいて発表するために、上記試験研究成果報告書に基づいて作成したものである。
 上記試験研究成果報告書は、丸善石油(昭和61年4月以降はコスモ石油)の発意に基づいて、同社の業務に従事する者が同社の試験研究の実績に基づいて職務上作成した著作物であって、本件書籍及び被告各書籍は、その複製物又は2次的著作物である。
(2) 上記1【被告B及び同コスモ総研の主張】(3)において述べたとおり、本件書籍は、本来コスモ石油の名義の下に発表されるべきものであったが、法人ないし団体名での発表ができず、当該書籍に関与した多数の者を記載することもできないため、基礎研究グループの責任者であった原告の名前を記載したものである。被告各書籍についても、それらを3名の名義で公表したことには、同様の事情が存する。
(3) 被告B、C、D及びEは、本件組合「残油水素化分解第2グループ」甲研究室(昭和58年4月以降は、本件組合「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発グループ」甲研究室・乙研究室)が行った研究開発に関与しており、被告B及びCは、本件書籍及び被告各書籍を作成し、Dは、本件書籍及び被告書籍(1)を作成し、Eは、被告書籍(2)を作成した。
(4) 以上の(1)及び(2)の事情からすると、仮に原告が本件書籍の共同著作者の1人であったとしても、本件書籍については、コスモ石油において本件書籍と同種の文書を、コスモ石油が選択する者の名義を付して公表することは差し支えないという黙示的な条件又は制約が付されているというべきである。
 また、仮に、このような黙示的な条件又は制約が認められないとしても、以上の(1)ないし(3)の事情からすると、被告各書籍に原告の名前が表示されていないからといって、本件書籍に係る原告の著作者人格権が侵害されたことにはならない。
3 争点(3)について
【被告B及び同コスモ総研の主張】
 原告は、遅くとも平成4年5月ころまでには被告各書籍の存在及びその内容を知っていた。したがって、本件請求に係る損害賠償請求権及び名誉回復等措置請求権は、遅くとも平成7年6月には消滅時効が完成しているから、被告B及び同コスモ総研は、これを援用する。
【原告の主張】
 被告らの主張は争う。
 原告が、被告各書籍の存在を知ったのは、平成10年3月31日ころである。
4 争点(4)について
【原告の主張】
(1) 原告は、被告B及び被告コスモ総研の共同不法行為により、多大なる精神的苦痛を被り、名誉を著しく毀損された。原告の精神的苦痛に関する損害額は、7000万円を下らない。
(2) また、被告B及び被告コスモ総研は、別紙謝罪広告目録記載どおりの謝罪広告をすべきである。
【被告B及び同コスモ総研の主張】
 原告の主張は争う。
5 争点(5)について
【原告の主張】
 被告エルゼビアは、被告書籍(2)が掲載された「Studies in Surface Science and Catalysis」(表面科学と触媒の研究)第44巻を、被告書籍(2)が原告の権利侵害のもとに作成されたものであることを知りながら、平成元年に日本を含んだ全世界で販売、頒布した。この被告エルゼビアによる行為は、著作権法第113条1項2号により、原告の著作者人格権を侵害する行為に該当するものである。
 したがって、原告は、被告エルゼビアに対して、被告各書籍の販売、頒布の差止めを求める。
【被告エルゼビアの主張】
 被告は、被告書籍(2)が掲載された「Studies in Surface Science and Catalysis」(表面科学と触媒の研究)を、販売、頒布したことはない。上記雑誌を日本において販売、頒布したのは、被告エルゼビアの関連会社であるオランダ法人のエルゼビア・サイエンス・パブリッシャーズ・B.Vの日本における販売代理店である丸善株式会社他数十社であり、被告エルゼビアは、その販売、頒布に関与していない。また、本件書籍(2)が「原告の権利侵害のもとに作成されたものであることを知りながら」販売頒布したこともない。
第4 争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 上記争いのない事実並びに証拠(甲1ないし3、乙1の1ないし12、乙2の1ないし6、乙4ないし7)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 昭和54年6月に設立された本件組合「残油水素化分解第2グループ」甲研究室は、昭和54年7月ころから昭和58年3月まで、丸善石油中央研究所において、「高硫黄・高金属常圧残油の水素化分解触媒の開発」の研究を行った。そして、当該触媒開発の研究成果に基づいて、昭和58年4月から昭和63年3月まで、本件組合「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発グループ」甲研究室・乙研究室は、丸善石油(コスモ石油)中央研究所及び千葉製油所において、上記触媒開発の成果の実用化の研究を行った。
 上記研究を丸善石油(コスモ石油)中央研究所において担当していたのは、燃料プロセス部門(昭和57年3月以降は「第1研究室」、昭和61年4月以降は、「プロセス研究室」と改称した。)であった。同部門(同研究室)には、「第1グループ」、「第2グループ」等があった。「第1グループ」は、主に「触媒の性能評価」(パイロットプラントによる触媒性能の評価)、「触媒の実用化開発」(工業触媒としての性能を高める実用化技術の開発研究)及び「プロセス研究」(効率的石油精製プロセスの開発研究)を担当しており、「第2グループ」は、主に「触媒研究」(触媒の基礎的学理的研究)及び「触媒開発」(新規触媒の開発)を担当していた。
イ 原告は、昭和56年4月、丸善石油中央研究所の燃料プロセス部門第2グループ長になり、同年9月から昭和58年3月までは、本件組合「残油水素化分解第2グループ」甲研究室の統括責任者であった。
 原告は、前記第2の1(1)アのとおり、昭和62年3月まで、第2グループ長(触媒研究グループ長)を務めた。
 その後、原告は、昭和62年4月から昭和63年4月まで、コスモ開発株式会社本社調査研究部に、昭和63年4月から平成元年3月までは、被告コスモ総研本社企画部にそれぞれ出向した。
ウ 被告Bは、昭和58年4月、丸善石油中央研究所の第1研究室長になった。
 Cは、昭和57年4月、丸善石油中央研究所の第1研究室第1グループ長になった。
 Dは、原告が昭和56年4月にグループ長になった丸善石油中央研究所の燃料プロセス部門(第1研究室)第2グループに属していたが、昭和58年4月以降は、Cがグループ長である第1研究室(プロセス研究室)第1グループに移り、昭和62年4月には、グループ長になり、平成元年6月に転出した。
エ 昭和60年ころから、丸善石油では、上記のとおり研究開発した新しい触媒を販売することを計画し、それを側面から支援する目的で、米国石油精製業協会の年次総会(昭和63年3月開催)、ケッツェン触媒シンポジューム(昭和63年5月開催)及び世界触媒セミナー(昭和63年7月開催)において、講演発表することとした。
 本件書籍は、米国石油精製業協会の年次総会における講演発表のために作成されたものであり、また、被告書籍(1)は、ケッツェン触媒シンポジュームにおける講演発表のために作成されたもの、被告書籍(2)は、世界触媒セミナーにおける講演発表のために作成されたものである。
オ 本件書籍の内容は、概ね以下のとおりである。
【緒論】
(ア)図1 新規プロセスのフローダイアグラム
a 残油水素化分解プロセス(RHC)
b 減圧ガスオイル水素化分解プロセス(GHC)
(イ)図2 デモンストレーションテスト運転の経緯
(ウ)表1 デモンストレーションに使用した装置
【残油水素化分解ステージ(RHCステージ)】
(ア)RHCステージのコンセプト
a 図3 操業温度と水素化分解率の一般的関係
b 図4 高温領域での活性低下がより少なく長期期間運転達成できる触媒を開発することが主な目的であること
(イ)RHC触媒の特徴
a 表2 それぞれのRHC触媒特性
b 表3 3種のRHC触媒(MZC−2、MZC−3、MZC−500)の特徴
(ウ)MZC−2触媒のパイロットプラントでの成績
 図5 パイロットプラントにおけるMZC−2触媒評価結果の一例
(エ)MZC−3触媒のパイロットプラントでの成績
 図6 パイロットプラントにおけるMZC−3触媒評価結果の一例
(オ)MZC−500触媒の成績
 図7 MZC−500触媒評価結果の一例
(カ)組合せ触媒のパイロットプラントでの成績
 図8 2種類の組合せ(MZC−2とMZC−3及びMZC−2とMZC−3とMZC−500)のテスト結果
(キ)デモンストレーションテスト運転の成績(RHCステージ)
a 図9 1年間を通じての典型的運転成績
b 表4 典型的原料油と製品油特性
c 図10 各運転の平均成績
(ク)RHCステージの特徴
1)中間蒸留分の高得率
2)高脱硫
3)十分な製品品質
4)低水素消費
【減圧ガスオイル水素化分解ステージ(GHCステージ)】
(ア)GHC触媒の特徴
a 図11 RHCステージでの得率解析データの一例
b GHC触媒の特徴
1)RHC減圧ガスオイルの高い水素化分解活性
2)中間蒸留分の高い選択性
3)低い水素消費
4)長い触媒寿命
5)高い脱硫
c 表5 MZC−600の特性
(イ)デモンストレーションテスト運転成績(GHCステージ)
 表6 典型的な原料油と製品特性
【RHC/GHC組合せプロセスの成績】
(ア) 表7 通常のHDS触媒による通常のARーHDS運転、新規開発触媒によるRHCとRHC/GHC組合せ運転の製品得率年間平均データ
(イ) 図12 水素化分解プロセスの経済性に影響する水素消費データ
【結論】
 RHC/GHC組合せプロセスの特徴
1)中間蒸留分の高い総合得率
2)反応器改造なしの既存装置活用
3)市場需要に合致した製油所運用のさらなる柔軟性
4)低水素消費
5)十分な製品品質
6)FCC原料のより多量の獲得   
カ 本件書籍の作成は、昭和62年秋から開始され、Dが、原稿を執筆し、被告B及びCが手を入れたり、意見を述べたりした。Dは、これらの添削や意見を考慮して、最終的な原稿を完成させた。原告は、本件書籍の原稿の作成に全く関与していない。
 Dが作成した本件書籍の作成途中の原稿(乙1の12)の内容は、以下のとおりであり、本件書籍の内容とよく符合している。
【緒論】
(ア)図1 開発したプロセスの概要
a 1段目のプロセス RHC
b 2段目のプロセス GHC
(イ)図2 商業化運転のhistory
(ウ)表1 装置の仕様
【RHCステージ】
(ア)RHCステージのコンセプト
a 図3 直脱装置における運転温度と分解率の関係
b 図4 直脱装置本来の脱硫機能を維持しつつ高温領域で長期運転が可能な触媒を開発することがRHCステージの課題である。
(イ)RHC触媒の特徴
a 表2 RHC触媒の性状
b 表3 3タイプのRHC触媒の特徴
(ウ)MZC−2触媒のパイロットプラントでの成績
 図5 MZC−2触媒のパイロットプラントによる評価結果の一例
(エ)MZC−3触媒のパイロットプラントでの成績
 図5 MZC−3触媒のパイロットプラントによる評価結果の一例
(オ)MZC−500触媒の成績
 図6 MZC−500触媒の評価結果
(カ)組合せ触媒のパイロットプラントでの成績
 図7 3タイプの組合せ触媒についてのパイロットプラントにおける試験結果の一例
(キ)RHC触媒の商業化運転の成績
a 図8 代表的なRUNの1年間の運転実績
b 表4 実用化運転における代表的な原料油と生成油の性状
c 図9 年平均の運転結果
(ク)RHCステージの特徴
1)中間蒸留分の高得率
2)VGOの高得率
3)高脱硫
4)十分な製品品質
5)低水素消費
6)安価な触媒
【GHCステージ】
(ア)GHC触媒の特徴
a 図10 RHCステージでの生成物パターンの一例
b GHC触媒の特徴
1)RHCステージ生成減圧ガスオイルの分解率が高い
2)中間留分の選択率が高い
3)水素消費量が少ない
4)触媒寿命が長い
5)LGOからVGOまでの脱硫用としても使用可能である
c 表5 MZC−600触媒の性状
(イ)GHC触媒の商業化運転の成績
 表6 商業化運転の代表的な原料油と生成油の性状と得率
【RHC/GHC組合せプロセスの商業化運転の成績】
(ア)表7 従来の直脱運転、RHC運転及びRHC/GHCコンビネーション運転の年平均製品収率データ
(イ)図11 水素分解プロセスの経済性に大きく影響を及ぼす水素消費量の比較データ
【結論】
 RHC/GHC組合せプロセスの特徴
1)中間蒸留分の高い得率
2)少ない改造による既存装置活用
3)市場需要に合致した製油所運用のさらなる柔軟性
4)経済的な水素化分解
5)十分な製品品質
6)高品質FCC原料の獲得   
キ 本件組合「残油水素化第2グループ」甲研究室(昭和54年度から昭和57年度まで)及び本件組合「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発グループ」甲研究室・乙研究室(昭和58年度から昭和62年度まで)は、各年度の試験研究成果報告書(以下「本件報告書」という。乙2の1ないし6)を発行した。
 本件書籍の表や図の記載には、本件報告書と同一の内容のものや内容が共通のものが次のとおり存する。
(ア)本件書籍表1の内容は、昭和61年度の本件報告書(乙2の5)ハ−1−1頁「残油水素化分解技術の第2テーマ実用化開発 8.試験研究の内容」本文に記載されている内容とほぼ同一である。
(イ)本件書籍表2のうち、「MZC−2」に関しては、その代表性状が、昭和58年度の本件報告書(乙2の3)ニ−1−50頁「表9.3.4 実用化開発触媒(MZC−2A)の代表性状」の記載と共通しており、「MZC−3」に関しては、その代表性状が、昭和59年度の本件報告書(乙2の4)ハ−1−40頁「表9.3.4 実用化開発触媒(MZC−3A)各ロットの性状および代表性状」の記載(規格84−1触媒)と共通しており、「MZC−500」に関しては、その代表性状が、昭和61年度の本件報告書(乙2の5)ハ−1−48頁「表9.3.7 実用化開発触媒(MZC−502B)各ロット性状」の記載(製造規格86−1触媒)と共通している。
(ウ)本件書籍図1については、昭和61年度の本件報告書(乙2の5)ハ−1−84頁に「図9.3.36 残油リサイクル時の収率」と題する模式図があり、また、同書のハ−1−127頁の(8)ないし(10)の記載内容と共通している。
(エ)本件書籍図3の記載は、昭和54年度の本件報告書(乙2の1)ホ−1−40頁「図9.3.4 脱硫率および分解率に及ぼす反応温度の影響」、昭和59年度の本件報告書(乙2の4)ハ−1−58頁図9.3.9「実用化運転における反応温度と分解率の関係」の記載等と共通している。
(オ)本件書籍図5の記載は、MZC−2に関しては、昭和58年の本件報告書(乙2の3)ニ−1−58頁「表9.3.14 長期寿命評価条件」、59頁「図9.3.5 目標触媒(実験室試作)の長期寿命評価運転温度推移図」の記載内容と共通している。
(カ)本件書籍図6は、昭和59年度の本件報告書(乙2の4)ハ−1−43頁「図9.3.1 加速寿命評価における要求温度の推移」とほぼ同一の内容である。
(キ)本件書籍図8のうち、「□:MZC−3/MZC−2」及び「○:MZC−500/MZC−3/MZC−2」の記載は、昭和61年度の本件報告書(乙2の5)ハ−1−53頁「図9.3.4 第三期実用化触媒のミゼット運転における金属堆積量と要求温度の推移」とほぼ同一の内容である。
(ク)本件書籍図9は、ナフサ収率の部分を除いて、昭和61年度の本件報告書(乙2の5)ハ−1−77頁「図9.3.28 第3期実用化実験運転経過」とほぼ同一の内容である。
(ケ)本件書籍図10の記載内容は、昭和62年度の本件報告書(乙2の6)ロー62頁「表9.2.23 実用化試験運転の性能比較」における「平均WABT(℃)」及び「水素消費量(Nm3/kl)」の各数値とほぼ同一である。
(コ)原告が上記のとおり本件書籍の作成に関与していないにもかかわらず、原告の名前が共同著作者として表示されたのは、丸善石油(コスモ石油)中央研究所の燃料プロセス部門第2グループ(第1研究室第2グループ、プロセス研究室触媒研究グループ)が触媒開発などで貢献したため、同グループ長であった原告の名前を表示したものである。
(2) 上記(1)で認定した事実によると、本件書籍は、米国石油精製業者協会の年次大会における講演発表のために、昭和62年秋ころから、Dが、被告BやCの意見を取り入れて、本件報告書等に基づいて作成したものであって、原告は、作成に関与していないものと認められる(図や表など本件書籍の一部についても、原告が作成に関与したことをうかがわせる証拠はなく、原告は、作成に関与していないものと認められる。)。
 著作権法14条は、名前が表示されている者を著作者として推定しているが、上記認定事実からすると、原告は、本件書籍の作成に関与しておらず、本件書籍の表現を創作したということはできないから、推定を覆すに足りる事実が認められ、原告が本件書籍の著作者であるとは認められない。
(3) 原告は、甲第8号証ないし第16号証を提出している。しかし、これらは、MZC−2、MZC−2A、MZC−3、MZC−500、MZC−600といった触媒の開発に関する証拠であり、本件書籍の作成に関するものではない。原告が、上記触媒の開発に関与していたとしても、上記認定のとおり、本件書籍の作成に関与していない以上、原告が本件書籍の表現を創作したということはできないから、著作者であるとは認められない。
2 結論
 以上の次第で、原告の被告らに対する本件請求は、その余について判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸
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