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【事件名】ドメイン名の使用差し止め事件(ジェイフォン東日本)(2)
【年月日】平成13年10月25日
 東京高裁 平成13年(ネ)第2931号 不正競争行為差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁 平成12年(ワ)第3545号)
 (平成13年9月11日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 株式会社大行通商
被控訴人 ジェイフォン東日本株式会社
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 宮川美津子
同 加畑直之
同 高橋聖


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が、日本におけるドメイン名の割当てを統括している社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)から「j-phone.co.jp」のドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割当てを受け、「http://www.j-phone.co.jp」をインターネット上のアドレスとして、インターネット上のウェブサイトを開設し、「J-PHONE」等の表示を用いて商品の宣伝等をしたのに対し、移動体通信事業(携帯電話による通信サービス)を主たる目的とし、「J-PHONE」等の表示を用いて営業活動を行っている株式会社である被控訴人が、控訴人のインターネット上での上記行為は不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当するとして、控訴人に対し、本件ドメイン名及び別紙表示目録1ないし5の各表示について、その使用中止及びウェブサイトからの抹消並びに損害賠償を請求し、原判決が中止及び抹消の各請求を認容し、損害賠償の請求を一部認容したため、控訴人がこれを不服として控訴を提起した事案である。
 当事者間に争いのない事実等、本件の前提となる事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」の1、2記載のとおりであるから、これを引用する。なお、当裁判所も、「本件表示」、「本件サービス名称」の用語を、原判決の用法に準じて用いる。)。
1 当審における控訴人の主張の要点
(1) 被控訴人が本件サービス名称の使用を開始した時期は、被控訴人の本件ドメイン名の取得より後である。
 控訴人が、JPNICから、本件ドメイン名の割当てを受けたのは、平成9年8月29日であり、被控訴人が、ジェイフォン東海株式会社及びジェイフォン関西株式会社とともに、本件サービス名称の使用を開始したのは、同年10月1日である。したがって、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けたのは、被控訴人が本件サービス名称の使用を開始するよりも約1か月も前のことということになる。被控訴人は、控訴人が本件ドメイン名を割り当てられていることを容易に知ることができたにもかかわらず、無知、無調査のままに、本件サービス名称の使用を開始したものである。
 被控訴人は、控訴人が本件ドメイン名を取得したことを知りながら、控訴人の取得した本件ドメイン名を奪うことを目的として、誤認、混同のおそれを承知しつつ、意図的に本件サービス名称の使用を開始し、継続したとの見方も成り立ち得る。
 万が一にでも、上記のような被控訴人の行為が法的に正当化され、容認されるようなことがあれば、資本力と規模の大きい法人が小規模法人が先に取得したものを自由に剥奪することができる、との論理が横行することになり、商慣習の崩壊、法治国家の崩壊にも等しい事態を招来する。
 被控訴人は、上記のとおり、無知、無調査のままに、本件サービス名称の使用を決定し、広告宣伝費などのコストを投下してしまうという失態を犯したことについて、控訴人に対する訴えの提起という方法をとることによって、責任転嫁をしようとしているものである。
(2) 原判決が、その主文第2項で、控訴人に対し、ウェブサイト上から本件表示の抹消を命じたのは、控訴人の表現の自由を侵害するものであるから、許されない。
2 当審における被控訴人の主張の要点
(1) 控訴人の主張は、控訴人が平成9年8月29日に本件ドメイン名の割当てを受けたこと、並びにジェイフォン東海株式会社及びジェイフォン関西株式会社が本件サービス名称の使用を開始したのが同年10月1日であることのみを認め、その余はすべて争う。
(2) 被控訴人が本件サービス名称の使用を開始したのは、平成9年2月7日であり、本件サービス名称は、その後の被控訴人による集中的な広告宣伝活動によって、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けたときには、全国規模で著名となっていたものである。控訴人の主張は、事実に反し、前提において誤っている。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、原判決と同じく、被控訴人の請求は、原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人は、被控訴人が本件サービス名称の使用を開始したのは、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けた後のことである旨主張する。
 しかしながら、被控訴人が本件サービス名称の使用を開始したのは平成9年2月7日であり、同名称は、全国的な広告宣伝活動の結果、遅くとも、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点では既に被控訴人及びその関連会社の営業を示す表示として全国規模で広く認識されるに到っていたことは、上に引用した原判決が正当に認定するところである。控訴人の上記主張は、その前提において既に誤っており、採用することができない。
2 控訴人は、原判決が、主文第2項において、控訴人に対し、ウェブサイト上からの本件表示の抹消を命じたのは、控訴人の表現の自由を侵害するものであって許されない旨主張する。
 しかしながら、不正競争行為を現にしているもの、あるいは、不正競争行為をするおそれがある者に対し、当該不正競争行為を禁止することが許されるのは当然であり、仮に、そのことによって表現の自由が制約を受けることになったとしても、そのことは何ら憲法に違反するものではないというべきである。
 控訴人の主張は、採用することができない。
第4 結論
 よって、被控訴人の請求を一部認容した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 設樂隆一
 裁判官 阿部正幸
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