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【事件名】毎日新聞ホームページ事件
【年月日】平成13年11月9日
 名古屋地裁 平成12年(ワ)第366号 商標権侵害による損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成13年9月7日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 塩見渉
被告 株式会社毎日新聞社
同訴訟代理人弁護士 島田康男
同 黒田彩霧


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し、金5000万円及びこれに対する平成11年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 1項につき仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は、別紙商標目録1及び2記載の各商標権の権利者である(以下、同目録1記載の商標権を「本件A商標権」、同商標を「本件A登録商標」と、同目録2記載の商標権を「本件B商標権」、同商標を「本件B登録商標」といい、本件A商標権及び本件B商標権を併せて「本件各商標権」、本件A登録商標及び本件B登録商標を併せて「本件各登録商標」という。)。
(2) 被告は、遅くとも本件A商標権が登録された平成9年9月19日から、平成11年4月19日までの19か月間(以下「本件期間」という。)、被告の開設したインターネットホームページ(以下「本件ホームページ」という)において、別紙標章目録1ないし5記載の各標章(以下、これらを個別に「被告標章1」「被告標章2」のようにいい、これらを併せて「被告各標章」という。)を使用していた。
(3) 被告は、本件期間中、上記ホームページにおいて、広告業務及び求人情報提供の業務を行っていた。
 なお、被告は、上記役務の提供は広告媒体ないし求人情報媒体の提供に伴う付随的なものであると主張するが、本件ホームページは、一般大衆に対しては「新聞の記事に関する情報の提供」を行う媒体であり、広告主及び雇用希望主に対しては「広告」及び「求人情報の提供」業務を行う媒体にそれぞれ該当し、本質的に二面性を有するのであるから、どちらかが一方に付随するということはできない。
(4) 被告は、本件期間中、被告各標章を、被告が本件ホームページで行っていた広告業務及び求人情報提供の業務について、自己を識別するための標識として使用しており、これは「広告役務ないし求人情報の提供の役務を受ける者の利用に供するホームページに付されたもの」として、商標法2条3項3号の使用に該当する。
(5) 被告各標章は、外観上は字体が相違するのみであり、また、いずれも本件各登録商標と同一の「ジャムジャム」という称呼を生ずるから、被告各標章は本件各登録商標に類似する。
 登録商標と標章の類否については、将来当該登録商標が指定役務について使用されたときに、需要者が当該役務の出所について誤認混同するおそれがあるか否かにより判断すべきであり、原告が本件各登録商標を付したホームページを開設した場合、被告各標章と誤認混同のおそれがあるから、両者は類似する。
(6)ア 被告が本件期間中に被告各標章を使用して広告及び求人情報の提供を行うことによって得た営業上の利益は、1億円を下らず、商標法38条2項により、原告は同額の損害を受けたと推定されるところ、原告はその内金として5000万円を請求する。
イ 仮にそうでないとしても、原告は、商標法38条3項により、登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を被告に対し請求し得るところ、その額は、売上げの3パーセントとするのが相当であり、19か月の本件期間中の売上げは月額1億円を下ることはないから、これらを乗じて算出したその間の実施料相当額は5700万円を下らず、原告はその内金として5000万円を請求する。
ウ 仮に、上記ア及びイの損害賠償請求が認められないとしても、原告は、予備的に不当利得返還請求権を主張する。
 すなわち、原告は、商標法36条、37条に基づき、本件各登録商標に類似する標章の使用差止請求権を有していたから、本件期間中、被告が被告各標章を使用するに当たって、その差止請求を回避しようとすれば、原告に実施料を支払い、使用許諾を受ける必要がある。しかるに、被告は無許諾で、実施料を支払うことなく被告各標章を指定役務について使用し、これにより原告に実施料相当額の損失を与えつつ、同額の支出を免れて不当な利得を得たものであるから、両者の間には因果関係があり、被告は前記イの実施料相当額と同額の不当利得を原告に返還すべき義務を負い、原告はその内金5000万円を請求する。
(7) 原告は、被告に対し、平成10年7月2日、被告各標章の使用中止を求める仮処分を申し立て、その結果、被告は悪意受益者となった。
(8) よって、原告は、被告に対し、主位的には不法行為に基づく損害賠償請求権として、予備的には不当利得返還請求権として、上記損害ないし不当利得額の一部である金5000万円及びこれに対する弁済期の後であることの明らかな平成11年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)及び(2)の各事実は認める。
(2) 同(3)のうち、被告が、本件期間中、本件ホームページにおいて、広告及び求人情報を掲載していた事実は認め、その余は否認する。
 インターネットはバケツリレー式にデータを転送するシステムであり、出版や放送と同視されるものであるから、ホームページ開設者は新聞の発行者やテレビジョン放送事業者等のパブリッシャーと同視されるべきである。
 そして、新聞の発行者やテレビジョン放送事業者が新聞やテレビにおいて広告を掲載ないし放送しても、それは、新聞ないしテレビといった広告媒体を広告代理店に対して提供しているにすぎず、新聞の発行やテレビ放送自体は広告業に該当しない。このことは、被告を始めとする大手の新聞発行者やテレビジョン放送事業者が広告業を定款の目的に掲げていないこと、これらの者が広告業を行うときには別に法人を設立するのが通例であること、新聞発行者やテレビジョン放送事業者は、それぞれ社団法人日本新聞協会、社団法人日本雑誌協会等を構成し、所属しているが、広告事業者は、別途社団法人日本広告業協会を構成していて、業界団体が別個であること、広告業者(広告代理店等)の識別標識である商標と、媒体である新聞発行者等の識別標識である商標は本来的に別個であり、両者が混同されることはないことからも明らかである。
 したがって、インターネットホームページについても、新聞ないしテレビの場合と同様に解すべきであり、被告はホームページ上のスペースを広告業者ないし求人情報の提供業者に対して提供しているにすぎず、広告ないし求人情報の提供を業として行っているものではない。
(3) 同(4)の事実は否認する。
 被告は、被告各標章を、本件ホームページ全体の愛称として使用していたにすぎず、これは商標法2条3項の「使用」に当たらない。
 すなわち、本件ホームページで被告が行っていた役務は、新聞記事、ニュース記事の提供が中心であり、これは指定役務第42類の「新聞の記事に関する情報の提供」に該当し、被告はこの役務の識別標識として被告各標章を使用していたものである。本件ホームページでは、確かに広告及び求人情報が提供されているが、それは「新聞の記事に関する情報の提供」の役務に付随して行われていたものにすぎず、被告各標章がこれらの付随的な情報提供に関する識別標識として使用されていた事実はない。したがって、被告による被告各標章の使用は、広告の役務及び求人情報の提供の役務に関しては、商標法2条3項3号ないし7号のいずれにも該当せず、被告がこれら役務について被告各標章を「使用」したということはできない。
(4) 同(5)について、被告各標章の称呼が本件各登録商標のそれと同一であることは認めるが、両者が類似するとの主張は争う。
 登録商標と標章の類否は、単に両者を形式的に比較するだけではなく、取引の実情等によって商品の出所に誤認混同を来すおそれがあるか否かを検討し、そのようなおそれが認め難いものについては類似すると判断すべきではない(最高裁第三小法廷昭和43年2月27日判決「しょうざん事件」、東京高裁平成5年2月17日判決「ラングラー事件」、最高裁第三小法廷平成9年3月11日判決「小僧寿し事件」(以下「小僧寿し事件判決」という。)参照)。そして、以下のアないしウの事情によれば、被告各標章は本件各登録商標と誤認混同を生じるおそれはなく、両者は類似しないというべきである。
ア 原告は、本件各登録商標を出願時から現在に至るまで全く使用していない。一方、被告は、後記抗弁(1)及び(2)オのとおり、本件各登録商標の出願前から被告各標章を広く使用しており、少なくとも本件各商標権の登録時には、被告各標章は被告ホームページの愛称として周知であった。したがって、本件各登録商標の登録時においては、被告各標章が本件ホームページに使用されても、原告の役務と誤認混同を生ずるおそれは全くなかった。
イ 原告は、本件登録商標を折り込み広告に使用する予定であった旨主張するが、折り込み広告の発行業務と本件ホームページの提供業務の間に誤認混同を生ずるおそれがあるとは考え難い。また、上記のとおり被告各標章が本件ホームページを示す標識として周知性を獲得していた事実に照らせば、不正競争防止法により、原告は本件各登録商標を使用してホームページ関連の役務と誤認混同を生ぜしめる役務の提供をすることができなかったことになるから、この意味でも両者間に誤認混同が生ずる余地はない。
ウ 本件ホームページのドメイン名は「www.mainichi.co.jp」(以下「本件ドメイン名」という。)である。ドメイン名の登録者は、可能な限り自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある文字列を登録する場合が多く、ドメイン名が固有名詞と同一の文字列である場合には、当該固有名詞の主体が登録者であると考えるのが一般であるから、本件ホームページは上記ドメイン名によって識別され、本件ホームページが被告により開設されたものであることは、アクセスする者に容易に理解され、単なるホームページの愛称ないし記載事項にすぎない被告各標章が本件各登録商標と称呼を同じくするとしても、本件ホームページが原告の開設するホームページと誤認混同されることはない。これは、例えば「Yahoo!」等の検索サイトを使用して当該文字列(jamjam)を手掛かりにアクセスを行う場合も同様であって、この場合、当該文字列の含まれる多数のホームページがすべて検索されてしまうため、アクセスしようとする者は、当該ホームページの開設者、発信者を確認した上で、希望するホームページを求めるから、本件ホームページが原告の役務と誤認混同されることはない。
 しかも、広告、求人情報については、4大新聞に掲載されているか等、どのような媒体に掲載されているかが重要な意味を有するから、消費者、求職者、広告代理店及び求人情報取扱業者が、広告媒体ないし求人情報提供媒体の発行者、発信者に無関心でいることはあり得ない。この意味で、4大新聞の1つである被告が開設した本件ホームページが、原告の発行、発信した媒体であるチラシやホームページと誤認混同されることはなおさらあり得ない。
(5) 同(6)アの事実中、本件期間中の被告の利益が1億円を下らないとの事実は否認し、その余は争う。同イの事実中、被告の売上が月額1億円を下らないとの主張及び実施料率が3パーセントであるとの事実は否認し、その余は争う。同ウの予備的主張は否認ないし争う。
 類似標章に対しては、商標権者の専有的使用権は及ばないとするのが通説であるから、商標権の行使について不当利得が問題となるのは、登録商標を指定役務について使用する権利を他人が行使している場合のみである。被告は、本件各登録商標そのものを使用したわけではなく、原告の主張に従ったとしても、せいぜい本件各登録商標に類似した被告各標章を使用したにすぎないから、被告が原告の財産により利得したとはいえず、不当利得は成立しない。
 なお、原告は、商標法36条、37条を不当利得の根拠として挙げるが、これらは商標権を保護するために設けられた不法行為の特則にすぎず、これを根拠に不当利得返還請求権の成立を云々するのは誤りである。同様に、同法38条3項も、不法行為による損害額の推定規定にすぎないから、不当利得における損失額の根拠とすることはできない。
 また、不法行為に基づく損害賠償請求権が成立しない場合に、不当利得返還請求権のみが成立すると解するのは不合理である。
 さらに、本件各登録商標それ自体に財産的価値はなく、後記抗弁(5)のとおり、不使用商標である本件各登録商標に原告の信用と結合した顧客吸引力があるということもできないから、被告各標章の使用によって、原告には何らの損失も発生していないというべきであり、原告に不当利得返還請求権が発生しないことは明らかである。
3 抗弁
(1) 先使用による使用権(商標法32条1項)
 被告各標章は、以下のアないしオの事実が示すとおり、本件各登録商標の出願前において、本件ホームページの愛称として需要者の間で広く認識されるに至ったものであるから、仮に被告が本件ホームページにおいて広告及び求人情報提供の業務を行っていたとしても、同役務の標識として周知性を獲得していたというべきであり、被告はこれについて先使用権を有する。
ア 被告は、日本の代表的日刊新聞である「毎日新聞」を発行しており、平成7年ころの発行部数はおおむね400万部であった。
イ 被告は、平成7年7月25日、被告の社告の形で、同日の毎日新聞朝刊1面に紙上に本件ホームページ開設の予告をするとともに、同25面に本件ホームページ開設の予告に関する紹介記事を掲載し、翌26日の同紙朝刊25面にも同様の紹介記事を掲載した。そして、上記両日の毎日新聞には、被告のインターネットホームページ業務担当者により、「インターネットでサーフィンしよう」と題する記事が掲載された。
ウ 被告は、同年8月1日から本件ホームページを開設した。
エ 本件ホームページには、同日から直ちにバナー広告と求人情報のページが掲載されていた。
オ 本件ホームページの初日のアクセス数は7000件であり、同月15日には1万件を超え、平成7年8月中の総数は30万件であった。
(2) 権利濫用その1
 原告は、以下のアないしオの事実が示すとおり、被告に対し本件各登録商標出願の事実を伝えず、被告各標章が周知となった後に、商標権の登録がなされたことを奇貨として、高額の解決金を取得しようとして本件損害賠償請求に及んだものであるから、本件請求は権利の濫用として許されない。
ア 原告は、平成8年8月中旬ころまでには、被告各標章が本件ホームページに使用されていることを知っていた。
イ ところが、原告は、被告に対して被告各標章の使用差止請求等につき何らの交渉をせず、本件各登録商標の出願の事実や、これを使用する予定があることも伝えなかった。原告がこれらを被告に伝えたのは平成9年10月10日に至ってからである。
ウ 被告は、現在に至るまで本件各登録商標を使用したことはない。
エ 原告は、被告と本件各登録商標について交渉中の平成10年4月6日、譲渡代金1000万円以上とする回答をした。
オ 前記抗弁(1)のとおり、本件各登録商標の出願当時、被告各標章は本件ホームページの愛称として周知であった。
 また、本件ホームページへのアクセス数は、開設後、2年2か月で約200倍に増加し、平成9年10月16日には1日で100万件を突破しており、当時、ニュース提供ホームページとしては国内最大級であった。したがって、本件A登録商標が登録された平成9年9月19日及び本件B登録商標が登録された同年10月24日には、被告各標章は、いずれも被告ホームページの愛称として周知であった。
(3) 権利濫用その2(商標権の無効/商標法4条1項15号該当性)
 抗弁(1)アないしオの事実によれば、本件各商標権は商標法4条1項15号に該当し、無効とされるべきことが明らかであるから、本件各商標権に基づく権利行使は権利濫用として許されない。
(4) 権利濫用その3(不正競争防止法違反等)
 抗弁(2)オの事実によれば、原告がホームページについて本件各登録商標を使用することは、被告に対する不正競争防止法違反となり得るところ、原告が、本件各登録商標の出願前、出願後及び登録当時のいずれの段階においても、弁理士に相談をしていることからすれば、原告は、被告各標章が本件ホームページの愛称として周知であり、本件各登録商標を使用することについて不正競争防止法上の制約があることを知り又は知り得べきであった。
 また、被告は、被告標章2について、指定役務及び指定商品を第38類「電子計算機端末による通信」及び第16類「印刷物」として商標登録を取得しているので、原告は本件各登録商標を使用して雑誌や印刷物を発行することはできない。
 以上のとおり、原告は本件各商標権自体を行使することができないから、これに基づく本件請求は権利濫用として許されないというべきである。
(5) 損害不発生
ア 商標法38条2項に基づく請求について
 抗弁(2)ウのとおり、原告は、本件各登録商標を一度も使用していないのであるから、被告各標章の使用に対応する損害の発生がないことは明らかである。
イ 商標法38条3項に基づく請求について
(ア) 抗弁(2)ウのとおり、原告は、本件各登録商標を全く使用しておらず、本件各登録商標には原告の業務上の信用と結合した顧客吸引力がない。
(イ) 抗弁(1)アないしエ及び抗弁(2)オのとおり、被告は、ホームページの開設、新聞広告及び紹介記事掲載によって、被告各標章を著名なものとし、顧客吸引力を付与した。
(ウ) 前記請求原因に対する認否(4)ウのとおり、広告及び求人情報の需要者らは、媒体であるホームページの提供者に強い関心を抱くのが通常であるところ、本件ホームページには、本件ドメイン名が付されているから、需要者らはこれによって本件ホームページが被告により開設されていることを識別するし、検索サイトにより検索した場合にも、需要者らは被告が本件ホームページの開設者であることを確認した上で本件ホームページにアクセスするのが通常である。このように、需要者らは、被告各標章により吸引されて本件ホームページにアクセスするわけではなく、毎日新聞の発行主体で高い信用を有する被告が開設したホームページであることから、本件ホームページにアクセスするのである。したがって、被告各標章の使用は、広告及び求人情報の提供について何ら寄与するところがないことは明らかである。
(エ) なお、抗弁(2)のとおり、被告各標章は少なくとも登録当時には周知性を獲得していたから、登録後の本件各商標の使用は不正競争防止法違反となり、第三者が原告に対して本件各商標権の使用の許諾を求める可能性はなかったから、原告が許諾による使用料を得る可能性もなかった。
(オ) 登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきであるが(小僧寿し事件判決参照)、本件はまさに小僧寿し事件判決が指摘する要件を充足するから、原告には実施料相当額の損害も発生していないと解すべきである。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)について
ア 抗弁(1)アないしウの各事実は認める。
イ 同エ及びオの各事実は否認する。
 被告が広告役務を開始したのは平成7年9月1日であり、求人情報提供の役務を開始したのは平成9年10月1日であるから、先使用には該当しない。
(2) 抗弁(2)について
ア 同(2)アないしエの各事実は認める。
イ 同オの事実は否認する。
(3) 抗弁(3)について
 同(3)については、抗弁(1)のアないしオに対する認否と同じ。
(4) 抗弁(4)について
 同(4)のうち、原告が、本件各登録商標の出願前、弁理士に相談したこと、被告が被告標章2について、指定役務及び指定商品を第38類「電子計算機端末による通信」及び第16類「印刷物」として商標登録を取得したこと、以上の事実は認めるが、その余は否認ないし争う。
(5) 抗弁(5)について
ア 同(5)アのうち、引用に係る抗弁(2)ウの事実は認めるが、その余は争う。
イ 同イのうち、引用に係る抗弁(1)のアないしウ及び抗弁(2)のアないしエの各事実は認めるが、その余は否認ないし争う。
5 再抗弁(権利濫用の評価障害/抗弁(2)に対して)
 原告は、本件各登録商標を、多数の企業や店舗を掲載する広告紙の発行や、掲載店舗に対するイベントの働き掛けなどの業務に使用することを予定していた。このため、原告は、平成8年7月から、契約書式やチラシ等の印刷物の作成を行い、同年8月ころには一部のダイレクトメールを送付したが、そのころ被告という大企業が被告各標章を使用している事実を知ったため、問題が解決するまでの間、自らは事業展開することを手控えたにすぎない。
 また、原告が、本件ホームページにおいて被告各標章が使用されていることを知った後も、被告に使用予定及び出願の事実を伝えなかったことは事実であるが、それは単に登録がなされてから権利行使しようとしたにすぎない。なお、原告は、被告との交渉において、被告各標章の使用差止めを第1目的としていたが、被告からの提案を受けて権利譲渡を検討したものであり、その対価も、被告提案を拒否する事情として述べたものにすぎず、原告が積極的に解決金を要求した事実はない。
6 再抗弁に対する認否
 否認する。
第3 証拠
 本件訴訟記録中の書証目録を引用する。

理由
第1 不法行為に基づく請求について
1 請求原因(1)及び(2)の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、まず、請求原因(3)について判断する。
 被告が、本件期間中、本件ホームページにおいて、広告及び求人情報を掲載していた事実は当事者間に争いがない。この点について、被告は、単に媒体を提供していたにすぎず、被告が業として広告役務及び求人情報の提供の役務を行ったものではないと主張している。
 しかしながら、広告とは、第三者が、広告主のために、広告主を明示して、他人を介さずに広告主の商品、サービス、アイディア等について消費者に告知、説得する行為であると解されるところ、広告媒体は広告を消費者層に対して伝達するための手段であるから、広告媒体を有する者が、反復継続して自己の広告媒体を提供し、これに広告を掲載している場合には、仮に広告主と広告媒体を提供する者との間に広告代理店等の第三者が介在したとしても、指定役務第35類の広告役務を行っていることとなる。また、求人情報の提供とは、他人である雇用希望主のために、雇用希望主を明示して、雇用希望主が労働者を募集していることを、求職者層に対し、他人を介さずに告知、勧誘する活動を行う行為であると解されるところ、求人情報の提供媒体を有する者が、反復継続して自己の情報提供媒体に求人情報を掲載している場合には、広告役務と同様に、その間に第三者が介在したとしても、指定役務第42類の求人情報の提供役務を行っていることになる。しかるところ、各種情報媒体というべき被告が開設した本件ホームページにおいて、広告及び求人情報が掲載されていたことは前記のとおりであるから、被告は広告役務及び求人情報提供役務を行っていたというべきである。
 なお、被告は、情報媒体の提供と上記の各役務とを区別する根拠として、業界団体の実情等を挙げるが、被告指摘の各事情はいずれも事実上の慣行等にすぎず、前記判断を覆すに足りる性質のものとは考えられない上、証拠(甲19の3、20、21の1ないし4、22、32の1、2)によれば、被告には広告を専門に扱う部局(広告局、広告部等)があって、それはさらに外勤部門、制作部門、管理部門等に分かれており、対外的な営業活動や広告紙面の作成、売上管理や市場調査等に至る幅広い広告関連業務を手掛けていること、本件ホームページについても、トップバナー広告については1週間80万円といった料金を徴収しており、本件ホームページ上でも、広告主の勧誘や求人情報掲載の申込受付を直接行っていること、以上の事実が認められ、これらを総合すれば、被告が本件ホームページにおいて、本件期間中、本件各商標権の指定役務を現実に実施していた事実が優に認められるので、この点に関する被告の主張は採用できない。
3 次に、請求原因(4)について判断する。
 証拠(甲16の1の1、16の2の1、16の3、17の1、17の2の1、27、32の1、2)によれば、被告が本件期間中、本件ホームページ上において、指定役務第35類について被告標章1ないし4を、同第42類について被告標章1、4及び5をそれぞれ使用していた事実が認められる。
 この点について、被告は、被告各標章は新聞の記事に関する情報を提供する本件ホームページ全体の愛称として使用したものであり、上記各指定役務の識別標識として使用したものではない旨主張するが、本件ホームページの一部に上記各指定役務に係る情報が含まれていたことは前記のとおりであり、かつ、本件ホームページには、被告各標章が見出し表示されている(甲16の1の1、16の2の1、17の1、17の2の1、18、32の2)のであるから、被告主張のような愛称としての使用の側面があるとしても、主として被告各標章が識別標識として使用されていることは否定し難い上、甲32号証の2には、「JamJamでの広告に関する詳しい資料をご希望の方は、以下のフォームにご記入ください」、「今後JamJamから、広告に関するご案内のメールをご希望されますか」等との記載もなされている(使用標章は被告標章5)ことからすれば、被告自身、広告役務の提供に当たって、自らを表示する標章として被告各標章を用いていることが明らかであるから、被告の主張は採用できない。
 したがって、被告の上記使用行為は、「広告及び求人情報の役務の提供に当たり、その役務の提供を受ける者の利用に供する物」である本件ホームページに標章を付する行為に当たるから、商標法2条3項3号所定の「標章の使用」に該当するというべきである。
4 次に、請求原因(5)について判断する。
(1) 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、通常は、上記3要素の1つでも類似する場合は、商品等の出所の混同を招くおそれの存在を推認させる一応の基準たり得るというべきである。もっとも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって、その3要素のうち類似する要素があるとしても、他の要素において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解するのが相当でない場合もあり得る(最高裁第三小法廷昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2) これを本件についてみるに、被告各標章と本件各登録商標の称呼が同一であることは当事者間に争いがなく、被告各標章と本件各登録商標は、いずれもアルファベットのJ、A、Mを2回続けて横書きにする点では外観上も共通しており、AとMの文字が大文字か小文字かの点、字体の点、本件各登録商標のAの文字の中央がハート形になっている点及び被告標章1ないし3のJの文字の上部にネジ山状の模様が加えられている点等に相違が見られる程度である。そして、通常、JAMJAMという言葉から何らかの意味のある観念を生ずるとは言い難い。
 そうすると、仮に原告が本件各登録商標をその指定役務に用いた場合、なかんずく被告と同様のホームページを開設して、その標章として用いた場合(ホームページの開設がさして困難でないことは公知の事実である。もっとも、被告による周知性の獲得の結果、抗弁(4)の主張が肯認でき、そのため、逆に原告による使用が制限され得る場合は別論である。)、アクセスを試みた一般人がその役務主体を混同するおそれは否定し難い。
 この点、被告は、ホームページにアクセスを試みる者は、その開設者、発信者を確認するのが通例であるから、役務主体を混同するおそれはないと主張するところ、後記のとおり、(jamjam)の文字列のみを手掛かりとし、検索サイトを利用して本件ホームページにアクセスすることが可能であると認められ、そうであるならば、原、被告の開設したホームページにアクセスした者がその主体を取り違える可能性は皆無とはいえない。よって、被告各標章は本件各登録商標と類似するというべきである。
5 以上によれば、被告各標章の使用が本件各登録商標の侵害に該当することは否定し難い。そこで損害について判断するに、原告は請求原因(6)のとおり主張するところ、被告はこれを争った上、抗弁(5)のとおり損害不発生の主張をするので、この点につき判断する。
(1) 商標法38条2項に基づく請求について
 商標法38条2項は、積極的損害であると消極的損害であるとを問わないものの、その損害額の立証が困難な場合に、侵害者の得た利益の額をもって損害の額と推定し、立証責任を軽減する規定であるところ、本件においては、原告が本件各登録商標を現在に至るまで一度も使用していない事実は当事者間に争いがないから、本項の適用を受けることができないというべきである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、商標法38条2項に基づく原告の請求は理由がない。
(2) 次に、商標法38条3項に基づく請求について判断する。
ア 上記のとおり、原告が本件各登録商標を現在に至るまで一度も使用していない事実は当事者間に争いがないから、本件各登録商標には、原告の信用と結合した顧客吸引力は全く存在しないというべきである。
イ 被告が日本の代表的日刊新聞である「毎日新聞」を発行しており、平成7年ころの発行部数はおおむね400万部であったこと、被告が、平成7年7月25日、被告の社告の形で、同日の毎日新聞朝刊1面に紙上に本件ホームページ開設の予告をし、同25面に本件ホームページ開設の予告に関する紹介記事を掲載し、翌26日の同紙朝刊25面にも同様の紹介記事を掲載したこと、上記両日の毎日新聞には、被告のインターネットホームページ業務担当者により、「インターネットでサーフィンしよう」と題する記事が掲載されたこと、被告が、同年8月1日から本件ホームページを開設したことはいずれも当事者間に争いがない。
 そして、証拠(乙10、11、14ないし16)によれば、本件ホームページの初日のアクセス数は7000件であり、同月15日にはアクセス数が1万件を超え、平成7年8月中のアクセス数は30万件であったこと、本件ホームページへのアクセス数は、開設後、2年2か月で大幅に増加し、本件A商標権が登録された平成9年9月の1か月間の合計アクセス数は約1107万件、本件B商標権が登録された同年10月のそれは約985万件であったこと、本件ホームページは、平成9年9月当時、ニュース提供ホームページとしては国内最大級であったこと、以上の事実が認められる。そうすると、本件各商標権の登録時において、被告各標章(少なくとも被告による社告(乙3)の段階から使用されていた被告標章2)は、被告のホームページ運営及び広告・宣伝により、被告が開設、発信する本件ホームページを示す標章としてインターネットの利用者の間でかなり広範囲に認識されていたと認められる。
ウ 次に、インターネットにおいて需要者が役務の出所を識別する方法につき検討する。
(ア) 証拠(甲16の1の1、16の2の1、16の3、17の1、17の2の1、27、32の1ないし3、乙13)、弁論の全趣旨及び公知の事実によれば、インターネットのホームページにアクセスする際には、a:何らかの方法で認知したURL(IPアドレスを文字列に対応させたもののうち、アクセス方法まで文字列に組み込んだもの。本件ホームページではhttp://www.mainichi.co.jp/)を直接入力する方法、b:以前アクセスしたことのあるホームページの名称を覚えている場合に、検索サイトを使用して当該名称により検索する方法、c:需要者が得ようとする情報(「ニュース」、「求人情報」、「新聞」等)の内容を入力して検索サイトにより検索する方法、d:いわゆるブックマーク機能を用いて、以前にアクセスしたことのあるホームページを需要者が自らのパソコンに「お気に入り」等として何らかの名称(主として当該ホームページの名称)により登録し、そこからアクセスする方法、e:他のホームページのリンクを伝ってアクセスする方法等が存すること、検索サイトにより検索を行う場合、入力したキーワードに該当するホームページが複数選択されることが多いため、検索サイト側で、需要者の便宜のため、選択されたホームページの名称、当該ページに記載された具体的内容等を表示するとともに、当該ホームページのURLも併せて表示していること、需要者が自らのパソコンで何らかのホームページを表示した場合、必ず当該ホームページのURLがパソコン上のどこかに表示され、需要者において、現在どのホームページを閲覧しているかが判明するようになっていること、本件ホームページの広告塔のページのURLは「http://ad.mainichi.co.jp/ad/adtower.html」、広告に関する営業のページのURLは「http://www.mainichi.co.jp/adress/ank/ank.html」、求人情報のページのURLは「http://jamjam.mainichi.co.jp/job/top.html」であることがそれぞれ認められる。
(イ) そうすると、需要者が本件ホームページにアクセスする場合、直接URLを入力する前記aの場合や、お気に入りに登録済みである前記dの場合には、URLが異なる以上、誤ってアクセスするということは考え難いし、前記cのように、需要者が新聞社の開設したホームページにアクセスすること自体を求めているときには、前記認定に係る検索サイトの構造からしても、原告のホームページと本件ホームページを誤認する可能性は存しない。したがって、本件ホームページの名称が本件各登録商標と類似しているために需要者が開設主体を誤ってアクセスする可能性が存するのは、前記b又はeのケースのみということになる。しかしながら、検索サイトで検索した場合、当該ホームページの内容及びURLが併せて表示されるのが一般的であるから、bのケースにおいても誤認によるアクセスが生じる可能性はかなり低いと考えられるし、リンクを伝ってアクセスする場合、需要者は、通常、リンク元となったページに表示された内容に興味を抱いてリンク先へアクセスするのであるから、ページの名称のみをより所としてリンクしていくことも考え難い。そうすると、本件期間中の被告の売上げに密接に関連するアクセス数に被告各標章の使用が寄与したということはおよそ考え難い。
(ウ) その上、前記認定のとおり、被告は日本を代表する日刊新聞の発行主体であり、「毎日新聞社」という被告の名称を知らない者は想定し難いほど被告自身の周知性は高いと解されるところ、広告及び求人情報の提供という役務については、その性質上、掲載媒体の信頼性に対する需要者の要請が強いと解されるから、媒体の出所及び性格について、需要者の識別力は強く働くと考えられ、被告の本件期間中の売上げには被告の上記信用こそが大きく寄与していると認められる。そして、ドメイン名が、ホームページ開設者に関する固有名詞等を使用しているケースがほとんどであることは公知の事実であるところ、本件ホームページのドメイン名及びURLにはいずれも「mainichi」という被告を示す名称が含まれており、この意味でも被告各標章の使用が被告の売上げに貢献したとは認め難い。
エ 以上認定、判断のとおり、本件各登録商標には、原告の信用と結合した顧客吸引力は全く存在せず、被告が指定役務の提供により利益を挙げたとしても、それは被告自身の高い周知性及び自らの宣伝等によるものであって、被告各標章を使用することは被告の利益に寄与していないというべきであり、かつ、本件各商標権の登録後、上記のような被告による本件ホームページの開設、運営の事実を認識しながら、あえて原告に対して本件各登録商標の使用の許諾を求める第三者が現れたとは考え難く、したがって原告が実施料を得ることもできなかったと認められるから、被告が本件期間中、指定役務について被告各標章を使用したことによって、原告には実施料相当額の損害も発生していないというべきである。
オ したがって、その余の点について判断するまでもなく、不法行為に基づく原告の請求には理由がない。
第2 不当利得に基づく請求について
 原告は、被告が被告各標章の使用に当たって原告に実施料を支払うべき義務を負い、それを支払わずに使用したことは原告との関係で不当利得を構成する旨主張するが、被告に実施料の支払義務が生じるのは、被告が原告との間で自発的に商標の使用許諾契約を締結した場合か、又は登録商標に類似する標章の使用が商標法38条3項に該当し、商標権者に対して不法行為を構成する結果、その責任を免れるために同契約を締結した場合に限られるというべきところ、本件において、被告が、本件期間中、被告各標章を使用したことによって、原告に対して不法行為責任を負うとは認め難いことは前記第1のとおりである。したがって、不当利得に基づく原告の請求も、その前提を欠き、理由がない。
第3 結語
 以上の次第で、原告の主位的請求及び予備的請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官 加藤幸雄
 裁判官 橋本都月
 裁判官 富岡貴美
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