判例全文 | ||
【事件名】コンピュータ・プログラム侵害事件 【年月日】平成13年10月11日 大阪地裁 平成9年(ワ)第12402号 約定金請求事件 (口頭弁論終結日 平成13年7月18日) 判決 原告 株式会社高電社 訴訟代理人弁護士 片山善夫 同 岡村久道 被告 株式会社ジェイ・ティー・エス・タケムラ 訴訟代理人弁護士 坂田均 同 草地邦晴 主文 1 被告は、原告に対し、金1550万1500円及びこれに対する平成9年12月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、金3500万円及びこれに対する平成9年12月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 前提事実(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 原告は、コンピュータ機器の販売、コンピュータソフトウエアの開発、販売等を目的とする株式会社であり、被告は、織物用電子機器等の製造販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告は、平成3年4月1日、被告との間で、次の条項を含む継続的商品(ソフトウエア)取引契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲1)。 @ 甲(被告)は乙(原告)の開発する製品を販売し、乙はこれを継続的に甲に販売する(第1条)。 A 対象とする本契約における製品は、織布情報作成プログラムとする。 (専用電子計算機により編機を作動させるための織布データを作成するソフトウエアに限り、これに用いる専用の入出力装置、光学式柄読み取り装置、グラフィック処理装置、または補助記憶装置は含まない。)(第2条) B 乙は甲に製品のソースプログラムを開示する。甲は開示されたソースプログラムを元に変更を加えた製品を顧客に販売することができる。 ただし甲は開示されたソースプログラムを他社に対して開示してはならない(第3条)。 C 甲は乙に対し、ソースプログラムの開示および販売権付与の対価として、次の契約料金を支払う(第4条)。 (1) 契約基本料金 2400万円及び消費税 (2) 1セットあたり 70万円及び消費税 ただし、甲が変更を加えた製品に対しても支払う。 (3) 原告と被告は、平成3年4月19日、本件契約について、次の内容を含む覚書を取り交わした(乙1、以下「本件覚書」という。)。 甲(被告)が乙(原告)の開発した対象となる製品を顧客に販売する場合、1セットあたり70万円および消費税を乙に支払う。 ただし、同一の顧客に対し2セット目以降を追加で納入する場合は、35万円および消費税とする。 これは甲が変更を加えた製品に対しても適用され、注文書に納入先を明記するものとする。 (4) 原告は、被告に対し、本件契約に基づき、織布情報プログラム「TLS−SYSTEM」(以下「本件プログラム」という。)のソースコードを開示した。 本件プログラムは、原告の発意に基づき原告の従業員であったAらが職務として創作し、原告の著作の名義の下に公表されたものであり、プログラムの著作物に当たる。 (5) 被告は、本件プログラムを装着したレース編機用デザインシステム「TLS−SYSTEM」を顧客に販売し、被告は本件契約及び本件覚書に基づき20セット分合計955万円を原告に支払った。 (6) 被告は、平成4年4月30日、ソフトプロ株式会社(以下「ソフトプロ」という。)との間で、ソフトプロがラッセルレース編機用デザイン・データ出力及び編集用プログラムを開発し、このソフトウエアの複製物を被告がソフトプロから購入して商品として販売する旨の契約を締結した(乙10、11)。 ソフトプロは、同契約に基づきコンピュータソフトウエア「LECS」(以下「LECS」という。)を作成した。 (7) 被告は、平成5年3月30日から平成7年2月16日までの間に、別紙のとおり、LECSを装着したレース編機用デザインシステムを販売した。その販売台数は次のとおりである。 同一販売先への1台目の販売 18セット 同一販売先への2台目以降の販売 7セット 2 原告は、被告に対し、@LECSは、本件契約第3条にいう「開示されたソースプログラムを元に変更を加えた製品」に当たり、被告が本件プログラム又はLECSを装着した製品を販売した本数は50本を下らないとして、主位的に本件契約第4条に基づく料金3500万円の支払を求め、A仮に、被告のLECSの販売が本件契約に基づくものでないとしても、被告の行為は、本件プログラムについての原告の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害するものであるとして、予備的に著作権侵害による損害賠償として3500万円を請求した。 3 争点 〔主位的請求〕 (1) LECSは、本件プログラムを元に変更を加えた製品(本件契約第3条)として、本件契約第4条の適用を受けるか。 (2) 本件契約は終了したか。 (3) 被告が本件契約に基づき支払うべき料金の額 〔予備的請求〕 (4) 被告は、本件プログラムの著作権を譲渡されたか。 (5) LECSは本件プログラムを複製又は翻案したものといえるか。 (6) (5)が認められる場合、被告に故意又は過失があるか。 (7) 原告の損害額。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(LECSは、本件プログラムを元に変更を加えた製品(本件契約第3条)として、本件契約第4条の適用を受けるか)及び争点(5)(LECSは本件プログラムを複製又は翻案したものか)について 【原告の主張】 (1) LECSは本件プログラムのいわばバージョンアップ品であり、著作権上の翻案によって作成された物に当たり、本件契約3条にいう「開示されたソースプログラムを元に変更を加えた製品」に該当するから、被告は、原告に対し、LECSの販売台数に応じて本件契約第4条所定の料金を支払う義務がある。 ア LECSは、本件プログラムに依拠して作成された。 Aは、平成3年2月ころ原告を退職した後、ソフトプロに就職した。ソフトプロは、被告から本件プログラムのソースコードの提供を受けてLECSを作成し、その際、Aが本件プログラムのソースコードに変更を加えた。 イ 本件プログラムに含まれるソースファイル名「Ls_etc.c」と、LECSに含まれる各ファイルとのソースファイル同士を比較したところ、強い類似性が認められる。 「TLS:Ls_etc.c」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)1148行のうち950行がLECSのソースプログラムと一致しており(一致率83%)、ほぼ一致するものを含めると1038行が一致する(一致率90%)。コメント行を含めて比較すると、1428行のうち1195行が一致しており(一致率84%)、さらにほぼ一致するものを含めると1292行が一致する(一致率90%)。 また、本件プログラムに含まれるソースファイル名「TLS:Ls_errck.c」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)106行のうち、99行がLECSのソースプログラム中のソースファイル名「Le_errck.c」と一致しており(一致率93%)、ほぼ一致するものを含めると、100行が一致する(一致率94%)。 ウ LECSには、LECSのシステムでは不要なプログラムが含まれており、このことは、LECSが本件プログラムのソースファイルを流用して作成されたことを推測させる。 前記「LECS:Le_errck.c」は、LECSのシステムでは全く不要なプログラムであり、本件プログラムから複製されたことを推測させる。また、LECSのソースファイルに存在する「lseek_move」という関数は、LECSのシステムでは不要である。 (2) 被告の主張に対する反論 ア 被告は、プログラムについて著作権侵害が認められるためには、実質的類似性だけでなく、プログラムの構造、順序及び構成に関し比較が必要であるかのごとき主張を行い、これを前提に、LECSは本件プログラムと比較して新規機能が膨大であるから、本件プログラムの複製物又は翻案物とはいえないと主張する。 しかし、被告提出の鑑定書(乙16の1)に基づき算定した場合ですら、本件プログラムのコードの62%以上がLECSに流用されており(本件プログラムの総計7万4000行のうち約4万6000行がLECSに流用されている。)、両者には「ほぼ同じ内容のファイルが散見され」「(少なくとも類似したファイルについては)共通のソースから分岐したと考えてよい」との意見が付されている。本件は、構造、順序及び構成を比較するまでもなく、十分に実質的類似性が認められる。 本件で問題となるのは、本件プログラムのコードが原告に無断でLECSに流用(複製)されている点である。無断複製したり、無断で他人の著作物に手を入れて翻案物を作る行為自体が著作権侵害である以上、新規事項が付け加えられていたとしても、それが無断複製、無断翻案という違法行為を正当化する理由とはなり得ない。 イ 被告は、あるアイデア若しくは機能を達成するためには必然的に付随的なもので表現とアイデアが一致する部分、外部的条件部分、公有に属する部分を著作権保護の対象から除外した上で、保護すべき表現のみを比較対照しなければならないと主張するが、本件プログラムのどの具体的なコードが、LECSの具体的なコードと、どのように必然的に一致するのか明らかにしていない。 【被告の主張】 (1) LECSは、被告がソフトプロに開発を依頼して新たに創作されたプログラムであり、本件プログラムとは、構成、組織、処理の流れ等、実質的内容において同一性を有さず、本件契約第3条にいう「開示されたソースプログラムを元に変更を加えた製品」に当たらず、著作権法上の翻案物にも当たらない。 ア 被告は、本件プログラムをソフトプロに提供したことはなく、そのバージョンアップを依頼したこともない。 イ LECSは、関数約12万8000行のうち約5万9000行の関数を含むファイルが本件プログラムのファイルと類似するが(約46%)、これにより直ちにLECSが本件プログラムの複製物若しくは翻案物であるとは判断できない。 表現の多様性に制限のあるソフトウエアの実質的類似性は、関数の比較のみによって明らかになるものではなく、まず、本件プログラムの構造、手順、構成を明らかにし、それからあるアイデア若しくは機能を達成するためには必然的に付随するもので表現とアイデアが一致している部分、ソフトウエアに係る外部的要素により決定される部分、及び公有に属する部分(パブリックドメイン)を排除した上で、表現として保護されるソフトウエアの中核部分を明らかにしなければならない。原告は、関数若しくは各関数の各行を比較しその数量的な一致率を主張するだけで、ソフトウエア全体の構造、手順、構成の比較をすることなく、また本来著作権法で保護すべきでない表現部分を排除することなく、同一性を主張するもので相当でない。 LECSは、原画入力機能、原画編集機能、ラッセル(チェーン)レース柄糸入力機能、紋図入力機能、印刷機能、データ入出力機能、ユーザー管理機能、基礎・設計情報入力機能の各機能を有している。そして、LECSは、@取込画像で原画修正が可能なことを最も重要な特徴とするが、その他にも、Aディスプレー上での高解像度表示ができること、BSU落下板とジャガードが合わさったデータの処理が可能なこと、C読み込んだデータを紋図情報として保存することができること、D基礎情報に基づいて読み込んだ原画が何枚の筬(おさ)で分解可能かを計算できること、E自動筬配列機能があること、Fチュールでスムーズ表示が実現すること、Gコース・ウエールの拡縮が可能であること、Hグランド糸を全体に表示できること、ISUやデータを直接書き込むことができること等、本件プログラムにはない多くの新機能が内包された別個のソフトウエアであり、その目的とする機能は本件プログラムの単なる改良版の程度を超えるものである。 また、本件プログラム及びLECSは、いずれもドイツ・カールマイヤー社製レース編機の画像データ出力のためのレースデザインシステムに関するソフトウエアであるから、同一のレース編機をコントロールするため、すなわち両ソフトウエアの稼動環境が同一であることからくる外部的条件(特に出力部分)により、ソフトウエアの内容が規定される部分が存在する。これらの部分は著作権の保護範囲から当然排除されるべきである。 さらに、スキャナーによる原画読み込みに関しても、ドライバー周辺のソフトウエアのロジックは類似の表現になるのが一般的であり、この部分も保護される表現からは排除されなければならない。 (2) 本件契約第4条は、被告が本件プログラムに改良を加えた場合に、その改良品に対してロイヤリティを支払う旨を合意したものであって、被告が変更を加えたものではなく、類似について被告に故意及び過失のない商品についてまで被告に責任を負わせる趣旨ではない。LECSについて、本件契約第4条の適用はない。 2 争点(2)(本件契約は終了したか)について 【被告の主張】 本件プログラムは、平成4年下半期ころから、新たなライバル会社の出現や、システムの古さが原因となって売れ行きが急速に低下し、平成4年11月28日の中川レース株式会社との取引を最後に販売ができなくなった。 被告は、本件契約に基づく契約関係を平成5年5月18日をもって終了する旨通知した。 【原告の主張】 原告は、本件契約の終了通知(乙7)を受け取ったことはない。また、同通知の内容自体、本件契約第8条の定める解除事由のいずれにも該当しないから、本件契約が終了した事実はない。 3 争点(3)(被告が本件契約に基づき支払うべき料金額)について 【原告の主張】 (1) 被告は、本件契約締結後、本件プログラム及びLECSを装着した織物機を50台以上製造、販売しているから、本件契約第4条により、被告は3500万円の支払義務がある。 (2) 被告の開示した資料を前提にしても、被告提出の帳簿(乙17)には、前記第2、1、(6)以外に、平成5年6月18日欄に「LECS−1000特別版」数量「1」の記載が存在するから、これも販売数に加えるべきである。 よって、被告によるLECSの販売数は、同一販売先への1台目の販売が小計19セット、同一販売先への2台目以上の販売が小計7セットとなり、LECSに関し被告が原告に支払うべき金額の元本は、次のとおりとなる。 @ 小計19セット×金70万円=金1330万円 A 小計7セット×金35万円=金245万円 B 上記合計 金1575万円 C 上記消費税(3%) 金47万2500円 D 総合計(消費税込) 金1622万2500円 【被告の主張】 原告の主張は争う。 「LECS−1000特別版」は、LECSの開発に関する発注、支払の一つを表す記載であり、被告が顧客に販売するためにソフトプロへ発注したものではないから、これをLECSの販売数量に含めるべきではない。 なお、本件プログラムを装着した製品を販売した分については、全額支払済みである。 4 争点(4)(被告は、本件プログラムの著作権を譲渡されたか)について 【被告の主張】 本件プログラムの著作権は、本件契約所定の基本料金2400万円の支払とともに、被告に譲渡された。 【原告の主張】 否認する。 5 争点(6)((5)が認められる場合、被告には翻案につき故意又は過失があるか)について 【原告の主張】 Aは、原告に対し、被告から本件プログラムのソースコードを受け取ってLECSを開発したことを認めるとともに、被告から、本件プログラムの著作権を買い取ったとの説明を受けたと述べた。これによれば、被告に本件改変について故意又は過失があったことは明らかである。 【被告の主張】 仮に、LECSが本件プログラムの複製物又は翻案物であるとしても、被告には過失がない。 被告は、顧客からの新たな需要を充たし、最新カールマイヤー社製の機種に対応するため、新しい画像データ出力のためのレースデザインシステムに関するソフトウエアの開発をソフトプロに委託した。被告は、ソフトプロが新たにLECSを開発したと信じていたので、LECSが本件プログラムと類似するかどうかは知らなかった。被告は、ソフトプロに本件プログラムのソースコードを開示したことはなく、上新電機が有していたLECSのソースコードの内容を調査する機会もなかった。 6 争点(7)(原告の損害額)について 【原告の主張】 本件プログラムの著作権を侵害されたことにより原告が「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条2項)は、争点(3)における【原告の主張】と同じである。 【被告の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(LECSは、本件プログラムを元に変更を加えた製品(本件契約第3条)といえるか)及び(5)(LECSは、本件プログラムを複製又は翻案したものといえるか)について (1) 証拠(甲9、10の1・2、乙10)によれば、Aは、平成10年9月1日、同月22日及び平成11年3月4日、原告のソフトウエア事業部長B及び常務取締役Cに対し、ソフトプロがAの在職中に被告から新しいレースデザイン用ソフトウエアの開発を請け負い、被告から提供された本件プログラムのソースコードを参考にしてAを含む数名でLECSを作成したと認めたこと、Aは、「参考にした」とは、ソースコードからバイナリーコードへコンパイルする際のC言語用ソフトウエアをラティスCからマイクロソフトCに変更したのに伴いソースコードに手を加えたこと、及び編集できるデザインサイズを大きくしたことを意味すると述べたことが認められる。 これによれば、ソフトプロは、被告の委託を受けてLECSを作成するに当たり本件プログラムに依拠したものと推認され、被告取締役営業部長D作成の事業内容説明(乙13)のうち、上記認定事実に反する部分は採用することができない。 (2) プログラムの類似性について ア 原告の比較評価 証拠(甲15〜20)によれば、原告取締役であるCが平成12年8月から10月にかけて、本件プログラムのソースコードとLECSのソースコード(平成12年4月28日付け文書提出命令により上新電機株式会社〔ソフトプロから営業譲渡を受けLECSのソースコードを所持〕より提出されたもの)を比較した結果は、次のとおりである。 (ア) イメージスキャナデータ入力関数のソースファイル「TLS:Wp_232c.asm」(本件プログラム)と「LECS:Fs_232c.asm」(LECS)を比較すると、「TLS:Wp_232c.asm」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)292行のうち、287行がLECS「LECS:Fs_232c.asm」と一致し、その一致率は98%であった(甲15)。 (イ) グラフィックドライバ制御関数のソースファイル「TLS:Ls_grsys.asm」(本件プログラム)と「LECS:Le_grsys.asm」(LECS)を比較すると、「TLS:Ls_grsys.asm」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)730行のうち、706行が「LECS:Le_grsys.asm」と一致し、その一致率は97%であった(甲16)。 (ウ) GPIB駆動関数のソースファイル「TLS:Ls_gpib.asm」(本件プログラム)と「LECS:Fs_gpib.asm」(LECS)を比較すると、「TLS:Ls_gpib.asm」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)460行のうち、287行が「LECS:Fs_gpibs.asm」と一致し、その一致率は62%であった(甲17)。 (エ) 汎用関数のソースファイル「TLS:Ls_etc.c」(本件プログラム)をLECSの各ファイルと比較すると、「TLS:Ls_etc.c」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)1148行のうち、950行が「LECSのソースプログラム」と一致し、その一致率は83%であった。ほぼ一致するものを含めると、1148行のうち1083行が一致し、その一致率は90%であった。 また、コメント行を含めて比較すると、「TLS:Ls_etc.c」1428行のうち、1195行が一致し、その一致率は84%であった。ほぼ一致するものを含めると1292行が一致し、その一致率は90%であった(甲18)。 (オ) 致命的なエラーの表示関数のソースファイル「TLS:Ls_errck.c」(本件プログラム)と「LECS:Le_errck.c」(LECS)を比較すると、「TLS:Ls_errck.c」の実質的命令(ソースの中からコメントを削除したもの)106行のうち、99行がLECSのソースプログラムと一致し、その一致率は93%であった。ほぼ一致するものを含めると100行が一致し、その一致率は94%であった。 「LECS:Le_errck.c」は、LECSのシステムにおいて実行されることがないプログラムである(甲19)。 (カ) 本件プログラムとLECSの関数名を比較すると、本件プログラムの1340個の関数のうち、同じ関数名を持ち同じような働きをする関数が869個LECSで使用されており、その一致率は65%である。ほぼ一致するものを含めると、932個がLECSで使用されており、その一致率は70%である。 内容が実質的に一致する関数「errordsp」及び「lseek_move」は、LECSでは定義されているが使用されておらず、LECSのシステムでは実行されることがない関数である(甲20)。 イ 被告の比較評価 証拠(乙16の1・2)によれば、被告の依頼に基づき、E(大阪大学大学院基礎工学研究科情報数理系専攻博士課程)が、本件プログラム及びLECSをCCFinderにより比較した結果は、次のとおりであった。 (ア) LECSは、185個のCソースファイル(.c及び.h)、約12万8000行から成り、本件プログラムは、106個のCソースファイル(.c及び.h)、約7万4000行から成る。 両プログラムのすべてのCソースファイルからクローンを検出して比較したところ、ほぼ同じ内容のファイルが散見され、ファイルの中身を部分的に入れ替えて作ったと思われる部分があった。 (イ) 次に、@LECSと本件プログラムのクローンを含み、Aファイルのかなりの部分をクローンが占めているとの条件に基づき、LECSから65個のCソースファイル(約5万9000行)、本件プログラムから40個のCソースファイル(約4万6000行)を抽出した。 これらを比較検討した結果、@両システムの半分程度が類似したファイルで占められている、A少なくとも類似したファイルについては共通のソースから分岐したと考えてよい、という結論が得られた。 (3) 前記(2)によれば、LECSは、本件プログラムと比べて、ファイルにして79個、コードにして約5万4000行大きいプログラムであり、本件プログラムにない新規機能を備えていることが推認される。 しかし、LECSには、本件プログラムと実質的命令だけでなくコメント行までがほとんど一致するファイルが複数個存在し、本件プログラムのソースコードの少なくとも62%(46,000/74,000=0.62)がLECSに使用されていることが認められる。また、原告による比較評価の中には、LECSには、本件プログラムと内容がほぼ一致しており、かつLECSのシステムでは実行されないプログラム及び関数が存在するという箇所があるが、被告はこの点について争っていない。 加えて、本件プログラムとLECSは、共にAという同一の人物が開発を担当しており、そのA自身が、ソフトプロにおいて被告から提供された本件プログラムのソースプログラムを参考にしてLECSを作成したことを認めているのであり(前記(1)、第1、1(4))、LECSのパンフレットには、「従来の豊富なTLS資産を継承しながら将来を見つめた開発コンセプトが凝縮された」との記載があり、本件プログラムのパンフレットに掲載されたユーザー・インターフェイス(ディスプレイ表示)と同じものが掲載されているなど、販売先に対し、LECSが本件プログラムのバージョンアップ品との印象を与える手法が採られている(甲の5、7)のである。 以上の事実を総合すると、LECSは、本件プログラムのうちの創作性のある部分を含む一部を複製してこれに改変を加えたものであり、本件プログラムとは同一の範囲を脱したものであるが、ソフトウエアとして本件プログラムと全く異なった程度には改変されたものとはいえず、表現上の本質的な特徴の同一性が維持され、実質的に類似するものということができ、全体として本件プログラムを翻案したものに当たると認めるのが相当である。 (4) この点について、被告は、ソフトウエアの実質的類似性は、プログラムの構造、手順、構成を明らかにし、あるアイデア若しくは機能を達成するためには必然的に付随的なもので表現とアイデアが一致している部分、外部的条件部分、及び公有に属する部分を排除した上で比較検討されなければならないと主張する。 しかしながら、前記(2)で認定したとおり、本件プログラムのうちLECSに流用されたコードの数量が本件プログラムの約62%に当たる約4万6000行に及び、LECSも、そのソースコード約12万8000行のうち、約46%に当たる約5万9000行が本件プログラムとほぼ同じ内容を有しているという数量的要素を考慮すれば、本件プログラムのうちでLECSに使用された部分が、単に、他のプログラムやハードウエア等の外部的要因に規制される結果本来的に類似せざるを得ない部分や、一般的な処理方法など著作権法上の保護が及ばない部分(著作権法10条3項参照)のように、プログラムの創作性のない部分に止まるものとみることは合理的でない。被告の主張は採用できない。 (5) 以上によれば、LECSは本件プログラムの翻案物であり、本件契約第3条にいう「開示されたソースプログラムを元に変更を加えた製品」に当たるというべきであるから、被告は、本件契約第4条及び本件覚書に基づき、原告に対し、LECS1セット当たり70万円及び消費税(ただし、同一の顧客に対し2台目以降を追加で販売した時は35万円及び消費税)の契約料金を支払うべき義務を負う。 この点について、被告は、本件契約第4条は、被告が変更を加えたものではなく、類似について被告に故意及び過失のない商品について責任を負わせる趣旨ではないから、LECSに本件契約第4条の適用はないと主張する。しかし、前記(1)で認定した事実によれば、被告は、ソフトプロにLECSの作成を依頼するに当たり、本件プログラムのソースプログラムを開示しており、いわば、被告が主体となってソフトプロをして本件プログラムに変更を加えさせたというべきである。LECSは、本件契約第3条にいう「開示されたソースプログラムを元に加えた製品」、本件覚書にいう「甲(被告)が変更を加えた製品」に該当する。 2 争点(2)(本件契約は終了したか)について 証拠(乙7)によれば、被告は、平成5年5月18日、原告常務取締役であるCに対し、本件契約及び本件覚書に基づく本件プログラムのソフトウエア取引を終了する旨の通知を発したことが認められるところ、同通知は、被告の原告に対する本件契約の合意解約の申入れと解される。しかし、原告が被告の申入れを承諾したことを認めるに足りる証拠はないから、本件契約の合意解約が成立したということはできない。 また、証拠(乙7、11)によれば、前記通知において被告が本件契約の終了を申し入れた理由は、@平成4年11月末を最後に本件ソフトが売れなくなった、A新たなライバル会社の出現、システム機器の古さ、Bソフト開発担当者がいないための競争力の低下、というものであると認められる。 本件契約第8条は、原告又は被告が次のいずれかに該当する場合には本件契約の全部又は一部を解除できるものとして、解除事由として「@本契約の各条項のいずれかに違反し、書面による警告後、30日を経過してもその違反を改めない場合。Aいずれかが差押処分、会社整理、倒産、もしくは財産処分、強制執行等を受けた場合」を挙げている(甲1)。被告による前記の本件契約の解約申入れの理由が本件契約第8条に定める解除事由に当たらないことは明らかである。 以上によれば、本件通知によって本件契約が終了したということはできない。 3 争点(3)(被告が本件契約に基づき支払うべき料金額)について (1) 前記第2、1、(7)のとおり、被告が平成5年3月30日から平成7年2月16日までの間に、ソフトプロに対してLECS及びその改良版を25セット発注したこと、そのうち18セットがある顧客に対する1台目の販売であり、7セットが同一の顧客に対する2台目以降の追加販売であることは当事者間に争いがない。 (2) 原告は、被告が提出したソフトプロ分の仕入帳(乙17)には、前記25セットのほかに、平成5年6月18日分として「LECS−1000特別版」の記載が存在するから、これも料金額算定の根拠とされるべきであると主張するので検討する。 証拠(乙11、17)によれば、次の事実が認められる。 ア 被告は、前記(1)の25セット分については、仕入帳に販売先を明記しているが、平成5年6月18日の「LECS−1000特別版」の欄には、販売先を記載していない。 イ 被告とソフトプロは、被告がソフトプロから購入するLECSの価格を、LECS−3000が1本150万円(同一顧客に対する2本目以降の価格は1本75万円)、LECS−1000が1本75万円(同一顧客に対する2本目以降の価格は1本37万5000円)と定めているが、平成5年6月18日の「LECS−1000特別版」の仕入金額の欄には120万円と記載されている。 ウ 被告は、仕入帳に、LECSの当初開発委託に関するソフトプロへの支払を計上しており、これについては販売先の名が記載されていない。 以上の事実によれば、「LECS−1000特別版」が、被告が顧客へ販売するためソフトプロから購入した分と推認することは、「LECS−1000特別版」と他のLECS商品の仕入帳での記載の違いに照らして相当でなく、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。 (3) 被告が原告に対し本件契約第4条及び本件覚書に基づき支払うべき約定金は、次のとおりとなる。 ア 同一顧客に対する一台目の販売については、代金は1セット当たり70万円となるから、その18セット分である1260万円に契約当時の消費税(3%)を加えた額である1297万8000円(700,000×18×1.03=12,978,000)が代金額となる。 イ 同一顧客に対する追加販売については、代金は1セット当たり35万円となるから、その7セット分である245万円に契約当時の消費税(3%)を加えた額である252万3500円(350,000×7×1.03=2,523,500)が代金額となる。 これらの合計は、1550万1500円となる。 なお、本件プログラムを装着して被告が販売した製品については、第2、1、(5)の既払額のほかに未払分があることを認めるに足りる証拠はない。 4 以上によれば、原告の主位的請求は、被告に対し金1550万1500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成9年12月17日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 なお、原告は、予備的請求として、著作権侵害に基づく損害賠償を請求しているが、予備的請求において原告が著作権法114条2項所定の「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とする額は、主位的請求と同じく、本件契約第4条に基づく金員をLECSの販売数量で乗じた額であり、予備的請求は、主位的請求と経済的に同一の目的に向けられた請求といえる。そうすると、予備的請求の損害額が前記3で認定した主位的請求の認容額を超えることはないから、予備的請求のその余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は前述の限度において理由がある。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |