判例全文 | ||
【事件名】ケーブルテレビの再送信使用料事件(周南ケーブルサービス)(2) 【年月日】平成13年11月29日 東京高裁 平成13年(ネ)第3877号 著作権使用料請求控訴事件 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第8591号) (平成13年11月8日 口頭弁論終結) 判決 控訴人 周南ケーブルサービス株式会社 被控訴人 協同組合日本脚本家連盟 訴訟代理人弁護士 田倉栄美 主文 本件控訴(ただし後記請求の一部放棄により減縮された請求に対する控訴)を棄却する。 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人 原判決を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文と同旨 第2 当事者の主張 1 請求の原因 (1) 被控訴人は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律2条に基づき文化庁長官により脚本の著作権に関する仲介業務の許可を受けた団体である。 (2) 被控訴人は、平成4年10月29日、控訴人との間において、次の約定による契約を締結した(以下「A契約」という。)。 (ア) 被控訴人及び社団法人日本音楽著作権協会、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟(以下「被控訴人ら」という。)は、控訴人に対し、控訴人が次の(イ)に掲げる使用料を支払うことを条件に、被控訴人らがコントロールを及ぼし得る範囲に属する著作物(以下「本件脚本著作物」と総称する。)を使用して制作されたテレビ放送番組をケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。 社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「芸団協」という。)は、控訴人に対し、控訴人が次の(イ)に掲げる補償金を支払うことを条件に、芸団協の会員の実演によって制作された放送番組を、控訴人がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てない。 (イ) 上記使用料及び補償金の合計金額は、控訴人が当該年度に受領すべき受信料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とし、控訴人は、被控訴人ら及び芸団協の代表者である被控訴人に対し、当該年度終了後2か月以内に被控訴人の事務所に持参又は送金して支払う。 @ 区域内再送信は、1波について 0.015% A 区域外再送信は、1波について 0・09% (3) 被控訴人は、平成4年10月29日、控訴人との間において、次の約定による契約を締結した(以下「B契約」という。)。 (ア) 被控訴人らは、控訴人に対し、控訴人が次の(イ)に掲げる使用料を支払うことを条件に、被控訴人らがコントロールを及ぼし得る範囲に属する著作物を使用して制作されたラジオ放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。 芸団協は、控訴人に対し、控訴人が次の(イ)に掲げる補償金を支払うことを条件に芸団協の会員の実演によって制作されたラジオ放送番組を、控訴人がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てない。 (イ) 上記使用料及び補償金の合計金額は、控訴人が当該年度に受領すべき受信料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とし、控訴人は、被控訴人ら及び芸団協の代表者である被控訴人に対し、当該年度終了後2か月以内に被控訴人の事務所に持参又は送金して支払う。 @ 区域内再送信は、1波について 0・015%×10/100 A 区域外再送信は、1波について 0・09%×10/1000 (4) 前記(2)及び(3)記載のA・Bの各契約に基づく使用料及び補償金(以下「使用料等」という。)は、次のとおりである。 〔A契約(テレビ放送番組)〕 (ア) 控訴人の年間の利用料収入 6505万9468円 (イ) 料率 0.0035 @ 区域内再送信 7波×0.015%(1波)=0.105% A 区域外再送信 5波×0.09%(1波)=0.45% B @+A=0.555% ただし、上限利率の0.35%による。 (ウ) 単年度使用料等 (ア)×(イ)=22万7708円 (エ) 請求年度 平成7年度〜11年度(5年) (オ) 使用料等合計 (ウ)×5年=113万8540円 〔B契約(ラジオ放送番組)〕 (ア) 控訴人の年間の利用料収入 A契約の(ア)と同じ (イ) 料率 0.0003 @ 区域内再送信 2波×0.0015%(1波)=0.003% A 区域外再送信 なし B @+A=0.003% (ウ) 単年度使用料等 (ア)×(イ)=1951円 (エ) 請求年度 平成7年度〜11年度(5年) (オ) 使用料等合計 (ウ)×5年=9755円 〔本件請求金額〕 (ア) A契約の(オ)+B契約の(オ)=114万8295円 (イ) 請求年度平成7年度〜9年度の3年分の消費税 68万8977円×3%(消費税)=2万0669円 (ウ) 請求年度平成10年度〜11年度の2年分の消費税 45万9318円×5%(消費税)=2万2965円 (エ) (ア)+(イ)+(ウ)=119万1929円 (5) 控訴人は、被控訴人に対し、(4)の金員の支払をしない。 (6) よって、被控訴人は、控訴人に対し、上記(4)の使用料等合計金119万1929円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年5月17日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 2 控訴人の反論 (1) 控訴人は、被控訴人の詐欺的行為によってA契約及びB契約を締結したものであり、両契約は、控訴人の錯誤によってなされたものであるから、無効である。 (2) 被控訴人は、その請求する期間の契約総世帯数が毎年変わらないものとして使用料等を算定しているけれども、その算定の根拠が不明確であって、信用できない。 また、有線放送テレビジョン法13条1項に基づく難視聴区域内同時再送信は、著作権法99条2項の「法令の規定により行なわなければならない有線放送」に該当し、同条1項の放送事業者の権利が及ばないものである。ところが、被控訴人は、控訴人の再送信のうちの上記難視聴区域内同時再送信をも算定に加えて使用料等を計算しており、不当である。 (3) A契約及びB契約に基づく使用料等の支払請求権は、控訴人が株式会社であり、控訴人が営業のためにする行為によるものであるから、商事債権に係る商法522条による5年の短期消滅時効に服する。平成7年度及び平成8年度の使用料等請求権については、上記5年の短期消滅時効の期間が経過した。控訴人は、平成13年9月27日の口頭弁論期日において、上記時効を援用するとの意思表示をした。 (4) 映画の著作権は、映画製作者に帰属するものであるから(著作権法29条)、放送事業者が制作したテレビドラマ等であれば、その著作権は、放送事業者にあるだけであって、脚本家や俳優等に帰属することはない。したがって、脚本家や俳優等は、放送事業者から報酬を受け取るだけであり、著作権に基づく権利主張をすることはできない。 また、実演家は、録音権・録画権・放送権を有するとしても、ワン・チャンス主義という制限があって、一度、映画製作者及び放送事業者に許諾を与えれば、その後は、権利主張をすることができない(著作権法91条2項参照)。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、著作権法に基づき、本件脚本著作物の使用料等を支払うよう求めることができない。 3 時効についての被控訴人の反論 A契約及びB契約に基づく使用料等の支払期限は、両約定により、各年度(4月1日から3月31日まで)の終了後2か月以内となっている。したがって、平成7年度分の使用料等請求権の場合の時効の起算点は、平成8年3月31日の2か月後である平成8年6月1日であり、時効期間を5年とした場合の時効期間満了日は平成13年5月31日となる。被控訴人は、平成13年4月26日に本訴を提起したから、これにより時効が中断した。 第3 当裁判所の判断 1 はじめに 当裁判所も、控訴人に対する被控訴人の本訴請求は理由があるものと判断する。 2 請求の原因(1)ないし(3)について (1) 甲第1及び第2号証によれば、請求の原因(1)ないし(3)の事実が認められる。 (2) 控訴人は、被控訴人の詐欺的行為によってA契約及びB契約を締結したものであり、両契約は、控訴人の錯誤によってなされたものであるから、無効であると主張するが、失当である。本件全証拠によっても、控訴人がA契約及びB契約を締結するに当たって錯誤があったとの主張を裏付ける証拠を見いだすことはできない。 (3) 控訴人は、映画の著作権は、映画製作者に帰属するものであるから(著作権法29条)、放送事業者が制作したテレビドラマ等であれば、その著作権は、放送事業者にあるだけであって、脚本家や俳優等に帰属することはないから、脚本家や俳優等は、放送事業者から報酬を受け取るだけであり、著作権に基づく権利主張をすることはできないと主張する。 しかしながら、前述したとおり、被控訴人は、A契約及びB契約に基づき、使用料等を支払うよう求めているのであり、著作権に基づく権利主張をしているわけではないから、控訴人の上記主張は、失当である。 控訴人は、実演家は、録音権・録画権・放送権を有するとしても、ワン・チャンス主義という制限があって、一度、映画製作者及び放送事業者に許諾を与えれば、その後は、権利主張をすることができない(著作権法91条2項参照)、したがって、被控訴人は、控訴人に対し、著作権法に基づき、本件脚本著作物の使用料等を支払うよう求めることができないと主張する。しかし、被控訴人が、著作権に基づき権利主張をしているのでないことは、前述したとおりである。控訴人の上記主張も、失当である。 3 請求の原因(4)について (1) 甲第3、第4号証によれば、請求の原因(4)の事実が認められる。 (2) 控訴人は、被控訴人は、その請求する期間の契約総世帯数が毎年変わらないものとして使用料等を算定しているけれども、その算定の根拠が不明確であって、信用できないと主張する。 しかしながら、甲第1、2号証によれば、A契約及びB契約に係る各契約書の3条では、「丙(判決注・控訴人のことである。)は、当該年度の利用料収入を甲ら(判決注・被控訴人らのことである。)及び乙(判決注・芸団協のことである。)に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送施行規則第36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である協同組合日本脚本家連盟(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。」と規定され、控訴人は、被控訴人らとの契約期間において各年度の利用料収入を報告すべき義務があったことが認められ、そして、甲第3、第4号証によれば、被控訴人は、控訴人から、平成6年度分の利用料収入についてのみ報告を受けていたので、平成7年度以降の利用料収入については、平成6年度分の利用料収入を下ることがないと推定して、これを基礎に、控訴人の年間の利用料収入を算出したことが認められる。上記認定の事実によれば、被控訴人による控訴人の年間の利用料収入の算出の仕方には、不合理な点はないものというべきである。むろん、契約総世帯数から控訴人の年間の利用料収入を算出することが最も望ましいものであったとしても、控訴人の協力がない以上、被控訴人が契約総世帯数を知ることが困難であることは、明らかであるから、上記のような推定が許されることは、当然というべきである。 控訴人は、有線放送テレビジョン法13条1項に基づく難視聴区域内同時再送信は、著作権法99条2項の「法令の規定により行なわなければならない有線放送」に該当し、同条1項の放送事業者の権利が及ばないものである、ところが、被控訴人は、控訴人の再送信のうちの上記難視聴区域内同時再送信をも算定に加えて使用料等を計算しており、不当であると主張する。 しかしながら、被控訴人が求めている使用料等は、前述したA契約及びB契約に基づくものであるから、控訴人の再送信の中に難視聴区域内同時再送信が含まれるかどうか、それが著作権法99条2項の「法令の規定により行なわなければならない有線放送」に該当するかどうかが、それだけで直ちに、被控訴人が控訴人に請求し得る金額に影響することはない、というべきである。 控訴人の上記主張は、いずれも失当である。 4 請求の原因(5)について (1) 控訴人が被控訴人に対し請求の原因(4)に係る金員の支払をしていないことは、弁論の全趣旨から明らかである。 (2) 控訴人は、A契約及びB契約に基づく使用料等の支払請求権のうち平成7年度及び平成8年度分について5年の短期消滅時効により消滅した旨主張する。 しかしながら、前記認定のとおり、控訴人と被控訴人らとは、A契約及びB契約によって、使用料等の支払期限を各年度(4月1日から3月31日まで)の終了後2か月以内とする合意をしており、同合意によれば、平成7年度分の使用料等の場合の5年の短期消滅時効の起算点は、平成8年3月31日の2か月後である平成8年6月1日であり、時効期間満了日は平成13年5月31日である。一方、被控訴人が平成13年4月26日に本訴を提起したことは、記録上明らかである。 そうすると、商事債権(商法522条)の5年の消滅時効は、被控訴人の本訴提起により中断されている。 控訴人の上記主張は、理由がない。 5 結論 以上検討したところによれば、被控訴人の本訴請求は理由があり、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない(なお、被控訴人は、平成13年11月8日第2回口頭弁論期日において、原審における請求中、平成7年度分ないし平成9年度分の消費税5%のうち2%相当分である1万3780円及びこれに対する平成13年5月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求める部分につき請求の放棄をしたので、被控訴人が控訴人に対して支払を請求できるのは、金119万1929円及びこれに対する平成13年5月17日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による金員に限られることになった。)。そこで、本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について、民事訴訟法61条、67条1項を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官 山下和明 裁判官 設樂隆一 裁判官 宍戸充 |
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