判例全文 | ||
【事件名】「桶川ストーカー殺人事件」の中傷ビラ事件 【年月日】平成13年10月26日 さいたま地裁 平成12年(ワ)第2324号 損害賠償請求事件 判決 主文 1 被告らは、連帯して、原告Aに対し、325万円及び内金300万円に対する別紙「訴状送達日の翌日一覧表」記載の各日から支払済みまで、原告Bに対し、165万円及び内金150万円に対する別紙「訴状送達日の翌日一覧表」記載の各日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、連帯して、原告Aに対し、375万円及び内金350万円に対する別紙「訴状送達日の翌日一覧表」記載の各日から支払済みまで、原告Bに対し、175万円及び内金150万円に対する別紙「訴状送達日の翌日一覧表」記載の各日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、被告らが共同してH及び原告Aの名誉を毀損する内容の文書を頒布した等として、原告らが、被告らに対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。 1 原告らの主張 (1) 当事者等 ア 原告Aは、H(昭和53年5月18日生、平成11年10月26日没、当時21歳)の父、原告BはHの母である。 Hは、平成11年1月6日ころから、Iと交際していた。 イ Jは、Iの兄であり、Iと共同して、「S」、「T」、「U」、「V」、「W」等の各風俗店及びXを経営していた。 被告Cは、平成7年ころからJと、平成8年ころからIと交際していた。 被告Dは、平成11年当時、上記風俗店「V」の店長であった。 被告Eは、平成11年当時、上記風俗店「W」の店長であった。 被告Fは、平成11年当時、上記風俗店「V」の従業員であった。 被告Gは、平成11年当時、上記風俗店「W」の従業員であった。 (2) 被告らの不法行為 ア Iは、HがIとの関係を絶とうとしたことに憤慨し、J及びKと共謀の上、平成11年7月初めころ、「WANTED、H」「この顔にピン!ときたら要注意、男を食い物にしているふざけた女です。不倫、援助交際あたりまえ! 泣いた男たちの悲痛な叫びです」と記載され、Hの顔写真等が印刷されているビラ(以下「本件ビラ」という。)並びに「大人の男性募集中」等の文言と、原告A方の電話番号及びHの顔写真が印刷されたカード(以下「本件カード」という。)を作成した。 イ 被告ら、J、L、M、K及びNは、平成11年7月13日午前0時過ぎころ、風俗店「T」において、本件ビラを頒布することを共謀した上、O、P、Q及びRとともに、同日午前1時30分ころ、Hの通学する大学に近いa鉄道会社b駅構内及びコンコース付近に本件ビラ数百枚を貼付し、同駅付近のマンション1階集合郵便物受けに本件ビラを投函し、同日午前2時20分ころ、Hの通学する大学正門付近において、看板等に本件ビラ数百枚を貼付し、同日午前3時ころ、原告ら方付近において、立看板に本件ビラ数百枚を貼付し、付近の民家の郵便受けに本件ビラを投函し、原告Aの勤務先敷地内に本件ビラを投げ込んだ(以下「本件第1行為」という。)。 ウ Jは、Kに対し、平成11年7月20日ころ、本件カードの頒布を依頼し、Kは、被告D、被告E、L、M及びNと共同して、c団地の集合郵便受けに本件カードを多数投函した(以下「本件第2行為」という。)。 エ J、K及びZは、共謀の上、平成11年8月4日ころ、「Hは、一見清純そうだが、その外見からは想像ができないほどの毒婦ぶりなのである。その容姿と甘い言葉、思わせぶりの態度で次々と男性に近づき、交際をエサに宝飾品や高価なプレゼントをねだり、男性からの貢ぎ物を手に入れ、男性が金銭的にパンクすると交際を白紙に戻す。最近ではこれらの男性から巻き上げた大量の金品ではあき足らずに、女子大生というブランドを生かして、援助交際さえ行っている。」「Hの父親は、普段は品行方正、堅物と思われているが、大のギャンブル好き。Hは自分の学費やおこずかいだけでなく、親の遊興費まで稼いでいた。金のために売春さえかまわない厭わないようなモラルのない娘に育てたA氏の教育問題しつけの欠如でもあり、親として、人としての資質の欠落を指摘されてしかるべきであろう」等の内容の文書(以下「本件文書」という。)を作成し、被告F、K及びLは、同月11日ころから、本件文書の投函を準備し、被告E、K、M及びLは、同月22日深夜、Jの指示に基づき、東京都杉並区d、同渋谷区e及び同新宿区f付近の郵便ポストから本件文書を投函して、原告Aの勤務会社に397通、同会社の親会社に391通を郵送した。(以下「本件第3行為」という。) オ I、J、K及び被告Dは、共謀して、平成11年10月16日ころまでの間、Hの日常生活を調査した。(以下「本件第4行為」という。) (3) 損害 ア Hの慰謝料 300万円 原告らは、Hの慰謝料請求権を各2分の1の割合で相続した。 イ 原告Aの慰謝料 200万円 ウ 弁護士費用 原告ら各25万円 エ 合計 (ア) 原告Aについて 375万円 (イ) 原告Bについて 175万円 2 被告らの認否・主張 (1) 被告D 被告Dが、平成11年当時、風俗店「V」の店長であったこと、本件第1行為及び本件第2行為に荷担したことは認めるが、本件第1行為のうち原告Aの勤務先敷地内に本件ビラを投げ込んだことは無関係である。 その余の事実は不知。 (2) 被告E 被告Eが、平成11年当時、風俗店「W」の店長であったこと、本件第1行為ないし本件第3行為に荷担したことは認めるが、本件文書の内容は見ていなかったし、Kからの絶対的な命令によるものであって、逆らえば何をされるか分からない恐怖心から行った。 その余の事実は不知。 (3) 被告F 本件第1行為ないし本件第3行為に荷担したことは否認する。被告Fは、Kの命令に基づき、封書詰め及び切手貼付を行っただけである。 (4) 被告G 被告Gが、平成11年当時、風俗店「W」の従業員であったこと、本件第1行為のうち、a鉄道会社b駅付近のマンション1階集合郵便物受けに本件ビラを投函したこと及び原告ら方付近の民家の郵便受けに本件ビラを投函したことは認める。 その余の事実は否認する。 第3 当裁判所の判断 1 被告らの不法行為について (1) 当事者間に争いのない事実等 ア 被告Cは、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、原告らの主張について争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。 イ 原告らの主張(1)アについて、被告D、被告E、被告F及び被告Gは、争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。 被告Dが本件第1行為及び本件第2行為に荷担したこと、被告Eが本件第1行為ないし本件第3行為に荷担したこと、並びに、被告Gが、本件第1行為のうち、a鉄道会社b駅付近のマンション1階集合郵便物受けに本件ビラを投函したこと及び原告ら方付近の民家の郵便受けに本件ビラを投函したことは当事者間に争いがない。 (2) 上記当事者間に争いのない事実等、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア Jは、Iの兄であり、Iと共同して、「S」、「T」、「U」、「V」、「W」等の各風俗店及びXを経営していた。 平成11年当時、被告Dは、上記風俗店「V」の店長、被告Eは、上記風俗店「W」の店長、被告Fは、上記風俗店「V」の従業員、被告Gは、上記風俗店「W」の従業員であった。 イ Iは、HがIとの関係を絶とうとしたことに憤慨し、J及びKと共謀の上、平成11年7月初めころから同年8月ころにかけて、H及び原告Aの社会的評価をおとしめ、Hに就学中の大学を退学させたり、原告Aに就業中の会社を退社させることを計画した。(以下「本件計画」という。) ウ 本件第1行為について 被告D、被告E、被告G、被告Cは、J、L、M、K及びNと共謀の上、O、P、Q及びRと分担して、平成11年7月13日午前1時45分ころ、Hの通学するYに近いa鉄道会社b駅構内及びコンコース付近に本件ビラ179枚を貼付し、同駅付近のマンション1階集合郵便物受けに本件ビラを投函し、同日午前2時20分ころ、Y正門付近において、看板等に本件ビラ約100枚を貼付し、同日午前3時ころ、原告ら方付近において、立看板に本件ビラ119枚を貼付し、付近の民家の郵便受けに本件ビラを投函し、原告Aの勤務先敷地内に本件ビラを投げ込んだ。 エ 本件第2行為について 被告D、被告Eは、K、L、M及びNと共同して、平成11年7月20日ころ、c団地の集合郵便受けに本件カードを多数投函した。 オ 本件第3行為について 被告Fは、K及びLと共同して、平成11年8月11日ころから、本件文書の投函を準備し、被告Eは、K、M及びLと共同して、同月22日深夜、東京都杉並区d、同渋谷区e及び同新宿区f付近の郵便ポストから本件文書を投函して、原告Aの勤務会社に397通、同会社の親会社に391通を郵送した。 カ 被告Dが本件第4行為に荷担したことを認めるに足りる証拠はない。 (3) 以上の事実によれば、被告Cは、本件第1行為に、被告Dは、被告Fの上司としての立場で、本件第1行為及び本件第2行為に、被告Eは、被告Gの上司としての立場で、本件第1行為、本件第2行為及び本件第3行為に、被告Fは、本件第3行為のうち本件文書の投函準備行為に、被告Gは、本件第1行為に荷担したものと認められるが、本件第1行為ないし本件第3行為は、いずれも本件計画に基づき、共通の目的のために行われたものであって、一連の行為全体が1個の共同不法行為であるというべきである。 (4) 以上の認定に対し、被告Eは、Kによる脅迫に基づいて行ったものである旨主張するところ、これを認めるに足りる証拠はなく、同主張は採用できない。 2 損害について (1) 慰謝料 前記認定の各事実からすると、Hの被った精神的損害に対する慰謝料としては、300万円、原告Aの被った精神的損害に対する慰謝料としては、150万円が相当であり、Hの慰謝料請求権について原告らが各2分の1の割合で相続したことが認められる。 (2) 合計 ア 原告A 300万円 イ 原告B 150万円 (3) 弁護士費用 請求額、認容額及び事件の難易度に照らし、弁護士費用としては、原告らそれぞれについて次のとおりとするのが相当である。 ア 原告A 25万円 イ 原告B 15万円 (4) 合計 ア 原告A 325万円 イ 原告B 165万円 3 結論 よって、本訴請求は以上の限度で理由があるから、原告Aについて325万円、原告Bについて165万円の限度でそれぞれ認容する。 さいたま地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 木本洋子 裁判官 樋口正樹 別紙(略) |
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