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【事件名】ドメイン名の使用差し止め事件(JACCS)(2)
【年月日】平成13年9月10日
 名古屋高裁金沢支部 平成12年(ネ)第244号、平成13年(ネ)第130号 不正競争行為差止等請求控訴事件、
 同附帯控訴事件
 (原審・富山地裁平成10年(ワ)第323号)
 (口頭弁論終結日 平成13年6月20日)

判決
控訴人(附帯被控訴人) 有限会社日本海パクト
同訴訟代理人弁護士 青島明生
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社ジャックス
同訴訟代理人弁護士 北村晴男
同 加藤信之
同 越谷哲成
同 佐野周造


主文
1 本件附帯控訴に基づき、原判決主文第2項を次のとおり変更する。
2 控訴人は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「jaccs.co.jp」を使用してはならない。
3 本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(控訴の趣旨)
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(附帯控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件附帯控訴を棄却する。
(2) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
(附帯控訴の趣旨)
(1) 原判決主文第2項を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「jaccs.co.jp」を使用してはならない。
(3) 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、「JACCS」という表示を用いて営業活動を行っている被控訴人が、インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をしていた控訴人に対して、控訴人による上記ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当するとして、上記ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における上記表示の使用の差止めを求めた事案である。
2 原審は、被控訴人の請求をすべて認容したため、これを不服とする控訴人(1審被告)が本件控訴に及んだ。これに対し、被控訴人は、上記ドメイン名をホームページのアドレスとしてのみならずメールアドレスとしても使用することの禁止を求めるために、控訴人による社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「jaccs.co.jp」の使用の差止めを求める附帯控訴をした。
 なお、控訴人は当審において、原審が認容した、ホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することの差止めを求める請求(原判決主文第1項)について認諾した。したがって、当審において審理の対象となるのは、控訴人が登録を受けたドメイン名「jaccs.co.jp」の使用の差止請求の当否だけである。
3 前提となる事実(括弧内に証拠等を示した部分以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 被控訴人は、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、控訴人は、簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする有限会社である。
(2) ドメイン名について
 ドメイン名とは、インターネットに接続しているコンピューターを認識する手段であり、IPアドレスという32ビットで構成された数字列を利用しやすいようにアルファベット文字で表現したものである。インターネット利用者は、ドメイン名を入力することによって、特定のホームページ等に到達することができる。
 ドメイン名については、各国のネットワークインフォメーションセンターが一元的に割当てを管理しており、国際的な一意性を保障するために先願主義の原則が採用されている。日本においては、JPNICがドメイン名の割当てを管理しており、一般の企業に割り当てられるcoドメインについては、申請者が法人登録していること、申請ドメイン名が既存のドメイン名と一致しないこと及び原則として1組織1ドメインであることの条件を満たす場合に割り当てられ、完全な先願主義が行われている。この場合、ドメイン名と企業の商号との一致は要求されておらず、ドメイン名については申請者がそれぞれ自由に決定して申請し、上記基準が満たされれば、JPNICは原則として申請どおりの割当てをしている。また、ドメイン名に用いることのできるのはA〜Zとa〜zの英字と0〜9の数字及び−(ハイフン)のみという制約がある。ドメイン名は、例えば、インターネットのホームページアドレスとして、「http://www.abc.co.jp」のように表記されることがあるが、この場合、「jp」の部分が第1レベルドメインであり、上記例では日本を意味し、「co」の部分が第2レベルドメインで登録者の組織属性を示しており、上記例では一般企業を意味し、「abc」の部分が第3レベルドメインで登録者を示し、「http://www.」の部分は通信手段を示している。
(3) 控訴人によるドメイン名の登録
 控訴人は、平成10年5月26日、JPNICにより、「jaccs.co.jp」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割当てを受け、同ドメイン名が登録された(甲3号証)。
(4) 控訴人によるホームページの開設
@ 控訴人は、平成10年9月ころ以降、本件ドメイン名に通信手段を示す部分を付加した「http://www.jaccs.co.jp」というホームページアドレスで、原判決別紙ホームページ画面(1)記載のホームページを開設した(甲13号証、弁論の全趣旨)。同画面には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、同リンク先の画面において、控訴人の扱う簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。
A 控訴人は、その後、同ホームページの画面を原判決別紙ホームページ画面(2)記載のとおりに変更し、「ようこそJACCSのホームページへ」中の「JACCS」の下に「ジェイエイシーシーエス」とふりがなを記載するなどした。
B 原審口頭弁論終結時(平成12年7月19日)における控訴人のホームページの画面は、原判決別紙ホームページ画面(3)記載のとおりであり、画面上に「JACCS」の表示はない(弁論の全趣旨)。
4 争点
(1) 本件ドメイン名の使用が、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か。
(2) 同法2条1項2号のその他の要件に該当するか否か。
@ 被控訴人の営業表示の著名性
A 本件ドメイン名と被控訴人の営業表示との同一又は類似性
(3) 同法2条1項1号のその他の要件に該当するか否か。
(4) 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か。
5 争点に関する当事者の主張
(1) 被控訴人の主張
@ 被控訴人は、「ジャックス」の商号を昭和51年から継続して使用しており、被控訴人が発行するクレジットカードや被控訴人従業員の名刺等にはすべて原判決別紙商標1記載の商標(以下「本件商標」という。)を付している。また、全国ネットでテレビコマーシャルを流したり、新聞において広告すること等により、「JACCS」は、被控訴人の営業表示として、全国的にかつ本来の需要者を超えて知られるようになっており、周知かつ著名となっている。
A 不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等表示」とは、商品の出所又は営業の主体を示す表示を指すところ、ドメイン名は、本来的には、特定のコンピューターのアドレスを表すものではあるが、無作為の文字集合ではなく、その登録者によって意図的に選択されたものであり、通常その者の名称等を反映したものであることはインターネット利用者にはよく知られたことであるから、事実上、登録者やその商品・役務を識別する機能も有している。
 そして、控訴人は、被控訴人に対し、本件ドメイン名を法外な値段で譲渡又は賃貸して金銭的利益を獲得する目的で本件ドメイン名を取得したものであること、控訴人は自らの営業に資するために、本件ドメイン名を利用しホームページを開設していると推測されること、並びに本件訴訟提起前において、控訴人は、本件ドメイン名のもとに開設したホームページ上で控訴人が販売する商品(携帯電話、簡易トイレ等)の宣伝をしており、現在においても控訴人のホームページのリンク先においては、靴等の宣伝がされていること等の諸点に鑑みれば、控訴人が本件ドメイン名のもとにホームページを開設していることは、本件ドメイン名を「商品等表示」として「使用」していると解することができる。
B 本件ドメイン名は、被控訴人の営業表示「JACCS」を小文字にしたにすぎず、被控訴人の営業表示と同一又は類似である。
C 前記のとおり、ドメイン名は、特定のコンピューターのアドレスを表す機能を有するにとどまらないこと、「営業」とは、単に特定の商品やサービスの販売、提供、宣伝にとどまらず、企業自体の宣伝も含むところ、本件ドメイン名のもとでのホームページにおいて「JACCS」と表示されていれば、インターネットの利用者はこれを被控訴人又は被控訴人関連企業が行っているものと誤認すること、並びに実際に上記ホームページにおけるリンク先では特定の商品等の宣伝がなされていることからすれば、控訴人が本件ドメイン名を使用して同ホームページを開設していることが、被控訴人の営業と混同を生じさせると認められる。
D よって、控訴人の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争行為に該当し、被控訴人は、控訴人の同不正競争行為により営業上の利益を侵害されるおそれがあるから、同法3条1項に基づき、控訴人の本件ドメイン名の使用の差止めを求める。
(2) 控訴人の主張
@ ドメイン名は、元来、特定のコンピューターのアドレスを表すものであり、インターネット利用者は、これを手がかりとしてホームページに到達するにすぎない。また、到達した先のホームページでは、たとえcoドメインであっても、営業的な内容もあれば公益的な内容や趣味的な内容もあり、千差万別で、coドメインだからといって営業の表示であるとは限らない。また、到達したホームページにおいて特定の商品・サービスが表示されている場合でも、ドメイン名は表示画面上のごく一部を占めるにすぎないアドレス等欄に小さく表示されているだけで、しかも、この欄は商品・サービス内容が表示されているページ画面とは離れて別構成となっている部分に表示されるにすぎないから、商品・サービス等の出所を示すものとして機能しているとはいえない。
A ドメイン名が、アドレス表示としての機能のみならず、事実上、登録者やその商品・サービスを識別する機能をも有する場合があるとしても、ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」となるかどうかについては、ドメイン名の使用形態やアクセスされるホームページの表示内容等から総合的に判断すべきである。
 本件においては、控訴人の原審口頭弁論終結時(平成12年7月19日)のホームページの状況は原判決別紙ホームページ画面(3)のとおりであり、このホームページには「JACCS」とは別個の識別標識が明瞭に表れており、ドメイン名の識別機能は注目されなくなっているし、同ホームページは、商品の表示を行っておらず、リンク先の他のホームページを表示しているだけであるから、「商品等表示」の「使用」とはならない。さらに現在では、ブラウザーのアドレス欄にすら「jaccs」の表示がでないようにプログラムを変更しており、本件ドメインで到達するホームページの画面上には「jaccs」又は「JACCS」の表示は一切どこにも使用されていない状態となっている。
 インターネットは、無限にリンクできるのが特徴であり、現に無限といってよい程度にリンクが行われているのであるから、リンク先の表示内容を判断の対象とする原判決の解釈・判断は、インターネットの特性を無視するもので誤りである。
B 不正競争防止法2条1項1号及び2号が禁止する不正競争行為は表示行為であるから、差止めが認められるのも表示行為に限定されるべきである。けだし、法違反でない行為まで制限されるいわれはないからである。上記のように控訴人は既に一切の表示行為を行っていないが、仮に今後の使用のおそれから差止めが認められるとしても、それは表示行為の差止めに限られるべきであり、何人にも見ることのできない世界においてまで、控訴人が「jaccs」の文字の使用を制限される理由はなく、法もそのような行為まで制限する意図を有しているとは考えられない。このような自由は控訴人の営業活動及び表現の自由として憲法に保障されている。
C 控訴人は、ホームページを複数の企業で共同運用しようと考え、約10社の賛同を得、「japan associated cozy cradle society」(企業家支援集団心地よいゆりかご)の略称の「jaccs」をドメイン名として申請し、登録を受けたものである。
 ドメイン名の登録については、完全な先願主義が採られており、ドメイン名に用いることのできる文字・記号にも制約があることから、インターネットを利用する企業は、同ルールの中で競ってドメイン名の申請をし、あるいは高額の解決金を支払うことにより示談解決をしている例も少なくない。このような中で、被控訴人が、先願申請の努力をせず、自己の商号が著名であるとか商標登録しているというだけで、控訴人のドメイン名の使用を制限できるかのような主張をするのは、権利の濫用であって、不当である。
 被控訴人は、「jaccscard.co.jp」ドメインを使用してインターネットでの活動を活発に行っており、本件ドメイン名を使用できなくても何ら不都合はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点に関する当裁判所の判断は、次項において補充的に説示する外は、原判決「第三 当裁判所の判断」の一ないし三記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、「本件ドメイン名」は「jaccs.co.jp」を略称するものとし、原判決25頁9行目から26頁4行目までを削除する。
2 当裁判所の補充的説示
(1) 被控訴人は、当審において、使用の差止めを求めるドメイン名を、ホームページのアドレス「http://www.jaccs.co.jp」から、メールアドレスもその対象とするために「jaccs.co.jp」に変更し、附帯控訴を提起した。控訴人がこれまで電子メールを利用して商品、役務等の販売、提供、宣伝等を行ったことを認めるに足りる証拠はないが、引用した原判決の認定によれば、控訴人は、被控訴人から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認されるのであり、このことからすると、今後控訴人が本件ドメイン名によるメールアドレスを用いて電子メール広告等を行い、被控訴人の営業上の利益を侵害することも十分に予想されるから、ホームページアドレスに限定しない本件ドメイン名の使用差止めの請求は、理由があるということができる。
(2) 控訴人は、当審において、ホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することの差止めを求める被控訴人の請求を認諾し、現在では、ホームページのアドレス欄にも本件ドメイン名を表示していないと主張する。 しかしながら、たとえそうであっても、ホームページの画面の内容はどのようにでも変更することができるのであり、前記の控訴人が本件ドメイン名を登録した目的からすれば、控訴人が現在のホームページの画面を今後も変更しないという保証はなく、本件ドメイン名の使用差止めの必要性が失われたということはできない。また、引用した原判決が認定したように、本件ドメイン名は、ホームページ上に表示される商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有していると認められるのであるから、控訴人が「JACCS」の表示使用の差止請求を認諾したとしても、そのことは、何ら本件ドメイン名の使用差止請求を妨げる事由となるものではない。
(3) 控訴人は、差止請求が認められるのは、表示行為に限られ、何人にも見ることのできない世界においてまで、控訴人が「jaccs」の文字の使用を制限されるいわれはない旨主張する。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件口頭弁論終結時においても、控訴人の開設したホームページは、本件ドメイン名に通信手段を示す部分を付加した「http://www.jaccs.co.jp」という表示をキーボード等により入力すれば、控訴人のホームページに到達するようプログラムされていることが認められるのであるから、現在同ホームページ上に「jaccs」という表示がされていないことを考慮しても、本件ドメイン名は、同ホームページの開設主体を識別する機能を有しているということができ、このような使用方法も「商品等表示」の「使用」に当たると認めるのが相当である。
(4) 控訴人は、インターネットは無限にリンクできることを理由に、リンク先の表示内容を判断の対象とした原判決を非難するが、原判決が判断の対象としたのは、控訴人が開設したホームページと一体と評価できる、同ページから直接リンクできる画面の表示内容を判断の対象としたに過ぎず、幾度ものリンクを重ねた先の画面の表示を判断の対象としたものでないことは明らかであるから、控訴人のこの点に関する主張は失当である。
3 以上のとおりであるから、被控訴人の本件附帯控訴に基づく請求は理由があり、控訴人の本件控訴は理由がない。
 よって、原判決を本件附帯控訴に基づき変更し、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所金沢支部第1部
 裁判長裁判官 川崎和夫
 裁判官 榊原信次
 裁判官 入江猛
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