判例全文 | ||
【事件名】ビデオテープ著作権侵害事件 【年月日】平成13年12月18日 東京地裁 平成13年(ワ)第14586号 著作権侵害確認請求事件 (口頭弁論終結日 平成13年11月9日) 判決 原告 A 被告 株式会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 訴訟代理人弁護士 小野寺良文 同 早川学 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨 被告は、原告に対し、金1000円を支払え。 2 請求の趣旨に対する答弁 (本案前の答弁) 本件訴えを却下する。 (本案の答弁) 主文同旨 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(弁論の全趣旨により認められる事実を含む。) (1) 原告は、平成8年9月4日ころ、「スーパードリームボール」のアイディア(以下「原告アイディア」という。)を創出した。 原告は、同日ころ、原告アイディア等を別紙(1)のとおり日本テレビ株式会社に宛てた内容証明郵便(以下「原告手紙」という。)に記載した。 原告は、同日ころ、別紙(2)記載の「黙示スポーツ女」と題する小説(以下「原告小説」という。)を制作した。ただし、原告は、原告小説の一部について特許出願したり、内容証明郵便に記載したことはあるが、それ以外に公表したことはない。 (2) 被告は、平成10年ころから、「デス・ゲーム2025」と題する映画(以下「本件映画」という。)を録画したビデオテープを販売している。 2 本件は、原告が、本件映画は原告アイディア、原告手紙及び原告小説を複製又は翻案したものであって、被告は、本件映画を録画したビデオテープを販売することによって、原告の有する複製権、翻案権、上映権を侵害していると主張して、損害賠償を求めている事案である。 第3 争点及びこれに関する当事者の主張 1 被告の本案前の主張 訴状記載の請求原因は、不明確かつ不十分であって特定されていないから、本件訴えは却下されるべきである。 2 争点 (1) 原告アイディアは著作物か。 (2) 本件映画を録画したビデオテープを販売することが原告手紙及び原告小説の著作権の侵害となるか。 (3) 損害の発生及び額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【原告の主張】 ゲームソフトのアイディアなど斬新なアイディアは著作物というべきであるから、原告アイディアも著作物である。 【被告の主張】 原告アイディアは、アイディアそのものであるから、著作権の保護の対象となる著作物ではない。 (2) 争点(2)について 【原告の主張】 本件映画中で行われているスポーツは、原告手紙及び原告小説中のスポーツと類似している。すなわち、本件映画中のスポーツは、原告手紙及び原告小説中のスポーツを未来型バスケットボールに置き換えて騎馬戦又はチャンバラと融合したものであり、両者はバンクを有するコートで行うこと、ボールを保有する時間が数秒間に制限されていること、宙返りをしながらシュートをすること、選手がローラースケートをはいてプレーを行うこと、選手が鉄の長い棒を持って戦うことなどの点において類似している。 したがって、本件映画を録画したビデオテープの販売は、原告手紙及び原告小説の複製権、翻案権、上映権を侵害している。 【被告の主張】 ア 原告手紙は日本テレビ株式会社宛てに送付されたものであり、原告小説は対外的に発表されたことがない。 本件映画は、米国法人であるNEW STAR MEDIA,INC.が制作したものであり、同社は日本テレビ株式会社とは無関係である。 したがって、本件映画が、未発表の原告小説や、日本テレビ株式会社宛ての原告手紙に依拠して作成されたことはあり得ない。 イ ある著作物が他の著作物の翻案権その他の著作権を侵害したといえるためには、前者から後者を感得し得る程度に、両者の基本的な内容が同一であることが必要であり、例えば映画の著作物と言語の著作物の場合であれば、主題、ストーリー、作品の性格等の基本的な内容が同一であることが必要である。 本件映画は、近未来SFに、恋愛物語及び友情物語の要素を織り交ぜた愛と友情を主題とする映画であり、そのストーリーは、2025年を舞台として、「フューチャースポーツ」と呼ばれる近未来スポーツのスター選手である主人公ラムジーが、米国ハワイ州の独立という政治問題を「フューチャースポーツ」の試合によって解決することを提案し、その解決を図る過程で真実の愛や友情に目覚めるというものである。 これに対し、原告手紙は、単に「スーパードリームボール」というスポーツの内容が記載された文章であって、特段の主題やストーリーを伴っておらず、本件映画とは基本的な内容が全く異なる。 原告小説は、「黙示スポーツ女」、「ケイリン激突レース」、「将棋スポーツ」及び「スーパードリームボール」の説明と木森、真理屋といった登場人物が描かれた部分からなっており、本件映画とは主題、ストーリー、作品の性格等の基本的な内容が全く異なる。 したがって、本件映画から原告手紙や原告小説を感得することはあり得ないから、本件映画は原告手紙及び原告小説の翻案権その他の著作権を侵害していない。 (3) 争点(3)について 【原告の主張】 被告が原告の著作権を侵害したことにより、原告は、1000円の損害を被った。 【被告の主張】 原告の主張を争う。 第4 当裁判所の判断 1 本案前の答弁について 被告は、本案前の答弁として、訴状記載の請求原因が特定を欠くとして訴えの却下を求めるが、原告主張の請求原因は、「原告は、原告アイディア、原告手紙及び原告小説の著作権者であるところ、被告は、本件映画を録画したビデオテープを販売することにより、原告の著作権(複製権、翻案権、上映権)を侵害したので、その侵害行為によって原告が被った損害の賠償を求める。」というものであると解されるから、特定している。 したがって、被告の本案前の主張を採用することはできない。 2 争点(1)について 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることを定めているから、表現を離れた単なるアイディアは著作物とはいえず、著作権法上の保護の対象とはならない。 しかるところ、原告アイディアは、「スーパードリームボール」というスポーツについてのアイディアであって表現ではないから、原告アイディアを著作物ということはできない。 原告は斬新なアイディアは著作物というべきであると主張するが、アイディアがいかに独創的であったとしても、アイディアにすぎない以上、著作物たり得ないことに変わりはないから、原告の主張は採用できない。 3 争点(2)について (1) 本件映画が原告手紙又は原告小説を翻案したものといえるかどうかについて以下判断する。 ア 原告手紙の前半には、スーパードリームボールのルールが記載されており、競技を行うコートは透明のバンクを有していること、ローラースケートをはき、プロテクターをつけた選手が、ハンドボール型のゴールにボールをシュートすること、ボールはピンボールのように跳ね、バウンドすると異常なスピードになり、回転を与えると大きく変化すること、選手はノーバウンドでパスを受けたらバウンドパスを、バウンドパスを受けたらノーバウンドでパスを9秒以内にしなければならないこと、ゴール前10メートルはキーパーゾーンであり、原則としてゴールキーパー以外の選手は入れないこと、コートのバンクを用いてジャンプし、二回転宙返り等回転しながらシュートすること、コートの壁には7つの穴からなるワープゾーンがあり、そこにボールが入ると床下の管を通り不特定の穴から出てくること等が記載されている。 原告手紙の後半には、2チームが対戦する騎馬戦のようなゲームのルールが記載されており、本城王が崩れればゲームが終わること、チームの構成は、兜をかぶった本城王1人、支城王2人、発泡スチロールの棒を持ったサムライ、槍隊、武器を持たない鉄砲、足軽からなること、旗を取ると戦力が増えること、各部隊は本城王又は支城王の指令で戦うこと等が記載されている。 原告小説は、「黙示スポーツ女」の選手でU大キャプテンである木森が、隣に引っ越してきた真理屋という女性と親しくなるが、木森はケイリン激突レースというギャンブルに熱中し、御扉という真理屋の昔の恋人に対する誤解もあって、真理屋とうまくいかなくなる。そして、U大とZ大の決勝の日、木森を試合に出そうとしないU大の監督がZ大に買収されていた事実が露見し、木森がリーダーシップに目覚め、チームメイトを引っ張り、捨て身の攻撃でZ大を追い上げるが、1点差で惜敗する。その頃、真理屋は、木森を諦めて引っ越そうとしていたが、その日の真夜中までと決めて待っているところへ木森がチームメイトと共に真理屋を訪ねるというストーリーであり、その中で、スーパードリームボール、将棋スポーツ、黙示スポーツ女、ケイリン激突レース、ドッチバスケットボール等のスポーツが説明されている。スーパードリームボールの説明は、原告手紙の前半の説明と同じである。将棋スポーツ(上級編)の説明としては、ボールは、足で触れてもよいが、ドリブルをしてはならず、ボールを持って2歩以上歩いたり、2秒以上持っていてはいけないこと、サッカー型ゴールにボールを体ごとタッチする又はシュートすることによって得点すること、ゴールが動くこと、ゴールキーパーがいて、各選手に指示を出すこと等が記載されている。将棋スポーツ(初心者編)の説明としては、ラグビーボールを使用すること、ボールを蹴ることはできないが、手でどの方向にもパスすることができ、タックルされるとボールを2秒以内に離さなければならないこと、サッカー型ゴールにシュートすることによって得点すること、ゴールが動くこと、ゴールキーパーがいて、各選手に指示を出すこと等が記載されている。黙示スポーツ女の説明としては、基本的には将棋スポーツ(初心者編)と同じであるが、14名の選手のうち4名の選手がエンジン付きローラースケートをはいていると記載されている。ケイリン激突レースは、高いブロックの壁がつながったコースで行われる競輪で、2つの違う場所から同時にスタートするので、十字路などで激突すると説明されている。ドッチバスケットボールは、ドッチボールとバスケットボールを合わせた球技であると説明されている。 イ 乙第1、第2号証及び検乙第1号証並びに弁論の全趣旨によると、本件映画は、平成10年に、米国法人であるNEW STAR MEDIA,INC.が制作した邦題「デス・ゲーム2025」という映画(原題「FUTURE SPORT」)であること、その内容は、近未来SFに、恋愛物語及び友情物語の要素を織り交ぜたものであること、ストーリーは、2025年の近未来を舞台として、「フューチャースポーツ」と呼ばれる近未来スポーツのスター選手である主人公ラムジーが、同人を敵視するHLO(ハワイ解放機構)と対立する中で、HLOは米国ハワイ州の独立を掲げて過激なテロ行為に走り、戦争が勃発しようとしていたが、ラムジーはこれをフューチャースポーツの試合によって解決することを提案し、チームメイトや友人の助けで、HLOの妨害を乗り越えて試合に勝利し、平和的解決を実現する過程で真実の愛や友情に目覚めるというものであること、フューチャースポーツは、5人の選手からなるチーム同士がシュート(1点)及びスラムダンク(3点)によって獲得したスコアを競うホッケーにラフファイトを加えたようなスポーツであり、選手はバンクを有するコート内で、飛遊する未来型スケートボード又はローラースケートに乗り、プロテクターを着け、棒を持ち、中央の装置から打ち出されるボールをパスでつなぐなどして(ボールは5秒以内にパスしないと電流が流れてスパークする。)、ボール大の穴があいた円形のゴールに、バンクを利用したジャンプをするなどしてボールを投げ入れてシュートするスポーツとして描かれていることが認められる。 ウ 上記認定の事実によると、原告手紙及び原告小説と本件映画には、共にボールを用いたスポーツが表現されている部分があり、そのスポーツについては、バンクを有するコートで行うこと、選手がローラースケートをはいてプロテクターを着けていること、一定時間内にパスしなければならないこと、バンクを利用したジャンプをするなどしてシュートすることといった共通点があることが認められるが、その限度では、ゲームの内容又はアイデアが共通しているにすぎない。原告手紙及び原告小説と本件映画は、上記以外の主題、ストーリー展開、登場人物の性格付け、作品の性格のすべてにおいて相違し、ボールを用いたスポーツの表現についても、ボール保有の具体的ルール、ボール自体の性状、パスの細かなルール、ゴールの形状・大きさ・移動の有無、キーパーゾーンの有無、ワープゾーンの有無等において相違していることが認められる。 以上によると、原告手紙及び原告小説と本件映画は表現として異なっているから、本件映画の表現から、原告手紙及び原告小説の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件映画が原告手紙又は原告小説を翻案したものということはできない。 (2) 本件映画は映画の著作物であり、原告手紙及び原告小説は言語の著作物であるから、被告の行為が原告の複製権を侵害することはない。 被告は、本件映画を録画したビデオテープを販売しているものの、それを公に上映しているわけではなく、また、上記認定によると、本件映画を録画したビデオテープの再生は、原告手紙又は原告小説の上映とは認められないし、原告手紙又は原告小説の二次著作物の上映とも認められないから、被告の行為が原告の上映権を侵害することはない。 (3) よって、被告が原告手紙及び原告小説の著作権を侵害しているとする原告の主張はすべて理由がない。 4 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 岡口基一 裁判官 男澤聡子 |
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