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【事件名】ドメイン名の使用権確認請求事件(合資会社壱) 【年月日】平成13年11月29日 東京地裁 平成13年(ワ)第5603号 ドメイン名所有権確認請求事件 (口頭弁論終結の日 平成13年10月30日) 判決 原告 合資会社 壱 被告 ソニー株式会社 訴訟代理人弁護士 鈴木修 同 矢部耕三 同 辻河哲爾 補佐人弁理士 青木博通 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 原、被告間で、原告がドメイン名「WWW.SONYBANK.CO.JP」につき所有権を有していることを確認する。 2 被告 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、工業所有権仲裁センター紛争処理パネルにおいて、「ドメイン名『SONYBANK.CO.JP』の登録を申立人に移転せよ。」との裁定を受けたことを不服として、同ドメイン名につき所有権を有していることの確認を求めたのに対し、被告が、ドメイン名に対する所有権は観念できないなどと主張して、訴えの却下を求めている事案である。 1 前提となる事実(各文末尾記載の証拠により認められる。) (1)ドメイン名「SONYBANK.CO.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)は、平成12月1月11日、株式会社酵素栽培命泉茸(以下「酵素栽培」という。)名義で登録され、原告の無限責任社員であるA(以下「A」という。)が、本件ドメイン名の登録担当者、技術連絡担当者となっていた(乙13の1及び2)。 (2)被告は、酵素栽培に対し、平成12年12月13日付けで本件ドメイン名が被告の有する著名な商標である「SONY」と類似し取引者等の誤認混同を招くものであることを指摘した上で本件ドメイン名を保有する目的等についての回答を求める内容の通告書を送付した(甲2)。その後、同月28日、本件ドメイン名の登録名義人は、酵素栽培から原告に変更された(乙1の1〜3)。 (3)被告は、平成13年1月18日、工業所有権仲裁センター(以下「仲裁センター」という。)に対し、原告を被申立人とする本件ドメイン名の移転の申立てをした(乙34)。工業所有権仲裁センター紛争処理パネル(以下「紛争処理パネル」という。)は、同年3月16日、本件ドメイン名の登録を被告に移転せよとの裁定(以下「本件裁定」という。)を行い、同年3月21日付けで、同裁定結果は原告に通知された(甲1)。 2 当事者の主張 (1)原告 原告の主張は、本判決末尾添付の訴状、平成13年4月9日付け準備書面及び平成13年5月10日付け準備書面(2)各記載のとおりであるが、要するに、本件ドメイン名は、原告の所有権に属するものであり、憲法29条により保護される財産権であって所有者たる原告の同意なしにこれを奪うことはできないから、被告への移転を命じる本件裁定は、公序良俗に反し無効であるというものである。 (2)被告 被告は、ドメイン名に対する所有権は観念できず、本件ドメイン名は原告と訴外社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)との債権的関係に基づくものにすぎないから、本件訴えは訴えの利益を欠くものとして却下されるべきであると主張するとともに、本件裁定は、JPNICと登録者との間で合意された登録規則に規定された紛争処理方針に従って判断されたものであって、その認定判断に誤りはないと主張する。 第3 当裁判所の判断 1 原告の本訴請求は、前記のとおり、原告が、紛争処理パネルにおいて「ドメイン名『SONYBANK.CO.JP』の登録を申立人に移転せよ。」との本件裁定を受けたことを不服として、本件ドメイン名につき所有権を有していることの確認を求めたものであるところ、被告は、前記のとおり、ドメイン名に対する所有権は観念できないなど主張して、訴えの却下を求めている。 そこで検討するに、前記前提となる事実によれば、本件ドメイン名は、JPNICにおいて酵素栽培を登録名義人として登録され、その後、登録名義人が酵素栽培から原告に変更されたものと認められるところ、証拠(甲1、乙31、32、33の1及び2、34)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア インターネットにおいては、接続されたコンピュータを認識するためにIPアドレスと呼ばれる32ビットで構成された数字列を用いている。各番号はそれぞれ単独の利用者に付与されるもので、それだけで接続された個別のコンピュータが特定される。しかし、この数字列だけでは利用者の記憶に残りにくく、電子メールなどのやり取りに不便であることから、アルファベット、数字、ハイフン等により構成された文字列であるドメイン名が考案された。 イ ドメイン名には、アルファベット等の文字が使用され、利用者の記憶に残りやすいことから、自己の名称、社名、商標等をドメイン名として登録することが通常行われている。ドメイン名は、ウェブサイトのアドレスにも用いられるが、その場合には、通信手段を示す表示として冒頭に「http://www.」が付加される。 ウ 我が国において、インターネットのドメイン名の登録等の業務を行う団体としてJPNICがある。JPNICは、「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則」(乙32。以下「登録規則」という。)を定めており、インターネット利用者は、同規則の内容を承認した上でJPNICに申請することにより、ドメイン名の登録を受け、また、既に登録されているドメイン名につき移転登録を受けることができる。ドメイン名の登録は、先願主義に基づき、申請者がドメイン名を自由に選択できるようになっているが、登録に際して既存の商標や商品等表示などに関する権利と抵触するか否かについての審査は行われていない。 エ 登録規則には、次の条項が置かれている。 「第1条(適用範囲・目的) この規則は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「当センター」という)による‥‥‥属性型(組織種別型)および地域型JPドメイン名(以下「ドメイン名」という)の登録等に適用し、インターネットの利用の促進を図ることを目的とする。 第2条(ドメイン名登録の目的と意味) 当センターのドメイン名の登録は、インターネット上での識別子として用いることを目的として行うもので、当センターが管理するドメイン名空間におけるドメイン名の一意性を意味し、これ以外のいかなる意味も有さない。 第7条(先願) 同一のドメイン名について2以上の登録申請があったときは、逐次その申請順に審査を行い、登録を承認された最先の申請者が登録者となる。 第11条(登録申請) @ 申請者は、別に定める様式により当センターの指定するアドレスに電子メールで登録申請を行う。 (2項については省略する。) 第17条(登録の承認および不承認) @ 事務局は、下記各号のいずれかの事由がある場合を除き、その登録申請を承認し、そのいずれかの事由がある場合は、その登録申請を不承認とすることができる (下記各号の記載については省略する。)。 (2項については省略する。) 第19条(ドメイン名登録原簿・ネームサーバ設定) @ 当センターは、登録を承認されたドメイン名、登録組織名、登録組織の所在地、登録組織の代表者名または連絡担当者名その他必要な事項を記載したドメイン名登録原簿(以下「登録原簿」という)を作成し、当センター所定の方法により公開する。 (2項以下については省略する。) 第29条(ドメイン名の移転登録) @ 登録者は、ドメイン名の移転に関する登録者と第三者の合意がある場合、当センター所定の方式によって申請を行ない、その承認を得ることにより、ドメイン名の移転登録をすることができる。 (2項及び3項については省略する。) C 認定紛争処理機関で移転の裁定があり、当センターがその裁定結果を受領してから10営業日(当センターの営業日をいう)以内に、登録者からJPドメイン名紛争処理方針(以下「紛争処理方針」という)第4条k項に定める文書の提出がされない場合、当センターは、その裁定にしたがって、ドメイン名の移転登録をする。 (5項については省略する。) 第31条(登録の取消) 下記各号の事由がある場合、当センターは、ドメイン名の登録を取り消すことができる(下記各号の記載については省略する。)。 第34条(登録取り消し決定) @ 審査委員会等が取り消しの事由があると認めた場合には、そのドメイン名の登録を取り消す旨を決定する。 (2項以下については省略する。) 第40条(紛争処理) 登録者は、その登録にかかるドメイン名について第三者との間に紛争がある場合には、紛争処理方針に従った処理を行うことに同意する。」 オ 前記の登録規則29条4項の規定を受けて、紛争処理方針第4条k項には、紛争処理パネルが登録者のドメイン名登録の取消又は移転の裁定を下した場合には、紛争処理機関からの裁定の通知後10日間以内に登録者から申立人を被告として裁判所に出訴したとの文書が提出されなければ、仲裁センターはその裁定を実施する旨が定められている。 以上の認定事実によれば、@インターネット利用者は、登録規則の内容を承認した上でJPNICに申請することにより、ドメイン名の登録を受け、また、既に登録されているドメイン名につき移転登録を受けることができること、Aドメイン名の登録は、インターネット上での識別子として用いることを目的として行うもので、これ以外のいかなる意味も有さないこと、Bドメイン名の登録、移転についてはJPNICの承認が必要であり、一定の事由があればJPNICからその登録を取り消されることなどが認められるものであって、これらに照らせば、ドメイン名登録は、インターネット利用者とドメイン名登録機関であるJPNICとの間で登録規則をその内容(契約約款)とする私的な契約により付与されるものであり、ドメイン名登録者はJPNICに対する債権契約上の権利としてドメイン名を使用するものであって、ドメイン名について登録者が有する権利はJPNICに対する債権的な権利にすぎない。したがって、本件において、本件ドメイン名を所有権の対象と観念する余地がないことは明らかであるから、「原、被告間で、原告がドメイン名『WWW.SONYBANK.CO.JP』につき所有権を有していることを確認する。」との裁判を求める原告の本訴請求は、確認を求める法律関係について法的前提を欠くものであり、確認の利益を欠くものとして不適法なものであるから、却下すべきものである。 2 なお、原告は、第1回口頭弁論期日及び第1回弁論準備手続期日には出頭したものの、その後の第2回口頭弁論期日以降の口頭弁論期日に不出頭を続けているところ、陳述されていない原告提出に係る平成13年7月26日付け「訴え変更申立書」と題する書面には、変更後の請求の趣旨として、「原、被告間で本件ドメイン名は、原告の同意なしに、登録を移転することはできないことと原告が登録・保有し続けることができる権利を持つことの確認を求める。」との記載があるが、同記載については、原告が、本件裁定の認定判断を争い、被告との間で本件ドメイン名の登録を移転する義務のないことの確認を求める趣旨と解する余地がないとはいえない。そこで念のため、本件裁定の認定判断に誤りがないかどうかについて、当裁判所において検討した結果を付言することとする(なお、認定事実は、各末尾記載の証拠により認められる。)。 (1)本件ドメイン名は、前記前提となる事実のとおり、平成13年1月18日、JPNICにおいて、登録名義人が酵素栽培から原告に変更されたところ、前記1エ記載のとおり、登録規則40条に「登録者は、その登録にかかるドメイン名について第三者との間に紛争がある場合には、紛争処理方針に従った処理を行うことに同意する。」と規定されており(乙32)、さらに、紛争処理方針3条には、「当センターは、下記のいずれかに該当する場合には、当該ドメイン名登録の移転または取消の手続を行う。」として、これに該当する場合の一つとして、紛争処理パネルのその旨の裁定をJPNICが受領したときが掲げられている。 ドメイン名紛争処理手続に関しては、紛争処理方針4条a項が、「適用対象となる紛争」として、申立人から次の(@)〜(B)の申立てがあったときには、登録者は紛争処理方針の定める紛争処理手続に従うべきことを規定し、紛争処理手続において、申立人はこれら3項目のすべてを申立書において主張しなければならない旨を定めている(乙33の1)。 (@) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること (A) 登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと (B) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること そして、同条b項には、紛争処理機関のパネルが上記(B)の事実の存否を認定するに際し、特に次のような事情がある場合には、当該ドメイン名の登録又は使用は、不正の目的であると認めることができる(ただし、これらの事情に限定されない。)旨が規定され、「登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき」、「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき」を含めた場合が掲げられている。 同条i項には、パネル手続による申立人に対する救済は、登録者のドメイン名登録の取消し又は当該ドメイン名登録の申立人への移転により行われる旨が規定されている。 紛争処理方針がパネル手続による救済の要件として掲げる上記(@)〜(B)の各項目は、その内容に照らして合理的かつ相当なものであると認められるところ(この点で、原告の、公序良俗違反との主張には何ら理由がないことは明らかである。)、前記の登録規則40条の規定によれば、原告は、本件ドメイン名の移転登録を受けるに当たって、紛争処理方針に従った処理が行われることについて同意しているというべきである。そうすると、本件において、上記(@)〜(B)の項目に該当する事実が認められる場合には、原告は、本件裁定に従って本件ドメイン名の登録を被告に移転する義務を負うものというべきである。 (2)そこで、まず、本件において(@)の項目に該当する事実が認められるかどうかについて検討する。 被告は、「SONY」の文字を含む商標について、昭和30年3月1日出願・同31年11月20日登録の491710号商標以来、258件にわたる商標登録を得ており(乙2、3の1及び2)、登録618689号商標には指定商品役務全類について防護標章登録がなされている(乙4の1〜3)。また、被告は、「SONY」という商標について、指定役務を金融・保険・不動産の取引とする36類について、3049161号(割賦購入のあっせん、クレジットカード利用者に代わってする支払い代金の精算、金銭の貸付け)、3049163号(債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、両替等)として商標登録を得ている(いずれも平成4年9月30日出願・平成7年6月30日登録;乙6の1及び2並びに7の1及び2)。 このように、被告は「SONY」という登録商標のほか、「SONY」の文字を含む多数の登録商標を有しているものであり、また、「SONY」の名称は被告及びその関連企業を表す表示として著名であるところ(弁論の全趣旨により認められる。)、本件ドメイン名(SONYBANK.CO.JP)における「BANK」は銀行を表わす英語普通名詞にすぎず、また、「CO」は登録者の組織属性、「JP」は登録国を意味する一般的な表示であるから、本件ドメイン名において識別力を有する部分は「SONY」の部分というべきである。そうすると、本件ドメイン名中の識別力を有する部分は、「SONY」という被告の登録商標及び著名な営業表示と同一である。したがって、本件ドメイン名は、被告の登録商標及び著名な営業表示と混同を引き起こすほど類似していると認められる。すなわち、「SONY」という部分を含む「SONYBANK」というアルファベットの文字列からなる本件ドメイン名は、これを見る者をして、被告と本件ドメイン名の登録者との間に緊密な営業上の関係が存在するとの誤認を生じせしめるおそれが極めて高く、本件ドメイン名は、被告との間で役務の出所ないし営業主体の混同を引き起こすおそれがあるものである。 上記のとおり、本件においては、(@)の項目に該当する事実が認められる。 (3)次に、(A)の項目に該当する事実が認められるかどうかについて検討する。 本件については、被告がインターネットを活用した銀行業に参入することが、平成11年12月10日に、多数の報道機関により大々的に報道された(乙9の1〜7)ところ、その直後の平成12年1月11日ころ、本件ドメイン名が、Aを登録担当者とする酵素栽培により申請・登録されたこと(乙13の1及び2)、酵素栽培の会社名称は「こうそさいばいめいせんたけ」であり、その事業目的は、酵素栽培による椎茸を主成分とする健康食品の製造、加工等でしかなく(乙12の1)、本件ドメイン名である「SONYBANK」と酵素栽培の名称、事業目的とは全く関係がないこと、被告が、酵素栽培に対して、平成12年12月13日に、本件ドメイン名に関する通告書を送付した(甲2)ところ、Aから、@本件ドメイン名の使用は未定、A本件ドメイン名は永遠に保持するとの回答が返送されたこと(乙10)、本件ドメイン名の登録名義人は、被告が通告書を送付した直後の平成12年12月28日に、Aが無限責任社員を務める原告に移転されたこと(乙1の1〜3)、原告の会社名称も「いち」で、その事業目的は投資・経営に関するコンサルタント業であり(乙28)、本件ドメイン名である「SONYBANK」と原告の会社名称、事業目的とは全く関係がないというほかないこと、原告は、商業登記簿及びドメイン名のデータベースであるWHOIS上の住所地においてSONYないしSONYBANKという名称の営業又は事業を行っている形跡はないこと(乙31)、平成13年1月4日及び同月18日現在、本件ドメイン名を入力しても、そのドメイン名を持つコンピュータにアクセスできず(乙11の1及び2)、被告が本件ドメイン名を実際のウェブサイトで使った事実がうかがわれないこと、の各事実がそれぞれ認められる。これらによれば、原告は、本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないというべきである。 上記のとおり、本件においては、(A)の項目に該当する事実が認められる。 (4)最後に、(B)の項目に該当する事実が認められるかどうかについて検討する。 本件については、前述したように、被告がインターネットを利用した銀行業に参入することが報道された平成11年12月10日の直後に、酵素栽培名義で本件ドメイン名が登録され、被告がそのドメイン名に関し通告書を送付した平成12年12月13日の直後の同月28日に、原告が本件ドメイン名の登録名義人となったこと、Aは、本件ドメイン名の登録名義人が酵素栽培であった際に、酵素栽培における登録担当者・技術連絡担当者であった(乙13の1及び2)ほか、被告の酵素栽培宛ての通告書に対して自ら回答をしたこと、原告名義で本件ドメイン名が登録された時点では、Aは原告の無限責任社員であったこと、がそれぞれ認められる。 そして、酵素栽培における事情をみるに、酵素栽培においては、設立当初から平成11年7月26日まで代表取締役、その後同12年5月17日まで取締役を務めていたと登記されているB(以下「B」という。)は、Aの母方の祖父であり、また、同10年5月21日から同12年5月17日まで監査役を務め、同日以降取締役を務めていたC(以下「C」という。)は、Aの母方の叔父であること(乙12の1〜3、16の1及び18の2)、酵素栽培の現在の代表取締役であるDも、Aの祖父であるBと親しい関係にあったこと(乙31)、Dは、酵素栽培において、Aの祖父であるBが代表取締役在任中、同人の下で取締役を務め、その後代表取締役に就任したこと(乙12の3)、Dは、株式会社コンサルテーション長岡(以下「C長岡」という。)において、Aの祖父であるB及び叔父であるCの下で経営に参画したこと(乙24の2〜5)、Dは、有限会社吉田興業(以下「吉田興業」という。)においても、Aの祖父であるBの下で経営に参画し(乙26)、有限会社時(以下「時社」という。)においても、Aの祖父であるB、叔父であるCの下で、Aの父であるE(以下「E」という。)と共に経営に参画したこと(乙27)がそれぞれ認められる。これらによれば、Aは、酵素栽培と極めて緊密な関係にあったというべきである。 さらに、原告における事情をみるに、原告の本店所在地はAの住民票の所在地であり、A自身が無限責任社員、Aの母Fが有限責任社員であること(乙16の1、17の3、28)が認められるから、原告は実質上A自身と同一視できるというべきである。これらに加えて、本件では、被告からの通告書に対する酵素栽培の回答が同社の代表者でも取締役でもないAからなされたこと、回答書において同人は自らが当事者として行っている訴訟書類も添付している(乙10)ことからすると、同人自身の認識としても、本件ドメイン名の保有に関して権利関係の主張をなすのは実質的保有者たる同人であると考えていたとみられること、被告による通告書の送付直後に、酵素栽培名義であった本件ドメイン名が、A自身が無限責任社員である原告名義に移転されたこと(乙1)がそれぞれ認められる。 以上の事実を総合すると、平成12年1月11日に酵素栽培により登録され、同年12月28日に原告に移転登録された本件ドメイン名の実質上の登録者はAであるというべきであるところ、同人については、さらに以下の事実が認められる。 すなわち、Aの関係するドメイン名一覧(以下「ドメイン名一覧」、乙19)の「SONYNETBANK.CO.JP」では、ドメイン名登録者はC長岡であるが、その組織住所、登録担当者の姓名、電話・FAX番号全てが本件ドメイン名の登録名義人の記載と同一であること(乙1の1〜3及び20の1及び2)、このドメイン名でもWHOIS上の住所地は、登記された本店所在地(乙24の1)ではなく、A個人宅の住所であったこと(乙17の3)、しかし、C長岡は、登記された本店所在地にある3階建てビルの2階に入っており、事務所の扉のネームプレート、同ビルの入口にその社名が表示されていること、他方、WHOIS上の住所地には前述のようにAの父「E」の表札があるだけでC長岡を示す表示は一切ないこと(乙31)、そして、このC長岡においても、Aの祖父であるBが、平成12年2月25日に死亡するまで代表取締役を務め、Aの叔父であるCが、平成11年5月28日まで監査役、それ以降取締役、B死亡後から平成12年5月25日まで代表取締役を務めていること(乙24の5)、また、前述した酵素栽培の代表取締役であるDが取締役をしていること(乙24の1〜5)、Dは、酵素栽培のみならず、C長岡でも、Aの祖父であるB及び叔父であるCの下で、経営に参画していたこと(乙24の2〜5)、平成12年5月25日にC長岡の代表取締役に就任したG(乙24の1)は、以前務めていた越後証券株式会社において株式投資をしていたAの祖父であるBと親しい関係にあったとみられること(乙第31号証)、Gは、C長岡において、Aの叔父であるCの代表取締役在任中に同人の下で取締役を務め(乙24の5)、また、時社においてAの祖父であるB、叔父であるCの下で、D及び、Aの父であるEと共に経営に参画したこと(乙27)がそれぞれ認められる。 以上からすれば、「SONYNETBANK.CO.JP」の実質上の登録者もAであったというべきである。しかるに、このドメイン名も、被告がインターネットを利用した銀行業に参入するという新聞報道直後の平成11年12月21日に申請・登録されており、その後、ネームサーバー情報の登録すら行わなかったことから、JPNICにより取り消されている(乙20の1、21の1)。 また、ドメイン名一覧の「SONYNETBANK.COM」については、A個人が登録者であるが(乙20の3)、これはAの名のローマ字表記であり、登録住所はA個人宅の住所である。このドメイン名が申請・登録されたのも、被告のネット銀行への参入に関する新聞報道直後の平成11年12月27日である。加えて、「SONYNETBANK.COM」を入力しても、そのドメイン名を持つコンピュータにアクセスできず、このドメイン名もまた実際のウェブサイトで利用されていない(乙23)。 以上からすると、Aは、被告によるネット銀行への参入に関する新聞報道直後に、本件ドメイン名を実質上登録し、その他にも、「SONYNETBANK.CO.JP」、「SONYNETBANK.COM」という「SONY」ないし「SONY」の名称と「BANK」の語の入ったドメイン名を登録したものであって、これらの事情を総合すれば、本件ドメイン名は、被告が特定の事業に関してSONYの語を含んだ名称をドメイン名として使用できないように妨害するために、Aが原告名義で登録したものというべきである。これによれば、本件ドメイン名は、不正の目的で登録されているというほかはない。このことは、Aが、前述の被告のインターネットを利用した銀行業への参入が報道された平成11年12月10日の直後に、本件ドメイン名だけでなく、「SONYNETBANK.CO.JP」(同月21日登録)及び「SONYNETBANK.COM」(同月27日登録)までも実質上登録・保有していること(乙19、20の1〜3)、同人が、「ITOYOKADOBANK.CO.JP」、「IYBANK.CO.JP」、「SEJBANK.CO.JP」、「FINANCIAL-ONE.CO.JP」、「FINANCIAL-ONE.NE.JP」、「FINANCIAL-ONE.NET」と、すべて銀行業への参入等が新聞で報道された直後(イトーヨーカ堂につき平成11年11月12日、フィナンシャルワンにつき平成12年1月19日)に、その企業名、企業グループに関連したドメイン名を実質上登録、保有していること(イトーヨーカ堂関連につき平成11年12月末ころ、フィナンシャルワン関係につき平成12年1月末及び2月中旬ころ;乙8の1〜4、19、20の4〜12及び30の2〜5)の各事実からも裏付けられるというべきである。 上記のとおり、本件においては、(B)の項目に該当する事実が認められる。 (5)以上によれば、本件において、上記(@)〜(B)の項目に該当する事実が認められるから、原告は、本件裁定に従って、本件ドメイン名の登録を被告に移転する義務を負っているというべきである。したがって、仮に原告の主張するところが同義務の有無を争う趣旨であったとしても、原告の同主張には理由がない。 3 結論 以上によれば、原告の本件訴えは、不適法な訴えであり、訴えの利益を欠くものとして却下されるべきものである。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村量一 裁判官 和久田道雄 裁判官 田中孝一 |
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