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【事件名】『魔術師 三原修と西鉄ライオンズ』の改ざん事件
【年月日】平成13年10月30日
 東京地裁 平成12年(ワ)第7120号 書籍の発行差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年8月24日)

判決
原告 A 
訴訟代理人弁護士 美勢克彦
被告 株式会社文藝春秋
被告 B 
被告ら訴訟代理人弁護士 喜田村洋一
同 林陽子


主文
1 被告らは、原告に対し、各自金200万円及びこれに対する平成12年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを6分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社文藝春秋は、株式会社朝日新聞社の全国版朝刊社会面に、別紙目録2の「1体裁」の項記載のとおりの体裁で、同目録の「2広告文」の項記載のとおりの広告を1回掲載せよ。
2 被告Bは、株式会社朝日新聞社の全国版朝刊社会面に、別紙目録3の「1体裁」の項記載のとおりの体裁で、同目録の「2広告文」の項記載のとおりの広告を1回掲載せよ。
3 被告株式会社文藝春秋は、その発行する「本の話」の最終頁に、別紙目録4の「1体裁」の項記載のとおりの体裁で、同目録の「2広告文」の項記載のとおりの広告を1回掲載し、別紙目録1記載の書籍を回収し廃棄せよ。 
4 被告らは、各自金1100万円及びこれに対する平成12年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要及び争点
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は、経済誌編集者、週刊誌記者を経て、昭和63年7月に独立したノンフィクション作家である。原告の主な著書には、「復讐する神話・松下幸之助の昭和史」(昭和63年、被告株式会社文藝春秋発行)、「漂流する経営・堤清二とセゾングループ」(平成2年、被告株式会社文藝春秋発行)、「覇者の誤算・日米コンピュータ戦争の40年(上・下)」(平成5年、日本経済新聞社発行)、「三和銀行香港支店」(平成9年、講談社発行)、「ふたつの西武」(平成9年、日本経済新聞社発行)等がある。
イ 被告株式会社文藝春秋(以下「被告会社」という。)は、昭和21年6月13日に設立された雑誌、図書の印刷、発行及び販売等を目的とする出版社である。被告Bは、平成10年4月以降、平成12年3月末日まで被告会社第二出版局第二出版部長の地位にあった者である。
(2) 事実経過
ア 原告は、別紙目録1記載の「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」(以下「魔術師」という。)の著者であり、その第1刷は平成11年4月30日に被告会社から発行された。
 しかし、その発行前に「魔術師」第1刷に多数の誤植等が判明したので、被告会社は社内在庫の2000部を断裁処分とし、改めて第2刷として発行することとした。そこで、原告は、同月28日、被告会社第二出版局第二出版部次長で、原告の担当編集者であるCと訂正箇所について協議し、その後も新たに見つかった誤植等について、Cと連絡をとった。
 その後、「魔術師」の第2刷ないし第4刷が発行された。しかしながら、これらには原告の知らない変更箇所があった。
イ 被告会社は、財団法人日本文学振興会(以下「日本文学振興会」という。)の委託を受けて、「大宅壮一ノンフィクション賞」(以下「大宅賞」という。)の候補作選考委員会(以下「社内選考委員会」という。)を行っているところ、第31回大宅賞の社内選考委員会において、被告Bは、「『魔術師』には500箇所以上の誤植や事実の誤りがあった」旨の発言をした。
 「魔術師」は社内選考の最終候補に残らなかった。
ウ 被告会社は、平成12年4月26日までに「魔術師」の社内在庫については出庫停止とし、取次店に同書の回収を依頼することを決定した。この結果、「魔術師」回収の事実は、「トーハン週報」(5月3週号)、「日販速報」(5月22日号)、「大阪屋商報」(5月31日号)に掲載された。
2 事案の概要
 本件は、「魔術師」の著者である原告が、「魔術師」第1刷から第2刷への改訂に当たって、被告らによって原告に無断で「魔術師」が改竄されたとして、著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由に、被告らに対して、著作権法115条による謝罪広告の掲載及び「魔術師」第2刷ないし第4刷の読者からの回収と廃棄並びに不法行為による損害賠償を求めるとともに、第31回大宅賞の社内選考委員会においてされた被告Bの発言は原告の名誉を毀損するものであるとして、被告らに対して、民法723条による謝罪広告の掲載及び不法行為による損害賠償を求める事案である。
3 争点
(1) 被告らは、故意又は過失により原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したか。
(2) 被告らの行為は、原告の名誉を毀損した不法行為となるか。
(3) 原告の損害及び謝罪広告の可否。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
【原告の主張】
ア 「魔術師」の第2刷ないし第4刷には、別紙無断改竄箇所全リスト記載のとおり、無断改竄箇所が合計193箇所、原告が訂正を指示したにもかかわらず訂正されていない箇所が10箇所存する。無断改竄箇所のうち、第1刷が正しいにもかかわらず、改竄されたため、事実関係に誤りまで生じてしまった箇所が16箇所、第1刷の表現が正しいにもかかわらず、改竄により、違った意味になってしまった箇所が75箇所、第1刷の表現で間違っていないのに、無断改竄した箇所が80箇所、原告の訂正の指示に従わずに、無断改竄した結果、文意が通じない、あるいは通じにくくなった、また著者の意にそぐわない文章になった箇所が13箇所、表現を勝手に改竄した箇所(計算間違いも含む。)が9箇所存する。
イ 被告Bの責任
 被告Bは、原告が許諾、同意した変更箇所を、Cから聞いて知りながら、あえてこれを無視して、被告Bの思い通りに「魔術師」第1刷を改竄し、原告が求めた訂正をしなかった。
ウ 被告会社の責任
 被告会社には、被告Bの行為について、民法715条の責任があるほか、変更箇所を原告に確認していないことを見過ごした過失がある。
【被告の主張】
 出版社ないし出版人である被告らには、著者である原告に無断で原稿を変更する意図もないし、そのようなことをする実益もない。本件では、被告Bにおいて、「魔術師」の第1刷から第2刷への変更に当たり、各変更箇所についての原告の確認が得られていたものと誤信した点において過失があるにすぎず、改竄と非難されるようなものではない。
 そして、第1刷から第2刷への変更は、客観的にみれば第1刷の誤りないし不適切な表現を正したものがほとんどであり、これによって「魔術師」第2刷は、第1刷より良いものとなった。
(2) 争点(2)について
【原告の主張】
ア 平成12年1月13日の第2次社内選考委員会の場で、被告Bが、「@『魔術師』は回収問題を起こすなど、いろいろなトラブルを抱えている、A500箇所以上にも及ぶ誤植や事実関係の誤りがあった、Bそんな本を選考に回すことは、被告会社が出版社としてのモラルを問われることになる。」と述べた結果、「魔術師」の扱いは被告会社第二出版局に一任されることとなり、結果として「魔術師」は選考に回さないことが決められた。しかし、この被告Bの発言は、次のとおり事実無根である。
(ア) 被告会社第二出版局長のDは、「魔術師」の第1刷の誤植はすべて版元である被告会社の責任なので、社内在庫の2000部を断裁処分にし、ただちに訂正したものを第2刷として発売したいので、了承して欲しい旨を原告に電話で申し出たので、原告はこれを了承した。その結果、平成11年4月28日に原告とCがチェックし、その後も原告が指示して「魔術師」の第2刷ないし第4刷が発行されているから、「『魔術師』は回収問題を起こすなど、いろいろトラブルを抱えている。」ということはない。
(イ) 「魔術師」の第2刷ないし第4刷には、別紙無断改竄箇所全リスト記載のとおり、無断改竄箇所が合計193箇所、原告が訂正を指示したにもかかわらず訂正されていない箇所が10箇所存するが、このほか、別紙改訂箇所全リスト記載のとおり、第1刷から変更された箇所がある。しかし、これらのうち、第1刷における事実関係の誤りは、24箇所にすぎず、誤植と併せても500箇所にははるかに及ばない。「『魔術師』には500箇所以上の誤植や事実の誤りがあった」ということはない。
イ 被告Bが、ノンフィクションを担当する編集者がそろった大宅賞の社内選考委員会の席上で上記発言をして、さらにはその言により「魔術師」が賞の選考対象から外されることは、フリーランスでノンフィクション分野を仕事とする原告にとって致命的である。すなわち、「魔術師」が選考対象から外されることによって、被告Bの虚偽の発言が「正しい」あるいは「事実」であると被告会社において、さらにノンフィクション分野の出版業界の者の間で受け止められてしまう結果となるし、ことに被告会社第二出版局第二出版部長という地位にあった被告Bによる、ノンフィクションの生みの親ともいうべき被告会社での発言は、原告に対して「ノンフィクション作家として認められない。」と宣言したに等しい行為であり、作家生命にも重要な影響を及ぼす行為である。
ウ したがって、被告Bの上記発言は、原告の名誉を毀損する不法行為というべきである。
【被告らの主張】
ア 被告Bの社内選考委員会での発言は、他の委員からの「出荷停止、断裁の理由を知りたい。」との発言に答えて述べたもので、「魔術師」を社内選考の対象から外すためのものではなく、「魔術師」が社内選考で最終候補に残らなかったことは、被告Bの発言とは関係がない。
イ 「魔術師」第1刷が回収されたこと及び「魔術師」の第1刷と第2刷以降で、変更された箇所が500箇所以上あることは事実である。
ウ 社内選考委員会では、自由な意見交換が保障されなければならないから、そこでの出席者の発言が外部に出ることはなく、ましてこれが広く社会に流布されることはあり得ない。また、「魔術師」が選考の対象にされなかったという事実は、この事実が社会的に広く知られたとしても、原告の社会的評価を低下させるものではない。
エ したがって、名誉毀損は成立し得ない。
【原告の反論】
ア 被告Bの社内選考委員会での発言は、「出荷停止、断裁の理由を知りたい。」との発言に答えて述べられたものではない。被告Bは、社内選考委員の「魔術師」に対する評価発表が終了した直後に突然立ち上がって発言したものである。
イ 社内選考委員会での出席者の発言が外部に出ることはないというのは事実ではない。原告の作品は、これまでにも3度大宅賞の候補になっているが、担当編集者や被告会社の関係者から最終候補に残った他の作品の社内選考委員会の選評や有力候補作品が外れた理由等を詳細に聞いている。したがって、「魔術師」が選考の対象から、全く事実と異なる被告Bの発言によって外されたなどという事実も速やかに他社の編集者等に広まっていくのであり、このことは文壇関係者には周知の事実である。
(3) 争点(3)について
【原告の主張】
ア 著作者人格権侵害に対する慰謝料 各自500万円
イ 名誉毀損に対する慰謝料 各自500万円
ウ 弁護士費用 各自100万円
エ 謝罪広告
 上記著作者人格権侵害及び名誉毀損の態様に、被告らが原告の社会的な名誉を回復するための誠意ある措置をとっていないことを総合すると、原告の社会的な名誉声望を回復するためには、被告らに対し、謝罪広告を命じる必要がある。
【被告らの主張】
 いずれも争う。
第3 争点に対する判断
1 事実経過(1)−「魔術師」第2刷ないし第4刷の出版に至るまでの経緯−
(1) 上記争いのない事実並びに証拠(甲1、2、5の1、甲6の1、甲8、11、12、乙1ないし5、証人C、同D、原告及び被告B本人)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 被告会社は、平成3年ころ、被告会社の創立70周年記念出版企画として、原告に対し「魔術師」の執筆を依頼した。この際、取材費が100万円、初刷の部数が1万5000部で、印税率は12%とされた。
 原告は、平成8年10月ころ「魔術師」の原稿を完成したが、400字詰め原稿用紙2000枚を越える大作となったので、被告会社第二出版局長Dは、1巻本として出版したいとの意向から最低400枚程度削除するように申し入れた。そこで、原告は平成10年11月12日に「魔術師」の改訂稿を完成させ、平成11年1月19日から22日までの間、「魔術師」の初稿ゲラを校正した。
 被告会社は、同年4月22日ころ、「魔術師」第1刷を8000部発行し、原告に献本した。
イ 被告会社の取締役Eは、同年4月19日、「魔術師」出版の実務上の責任者である被告Bに対し、「魔術師」第1刷に多数の誤植や事実の誤りがあると指摘し、対処を求めた。そこで、被告Bは、F出版総局長に報告し、Fから被告Bの責任により「魔術師」第2刷を出版するようにとの指示を受けた。被告Bは、同月21日から24日にかけて「魔術師」第1刷の中で変更を要する箇所を調査し、自ら所持する「魔術師」第1刷(乙5)に書き込み、同月26日と27日の両日にわたり、Cと共に「魔術師」第1刷の変更を要する箇所の検討を行った。Cは、所持する「魔術師」第1刷に、検討後の変更箇所を書き込んだ。上記検討の際、Cは、被告Bに対して、文章の内容にわたる変更箇所があるので、原告の了解を得る必要がある旨述べた。被告Bは、原告の了解を得ることについては、消極的であったが、Cが了解を得ないとトラブルになるなどと述べたため、Cが原告に変更箇所について話して了解を得ることに同意した。
 被告Bは、Cとの上記検討後、被告会社の校閲部に対して「魔術師」第1刷の校正を依頼し、校閲部は、校正後、その結果を記載した書面(乙4)を、被告Bに出した。被告Bは、同年5月7日ころまで、校閲部に校正を依頼したことをCに話さなかった。
ウ 被告会社は、「魔術師」第1刷8000部中、被告会社が保管中の在庫約2000部を出版停止、廃棄処分にするとともに、将来返品されるものについても同様に廃棄処分とすることを決定した。Dは、これらの措置をとることを、電話で原告に話し了解を得た。そして、被告会社は、これらの措置を実施した。 
エ Cは、同年4月28日、池袋のメトロポリタンホテルにおいて、上記イの検討結果を踏まえて、原告との間で、変更箇所についての検討を行った。Cは、上記イの検討の結果生じた変更箇所について原告の了解を求めたが、原告が変更に同意せず、激怒することがあった。原告から、変更を求めた箇所もあった。
 Cは、同月30日ころ、原告との上記検討の結果を記載した「魔術師」第1刷とその写しを被告Bに渡した。
 上記検討の後も、原告とCは、新たに見つかった変更を要する箇所について、電話で連絡を取り合っており、原告が見つけて連絡した変更箇所もあれば、Cが連絡した変更箇所もあった。
オ 被告Bは、@上記イのCとの検討結果、A上記ウの校閲部の校正結果、BCが上記エのとおり原告から聞いた意見を総合して、「魔術師」の訂正用原稿(乙2)を作成し、同年5月6日、これを印刷所に入れた。上記訂正用原稿では、「魔術師」第1刷からの変更箇所が500箇所以上あった。
 被告Bは、同月7日ころ、Cに対して、事故調査報告書へのサインを求めたところ、Cは同報告書に「500箇所以上の誤植と事実の誤りがあった」旨の記載があったことから、自らの認識と異なるとしてこれを拒否した。そうすると、被告Bは、校閲部に校正を依頼したことを話し、被告Bの認識として500箇所以上の誤植と事実の誤りがあった旨述べた。これを聞いて、Cも同報告書にサインした。
 同月10日に、印刷所から「魔術師」第2刷のゲラ(乙3)が上がってきたので、被告Bは、翌11日ころCとともに検討した。このとき、Cは1箇所を除き特に異議を述べなかった。被告Bは、上記検討の結果生じた変更箇所を印刷所に指示した。そして、被告会社は「魔術師」第2刷を同月28日に2000部発行し、原告に2部献本した。
 被告会社は、同年6月7日に「魔術師」第3刷を3000部、第4刷を2000部発行し、それらの増刷時にも原告にそれぞれ3部、2部献本した。
カ Cは、同年5月中頃、被告Bから戻された原告との上記エの検討結果を記載した「魔術師」第1刷の写し(甲8)を作成して、原告に郵送した。
(2) 被告Bは、上記(1)イ認定に係る平成11年4月26日と27日におけるCとの検討より前に校閲部に校正を依頼し、その結果を得ていた旨供述するが、この供述は、Cが同年5月7日ころ初めて校閲部に校正を依頼した事実を知った旨証言していること、校閲部の校正結果(乙4)には、上記(1)カ認定のとおりCが原告に送付した「魔術師」第1刷の写し(甲8)に含まれていない変更箇所が多く含まれていること、被告会社から原告に送付された2000年3月22日付けの回答書(甲6の1)には、Cが原告との間で作成した訂正用原本のほかに、被告Bが校閲の意見を勘案して訂正用原本を作り、それを原告との検討を経ないまま第2刷用原本として使用した旨の記載があることに照らすと、信用することができない。
 また、被告Bは、平成11年4月30日ころCから原告との検討の結果を記載した「魔術師」第1刷とその写しを受け取ったことはないと供述するが、この供述は、Cは被告Bに渡した旨具体的に証言していること、Cは、原告に対して「魔術師」第1刷の写し(甲8)を送付しており、そこには、明らかに被告Bに宛てて記載されたと考えられる記述(「本人・・・と言ってます」等)が存することからすると、信用することができない。
 なお、乙5に含まれている変更箇所で、甲8に含まれていないものが存するが、上記(1)エ認定のとおり、原告は、同年4月28日に行ったCとの打合せにおいて、変更に同意せず、激怒することがあったのであるから、Cは、上記(1)エ認定のとおり、原告との検討の結果を記載した「魔術師」第1刷を作成するに当たって、原告の同意が得られなかった箇所の多くを書き入れなかった可能性が高いし、被告BがもともとCに伝えなかった又はCが書き落としたということも考えられるから、上記(1)の認定を覆すに足りるものではない。
2 争点(1)について
(1) 証拠(甲1、2、乙1)及び弁論の全趣旨によると、「魔術師」第1刷と第2刷ないし第4刷とを対比した場合、540箇所の変更箇所が存することが認められる。
 そして、上記1認定の事実及び証拠(乙2ないし5)によると、上記変更箇所の一部である別紙無断改竄箇所全リスト記載の193箇所(◎が付された10箇所を除く箇所)は、@被告Bが自ら変更した箇所、A被告Bが被告会社の校閲部に依頼した結果、校正された箇所(乙4)、B印刷所のゲラ(乙3)の変更箇所のいずれかであること、その数は、@が46箇所、Aが141箇所、Bが6箇所であると認められ、これらについて原告の同意を得たことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、別紙無断改竄箇所全リスト記載の203箇所中上記193箇所については、原告の「魔術師」に対する著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたものと認められる。
(2) そこで、上記著作者人格権侵害行為について被告Bの責任について判断する。
ア 上記1認定の事実によると、上記(1)の193箇所のうち、@被告Bが自ら変更した箇所はもとより、A被告Bが被告会社の校閲部に依頼した結果、校正された箇所(乙4)及びB印刷所のゲラ(乙3)の変更箇所についても、被告Bが変更を決定し指示したことが認められるから、上記著作者人格権侵害行為は、被告Bによってされたものと認められる。
イ 上記1認定の事実によると、上記A被告Bが被告会社の校閲部に依頼した結果、校正された箇所(乙4)及びB印刷所のゲラ(乙3)の変更箇所については、被告Bが平成11年4月26日と27日にCと変更箇所の検討をした後に生じた変更であると認められること、上記1(1)イ認定のとおり、被告Bは、もともと原告の同意を得ることには消極的であったこと、上記A及びBについて、被告Bが、Cに対して、原告の同意を得るよう指示したとか、同意を得たかどうか確認したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、被告Bは、原告の同意がないことを知りながら、すなわち、故意で、上記著作者人格権侵害行為をしたものと認められる。
ウ 次に、上記@被告Bが自ら変更した箇所について検討する。
(ア) 上記@被告Bが自ら変更した箇所46箇所のうち、21箇所は、乙5に記載があるが、25箇所は、乙5には記載がないものと認められる。そうすると、上記@被告Bが自ら変更した箇所は、被告Bが平成11年4月26日と27日にCと変更箇所の検討をする前に変更された箇所と、その検討の後に変更された箇所が含まれているものと認められる。
(イ) 上記@被告Bが自ら変更した箇所のうち、被告Bが平成11年4月26日と27日にCと変更箇所の検討をした後に変更された箇所については、上記イでA及びBについて述べたのと同様の理由により、被告Bは、故意で上記著作者人格権侵害行為をしたものと認められる。
(ウ) 上記@被告Bが自ら変更した箇所で、被告Bが平成11年4月26日と27日にCと変更箇所の検討をする前に変更されていた箇所のうち、別紙無断改竄箇所全リスト記載の■を付した13箇所のうちに含まれているものについては、Cは、被告Bに原告との上記1(1)エの検討結果を記載した「魔術師」第1刷及びその写しを提出することによって、原告が同意しない旨の報告をしたものと認められるから、被告Bは、原告の同意がないことを知っていたものと認められる。したがって、これらの箇所については、被告Bが、故意で上記著作者人格権侵害行為をしたものと認められる。
(エ) これに対し、その余の被告Bが平成11年4月26日と27日にCと変更箇所の検討をする前に変更されていた箇所については、上記1(1)イで認定した事実からすると、被告Bとしては、Cが原告の同意を得るものと考えていたことが認められ、Cが被告Bに提出した原告との上記1(1)エの検討結果を記載した「魔術師」第1刷及びその写しにその変更が記載されていなかったとしても、Cが原告が同意しない旨の報告をしたとまでは認められないから、被告Bが原告の同意がないことを知っていたとまでは認められない。したがって、これらの箇所については、被告Bが、故意で上記著作者人格権侵害行為をしたものとは認められない。しかし、被告Bには、原告の同意の確認を怠ったことについて過失があるというべきである。
エ 以上のとおり、上記(1)の193箇所のうち多くの箇所において、被告Bは、故意で上記著作者人格権侵害行為をしたものと認められ、故意が認められない箇所についても、過失を認めることができる。
 なお、上記1認定の事実によると、被告Bは、同年5月7日ころCに校閲部に校正を依頼した事実を話し、同月11日ころCと共に「魔術師」第2刷のゲラを突き合わせたが、その際、Cはほとんど異議を述べなかったことが認められるが、原告の同意について話題になったことを認めるに足りる証拠はないから、Cが上記のとおりほとんど異議を述べなかったからといって、被告Bが上記@ないしBの変更箇所(上記ウ(エ)記載の箇所を除く。)について原告の同意があると考えたとは認められない。
オ したがって、被告Bは、上記著作者人格権侵害行為について責任を有するものと認められる。
(3) 被告会社は、民法715条により、従業員である被告Bが行った上記著作者人格権侵害行為について責任を有するものと認められる。
(4) 原告は、原本に訂正の指示をしたにもかかわらず、第2刷以降訂正されていない箇所10箇所についても、原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害を主張するが、著作権法20条にいう「意に反する改変」とは、文字通り著作者の意思に反して著作物に変更を加えるものであると解されるところ、上記の場合は被告らにおいて原告著作物である「魔術師」に変更を加えたものではないから、これをもって原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものとは認められない。
3 事実経過(2)−社内選考委員会における被告Bの発言等−
(1) 上記争いのない事実並びに証拠(甲1、2、5の1、8、9、甲10の1ないし9、甲11、12、乙1ないし5、証人D、同C、同G、原告及び被告B本人)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 第31回大宅賞は、平成11年中に刊行された作品及び応募原稿の中から選考され、「魔術師」も同賞の対象作品であった。しかし、対象となる作品が膨大であり、5名の選考委員がそのすべてに目を通して選考当日に決定するのは不可能なことから、大宅賞を主催する日本文学振興会は、大宅賞の最終候補作の選定を被告会社に委託していた。被告会社では、編集・出版各局所属の社員の中から約30名が社内選考委員に指名されて対象作品を下読みして、選考委員が読む最終候補作を選ぶ作業を行っていた。
イ 被告会社の社内選考委員会では、第1次の選考で1組2名の社内選考委員が読み、選考に値すると判断すれば、その作品は第2次の選考に回され、第2次の選考では2組4名の社内選考委員が読むという方法をとっていた。 「魔術師」は、当初は選考の対象とされていなかった。そこで、Cは、被告Bに対して、その理由を聞いたところ、被告Bは、「誤植が500箇所以上ある。」と述べた。これに対し、Cが、「誤植は担当編集者である自分の責任であり著者の責任ではない。」と述べて、「魔術師」を社内選考委員会の選考対象とするよう求めたので、「魔術師」は選考の対象とされ、平成11年12月下旬に行われた第1次の選考で2名の社内選考委員に読まれ、第2次の選考に回された。
ウ 平成12年1月12日に行われた第2次社内選考委員会には約30人の社内選考委員が出席していたが、Cは欠席していた。同委員会において「魔術師」が検討の対象とされ、社内選考委員の「魔術師」に対する評価発表が終了した後に、同委員会に出席していた被告Bは、「『魔術師』には500箇所以上の誤植や事実の誤りがあった」旨発言した。この発言がきっかけとなって、「魔術師」の取扱いは、被告会社の第二出版局に委ねられることとなった。そして、被告会社の第二出版局において、同日、D、被告B及び第二出版局第一出版部長のHの3人で協議し、「魔術師」については、更に社内選考委員会での検討を求めないこととした。
エ Cは、同月13日、Dに対して、「500箇所以上の誤植や事実の誤りがあった」旨の被告Bの発言は事実ではないと述べて再考を促したが、Dはこれを受け入れなかった。また、Cは、同日、Dの了解を得て、原告に会い、「魔術師」が選考の対象とされなくなった経過を原告に話した。
 なお、被告会社においては社内選考委員会での候補作品決定後、社内選考委員が選考過程を候補作品の著者に説明することがあった。
オ 原告は、平成12年3月9日、「魔術師」によりミズノスポーツライター賞の最優秀作品賞を受賞した。
(2) 被告らは、平成12年1月12日に行われた第2次社内選考委員会における被告Bの上記(1)認定の発言は、他の委員からの「出荷停止、断裁の理由を知りたい。」との発言に答えて述べられたものであると主張し、被告Bは、その旨供述する。これに対して、原告は、被告Bは、突然立ち上がって発言したと主張し、原告の陳述書(甲12)には、原告がGから聞いた結果として、その旨の記載がある。しかし、被告Bの供述は、準備書面に書いてあるとおりであるというもので、あまり明確なものではなく、一方、原告の陳述書における上記記載も、伝聞によるものであり、しかも、証人Gは、この点について、「職業の秘密に関する事項」であるとして、証言を拒絶している。したがって、以上の点について、いずれが正しいかを認定することはできず、他に、この点について認めるに足りる証拠はない。
 また、原告の陳述書(甲11)には、Cから、上記第2次社内選考委員会において、被告Bが「『魔術師』は回収問題を起こすなど、いろいろなトラブルを抱えている。」、「そんな本を選考に回すことは、出版社としてのモラルを問われることになる。」との発言をした旨及び被告Bの発言の後で、Iが「そんな本なら、なぜ回したのだ。最初から外せばよかったじゃないか。」と述べ、これに対し、被告Bが「当初は、そう思ったが、どうしても回して欲しいという要望があったので、とりあえず回しただけだ。」と述べた旨を聞いたとの記載がある。しかし、被告Bは、これらの発言を認める供述をしていないこと、上記陳述書の記載は、Cが誰かから聞いたことを原告が聞いたもの(再伝聞)であること、他にこれらの発言がされた事実を認めるに足りる証拠はないことからすると、これらの発言がされた事実を認めることはできない。
4 争点(2)について
(1) 上記3(1)認定の事実に証拠(甲3、甲6の1)及び弁論の全趣旨を総合すると、誤植は、一般に出版社の責任であると認識されていたものと認められるから、被告Bの第2次社内選考委員会における上記発言のうち「誤植」に関する部分が直ちに原告の社会的評価を低下させるとは認められない。これに対して、「事実の誤り」は、著者にも責任があると考えられるから、原告の取材能力等に関する社会的な評価を低下させるおそれがあるものと認められる。
 しかしながら、被告Bの第2次社内選考委員会における上記発言は、直接原告の能力について述べたものではなく、あくまでも「魔術師」について述べたものである。しかも、原告の社会的評価とかかわりあいのない「誤植」と併せて500箇所以上と述べたものである。
(2) 証拠(甲1、2)及び弁論の全趣旨によると、「魔術師」第1刷には、別紙改訂箇所全リスト記載のとおり、単純誤植が162箇所、事実関係の誤りが24箇所存したこと、「魔術師」第1刷には、これらを含めて、原告が結果的に変更に同意した箇所が318箇所存すること、以上のとおり認められる。これに、別紙無断改竄箇所全リスト記載の203箇所中◎が付された10箇所を除く193箇所等を加えると、「魔術師」第2刷ないし第4刷において第1刷から変更された箇所は、前記2(1)認定のとおり540箇所であると認められる。そして、被告Bは、以上の事実を基に、「500箇所以上の誤植や事実の誤り」との発言をしたものと認められる。しかし、別紙無断改竄箇所全リスト記載の上記193箇所については、既に認定したとおり、被告Bの著作者人格権侵害行為によって生じたものと認められるから、これらを「魔術師」第1刷における「誤植や事実の誤り」ということはできない。そうすると、被告Bの上記発言のうち、「500箇所以上」という点は、真実ではないということになるが、上記認定の事実によると、「魔術師」第1刷には、「誤植及び事実の誤り」が存しなかったわけではなく、特に誤植については、多数の誤植が存したものと認められるから、その限りでは、上記発言を裏付ける事実は存したものということができる。
(3) 被告Bが上記発言をした場は、社内選考委員会という社内選考委員が自らの意見を自由に述べて議論する場であって、上記3(1)ウ認定のとおり、被告Bの発言を聞いていた者は、約30名の社内選考委員であったことが認められる。そして、証拠(乙6、証人D、同G、被告B本人)及び弁論の全趣旨によると、被告会社では社内選考委員会における評議の内容を外部に漏らすことは禁止されており、仮にそれを洩らした場合は被告会社の社員就業規則によって処分の対象となることが認められる。もっとも、前記3(1)エ認定のとおり、被告会社においては社内選考委員会での候補作品決定後、社内選考委員が選考過程を候補作品の著者に説明することがあったものと認められるが、証拠(証人D)及び弁論の全趣旨によると、これは、著者の今後の執筆活動の参考となるように、選考過程の一部を話すというものであると認められ、話を聞く著者も、そのような趣旨のものであることは当然認識していると考えられるから、通常は、聞いた事項を自らの内にとどめておき、公表したりはしないものと考えられる。そうすると、社内選考委員会における発言が外部の者に広く伝わる可能性があるとまで認めることはできない。
(4) 上記3(2)で述べたとおり、被告Bの上記発言は、被告らが主張するように「出荷停止、断裁の理由を知りたい。」との発言に答えて述べられたものか、原告が主張するように突然立ち上がって発言したものかは、不明である。したがって、上記発言がされた状況から、被告Bがことさら「魔術師」を大宅賞の選考対象から外すために上記発言をしたとまで認めることはできない。また、上記3(1)イ認定のとおり、被告Bは、もともと「魔術師」を大宅賞の選考対象とすることに消極的であったことが認められるが、そのことから直ちに被告Bがことさら「魔術師」を大宅賞の選考対象から外すために上記発言をしたとまで認めることはできない。そして、他に、被告Bがことさら「魔術師」を大宅賞の選考対象から外すために上記発言をしたことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上述べたところを総合すると、被告Bの第2次社内選考委員会における上記発言は、原告の社会的な評価を低下させるおそれがあるものではあるが、違法に原告の名誉を毀損したとまで認めることはできない。
5 争点(3)について
(1) 慰謝料について
 既に認定したとおり、被告会社第二出版局第二出版部長であった被告Bは、別紙無断改竄箇所全リスト記載の203箇所中◎が付された10箇所を除く193箇所について、原告が「魔術師」について有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものであって、その多くは、故意によってされたものと認められる。しかし、被告Bが、悪意、すなわち、原告を困らせたり、損害を加える意図まで有していたというべき事情は認められない。また、証拠(甲1、2)及び弁論の全趣旨によると、上記193箇所には、実質的な内容が変わったり、明らかに事実が誤りとなったものが、30箇所(別紙無断改竄箇所全リスト中、3、12、24、36、42、43、45、46、54、58、59、62、66、73ないし75、86、97、103、111ないし113、116、143、146、147、150、165、167、199)、他の著書からの引用について正しく引用されなくなったものが、6箇所(別紙無断改竄箇所全リスト中、35、131、163、164、168、194)存するが、他の部分は、主に表現や表記の方法が変更されたものであると認められる。そして、上記36箇所(上記の30箇所と6箇所)についても、著書の客観的な価値を毀損するほどの重大な変更とは認められない。さらに、前記2(1)及び3(1)で認定した事実並びに上記4(2)で認定した事実によると、上記著作者人格権侵害行為は、被告Bをして、「『魔術師』には500箇所以上の誤植や事実の誤りがあった」との誤った認識を生じさせ、被告Bが社内選考委員会においてその旨の発言をしたために、それがきっかけとなって、「魔術師」の取扱いは、被告会社の出版局に委ねられることとなり、最終的には、「魔術師」は選考の対象とされなくなったものと認められる。
 以上の事実に加えて、本件に現れた一切の事情を考慮して、本件において著作者人格権が侵害されたことにより原告が被った損害を金銭に評価すると、150万円が相当である。
(2) 弁護士費用について
 原告が、本件訴訟の提起、遂行のために原告訴訟代理人を選任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の事案の性質、内容、審理の経過等の諸事情を考慮すると、被告らの著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、50万円が相当である。
(3) 謝罪広告等について
 原告は、被告らに対して、著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由として、著作権法115条に基づいて、謝罪広告の掲載及び「魔術師」第2刷ないし第4刷の読者からの回収と廃棄を求めているが、著作権法115条に基づく請求が認められるためには、著作者人格権の侵害によって、著者の社会的な名誉声望が毀損されることが必要であると解される。上記認定のとおり、被告Bの著作者人格権侵害行為においては、実質的な内容が変わったり、明らかに事実が誤りとなったものが、30箇所、他の著書からの引用について正しく引用されなくなったものが、6箇所存するが、他の部分は、主に表現や表記の方法が変更されたものであり、上記36箇所についても、著書の客観的な価値を毀損するほどの重大な変更とは認められないから、被告Bの著作者人格権侵害行為によって、原告の社会的な名誉声望が毀損されたとしても、その程度は大きいものとはいえないこと、前記争いのない事実のとおり、被告会社は、平成12年4月26日までに「魔術師」の社内在庫については出庫停止とし、取次店に同書の回収を依頼することを決定し、「魔術師」回収の事実は、「トーハン週報」(5月3週号)等に掲載されたものであり、弁論の全趣旨によると、上記出庫停止及び回収は、既に実施されたものと認められること、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告らに対する損害賠償請求を認めたうえ、更に被告らに謝罪広告を掲載させて、読者から回収させることまで必要であるとは解されない。
第4 以上により、原告の各請求は、主文の限度で理由がある。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸


(別紙)
目録1
1 A著、株式会社文藝春秋発行の「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」の 第2刷、第3刷、第4刷

(別紙)
目録2
1 体裁
  スペース
  縦2段抜き、左右15センチメートル
  使用文字
  「謝罪広告」との見出し 20級ゴシック
  本文及び日付 16級明朝体
  原告名及び被告株式会社文藝春秋名 18級明朝体
2 広告文(ただし、日付は広告掲載の日とする。)

謝罪広告
 弊社第二出版局第二出版部長(当時)のBが、著者・A氏の明確な意向に反した改竄や無断改竄をA氏著「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」において90箇所も行い、その結果、事実関係の誤りを6箇所、違う意味に変わったり、文意が通じなくなったりしてしまった箇所を46箇所も新たに作り出してしまいました。にも関わらず、そうした事実を弊社において看過し、「魔術師」を2刷、3刷、4刷と市場に配布してしまい、A氏ならびに「魔術師」を購入いただいた一般読者の方々に大変ご迷惑をお掛けする事になり、深くお詫びする次第です。
 しかも、Bの「『魔術師』には500箇所もの誤植ならびに事実関係に誤りがある」という「大宅賞社内選考委員会」席上での虚偽の説明を見抜けず、「魔術師」を大宅賞の選考対象から外してしまったことが判明しました。
 ここに著者であるA氏に対して深く謝罪致します。
平成 年 月 日
株式会社文藝春秋
 A 様


(別紙)
目録3
1 体裁
  スペース
  縦2段抜き、左右21センチメートル
  使用文字
  「謝罪広告」との見出し 20級ゴシック
  本文及び日付 16級明朝体
  原告名及び被告B名 18級明朝体
2 広告文(但し、日付は広告掲載の日とする)

謝罪広告
 私・Bは、A氏著「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」1刷の単純誤植を訂正するさい、90箇所に及ぶ無断改竄を行い、そのうち9箇所は著者A氏の明確な指示を無視したものであり、さらにその改竄行為によって、1刷が正しいにもかかわらず、2刷以降、新たに事実関係の誤りを6箇所、違う意味に変わったり、文意が通じなくなってしまった箇所46箇所も作り出してしまいました。1刷をよくするどころか、逆に2刷以降では「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」の作品性を傷つけ、貶めてしまいました。
 そうした著者に対する背信行為を行いながら、大宅賞の第二次選考の席で、事情を全く知らない社内の選考委員に対して「『魔術師』は回収問題を起こすなど、いろいろトラブルを抱えた作品だ。しかも500箇所もの誤植および事実関係の誤りがあった」という全く虚偽の説明をするとともに、「このような本を大宅賞の選考に回すのを許すなら、文春の出版社としてのモラルが問われる」と主張して、最終的に「魔術師」を選考の対象から外す事になりました。
 上記改竄行為、大宅賞の選考委員に対する虚偽の事実の陳述、その結果、「魔術師」が選考対象自体からはずされたことにより、著者A様の名誉を深く傷つけたことに対しまして、ここに心から深く謝罪いたします。
平成 年 月 日
        B
 A 様


(別紙)
目録4
1 体裁
  スペース
  縦2段抜き、左右8センチメートル
  使用文字
  「お知らせ」との見出し 20級ゴシック
  本文及び日付 16級明朝体
  「読者各位」及び被告株式会社文藝春秋名 18級明朝体
2 広告文(但し、日付は広告掲載の日とする。)

お知らせ
 弊社発行のA著「魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ」の第2刷、第3刷、第4刷に、著者であるA氏の全く知らない改竄箇所及びA氏の指示に反した改竄箇所が多数あることが判りました。
 上記著書をお持ちの読者の方は、弊社宛お送り下さい。代金と送料を返却いたします。
 著者及び読者の方々にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。
平成  年  月  日 
    株式会社文藝春秋
 読者各位
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/