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【事件名】アンケート結果の誤用事件(2) 【年月日】平成13年9月27日 高松高裁 平成12年(ネ)第409号 慰謝料等請求控訴事件 (原審・松山地裁平成11年(ワ)第361号) 判決 主文 1 本件各控訴(当審での追加請求を含む。)を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人A及び被控訴人株式会社講談社(以下「被控訴人講談社」という。)は、各自、控訴人らに対し、別紙請求金員目録(掲載省略)記載の各金員(ただし、控訴人B及び同Cに対してはそれぞれ金10万円)及びこれらの各金員に対する平成10年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人らは、控訴人らに対し、原判決別紙目録記載一の謝罪広告を朝日新聞の全国版朝刊に、同目録記載二の掲載条件で1回掲載せよ。 4 被控訴人らは、原判決別紙目録記載三の書籍(以下「本件書籍」という。)の印刷、製本、販売及び頒布をしてはならない。 5 被控訴人らは、既に出版した本件書籍を回収しなければならない。 第2 当事者の主張 1 原判決の引用 当事者の主張は、以下のとおり補正するほか、原判決事実摘示(3頁4行目から12頁8行目まで)のうち、控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決10頁4行目「不法行為に加担し」の次に「、発行責任者としての独自の責任を放棄して」を加える。 (2) 同10頁10行目の「慰謝料各一〇万円」を「慰謝料として別紙請求金員目録記載の各金員(ただし、控訴人B及び同Cに対してはそれぞれ金10万円。これは、同控訴人両名が当審でなされた請求の趣旨拡張申立書の陳述をしていないためである。)」に改める。 2 控訴人らの当審新主張、補充主張 (1) 被侵害利益についての整理 控訴人らが被侵害利益として主張する人格権の内実を、敷衍、整理すると次のとおりである。 ア 名誉権の侵害(社会的評価の低下) 本件記述は、四国フォーラムの本件アンケートについての記述であることが容易に理解できるものであるところ、本件アンケートの結果を誤って記述した上、四国フォーラムの本件アンケートがあろうことか逆に死刑執行再開のお墨付きを与えたかのように誤解させるものであった。これは、四国フォーラムに関与した控訴人らの社会的評価を低下させ、名誉を著しく毀損するものである。 イ 思想及び良心の自由の侵害 控訴人らの四国フォーラムにおける活動は、「人を殺したくない」という各個人の人生観、価値観、生命そのものに深く根ざした内的な欲求、思想に基づくものである。控訴人らの死刑廃止への願いは、決して「感情」などというものでなく、思想そのものであり、本件記述は、これを侵害するものである。 ウ 名誉感情の侵害 控訴人らの被侵害利益が仮に「感情の領域」に属するものであったとしても、控訴人らの思想及び良心の自由と密接に関連するものであり、保護されるべき法益として、高いランクに位置づけられるものである。 エ 内心の静穏な感情を害されない利益の侵害 原判決が控訴人らの被侵害利益として想定、理解した「内心の静穏な感情を害されない利益」についても、当審で改めて被侵害利益として主張する。 オ プライバシー権(自己情報コントロール権)の侵害 本件記述は、四国フォーラムの本件アンケート結果を誤って引用し、本来死刑執行を抑制する方向で用いなければならないのに、全く逆に執行再開を正当化するために悪用している。これは、控訴人らのプライバシー権、すなわち、ある事実を公表することによって他人に自己の真の姿と異なる印象を与えることをされない権利、自己に関する個人情報をコントロールする権利を侵害するものである。 カ 著作権の侵害 本件アンケートは、死刑制度についての社会意識を調査するものであって、社会学的意味合いを持った著作物である。本件記述は、アンケート調査という著作物にとって生命といえるアンケート結果を自己目的のために虚偽の内容に改変して引用したもので、著作権法32条1項に違反する違法な引用である。控訴人らは、同法112条に基づき、被控訴人講談社に対し、本件書籍の絶版・回収を請求する。また、被控訴人らの行為は、控訴人らの著作者人格権を侵害するものである(同法113条5項)。 (2) 被控訴人らの侵害行為についての補充 控訴人らは、平成9年8月から10月にかけて、被控訴人らに対し、本件アンケートの事実を示し、本件記述は事実を誤認しているのではないかと指摘した。ところが、被控訴人らはこれを無視した。たまりかねた控訴人らからの数回の電話連絡に対し、被控訴人らは、今度は他に責任を押し付け合い、その場を逃れようとした。 控訴人らが本件訴訟を提起し、多数の資料を書証として提出した後も、被控訴人らは誤りを認めず、被控訴人Aに至っては、自らは「いわゆる著者ではない」とし、また「形式的な著者ではあるが実質的な著者ではない」として、責任をDやEに押しつけて逃れようとした。そして、原判決が「本件記述における『四国四県の県庁所在地で行った世論調査』とは、本件アンケートのことを指すものであ」るとした後も、被控訴人らは、謝罪をせず、本件記述を訂正した形跡も見られない。つまり、被控訴人らは、虚偽を認識した上で本件書籍の販売を続けている。 これらの被控訴人らの極めて不誠実な一連の対応も控訴人らへの侵害行為に当たる。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因1ないし3(当事者関係、四国フォーラムの性格・内容、開催経過等、本件アンケートの実施、内容等、執行再開)についての当裁判所の認定判断は、原判決「理由」一ないし三(12頁10行目から14頁4行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決14頁1行目「請求原因事実3(一)」を「請求原因事実3」に改め、同頁4行目「執行されたことこと」を「執行されたこと」に改める。 2 請求原因4(被控訴人Aの責任)について (1) 請求原因4(一)(本件記述の内容)、(二)(本件アンケートと本件記述との関係等)についての当裁判所の認定判断は、原判決「理由」四1、2(14頁6行目から15頁9行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。 ただし、15頁8行目「可能性のある」を削る。 (2) 同4(三)(被控訴人Aの控訴人らに対する人格権の侵害)について 当裁判所も、結論としては、被控訴人Aによる本件記述によって控訴人らの人格権が違法に侵害されたと認めることはできず、これについて不法行為が成立するものではないと判断する。以下、当審で整理された控訴人らの被侵害利益の主張に即して、その理由を述べる。 ア 名誉権について 名誉とは、各人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値につき、社会から受ける客観的評価をいうものであるところ、本件記述が控訴人らの社会的評価の低下をもらたすものとは認められない。 本件記述は、本件アンケートの結果について誤った言及をしたものであるが、控訴人ら個人はもとより、本件アンケートを実施した四国フォーラムに対して言及したものでもない。そして、本件アンケートは、死刑制度に対する社会意識を調査することを目的としたものであり、本件アンケートによる調査で得られたアンケート結果は、対象者の回答結果の集成としてのデータである。このような調査結果としてのデータにとどまる本件アンケートの結果に対する言及が誤って行われたとしても、そのことによって直ちにアンケートを実施した主体である団体やこれに関与した個人の社会的評価に低下をもたらすものとはいい難い。したがって、本件記述により控訴人らの名誉が毀損されたと認めることはできない。 イ 思想及び良心の自由について 思想及び良心の自由は憲法19条で保障された基本的人権である。そして、私人間においても、他人の内心における思想・信条等にみだりに干渉したり、一定の思想を持つが故に殊更にその者に対して不利益な処遇を行うなどの行為は、民法上違法な行為として不法行為を構成することがあり得ると解される。 しかし、本件記述によって、控訴人らの思想及び良心の自由が侵害されたと認めることはできない。本件記述は、本件アンケートの結果について誤った言及をしたものであり、死刑制度に対する賛否に関しての社会の意識についての1つの調査結果に対して誤った認識を示すものであるとはいい得る。しかし、本件記述自体は、アンケート対象者の死刑に対する賛否の割合について言及したにとどまり、死刑廃止等を願う思想そのものに対する干渉的意見を述べるものではなく、まして、死刑制度についての控訴人らの思想等の内容に関して一切触れるものではない。また、本件書籍は本件アンケートの実施、結果発表から6年近くを経過した平成10年に発行されたものであり、アンケートの特定もあいまいで控訴人らや四国フォーラムの思想・信条に基づいた活動に対する妨害をしたり、その成果を抹殺しようとしたものとも認め難い。そうすると、本件記述により、控訴人らの内心における思想・信条等に対する干渉がされたとか、死刑廃止を願う控訴人らに対して不利益な取扱がされた等の事実は認められず、控訴人らの思想及び良心の自由が侵害されたとは到底いえない。 ウ 名誉感情について 不法行為法上、名誉感情とは、自己自身の人格的価値について自ら与える主観的評価を意味するものと解される。 前示のとおり、本件記述は、本件アンケート結果について誤った言及をしたものであるが、これは、アンケートの結果得られた対象者の死刑制度に対する意識に関するデータに対して言及したにとどまり、本件アンケートを実施した四国フォーラムはもとより、控訴人ら個人又はその行為に言及したものではない。したがって、本件記述は、控訴人ら自身の人格的価値についての主観的評価とは関係しないものというべきである。そうすると、本件記述が控訴人らの名誉感情を侵害したとの主張も採用することはできない。 エ 内心の静穏な感情を害されない利益について (ア) 上記アないしウのとおり、本件記述は、控訴人らの名誉権、思想及び良心の自由、名誉感情を侵害するものとはいえない。しかし、本件記述は、本件アンケートの結果が、死刑を存置すべきとの意見が約7割であったとする政府機関による平成元年の世論調査の結果と同様であったとの誤った認識を示し、これも踏まえて被控訴人Aが死刑廃止は時期尚早であるとの考えを有するに至ったことを読者に認識させる内容であった。これにより、死刑廃止ないし死刑執行ゼロの状態の継続を求め願って本件アンケートを実施した四国フォーラムに関与してきた控訴人らが、憤怒等の感情を抱いたことは容易に窺われる。 ところで、一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を十分に図る必要があるから、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである(最高裁判所昭和61年(オ)第329号、第330号・平成3年4月26日第二小法廷判決・民集45巻4号653頁参照。なお、同判決は、水俣病患者認定申請をした者が相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという利益について、それが内心の静穏な感情を害されない利益として不法行為法上の保護の対象になるとの判断を示したものである。)。 控訴人らが本件記述によって抱いたと考えられる憤怒等の感情に関し、これを抱かされないという利益が、上記最高裁判決の事案における水俣病認定申請者の例と同様に「内心の静穏な感情を害されない利益」として法的保護に値する利益といえるかどうかについては、水俣病認定申請者の場合には、難病として特殊の病像を持つ水俣病に罹患している疑いのまま不安定な地位に置かれ、他の行政認定申請の申請者にはみられないような異種独特の深刻な焦燥、不安の気持ちを抱くと考えられるという特殊事情が存することと対比すると、疑念が残るところである。しかし、この点をひとまず措き、本件に関して控訴人らに法的保護に値する「内心の静穏な感情を害されない利益」があるとしても、そのような利益は、侵害があれば直ちに不法行為が成立するものではなく、侵害行為の態様、程度いかんによって不法行為が成立する余地があるにとどまるものと解される。 (イ) そこで、上記(ア)のような観点から、被控訴人Aの行為が控訴人らの「内心の静穏な感情を害されない利益」を違法に侵害する不法行為を構成するか否かについて検討するに、当裁判所も、同不法行為は成立しないと判断する。その理由は、以下のとおり補正するほか、原判決「理由」四3(三)(19頁6行目から27頁5行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。そして、この判断は、控訴人らの死刑制度廃止についての強い願いや信念及び四国フォーラム等を通して行ってきた熱心な活動等の点を考慮に入れても、変わらない。 a 原判決19頁6行目「そこで」から7行目「検討するに、」までを削る。 b 同26頁3行目「さらには」から8行目「考えられること」までを次のとおり改める。 「したがって、C本件記述の内容から、本件記述で言及された『民間がやった』調査が、四国フォーラムの実施した本件アンケート結果についてのものであると認識する読者は多くはないと考えられること」 c 同26頁10行目「妨害しようとした」を「妨害しようとしたり、その成果を抹殺しようとした」に改める。 d 同26頁末行「被告Aの」から27頁5行目末尾までを次のとおり改める。 「被控訴人Aの行為が、仮に死刑制度の廃止を強く願ってきた控訴人らの内心の静穏な感情を害されない利益を侵害したとしても、その侵害の態様、程度が客観的にみて悪質又は重大なものということは困難であり、社会的相当性を逸脱した違法なものということはできない。(なお、前記(1)ウの回答書によれば、『それがまた同じなんだ』との記述は、反対者の数が過半数に達していなかったとの意味を述べたものであるとのことである。たしかに、前示の法務委員会での答弁を合わせ考えると、被控訴人Aは、死刑の執行を法務大臣の職責と考えつつも世論の動向等をも注視していたところ、本件アンケートをみて、死刑をいらないとする意見は39%にとどまったことの方に注目して、死刑廃止を求める声が大勢にはなっていないと判断したものと推認される。しかし、前後の文脈からすると、本件書籍の読者が『それがまた同じなんだ』との記述を前記回答書に記載のような意味に理解するのは困難であると考えられる。)」 オ プライバシー権(自己情報コントロール権)について プライバシーの権利については、その1つの内容として、みだりに私生活に干渉されず、また、みだりに私生活上の事実を公開されない権利として定義することが可能であるが、さらに情報社会が発展した今日においては、個人情報のコントロールの観点から、他人が保有する個人情報の収集・蓄積・処理・利用・公表等による被害に対し救済を求めることをも、プライバシー権の範疇に属するものとして理解することが可能である。 控訴人らは、ある事実を公表することによって他人に自己の真の姿と異なる印象を与えることをされない権利ないし自己に関する個人情報をコントロールする権利としてプライバシー権を把握した上で、本件記述によりかかる意味でのプライバシー権の侵害がなされたと主張するものである。すなわち、控訴人らは、四国フォーラムが実施した本件アンケート結果では死刑は不要という意見が死刑は必要という意見を上回っていたにもかかわらず、本件記述においては、本件アンケート結果では死刑廃止に反対との意見が多かったとの誤った情報として公表されているという点をとらえて、それがプライバシー権の侵害に当たると主張するものと理解される。 しかしながら、プライバシー権を情報をコントロールする権利としての内容を含むものとして理解する場合であっても、それは、個人の私生活上の平穏を確保し、個人の私事における人格的自律を保障するための権利として理解するのが相当である。このように解しないときは、情報コントロール権としてのプライバシー権の外延が著しく広がり、権利自体が茫漠とした内実を伴わないものとなってしまうといわざるを得ない。したがって、個人が何らかの形で関与した社会生活、社会活動等についてのあらゆる情報の公表等に関連して、それによって生起する不利益が、プライバシー権の概念のもとに法的救済の対象になるものと解することはできない。そして、本件アンケートの結果は、アンケートに応じた回答者の死刑制度に対する賛否等の回答の集成としてのデータであり、控訴人ら個人の識別を可能ならしめるような情報ではなく、控訴人らの私生活上の情報に当たるともいい難い。たしかに、本件アンケートの結果は、控訴人らが関与した四国フォーラムが実施したものであり、その限りでは控訴人ら個人との関わりを有するものである。しかし、そのことだけで、本件アンケートの結果が、控訴人らの私生活上の平穏や人格的自律に結び付いた個人情報に当たるとはいえず、情報をコントロールする権利としてのプライバシー権の概念のもとに、他人によるこれの利用に関して法的救済を与えることはできない。したがって、本件記述が本件アンケートの結果について誤った言及をしていることは、控訴人らのプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害するものとはいえない。もとより、自ら関与した四国フォーラムが行った(少なくとも一部の控訴人らについては現実に作業に従事した)本件アンケートの結果について誤った言及をされることに対して、控訴人らが主観的に自己の法益が侵害されたと受け止めることは理解できるところである。しかし、それは、プライバシー権の問題としてではなく、控訴人らの主観的感情の領域の問題に対してどの程度の法的保護が及ぶかという点から検討すべきものである。そして、その結論は、既に上記エまでにおいて示したとおりである。 カ 著作権について 著作権法上、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そして、アンケ−トについても、その質問形式等に、思想・感情が包含され、かつ、他にない創作性が伴うものであれば、これが著作物に当たる場合もあり得ると考えられる。しかし、アンケートの結果そのものは、対象者の回答の集成としてのデータに過ぎず、これに対して一定の考え方のもとに創意工夫をもって整理、分析する等の表現がなされない限り、直ちに著作物に当たると認めることはできない。 そして、四国フォーラムの会場で発表された本件アンケートの結果の内容は、単に「死刑は必要」「死刑は不要」「わからない」との回答の人数及び割合を示したものにとどまる。したがって、仮に本件アンケートの質問形式、アンケート用紙等が著作物に当たると解する余地があるとしても、本件アンケートの結果自体はデータに過ぎず、創作性を備えた著作物と認めることはできない。また、本件記述は、本件アンケートの結果について、政府の世論調査と「同じなんだ。死刑廃止に反対なんだ」と述べるものに過ぎない。すなわち、本件記述は、社会的事象としての本件アンケートの実施結果に言及するものに過ぎないのであり、これをもって著作物の引用に該当するとはいい難い。 したがって、本件記述が控訴人らの著作権を侵害するものであるとの控訴人らの主張も採用できない。 3 請求原因5(被控訴人講談社の責任)について 上記2で検討したとおり、被控訴人Aに控訴人らに対する不法行為が成立するものではないから、被控訴人講談社が被控訴人Aの不法行為に加担したことを根拠にする控訴人らの請求は、理由がない。 また、発行責任者としての被控訴人講談社独自の責任を根拠にする請求についても、少なくとも控訴人らの主張する被侵害利益のうち、内心の静穏な感情を害されない利益を除いては、本件記述による侵害があったと認められないことは、前示2(2)で示したとおりである。そして、仮に控訴人らの被侵害利益として「内心の静穏な感情を害されない利益」が認められるとしても、前示2(2)エ(イ)で原判決を補正して引用して示した事実及び被控訴人Aの行為についての評価、判断、とりわけインタビューをもとに官僚、政治家としての被控訴人Aの多年の経験を公有化していこうとする取り組みの成果を表そうとする本件書籍の性格や、本件記述で言及されている本件アンケートの特定自体があいまいで実施者についてすら触れられておらず、被控訴人A以外の者が本件記述自体からその内容に誤りがあるとの疑いを持つことは困難であると考えられること等に鑑みれば、発行責任者である被控訴人講談社の行為が、独自に控訴人らに対する不法行為を構成すると認めることは到底できない。 したがって、控訴人らの被控訴人講談社に対する人格権侵害を根拠にする請求は、いずれにせよ理由がない。 4 被控訴人らの不誠実な対応を理由とする損害賠償請求について 前示のとおり、本件記述が控訴人らに対する不法行為を構成するということはできない。そうであれば、被控訴人らが、控訴人らから本件記述について抗議等を受けたとしても、これに積極的に応じるべき不法行為法上の具体的な作為義務があるということはできない。もとより、書籍に不実ないし不適切な記載があった場合において、関係人から抗議等があったときには、著者及び出版社としては、これに誠実に対応することが望ましいのであり、そうすることが著者及び出版社の社会的責任であるともいい得るが、これをもって法律上の義務とまで認めることはできない。したがって、控訴人らが指摘する被控訴人らの対応が控訴人らに対する不法行為に該当するとの控訴人らの主張は理由がない。 5 結論 以上によれば、控訴人らの請求はすべて理由がないから棄却すべきものである。よって、原判決は相当であり、本件各控訴(当審での慰謝料増額の追加請求を含む。)は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 高松高等裁判所第2部 裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 田中俊次 裁判官 朝日貴浩 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