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【事件名】カラオケ無断使用事件(神戸市) 【年月日】平成13年11月16日 神戸地裁 平成11年(ワ)第423号 損害賠償請求事件 判決 主文 1 被告らは、原告に対し、各自金722万3640円及びこれに対する、被告ステップス商事株式会社は平成11年1月1日から、被告Aは平成11年3月6日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告ステップス商事株式会社は、原告に対し、金92万0392円を支払え。 3 被告Aは、原告に対し、金17万7020円及びこれに対する平成11年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の、その余を被告らの負担とする。 6 この判決は第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告に対し、各自金978万9748円及び内金873万0550円に対する平成11年1月1日以降完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は、音楽著作権仲介団体である原告が、被告ステップス商事株式会社(以下「被告会社」という。)が経営するカラオケ歌唱室において、原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を原告に無断で使用して著作権を侵害しているとして、被告会社に対しては、選択的に、不法行為に基づく損害賠償請求と、不当利得返還請求を、被告Aに対しては商法266条の3に基づく損害賠償請求を、それぞれ求めた事案である。 2 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(以下「仲介業務法」という。)に基づく許可を受けた我が国唯一の著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権、支分権(演奏権、録音権、上映権)の移転を受けるなどしてこれを管理し(国内著作物については、我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約による。)、放送事業者、レコード、映画、出版、興業、社交場、有線放送等各種の分野における音楽著作権の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。(甲1) イ 被告会社は、平成4年5月13日の設立日から平成10年12月7日まで、「カラオケスタジオSTEPS」の名称でカラオケ歌唱室を経営してきた(以下「本件店舗」という。)。 ウ 被告Aは被告会社の代表取締役である。 (2) 著作物管理業務 原告は、カフェ、バー、スナック等の社交場において、ピアノ等の楽器又はカラオケの伴奏で歌唱されるほとんどの音楽著作物について、著作権者から著作物の信託的譲渡を受けてこれを管理している。(甲2) (3) 被告の営業状況 本件店舗の営業時間は午後0時から午前0時までの12時間で、年中無休であった。ただし、年間1、2日は休業していた。また、平成7年1月17日から同年8月末日までの間は、阪神・淡路大震災の影響により休業した(弁論の全趣旨)。 本件店舗においてカラオケ伴奏及び歌唱に使用される歌唱室は、定員が10名までの部屋が12室、定員が10名を越えて30名までの部屋が3室あった(乙19、弁論の全趣旨)。 本件店舗には、通信カラオケ装置一式(受信・再生・配信装置)、リモコン装置等が設置され、各歌唱室には、アンプ、コマンダー、モニターテレビ、マイク、スピーカー等が設置されていた。 本件店舗では、従業員らが、来店した顧客を、カラオケ関連機器を設置した各歌唱室に案内し、各部屋において顧客に飲食を提供するとともに、前記カラオケ関連機器を操作させ、管理著作物を再生(演奏)し、また、伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させていた。 (4) 著作物使用料について 原告は、文化庁長官によって認可された著作物使用料規程に基づいて、管理著作物に関する使用料の徴収を行っていた。 平成4年3月31日変更にかかる著作物使用料規程(甲3。以下「旧使用料規程」という。内容の概要は別紙1のとおり。)にはカラオケ歌唱室について直接規定した使用料率表は記載されていなかったが、平成9年8月11日変更にかかる著作物使用料規程(甲5。以下「新使用料規程」という。内容の概要は別紙3のとおり。)には、第2章第2節「演奏等」4「カラオケ施設における演奏等」に、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用に関する使用料率表が記載された。 3 関係法令の定め (1) 著作権法 第17条第1項 著作者は、(中略)第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。 第2項 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。 第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。 第63条第1項 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。 第2項 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。 第114条第1項 著作権者(中略)が故意又は過失によりその著作権(中略)を侵害したものに対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者(中略)が受けた損害の額と推定する。 第2項 著作権者(中略)は、故意又は過失によりその著作権(中略)を侵害した者に対し、その著作権(中略)の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。 第119条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。 第1号 著作者人格権、著作権、(中略)を侵害した者 (2) 著作権法附則(平成11年の法改正前のもの) 第14条 適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令の定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法第30条第1項第8号及び第2項並びに同項に係る旧法第39条の規定は、なおその効力を有する。 (3) 著作権法施行令附則 第3条 法附則第14条〔録音物による演奏についての経過措置〕の政令で定める事業は、次に掲げるものとする。 第1号 喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの (4) 旧著作権法 第30条第1項 既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サズ 第8号 音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法ニ写調セラレタルモノヲ興行又ハ放送ノ用ニ供スルコト (5) 著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という。) 第2条 著作権ニ関スル仲介業務ヲ為サントスル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ業務ノ範囲及業務執行ノ方法ヲ定メ文化庁長官ノ許可ヲ受クベシ 第3条第1項 前条ノ許可ヲ受ケタル者(以下仲介人ト称ス)ハ命令ノ定ムル所ニ依リ著作物使用料規程ヲ定メ文化庁長官ノ認可ヲ受クベシコレヲ変更セントスルトキ亦同ジ 第2項 前項ノ認可ノ申請アリタルトキハ文化庁長官ハ其ノ要領ヲ公告ス 第3項 出版ヲ業トスル者ノ組織スル団体、興業ヲ業トスル者ノ組織スル団体ソノ他命令ヲ以テ定ムル者ハ前項ノ要領ニ付公告ノ日ヨリ1月以内ニ文化庁長官ニ意見ヲ具申スルコトヲ得 第4項 文化庁長官第1項ノ認可ヲ為サントスルトキハ公告ノ日ヨリ1月ヲ経過シタル後著作権法第71条ノ政令ヲ以テ定ムル審議会ニ諮問スベシ前項ノ規定ニヨリ意見ノ具申アリタルトキハ当該審議会ニコレヲ提出スルコトヲ要ス 第4条 仲介人ハ業務ノ範囲又ハ業務執行ノ方法ヲ変更セントスルトキハ文化庁長官ノ許可ヲ受クベシ 第12条 仲介人左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ500円以下ノ罰金ニ処ス 第2号 第3条第1項ノ規定ニ依リ認可ヲ受ケタル著作物使用料規程ニ依ラズシテ業務ヲ為シタルトキ (6) 仲介業務法施行規則 第4条第1項 著作物使用料規程ニハ左ニ掲グル事項ヲ定ムベシ 第1号 著作物ノ利用ニ関スル契約約款 第2号 著作物ノ使用料率ニ関スル事項 第2項 前項第2号ノ著作物使用料率ハ著作物ノ種類及其ノ利用方法ノ異ナル毎ニ各別ニ定メ之ヲ表ニ作成スベシ 第3 争点及び争点に関する当事者の主張 1 争点 (1) 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱が、原告の演奏権を侵害したと評価できるか。 ア 本件店舗における管理著作物の利用主体は誰か。 イ 本件店舗における管理著作物の利用は、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものか。 (2) 本件店舗における管理著作物の再生について、著作権法附則14条による自由使用の適用があるか。 (3) カラオケソフト作成に関する原告の管理著作物使用許諾の効力は、管理著作物の再生・歌唱行為にも及ぶか。 (4) 被告らの責任 ア 被告らの不当利得における悪意 イ 被告Aの商法266条の3における悪意又は重過失 (5) 著作権侵害による損害とその数額及び利得 ア 利得の有無 イ 損失の有無 (ア) 使用料率表の合理性 (イ) 通信カラオケの使用料 (6) 短期消滅時効(民法724条) 2 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱が、原告の演奏権を侵害したと評価できるか。)について (原告の主張) ア 被告らは、本件店舗において、カラオケ関連機器を操作させ、管理著作物を再生(演奏)し、また、伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させていた。また、顧客からカラオケ機器の操作方法を尋ねられたときには、被告らの従業員がカラオケ機器を操作して操作方法を教示していた。 イ 本件店舗のようなカラオケ歌唱室において、カラオケ関連機器を使ってカラオケ伴奏音楽を再生(演奏)する場合はもちろん、顧客がカラオケ関連機器を使用して歌唱する場合についても、当該音楽著作物の利用主体は、その経営者である。 ウ よって、カラオケ歌唱室において、原告の許諾を得ることなく、カラオケ関連機器を使用して管理著作物であるカラオケ伴奏音楽を公に再生すること、及び、管理著作物を公に歌唱することは、著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものである。 (被告らの主張) ア 管理著作物の利用主体 店の従業員による歌唱の勧誘等の各事実を考慮しても、客は店との間の雇用や請負等の契約に基づき、あるいは店に対する何らかの義務として歌唱しているわけではなく、歌唱するかしないかは全く客の自由に任されているのであり、その自由意思によって音楽著作物の利用が行われているのであるから、営業主たる店が主体的に音楽著作物の利用にかかわっているということはできない。したがって、音楽著作物の利用に関して、客による歌唱を店による歌唱と同視するのは擬制的にすぎて相当ではない。 イ 「公に」の要件について カラオケ歌唱室の性質上、カラオケ歌唱室における客の歌唱は、特定の者が仲間内でなしているものであり、公衆たる他の客に聞かせるという性質のものではない。 したがって、「公に」の要件に該当しない。 (2) 争点(2)(本件店舗における管理著作物の再生について、著作権法附則14条による自由使用の適用があるか。)について (原告の主張) ア 「鑑賞」について 「鑑賞」とは、「芸術作品を理解し、味わうこと」であり、カラオケテープの伴奏によって歌唱する行為も、伴奏音楽の鑑賞を自らの歌唱によって表すものということができる。同様に、カラオケ装置を操作し、伴奏音楽を再生させることや、再生された音楽に合わせて歌唱することも当然に鑑賞にあたる。 イ 「特別の設備」について 近時のカラオケ歌唱室に設置されているカラオケ装置は、デジタル化の進展により多機能を備えた極めて高度のものとなっている。伴奏音楽の再生は、発売されたレコード演奏からプロ歌手による歌唱を除いたものという程度に内容が充実しており、また、演奏再生装置はボーカルメロディの音量、キーの高さその他の種々の調整もすることができ、歌唱する客の好みや歌唱力に合わせて伴奏音楽の再生ができるものである。そのため、客自身があたかもオーケストラやバックコーラスを従えて歌唱していると思わせるほどの臨場感を伴った高度なものとなっている。 よって、カラオケ歌唱室に設置されているカラオケ装置は、「特別の設備」にあたる。 ウ よって、被告らは、カラオケ歌唱室において、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているといえ、著作権法施行令附則3条1号に該当する。 (被告らの主張) 被告らは、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているわけではない。被告らは、客に音楽を歌唱させることを営業の内容とする旨を広告し、客に音楽を歌唱させるための設備を設けているにすぎない。 また、カラオケ歌唱室は著作権法施行令附則3条1号にいう「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」に該当しない。 以上より、カラオケ機器の再生使用は自由である。 (3) 争点(3)(カラオケソフト作成に関する原告の管理著作物使用許諾の効力は、管理著作物の再生・歌唱行為にも及ぶか。)について (被告らの主張) ア 著作物の利用について許諾を得た者は、その許諾にかかる利用方法及び条件の範囲内において、その許諾にかかる著作物を利用することができる(著作権法63条2項)。 イ 被告会社が使用したカラオケソフトはいずれも業務用カラオケである。業務用カラオケソフトは私的鑑賞に供される市販レコードと異なり、それを使用する者が営業の一環として、来店した客の歌唱に供するために製作されるものである。 そして原告は、かかる目的で業務用カラオケソフトが製作されることを熟知したうえで、録音録画許諾及び頒布許諾を与えたのである。原告が製作許諾を与える予定のものの用途・使用形態などを事前に十分確認のうえ使用許諾を行っていることは周知の事実であるし、同許諾に関する文書の文面からもうかがえるうえ、過去の使用許諾書でも、使用料の中に演奏権料が包含される計算をしている。また、原告は、昭和40年代半ば頃から少なくとも昭和58年まで12年間、全国の業務用カラオケ装置を設置したスナック等の酒場のすべてに対し、カラオケの利用に関する使用料の支払を一切請求しなかった。 このような業務用カラオケソフトの性格、原告の使用料徴収の態度等を考えると、原告は業務用カラオケソフトの製作について録音録画許諾及び頒布許諾を与えたことにより、製作された業務用カラオケソフトが営業用として広く利用(伴奏音楽の再生及び歌唱)されることを許諾したというべきである。 ウ したがって、そのような営業目的の使用を含めて許諾されたカラオケソフトの使用は、原告の演奏権を侵害しない。 (原告の主張) ア カラオケソフトの製作行為と、製作されたカラオケソフトをカラオケ歌唱室の店舗において公に再生すること及びこれに合わせて公に歌唱することは明らかに別個の行為であり、著作権法上も両者は別個に扱われ、製作行為は複製権(同法21条)の、再生行為は演奏権(同法22条)又は上映権(同法26条)の、歌唱行為は演奏権(同法22条)の対象となっている。 イ カラオケソフトの製作の許諾にあたっては、カラオケソフトが業務用であるか否かは全く考慮されておらず、カラオケ歌唱室営業等での利用が予定されていたとしても、原告がその製作にあたって許諾したのは複製についてのみであり、演奏又は上映については許諾していない。 また、カラオケソフト製作会社との契約には、著作権の使用料のほか、カラオケソフトに付属する歌詞カードの出版に関する使用料が含まれているのであり、使用料を超える部分が演奏料になるわけではない。 (4) 争点(4)(被告らの責任)について (原告の主張) ア 原告との交渉の経緯 本件店舗の営業は、平成3年11月28日より始まった。 本件店舗は、訴外三慶商事株式会社(以下「三慶商事」という。)所有の建物にあり、被告Aは三慶商事の取締役でもあった。 原告職員は、平成4年2月20日、本件店舗を訪問し、三慶商事の部長である訴外B(以下「訴外B」という。)と面接し、カラオケ歌唱室の営業に関して音楽著作物の利用許諾契約が必要であることを説明した。訴外Bは、クラリオンが著作権使用料を支払っており、原告との契約は必要がないと誤解しているようであったため、著作権及び手続方法について説明した。訴外Bがクラリオンに確認しておくと言ったため、同月21日に連絡をする約束をして別れた。 原告が2月21日に訴外Bに電話をしたところ、訴外Bは、担当者が長期出張中であるため確認できなかったと答えるのみで、原告と利用許諾契約を締結することについては返事がなかった。そのため、原告では、平成4年2月24日以降、繰返し原告との利用許諾契約締結の必要性を説明する書面、許諾契約締結手続きを督促する書面を送付した(なお、原告が、本件店舗の経営者が被告会社であることを知ったのは平成6年1月頃のことであり、平成5年までの各文書は三慶商事宛で送付され、平成6年初め以降の文書は被告会社宛である。)。 平成8年2月28日、原告職員は、本件店舗に出向き、利用許諾契約の必要性を説明した。その際には本件店舗の店長が応対し、上司に説明すると言っていた。 同年3月21日、被告Aより、原告事務所に出向いて話がしたいとの架電があり、同月25日に原告事務所で話をした。原告職員は、著作権について再度説明し、過去の使用期間に関する著作権使用料についての説明も行った。被告Aからは同使用料について減額要請があったが、原告は、公平な管理の立場から、分割は認められるが減額はできないこと、現場に出向いて歌唱室の広さ等を確認する必要があることなどを説明した。被告Aは、一度持ち帰って会議にかけた後、再度連絡すると言って別れた。 被告Aは、同年4月3日に原告事務所に来所した。被告Aより再び減額の要請があったが、原告は従前と同様の説明を行った。その際、震災による休業期間について説明を求められ、原告は休業期間中の使用料は不要であると説明し、同休業期間を尋ねたが、明確な返事はなかった。そこで、原告は入手していたチラシを示し、平成7年9月1日に際オープンしたことを指摘した。この日は、被告Aが弁護士に相談したいというので、再度連絡してもらいたい旨伝えて別れた。 平成8年4月16日、被告Aより電話があった後、被告Aの代理人である松本弁護士から原告に電話があった。原告職員は、過去の使用期間に関する著作権使用料を請求する理由と根拠、平成4年2月以降の交渉経過などを説明し、松本弁護士の要請で、後日、過去に送付した書類の写しなどを送付した。 平成8年5月9日、被告Aが原告事務所を訪れ、利用許諾契約の締結はするが、遡及分を長期分割にしてほしいとの申出があった。原告職員は、契約締結前に本件店舗の各部屋の広さを確認するため現場に出向きたいので被告Aより都合のよい日を連絡してもらうことにして別れた。 ところが、同年6月18日に突然、被告会社より利用許諾契約締結手続きを留保する内容証明郵便が届いた。 イ 被告Aの責任 被告Aは、被告会社設立後は被告会社の代表取締役であり、被告会社の代表取締役として同社の業務を遂行するにあたって法令を遵守して合法的に業務遂行をなすべき義務があるところ、前記経緯から明らかなとおり、悪意又は重大な過失により、著作権法に違反して原告の管理する著作権を侵害したものであるから、商法266条の3の規定に基づき、損害を賠償すべき責任がある。 また、被告会社設立前についても、被告Aは、個人として、又は、三慶商事の取締役として、本件店舗の経営をしてきたものであるから、不法行為、不当利得又は三慶商事の取締役としての商法266条の3に基づき、損害を賠償すべき責任がある。 (被告らの主張) ア 原告との交渉の経緯 本件店舗の営業が開始された平成3年11月当時は、被告会社の設立準備中であり、被告会社が設立されるまでの間は、過渡的に個人企業「カラオケスタジオステップス」(代表者被告A)が本件店舗の経営にあたった。そして、被告会社設立後は、本件店舗の経営が被告会社に引き継がれた。 訴外Bは、震災前年の平成6年頃、原告職員と本件店舗において面接をした。原告職員は、カラオケ歌唱室の営業に関して、音楽著作物の利用許諾契約が必要であることを説明した。これに対し、訴外Bは、カラオケ関連機器販売業者に確かめておくと言った。 その後、平成8年3月21日、被告Aは、原告に対し、原告事務所に出向いて話がしたいとの電話をし、同月25日、原告事務所で話をした。 原告職員は過去の使用期間に関する著作権使用料を請求したが、被告Aは一度持ち帰って会議にかけた後再度連絡するといって別れた。話合いの際、原告職員は、使用料を支払う必要があるとの結論を述べるのみで、なぜカラオケ歌唱室経営者にも著作権使用料支払義務が生じるのか、この点について裁判所の直接的な公権的判断が存在するかどうか等について説明をしなかった。 また、原告職員であるCは、被告Aに対し、被告会社が支払わなければならない金額は342万7840円であると述べた。同金額算定においては、被告会社が震災で休業していた平成7年1月から同年8月までの8か月分についても請求がなされていた。 被告Aは、平成8年4月3日頃の2回目の面談の際、原告から強い請求を受けたため、使用料について減額要請をしたことがあり、原告からは使用料の分割は認められるが減額はできないこと、本件店舗に赴いて歌唱室の広さ等を確認する必要があることを説明された。 また、原告は、震災休業については一律6か月分だけ控除すると説明し、これに対し、被告Aが、本件店舗はそれ以上に休業している旨説明したところ、原告がチラシを示し、被告会社が約8か月間休業していたことを認めた。 平成8年4月17日、被告らから相談を受けていた松本弁護士は、原告に対し、被告らに送付した書類の送付の依頼をした。その際、原告は、松本弁護士に、過去の使用期間に関する著作権使用料を請求する理由と根拠、平成4年2月以降の交渉の経過などを説明した。 平成8年5月9日、被告Aは原告事務所を訪問し、原告職員であるCに対し、カラオケ歌唱室に関する法的判断がまだなされていないことに関する見解を打診したところ、同人からは回答はなかった。 被告らは、平成8年6月18日、原告に対し、利用許諾契約締結手続きを留保する内容証明郵便を送った。 イ 商法266条の3は、取締役の違法な職務行為によって第三者が損害を受けた場合に取締役個人がその第三者に対して賠償責任を負うことを定めるものである。 しかし、それが当該取締役個人や第三者の利益のためになされたものではなく、また、行為当時の諸条件に照らし明らかに不合理なものと認められず、違法な手段を用いたものでもない限り、仮にそれらが結果的に不首尾に終わっても、会社に対する任務懈怠にあたらないというべきである。 ウ カラオケ歌唱室におけるカラオケテープの再生行為については長年にわたり著作権使用料が徴収されてこなかった歴史的事実があるうえに、カラオケスナックにおける最高裁判決はあっても、それは公衆性などにおいて性格を異にするカラオケ歌唱室には直接適用されるものではなく、カラオケ歌唱室に関する演奏権侵害の有無については未だ確立した判例がない。 被告Aは、かかる状況を踏まえ、当初使用料を徴収してこなかった原告が急遽方針を変えて強硬に請求してきたことに不合理さを感じつつも、支払うものは支払うとの方針のもとに、平成8年3月25日以降三度にわたって原告神戸支部に赴き、支払う前提として、従前徴収してこなかった使用料を徴収するに至った根拠を尋ねた。その後も五度にわたって具体的な疑問点を明示した書信を原告に送付して回答を求めた。 しかるに原告は、被告らの疑問に対し、内容のある回答をせず、使用料を徴収するとの結論を繰り返すのみであった。しかも、被告会社が阪神大震災のために休業を余儀なくされた平成7年1月から9月分まで請求する態度を固持した。 右状況の最中に、原告は仮処分という強硬手段をとったのであり、かかる原告の態度は、裁判に訴える以前に利用者を説得することをせず、法的に確認していない使用料を問答無用に取り立てようとするものであったと言わざるを得ない。 以上の経緯に照らし、被告Aの行為には当時の諸条件に照らし、明らかに不合理といえる要素はない。 エ よって、被告Aの責任は否定されるべきである。 (5) 争点(5)(損害とその数額及び利得)について (原告の主張) ア 原告は、被告らが本件店舗において原告の管理する著作権を侵害したことにより、少なくとも使用料相当額の損害を被った。 著作権法114条2項は、著作権侵害を受けた権利者に対し、最低限度の損害賠償額を保障した規定であり、その額は、著作権者が侵害行為と同様の利用を許諾するとすれば合意したであろう使用料の額であるとされる。原告は平成元年以降、日本全国に存在するカラオケ歌唱室の経営者との間で、原告作成の、カラオケ歌唱室に関する使用料率表(甲4。以下「本件使用料率表」という。内容の概要は別紙2のとおり。)によって契約を締結してきており、その数は年間数万件にのぼる。したがって、本件使用料率表に定めた使用料額が原告において通常受けるべき金銭の額に相当する額にあたることは明らかであり、被告は、原告に対し、本件使用料率表に定めるのと同額の使用料相当損害金を支払うべき義務を負う。 (ア) 使用料率表の合理性 a 根拠規定の合理性 カラオケ歌唱室における音楽著作物の利用形態は、旧使用料規程の「演奏会以外の催物における演奏」の(1)ないし(6)や「社交場における演奏等」に定められたいずれの利用形態とも異なるものであり、当時の著作物使用料規程には、これに直接該当する規定はなかった。そこで原告は、(7)「その他の演奏」の規定に基づき、カラオケ歌唱室の使用料を定めて許諾・徴収業務を開始することとし、調査によって判明した当時の平均的なカラオケ歌唱室における音楽著作物の利用実態を基準として、「演奏会以外の催物における演奏(1)」の使用料額の範囲内で、一室あたりの定員数、他の業種とのバランスなどを参酌して本件使用料率表を定めた。 技術の進歩や社会の変化に伴って、音楽著作物の新たな利用形態が現れることは必然であって、これを管理する原告には、新しい利用形態に対しても、適時・適切に対応してその著作権を管理することが求められる。ところが、新たな利用形態を著作物使用料規程に反映させるためには、その普及・定着の動向及び利用実態についての調査並びに関係者との協議が必要であり、一定の期間を要することは避けられない。使用料規程の変更認可を受けるまで原告において当該音楽利用について許諾を与え、使用料を徴収することができないとすれば、著作権者の保護に欠けることになるのはもちろん、利用者においても著作権者の許諾を受けられず、音楽著作物を適法に利用することが不可能になるのである(使用料規程の変更認可がされていないからといって、無許可の音楽著作物の利用が適法になるわけではない。)。このような結果が不合理であることは明らかである。 「その他の演奏」の規定は、このような不合理な結果の発生を防止し、著作物の適法で円滑な利用を促進するため、原告において音楽利用形態の進展に応じた合理的な使用料を定め、使用料規程の変更が実現するまでの間、それを適用して許諾及び徴収業務を行うことを可能にする規定であり、まさに著作権者と使用者の利益を増進するために設けられたものである。 同規定は、仲介業務法の慎重な手続を履践したうえで文化庁長官の認可を受けて定められた適法なものであり、また、「本規定の(1)の規定の範囲内において」として、原告において定めうる使用料額の上限を明示したうえ、音楽著作物の使用状況等を参酌して使用料額を決定すべきものとしており、その規定の文言上、原告に使用料額の決定を白紙委任したものでないことは明らかである。 b 金額の合理性 旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の規定の「演奏会以外の催物における演奏(1)」では「公演時間が1時間以上2時間まで、定員500名まで入場料無料」の場合、催物の公演一回の使用料は5000円と定められている。原告は同「(1)の規定の範囲内」において、一室あたりの定員数や他の業種とのバランス等を参酌して本件使用料率表記載の使用料を定めた。 カラオケ歌唱室における使用料の最低区分である定員10名までの一室あたりの月額使用料は、ビデオカラオケの場合が4000円、オーディオカラオケの場合が3000円である。これは、旧使用料規程において、スナック等の社交場におけるカラオケの利用の場合に、客席面積が5坪を超え10坪までの区分の月額使用料がビデオカラオケの場合4500円、オーディオカラオケの場合が3000円であるのにほぼ相当する。 カラオケ歌唱室では、社交場での営業に比べて多量の管理著作物が利用されることが明らかであるにもかかわらず同程度の使用料にとどめており合理性が認められる。 c 大手業者との協議 原告は、昭和63年当時カラオケ歌唱室を全国にチェーン展開している唯一の業者であった訴外株式会社第一興商(以下「第一興商」という。)をカラオケ歌唱室の経営者の意見を代表するものとして、協議の相手方とした。 そして、昭和63年ころから平成元年3月までの間に合計10回程度の協議をした。原告は、第一興商から、カラオケ歌唱室における営業や音楽使用の実態等について説明を受けた上、カラオケ歌唱室に適用する使用料の算定方式について協議を行い、本件使用料率表のとおりの内容で著作物使用許諾契約を締結した。 そして、原告は文化庁に対し、業者側との協議の経過と概要を説明し、本件著作物使用料規程実施基準記載の表のとおりの内容で合意が成立したことを報告した。 d ブランケットライセンスについて 平成元年当時のカラオケ歌唱室において、経営者に対し、室内で使用された曲目、曲数について正確な報告の提出を求めることは事実上不可能であった。そこで、前記協議において合意の上、ブランケットライセンスを予定した使用料率表とした。 e 事後的認可について 本件使用料率表に定められた使用料は、カラオケ歌唱室における著作物使用に関する年間の包括使用許諾契約を結ぶ場合の使用料として、新使用料規程中で、何の変更も加えられずにそのまま認可されており、その規定内容の合理性・相当性は客観的に裏付けられている。 f このように、本件使用料率表は、利用者との協議を経て、その意見を反映させて作成されたものであって、その規定の根拠・内容・手続はいずれも合理的で相当なものである。 (イ) 通信カラオケの料金について 通信カラオケは、伴奏音楽の再生に伴う歌唱の際に動画が再生されているというものであって、その実態はビデオグラムの上映に伴う歌唱の場合と異ならない。これに対し、オーディオカラオケとは、伴奏音楽の再生に伴う歌唱の際に映像を伴わない場合、あるいは静止画を同時に再生する場合である。 そのため、原告は、利用者団体等の関係者と協議のうえ、通信カラオケの使用料をビデオグラムの上映を伴う場合と同一の料金とした。 (ウ) 本件使用料率表に基づく損害額は以下のとおりである。 a 平成9年8月10日まで 平成9年8月10日までは、昭和59年6月1日認可著作物使用料規程(旧使用料規程)第2章第2節「演奏等」3「演奏会以外の催物における演奏」(7)「その他の演奏」の規定に基づき定められた本件使用料率表により、レーザーディスクカラオケ及びスーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケは「ビデオカラオケ」として分類されるものであるところ、ビデオカラオケについては、一部屋の定員が10名までの場合には一部屋の使用料が月額4000円であり、一部屋の定員が10名を越えて30名までの場合には月額8000円である。 同金額に平成3年11月分から平成9年3月分までは3パーセントの、平成9年4月分から平成10年12月分までは5パーセントの消費税相当額をそれぞれ加算する。 b 平成9年8月10日以降 平成9年8月11日変更の著作物使用料規程(新使用料規程)第2章第2節「演奏等」4「カラオケ施設における演奏等(1)」により、カラオケ歌唱室における同日以降の著作物使用料は、一部屋の定員が10名までの場合には一部屋月額9000円、一部屋の定員が10名を越えて30名までの場合には一部屋月額1万8000円となり、これらの金額に5パーセントの消費税相当額を加算した金額が使用料相当損害金となる。 (エ) 遅延損害金 遅延損害金は、被告らが管理著作物を使用した月の翌月1日より支払済みまで年5パーセントの割合で発生する。 (オ) 以上により、原告が平成10年12月31日までに被った使用料相当損害金及び遅延損害金の明細は別紙明細書のとおりであり、使用料相当損害金は723万0550円、遅延損害金は105万9198円となる。 イ 弁護士費用 原告は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。右弁護士費用は150万円を下らない。 (被告らの主張) ア 使用料の不認可について (ア) 憲法違反 後述のように、著作物使用料規程に関する文化庁長官の認可は効力発生要件であり、認可を受けた著作物使用料規程は原告を拘束するとともに、その設定・変更につき認可のない著作物使用料規程は法律上無効であって、原告による使用料徴収の根拠となりえず、まして、裁判及びその執行という国家権力による法的強制の根拠となることはない。 被告らがこれを強制されることは適正な実体的・手続的処理を受ける権利自由の侵害であって、憲法13条及び31条に反する。 (イ) 私法上の効力 仮に憲法上の人権が問題にならないとしても、文化庁長官の認可は著作物使用料規程の効力発生要件であるから、認可のない本件使用料率表は私法上無効であり、法的強制の根拠にはならない。。 したがって、本件裁判において、原告が無効な本件使用料率表を根拠として、平成3年11月28日から平成9年8月10日までの使用料相当損害金を被告に請求することは許されない。 (ウ) カラオケ使用料率表の不認可 本件使用料率表による使用料の徴収は、以下の理由により違憲又は違法である。 a 文化庁長官の認可の法的性質について 文化庁長官の許可は、被許可者に直接、特定の排他的・独占的な権利を与えたり、あるいは、被許可者と行政主体との間に包括的な権利関係を設定する行政処分である。 これは、国民の日常生活に音楽が密接に関係することにかんがみ、独占的・集中的な著作物管理権限を付与する反面、国の強力な監督に服せしめることにより、著作物の利用を円滑化し、著作物利用者(国民)を保護する趣旨である。 特に、他人の音楽著作物を一手に掌握して管理するという、公益事業を行う公益法人に対する特許であるから、行政機関に準ずる公的機関としてより厳しい国の監督に服するものと解される。 b 仲介業務法令の趣旨 著作物使用料規程の設定及び変更については、文化庁長官の認可を受けなければならない。そして、仲介業務法施行規則によれば、著作権使用料規程には、@著作物の利用に関する契約約款及びA著作物の使用料率に関する事項を定めなければならず、特にAにつき、著作物の種類及びその他の利用方法の異なる毎に各別に定め表に作成しなければならない。 したがって、仲介業務法令は、使用料規程内に規定されている著作物の種類及び利用方法の異なる毎に、各別に作成した使用料率表の設定、変更について、文化庁長官の認可を受けなければならないとしている。同認可は、文化庁長官による行政処分であるから、前述の趣旨より、認可申請の要領の広告、利害関係人の意見具申、著作権制度審議会の諮問という民主的手続を経た上で行わなければならない。 さらに、同法令による規制を担保するため、認可を受けた当該著作物使用料規程(各別の使用料率表の規定)によらない仲介人の業務執行については、刑罰として業務執行上の罪を規定している。 他にも、仲介業務法は、仲介業務をなす者の報告書提出義務、業務報告及び帳簿類提出義務、文化庁長官の臨検検査権限、業務執行方法などの変更命令権限、ひいては前記認可そのものの取消や業務執行停止の措置すら規定している。 以上によれば、仲介業務法令の趣旨・目的は、公益的性格の強い著作物の利用を円滑化し、もって著作物利用者を保護するため、仲介人を実態及び手続の両面において強力な民主的・法的コントロールのもとにおき、仲介人の業務執行及びその根拠となる著作物使用料規程を適法かつ適正ならしめんとするものである。 かかる仲介業務法の趣旨からすれば、原告の管理及び使用料徴収等の行為が、許可を受けた業務執行の方法に基づくか、また、認可を受けた著作物使用料規程に基づくか等は極めて厳格に判断されなければならない。 c 不認可の使用料率表の効力 認可を受けた業務執行の方法等の定めの内容及び認可を受けた著作物使用料規程の内容は、仲介業務法令と一体となって行為規範及び犯罪構成要件を確定しているのであるから、原告が勝手に設定又は変更した各別の著作物使用料規程(使用料率表)は無効であると解すべきである。 また、認可のない各別の著作物使用料規程(使用料率表)によって原告が業務執行を行うことは、犯罪行為となるのであって、重大な不法行為である。 (エ) 著作物使用料規程上の根拠について a 原告は、本件使用料率表が旧使用料規程の第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定を根拠として定められたものであり、文化庁に報告したうえで実施しており、本件使用料率表に基づいて管理することは問題ないと主張する。 しかし、仲介業務法は、原告の業務執行を適正ならしめるため、これを厳格に規制・統轄する趣旨であるから、原則として認可を得た著作物使用料規程(使用料率表)に基づく管理及び使用料徴収等しか許さない趣旨である。したがって、原告が著作物使用料規程の補充的規定に基づいて、みずから便宜的に使用料率表を決定することを許すものではない。よって、原告の主張は、仲介業務法の趣旨を無視している。そればかりか、原告の主張は、後述するように、自らが定め、文化庁長官の認可を得ている著作物使用料規程にさえ反するものである。 b 「催物」の意義 原告は本件使用料率表の根拠規定を旧使用料規程第2章第2節3「演奏会以外の催物における演奏」(7)「その他の演奏」の規定と主張してきた。 しかし、同3は、(7)を含めてすべて「催物における演奏」に関する使用料率表等を決めたものである。 「催物」の意義は、「各種の会・演芸などの総称」であり、実際3(1)ないし(6)において、まさに不特定かつ極めて多人数の聴衆を予定し、彼らに対する「催物」の場合を規定している。したがって、(7)の場合もそれらに準ずる、それ以外の「催物」における演奏の場合の規定でしかない。 カラオケ歌唱室では設置された室内で楽曲の再生・歌唱が反復して行われるのであり、「催物」とは性質を異にするから、同規定を直接の根拠とすることは必ずしも合理的とはいえない。また、実質的にも(1)ないし(6)が予定する、不特定かつ極めて多数人の聴衆に対する演奏でないことは明らかである。 よって、カラオケ歌唱室における特定(かつ少数)の客によるカラオケ伴奏による歌唱は、「催物」という意義、定義に当てはまらず、(7)「その他の演奏」は本件使用料率表の根拠規定となりえない。 c 「その他」の規定 さらに、新たな形態の出現を予定する補充規定は一般的に規定の最後に置かれるところ、事実、著作物使用料規程は最後に第2章第12節「その他」なる補充規定を置いており、論理的には本件使用料率表の根拠規定は同補充規定である。にもかかわらず、原告がこの論理構成をとらないのは、同補充規定によるならば、相手方の了解なしに原告が使用料を決定できなくなってしまうからにほかならない。 また、同規定による場合でも、原告の一存でどのような内容でも自由に定めうるものではなく、その内容が、既存の著作物使用料規程に照らして合理性・相当性があり、また、利用者との意見調整を経る等の手続きを経ることが必要である。 d カラオケ歌唱室は「社交場」に該当し、支払免除規定が適用されることについて 旧使用料規程における「社交場における演奏」とは、「設備を設け客に飲食またはダンスをさせる営業を行う施設において、当該営業と共に著作物を演奏または上映する場合」であるが、カラオケ歌唱室が「客に飲食をさせる営業」であることは原告も認めるところであり、カラオケスナック、カラオケ喫茶、カラオケ歌唱室は、同営業と共にカラオケ歌唱を行うことを予定しており、社交場営業といえるから、旧使用料規程第2章第2節4「社交場における演奏等」の使用料率表が優先適用される。 そして、社交場におけるカラオケ歌唱の使用料についてはカラオケ伴奏による歌唱の使用料率表によるものとし、客席面積が5坪、宴会場面積が10坪まではその使用料の支払いを免除すると規定されている。 なお、使用料規程は、社交場における演奏等に関する支払免除規定の対象を、カラオケを利用する部屋の広さでしか区別していないのであって、支払免除規定が小規模事業者のみを保護したということはできず、カラオケ歌唱室について支払免除規定の適用を排除する合理的理由はない。 この点原告は、社交場とは「飲食物の提供を主たる目的とする施設」であって、「音楽の鑑賞(カラオケ歌唱)」による利用が主たる目的である場合は社交場にあたらないと主張する。しかし、社交場の定義自体が飲食物の提供と音楽の提供とで主従の区別をしていないばかりか、かえって社交場である「業種5」は「音楽の鑑賞を主たる目的とするもの」であり、原告の主張する主従とは全く逆である。 e カラオケ歌唱室の現状 前述のように、カラオケ歌唱室は「社交場」に該当することから、文化庁長官の許可を得た使用料率表に基づいて業務を執行しなければならない原告は、カラオケ歌唱室が「社交場」の「カラオケ伴奏による歌唱」に該当すると法的に判断できる場合にのみ、同使用料率表に基づいて業務執行をなしうるのであり、非該当であれば新たに本件使用料率表につき文化庁長官の認可を得ない限りカラオケ歌唱室から使用料を徴収することは許されない。 ところで、原告は平成9年8月11日までは、カラオケ歌唱室が「カラオケ伴奏による歌唱」に該当しないとしているから、被告らカラオケ歌唱室に対する原告の管理及び使用料徴収行為は、仲介業務法により、まさに被告らの権利を侵害する不法行為である。 (オ) 以上より、原告の本件使用料率表に基づく使用料請求は違憲又は違法である。よって、原告には損失は生じていない。 イ 通信カラオケの使用料 原告は、本件使用料率表において、@オーディオカラオケによる歌唱、Aビデオグラムの上映に伴う歌唱(ビデオカラオケ)に分類して使用料を規定している。 ビデオグラムとは、ビデオテープ、ビデオディスクなどに映像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいい、ビデオグラムの上映とは、固定した映像を再生して上映することを意味する。 そして、ビデオカラオケの使用料については、オーディオカラオケの使用料に100分の30を加算した額とすると規定されていたのであり、オーディオカラオケの使用料を原則とし、ビデオカラオケは同使用料を増額した規定を設ける形となっている この点、通信カラオケは、音楽と歌詞文字のみが通信カラオケ事業者から電話回線を通じて発信され、被告らの受信機器がこれを受信して音楽と歌詞文字として再生するものであり、映像として映し出される背景はスーパーインポーズ方式によって挿入され映し出される。 よって、映像として映し出される背景には音楽著作物は含まれていない。その意味で、音楽、背景画像、歌詞が同一物(ディスク)に固定され、これらが再生される、いわゆるレーザーディスクの場合とは全く異なる。 したがって、通信カラオケは、原告自らが定義するところのビデオグラムの上映を伴う場合には当たらない以上、前記Aの場合であるとして使用料を徴収することはできない。 したがって、仮に使用料を支払うのであれば、原則規程であるオーディオカラオケの規程が適用されるべきである。 (6) 争点(6)(不法行為についての短期消滅時効)について (被告らの主張) (一) 原告の、被告らに対する、平成11年2月25日の本訴提起日から3年以上前の使用料相当損害金の請求については、消滅時効期間が経過している。 (二) 被告らは、平成12年9月21日の第10回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用するとの意思表示をした。 (原告の主張) 商法266条の3の責任の消滅時効期間は10年である。 第4 争点に対する判断 1 争点(1)について (1) 前提となる事実によれば、本件店舗では、客が、経営者から指定された歌唱室内において、経営者が用意した特別のカラオケ装置を使用し、経営者が用意した曲目の範囲内で選曲を行い、カラオケ装置を操作して伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を行うものである。そして、同再生・歌唱は、一定時間単位の歌唱室の利用料金を支払う範囲で行うことができるにすぎない。 このことからすれば、客による楽曲の再生・歌唱は、本件店舗の経営者である被告らの管理の下で行われているというべきであり、しかも、カラオケ歌唱室としての営業の性質上、被告らはそれによって直接的に営業上の利益を得ていることから、著作権法の規律の観点からは、本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告らであるというべきである。 (2) そして、被告らにとって本件店舗に来店する客は不特定多数であることから、被告らによる伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法22条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものである。 2 争点(2)について 「鑑賞」とは、芸術作品を理解し、味わうことを意味し(広辞苑第四版)、その方法等には限定はないことから、カラオケ歌唱室において、再生された伴奏音楽及びそれにあわせた歌唱を聴くこと、あるいは再生された伴奏音楽に合わせて自ら歌唱することは「鑑賞」にあたるといえる。 そして、前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗では、各歌唱室において客に飲食を提供しており、また、被告らは、本件店舗においてカラオケ歌唱室であることを表示して営業していることから、「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」であって、「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨広告し」ているといえる。また、本件店舗のカラオケ装置は「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」といえる。 よって、被告らの本件店舗における営業は、著作権法施行令附則3条1号の事業に該当し、著作権法附則14条は適用されず、著作物の自由使用は認められない。 3 争点(3)について 著作権法上、複製権と演奏権は別個の権利として規定されていることから、カラオケソフトを制作する行為と、制作されたカラオケソフトをカラオケ歌唱室において公に再生すること及びこれにあわせて公に歌唱することは別個の行為といえる。 また、カラオケソフトの制作に関する音楽著作物使用許諾契約書(乙14の1、乙15の1)には、「本使用許諾は、録音物製作者に対してのみ有効であり、この許諾によって得た権利を録音物製作者は他に貸出または譲渡できない。」と明記されていることからすれば、原告は、管理著作物使用許諾の際の許諾の範囲を、当該録音物製作者に限定していたものと認められる。 これらのことからすれば、原告が、カラオケソフト作成に関する管理著作物使用許諾の際、管理著作物の再生・歌唱行為についての許諾をも与えていたと認めることはできない。 被告らは、乙14、15の各1、2を根拠に演奏の対価も支払われていると主張するが、独自の見解であり、同証拠上そのようには認められない。 4 争点(4)について (1) 証拠(甲11の1ないし3、甲20、甲21)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 ア 本件店舗は平成3年11月28日から営業を開始しており、その当時は被告会社が設立前で、本件店舗は、本件店舗のある建物の所有者である訴外三慶商事株式会社(以下「三慶商事」という。)が経営していた。この当時、被告Aは、三慶商事の取締役であった(争いなし)。 イ 訴外Bは、平成4年当時、三慶商事の部長であり、同年2月20日、本件店舗において、原告の職員との間で、原告との著作物使用許諾契約の締結の件に関して話をした。 原告職員は、訴外Bに対し、本件店舗において原告の管理著作物を使用するためには原告と使用許諾契約を締結する必要があること等を説明したが、訴外Bはカラオケ関連機器販売業者に確認をするとして、返事を留保した(時期を除いて争いなし)。 原告は、平成4年2月24日以降、本件店舗について、著作物使用許諾契約の締結を促す書面を送付していた。当初は、原告は、本件店舗の経営者が三慶商事であると考えていたことから、被告会社設立後も三慶商事あてに各書面を送付していた。 ウ 被告会社は、平成4年5月13日に設立され、被告Aが代表取締役に就任した(争いなし)。同設立時に被告会社は三慶商事から本件店舗の経営を引き継いだ。 エ 平成6年ころ、原告は、本件店舗の経営者が被告会社であることを知り、その後の書面は被告会社に送付するようになった。 オ 平成8年3月21日、被告Aは、原告に、原告事務所で話がしたいとの電話をした。同月25日、原告職員は、原告事務所において、被告Aに対し、本件店舗における管理著作物の使用について使用料を支払う必要があること、過去の使用分についても損害賠償をする必要があることを説明した。 被告Aは同年4月3日にも原告事務所に出向き、使用料についての減額要請をしたが、原告はこれを認めなかった(争いなし)。 カ 同月17日、被告Aから相談を受けていた松本弁護士は、原告に対し、被告らに送付した書類の送付の依頼をした、その際、原告は、過去の使用期間に関する著作権使用料の請求の理由と根拠、平成4年2月以降の交渉の経過などを説明した(争いなし)。 (2) 後述のように、原告は、平成元年ころからカラオケ歌唱室との間で本件使用料率表に基づいて使用許諾契約の締結を開始していることに加え、本件店舗について、平成4年2月頃には原告職員が説明をするために赴いていること、その後被告Aも自ら原告に連絡をし、説明を求めていることからすれば、被告Aは、本件店舗の営業開始後間もない時期において、管理著作物については、原告との間で著作物使用許諾契約を締結しない限り、管理著作物の使用が著作権法に違反する違法なものであることを知りながら、原告との間で何らの合意もしないまま管理著作物の使用を継続したものであり、被告Aには、少なくとも業務をなすにつき重大な過失があったといえる。 被告Aは原告の請求方法の粗雑さ等を根拠に、同被告の行為は不合理なものではなく、悪意又は重大な過失があるとはいえないと主張する。しかし、管理著作物の使用は、被告会社の営業の根幹をなすカラオケ演奏に直接関連するものであり、原告から違法であるとの指摘を受けた以上、取締役としては、会社に対する職務執行上の義務として、違法でないことについて十分な根拠を有しないまま従前どおり営業を継続してはならないということができ、被告Aには少なくとも重大な過失があったものというべきである。 そして、被告Aが前記のように、本件店舗での営業開始後間もない時期において、管理著作物の使用が著作権法に違反する違法なものであることを知っていたのであるから、被告会社は、設立後、法律上の原因がないことを知りながら利得をしたと認められ、悪意の受益者といえる。 5 争点(5)について (1) 著作権法は、著作権を著作権者に独占させるとともに、著作権侵害行為には罰則規定を設けるなどして、著作権の保護を図っている。 かかる著作権法の規定からすれば、被告らは、著作権者と合意をしない限り、著作物を利用することはできない。本件では、被告らは、原告との間で、著作物使用に関する合意をしていない(争いがない)。 また、不当利得における「利得」とは、請求権者である権利者に本来帰属すべき使用・収益・処分等の権能が事実上相手方によって行使されることをいうことから、著作物を無断で使用することは、法律上の利得と評価できる。 そして、本件では、被告らは何らの権限もなく著作物を使用していることから、被告らには利得があるといえる。 そして、被告らが、何らの権限もなく著作物を使用したことにより、原告には著作物の通常使用料相当額の損失が生じているといえる。 (2) 損失の算定 ア 本件では、新使用料規程の認可を受けるまで、カラオケ歌唱室における管理著作物の利用に関する、文化庁長官の認可を受けた使用料率表は存在しなかった(争いがない)。 しかしながら、以下の理由により、仲介業務法の趣旨に反しないと認められる通常使用料が存在し、その額相当の損失が生じていることを認めることができる。 (ア) 前述のように、著作物は、著作権者の許諾がない限り、原則として自由使用が認められない。他方で、著作権管理者は、認可を得た著作物使用料規程に基づかない限り、原則として著作物使用料を徴収することはできない。 (イ) 仲介業務法の趣旨は、著作物仲介人が著作権を集中管理することに伴う濫用的な業務遂行及び著作物使用料の徴収を防止し、著作物使用料規程の内容が合理的かつ公正であることを保障することによって、著作物の利用関係を円滑化し、もって、著作権の保護とその権利行使の適正を図り、あわせて著作物の利用の便宜・円滑化を図ることにあると解される。 このような仲介業務法の趣旨からすれば、著作物管理者が一方的に使用料率表を作成して、それに基づき使用料を徴収することは許されないものの、作成された使用料率表が、客観的に既存の著作物使用料規程に則っているものと認められ、かつ、その内容に合理性があると認められる場合には、認可を受けた使用料規程に基づき使用料を徴収しているものと評価でき、このような徴収は適法であると認めるべきである。 (ウ) 証拠(甲2ないし5、甲11の1ないし3、甲15の1ないし4、乙25)と弁論の全趣旨によれば、昭和60年頃からカラオケボックスの経営が始まったこと、原告は、平成元年当時、カラオケボックスを全国展開していた第一興商との間で、カラオケ歌唱室における著作物使用料に関する話合いを行い、カラオケ歌唱室に関する本件使用料率表を作成したこと、その後、原告は、カラオケ歌唱室経営者との間で、同使用料率表に基づき、カラオケ歌唱室における著作物使用料に関する契約を締結し、これに基づき、広く同使用料を徴収してきたことが認められる。 (エ) もっとも、本件使用料率表は、旧使用料規程第2章第2節演奏等の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づき定めるものとされており、第一興商等との話合いも、上記規定によることを前提になされてきたものと推認できる。 ところで、カラオケ歌唱室における演奏が催物における演奏といえるかについては疑問があるが、被告らが主張するように、旧使用料規程の社交場に該当するといえるかについても疑問である。業種5のライブハウス、音楽喫茶など音楽の鑑賞を主たる目的とするものを想定してみても、カラオケ歌唱室のように小規模の部屋に分けて、それぞれの部屋で異なった、かつ相当大量の曲目の演奏がなされるというものではないからである。そうすると、旧使用料規程の中の特定の項目にカラオケ歌唱室における著作物の利用が該当するとはいい難いものと解されるが、このような場合に備えて、第2章第12節の「その他」の規定があるものと解され、原告は、この規定に基づき、使用者と協議して、その使用料の額等を定めることができるものと解するのが相当である。 そして、上記「その他」の規定が存在し、かつ、原告が第一興商等と協議して、合意を形成し、その合意に基づき、広く使用料を徴収してきたものである以上、同協議及び合意に基づく使用料徴収は、客観的には旧使用料規程に基づきなされてきたものであると評価できる。前記(7)の「その他の演奏」の規定を根拠に交渉してきたとしても、合意形成に至ったのは、根拠規定の正確さによるのではなく、合意された使用料の額が合理性を有したからであると推認できるからである。 (オ) 技術や時代の変化に応じて、著作物の新たな使用形態が出現することは不可避であるが、その場合に、同使用形態に関する使用料徴収ができないのは不合理であるから、旧使用料規程の上記「その他」の規定が設けられたものであると解され、この規定はもとより有効であり、客観的には同規定に該当する使用形態に関する使用料の額等が協議により定められた以上は、これに基づく徴収を仲介業務法に反するものとして、違法ということはできない。 (カ) 以上のとおりであり、これに反する被告らの主張は採用できない。 イ また、スーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケの場合、伴奏音楽・歌詞映像とともに動画映像を再生するものであって、使用料率を決する際に考慮されていると思われる著作物の利用の態様、当該営業にしめる著作物利用の重要性、著作物が観客等に与える効果等の点から考えると、ビデオカラオケに類似するものといえる。よって、損害算定の際にビデオカラオケの使用料率表を基準とすることも合理性を有するといえる。 ウ 以上によれば、原告の損失は次のとおりとなる。 (ア) 平成3年11月28日から平成9年3月31日まで スーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケについては、ビデオカラオケとして分類されることから、1部屋の定員が10名までの場合には1部屋の使用料が月額4000円であり、1部屋の定員が10名を超えて30名までの場合には1部屋の使用料が月額8000円である。 同金額に3%の消費税相当額を加算した額が使用料相当額となる。 (イ) 平成9年4月1日から平成9年8月10日まで 1部屋あたりの使用料は(ア)と同様であり、これに消費税相当額である5%を加算した額が使用料相当額となる。 (ウ) 平成9年8月11日から平成10年12月7日まで 1部屋の定員が10名までの場合には1部屋の使用料が月額9000円であり、1部屋の定員が10名を超えて30名までの場合には1部屋の使用料は月額1万8000円である。 これに、5%の消費税相当額を加算した額が使用料相当額になる。 (エ) 前記4の認定によれば、被告会社設立以前の損害のうち、少なくとも 平成4年3月1日以降の分については、被告Aが商法266条の3の規定に基づく損害賠償責任を負うべきであり、また、被告会社設立後の分についても同様である。 6 争点(6)について (1) 商法266条の3は、法が取締役の責任を加重するために特に認めたものであり、不法行為責任の性質を有するものではない。 また、民法724条の趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるため、加害者は損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明確である結果、きわめて不安定な立場におかれることから、被害者が、損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには、損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護する点にあると考えられるところ、取締役の責任は、通常、第三者と会社との間の法律関係を基礎として生じるものであり、不法行為の加害者がおかれる不安定な立場に立たされるわけではない。 したがって、同規定に民法724条の適用はなく、一般債権と同様、時効期間は10年間である。 (2)ア 被告Aは、前記のとおり、被告会社設立までは三慶商事の取締役として、被告会社設立後は被告会社の取締役として、商法266条の3に基づく責任を負うことから、いまだ消滅時効は完成していない。 イ 被告会社は不当利得返還義務を負うところ、不当利得返還請求権の時効消滅期間は10年間であることから、消滅時効は完成していない。 7 まとめ (1) 以上の検討によれば、被告会社は、その設立日である平成4年5月13日から本件店舗での営業を終了した平成10年12月7日までの間の管理著作物の使用について、悪意の受益者として、金682万3640円の不当利得返還義務を負う(消滅時効が完成していない分については、不法行為に基づく損害賠償義務も併せて負う。主文第1項記載。)。 平成10年12月末日までの間の遅延損害金の合計は、別紙計算書のとおり、金92万0392円である(主文第2項記載)。 (2) また、被告Aは、前記5(2)ウ(エ)の責任を負うべきであり、別紙計算書のとおり、被告会社設立前の損害は金17万7020円(主文第3項記載)、設立後の分は金682万3640円(主文第1項記載)となり、これらについて、被告Aは訴状送達の日の翌日である平成11年3月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うべきである。 (3) 本件事案の内容、審理経過、認容額等にかんがみると、被告らの不法行為等と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は40万円が相当と認められる(主文第1項記載)。 ア 被告会社の関係では、同損害は当該不法行為の時に発生し、かつ遅滞に陥っているといえるから、本件では、平成10年12月7日に遅滞に陥っているといえる。よって、原告が主張する、前記遅滞日以降である平成11年1月1日以降、同金員に対する民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 イ 被告Aの関係では、前記のとおり商法266条の3に基づく賠償が認められることになるが、本件の基本となる事実関係は不法行為を構成するものであることからすれば、かかる損害は不法行為に準じるものとして、弁護士費用の賠償を請求できると解すべきである。同金員については被告Aに本件訴状が送達された日の翌日である平成11年3月6日から遅滞に陥っているといえ、同日以降、同金員に対する民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 第5 結語 以上によれば、原告の請求は主文に掲記した限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分については理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条、64条、61条を、仮執行宣言につき259条1項を適用して、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 永田眞理 裁判官 藤倉徹也 別紙1 著作物使用料規程(甲3)抜粋 第1章 著作物の利用に関する契約約款 第1条 本協会の管理する著作物の利用に関する本協会と利用者間の契約は、文書とするのでなければ成立しないものとする。 本協会との間に文書による契約を締結した契約者でなければ本協会の管理する著作物の使用をすることはできない。ただし、法令に別段の定めのあるときはこの限りでない。 第2条 本協会に対して契約者が支払うべき著作物の使用料は、本協会が主務官庁の認可を得て定めた著作物の使用料率によって定められるものとする。 第2章 著作物の使用料率に関する事項 第1節 総則 1 本協会の管理する著作物の使用料率表は、著作物の使用方法により、下記の区分を設ける。 (1) 演奏等 (7) 録音テープ (8) ビデオグラム (11) その他 第2節 演奏等 3 演奏会以外の催物における演奏 演奏会以外の催物における演奏の使用料は、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。 (1)@催物の公演1回の使用料は次のとおりとする。 (ア) 公演時間が1時間以上2時間までの場合の使用料は下表のとおりとする。
(7) その他の演奏 本規定の(1)から(6)以外の演奏の場合は、本規定の(1)の規定の範囲内において、使用状況等を参酌して使用料を決定する。 4 社交場における演奏等 キャバレー、バー、スナック、音楽喫茶店、ダンスホール、旅館その他設備を設け客に飲食又はダンスをさせる営業を行う施設(以下「社交場」という。)において、当該営業と共に著作物を演奏又は上映(ビデオグラムの上映に限る。以下「演奏等」という。)する場合の使用料は、本節1、2、3及び5の規定にかかわらず、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。 (1) 使用料の種類 社交場における演奏等の使用料の種類は、次のとおりとする。 @包括的使用許諾契約を結ぶ場合 (ア) 月額使用料 (2) 使用料の適用区分 社交場における演奏等の使用料は、原則として1演奏場所又は1上映場所を単位とし、次のとおりとする。 区分1 設備を設けて客に飲食させる営業 (1) 主として不特定の客を対象とするもの 業種5 ライブハウス、音楽喫茶など音楽の鑑賞を主たる目的とするもの…別表5又は別表15 (社交場における演奏等の備考) @座席数とは、社交場に設備されている客席の総数をいう。 (レコード演奏) Iレコード演奏とは、適法に録音された録音物による著作物の演奏をいう。それ以外の録音物による演奏については、生演奏の使用料の額とする。 (ビデオグラムの上映) Kビデオグラムとは、第9節ビデオグラムの規定により著作物を録音したものをいう。 (カラオケ伴奏による歌唱) O各業種(業種8及び業種11から14までを除く。)においてカラオケ伴奏による歌唱(歌手などの出演者が出捐報酬を受けて行う歌唱は除く。以下同じ。)が行われる場合で、かつ、年間の包括的使用許諾契約を結ぶ場合の使用料は、当分の間、次のとおりとする。 (ア) オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する装置による場合を含む。以下同じ。)
団体客、接待客など主として特定の客を対象とする宴会が行われる宴会場は、その面積が33u(10坪)まで、その他は客席面積が16.5u(5坪)までである場合、その使用料の支払いを免除する。 (イ) ビデオグラムの上映に伴う歌唱
団体客、接待客など主として特定の客を対象とする宴会が行われる宴会場は、その面積が33u(10坪)まで、その他は客席面積が16.5u(5坪)までである場合、その使用料の支払いを免除する。 (注)ア 客席面積とは、客に飲食もしくはダンスをさせ、又は歌唱させるために設けられた場所(客などが利用するための通路を含む)の面積を合算したものをいう。また、宴会場面積とは、主として宴会のために設けられた場所(壁など固定の遮蔽物により仕切られた部分)の面積をいう。 オ 同一場所において(ア)及び(イ)の方法により著作物を使用する場合の使用料は(イ)による。 第9節 ビデオグラム 著作物を録音し、ビデオグラム(ビデオテープ、ビデオディスクなど映像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう。以下同じ。)を製作する場合の使用料は、第4節の規定にかかわらず、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。 第12節 その他 本規程の第2節乃至第11節の規定を適用することができない利用方法により著作物を使用する場合は、著作物利用の目的および態様、その他の事情に応じて使用者と協議のうえ、その使用料の額または率を定めることができる。 別紙2 カラオケ歌唱室の使用料率表(甲4) カラオケ歌唱室(カラオケボックス、カラオケルーム、その他いずれの名称をもってするかを問わず、部屋にカラオケ装置を設置して、客にカラオケ伴奏により歌唱させることを主たる目的とする営業を行う施設をいう。)において、著作物を利用する場合で、かつ、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の著作物使用料は、著作物使用料規程第2章第2節演奏等の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づき、当分の間、1室につき、次の金額に消費税相当額を加算した額とする。 1 ビデオカラオケ
2 オーディオカラオケ
3 レーザーディスクカラオケ、スーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケについては、ビデオカラオケとして扱う。 ビデオカラオケとオーディオカラオケ(CD静止画付カラオケを含む。)を併用している場合はビデオカラオケの使用料を適用する。 4 定員が100名を超えるときは、50名までを超えるごとに、区分4の使用料額に区分1の使用料額を加算する。 5 定員が3名までの場合、区分1の使用料の80/100とする。ただし、1室の面積が6u以上の場合はこの限りではない。 〔備考〕 定員とは、設備されている客席の総数をいい、1人掛けの椅子席についてはその数を、2人掛け以上の長椅子式の椅子席については、当該椅子席の正面巾を0.5mで除して得た数を、椅子席以外の客席については、当該部分の面積を1.5uで除して得た数を、それぞれ客席の数とみなす。 別紙3 著作物使用料規程(甲5) 第2節 演奏等 4 カラオケ施設における演奏等 カラオケボックス、カラオケルーム、カラオケ教室その他カラオケ設備を設け、客に仮称をさせる営業を行う施設(以下「カラオケ施設」という。)において、著作物を演奏又は上映(映画フィルムを用いた上映を除く。以下本節において「演奏等」という。)する場合の使用料は、演奏等が行われる1部屋を単位として、次により算出した金額に消費税相当額を加算した額とする。 (1) 月額使用料は次のとおりとする。
@標準単位料金が2000円を超える場合の使用料は、500円までを増すごとに、「2000円まで」の場合の使用料に、「500円まで」の場合の使用料の3分の1の額を加算した額とする。 A定員が100名を超える場合の使用料は、50名を増すごとに区分4の場合の使用料に区分1の場合の使用料を加算した額とする。 (2) (1)によらない場合の使用料は、著作物1曲1回ごとに定めるものとし、その使用料は次のとおりとする。 @使用時間が5分までの場合の使用料は、下表のとおりとする。
(ア) 標準単位料金が2000円を超える場合の使用料は、500円までを増すごとに、「2000円まで」の場合の使用料に、「500円まで」の場合の使用料の3分の1の額を加算した額とする。 (イ) 定員が100名を超える場合の使用料は、50名を増すごとに区分4の場合の使用料に、区分1の場合の使用料を加算した額とする。 A 使用時間が5分を超え10分までの場合の使用料は、使用時間が5分までの場合の使用料の2倍の額とする。 使用時間が10分を超える場合の使用料は、10分までを超えるごとに、使用時間が5分を超え10分までの場合の使用料に、その同額を加算した額とする。 (カラオケ施設における演奏等の備考) (定員) @定員とは、施設に設備されている客席の総数をいい、1人掛けの椅子席についてはその数を、2人掛け以上の長椅子式の椅子席については、当該椅子席の正面巾を0.5mで除して得た数を、椅子席以外の客席については、当該部分の面積を1.5m2で除して得た数を、それぞれ客席の数とみなす。 (標準単位料金) A 標準単位料金とは、カラオケ施設を利用する場合に1人1時間あたりにつき通常支払うことを必要とされる料金相当額(消費税額を含まないもの。いずれの名義をもってするかを問わない。)をいい、その算定方法については、次のとおりとする。 (ア) 部屋料に歌唱料が含まれている場合は、1人1時間あたりの部屋料(飲食代金が含まれているかどうかを問わない。また、1人あたりの部屋料相当額が明示されていない場合は、1部屋1時間あたりの部屋料相当額を定員数で除して得た額。以下同じ。)を標準単位料金とする。 (イ) 部屋料と1曲1回ごとの歌唱料がある場合は、1人1時間あたりの部屋料と10曲分相当の歌唱料の額を部屋の定員数で除して得た額の合算額を標準単位料金とする。 (ウ) 部屋料がなく、1曲1回ごとの歌唱料のみである場合は、10曲分相当の歌唱料の額を部屋の定員数で除して得た額を標準単位料金とする。 (エ) (ア)、(イ)及び(ウ)により難い場合は、標準単位料金を500円とみなす。 (オ) カラオケ教室による利用の場合は、当分の間、標準単位料金を500円とみなす。 (カ) 部屋料又は歌唱料に営業時間等による料金区分がある場合は、それらの算術平均額を部屋料又は歌唱料とみなす。 (歌曲) B 歌曲において楽曲に著作権がない場合又は本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の12分の6の額とする。 C 歌曲において歌詞が本協会の管理外の場合の使用料は、1曲の使用料の12分の6の額とする。 (カラオケ伴奏による歌唱) D (1)及び(2)にかかわらず、専らカラオケ伴奏による歌唱(歌手などの出演者が出演報酬を受けて行う歌唱は除く。以下本節において同じ。)が行われる場合であって、かつ、年間の包括的使用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料は、当分の間、次のとおりとする。 (ア) ビデオカラオケによる歌唱
(イ) オーディオカラオケによる歌唱
(ウ) 定員が100名を超える場合の使用料は、(1)に定める使用料の額とする。 (エ) 定員が3名までの場合の使用料は、1部屋の面積が6m2以上の場合を除き、区分1の場合の使用料の100分の80の額とする。 (注)<ア> ビデオカラオケとは、専ら歌唱の伴奏に供される装置であって、音とともに映像を連続して再生するものをいい、オーディオカラオケとは、ビデオカラオケ以外のものをいう(以下本節において同じ。)。 <イ> 同一部屋内で(ア)及び(イ)の方法により著作権を利用する場合の使用料は、(ア)による。 5 社交場における演奏等 (以下省略) |
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