判例全文 line
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【事件名】キタムラの商標権侵害事件
【年月日】平成13年12月5日
 横浜地裁 平成11年(ワ)第3396号 商標使用差止等請求事件

判決


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙3(標章目録)記載1(1)ないし(3)の標章(以下「本件標章」といい,個別には「本件標章1(1)」のようにいう。)を付した商品(ハンドバッグ等の皮革製品その他一切の製品)を製造,販売又は輸入し,もしくはその商品に関する広告・定価表・取引書類等に本件標章を付して展示又は頒布してはならない。
2 被告は,本件標章を付した商品の完成品,半製品及び原材料,広告物,包装及び取引書類等を廃棄し,看板,店内ディスプレイ等に付した本件標章を抹消せよ。
第2 事案の内容
1 事案の概要
 被告は,原告との間で締結した営業譲渡契約によって,原告の専有する本件標章1(2)(以下「Kマーク」ということがある。)及びこれに類似する標章(以下,これらを総称して「Kマーク等」ということがある。)の使用権を取得し,Kマーク等をハンドバッグ等に付して販売していた。
 上記契約7条6項に基づいて設置された紛争処理委員会は,被告が上記契約に違反する行為をしたとして,被告に対してKマークの使用を禁ずる決議をしたが,被告はKマーク等の使用を継続している。そこで,原告がその有する商標権に基づいて,被告に対し,被告は本件標章の使用権を失っているとして,その使用の差止めと商品等に付した本件標章の抹消を求めた。
 これが本件の事案の概要である。
2 前提となる事実(証拠等の記載のない事実は争いがない事実であり,証拠等の記載のある事実は主に当該証拠等により直接認められる事実である。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。枝番号のある証拠について枝番号を省略した場合は,すべての枝番号を含む趣旨である。)
(1) 当事者
ア 原告は,横浜市(以下略)などにおいて,ハンドバッグ等の皮革製品の製造販売及び各種雑貨の販売を行っており,Kマークを付した原告製品は,広く知られている。
 原告は,昭和55年2月15日,従前の有限会社北村商店を組織変更して設立された。代表取締役には,設立時はcが就任し,その後cの次男であるaが就いている。
イ 被告は,平成元年2月1日,cの長男dが原告の支店を分離独立させて設立した株式会社であり,横浜市(以下略)などにおいて,ハンドバッグ等の皮革製品の製造販売,服飾雑貨,装身具等の販売を行っている。被告の代表取締役には,設立時はdが就任したが,同人が死亡した平成4年10月27日後は,dの妻bが就任した。
(2) 本件契約の締結(Kマーク等の使用許諾)
 原告設立時には原告の代表取締役にc(前記(1)ア),また専務取締役にd,常務取締役にaが就任していたが,dとaとの兄弟間の不仲が深刻になったことから,dは,その後(1)イのとおり,被告を設立し,横浜市(以下略)所在の従前の原告の支店(以下「二丁目店」ということがある。)を被告店舗とした。その際,平成元年9月20日,原被告間で,営業譲渡契約(甲4。ただし,書面上は,同年3月1日付けとなっている。以下「本件契約」という。)が締結され,次のとおり,被告がKマーク等を使用することができると定められた。
 「7条 甲(原告)と乙(被告)は以下に定める事項を遵守することを確認する。
 1 甲は商標「ケイ」(別紙添付字体K)及びこれに類似する商標を専有し,乙はこれを使用することができる。
 2 甲と乙は別紙商品目録に明示された商品その他の物につき,右商標「ケイ」を各自使用するものとし,将来いずれか一方が右目録外の商品等にこれを使用する必要性が生じた場合には,他方と協議して定める。
 3 甲と乙は各自右商標「ケイ」を有償・無償を問わず第三者に譲渡し又は使用させないことを相互に確約する。
 4 甲と乙は看板,広告その他自己を表示するものに右商標「ケイ」を使用する場合には必ず各自の商号又は乙について「キタムラK2」,「キタムラ2」あるいは「K2」と記載してこれを明示し,甲と乙との識別を周知徹底させるものとする。
 5 甲と乙のいずれか一方が前各項の定めに違背した場合には,他方は一方に対し書面を以って異議の申立を行い,これを受けた一方は他方と誠実に協議して解決を図るものとする。
 6 前各項及びその他,甲と乙が右商標「ケイ」に関し協議すべき場合において,当事者間において協議が整わなかったときは,左記の者を構成員とする商標「ケイ」に関する紛争処理委員会で審議してこれを決する。
 記      
 @ 甲代表者又はその代理人
 A 乙代表者又はその代理人
 B e税理士
 C f税理士
 D g
 7 右委員会は,甲と乙との間の商標「ケイ」に関する紛争につき助言,勧告,和解案,その他諸条件の呈示を行なうことができる。
 8 甲又は乙が右委員会の助言等に従わないときは議題につき議決を行なう。
  右委員会における議決は右委員全員の出席のもとにその過半数を以って決する。
 9 甲と乙は右委員会の議決には異議なく従うものとする。」
  本件契約書の(別紙)には,「《商標》」として,別紙3(標章目録)記載1(2)と同じ表示があり(したがって,本件契約書上の商標「ケイ」は,Kマークを指している。),「《商品目録》」として,以下の記載がある。
 「1 ハンドバック
 2 カバン
 3 小物類(小銭入,札入,名刺入,定期入等)
 4 Tシャツ
 5 その他現在使用している商品
 6 商品の包装,商品に関する広告,パンフレット,説明書,定価表その他印刷物
 7 その他取引に関する書類」
(3) d及び被告による商標登録出願行為等
ア dは,本件契約締結の前である昭和62年7月6日,特許庁に対し,別紙2(被告商標目録)の1ないし3記載の商標(以下,まとめて「被告商標A」といい,個別には「被告商標1」のようにいう。)について,登録出願し,同目録記載のとおり,本件契約より後の平成2年ないし3年ころ,それぞれ設定登録を受けた。
 dは,前記(1)のとおり平成4年10月27日に死亡したところ,被告商標Aは,それぞれ同人の死亡によってb,h及びiの3名(以下「bら3名」という。)に相続され,平成6年11月7日その旨の登録がされた。さらに,bら3名は,被告に対し,平成9年3月4日被告商標Aについて無償通常使用権の設定をし,同年5月12日その旨の登録がされた。
イ 被告は,平成5年7月21日以降,別紙2(被告商標目録)記載4ないし20の17件の商標(以下「被告商標B」といい,個別には「被告商標4」のようにいう。また,被告商標A・Bを併せて「被告商標」という。)について,商標登録の出願をした(なお,被告商標8・9・13・18は,平成9年ないし10年ころ,出願人がbら3名に変更された。)。
 (以上(3)全体につき,甲5ないし11・34ないし36,弁論の全趣旨)
(4) 紛争処理委員会における決議
 原告は,被告による(3)の商標登録出願行為等が本件契約7条1項に違反するなどとして,平成10年8月25日,被告に対して,本件契約に基づいて異議を申し立てた(以下「本件異議申立て」という。)。さらに,原告は,紛争処理委員会の委員に対して,同委員会の開催を求め,平成10年9月28日,同月29日及び同年11月12日に合計3回の委員会(以下,個別には「1回目の委員会」のようにいう。)が開催され,3回目の委員会において,a,b,e税理士(現在の原告の顧問税理士である。),f税理士(現在の被告の顧問税理士である。)及びg出席の下,話合いが行われた。しかしながら,話合いはまとまらず,a,e及びgの3委員の賛成(b及びfは退席し,棄権とみなされた。)により,被告に対して「Kマーク」の使用を禁止する決議(以下「本件決議」という。)がされた。
(5) 被告の販売行為等
 被告は,前記のとおり,ハンドバック等の商品を販売しているが,現在も,これらの商品に本件標章を付して販売している(弁論の全趣旨)。
(6) 原告の商標登録
 原告は,別紙1(原告商標目録)記載1ないし3の商標権(以下,これらを「原告商標権」という。また,これらの登録商標を「原告商標」といい,個別には「原告商標1」のようにいう。)について,本件契約の締結前及び締結後に取得し,これを現在有している。
 原告商標1ないし3と本件標章(1)ないし(3)は,外見上の表示はそれぞれ同一である。
3 主な争点と争点についての当事者の主張
(1) 前訴判決の既判力との関係(争点1)について
〈被告の主張〉
 原告は,被告に対し,本訴において,原告が有する商標権に基づいて,本件標章の使用差止めを求めているが,本訴において原告が主張する事実は,平成6年2月9日,原告が被告に対して不正競争防止法2条1項1号及び2号に基づいて,Kマークの使用の禁止等を求めて提起した裁判(横浜地方裁判所平成6年(ワ)第437号商標使用差止等請求事件。以下「前訴」という。)において,原告の請求の基礎となった事実と実体的に同一である。前訴は平成10年1月28日に終結し,横浜地方裁判所は同年5月27日原告の請求を棄却する判決(以下「前訴判決」という。)を言い渡し,同判決は控訴されることなく確定しており,本訴請求は前訴判決の既判力に抵触し許されない。
〈原告の主張〉
 本訴請求は商標法に基づく請求であり,不正競争防止法に基づいて差止等を請求した前訴とは訴訟物が異なるから,原告は,前訴とは別に本訴請求について裁判所の審理判断を求める利益を有する。
(2) 信義則による主張制限の有無(争点2)について
〈被告の主張〉
 仮に,本訴における原告の主張が前訴判決の既判力に抵触しないとしても,原告が被告による本件契約違反の行為として本訴において主張する事実は,前訴において十分に主張し得た事実であり,本訴は実体としては単なる紛争の蒸し返しにすぎない。原告は,前訴において敗訴した場合に備えてあえてこれを主張せず,原告商標の商標権を取得した後に,これに基づいて本訴を提起することを画策したものであって,上記の本件契約違反行為の主張は,前訴との関係では時機に後れた攻撃防御方法に当たり,訴訟上の信義則に反し許されない。
〈原告の主張〉
 前訴の審理中に,被告が別途本件契約に違反する行為をしたとしても,原告が前訴においてこれを併せて主張しなければならない法律上の義務はない。本件契約に違反する行為をした被告の方から原告に対して前訴において上記違反行為についても併せて主張すべきであったということ自体,信義則に違反する。
(3) 紛争処理委員会の決議事項(争点3)について
〈原告の主張〉
 被告の行為が本件契約書の定めに違反することが顕著で看過し難い場合には,紛争処理委員会がKマークの使用権を被告から剥奪することも紛争解決の手段として必要である。
 紛争処理委員会の権限に関する下記の被告の主張は,既に前訴判決によって否定されており,前訴の争点効に抵触する。
〈被告の主張〉
 本件契約は,原告と被告とを公平に扱い,兄弟会社として協力し合い,共に継続して発展するようにという趣旨で締結されたのであり,Kマーク等の使用権についても,兄弟を公平に扱うという基本的な約束の下に定められた。このことは,本件契約と同時に作成された「覚書」(甲4の末尾の文書。以下「本件覚書」という。)からも明らかである。
 そうすると,本件契約7条1項は,文面上原告がKマーク等を専有し,被告が使用することができるとの表現になっているが,実質的には原告と被告とがKマーク等を共有しており,その使用する権限は同等である。そして,紛争処理委員会は,いわば身内の紛争を公平に解決するために設けられた機関であるから,被告からKマーク等の使用権を奪うというような被告のブランドメーカーとしての存続自体を否定する決議を行うことはできない。
(4) 本件決議の効力の有無(争点4)について
〈原告の主張〉
ア 1・2回目の委員会までの被告の対応
 原告は,本訴に先立って,被告商標Aのうち2件について,商標登録の取消ないし無効の審判請求をし,被告商標Bのうち6件について,商標登録異議ないし無効審判を申し立てた。にもかかわらず,bら3名及び被告は,いずれも原告の申立てを争い,特許庁が登録無効と判断した商標についても,審判を不服として東京高等裁判所に審決取消請求訴訟を提起するなどして徹底して争った。
 また,原告が被告に対し本件契約7条5項に基づき前提となる事実(4)のとおり,平成10年8月25日に異議を申し立てたにもかかわらず,被告は,原告と協議する必要はないとして異議申立てを拒絶した。このような事情に照らせば,本件契約7条5項の誠実協議条項に違反したのは被告である。原告は,協議を拒否する被告の強硬な態度からやむなく1・2回目の委員会の開催を求めたが,b及びfは合理的な理由なく欠席した。
イ 3回目の委員会までの被告の対応
 1回目の委員会において,出席した委員(a,e及びg)によって,被告のKマークの使用を禁ずる決議(以下「先行決議」という。)がされ,2回目の委員会でその決議の有効な成立が確認されたが,原告は,被告をおもんぱかって,さらに被告から釈明を受けて話し合うため,3回目の委員会の開催を求めた。b及びfは,同委員会に出席したものの,委員会の開催にあたり,補佐人の同席や議長の選任について反対し,被告らの違反行為に関する協議に入ることを妨害して審議を引き延ばした。
 議題に入ったのちも,b及びfは,被告商標の出願行為等について,釈明陳謝して出願を取り下げるなどの態度を示すことはなく,形勢が不利になると退席して決議をする権利を放棄した。本件決議は,賛成3名,棄権2名によって,有効に可決された。
ウ 本件決議の有効
 被告側の上記対応に鑑みれば,被告側に,そもそも紛争処理委員会において真正面から議論し,被告の行為の釈明をする意思や,事態を円満解決するために何らかの提案をする意思は皆無であったというべきであり,本件決議に至った手続には何ら瑕疵はない。
〈被告の主張〉
ア 先行決議の無効
 原告は,被告からの申入れにもかかわらず,正式な紛争処理委員会の前に行うべき事前協議の手続を経ず,被告の都合も考えずに,一方的に1・2回目の委員会の開催日を指定し,b及びfが欠席したにもかかわらず,先行決議を強行した。また,1・2回目の委員会では,被告の本件契約違反事実の有無を確かめることもなく,助言,勧告,和解案,その他諸条件の提示といった措置をとらずに,先行決議を行った。
 本件契約上,委員会を開催するためには当事者間で協議を行うことが必要であり(本件契約7条6項),委員会で決議をするためには委員会が助言等を提示し当事者がこれに従わないこと(同条7・8項)が必要であるところ,1・2回目の委員会はこれらの手続を経ていないから,委員会自体有効に開催されていないと考えるべきであり,仮に有効に開催されたものであるとしてもその決議は無効である。
イ 本件決議の無効
 原告は,b及びfの申入れにもかかわらず,事前協議を行わずに,一方的に3回目の委員会を開催した。原告は,3回目の委員会においても,b及びfの主張を無視してeを議長に選任し,被告側の釈明を聞かず,助言,勧告,和解案,その他諸条件の提示といった措置をとらずに,休憩のために退席すると述べたb及びfが決議権を放棄したと決めつけ,決議を強行した。以上からすると,原告は,被告からKマーク等の使用権を奪う意図の下で,紛争処理委員会を利用して計画的に本件決議を強行したというべきであって,3回目の委員会は,実質的に紛争処理委員会としての体をなしていない。仮に紛争処理委員会といい得るとしても,本件決議は,本件契約上の決議要件を欠き,無効である。
(5) 本件契約違反の行為の有無(争点5)について
〈原告の主張〉
ア 被告によるKマーク等の出願等の不許
 前提となる事実(2)のとおり,本件契約7条1項によれば,原告はKマーク等を専有しており,被告はその使用許諾を受けているにすぎない。したがって,被告がKマーク等と同一の標章について,原告以外の者から使用権の設定を受けることは許されず,自ら商標出願して商標権を取得することも許されない。
イ 本件契約違反の行為
 前提となる事実(3)のとおり,被告は,@被告商標Aについて,dの商標権を相続したbら3名から,無償で通常使用権の設定を受け,A被告商標Bについて,平成5年7月21日から,順次商標の登録出願行為をし,その一部について設定登録を受けた。
 これは,Kマーク等を専有する原告の権利を侵害しており,本件契約7条1項に違反することが顕著で看過し難い場合に該当する。(以下,@の行為を「本件係争行為A」,Aの行為を「本件係争行為B」,@Aの行為を併せて「本件係争行為」という。)
〈被告の主張〉
ア 被告商標Aの使用許諾(本件係争行為A)と本件契約違反の不存在
 dは,Kマーク等が第三者により無断で使用されるのを防ぐ趣旨で被告商標Aの登録出願をしており,本件契約締結後,前提となる事実(3)アのとおりbら3名が移転登録の手続を行ったことは,既に存在した権利を相続によって承継したにすぎず,本件契約に違反しない。また,被告は,bらから,無償使用権の設定を受けた(本件係争行為A)が,それに基づいて実際に商品を製造・販売する意思はなく,またこれを使用して実際に商品を販売したこともなく,単に名目的に使用権を設定したものにすぎない。
イ 被告商標Bの登録出願(本件係争行為B)と本件契約違反の不存在
 第三者がKマーク等について商標登録を受け,原被告に無断でKマーク等を使用すること(フリーライド)を許すと,Kマーク等の価値の希釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)が生ずるおそれがある。
 原告は,別紙1(原告商標目録)記載1のとおり,指定商品を「かばん類,袋物,その他本類に属する商品」として昭和61年5月30日に登録した原告商標1を有していたが,第三者が,上記区分以外の商品又は役務を指定して,本件標章と同一又は類似する商標を登録出願することは可能である。被告は,第三者のフリーライドを防御するため,実際に扱っていない区分の商品についても予防的に被告商標Bの登録出願をした(本件係争行為B)のであって,被告には原告の商標権を侵害する意図はなく,取得した商標権を第三者に使用許諾する意図もない。原告から使用を許可された商標を保護管理するために,被告が自己の商標として出願することは権利として認められるべきであって,そのことが本件契約に違反する行為とはいえない。
(6) まとめ
〈原告の主張〉
 被告が行った本件係争行為は,原告が専有する重要な無体財産権を侵害し,原被告間の基本的な権利関係を律する本件契約7条1項に根本的に抵触するものであって,その契約違反の内容は重大であることが顕著で,到底看過し難い。
 本件係争行為は,本来,紛争処理委員会による決議を待たなくとも,Kマーク等の使用許諾が当然に取り消されてしかるべき背信的なものである。本件契約の規定及びその精神に従って順当に手続を踏んだ上でなされた本件決議は正当であって,被告は本件標章を使用する権限を有しない。
 よって,原告は,被告に対し,原告商標権に基づいて,本件標章の使用の差止めを求める。
〈被告の主張〉
 原告の本訴における主張は,前訴判決の既判力に抵触し,許されない。
 原告が主張する本件係争行為は,本件契約7条1項に違反することが顕著で看過し難い場合には該当しない。また,紛争処理委員会は被告からKマーク等の使用権を奪う決議を行う権限はなく,原告が強行した紛争処理委員会及びその決議はいずれも無効であって,被告は,Kマーク等の使用権を有している。
第3 争点に対する判断(証拠により直接認定する事実は,当該事実の前後に適宜,主な証拠を略記する。争いのない事実及び一度認定した事実は,原則としてその旨を断らない。)
1 判断の順序
 本件は,原告の有する商標権に係る本件標章について,原告が被告による使用の差止めとその使用の廃棄・抹消を求めたものである。ただし,原告は,本件契約に基づき,被告に対して,本件標章1(2)(Kマーク)及びこれに類似する標章(Kマーク等)の使用を許していた。本件標章1(1)(3)も上記の「これに類似する標章」に該当すると解されるので,結局本件標章は全部本件契約により使用許諾がされていたことになる。そして,原告は,その後その使用を禁じた本件決議が成立したことにより被告の本件標章の使用権は喪失したとして,そのことを根拠として本件請求をしている。原告が商標権を取得したのは,昭和58年(原告商標1)及び平成11年(原告商標2・3)であり,上記の決議(本件決議)より後のものもあるが,使用許諾の喪失の有無により原告商標権による本件標章使用禁止の成否が判断されることになる。
 他方で,被告は,前訴において本件におけるのと基礎を同じくする事実に基づく請求が判断されているので,本訴請求は前訴判決の既判力に抵触し,あるいは,訴訟上本訴の原因となる事実を主張をすることは信義則に反する旨を主張する。 
 そこで,まず,既判力に抵触する等の前訴との関係の論点について判断し,次いで,本件契約による本件標章の使用権限が存続しているか(本件決議の効力の有無)について判断する。
2 争点1(前訴判決による既判力の有無)について
 被告は,本件における原告の主張が前訴判決の既判力に抵触し許されない旨を主張する。
 そこで検討するに,前訴において,原告は不正競争防止法に基づいてKマークの使用の差止め等を求めたものであり,他方,本訴における原告の請求は,原告が有する商標権に基づく請求であるから,両請求は,根拠とする権利の性質の点で訴訟物を異にするというべきである。さらに,後記3のとおり,原告が請求権を基礎付けるために被告による本件契約違反として,本訴で主張する事実と前訴で主張した事実とは異なっている。したがって,本件における原告の主張が前訴判決の既判力によって遮断されるということはない。被告の主張は採用できない。
3 争点2(信義則による主張制限の有無)について
(1) 被告の主張の骨子
 被告は,原告は本件係争行為について前訴で十分に主張する機会があったにもかかわらず,前訴で敗訴した場合に備えてあえて前訴でこれを主張せず,原告商標の商標権を取得した後に,その商標権に基づいて本訴を提起してこれを主張することを画策したものであって,本件係争行為の主張は,前訴との関係では時機に後れた攻撃防御方法に当たり,訴訟上の信義則に反し許されない旨を主張する。
(2) 前訴と本訴との関係
 そこで検討するに,前提となる事実並びに証拠(甲1ないし3・5ないし11・34ないし40,乙11・12・15・33・36ないし44,f,原告代表者)及び弁論の全趣旨から次の事実が認められる。
ア 前訴の提起に至る経緯
 原告は,平成5年4月7日,被告について本件契約上の商品目録記載の商品(以下「契約指定商品」という。)以外の商品であるゴルフボールなどにKマークを付すなどの本件契約に違反した事実があるとして,被告に対して異議を申し立て,被告と協議を行ったが,協議は物別れに終わった。そこで,原告は,同年5月14日付けの書面で,b及びfに対して,紛争処理委員会の開催を求めた。その後,同年6月17日に,原告代表者(当時はcである。)の代理人a,b,e,f及びgの代理人jの出席の下,紛争処理委員会が開催され,最初に議長(委員長)としてeが選任され,aが被告によるKマークの使用を禁ずる旨の提案をし,議長のeに採決してほしいと申し入れ,e,a及びjの3名の賛成により,aの提案がそのまま決議された(以下「前事件決議」という。)。被告は,前事件決議の効力を争ったため,原告は,平成6年2月9日,前訴を提起した。
イ 本件係争行為の時期
 紛争処理委員会は,平成5年6月17日,前訴の前提となった前事件決議を行ったが,その約1か月後の同年7月21日に被告が被告商標Bの出願(本件係争行為B)をしている。すなわち,被告は,被告によるKマーク等の使用を禁ずる旨の紛争処理委員会の前事件決議後,直ちに本件係争行為Bを起こしている。
ウ 本件係争行為に対する原告の態度
(ア) aは,別紙1(原告商標目録)記載4の商標の登録出願について,特許庁から同一ないし類似する商標があるとの理由で,平成8年2月23日付けの拒絶通知(甲40)を受けた。
(イ) 次いで,原告は,被告商標2(平成2年5月31日登録)について平成8年6月18日登録取消の審判を請求し,被告商標3(平成3年8月30日登録)について平成8年8月28日商標登録の無効の審判を請求した。また,原告は,平成9年ないし10年ころ,未登録であった被告商標14・19などについて登録異議を申し立て,既に抹消登録済みであった被告商標8についても,登録異議を申し立てた。
 したがって,原告側は,(ア)の平成8年2月ころまでは,被告により本件係争行為Bがされたことを知らなかったと推認できる。
(ウ) なお,原告は,原告商標2について平成9年1月29日に商標登録を出願し,平成11年3月12日に登録され,原告商標3について平成9年12月15日に商標登録を出願し,平成11年5月28日に登録された。
エ 原告によるウ(イ)の審判請求等に対する被告の態度
 被告は,上記原告による登録取消審判の請求等をいずれも争ったが,特許庁は,被告商標2について平成10年7月17日登録を取り消す審決をし(甲10),被告商標3について同年1月27日登録を無効とする審決をした(甲11)。また,特許庁は,被告商標14・19について同年9月25日登録を拒絶し(甲34の4・6),被告商標8について平成11年7月21日登録を取り消した(甲39)。
 さらに,被告は被告商標3について東京高等裁判所に上記審決の取消訴訟を提起したが,同裁判所は平成10年9月17日被告の請求を棄却し(甲38),登録の無効が確定した。
 なお,被告商標6・7・10・11・15・16・20についてはいずれも平成8年ころ特許庁による拒絶査定処分が確定した。また,被告商標4・5・12・14・17・19については平成8年ないし10年ころ特許庁から拒絶査定処分がされ,被告は,審判請求をしてこれを争ったが,平成10年11月30日に商標出願を取り下げた。さらに,被告商標1・9・13・18は同日,被告商標8は同年12月4日に登録抹消申請がされ,その後程なく,抹消登録がされた。
(以上につき,詳細は別紙4参照)
オ 前訴判決
 平成8年2月当時,前訴は,証人尋問に入る前の段階で,和解ないし主張の整理の途中であり,その後,7回の期日にわたって証人尋問が行われ,平成10年1月28日に弁論が終結した。原告は,前訴では,本件係争行為について主張せず,本件係争行為が本件契約に違反するか否かは争点とならなかった。
 そして,同年5月27日に前訴判決が言い渡された。
カ 本訴の提起
 その後の平成10年8月25日に,原告は,被告に対して,本件契約に基づき本件異議申立てを行い,紛争処理委員会の開催を要求し,同年11月12日の3回目の委員会において,本件決議がなされた。原告は,その後の平成11年9月20日,本件訴えを提起した。
(3) 信義則違反の有無
 上記認定事実からすると,原告は,平成8年2月末ころ,bら3名が被告商標Aについて移転登録を受けたことを知ったというべきであり,同じころ,被告商標Bの登録出願(本件係争行為B)の事実も知ったため,特許庁に対して登録取消等を請求したと認めることができる。そして,この時期は前訴係属中であった。
 したがって,原告は,前訴においても本件係争行為を主張することは可能であったということができるが,これを主張しなかった。その理由は明らかではない点もあるが,本件係争行為は前事件決議の理由とされていなかったので,前訴において原告が本件係争行為を請求原因事実として主張するためには,別途,本件係争行為を理由として,被告に対して異議を申し立て,紛争処理委員会を開催して,同様の決議を得る必要があり,前訴の係争中にそのような行動をとることは現実問題としては困難であったということができる。そうすると,前訴において,原告が本件係争行為を主張しなかったことにもそれなりの理由があり,原告において前訴の係属中から本件係争行為を主張し得たのに前訴が敗訴した場合に備えてあえてこれを主張せず,前訴敗訴後に本訴を提起したとまでの事実は認められない。
 したがって,本訴における原告の主張が前訴との関係で信義則に反するとの被告の主張は採用することができない。
4 本件契約による本件標章の使用及びその制限に関する法律関係
(1) 論点の整理
 1のとおり,Kマーク等については,本件契約に基づき原告が被告に対してした使用許諾があり,他方で紛争処理委員会による使用禁止の決議(本件決議)がある。そして,紛争処理委員会において使用禁止を決議できるか,そのような内容の本件決議の効力はどうか等が争点となっている。そこで,本件契約による本件標章の使用とその制限に関する本件契約上の仕組み(紛争処理委員会による決議)に関する法律関係を検討する。
(2) 本件契約の締結過程
 前提となる事実並びに証拠(甲4・37,乙11・24ないし33・36ないし42)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
 dが経営していた二丁目店のハンドバックの販売部門の営業を原告から被告に営業譲渡して,被告を設立する際,被告によるKマーク等の使用の可否,条件等について原被告間で協議がされた。dは,二丁目店の店長として原告の経営に参与していたころ,キタムラのオリジナル商品以外の廉価品や靴・トレーナー等の商品にKマークを付して販売していたことがあり,aはこのような営業活動について,Kマークの価値の希釈及び他のブランドメーカーとの衝突が起こることを危惧していた。aは,被告の設立後もそのような営業活動をさせないことを主たる目的として,被告がKマークを使用できる範囲・条件を制限しようと考えた。そのようなことから,原告の初期の提案(乙24ないし26)では,@原告がKマーク等を専有し,被告は契約上指定した商品(契約指定商品)に限りKマーク等を使用できる,A被告に契約に違反する行為があった場合には,原告が異議を申し立て,被告が同異議に従わない場合は,被告はKマーク等の使用権を喪失する,B被告が契約指定商品以外の商品にKマーク等を使用するには,原告の承認が必要であるとされていた。しかし,被告は,上記ABについて強く反対したため話合いは難航を極めたが,最終的に被告から,@Kマーク等を原告と被告との共同専有とする,A契約指定商品以外に,新たにKマーク等を付する場合には原被告双方で協議して決定する,BKマーク等の使用に関し協議すべき場合に協議が調わなかった場合は,委員5名で構成する紛争処理委員会を設置し,最終的には構成員の過半数で決議して決定するとの代案が提示された。原告は,上記代案について,Kマーク等を原告と被告との共同専有とすることに難色を示したが,その他の点については了解したため,被告は,原告がKマーク等を専有し,被告はその使用権を有するとすることで譲歩した。
 そして,原告と被告は,平成元年9月20日,本件契約を締結し,これと同時に,次のような内容の覚書(本件覚書)を取り交わした。
 「甲(原告)と乙(被告)との間の平成元年3月1日付営業譲渡契約書第7条は下記の趣旨に基き定められたものである。
 記  
 1.母上(c氏)の兄弟公平に取扱ってもらいたいという趣旨を考慮した。
 2.乙は実体としては甲の一部であり,いわば分身である。
  従って商標「ケイ」については乙において従来通り使用できるとした方が公平であり,かつ実体に即している。
 3.第6項Dの委員については,甲又は乙に利害関係のない第三者をお願いする趣旨である。」
(3) 本件契約によるKマーク等に関する扱い
 本件契約は,原告の従前の二丁目店のハンドバッグの販売部門の営業を被告設立時に被告に譲渡する際の営業譲渡契約であり,契約書(甲4)の表題もそのとおりにされている。その中で,原被告のKマーク等の使用権限等について取り決めたのが,本件契約7条であった。
 そこでは,標章自体の権利あるいはその使用権の帰属関係につき,原告が専有し,被告が使用可能とするものとされ(1項),Kマーク(契約の解釈上,類似する標章にも及ぶと解されるので,実質的には「Kマーク等」と同趣旨である。以下,本件契約に関して同様)の使用に関する制約の及ぶ商品につき,本件契約書の「別紙商品目録に明示された商品その他の物」を対象とすることとし,将来別個の商品等にKマークを使用することとなる場合には協議することとし(2項),Kマークの譲渡に関し,原被告とも,第三者に譲渡し又は使用させないこととし(3項),使用者の識別につき,原被告とも,Kマークを使用するときは,自己の商号又は被告につき「キタムラK2」「キタムラ2」と明示することとされ(4号),前各項に違反した場合の扱いにつき,他方が一方に対し書面で異議申立てを行い,受けた方が相手方と協議して解決することとされ(5項),前項の協議が調わなかった場合の扱いにつき,紛争処理委員会において審議して決することとし,その委員会の構成員は,原告側2人,被告側2人及びgとすることとされ(6項),委員会の職務につき,Kマークの紛争に関して,助言,勧告,和解案その他諸条件の提示を行うことができるとされ(7項),原告又は被告が助言等に従わないときは,全員出席の委員会の過半数で決議するとされ(8項),原告と被告は上記議決には異議なく従わなければならない(9項)とされた。そして,gが加えられた趣旨は,本件覚書のとおり,原被告に利害関係のない中立的な立場にある第三者を委員の1人とするものであると考えられる。
(4) 紛争処理委員会の権限(議決事項)(争点3)について
ア 前記(2)(3)の事実に照らし,まず,紛争処理委員会が被告からKマークの使用を奪う決議をすることができるかを検討する。
イ 紛争処理委員会は,原被告の紛争を中立的な立場に立って,公平,妥当に解決することが期待された私的な紛争解決機関として設置されたとみることができる。
 そして,(2)のとおり,Kマークの使用に関する紛争が生じた場合,一方的に原告において被告のKマーク使用権を剥奪できるとした原告の当初案をめぐって,原被告の協議が難航し,被告の代案を受けて,最終的に紛争処理委員会に委ねる形で決着したという経緯がある。そして,紛争処理委員会が行う議決事項について,本件契約上何ら制限がない。これらに鑑みれば,被告から使用権を奪うという事項がおよそ契約対象外にされたとは考えにくく,その事項は紛争処理委員会による決議を通じて解決するとされたと解するのが相当であり,紛争処理委員会が被告から使用権を奪う決議をする権限も格別否定されてはいないと考えられる。
ウ この点を紛争処理委員会の構成員の観点から検討する。
 紛争処理委員会の委員は,原被告代表者又はその代理人の2名を除くと,e,f及びgという特定の個人3人となっており,代替性がない。したがって,後者の3人のうちのいずれかが紛争処理委員会に出席できないような場合には同委員会が機能しないので,同委員会は永続性の比較的乏しい会議体として位置づけられている。しかも,中立委員がg一人であるから,原被告が鋭く対立した場合には最終的にはg一人の意向で結論が定まる蓋然性が高い。このような同委員会の機能からすると,同委員会にはあまり大きな権限を付与しないとの意向を本件契約の作成に当たった関係者は有していたかもしれない。
 しかし,他方で,兄弟が分かれて兄のdが被告を原告から独立させるのであるから,今後Kマーク等の使用をめぐる紛争が生ずることもあり,それについては,原告の専有権を侵害するような被告による契約違反が顕著で看過し難いような場合も想定し得る。そして,Kマークの使用に関して本件契約7条を定める際に相当な意見の食い違いをどうにか調整したという経過があったわけで,それにもかかわらず,紛争処理委員会による以外の紛争解決方法が本件契約には何ら明定されていない。そうすると,原被告にKマークをめぐって厳しい対立が生じた場合の紛争解決については,解決方法の内容に制限を設けずに,ともかく同委員会の場で解決方法を模索すべきであるというのが本件契約の趣旨であったと解するのがやはり相当である。そうである以上,紛争処理委員会が被告のKマーク等の使用権を剥奪するという重大な決議を行うことも紛争解決の最終手段として許されると考えられる。そして,その場合には,ことの重大さから手続の遵守が一層要求されると解される。
 したがって,同委員会が使用剥奪の決議をした場合には,その決議の効力は,被告による本件契約違反の有無及びそれが顕著で看過し難いものかどうか(実体的要件),並びに決議をするに至る手続が本件契約に定められている定めを遵守しているかどうか(手続的要件)によって,判断されるというべきである。
エ この点に関し,被告は,本件覚書の趣旨などに鑑みればKマーク等の使用権について原告と被告とは平等であって,本件契約締結の経緯やその性質からすると紛争処理委員会は被告からKマーク等の使用権を剥奪する決議をする権限を有しない旨を主張する。
 しかしながら,本件契約上原告がKマーク等を専有することが明記されていること,被告設立の経緯及び本件契約締結の経緯(前記(2)及び(4)イ),本件覚書が被告を原告の「いわば分身」とも表しているので,強いて言えば,原告主,被告従の関係に捉えていること,これらの諸事情に鑑みれば,本件契約上,原告はKマーク等の専有主体であって,被告はKマーク等の使用について原告から許諾を受けているにすぎないと解するべきである。本件覚書に「兄弟公平に取り扱ってもらいたい」とあるのも,上記のように原告がKマーク等を専有し,被告がその使用をするという本件契約における完全対等とまではいえない事実をうかがわせるものである。よって,上記のKマークの使用権限に関する被告の主張は,採用できない。また,使用権を剥奪する決議をする権限が紛争処理委員会にはないとする被告の主張は,前記のとおりの理由からも,採用できない。
5 争点4及び5(本件決議の効力ー実体的要件との関係)について
(1) そこで,まず,本件係争行為が内容的(実体的)にみて,契約違反の顕著で看過し難いものかどうかについて検討する。
(2) 本件係争行為の内容及び効果の存続の有無
 前提となる事実並びに証拠(甲5ないし11・34ないし36・38・39,乙43・44,f,被告代表者)及び弁論の全趣旨から,次の事実が認められる。 
ア 本件係争行為A
 前提となる事実(3)のとおり,昭和62年7月6日,当時,原告の専務取締役の地位にあったdは,被告商標Aについて,自己の名義で登録出願し,平成2年ないし同3年ころそれぞれ設定登録を受け,bら3名は,その後dの死亡により被告商標Aを相続し,次いで被告に対して同商標について無償通常使用権の設定を行った。
 しかし,前記3(2)のとおり,被告商標Aのうち,被告商標2は,平成8年6月18日原告から取消審判の請求を受け,平成10年7月17日取消審判により取り消され,被告商標3は,平成8年8月28日原告から無効審判の請求を受け,平成10年1月27日無効審判により無効とされた。被告はこれに対して審決取消請求訴訟を提訴したが,請求が棄却され,同審決は確定した。したがって,被告商標Aのうち,被告商標2・3は平成10年11月12日の本件決議時に存続してはおらず,同1だけが存続していた。被告商標1は,平成10年11月30日登録抹消申請がされた。
イ 本件係争行為B
(ア) 前記のとおり,平成5年6月17日に,紛争処理委員会が開催され,被告に対してKマークの使用を禁ずる決議(前事件決議)がされた。
 その後,被告は,被告と取引のあるメーカーや被告の関係者から,被告がKマークを使うことができなくなるのではないかという問い合わせを受け,同月末ころ,b及びfは,対応についてk弁理士と相談した上で,被告として商標出願を行うことを決意し,原告に相談せず,同年7月21日に被告商標4,同月29日に被告商標5・6について,商品区分は当時の第18類,指定商品は「かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘」として登録出願を行った。
 さらに,被告は,平成6年6月7日,被告商標7ないし20について,特許庁に登録出願をした。同日の出願における商品区分は第18類に限定されず,また,指定商品もキーホルダー,洋服,喫煙用具,おもちゃ・人形のように多種多様のものにわたっていた。また,被告商標11ないし20は,別紙3(標章目録)記載5及び6のとおり,ローマ字及び算用数字で「K2」及び「Kitamura2」と横書きした標章を登録商標としていた。
 のみならず,前記3(2)のとおり,被告商標Bのうち,被告商標6・7・10・11・15・16・20については,いずれも平成8年ころ,特許庁による拒絶査定処分が確定した。被告商標4・5・12・14・17・19は,平成10年11月30日,被告が登録前に出願を取り下げた。さらに,被告商標9・13・18は同日,被告商標8は同年12月4日,登録抹消の申請がされ,別紙4のとおり,その後ほどなく抹消登録がされた。
(イ) 以上をまとめると,被告による被告商標Bの登録出願は,被告のKマークの使用権を剥奪する旨の前事件決議を契機に検討され,前訴の提起前後に出願され,原告の敗訴となった前訴判決の後に取り下げられたということができる。そして,本件決議時に商標登録の効力が存続していたのは,被告商標8・9・13・18であるが,いずれも商標権者は既にbら3名に変更されていた。
(3) 本件契約違反の有無とその程度
ア 前記のとおり,本件契約7条1項には,原告がKマーク等を専有し,被告が使用することができるとされている。被告がKマーク等の標章について商標登録出願をし,その設定登録を受けることは,被告が当該標章につき排他的独占的な権限を取得することになるから,そのような行為(出願に係る行為)は原告の専有権に抵触するといわざるを得ない。また,被告は,bら3名から,被告商標Aについて無償で通常使用権の設定を受けたが,このような被告の行為も,本件契約7条1項の趣旨に違反するといわざるを得ない。
イ しかしながら,被告商標11ないし20は,「K2」ないし「Kitamura2」の外観を有する商標であって,かかる外観の商標が「Kマークに類似する標章(Kマーク等)」に該当するとしても,少なくとも原告が使用する可能性がない商標であって,その出願行為の違反の程度は極めて軽微であるということができる。
 また,別紙4のとおり,被告による本件係争行為の対象となった商標のうち,有効に登録されたのは,被告商標1・2・3・8・9・13・18にすぎず,それ以外は出願中で未登録であるか,特許庁からの登録拒絶査定が確定した。その後,被告商標1・2については,登録された後に取消し又は無効とされたため,本件決議時において存続していたのは,被告商標1・8・9・13・18にとどまる。
 そして,前訴判決で問題とされたゴルフボールを除くと,上記5つの商標に係る,契約指定商品以外の商品について,被告ないしbら3名がKマーク等を使用したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,被告が,第三者に対してKマーク等を使用許諾した事実は認められない。そうすると,被告によるKマーク等の使用行為について,前訴判決後,新たに,本件契約7条2項ないし4項に違反する点は認められない。
ウ 以上の事実を総合すれば,被告における本件係争行為は,本件決議時において原告の営業に何らかの実害を与えたとまで認めることはできず,本件契約に顕著に違反する看過し難い瑕疵を帯びたものとまではいえない。したがって,それにもかかわらずにされた使用剥奪の本件決議は,決議の実体的効力要件に適合しない重大な瑕疵を有するものといわざるを得ない。
6 争点4(本件決議の効力の有無ー手続的要件との関係)について
 次に,本件決議が手続的な定めに従って行われているかを検討する。
(1) 決議の手続的有効要件
 前記のとおり,紛争処理委員会の決議内容には制限がなく,その決議には強制力があり(本件契約7条9項),強制的に被告からKマーク等の使用権を剥奪する旨の決議を行うことも可能である。しかしながら,被告がKマーク等の使用権を失うことによる損害は計り知れないから,紛争処理委員会がそのような決議を行うことができるのは極めて例外的な場合(前記のとおり,契約違反が顕著で看過し難い場合)である。しかも,原被告間ないし紛争処理委員会が解決方法等について十分な協議をすることが手続的な前提となる。
 そうすると,少なくとも,本件契約7条所定の手続を踏まないでなされた使用権剥奪の決議は原則として無効というべきである。したがって,まず,異議申立ての後に原被告間で事前協議が尽くされる必要があり(同条5・6項),次に,紛争処理委員会が上記内容の決議を行うためには,Kマーク等に関する紛争につき,まず,委員会として,助言,勧告,和解案,その他諸条件の提示を行い,原告又は被告が委員会の助言等に従わないときに限って,委員全員出席の下で議決する必要がある(同条7・8項)。
 ただし,本件契約違反の内容並びに原告の異議申立て及び紛争処理委員会の開催に対する態度等からして,被告が,原告との事前協議に応じず,紛争処理委員会の助言等に従わないことが明白な場合には,そのような被告を保護する必要はないから,例外的に上記の手続的な要件を満たさない決議であっても有効になると解すべきである。
(2) 本件決議に至る経緯
 本件決議に至る経緯について,前提となる事実並びに証拠(甲12ないし27・41,乙1・2・12・43・44,f,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨から次のとおり認められる。
ア 紛争処理委員会の開催に至る経緯
(ア) bら3名が被告に対して被告商標Aの無償使用権の設定を行ったこと(本件係争行為A)及び被告が被告商標Bの登録出願をしたこと(本件係争行為B)が本件契約7条1項に違反するとして,原告は,平成10年8月24日付け書面で被告に対し,本件契約7条5項に基づき異議を申し立て(本件異議申立て),異議申立書(甲12の1)到達後21日以内に書面で回答をするように求めた。同書は,翌25日に被告に到達した。これに対し,被告は,原告に対して,同年9月17日,「回答書」(甲13)を送付した。回答書には,被告の本件係争行為は本件契約7条に違反しないから,被告としてはこれらの点について原告と協議する必要はないと考えている旨が記載されていた。
(イ) 原告は,上記回答書を受けて,平成10年9月22日,紛争処理委員会の構成員である被告代表者のb,f,e及びgに対し,「紛争処理委員会開催通知書」(甲14)を発送した。通知書において,原告は,本件契約7条6項に基づいて,紛争処理委員会を開催するとし,日時を第1回について同月28日午後2時から3時まで,第2回について同月29日午後2時から3時まで,場所をいずれも横浜市(以下略)所在のホテルニューグランドの一室と指定した。なお,通知書には,原告が,補佐人として弁護士及び弁理士を伴って出席すること,被告(代表者)において紛争処理委員会に欠席した場合は,いかなる理由であろうとも原告は紛争処理委員会に対して被告のKマーク等の使用権を剥奪するとの決議を提案する所存であることが記載された。
(ウ) これに対し,fは,平成10年9月24日,原告に対して,委員会開催日とされた同月28日及び29日は,関与先の法人2社の重要な会議に出席することとなっているため,出席できない旨の欠席通知(甲16)を送付した。また,bは,同月25日,原告に対して,回答書と題する書面(甲15)を送付し,その中で,通知を受けてから6日後では予定がつかないので出席できないこと,補佐人の同席を認めるのであれば,補佐人の権限等についてルール作りが必要であること,紛争処理委員会の日取りについては双方で調整した上で決するのが慣例であり,欠席すれば使用権を剥奪する決議を提案するというのは被告に対する配慮を欠き,本件契約の趣旨に反すること,原告が違法事実として指摘した点については,原告と十分協議した上で,今後の処理を図りたいので,日を改めて協議の日時と場所を決めさせていただきたいことなどを記載した。
イ 先行決議が行われた経緯
 b及びfは,平成10年9月28日午後2時に,原告が指定した委員会の開催場所に出向かなかった。他方,原告代表者のa,e及びgは同所に集まって紛争処理委員会を開き,eを議長に選任して議事を進行させた。そして,aは,@被告及びdは,併せて19件のKマーク等に関する商標登録出願行為を行っており,本件契約7条1項に違反すること(本件係争行為)に加えて,A原告が株式会社サンリオに対して,本件標章1(3)における「Kitamura」の「Kit」と同一の字体を使用させて商品を販売させており,本件契約7条3項に違反すること,B被告が平成10年9月17日当時において,契約指定商品に当たらないゴルフボールについて,未だにKマーク等を付して販売していたことなどを主張し,被告が重大な契約違反行為を繰り返しており,しかも反省が見られないとして,直ちに被告に対して「Kマーク」の使用を禁ずる決議をするよう求め,出席委員3名がこれに賛成して決議がされた(以下「先行決議」という。)。
 上記委員3名は,翌29日午後2時ころ,上記場所に集まり,2回目の委員会を開いた。aは,前日の決議が有効に成立したことを確認されたい旨を述べ,出席委員3名はこれに応じた。
ウ 3回目の委員会に至る経緯
 原告は,被告及びfに対し,平成10年10月3日到達の書面をもって,b及びfが出席しなかった1・2回目の委員会で,被告に対してKマークの使用を禁ずる決議(先行決議)がされた旨を通知し,その上で,さらに被告の本件に関する釈明等を受け,話し合う場を設けたいとして,3回目の紛争処理委員会の開催を伝え,場所をホテルニューグランドの一室と指定し,日時については同年11月11日又は12日(いずれも午後2時から3時まで)のいずれかを,被告が選択して回答するように求めた(甲19・20)。なお,原告は,3回目の委員会に補佐人として弁護士・弁理士等を伴って出席する旨を同書面に記載した。これに対し,被告は,原告に対して,同年10月12日付けの書面(甲21)を送付し,先行決議が無効であると主張するとともに,原告に対して,紛争処理委員会に弁護士・弁理士等の補佐人を同席させる根拠や同席した場合の補佐人の権限について質問した。そこで,原告は,同月14日付け「回答書」(甲22)をもって,本件の議題が,商標の登録に関する高度に法的専門知識を要する問題であるから,疑義ある場合に即座に専門家の助言を必要とする旨を回答し,原告は補佐人の出席を要請する,被告においても同様の措置をとることを勧めると回答した。被告は,同月20日付けの文書(甲23)で,同年11月12日午後2時に,指定の場所へ出席する旨を回答した。ただし,被告は,同書面において紛争処理委員会には当然には補佐人の出席が認められない旨を記載し,まず補佐人の出席の許否,その権限について十分に協議し,これがまとまるようであれば,原告が指摘する本件係争行為について話し合いたい旨を記載した。
 fは,同年10月21日付けの出席通知と題する書面(甲24)で,先行決議が無効である旨,その上で,同年11月12日午後2時の紛争処理委員会に出席する旨を回答した。
エ 本件決議とそれに至る経緯
 平成10年11月12日,3回目の委員会が開催され,a,b,e,f及びgの全委員が出席した。まず,b及びfが,委員の他に原被告の補佐人の出席を許容することについて,疑義を述べたため,弁護士や弁理士などの補佐人は立ち会わず,委員5名のみで話合いが行われた。
 aは,紛争処理委員会の開催の前に議長の選出が必要である旨を提案した。fは,これに対して,前訴の提起の前に開催された平成6年5月17日の紛争処理委員会において,eが議長に選出され,f及びbの意見が無視されて決議がされたことの再現となることを懸念し,議長の必要性の有無とその権限について疑問を述べた。しかしながら,aはこれを受け入れず,a,e及びgの3委員の決議により,eを議長に選出した。その後も,f及びbは議長の選出について不服を述べたが,aはfの発言を度々制止した。
 さらに,被告側は,事前協議がされずに一方的に紛争処理委員会が開催されたとして,原告側に異議を述べた。また,紛争処理委員会とは別に,話合いを行いたい旨を申し入れたが,原告側はこれを拒否した。
 その上で,aは,用意していた書面を読み上げ,dから被告商標Aを相続したbら3名が,被告に対して無償で通常使用権を設定したこと(本件係争行為A),及び被告が被告商標Bについての商標権の登録出願行為をしたこと(本件係争行為B)は,本件契約に違反する見過ごすことのできない重大な違反行為であるから,原告の被告に対する「Kマーク」の使用許諾を取り消し,被告の「Kマーク」の使用を禁止するように決議することを求めた。
 これに対して,本件係争行為が本件契約に違反するか否かについて,bが疑問を呈したところ,aは「当たり前ですよ。それさえ,わかりませんか。」などと述べ,反論しようとするfの発言を制した。そして,議長に選出されたeが「これ,やっぱし,もう,このへんについては,ある程度の決議をせざるを得ないでしょう。」と述べたところ,fは決議に反対して退席する旨を述べ,bもそれに倣おうとした。a及びeは,f及びbが決議権を放棄したものと断定し,上記の決議を行い,a,e及びgの3委員が被告の「Kマーク」の使用を禁止するように決議した(本件決議)。
(3) 本件決議の手続的な観点からの瑕疵の有無・程度
ア 先行決議における手続遵守の程度
 本件では,被告からKマークの使用権を奪う内容の先行決議が先にされ,そのことを背景にして確認的に本件決議がされたという事実関係があり,先行決議の効力が本件決議の効力に密接な影響を及ぼしているから,先行決議の効力自体は原告は問題とはしていないが,まず,先行決議における手続の検討を踏まえて,本件決議の効力を検討する。
 前記(1)のとおり,原告の本件異議申立てに対し,被告は,本件係争行為が本件契約に違反しないという理由で,本件異議申立てについて協議する必要がない旨の回答書を送付している。このことが影響していると思われるが,事前協議が行われていないまま,先行決議が1回目の委員会においてされた。また,先行決議に関し紛争処理委員会として助言等の提示はされなかった。さらに,原告は,紛争処理委員会の開催通知書をbらに送付してからわずか6日後を1回目の委員会として指定し,これに対し,委員であるb及びfから都合がつかない旨の回答がされており,それにもかかわらず,両委員が出席しないまま,他の委員のみで先行決議がされている。
 このように協議の必要がないとの被告の回答があったとはいえ,その後の手続はKマークの使用を剥奪するという重大な内容の決議をすることとの対比からすると,必要な手続を大幅に欠いているといわざるを得ない。
イ 本件決議における手続の遵守の程度
 前記(2)のとおり,被告は本件異議申立てに対して事前協議に応ずる必要がない旨の回答をし,b及びfは,1・2回目の委員会に欠席し,3回目の委員会で,補佐人の同席や委員会の議長の選任について反対し,特に議長の選任をめぐって審議が紛糾したことが認められ,被告側に本件係争行為の審議に入ることを避けようとした意図があったいうこともあながち否定できない。
 しかしながら,前記のとおり,被告側は,3回目の委員会の開催を受諾した文書(甲23)において,原告と話し合う態度を示しており,3回目の委員会に現に出席し,そのような発言をしていたことなどに照らせば,被告には,一応,原告との協議に応ずる姿勢があったことが認められる。
 他方,本件決議がされた3回目の委員会に先立ち,原被告間で結果的には事前協議が行われておらず,また,同委員会により,被告に対して被告登録商標の出願の取下げを促すなどの助言等の提示の手続はされていない。のみならず,b及びfの同委員会の途中退席後に本件決議が残る3人の委員だけで採決された。本件決議における手続違反の程度はこのような内容である。
ウ 本件決議における手続の適否
 以上の事実を総合すれば,被告が協議する必要がない旨を先行決議の前に1度回答したことがあったとはいえ,本件決議は,結果的には,事前協議を欠き,紛争処理委員会の助言等の提示がされないまま,かつ,b及びfの同委員会の途中退席のままされており,本件契約上の適法な手続を欠いているというべきである。
 なお,原告は,原告による審判請求等(3(2)ウ(イ))や前訴に対して,被告側が徹底的に争った経緯等に照らせば,被告には被告の行為について釈明する意思や紛争の解決のために提案をする意思は皆無であった旨を主張する。しかしながら,被告が原告の審判請求等を争い,被告商標の取得及び維持に執着した背景には前訴の帰趨に対する不安があったといえ(これに反する被告の主張及び証拠は採用できない。),被告勝訴の前訴判決の確定により被告の対応が変化することもあり得るから,仮に前訴判決確定前に原告が主張するような被告の不誠実な対応があったとしても,それは,原告側の本件決議における手続違反の程度には影響しないというべきである。原告側には被告の従前の対応からみて,事前協議を求めても,また,助言等の提示がされても,建設的な解決が得られないと予測する向きもあったかもしれないが,使用権を奪うという重大な内容の決議をする以上,定められた手続を遵守していない本件決議には,少なからぬ瑕疵があるといわざるを得ない。
7 本件決議の効力(まとめ)
(1) 前記5及び6のとおり,本件決議には実体的及び手続的両面からの少なからぬ瑕疵があり,本件決議は無効といわざるを得ない。
(2) なお,本件において,所定の手続を経由せずに紛争処理委員会による決議を強行して被告に対するKマーク等の使用を禁止することを原告に認めなければ,著しく正義,公平に反するといった特別の事情も見当たらない。
 また,前記6(2)イのとおり,本件係争行為以外に,被告が株式会社サンリオに対して本件標章1(3)の一部を使用させており,本件契約7条3項に違反する旨を,先行決議においてaが主張し,甲45(弁理士の意見書)には被告が株式会社サンリオのキャラクターである「Hello Kitty」を付したバック等を販売した点について,「Hello Kitty」における「K」の書体がKマークの書体と同一であり,原告とサンリオが業務提携しているかのような誤認混同を生じ,問題である旨の記載がある。
 しかし,本件決議の原因となったのは本件係争行為であり,上記の点ではない。しかも,原告自身,上記の点を本件請求の何らかの根拠とする旨の主張をしていない。よって,上記の点は,本件請求の成否には影響しないといわざるを得ない。
第4 結論
 そうすると,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 

横浜地方裁判所第1民事部
 裁判長裁判官 岡光民雄
 裁判官 窪木稔
 裁判官 家原尚秀


別紙1(原告商標目録)
1 出願日 昭和58年5月19日
 出願番号 58−45615
 登録日 昭和61年5月30日
 登録番号 第1864172号
 商品区分 商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表の商品区分第21類(以下「旧第21類」のようにいう。)
 指定商品 かばん類,袋物,その他本類に属する商品
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(1)のとおり
2 出願日 平成9年1月29日
 出願番号 9−8562
 登録日 平成11年3月12日
 登録番号 第4248534号
 商品区分 商標法施行令(平成3年政令第299号による改正後のもの)別表の商品区分第18類(以下単に「第18類」という。)
 指定商品 皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
3 出願日 平成9年12月15日
 出願番号 9−185966
 登録日 平成11年5月28日
 登録番号 第4277267号
 商品区分 第18類
 指定商品 皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(3)のとおり
4 出願日 平成6年2月24日
 出願番号 6−18851
 商品区分 第18類
 指定商品 皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(4)のとおり

別紙2(被告商標目録)
1 出願日 昭和62年7月6日
 出願番号 62−77414
 登録日 平成2年2月23日
 登録番号 第2213649号
 商品区分 旧第17類
 指定商品 被服(運動用特殊被服を除く。),布製身回品(他の類に属するものを除く。),寝具類(寝台を除く。)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載2のとおり
2 出願日 昭和62年7月6日
 出願番号 62−77415
 登録日 平成2年5月31日
 登録番号 第2234018号
 商品区分 旧第18類
 指定商品 ひも(被服に属するもの及びはき物用又は運動具用ひもを除く。),綱類(運動具に属するものを除く。),網類(運動具に属するものを除く。),包装用容器
 登録商標 別紙3(標章目録)記載2のとおり
3 出願日 昭和62年7月6日
 出願番号 62−77416
 登録日 平成3年8月30日
 登録番号 第2328366号
 商品区分 旧第22類
 指定商品 はき物(運動用特殊ぐつを除く。),かさ,つえ,これらの部品及び附属品
 登録商標 別紙3(標章目録)記載2のとおり
4 出願日 平成5年7月21日
 出願番号 5−76770
 商品区分 第18類
 指定商品 かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
5 出願日 平成5年7月29日
 出願番号 5−79604
 商品区分 第18類
 指定商品 かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘
 登録商標 別紙3(標章目録)記載3のとおり
6 出願日 平成5年7月29日
 出願番号 5−79605
 商品区分 第18類
 指定商品 かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘
 登録商標 別紙3(標章目録)記載4のとおり
7 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55941
 商品区分 第6類
 指定商品 キーホルダー,金属製のバックル
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
8 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55942
 登録日 平成9年10月17日
 登録番号 第4069920号
 商品区分 第25類
 指定商品 洋服・コート,セーター類・ワイシャツ類・寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽,和服,エプロン・えり巻き・靴下・ゲートル・毛皮製ストール・ショール・スカーフ・足袋・足袋カバー・手袋・布製幼児用おしめ・ネクタイ・ネッカチーフ・マフラー・耳覆い,ずきん・すげがさ・ナイトキャップ・ヘルメット・帽子,ガーター・靴下止め・ズボンつり・バンド・ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた・草履類,運動用特殊衣服・運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
9 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55943
 登録日 平成9年5月30日
 登録番号 第3314469号
 商品区分 第28類
 指定商品 おもちゃ・人形,運動用具
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
10 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55944
 商品区分 第34類
 指定商品 喫煙用具(貴金属製のものを除く)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載1(2)のとおり
11 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55945
 商品区分 第6類
 指定商品 キーホルダー,金属製のバックル
 登録商標 別紙3(標章目録)記載5のとおり
12 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55946
 商品区分 第18類
 指定商品 かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘
 登録商標 別紙3(標章目録)記載5のとおり
13 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55947
 登録日 平成10年8月7日
 登録番号 第4174485号
 商品区分 第25類
 指定商品 洋服・コート,セーター類・ワイシャツ類・寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽,和服,エプロン・えり巻き・靴下・ゲートル・毛皮製ストール・ショール・スカーフ・足袋・足袋カバー・手袋・布製幼児用おしめ・ネクタイ・ネッカチーフ・マフラー・耳覆い,ずきん・すげがさ・ナイトキャップ・ヘルメット・帽子,ガーター・靴下止め・ズボンつり・バンド・ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた・草履類,運動用特殊衣服・運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載5のとおり
14 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55948
 商品区分 第28類
 指定商品 おもちゃ・人形,運動用具
 登録商標 別紙3(標章目録)記載5のとおり
15 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55949
 商品区分 第34類
 指定商品 喫煙用具(貴金属製のものを除く)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載5のとおり
16 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55950
 商品区分 第6類
 指定商品 キーホルダー,金属製のバックル
 登録商標 別紙3(標章目録)記載6のとおり
17 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55951
 商品区分 第18類
 指定商品 かばん類・袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具・がま口金具,傘
 登録商標 別紙3(標章目録)記載6のとおり
18 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55952
 登録日 平成10年8月7日
 登録番号 第4174486号
 商品区分 第25類
 指定商品 洋服・コート,セーター類・ワイシャツ類・寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽,和服,エプロン・えり巻き・靴下・ゲートル・毛皮製ストール・ショール・スカーフ・足袋・足袋カバー・手袋・布製幼児用おしめ・ネクタイ・ネッカチーフ・マフラー・耳覆い,ずきん・すげがさ・ナイトキャップ・ヘルメット・帽子,ガーター・靴下止め・ズボンつり・バンド・ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた・草履類,運動用特殊衣服・運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載6のとおり
19 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55953
 商品区分 第28類
 指定商品 おもちゃ・人形,運動用具
 登録商標 別紙3(標章目録)記載6のとおり
20 出願日 平成6年6月7日
 出願番号 6−55954
 商品区分 第34類
 指定商品 喫煙用具(貴金属性のものを除く)
 登録商標 別紙3(標章目録)記載6のとおり
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