判例全文 line
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【事件名】プロバイダーのHPファイル消失事件
【年月日】平成13年9月28日
 東京地裁 平成12年(ワ)第18468号 損害賠償請求等事件(以下「甲事件」という。)、
 平成12年(ワ)第18753号 仮払金返還請求事件(以下「乙事件」という。)
 (口頭弁論終結日 平成13年7月27日)

判決


主文
1 乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告(甲事件被告)に対し、2263万5000円及びこれに対する平成12年9月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 甲事件原告(乙事件被告)の請求及び乙事件原告(甲事件被告)のその余の請求をそれぞれ棄却する。
3 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じてこれを40分し、その1を甲事件被告・乙事件原告の負担とし、その余は甲事件原告・乙事件被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 甲事件
 甲事件被告(乙事件原告。以下「被告」という。)は、甲事件原告(乙事件被告。以下「原告」という。)に対し、1億0629万7324円及びこれに対する平成12年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 乙事件
 原告は、被告に対し、2601万円及びこれに対する平成12年9月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 甲事件は、原告が、被告に対し、被告が自己のサーバーに保管していた原告のホームページのファイルを消滅させたとして、原被告間のワールドワイドウェブレンタルサーバーサービス契約にかかる債務不履行に基づき、1億3629万7324円の損害から填補済みの3000万円を差し引いた1億0629万7324円の賠償を請求する事案である。
 乙事件は、被告が、原告に対し、原被告間の平成12年4月13日付け覚書に基づき、被告が原告に支払った仮払金3000万円から上記ホームページの再構築費用相当額とする399万円を差し引いた2601万円を清算金として返還請求する事案である。
2 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、ログハウスの建築請負を主な目的とする株式会社であり、被告は、主に山梨県内の顧客を対象として、インターネットプロバイダー事業を営む株式会社である。
(2) 原告と被告は、平成9年1月10日、ダイヤルアップ型IP接続サービス利用契約(以下「本件IP接続契約」という。)を締結するとともに、これに付随して、被告がワールドワイドウェブ(欧文字では「 World Wide Web 」、欧文字での略称表記は「WWW」。そこで、以下「WWW」と表記する。)のレンタルサーバー(容量10メガバイト)を原告に提供する契約(以下「本件レンタルサーバー契約」という。)を締結した(乙1ないし3、12。以下、本件IP接続契約と本件レンタルサーバー契約とを併せて「本件サービス契約」という。)。
 本件サービス契約の料金は、6か月で1万8000円である。
 なお、WWWレンタルサーバーサービスとは、原告が自己の事務所内のパソコン等によりWWWホームページのコンテンツ(内容)となるファイルを作成した上、それを「FTP」というプロトコル(手順)を用いて被告のサーバーに転送し、被告がそのファイルをサーバーに保管するという形態をとるサービスである。
(3) 本件サービス契約には、「 Eインターネットサービス・サービス約款」と題する被告の約款(乙3。以下「本件約款」という。)が適用される(乙1)。
 本件約款34条は、「当社は、契約者がEインターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも、第30条(利用不能の場合における料金の精算)の規定によるほか、何ら責任を負いません。」と規定する。そして、本件約款30条は、「当社は、Eインターネットサービスを提供すべき場合において、当社の責に帰すべき事由により、その利用が全く出来ない状態が生じ、かつそのことを当社が知った時刻から起算して、連続して12時間以上Eインターネットサービスが利用できなかったときは、契約者の請求に基づき、当社は、その利用が全く出来ない状態を当社が知った時刻から、そのEインターネットサービスの利用が再び可能になったことを当社が確認した時刻までの時間数を12で除した数(小数点以下の端数は切り捨てます)に基本料の月額の60分の1を乗じて得た額を基本料月額から差引ます。ただし、契約者は、当該請求をなし得ることとなった日から3ケ月以内に当該請求をしなかったときは、その権利を失うものとします。」と規定している。
(4) 原告は、原告によるログハウスの建築に関し顧客に対する営業の手段としてインターネット上のホームページを活用するため、本件レンタルサーバー契約に基づき、ホームページのコンテンツとなるファイルを作成した上、それを被告のサーバーに転送し、営業用のホームページをもつに至った(甲2、乙14、原告代表者)。
 被告は、平成12年2月22日頃、原告が作成し転送した原告のホームページのファイルを被告のサーバーに保管していた(以下、この当時被告のサーバーに保管されていた原告のファイルを「本件ファイル」といい、それをコンテンツとしていた原告のホームページを「本件ホームページ」という。)。
(5) 被告は、平成12年2月22日、被告のサーバー内に置かれていた本件ファイルを含むファイルを他のディレクトリに移し替える作業をした(証人F。以下、この作業を「本件作業」という。)。
(6) 本件ファイルは、平成12年2月22日頃、被告のサーバーから消滅した(以下「本件消滅事故」という。)。
(7) 原告と被告は、平成12年4月13日、下記アないしエを内容とする覚書(以下「本件覚書」という。)を締結し、被告は、原告に対し、3000万円を仮に支払った(乙9、10)。
ア 被告が本件ファイルを消滅させたことに関し、被告は、原告に対し、本件覚書締結と同時に3000万円を仮に支払う。
イ 原告と被告は、本件消滅事故の帰責事由の存否及び程度並びに損害額等については別途訴訟等において明らかにするものとし、その結果が確定した段階で前項の仮払金の増減につき清算する。
ウ 原告と被告は、本件消滅事故に係る問題につき、マスコミ、ホームページその他のメディア等を通じて、これを公表し、模擬裁判を開くなどして、双方当事者及びその関連会社の信用を毀損し、又は誹謗中傷するなど事業の遂行に支障が生じるおそれのある行為をしない。
エ 本件覚書の締結は訴訟等の帰趨に何ら影響するものでないことを相互に確認する。
3 争点
(1) 被告の注意義務の存否
(原告の主張)
 被告は、原告に対し、本件サービス契約上、被告のサーバーにおいて本件ファイルを消滅させないように注意すべき義務(以下「本件注意義務」という。)を負う。
 本件サービス契約は、@被告が原告からファイルを預かり、サーバーに保管し、管理すること及びA被告がインターネット利用者に通信手段を介してサーバーに接続させ、サーバー内のデータを受信させることの二つを契約の本質的要素として含んでいる。@の法律関係は、有償寄託類似の契約又は貸金庫契約類似の契約といえる。有償寄託類似の契約だとすれば、被告は保管ファイルにつき善管注意義務を負うと考えられ、貸金庫契約類似の契約だとすれば、被告は保管ファイルを損壊させないという付随義務を負うと考えられるから、いずれにせよ、被告は原告に対し本件注意義務を負う。
(被告の主張)
 プロバイダー(接続業者)である被告が原告に対し本件サービス契約に基づいて負う義務は、接続設備を提供することによって、原告が作成、転送してきたホームページのファイルを被告のサーバーにおいて一般の閲覧に供させるという点に尽き、ファイルの内容自体には及ばない。被告のサーバーは原告が発信した情報の通過点にすぎないのであって、原告が作成したファイルそれ自体の保存については原告が自己の責任で行うべきである。
 したがって、被告は、原告に対し、本件注意義務を負わない。
(2) 被告の本件注意義務違反の事実及びこれと本件消滅事故との因果関係の有無
(原告の主張)
 本件消滅事故は、本件作業の途中、被告のサーバー上で発生したものであり、不可抗力ということは考えにくく、被告の本件注意義務違反によるものと考えられる。すなわち、被告は、本件作業の過程において、誤って本件ファイルをすべて消滅させてしまったのである。
(被告の主張)
 本件作業の過程において何らかの理由で本件ファイルが消滅したことは認めるが、原告の主張は争う。
(3) 損害の範囲及びその金額
(原告の主張)
 原告は、本件消滅事故によって、次のとおり損害を被った。
ア 再構築費用 5329万8000円
 原告は、本件ファイルが消滅したことにより、本件ホームページを再構築しなければならなくなったが、その再構築を米国のG社及びH社に依頼したところ、その費用は49万3500ドルであった。これを1ドル108円で換算すると、5329万8000円となる。
 本件ホームページを最も早く復元するには、原告における営業ノウハウ及び技術面について精通した者とソフト作成会社とが常時連絡を取り合いながら、本件ホームページのコンテンツとなる写真の撮影や図面の作成を初めから行う必要がある。そのため、原告は、キャド図面作成等ログハウス建築注文の技術面に精通したH社と、ソフト作成会社であるG社に本件ホームページの再構築を依頼し、原告における営業ノウハウに通じた原告代表者Bがそれら2社と連絡を取り合いながら本件ホームページの再構築を図ることにしたのである。上記2社に対する費用は、最終的に、47万ドルがG社、その5パーセントにあたる2万3500ドルがH社に支払われることになっているが、原告の支払方法としては、原告がH社に対し49万3500ドル全額を支払うという形になっている。
イ 逸失利益 8299万9324円
 原告は、本件ファイルが消滅したことにより、主要な営業手段である本件ホームページを失った結果、本件ホームページへのアクセスが止まった平成12年2月下旬から同年5月末日までに得られたであろう売上を失った(以下「本件逸失売上」という。)。本件逸失売上に対応する逸失利益(以下「本件逸失利益」という。)は、平成11年度の経常損益を基準に算定すると、8299万9324円となる。
 これについて敷衍すると、まず、本件逸失売上の期間に相当する前年同時期(平成11年2月下旬から同年5月末日まで)において、ネット上のやりとりによって契約交渉を開始し、契約の締結にまで至ったものは、別紙契約目録記載のとおりである(以下、同目録に挙げられた契約を総称して「別紙契約」という。)。したがって、本件逸失売上は、別紙契約の契約金額合計2億3480万7000円と同額のものとして算定すべきである。
 そして、逸失利益は、(ア)平成11年度(平成11年4月1日から平成12年3月11日まで)の経常損益と(イ)そこから本件逸失売上が抜けた場合の経常損益とを比較して算定すべきである。この(ア)及び(イ)は次のとおり算出される。
(ア) 平成11年度における原告の損益計算は、@総売上3億2811万3638円、A売上原価2億1213万2384円、B一般管理費1億0638万1766円、C営業外収益265万3280円、D営業外費用886万8974円であり、E経常損益は、@−A−B+C−Dを計算すると、338万3794円の利益であった。
(イ) 前記(ア)から本件逸失売上が抜けた場合を想定すると、@総売上9330万6638円(ただし、本件逸失売上額2億3480万7000円を減額した。)、A売上原価6032万4708円(ただし、総売上が減少した割合に応じて売上原価を減額した。)、B一般管理費1億0638万1766円、C営業外収益265万3280円、D営業外費用886万8974円となり、E経常損益は、@−A−B+C−Dを計算すると、7961万5530円の損失となる。
 したがって、(ア)の経常利益338万3794円と(イ)の経常損失7961万5530円の差額である8299万9324円が本件逸失利益の金額となる。
ウ 損害額合計 1億3629万7324円
 ただし、この損害額の一部は、前記前提事実(7)の3000万円の支払により填補されている。
(被告の主張)
 原告が本件消滅事故によって被った損害は、399万円を超えない。
ア 再構築費用について
 本件レンタルサーバー契約によるサービス容量は10メガバイトにとどまり、本件ファイルは47頁にすぎなかったのであるから、本件ホームページの再構築に要する費用が49万3500ドルであるとする根拠は全くない。
 一般に、ホームページのコンテンツとなるファイルを作成し、それをサーバーに転送した後も、元の作成ファイルは発信者の手元に残るはずであって、本件ファイルは、原告の手元にあるはずの元のファイルから直ちに回復することができるのであるから、本来、その復旧にほとんど費用はかからない。
 また、仮に原告が本件ファイルの元となったファイルを手元に残しておらず、これを最初から再構築するとしても、その費用は、緊急のため、ウェブデザイナー、広告デザイナー等8名のデザイナーを24時間確保し、1週間で仕上げるとしても、399万円にしかならない。
 したがって、本件ホームページの再構築費用が399万円を超えることはない。
イ 逸失利益について
 本件ファイルが消滅し本件ホームページが使えない事態が生じたとしても、直ちに原告の営業がすべて停止することはあり得ない。したがって、原告の主張する営業上の逸失利益は、本件消滅事故と相当因果関係にある損害には含まれない。
 また、本件逸失利益の額を原告主張のように算定するのは失当である。本件逸失利益の前提となる本件逸失売上につき、原告がその算定の根拠とする別紙契約は、それらの存在自体認められないし、それらの契約が本件ホームページによって成立に至ったとも認められないからである。
(4) 過失相殺ー原告の過失の有無及び程度
(被告の主張)
 原告には、本件ファイルの内容につきバックアップをとっていなかったという重大な過失がある。
 すなわち、本質的にインターネット通信には情報の改変、破壊が付きまとうことを考えると、これを廉価で利用しようとする者は、自己の責任において、その危険性を十分予見し、自己の作成したファイルのバックアップをとるなどの保存措置を講じて自らの損害を回避すべきであり、かつ、それは極めて容易で、費用も労力もほとんどかからずに可能である。とりわけ、本件レンタルサーバー契約に基づくサービスは、本件IP接続サービスに付加された無償のサービスなのであるから、原告は、自己の責任において、本件ファイルの元になったファイルを管理すべき義務を負うと解すべきである。ところが、原告は、重大な価値があると自らが考える本件ファイルの元になったファイルにつき、バックアップを全くとらなかった。これは、原告が契約の一方当事者として信義則又は衡平上当然負うべき損害回避義務に違反する重大な過失というべきである。
 なお、原告のパソコンで作成された、本件ファイルの元となったファイルは、本来、原告の元で保管されているものであるが、仮にそれが原告のパソコンのハードディスクがクラッシュしたために消失したものだとしても、消失後直ちに、被告のサーバー上にある本件ファイルを自己のパソコン上に転送することによって、極めて容易にそのデータを手元に回復することができた。原告は、それをしないで漫然と放置したために、本件ファイル内容の復元を不可能にしたことについても過失がある。
 また、被告が原告に対し本件ホームページの復元協力を申し出たのに対し、原告は、手元にキャドデータ、写真データ等本件ホームページを作成するための資料を残していながら、かたくなに申出を拒否し、損害の拡大を防止しなかった過失もある。
(原告の主張)
 本件消滅事故は専ら被告の作為によって生じたものであって、本件ファイルの消滅自体に関して原告は何らの関与もしていない。したがって、本来の意味での過失相殺ということは考えられない。
 また、原告がバックアップの措置等による損害回避義務を負うかについては、原告が、被告によって本件ファイルが消滅させられることを予見すべきであったとはいえないことから、バックアップをとる作為義務を法的義務として認めることはできないし、その不作為を法的な意味での過失とまではいえないと考えられる。
 原告としては、被告が大手セキュリティ会社の関連会社であると説明され、またプロバイダー会社であることから、よもや本件ファイルを消滅させることなど考えなかったが、そのこと自体はやむを得ないことである。また、専門業者であるプロバイダーが保管を依頼されたファイルを消失させたという事例が従来公には報告された例がないことからも、一般利用者にすぎない原告が、本件ファイルが被告の下で消滅することを予見すべきであったとはいえない。確かにインターネット通信には情報の改変、破壊の危険があり、その危険は予見可能であるが、プロバイダーのサーバー内に一旦正常に保管されたファイルがそのサーバー内から消滅することまで予見することは不可能である。
(5) 本件約款34条の適用の肯否
(被告の主張)
 本件約款34条は、原告が本件レンタルサーバー契約に基づくインターネットサービスを利用中、本件消滅事故に遭い損害を被ったという本件のような場合にも適用される。
 したがって、被告の責任は、本件約款34条、30条の範囲にとどまる。すなわち、被告の負担すべき損害賠償金額は、上記規定を類推して金額に換算すれば、通常のホームページの再構築費用相当額を超えることはなく、前記(3)「被告の主張」ア記載の本件ホームページ再構築費用相当額である399万円を超えることはない。
(原告の主張)
 本件約款34条、30条は、通信障害によるサービスの不履行について規定したものである。
 しかし、本件消滅事故は、通信過程での障害によるものではない。すなわち、通信過程での障害とは、通信回線を通じて何らかのファイルを送信又は受信するときに、通信途中のトラブルによって送受信ができなかったり、データが不完全又は変容されて送受信されたりすることを意味するが、本件消滅事故は、被告が既に被告サーバー内に保存していた本件ファイルを、被告の都合で他のディレクトリに移行させる途中で、誤って消滅させてしまったというものであり、通信過程で生じたものでは決してない。
 したがって、本件約款34条は、本件には適用されない。
第3 争点に対する判断
1 前記前提事実、証拠(甲1、2、6、7、乙1、2、4、5の1ないし5の9、5の13、9ないし14、証人F、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 原告は、ログハウスの建築請負を主な目的とする資本金3000万円の株式会社であり、その株式は、株式市場には上場されていない。
 原告の平成9年3月期決算における損益計算は、@売上高3億4008万6000円、A売上原価2億7261万1000円、B販売費及び一般管理費5189万1000円、C売上総利益6747万4000円、D営業利益1557万7000円であった。
 原告の平成10年3月期決算における損益計算は、@売上高4億2792万2000円、A売上原価3億8834万4000円、B販売費及び一般管理費4237万2000円、C売上総利益3957万8000円、D営業損失280万2000円であった。
 原告の平成11年3月期決算における損益計算は、@売上高2億9394万3000円、A売上原価2億4064万6000円、B販売費及び一般管理費4263万6000円、C売上総利益5329万6000円、D営業利益1065万4000円であった。
イ 原告代表者であるBは、もともとコンピューターのハードウェアの技術に関する専門家であった。
ウ 原告の米国における関連会社として、I社、J社、H社がある。
 I社は、原告の仕入先として、米国から日本への輸出を行うワシントン州の会社であり、その代表者はKである。
 J社は、原告代表者Bが15万ドルを出資(出資割合は約半分)している米国の会社である。
 H社は、J社の関連会社であり、事務所は米国ワシントン州のI社と同じ所にあり、その代表者もI社と同じKである。H社は、原告の設計部門を担当し、原告が日本語で作成した図面を米国用に書き替えるなどの業務を行っている。
 なお、G社は、H社の取引先となっている米国のソフト作成会社である。
エ 被告は、L社のいわゆる完全子会社である。
 L社は、警備業を業とする会社であり、同じく警備業を業とするM社が7割の出資をしている。
 被告は、このように、M社と間接的な出資関係をもっているが、同社から技術管理や経営管理は受けていない。
(2) 本件サービス契約
ア 原告は、平成9年1月10日、原告営業設計部のNが申込責任者となって、被告に対し、端末設置場所を山梨県北巨摩郡i村jk−l、利用開始希望日を同年1月16日として、本件IP接続契約の締結を申し込み、被告はこれを承諾した。
 本件IP接続契約の締結に際し、原告と被告は、本件レンタルサーバー契約を締結した。本件レンタルサーバー契約におけるレンタルサーバーの容量は10メガバイトであるが、これは通常のフロッピーディスク7枚程度の小容量である。
イ 本件サービス契約の料金は6か月で1万8000円であるが、これはIP接続サービスの基本接続料であって、本件レンタルサーバー契約に基づく10メガバイトのレンタルサーバーサービス自体は無償であった。
 なお、被告が、一般に、50メガバイト又は100メガバイトなど、商用に使えるような仕組みをレンタルサーバーサービスとして提供する場合には、上記10メガバイトの場合と異なり、月額9500円ほどの追加料金が必要であったが、原告は、このサービスを受けてはいなかった。
ウ 本件レンタルサーバー契約に基づくレンタルサーバーサービスでは、原告は、自己の端末においてホームページのコンテンツとなるファイルを作成した上で、それを被告のサーバーに転送するが、その転送後も、原告の端末内には、上記作成したファイルがそのままの形で残存する仕組みになっている。すなわち、通常であれば、原告がファイルをサーバーに転送した後は、同じ内容のファイルが、原告の端末内と被告のサーバー内にそれぞれ保管される仕組みになっている。
エ 原告は、本件IP接続契約で、3個の電子メールのアカウントを得たが、その後、平成11年1月に、月額250円で更に1個のメールアカウントを追加した。
 本件サービス契約において、原告は、ホームページを閲覧した者がホームページ上に記入をして、その記入したものを電子メールに変換する、ホームメールと呼ばれる機能を用いることができた。
 このホームメールのために必要なソフトであるCGIソフトのためのサーバーにつき、被告は、レンタルサーバーサービスにおけるファイル用のサーバーとは別のサーバーを用意していた。
(3) 原告による本件ホームページの作成
ア 原告は、ログハウス建築の注文を受ける営業の手段としてホームページを活用しようと考え、本件レンタルサーバー契約に基づき、本件ホームページを作成した。
 原告は、ログハウスに関するキャド(コンピューターによる設計)データを圧縮変換し、また、ホームページ上に写真を載せることにより、顧客がホームページ上でログハウスの図面(48パターン)及び写真の画像を閲覧できる形にして、広告宣伝の用に供するとともに、ホームページ上で顧客から電子メール(ホームメール)によって要望を受け付け、それに基づいてカタログを送付したり、手作業により設計依頼用の書式又は設計図を電子メール、ファックス又は郵送で送付するなどの営業を行った。
 ただし、原告は、顧客との間で請負契約を締結する際には、対面した上で契約書を取り交わしており、契約の締結自体をホームページ上で行っていたわけではない。また、原告は、本件ホームページにおいて、電子メール(ホームメール)機能のほかはCGIサーバーを利用していなかったので、本件ホームページには検索システムは付いていなかった。
イ 原告における本件ホームページの作成は、代表者であるBと営業設計部のNが最終責任者となって担当した。
 原告のオフィスには6台のコンピュータがあったが、原告従業員は、そのうちの3台を使ってホームページのコンテンツとなるファイルを作成し、それをフロッピーディスクに保存して、Nの部屋にあるインターネットに接続可能な別の1台のコンピュータ(以下「本件パソコン」という。)にそのファイルを移行した。そして、Nが、本件パソコンからインターネットに接続して被告のサーバーに上記ファイルを転送した。
ウ 原告は、ホームページを頻繁に更新したが、平成11年末にオフィスのコンピュータを全部入れ替える作業をした後は、平成12年2月末頃まで、本件ホームページを全く更新しなかった。
エ このようにして作成、転送された本件ファイルの頁数は、47頁であった。
オ 原告は、本件ホームページ作成の資料となったキャドデータについては、1000枚近くのフロッピーディスクに保存し、オペレーターの前の棚に保管していた。
 なお、キャドデータは、容量が1枚当たり数百キロバイトから数メガバイトと大きいため、そのファイルをJPEG又はGIFというフォーマット(書式)に圧縮変換した上でサーバーに転送するのが通常であり、本件においても、原告は、キャドデータを圧縮変換して被告のサーバーに転送していた。上記のフロッピーディスクに保存されたキャドデータは、そのような圧縮変換前のデータであり、上記フロッピーディスクは、本件消滅事故後、現在においても基本的にほぼ残っている。
(4) 原告のハードディスクの故障
 本件パソコンが、本件消滅事故より前の平成12年1月頃、故障(クラッシュ)した。
 Nは、その不具合に対応すべく、本件パソコンを初期化した。
 その結果、本件パソコンに保存されていた、本件ファイルの元となったファイルは消滅した。
 「FTPソフト」と呼ばれる無償又は安価なソフトを使用することにより、本件ファイルを被告のサーバーから本件パソコンに転送して保存することは極めて容易であったが、原告の側では、その措置をとらなかった。
(5) 本件作業
ア 被告は、当時、官庁関係のホームページにハッキング、クラッキングが多発していたことから、被告がサーバーを提供するホームページのデータが外部からの侵入により破壊されたり書き替えられたりする事故に対処する必要があると判断し、平成12年2月22日、サーバーのセキュリティを強化するため、本件作業を実施した。
 被告は、本件作業において、原告の本件ファイルのほか他の顧客のファイルを含め約百数十件のファイルについて、他のディレクトリに移し替えた。
イ 被告は、本件作業に際し、特に本件ファイルのバックアップをとらなかった。
 なお、被告は、一般に、サーバー内のホームページのファイルについて、1週間に一度の割合でバックアップをとっていたが、本件ファイルについてはなぜかそのバックアップも残っていなかった。
ウ 被告は、本件作業後、各ファイルが正常に残っているかどうかにつき自動でチェックしたが、その際には、異常は感知されなかった。
 結局、本件ファイル以外のファイルについては、本件作業を経ても、消滅等の異常は認められていない。
(6) 本件消滅事故の発見
ア Nは、平成12年2月23日、本件ファイルが消滅していることを知った。
 Nは、同月24日頃、Bに対し、本件ファイル消滅の事実を報告した。
 原告は、同月27日、被告に対し、ファックスで、「ホームページのアップができない。」との指摘を行った。
イ 被告は、平成12年2月28日の朝、原告の上記指摘を受けて調査したところ、本件ファイルが消滅したことを知った。
ウ なお、原告には、本件消滅事故の頃、フロッピーディスク、ハードディスクその他の電磁媒体による本件ファイルの何らのバックアップも残されていなかった。
(7) 本件消滅事故発見後の経過
ア 被告取締役であるFは、平成12年2月28日、原告の事務所を訪れ、本件消滅事故についてB及びNと協議した。
 Fは、原告にあるバックアップファイルを使って、データの回復作業をしたい旨申し出たが、前記(4)のとおり原告のハードディスクが故障してしまったため、Nは、バックアップデータで回復することはできないと答えた。
 そこで、Fは、残っている画像データ等を使って、本件ホームページの再構築に協力したい旨申し出たが、Bは、Fに対し、残っている画像データを見せることはせず、「アメリカでも事業を行っており、日本には不在がちなので、自分の意思に沿ったものを作るには、1か月以上かかる。」と述べ、原告の側において米国で本件ホームページの再構築作業を進めたいと答えてこの申し出を拒絶した。
イ 原告代表者は、平成12年2月29日、被告に対し、本件につき長嶋憲一弁護士に委任した旨記したファックスを送付した。
 原告代表者は、同年3月5日、被告に対し、「ホームページデーター消滅事故被害予測」として、本件消滅事故による損害は金額に現れるものだけでも合計3億1123万円(その内訳は、@本件ホームページの再構築費用5123万円、A営業完全停止による休業損害30日分6000万円、B施主との相互コミュニケーション停止による建築請負契約の停止又は遅延によって発生する資金不足1億円、C新規事業予約業務の停止による損害(結婚式場)1億円)となるとした上、「早期解決が話合いでできるならば弊社の実質損害予測金額+多少の慰謝料程度で問題を終了させたい。」、「もし成立しない場合は法廷争いとなるであろうが加害者側の職種がセキュリティー業務でありそのイメージを根底から崩すようなこの事故は、非常に大きなマイナスが予測される。」などと記した別紙を添付し、なお、元製薬会社社長である伯父の名前を挙げ、製薬会社がM社のサービス契約を受けているようであれば、伯父を通じてM社の上層部と接触を図ることを示唆する趣旨を記載したファックスを送付した。
 また、原告代表者は、同月8日、被告に対し、本件ホームページの再構築費用は、米国において特殊なツールで迅速な作業を行うことから、非常に高額となるが、見積書が到着次第連絡する旨、それに対する被告の対応に誠意が認められない場合は、本件消滅事故に関しマスコミやホームページで公表する趣旨を記したファックスを送付した。
 さらに、原告代表者は、同月9日、被告に対し、「貴社の法務部がこの重大なデーター消滅事故に気付き誠意ある回答が出てくるようでしたらM社の不名誉になるような手段は行なわないつもりですので前もってご連絡させていただく次第です。」などと記したファックスを送付した。
 その上、原告代表者は、同月13日、被告に対し、「特に今回の問題は偶然にも山梨で起こりましたが、貴社の同系列グループ内でも再発する可能性があるかも判りません。セキュリティーサービスの会社の情報事業に全くデーターの管理が出来ていないことなど一般に知れると大きなマイナスにつながり貴社のイメージは大きく傷つきます。」、「現在の急に発生した資金不足はP製薬の元会長である私の伯父のO氏の多大な援助でしのいでおりますが、O氏も是非貴社の上層部が今回の事後処理には一日も早く真剣に取り組んで頂きたいとも云っております。普通の中小企業であればこの様な大金の資金不足に追い込まれれば既に危機に瀕していると思います。」などと記したファックスを送付した。
 そして、原告代表者は、同月14日、被告に対し、被告本社の法務部の対応に憤慨したとして、既に日経新聞、山日新聞、NHK甲府及びNHK本部に連絡をし、翌日に被告から誠意ある回答がない場合は上記マスコミに一斉に取り上げてもらうことにしたと記したファックスを送付した。
ウ 被告は、平成12年3月15日、原告に対し、「この度はたいへんご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。」と述べた上、本件作業の内容を説明し、本件消滅事故につき、「結果的に上記の保守作業を行っている中で、貴社のファイルが入っていたディレクトリを移行する作業上で不具合があり、ホームページのデータが入ったファイルが正常移行されなかったと推測されます。また、事前にバックアップ記録を取っての作業を行っていたのですが、旧ファイルの指定に誤りがあったと思われ、ファイルはリンク部のみがバックアップされ、データ部の記録が確保されておりませんでした。」と記し、さらに、被告が行ったデータ復元のための作業を説明し、今後被告が誠意をもって対応することを記した文書を交付した。
エ その後も、原告代表者は、平成12年3月22日、被告に対し、「全く新しい施主とのコミュニケーションが出来ないため3ケ月位の建築請負契約は不可能な状況で契約金を基礎に資金ぐりを立てていた弊社は今月21日から全ての支払いが困難になりかけています。弊社は今まで現金決済をしており不渡りを出すようなことはないのですが、下請けの数社が弊社の今月の支払停止で倒産の可能性がでてきております。」などと記したファックスを送付した。
 また、原告代表者は、同月24日、被告に対し、「M社本社はこの莫大な損害を3000万円で今後交渉の余地の無い状況に追い込むような被害者無視の大企業暴力の会社とは思ってもいませんでした。弊社国内外取引先、下請け、社員一同で会合を開き同時にマスコミにこの状況を発表するしかなく弊社の弁護士には今回の話合いで3000万円で今後交渉の余地がない場合は受取を拒否し今明日にでも公にすることに返答をするようにつたえました。」などと記したファックスを送付した。
 その上で、原告代表者は、同月26日、被告に対し、「1 一時金1億円 後の損害金に関して和解又は法的に解決する。」、「2 一括払い2億円 被害会社側で国内外で発生する損害をこの金額以内に抑える努力をして、もし金額が超過しても加害会社に追加請求を一切しない。」、「3 損害金を支払う意志がない。 被害者の対抗手段として即時報道関係にこの珍しい新コンピューター事故の責任をとれないセキュリティー大企業の無責任な対応を発表し事故事実を公表し将来の裁判で周辺損害まで積算し訴訟に持ち込む。」との3つの選択肢から成る原告の提案を記したM社宛の文書を添付した書面をファックスで送付した。上記M社宛文書には更に原告作成のレポートが添付されており、そのレポートには、本件消滅事故による損害として、「第1次損害 データー消滅再構築費用の発生」、「第2次損害 営業活動停止による集金の悪化」、「第3次損害 受注業務停止による営業の混乱」、「第4次損害 契約成立停止による契約金入金の停止」、「第5次損害 資金繰の混乱による資金調達対策」、「第6次損害 支払いの停止も考えられる」、「第7次損害 会社信用失墜」、「第8次損害 社員士気の低下」、「第9次損害 各工事現場作業停止」、「第10次損害 米国生産工場の操業中止」、「最終次損害 企業存亡の検討」と記されていた。
 さらに、原告代表者は、同月30日、被告に対し、本件消滅事故に関しホームページ上で模擬裁判を開設する旨記したファックスを送信した。
 このように、原告は、被告に対し、原告の金銭支払要求に従わないときは、被告の親会社と関係のあるM社の信用を毀損させる行動をとるとの害悪を告知するまでして、執拗に本件消滅事故による損害金の支払を要求した。
オ そこで、被告は、原告がマスコミ又はインターネットを通じて被告及びM社の信用を毀損させる行動をとる可能性が切迫してきたと判断し、平成12年4月13日、原告との間で本件覚書を締結し、原告に対し仮払金として3000万円を支払った。
カ なお、原告は、平成13年6月現在、下請業者等に対し、合計して5億円弱の未払債務を負担している。その中には本件消滅事故以前から未払が生じているものがかなり含まれている。
(8) 本件ホームページの再構築費用の見積り
 被告は、Q社に対し、本件ホームページの再構築費用についての見積りを依頼し、同社は、平成12年3月14日、被告に対し、その見積書(乙11。以下「本件見積書」という。)を提出した。同社は、広告及び印刷の部門では山梨県内で最大の企業であり、山梨県庁などのホームページの作成をした会社である。
 本件見積書は、「グー」という検索サイトにより検索されたデータから推測された結果を用いて、ウェブデザイナー、広告デザイナー等を含めて8名のデザイナーを確保して、1週間で本件ホームページとしてかなり高度な47頁を再構築する場合の費用として、399万円かかると算定したものである。
 その内訳は、@テンプレート制作料(マスターデザイン費)8点として80万円、Aテンプレート利用での制作料金38頁として304万円、Bメールフォーム制作(カタログ請求・見学予約・リクルート部分メール送信機能)3頁として15万円であり、取材費及び写真撮影費は含まれていない。
 ただし、Bのメールフォーム制作については、原告の本件ホームページに付随するメールアカウントの個数が3個であることを前提として見積りをしたものであるが、後にそれは4個であったことが判明したため、15万円の見積には5万円が加算されるべきであり、全体では、399万円の見積額は404万円と訂正されるべきである。
 なお、取材費及び写真撮影費は原告の下にキャドデータが残されていたため、見積りの対象とはなっていないが、キャドデータから画像データを作成する作業費はこの見積りに含まれている。
2 争点(1)(被告の本件注意義務の存否)について
 一般に、物の保管を依頼された者は、その依頼者に対し、保管対象物に関する注意義務として、それを損壊又は消滅させないように注意すべき義務を負う。この理は、保管の対象が有体物ではなく電子情報から成るファイルである場合であっても、特段の事情のない限り、異ならない。
 確かに電子情報は容易に複製可能であるから、依頼者の側で保管対象と同一内容のファイルを保存する場合が少なくないとしても、そのことをもって一般的に保管者の上記注意義務を否定することは妥当でない。
 前記第2の2の前提事実(2)によれば、本件サービス契約において、原告が作成、転送したファイルを被告が自己のサーバーに保管するという形態がとられていることは明らかである。そして、被告主張のように被告のサーバーは原告が発信した情報の通過点にすぎないとはいい切れないし、また、本件において、保管ファイルの内容につき原告のみが保存の責任を負うとの合意等も認められない。
 したがって、被告は、原告に対し、本件注意義務を負うと解すべきである。
3 争点(2)(被告の本件注意義務違反の事実及びこれと本件消滅事故との因果関係の有無)について
 前記第2の2の前提事実(5)、(6)、前記1(6)アに認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件消滅事故は平成12年2月22日の本件作業の頃に発生したことは明らかである。
 したがって、本件において、被告以外の者が故意に本件ファイルを消滅させた可能性、不可抗力が働いて本件ファイルが消滅した可能性が証拠上具体的に認められない以上、被告が本件作業中の行為によって本件ファイルを消滅させたと推認するほかはない。前記1(7)ウに認定のとおり、本件消滅事故後、被告が、原告に対し、本件作業上で不具合があって本件ファイルが正常移行されなかったと推測される趣旨を述べている事実は、上記推認が相当であることを被告も自認していることを示すということができる。
 また、前記1(5)イ、(7)ウに認定の事実を総合すれば、被告は、本件作業に際し、本件ファイルのバックアップを適切にとっていなかったことが認められる。
 以上によれば、被告は、平成12年2月22日、本件作業中の行為によって本件ファイルを消滅させ、かつ、本件作業に際しそのバックアップも適切にとっていなかったことが認められ、被告の本件注意義務違反及びこれと本件消滅事故との因果関係が肯定される。
4 争点(3)(損害の範囲及びその金額)について
(1) 再構築費用について
ア まず、本件ホームページを再構築するのに必要かつ相当な費用(以下「本件再構築費用」という。)は、本件消滅事故と因果関係のある損害として認められるべきである。
 これに対し、被告は、原告が本件ファイルの元となったファイルを作成し、それをサーバーに転送した後も、元のファイルは原告の手元に残るはずであって、本件ファイルは、原告の手元にあるはずの元のファイルから直ちに回復することができると主張し、本件再構築費用が本件消滅事故と因果関係のある損害として認められるかについて疑問を呈している。
 しかしながら、前記1(4)、(6)ハのとおり、本件ファイルの元となったファイルは消滅し、そのままの復元可能性が失われたと認定される以上、本件再構築費用は本件消滅事故と事実的因果関係をもつと認めるほかない。
 そして、原告が本件ファイルと同内容のファイルを手元に残しておかなかったことは、過失相殺の根拠事由となり得るとしても(後記5参照)、そのことによって、本件消滅事故と本件再構築費用との相当因果関係を否定することまではできないと解される。
 したがって、本件再構築費用は、本件消滅事故と事実的因果関係及び相当因果関係をもつものと認めざるを得ない。
イ そこで、次に、本件再構築費用の内容及び金額を検討する。
 証拠(乙11、証人F)及び前記1(8)に認定の事実によれば、本件見積書は基本的に採用に値するということができ、本件再構築費用の内容は、@テンプレート制作料(マスターデザイン費)8点、Aテンプレート利用での制作料金38頁、Bメールフォーム制作(カタログ請求・見学予約・リクルート部分メール送信機能)4頁と認め、その金額は404万円と認めるのが相当である。
ウ もっとも、原告は、H社等に依頼した本件ホームページ再構築の費用は49万3500ドルすなわち5329万8000円であって、それが本件消滅事故による損害となると主張し、原告代表者も、上記主張に沿って、下記のとおり供述し(甲2、3、原告代表者)、さらに、その裏付けとして、原告のH社に対する支払の事実を立証趣旨とするB振出しの小切手(甲4の1、4の2)及びH社の領収書(甲5の1、5の2)を提出している。
(ア) 本件消滅事故後、原告は、H社との間で、本件ホームページの再構築を内容とする契約を締結した。
(イ) H社は、G社、J社等に対し、本件ホームページの再構築を下請けに出した。
(ウ) 原告は、H社から、前記(ア)の契約に基づく代金として、49万3500ドルの請求を受けた。
(エ) 本件ホームページの再構築費用49万3000ドルという数字は、ホームページ1頁当たりの平均再構築費用を1万ドルとして、それに本件ホームページの頁数47を乗じた上、さらに5パーセントの補助料を加えたものである。
(オ) 原告は、平成12年3月16日、H社に対し、上記請求の半額である24万6750ドルを小切手(甲4の1)を振出交付することにより支払った。
(カ) 原告は、平成12年4月24日、H社に対し、前記(ウ)の請求に対する月々の支払額である2万0562.5ドルを小切手(甲4の2)を振出交付することにより支払った。
(キ) H社は、原告から支払を受けた金額の一部を、ソフト会社等に対し支払っているはずである。
エ しかしながら、本件訴訟において、原告からは、総額49万3500ドル(5329万8000円)という再構築費用の具体的な内訳明細について、何ら明確な主張立証がされていない。そのため、相手方である被告に上記金額に対する反証の機会が十分に与えられなかったばかりか、当裁判所としても、上記金額が本件ホームページの再構築費用として相当な金額であるかにつき具体的に判断することができないから、上記金額を相当と認定することは困難である。
 この点について、原告代表者Bは、前記ウ(エ)のとおり、本件ホームページの1頁当たりの平均再構築費用が1万ドルであると供述するが、その具体的根拠については全く明らかにしていない。なるほど、原告代表者Bは、ホームページ1頁を作るのに安いものは数万円からできるが、建築用に専門的なものを折り込むのは数百万円から1000万円くらいかかるものがある旨供述するが、本件ホームページ1頁当たりの平均作成費用がほかならぬ数万円ではなく数百万円以上となることに対する具体的裏付けは全くないというべきである。
 かえって、原告は、本件ホームページが極めて高い価値を有し、上記のとおりその再構築に49万3500ドルもの費用がかかると主張しているのに、証拠(甲4の1、4の2、5の1、5の2、原告代表者)及び弁論の全趣旨と前記(1)ウの認定事実を総合すれば、原告は、H社からは、再構築費用の総額しか分からないような見積書及び請求書を受け取ったのみであり、その内訳明細を具体的に示すような見積書又は請求書を受け取ってはいないこと、原告とH社との間で契約書は交わされていないこと、平成13年6月に至っても、本件ホームページの再構築が完成したことを示す成果物はできていないこと、前記ウ(オ)及び(カ)の支払を示す証拠として提出された小切手(甲4の1、4の2)は、原告からH社に交付されたものであるが、同社は、原告と密接な関連をもつ会社であること、本件弁論準備手続において被告が原告に対し上記小切手が決済されたことを示す証拠の提出を求めたが、結局そのような証拠は提出されなかったこと(この事実は当裁判所に顕著である。)、前記ウ(オ)及び(カ)の支払を示す証拠として提出された領収書(甲5の1、5の2)には、同社の代表者Kの署名はなく、その妻であるRの署名がされているのみであること、同社はソフト作成会社ではなく、同社のみではホームページの構築はできないこと、Bは、同社がソフト会社等に対し対価の支払をしているかについては確かめていないことが認められる。
 これらの事実に照らせば、そもそも原告の主張する本件ホームページの再構築作業が、実体のあるものとしてかつ相当なものとして現実に進められたのか、原告が本件ホームページの再構築に必要な費用を現実に支出し、かつ、それが再構築作業の主体に真にその対価として渡ることになっているかについて、重大な疑問がもたれる。
 加えて、上述のような、再構築費用の内訳明細を示す見積書及び請求書や契約書、成果物等の不存在を前提に、前記1(7)に認定の事実経過をみると、原告は、自己の資金不足を補うために、本件消滅事故に藉口して、被告に対し過大な賠償額を請求している可能性さえ払拭することができず、その点からも、原告が主張する再構築費用額を相当な金額と認めるには躊躇される。
 このようにみてくると、本件再構築費用が5329万8000円であるとの立証はないといわざるを得ない。
オ しかも、原告代表者尋問の結果をも併せれば、原告が主張する本件ホームページの再構築費用の中には、本件ホームページのコンテンツ作成のためにログハウスを新たに組み立てる費用、それを取り壊す費用、ログハウスの建築過程を取材してそれを写真に撮る費用、図面を作成する費用等が含まれていること、その取材費、写真撮影費もかなりかかるとされていること、原告は、原告のオフィス内に残されたキャドデータを整理し直す作業を実行することは多大な時間を要するため不可能であるとして、G社に対して依頼したとする作業の中にキャド図面の作成も含ませていること、原告の主張によれば、本件ホームページを早く復元するためには、既存のキャドデータを用いて本件ファイルを作成し直すのではなく、写真の撮影や図面の作成を初めから行う必要があるとされていることが明らかである。
 しかしながら、証拠(乙第13号証、証人F、原告代表者。ただし、原告代表者の供述中後記採用しない部分を除く。)と前記1(3)オの認定事実によれば、原告の事務所内に写真データ、キャドデータは基本的にほぼ残されていること、一般にキャドデータの整理作業にはそれほど時間がかからないこと、本件ホームページの再構築は、既存のキャドデータを整理した上画像データに変換して本件ファイルを作成し直すことにより可能であることが認められ(原告代表者の供述中この認定に反する部分は採用できない。)、従前の取材結果や写真データを利用せず、とりわけログハウスをわざわざ新たに建築までして、最初から取材や写真撮影をやり直す方法を採ることに相当性があるとは到底認められない。
 したがって、本件再構築費用に原告主張のような上記費用を含めることは相当性を欠くといわざるを得ない。
 結局、キャドデータを画像データに変換する作業費を見積り、取材費及び写真撮影費を除外した本件見積書(前記1(8))の方が、本件再構築費用の見積りとして相当と評価でき、原告が前記ウ掲記の証拠に基づき主張する5329万8000円は、本件再構築費用の金額として相当なものとは認められないというべきである。
カ 以上を総合すれば、本件再構築費用が5329万8000円であるとの立証はないものといわざるを得ず、本件再構築費用につき404万円を超える損害を認めることはできない。
(2) 逸失利益について
ア まず、本件逸失利益は、本件消滅事故と因果関係のある損害として認められる。
 これに対し、被告は、本件ファイルが消滅し本件ホームページが使えない事態が生じたとしても、直ちに原告の営業がすべて停止することはあり得ないから、本件逸失利益は、本件消滅事故と相当因果関係にある損害には含まれない旨主張する。
 しかしながら、前記1(3)アに認定のとおり、原告が本件ホームページをその営業に利用していたことは疑いがなく、本件ホームページが原告の営業上の利益の発生に一定程度貢献していたことは否定し難いから、上記被告主張のような理由から本件消滅事故と本件逸失利益との相当因果関係を否定することはできない。
 もっとも、証拠(乙11、証人F)及び前記1(8)に認定の事実によれば、1週間で本件ホームページを再構築することが可能であると認められることから、本件消滅事故後約3か月という期間にわたる本件逸失利益は、本件消滅事故と相当因果関係をもつ損害の範囲を超えているのではないかが問題となり得る。
 しかしながら、本件ホームページの再構築作業自体は1週間で集中的に行うことが可能であるとしても、本件証拠に表れた諸般の事情と対比すると、本件消滅事故の状況の確認、その対応策の検討、本件ホームページの再構築を依頼する業者の選定、見積り、再構築作業の準備、本件ホームページ消滅に起因する顧客対応等に要する時間を考慮すれば、本件消滅事故後、原告の本件ホームページを利用した営業が従来どおり正常化するまで、原告の立場にあれば、通常であっても3か月程度の期間を要したと認められ、この3か月にわたる期間の逸失利益を本件消滅事故による損害とみることには相当性が認められるというべきである。
 したがって、本件消滅事故後3か月間にわたる本件逸失利益は、本件消滅事故と相当因果関係のある損害として認めることができる。
イ 次に、本件逸失利益の額をいかに算定すべきかが問題となる。
 この点に関する、原告の主張は、別紙契約が存在し、本件ホームページが別紙契約を成立に至らせるために必要不可欠であったことを前提とした上、本件消滅事故後3か月間もその前年同期と同等の売上があったことを前提とするものであるが、それらの前提についてはいずれもその事実を認めるに足りる証拠がない。
 したがって、本件逸失利益の額を原告主張のとおり8299万9324円と算定することは到底できない。
ウ 思うに、本件逸失利益の額は、次のように算定すべきである。
 すなわち、まず、本件逸失売上は、その期間は3か月と認められるので原告の年間売上高に4分の1を乗じ、さらに、原告の営業において本件ホームページが貢献している割合を乗じることによって算定すべきである。ここで、原告の年間売上高については、原告の平成12年3月期決算に関する資料が証拠として提出されていない以上、より客観性を求めるために、前記1(1)アに認定の原告の平成9年3月期、平成10年3月期及び平成11年3月期の各決算における売上高の平均値を用いるのが相当である。そして、証拠(甲3、原告代表者)によれば、本件消滅事故前は、本件ホームページに毎月150件のアクセスがあり、原告は、その中から魅力のある新顧客を獲得していたこと、それに対し本件消滅事故後は、原告は、新顧客を毎月10件足らずしか獲得していないこと、別紙契約の8割は本件ホームページへのアクセスを契機とするものであったこと、原告は、本件消滅事故後、従前契約していたものの約80パーセントについて履行ができなかったこと、原告の売上は、本件消滅事故により、決算上は銀行対策のため60パーセント減少した形がとられているが、Bの把握では実際には80パーセント減少したことなどが一応認められるから、原告の営業において本件ホームページが貢献している割合については8割と認めるのが相当と考えられる。
 以上の方法で計算すると、本件逸失売上は、次式のとおり、7079万6733円となる。
 (340,086,000+427,922,000+293,943,000)÷3×1/4×0.8=70,796,733
 次に、本件逸失利益は、本件逸失売上に対応する売上総利益(粗利益)の減少として把握される。本件逸失売上分の売上高減少に伴って、売上原価は減少するのに対し、販売費及び一般管理費、営業外収益並びに営業外費用等は増減の影響を受けないと考えられるからである。したがって、本件逸失利益は、(ア)原告の平成9年3月期、平成10年3月期及び平成11年3月期の各決算における売上総利益の平均値と(イ)そこから本件逸失売上が抜けた場合の売上総利益とを比較し、その差額として算定すべきである。
 そこで計算すると、上記(ア)については、上記3決算期の平均は、@売上高3億5398万3666円(=(340,086,000+427,922,000+293,943,000)÷3)、A売上原価3億0053万3666円(=(272,611,000+388,344,000+240,646,000)÷3)、B売上総利益5345万円(上記@−A)、上記(イ)については、@売上高2億8318万6933円(ただし、本件逸失売上額7079万6733円を減額した。)、A売上原価2億4042万6933円(ただし、売上高が減少した割合に応じて売上原価を6010万6733円(=(300,533,666×(1-283,186,933÷353,983,666))減額した。)、B売上総利益4276万円(上記@−A)と算出されるから、結局、(ア)及び(イ)における売上総利益の差額(減少額)である1069万円が本件逸失利益の金額となる。
エ よって、本件逸失利益は1069万円と認められる。
(3) 損害額
 (1)及び(2)によれば、原告が本件消滅事故によって被った損害は、合計1473万円と認められる。
5 争点(4)(過失相殺ー原告の過失の有無及び程度)について
(1) 証拠(甲2、3、原告代表者)及び前記1における認定事実によれば、次の事実が認められる。
ア 原告代表者Bは、本件ホームページについて、原告の過去のノウハウのすべてを集約させたものであり、業界でも最大級の情報量を有する営業上非常に重要なものであると認識していた。
 原告における本件ホームページの担当者であったNも、本件ホームページが非常に重要だということは認識していた。
イ 原告代表者Bは、もともとハードウェアの技術に関する専門家であり、ホームページにハッカー等が侵入するなどしてホームページが改変、破壊される危険があることについても認識していた。
ウ 原告が本件パソコンから本件ファイルを被告のサーバーに転送した後、本件ファイルの元となったファイルは自然に本件パソコンに保存された。
エ 原告は、フロッピーディスクやCD−ROM、MO(光磁気ディスク)等を用いて、あるいはバックアップ用のハードディスクを購入することによって、比較的廉価かつ容易に、本件ファイル内容につきバックアップをとることができた(なお、この事実及び本件ファイルのバックアップが必要であったことについては、原告代表者も自認しているところである。)。
オ 原告は、前記エの方法によるなどして本件ファイル内容につき常時バックアップをとることはしておらず、結局、本件消滅事故当時、原告による本件ファイル内容のバックアップデータは残っていなかった(なお、この点につき、原告代表者は、本件消滅事故前に本件ファイルのコピーを二重にフロッピーディスクにとるよう従業員に指示した旨供述するが、その供述内容はあいまいな上、二重にも残されたはずのコピーがそろって失われたというのも不自然で、にわかには採用し難く、直ちに本件ファイルの内容がフロッピーディスクに現実に保存されたものと認めることはできない。しかも、仮にそこでフロッピーディスクに保存されたものだとしても、Bの供述によれば、そのフロッピーディスクは原告側の手により紛失したというのであるから、いずれにせよ、本件ファイルの内容を保存したフロッピーディスクは本件消滅事故当時利用可能な状態で存在しなかったことに変わりはない。)。
カ 本件パソコンが平成12年1月頃故障(クラッシュ)した際、原告側が同コンピュータを初期化したため、同コンピュータに保存されていた、本件ファイルの元となったファイル(前記ウ参照)が消滅した。
 原告は、その時から本件消滅事故までの間に、FTPソフトを用いて、被告のサーバー内にあった本件ファイルを自己のハードディスク上に転送することにより、数分間のうちにデータの回復を図ることができたが、そのようなことは行わなかった。
キ もともと、被告が本件作業を行った理由は、ホームページにハッキング、クラッキングの事故が多発したからであった。
ク 原告は、本件消滅事故の後、被告から、原告の下に残されたキャドデータ等を使って本件ホームページの再構築に協力したいとの申出を受けたのに、この申出を拒絶し、残されたキャドデータを見せることもしないまま、原告の側において米国で本件ホームページの再構築作業を進めたいと答えた。
(2) 前記(1)に認定の事実を総合すると、原告は、本件ファイルの内容につき容易にバックアップ等の措置をとることができ、それによって前記4の損害の発生を防止し、又は損害の発生を極めて軽微なものにとどめることができたにもかかわらず、本件消滅事故当時、原告側で本件ファイルのデータ内容を何ら残していなかったものと認められる。
 そして、本件においては、被告の損害賠償責任の負担額を決するに当たり、この点を斟酌して過失相殺の規定を適用することが、損害賠償法上の衡平の理念に適うというべきである。
(3) これに対し、原告は、プロバイダー業者である被告によって本件ファイルがサーバー内から消滅させられることを原告が予見することは不可能であり、それを予見すべきであったとはいえないから、バックアップをとる作為義務を法的義務として認めることはできないし、その不作為を法的な意味での過失とまではいえないと主張し、過失相殺の適用は否定されるべきであると主張する。
 しかしながら、過失相殺を適用するに当たっては、原告に本件ファイルの消滅という結果発生に対する予見可能性が認められれば十分であって、その結果に至る因果経過として、被告の本件注意義務違反により本件ファイルが消滅したことに対する予見可能性までは必要ないと解すべきである。
 本件では、前記(1)イのとおり、原告代表者Bは、ホームページにハッカー等が侵入する危険について認識していたことが明らかであり、また、原告は、インターネット通信には情報の改変、破壊の危険があり、その危険は予見可能であったことを認めているのであるから、原告は、インターネット通信固有の原因により本件ファイルが消滅する危険は予見していたと判断され、本件ファイルの消滅という結果発生に対する予見可能性が十分に肯定され、過失相殺の適用を肯定する上での支障は到底認められないものと解される。
(4) 前記認定の、原告の過失(前記(1)、(2))の内容及び程度に、被告の過失の内容及びその程度、原告の損害の額、その他本件に表れた諸般の事情を斟酌すれば、過失相殺として原告の損害(前記4)の2分の1を減額するのが相当であると認められるから、被告が原告に対し賠償すべき金額は、736万5000円となる。
6 争点(5)(本件約款34条の適用の肯否)について
 本件約款34条は、契約者が被告のインターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも、被告は、本件約款30条の規定によるほかは責任を負わないことを定めているが、その本件約款30条は、契約者が被告から提供されるべきインターネットサービスを一定の時間連続して利用できない状態が生じた場合に、算出式に基づいて算出された金額を基本料月額から控除することを定めているにすぎない。
 これらの規定の文理に照らせば、本件約款30条は、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して利用不能となったケースを想定して免責を規定したものと解すべきであり、本件約款34条による免責はそのような場合に限定されると解するのが相当である。
 実質的にも、被告の積極的な行為により顧客が作成し開設したホームページを永久に失い損害が発生したような場合についてまで広く免責を認めることは、損害賠償法を支配する被害者救済や衡平の理念に著しく反する結果を招来しかねず、約款解釈としての妥当性を欠くことは明らかである。
 本件は、前述のとおり、被告の本件注意義務に違反する行為によって原告が作成開設したホームページを喪失して損害を被ったと認められる事案であり、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して不能となった場合には当たらない。
 よって、本件約款34条は、本件には適用されないと解すべきである。
第4 結論
 以上によれば、被告が原告に対し負担すべき損害賠償責任の額は736万5000円であり、それに対して既に被告は原告に対し本件覚書に基づき3000万円を支払っているから、甲事件における原告の請求は理由がなく、また、乙事件における被告の請求は、仮払契約に伴う清算の合意に基づいて2263万5000円の清算金及びこれに対する乙事件訴状送達日の翌日である平成12年9月19日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第16部
 裁判長裁判官 成田喜達
 裁判官 宮健二
 裁判官 笹本哲朗


(別紙契約目録添付省略)
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