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【事件名】ネット上の要約文、無断配信事件A
【年月日】平成13年12月3日
 東京地裁 平成13年(ワ)第22067号 著作権侵害差止等請求事件(甲事件)
 /同第22069号 著作権侵害差止等請求事件(乙事件)
 /同第22082号 著作権侵害差止等請求事件(丙事件)
 /同第22086号 著作権侵害差止等請求事件(丁事件)
 (口頭弁論終結日 平成13年12月3日)

判決
甲事件原告 A
乙事件原告 株式会社日本経済新聞社
丙事件原告 B
丁事件原告 C
原告ら訴訟代理人弁護士 光石忠敬
同 光石俊郎 
甲ないし丁各事件被告 有限会社コメットハンター


主文
1 被告は、別紙第1目録その1ないし4記載の各要約文について、公衆送信してはならない。
2 被告は、別紙第1目録その1ないし4記載の各要約文を被告のホームページから削除、抹消せよ。
3 被告は、甲及び乙事件原告に対し、各金100万円及びこれに対する平成13年10月28日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、丙及び丁事件原告に対し、各金150万円及びこれに対する平成13年10月28日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判(訴状のとおり)
 主文と同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因(訴状のとおり)
(1) 著作権及び著作者人格権侵害【甲ないし丁事件】
ア 原告ら及びその著作権
 甲事件原告は、1946年に生まれ、東京大学経済学部を卒業し、銀行、出版社勤務を経て作家となり現在に至っている。主な著作に「小説大蔵省」「左遷!」「小説都市銀行」「政商誕生」「銀行支店長」(以上、講談社文庫)「疑惑株」「小説通産省」(以上、徳間文庫)「集団左遷」(ノンポシェット)「ドキュメント・サラ金」(ちくま文庫)「出社拒否宣言」(立風書房)「テレビキャスター」(潮出版社)「しなやかな辣腕」(光文社)「新入社員」(日本経済新聞社)などがある。
 乙事件原告は、新聞の発行及びこれに関連する事業、例えば書籍の出版及び販売等を目的とする会社であり、1876年創業以来、中正公平な言論報道に徹し、国内外で高い評価と信頼を勝ち得ている。従業員約4000名で日本経済新聞(約310万部発行)をはじめとする新聞5紙を中心に、出版、電子メディア、データベース、電波・映像、イベントなど経済を中心に総合的な情報を世界各国に提供している。
 丙事件原告は、東京大学大学院経済学研究科教授で、「ゼミナール国際経済入門」「市場主義」「市場の法則」などの著作がある。
 丁事件原告は、現在、京都大学経済研究所教授・同所長であり、「経済学とは何だろうか」「経済学における保守とリベラル」「『大国』日本の条件」「尊厳なき大国」「平成不況の政治経済学」及び「資本主義の再定義」外多数の著書がある。
 甲ないし丁事件原告は、別紙第2目録その1ないし4記載の各書籍(以下「本件書籍1ないし4」と、これらをあわせて「本件各書籍」いう。)を著作し、各書籍について、著作権及び著作者人格権を有する。
イ 被告の行為
 被告は、平成8年ころからインターネット上にホームページ「速読本舗」を開設し、「ビジネス書を中心に毎月4冊の書籍を選び、その内容を要約し、書評を加えて会員の皆様にお届け(メールサービス)します。『読みたい本はある』『だけど時間がない』という経営者、ビジネスマンの皆様に最適です。」と明示の上、多くの書籍を要約して要約文を掲載しているが、別紙第1目録その1ないし4記載の各要約文(以下「被告要約文1ないし4」と、これらをあわせて「被告各要約文」という。)もその例である。
 被告は、被告要約文1を平成8年8月より、被告要約文2を同9年9月より、被告要約文3を同13年4月より、被告要約文4を同9年5月より、ホームページ上に掲載している。
 被告各要約文は、本件各書籍に依拠し、本件各書籍を無断で複製ないし翻案したものである。本件書籍1については、別紙対比表1ないし4のうち、3’は複製であり、1’、2’及び4’は翻案である。本件書籍2については、別紙対比表1ないし5のうち、同1’ないし4’は翻案で、同5’は複製である。本件書籍3については、別紙対比表1ないし5のうち、同1’、2’及び5’は複製で、同3’及び4’は翻案である。本件書籍4については、別紙対比表1ないし4のうち、2’は複製で、1’、3’及び4’は翻案である。したがって、被告は、被告各要約文をインターネット上のホームページ「速読本舗」に掲載することにより原告の翻案権、複製権及び公衆送信権を各侵害している。
 また、被告各要約文は、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害している。本件書籍1については、被告は、本件書籍1につき、別紙対比表3を3’と無断で改変し、また同表1’、2’及び4’と無断で翻案して改変している。本件書籍2につき、別紙対比表5を5’と無断で改変し、また同表1’ないし4’と無断で翻案し改変している。本件書籍3につき、別紙対比表1、2及び5を1’、2’及び5’と無断で改変し、また同表3’及び4’と無断で翻案して改変している。本件書籍4につき、別紙対比表2を2’と無断で改変し、また同表1’、3’及び4’と無断で翻案し改変している。
(2) 肖像権侵害【丙及び丁事件】
 被告は丙及び丁事件原告の肖像を無断で使用して被告のホームページ上に掲載し、故意に丙及び丁事件原告の肖像権を侵害した。
(3) 損害
ア 甲及び乙事件原告
 被告は、前記(1)記載のとおり、故意又は過失により、原告の著作者人格権を侵害した。これにより、甲及び乙事件原告が被った精神的損害はそれぞれ金100万円を下ることはない。
イ 丙及び丁事件原告
 被告は、前記(1)記載のとおり、故意又は過失により、丙及び丁事件原告の著作者人格権を侵害し、前記(2)記載のとおり、故意に丙及び丁事件原告の肖像権を侵害した。これらにより、丙及び丁事件原告が被った精神的損害は金150万円を下ることはない。
(4) 結論
 よって、甲ないし丁事件原告は、被告に対し、本件各書籍に係る複製権、翻案権及び公衆送信権の各侵害を理由に請求の趣旨第1項及び第2項の請求を求め、甲及び乙事件原告は、著作者人格権侵害による損害賠償請求に基づき金100万円及びこれに対する平成13年10月28日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、丙及び丁事件原告は、著作者人格権及び肖像権侵害による損害賠償請求に基づき金150万円及びこれに対する平成13年10月28日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
第三 理由
 被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。
 上記の事実によれば、原告らの請求はいずれも理由がある。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 石村智


第1目録
1 その1
 「辞めてよかった!」A著と題し、「決断した後は迷わず」「『幸運』『不運』との取り組み方が大切」「転職者に起きる『ビギナーズ・ハイ』」「力を出さないのは『もったいない」「辞めてよし、辞めなくてよし」「未知の自分を知ることは楽しい」の部分からなる全4頁の要約文
2 その2
 「2020年からの警鐘」日本経済新聞社・編集と題し、「先送りはもう許されない」「日本が消える」「たそがれの同族国家」「疾走する資本主義」「漂流する思想」の部分からなる全4頁の要約文
3 その3
 「日本の難問」C著、日本経済新聞社発行と題し、「閉塞の日本と勃 興のアジア」「崖っ淵に立たされた日本」「『第三の改革』の理念と戦略」「勃興するアジア発の難問」「地球的視野で難問に挑む」の部分からなる全4頁の要約文
4 その4
 「デジタルな経済」B著、日本経済新聞社発行と題し、「世の中大変化小変化」「企業の多様な機能が分解され、業界秩序は大きく変化」「流通システムは販売代理業的なものから購買代理業的なものへ」「デジタル革命の本質は、不特定多数と『つながる』こと」「重要なのはインターネットでできないことができるかどうか」「マス・マーケティング型からパーソナル型へ」の部分からなる全4頁の要約文

第2目録
1 その1
著者 A  
題名 辞めてよかった!
第1刷発行日 平成8年7月1日
発行所 株式会社日本経済新聞社
2 その2
著者 株式会社日本経済新聞社
題名 2020年からの警鐘
第1刷発行日 平成9年6月23日
発行所 株式会社日本経済新聞社
3 その3
著者 C
題名 日本の難問
第1刷発行日 平成9年3月13日
発行所 株式会社日本経済新聞社
4 その4
著者 B
題名 デジタルな経済
第1刷発行日 平成13年2月23日
発行所 株式会社日本経済新聞社

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【事件名】ネット上の要約文、無断配信事件B
【年月日】平成13年12月3日
 東京地裁 平成13年(ワ)第22110号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成13年12月3日)

判決
原告 A
同 B
同 C
同 D
同 E
同 F
同 G
同 H
同 I
原告ら訴訟代理人弁護士 伊藤真
被告 有限会社コメットハンター


主文
1 被告は、別紙各書籍要約文を自動公衆送信又は自動公衆送信可能化してはならない。
2 被告は、被告の開設するウェブサイトから、別紙各書籍要約文を削除せよ。
3 被告は、各原告に対し、それぞれ金110万円及びこれに対する平成13年10月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判(訴状どおり)
 主文と同旨
第2 当事者の主張(訴状どおり)
1 請求原因
(1) 原告ら及びその著作権
 原告らは、それぞれ各界著名の評論家、文化人ないし経営者であって、それぞれ、大手出版社による書籍の出版などを通じ、その著作活動についても広く知られている著名人である。
 原告らは、別紙書籍目録記載の各書籍(以下「本件各書籍」という。)の著作者であり、各書籍につきそれぞれ著作権及び著作者人格権を有している。
(2) 被告の行為
 被告は、「速読本舗」なるウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を訴外ビックエル・グループが提供するサーバーにおいて開設して有料の会員を募り、ビジネス書を中心とした書籍を改変した要約文(以下「書籍要約文」と言う。)を作成し、これをインターネットを利用したメールサービスによって会員に公衆送信し、また、一部の書籍要約文については本件ウェブサイトにおいて公開(送信可能化)し、本件ウェブサイトにアクセスした者に対して広く公衆送信している。その概要は以下の通りである。
ア 書籍要約文送信の方法
(ア) 会員(有料)に対し、毎月4冊の新刊書籍の書籍要約文を、インターネットを利用した電子メールにより原則として有料で送信する。
(イ) 既に送信した書籍要約文についても、その後に入会した会員に対して、その希望に応じて電子メールにより有料で送信する。
(ウ) 本件ウェブサイトにおいて上記の会員を募集し、上記の会員に対し毎月送信する4冊の書籍要約文のうち1冊分については、本件ウェブサイト上にて無料サンプルとして公開(送信可能化)し、会員、非会員を問わずアクセスした者に対して広く公衆送信する。
(エ) 過去3年を経過した書籍要約文については、過去に送信したすべての書籍要約文を本件ウェブサイト上にて無料公開(送信可能化)し、会員、非会員を問わずアクセスした者に対して広く公衆送信する。
 このように、(ア)及び(イ)については、有料で会員に公衆送信するとともに、(ウ)及び(エ)については会員、非会員を問わず本件ウェブサイトにアクセスした者すべてに公衆送信される状態となっている。
イ 会員の種別及び会費(購読料)
 このような会員の種類は、個人及び法人の別となっており、会費については、毎月の「購読料金」として、個人については月額1000円(半年コース)ないし1500円(1年コース)、法人については、資本金の額に応じて、1万円から10万円(半年コース)ないし2万円から20万円(1年コース)との低廉な価格設定がなされている。
 また、入会以前の書籍要約文の購読料金については、さらに低廉な購読料金が設定されている。
ウ 会員数及びアクセス数
 本件ウェブサイトの会員数及びアクセス数の詳細は不明であるが、本件ウェブサイトにおいて被告自身が平成13年6月16日発表として公開しているアンケートの結果によれば、同年5月7日から同月20日の期間に行われたアンケートの回答総数は4823名であり、うち会員は2836名、非会員は1987名であったとのことである。
 アンケート非回答者の存在をも考慮すれば、わずか2週間の間に相当数のアクセスがあったのであり、本件ウェブサイト開設以来現在まで、多数の者が会員となっているとともに、会員以外にも極めて多数の者が本件ウェブサイトにアクセスし、無料公開されている書籍要約文を利用していることは明らかである。
 被告は、別紙書籍目録記載の各書籍について、原告らの許諾を得ることなく、上記行為の一環として、書籍要約文の公衆送信を行っている。
 被告の作成した書籍要約文は、対照表(このうち、原告Aに係る対照表は別紙のとおりである。)からも明らかなとおり、10行程度の書籍紹介の文章を付した上で、それ以外は書籍の文章に改変、修正を施し、また、本件各書籍の文章のポイントと思われる部分を抜き書きして、その内容の要約としたにすぎないものであり、本件各書籍を翻案したといえる。そして、本件各書籍要約文においては、被告が本件各書籍を紹介する表現部分はごくわずかしか存在しないのであって、書評といいうるような書籍の評価論評など被告独自の著作物の中に従たる関係で原告らの著作物が用いられているものでは到底なく、被告の掲示行為が著作権法32条の「引用」に該当しないことは明らかである。
 以上によれば、被告の行為は、原告らが本件各書籍について有する翻案権、原著作者として有する複製権並びに公衆送信権及び公衆送信可能化権を侵害するとともに、原告らの許諾なく本件各書籍を改変しているものであるから、著作者人格権を侵害する。
(3) 損害
 各原告が被った損害額は、以下のとおり、それぞれ金110万円を下らない。
ア 著作権侵害による損害額
 被告は、本件書籍要約文を会員に対し有料で提供するのみならず、全世界からアクセスが可能であるインターネットウェブサイトを通じて広く公衆に無料で公開してこれを自動公衆送信している。
 さらに、前記(2)アないしウ記載の事実から推計される本件ウェブサイトへのアクセス数、会員数及び会費金額、並びに、原告ら著名人の知名度、本件各書籍の出版社による販売宣伝活動の成果その他の諸事情に鑑みれば、被告の行為によって、各原告が被った損害は、慰謝料を含め、少なく見積もっても、各金100万円を下らない。
イ 弁護士費用
 また、各原告に生じた弁護士費用のうち、被告による著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある損害額は、各原告につき金10万円を下らない。
(4) 結論
 よって、原告らは、被告に対し、原告らが本件各書籍について有する翻案権、複製権、公衆送信権、公衆送信可能化権及び著作者人格権に基づき、本件各書籍要約文の自動公衆送信又は自動公衆送信可能化の差止め、被告の開設するウェブサイトからの本件各書籍要約文の削除、それぞれ金110万円及びこれに対する平成13年10月28日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 理由
 被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。
 上記の事実によれば、原告らの請求はいずれも理由がある。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 石村智


書籍目録
原告 題号
A 成功の法則
B 日本の常識を捨てろ!
C 松下幸之助とその社員は逆境をいかに乗り越えたか
D 2001年版世界の動きこれだけ知っていればいい
E これから市場戦略はどう変わるのか
F 面白い奴ほど仕事人間
G 総理の器
H IT時代の社会のスピード
I 人材論
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