判例全文 line
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【事件名】テレビ朝日女性アナをめぐる虚報事件
【年月日】平成13年9月5日
 東京地裁 平成11年(ワ)第21521号 謝罪広告等請求事件

判決
原告 A(ほか一名)
原告ら訴訟代理人弁護士 秋山幹男
被告 株式会社 講談社
同 代表者代表取締役 野間佐和子
同 訴訟代理人弁護士 的場徹
同 長谷一雄
同 福崎真也
同 佐藤高章
同 山田庸一


主文
一 被告は、原告Aに対し、金七七〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告Aに対し、被告が発行する雑誌「週刊現代」において、別紙一記載の謝罪広告を別紙三記載の掲載条件により一回掲載せよ。
三 原告Aのその余の請求及び原告全国朝日放送株式会社の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告Aと原告と被告との間に生じた分は、これを二分し、その一を原告Aの、その余を被告の各負担とし、原告全国朝日放送株式会社と被告との間に生じた分は、これを原告全国朝日放送株式会社の負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告A(以下「A」という。)に対し、金一四八〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告全国朝日放送株式会社(以下「会社」という。)に対し、金一一五〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告らに対し、被告が発行する雑誌「週刊現代」に、別紙二記載の謝罪広告を別紙三記載の掲載条件により掲載せよ。
第二 事案の概要
一 本件は、原告らが、被告がその出版する週刊誌「週刊現代」に、原告会社にアナウンサーとして勤務する原告Aについて、同人が学生時代にランジェリ−パブに勤務していたとの虚偽の記事を掲載するとともに、新聞各紙に同記事について触れた同誌の広告を掲載して、原告らの名誉等を毀損し、さらに、被告の出版する雑誌「週刊現代」及び同「フライデー」に、原告Aの水着姿を写した写真を原告Aに無断で掲載し、原告Aの肖像権を侵害したと主張して、被告に対し、前記名誉毀損につき、原告らに対する慰謝料等の支払及び謝罪広告の掲載を、前記肖像権の侵害につき、原告Aに対する慰謝料等の支払をそれぞれ請求した事案である。
二 争いのない事実等(証拠の引用のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告会社は、「テレビ朝日」の通称で、テレビジョン放送等の放送事業を営む株式会社であり、原告Aは、平成一一年三月、法政大学法学部政治学科を卒業し、同年四月、原告会社にアナウンサーとして採用され入社した、原告会社の従業員である。原告Aは、現在、原告会社において、編成局アナウンス部に所属し、アナウンサーとしての仕事に従事している。
イ 被告は、雑誌、書籍等の出版等を業とする株式会社であり、週刊誌「週刊現代」等を出版している。
(2)記事及び広告の掲載
ア 被告は、自らが出版する週刊誌「週刊現代」平成一一年九月二五日号(以下「本件雑誌一」という。)に、別紙四記載の見出し及び本文の記事(以下、本件雑誌一に掲載された前記見出し及び同本文を併せて「本件記事」という。)を掲載し、本件雑誌一は、同月一三日以降、全国にて発売された。
イ 被告は、同月一二日付けの朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、東京新聞、産経新聞等に、別紙五記載の見出しを含む本件雑誌一の広告(以下、「本件広告」といい、本件広告中の別紙五記載の見出し部分を「本件広告部分」という。また、本件記事及び本件広告部分を併せて「本件記事等」という。)を掲載した。
(3)写真の掲載
ア 被告は、自らが出版する週刊誌「フライデー」平成一一年一〇月一五日号(以下「本件雑誌二」という。)に「「六本木のランパブ嬢だった」報道で提訴、Aテレビ朝日アナが披露していた「グラビア肢体」」との見出しの下、横向きに寝ている原告Aの写真一枚(以下「本件写真一」という。)を見開き二ページにわたって掲載し、本件雑誌二は、同月一日以降、全国にて発売された。
 本件写真一は、被告が出版する雑誌「Hot Dog Press」平成八年四月二五日号(以下「本件雑誌三」という。)に原告Aの写真を掲載するために、被告の依頼したカメラマンが原告Aを撮影した写真の中の一枚であるが、本件写真一自体は、本件雑誌三には掲載されなかった。
イ 被告は、週刊誌「週刊現代」平成一一年一〇月一六日号(以下「本件雑誌四」という。)に、「テレビ朝日「ランパブ美女アナA」の水着モデル時代」との見出しの下、原告Aの水着姿を写した写真一枚(以下「本件写真二」という。)を掲載し、本件雑誌四は、同月四日以降、全国にて発売された。
 本件写真二は、被告が出版している週刊誌「少年マガジン」平成八年四月一〇日号(以下「本件雑誌五」という。)に掲載された原告Aの写真及び写真上に印刷された活字をそのまま引き伸ばして掲載したものである。
ウ 被告は、週刊誌「フライデー」平成一一年一〇月二二日号(以下「本件雑誌六」という。)に、「「六本木のランパブ嬢」報道で係争中にデビュー!『テレ朝』Aアナは『水着アイドル』だった」との見出しの下、原告Aが水着姿で立っている姿を撮影した写真一枚(以下「本件写真三」という。)及び水着姿で座っている写真一枚(以下「本件写真四」といい、以下においては、本件写真一から四までを併せて「本件写真」という。)をそれぞれ一ぺージに一枚ずつ掲載し、本件雑誌六は、同月八日以降、全国にて発売された。
 本件写真三及び本件写真四は、いずれも本件雑誌五における企画のために、被告が依頼したカメラマンが原告Aを撮影した写真のうち、本件雑誌五に掲載されなかったものである。
エ 被告が本件写真を掲載又は再掲載するに当たっては、いずれも原告Aから個別にその承諾を得てはいない。ただし、被告は、原告Aにおいて、本件写真の撮影時に、その公表について包括的な承諾をしている旨主張しており、原告Aの本件写真の掲載又は再掲載についての包括的承諾の有無については、当事者間に争いがある。
三 争点
(1)原告らに対する名誉毀損の成否
ア 本件記事等が、原告らの名誉を毀損するか。
イ 本件記事等の掲載が、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合といえるか。また、本件記事の内容が、真実であるか、又は真実であると信じたことについて相当の理由があるか。
(2)本件写真の掲載又は再掲載の違法性
(3)損害額等
四 争点についての当事者の主張
(1)争点(1)アについて
ア 原告らの主張
(ア)原告Aに対する名誉毀損
 本件記事は、本件記事の読者に対し、原告Aが、コスチュームの下は裸の女性がいるようなランジェリーパブで働き、下着が丸見えのコスチュームを着て、客に対して、自らスカートをめくって見せたり、胸等をさわらせ、あるいは客と性的な会話をするなどの一般通常人の常識に照らし、破廉恥なサービスをしていたとの事実を伝達するものであるから、原告Aの名誉を著しく毀損する。
(イ)原告会社に対する名誉及び信用毀損
 本件記事等は、原告会社のアナウンサーがランジェリーパブで働いていたということを強調しており、本件記事等の読者に対し、原告会社が、前記のような破廉恥なサービスをしていた原告Aをアナウンサーとして採用したとの事実を伝達するものであるから、原告会社の名誉及び信用を著しく毀損する。
イ 被告の主張
(ア)原告Aに対する名誉毀損について
 本件記事が、本件記事の読者に対し、原告Aが、コスチュームの下には何も着ていない女性がいるようなランジェリーパブで働いていた事実を伝達するものであることは認めるが、原告Aが、下着が丸見えのコスチュームを着て、客に胸等をさわらせて、破廉恥なサービスをしていたという事実を伝達していたということは争う。本件記事は、原告Aが客に対し積極的な接客をしていた事実を伝達するにすぎず、何ら破廉恥なサービスをしていた事実を伝達するものではない。
(イ)原告会社に対する名誉毀損について
 本件記事等が、原告会社の名誉及び信用を毀損するものであるとの主張に対しては争う。本件記事等は、原告Aの職歴を紹介するものにすぎず、何ら原告会社の名誉及び信用を毀損するものではない。
(2)争点(1)イについて
ア 被告の主張
(ア)公共の利害に関する事実及び公益を図る目的
 原告会社も含むテレビ局各社においては、原告Aのような女性のアナウンサーはいわゆる「女子アナウンサー」として、単にニュース番組のアナウンスにとどまらず、その他の番組等に半ばタレントとして多数出演し、その個性、言動等を視聴者に注目せしめる存在となっており、原告会社らテレビ局各社もこれを積極的に売り込むなど、「女子アナウンサー」はテレビ局各社の営業戦略の柱の一つとなっている。
 したがって、テレビ局各社が「女子アナウンサー」として採用した女性が、過去にどのような職歴、個性を持ち、テレビ局各社がどのような職歴、個性を持つ女性を「女子アナウンサー」として採用したのか、ということは、公共の利害に関する事実である。
 しかるに、原告Aの過去の職歴は、本件記事のとおり、一般の女子学生とは隔絶したものであり、それはまさしく原告Aの個性であるし、また、そのような女性である原告Aを採用した原告会社の営業の実情を知る上で重要な情報なのであるから、本件記事等の内容は公共の利害に関する事実である。
 そして、被告は、社会に多大なる影響力を有するテレビ局である原告会社の実情を明らかにし、もって健全な批判に供する趣旨で本件記事等を作成及び掲載したのであるから、本件記事等の掲載は、専ら公益を図る目的に出たものである。
(イ)本件記事等の内容の真実性又は真実と信じることについての相当性
 原告Aは、平成九年五月末ころから同年六月中旬ころにかけて、ランジェリーパブ「キューティーハニー」で働き、客に対して、本件記事等にあるようなサービスを提供していたのであるから、本件記事等が伝達する事実は真実である。
 また、本件記事の執筆を担当した被告の記者は、実際にランジェリーパブ「キューティーハニー」において、原告Aの接客を受け、かつ、その後も原告Aと交際をしていた者(以下「本件取材源」という。)から、本件記事の内容の事実を取材したものであるところ、本件取材源から取材をした内容は、詳細なものであり、また、原告Aと同じ時期にランジェリーパブ「キューティーハニー」においてアルバイトをしていた女性からも本件記事の内容の裏付けとなるような事実を取材したものであるから、仮に本件記事等が伝達する事実が真実ではなかったとしても、前記記者が、真実であると信じたことについて相当の理由がある。
(ウ)したがって、本件記事等により原告らの名誉又は信用を毀損することがあったとしても、それは違法性を欠き、又は過失がなかったものである。
イ 原告らの主張
(ア)公共の利害に関する事実及び公益を図る目的について
 被告の主張する事実はいずれも否認し、又は争う。
 いわゆる「女子アナウンサー」に対する注目度が、テレビ局各社の放映する番組の視聴率を左右するほどの重要な要素とはなっておらず、原告会社においても、「女子アナウンサー」を営業戦略の柱にしたという事実はない。
 また、そもそも、原告Aが、ランジェリーパブにおいて働いた経験があり、かつ、その接客の様子を赤裸々に書き立てることが、公共の利害に関する事実であるとは到底いえず、本件記事等の掲載は専ら本件雑誌一の販売数を上げるためになされたものであるから、その目的も公益を図るものとはいえない。
(イ)本件記事等の内容の真実性又は真実と信じることについての相当性について
 被告が原告Aについて主張する事実、すなわち、本件取材源が原告Aの接待を受けたこと等をすべて否認する。原告Aが、ランジェリーパブで働いていたという事実はなく、ましてや、原告Aが本件記事等にあるような接客をしていたという事実も全くの虚偽である。
 また、被告の記者は、本人である原告Aに何らの取材もせずに本件記事等の作成をしたのであるから、仮に、前記記者が本件記事等の内容を真実であると誤信したものであるとしても、そのことについて相当の理由があるとはいえない。
(3)争点(2)について
ア 原告Aの主張
(ア)人はだれでも、みだりに自己の容姿を撮影した写真を公表されない肖像権を有するものであるところ、本件写真は、いずれも特定の雑誌の特定の企画への掲載を目的として撮影されたものであって、原告Aも本来の目的に使用する限りにおいて、承諾を与えていたにすぎない。そして、このことは本件写真二についても同様であって、たとえ、本件写真二が撮影時の目的のとおり本件雑誌五に掲載され、それを本件雑誌四に本件雑誌五の誌面のまま再掲載したものであるとしても、それは原告Aの撮影時の承諾の範囲外なのであるから、本件写真二の再掲載も肖像権の侵害として不法行為を構成する。
(イ)また、原告Aが、広く社会に対しその容姿を露出する者であったとしても、そのことから直ちに肖像権の侵害を主張することができなくなるものではないばかりか、そもそも原告Aは、本件写真掲載又は再掲載当時、早朝のテレビ番組に出演していたのみであったから、その容姿が広く社会に露出されていたという程度に公知であったわけではなく、また、本件写真の撮影時に支払を受けた対価も多くて一回当たり一万円程度であったから、本件写真の掲載又は再掲載が、受忍限度の範囲内であったとはいえない。
(ウ)被告は、原告Aが、本件訴訟において、自分が一般的な学生生活を送っていたと主張したことから、同事実の有無が社会の公共的関心事になり、その判断資料として、本件写真を掲載又は再掲載したのだから、本件写真の掲載又は再掲載に違法性はない旨主張するが、原告Aが、本件記事等において問題としていることは、被告が公表した本件記事等が、虚偽の内容を含むものであるということであり、本件写真の掲載又は再掲載と本件記事等に関する争点とは、直接関係するものではないから、本件写真が社会の公共的関心事とは到底いうことはできず、また、その掲載又は再掲載が公共の利益を図るためになされたともいえない。
(エ)したがって、本件写真の掲載又は再掲載は、原告Aの肖像権を違法に侵害するものである。
イ 被告の主張
(ア)肖像権侵害の不法行為においては、その被侵害利益は、単にその容姿を公表したか否かではなく、より実質的に考えられるべきものであるところ、本件写真は、いずれも公表を意図して撮影されたものであって、原告Aにおいても、マスメディアにその容姿を露出させて世に出たい、著名になりたいとの意欲の下、その対価の支払を受け、本件写真が公表されることを前提としてその撮影に応じているのであるから、原告Aは、そもそも本件写真に関し、公表されないという利益を有しているものではないし、公表の態様に関する目論見の違いや、掲載媒体に関する期待の阻害などは、独立の不法行為の対象となるものではない。
 したがって、本件写真の掲載又は再掲載は、原告Aの肖像権を侵害しているとはいえない。
(イ)本件雑誌三及び本件雑誌五の原企画は、知名度の高い芸能人、モデル等ではなく、これから売り出すモデルやその志望者等素人の写真を掲載するものであった。このような企画においては、企画者が派遺業者に対して、撮影用モデルの募集をその派遺を委託し、派遺業者との間でモデルの派遺を撮影に関する取決めを行うが、撮影された写真の中からどの写真を何枚使用し、掲載するか、いつ掲載をするのかは一切企画者の判断に委ねられており、派遺業者は、そこで撮影された写真については、一切の権限を有しないものとされるのが慣例とされている。そして、モデルは、前記慣例の下で派遺業者との間で、報酬を得て、派遣業者の指示するところに出向いて、撮影に応じる者の契約を結ぶものであるから、このような関係の下においては、モデルは、撮影された写真については、その使用につき包括的承諾を与え、あるいは肖像権を放棄しているものと解すべきである。
 本件においても、原告Aを派遺したモデルの派遣業者である株式会社スプラッシュと被告における本件雑誌三及び本件雑誌五の各編集部との間で原告Aの写真撮影について、前記慣習に従った取決めがされたのであるから、原告Aは、本件写真の掲載又は再掲載について、撮影時に包括的に承諾をしているものと解すべきである。
(ウ)仮に、原告Aの肖像権に対する侵害があったとしても、原告Aのようにテレビを通じてその肖像を社会に広く露出し、その容姿に関する情報を自ら広く提供している者については、容姿の公表に関する利益の侵害に対しても、一般人に比し、その違法性の有無の基準となるべき受忍限度に差異があり、その撮影方法に違法性が認められない限りは、不法行為を構成するとはいえない。そして、本件写真においては、その撮影は、原告A自身が対価の支払を受け、撮影に応じたものであり、撮影方法に違法があるとはいえず、本件写真の掲載又は再掲載も、受忍限度の範囲内であるから、不法行為に当たるとはいえない。
(エ)また、本件写真の掲載又は再掲載については、その報道目的から違法性が阻却される。
 本件写真の掲載又は再掲載時、原告らが本件記事等について、本件訴訟を提起したことが、各マスメディア等で報道されていたことから、原告Aが一般的な学生であったのか、それとも一般の女子大学生とは隔絶した学生生活を送っていたのかということが、社会における公共的関心事となっていた。そこで、被告は、原告Aが大学在学中、一般の学生が通常は公開することのないような姿で写真の撮影をさせた経験があるという事実を伝達するために、本件写真を掲載又は再掲載したものであるから、本件写真の掲載又は再掲載は、社会における公共の関心事について、一般の読者に対してその判断材料を提供する趣旨によって行われたということができ、原告Aの肖像権等との利益衡量において、社会的相当性を逸脱するような違法性はない。
(4)争点(3)について
ア 原告らの主張
(ア)名誉又は信用毀損に対する慰謝料
 被告の原告らに対する、前記名誉又は信用毀損により、原告らが受けた損害を回復するためには、別紙二記載の謝罪広告が必要である。
 また、原告Aが前記名誉毀損により受けた精神的損害は、金銭に評価すると一〇〇〇万円は下らず、原告会社が、前記名誉及び信用毀損により受けた損害は金銭に評価すると一〇〇〇万円を下らない。
(イ)本件写真掲載に対する慰謝料
 原告Aは、被告による本件写真掲載により著しい精神的苦痛を受けたところ、これを金銭に評価すると三〇〇万円は下らない。
(ウ)弁護士費用
 原告らは、被告による前記各不法行為により、弁護士に訴訟遂行を委任することを余儀なくされたところ、前記弁護士に訴訟遂行を委任するための費用は、原告Aについて一八〇万円(名誉毀損について一五〇万円、写真掲載の不法行為について三〇万円)、原告会社について一五〇万円を下らない。
(エ)よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、原告Aに対しては一四八〇万円、原告会社に対しては一一五〇万円及び前記各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成一一年一〇月九日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払並びに名誉回復の措置として別紙二記載の謝罪広告を別紙三記載の掲載条件により掲載することを求める。
イ 被告の主張
 すべて争う。
第三 当裁判所の判断
一 争点(1)アについて
(1)原告Aは、被告による本件記事の公表が原告Aの名誉を毀損する旨主張するところ、記事等による名誉毀損の成否に当たっては、当該記事等の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かについて、当該記事等の一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであるから、以下、これに従い判断をする。
 前記争いのない事実等記載の本件記事は、その内容からすると単に原告Aが、胸元の見えるコスチュームを着た女性が、客の前で着替えるなど、下着姿で接待等のサービスをするランジェリーパブにおいてアルバイトをしていたという事実を伝達するものであるのみならず、原告A自身も、そのランジェリーパブにおいて、客から下着が見えることを指摘されれば、積極的にこれを見せ、あるいは胸等をさわられても苦情をいわず、これを容認し、また、性に関する自己の体験を客から尋ねられるままに答えるなど、積極的に客が望む性的なサービスを提供していた事実を伝達するものであり、通常の一般人であれば羞恥心を害される破廉恥な行為をしていたことを伝達するものであるから、本件記事の掲載によって、原告Aの社会的評価が低下することは明らかである。
 したがって、本件記事の掲載は、原告Aの名誉を毀損すると認めるのが相当である。
(2)次に、原告会社は、本件記事等が、原告Aの名誉のみならず、原告会社の社会的評価又は信用を毀損するものである旨主張する。
 しかしながら、本件記事が原告Aの社会的評価を低下させるものであったとしても、そのことから直ちに、原告Aの使用者である原告会社の社会的評価あるいは信用までも低下させるものであるとはいえず、本件記事等が、原告会社の社会的評価あるいは信用も低下させると認められるためには、本件記事等に記載されている内容が、原告会社の社会的評価あるいは信用を低下させるようなものでなければならない。この点について、原告会社は、本件記事等は、前記のような破廉恥な行為をしていた原告Aを採用したとの事実を伝達しており、その事実は、原告会社の社会的評価や信用を低下させる旨主張する。
 しかしながら、本件記事等の内容を検討すると、確かに、前記争いのない事実等記載のとおり、本件記事の表題や本件広告部分中には「テレビ朝日新人美女アナ」、「テレ朝美女アナ」等原告会社の通称名が記載されており、さらに、<証拠略>によれば、本件記事の本文中にも前記表題等と同様に「テレビ朝日」との記載があることが認められるものではあるが、これらについて、前記一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断をすると、本件記事等における「テレビ朝日」、あるいは「テレ朝」という記載は、専ら原告Aの肩書又は属性の特定のために使用されているにすぎないものであって、それ以上に、殊更に原告会社に対して、何らかの言及がされているとは認めることはできない。
 また、仮に、本件記事等が、原告会社が主張するように、原告会社が、本件記事の内容のアルバイトをしたことのある原告Aを、アナウンサーとして採用したとの事実を伝達するものであるとしても、原告会社が、原告Aの前記行状を認識した上で、アナウンサーとして採用したというものであればともかく、少なくともそれを知らずに採用したからといって、直ちに原告会社の社会的評価あるいは信用を害するものとはいえないところ、本件記事等にはそのような点について触れるところは全くないのであるから、本件記事等が原告会社の社会的評価あるいは社会的信用を害するものとまでは認め難い。
 したがって、争点(1)アに関する原告らの主張のうち、原告Aに関する部分は理由があるが、原告会社に関する部分は理由がない。
二 争点(1)イについて
(1)次に、被告は、本件記事が、原告Aの名誉を毀損することがあったとしても、原告会社が、放送業務に従事する会社の中でも、いわゆるキー局と呼ばれる存在であり、原告Aが、原告会社らテレビ局各社の営業戦略上重要な地位にあるいわゆる「女子アナウンサー」であることを根拠に、本件記事は、公共の利害に関する事実であり、その掲載は専ら公益を図るためにされたものであって、かつ、本件記事の内容は真実であるか、又は真実であると信じたことについて相当の理由があるから、本件記事の掲載は違法性を欠き又は故意過失を欠いているとの主張をしている。
 確かに、名誉毀損については、それが公共の利害に関する事実に係るものであり、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であると証明されたときには、その行為は違法性を欠き、また、仮に真実であるとの証明がなされなかったときでも、行為者において当該事実を真実であると信じたことについて相当の理由がある場合には、故意又は過失がなく、不法行為は成立しないものというべきであるが、前記公共の利害に関する事実とは、専らそのことが不特定多数人の利害に関するものであることから、不特定多数人が関心を寄せてしかるべき事実をいうものであって、単なる興味あるいは好奇心の対象となるにすぎないものを含むものではなく、一個人の経歴あるいは私生活上の言動等については、当該個人の社会的地位、活動等が公的なものであるような場合はともかく、そうでない場合には、特段の事情がない限り、公共の利害に関する事実とはいえないものである。
 これを本件についてみるに、本件記事は、前記のとおり、原告会社がアナウンサーとして採用した原告Aが、学生時代に破廉恥なサービスをする店でアルバイトをしていたというものであるところ、テレビ局のいわゆる「女子アナウンサー」が、アナウンサーになる以前の学生時代にどのようなアルバイトをしていたかという事柄は、読者の単なる興味あるいは好奇心の対象となる事柄ではあっても、不特定多数人が関心を寄せてしかるべき公共の利害に関する事実とはおよそかけ離れたものであることは明らかであり、原告会社の一アナウンサーの学生時代のアルバイトの内容を知ることが、原告会社の営業の実情や営業戦略等を知る上で、重要な事項であるとは到底認め難く、被告の前記主張は理由がない。
(2)以上のとおり、被告による本件記事等の掲載は、その内容において、原告Aの名誉を害し、また、その内容が公共の利害に関するものではないから、その内容が真実であるか否かにかかわらず違法性を有し、不法行為に該当するものであるが、後述する慰謝料額の算定及び謝罪広告の内容との関係で重要な事項であるので、本件記事内容が真実であるか否かについて検討する。
ア 被告は、前記のとおり、本件記事の内容は真実である旨主張し、本件記事に記載された事実が真実であることを裏付ける重要な証拠として、本件取材源の宣誓供述書の写し(ただし、供述者である本件取材源の氏名は伏せられている。<証拠略>以下「供述書」という。)を提出しているので、その信用性について検討をするに、供述書の要旨は、以下のとおりのものである。
 すなわち、本件取材源は、同僚とともに、平成九年五月上旬ころ、東京都港区六本木にあるランジェリーパブ「キューティーハニー」に入ったが、その際、ユカという源氏名のホステスが接待をしてくれた、その時間は、数十分であり、会話の内容までは覚えていないが、ユカは目鼻立ちのはっきりしたエキゾチックな顔立ちで、プロポーションは抜群だった、ユカは本名は「A」であることや自分の携帯電話の電話番号を教えてくれた、同年六月一週目の木曜日か金曜日に別の友人Wと再び「キューティーハニー」へ行き、ユカに会い、仕事が終わった午後一二時すぐに六本木のバーレストラン「エージェント」で待ち合わせ、W、ユカ、他の「キューティーハニー」のホステスYと始発電車が動き始めるまで酒を飲んだ、その際、ユカは自分が法政大学の三年生であり、稲増教授の「自主マスコミ講座」を受講していることや、スウェーデンからの帰国子女であること等を話した、ユカは、同月下旬には、「キューティーハニー」を辞めたが、本件取材源は、その後もユカと頻繁に連絡を取り合い、数か月に一度はデートをし、その中でもっとも印象に残っているのは、ユカに靴とインナーシャツをプレゼントし、その後六本木で食事をした後に、ホテル「IBIS」を利用したことである、ユカとは同人が原告会社入社後も連絡を取り合っていた、本件記事が掲載された直後に彼女から本件記事の取材源はあなたではないのか、との電話がかかってきたというものである。
 ところで、当該供述を信用することができるか否かについて判断をする上で、供述者がどのような者であるのかを知ることは極めて重要なことであるが、その点については、前記供述書中には全く記載されておらず、被告の記者で本件記事の取材、編集を担当した証人B(以下「B」という。)の証言によっても、三〇歳代前後の男性であり、テレビ関係の仕事にも携わったことのある、会社に籍を置かないマスコミ関係者であるということが分かるだけであり、それだけではその信用性を判断する資料としては不十分である。また、供述の信用性を判断する上で、本件取材源の前記供述書の中に、原告Aから聞く以外に知り得ない事実が含まれているか否かということが重要であり、そのような事実が含まれていれば、その供述の信用性は高いものと考えられるところ、前記供述書中には、そのような事実は含まれておらず、いずれも原告Aがアナウンサーとして採用された後でも容易に調べることができる内容のものであることが認められる(なお、前記供述書中、強いてそれに該当するといえる事項があるとすれば、それは本件取材源が、原告Aから聞いたという携帯電話の電話番号であるが、本件取材源は、前記供述書中において、それを明らかにしていない。)。したがって、前記供述書の証明力は、それ自体高いものではなく、その真実性を確かめるためには、当然に反対尋問にさらされなければならないものであるところ、被告は、本件取材源の氏名等を明らかにせず、そのために原告らは反対尋問をすることができないものであるから、その証明力は極めて低いものといわざるを得ない。
イ それに加えて、前記供述書には、以下のとおり、不自然な点があり、これからすると前記供述書は信用し難い。
(ア)前記供述書中には、原告Aは英語が不得意であり、「sometime」という英単語を「ソメティメ」と読んでいたとする部分があるが、同部分は、原告Aが、中学一年の終わりから中学三年の終わりころまで、イギリスに居住し、現地の学校に通い、高校一年生のときに大学受験産業が実施した全国実力テストでは英語科目の得点が全国偏差値七〇であったこと(<証拠略>)に鑑みると不自然極まりないものである。
(イ)<証拠略>によれば、原告Aは、同年五月ころ、当時所属していた劇団「スプラッシュ・アクターズ」が同年七月八日から同月一三日まで講演を予定していた演劇「地球物語」の主役の一人に抜擢され、同年五月は、土曜日から月曜日まで、同年六月以降は、ほぼ連日のように行われていた練習に出席し、練習後の食事や打合せが終了するころには、おおむね午後一〇時から午後一二時くらいになっていたこと、同年六月の第一週の木曜日である同月五日及び金曜日である同月六日にも、午後一〇時ころまで、東京都港区立飯倉福祉会館において、前記公演の練習等をしていたこと、前記公演の演出家であったC(以下「C」という。)は、同年五月ころから同年六月上旬ころまでの間、原告Aの両親が、原告Aが前記公演に参加することに賛成していなかったこともあり、前記練習等の終了後は、原告Aを東京都府中市にある自宅まで自動車で送っていたこと、同年六月中旬以降も、Cから依頼を受けた前記劇団に所属していたDらが、Cと同様に原告Aを自宅まで自動車で送っていたこと等の事実を認めることができ、同事実に照らすと、本件取材源が、原告Aと食事をしたとする同年六月の第一週の木曜日又は金曜日の午後一一時ころから午後一二時ころまでに原告Aが、前記「キューティーハニー」にてアルバイトをし、さらにその後に、東京都港区六本木において食事をすることはもとより、原告Aが同年五月ころから同年六月ころの間に、被告が主張するようなランジェリーパブにおいて勤務することは不可能ないしは極めて困難であるといわざるを得ない。
(ウ)前記供述書には、ユカは、自分はスウェーデンからの帰国子女であると述べたとあるが、<証拠略>によれば、原告Aは、スウェーデンで生まれたものの、六歳のときに日本に帰国したものであり、その後、中学一年の春から中学三年の一月までイギリスで生活していたことが認められ、同事実からすると、ユカが原告Aであるとすると、スウェーデンからの帰国子女であると述べるのは不自然である。
ウ さらに、Bは、本件取材源からの前記内容の供述書記載の供述を得た後、自ら、あるいは他の記者を使って、「キューティーハニー」の当時の店長及び同僚ホステスからも話を聞いたが、その内容は、本件取材源が供述したところと一致した旨証言し、又は陳述書中(<証拠略>)において陳述している。
 しかし、前記店長及びホステスがだれであるかは明らかにしないため、同人らの述べるところが真実であるか否かを確かめることはできないばかりでなく、<証拠略>によれば、前記ホステス(前記Y)は、原告Aは、アルバイトで貯めた金で長い休みになるとハワイやグアムに頻繁に旅行をしていた旨述べているが、<証拠略>によれば、原告Aは、ハワイやグアムに旅行をしたことはないことが認められるだど不自然なものであって、これらの証言等によって、原告Aが、本件記事に記載されているようなアルバイトをしていたことを認めることはできない。
エ 以上のとおり、被告が本件記事が事実であると主張し、提出する証拠によっては、本件記事の内容が事実であると認めることはできないばかりではなく、前記認定の事実からすれば、原告Aが、被告主張のようなアルバイトをしていたという事実はなかったことが認められ、本件記事は虚偽の事実を記載したものと認めざるを得ない。
オ なお、被告は、本件記事の内容が、仮に、真実であるとの立証がされなかったとしても、それを真実であると信じたことについて相当の理由がある旨主張し、証人Bの証言中及び陳述書中(<証拠略>)には、前記主張に沿った内容の部分があるが、前記のとおり、本件取材源の供述については、その供述中の人物を原告Aであると特定するために用いたと考えられる原告Aの属性に関する事実については、いずれもわずかな調査で知り得るものばかりであり、その内容も不自然であることは前記説示のとおりであるから、本件取材源は確実な情報をもたらすものであるとは認め難い上、本件については、本人である原告Aに対し、一度、原告会社に電話をかけて取材を申し込んだだけで、原告らに具体的事実を摘示して取材をしたことはないと証人B自身認めており、これらの事実を併せ考えれば、取材の仮定において、たとえ複数の人物から本件取材源のそれと同様の証言を得たとしても、このことをもって本件記事の内容が真実であると信じたことについて相当の理由があるとは到底認めることはできない。
 よって、いずれにしても争点(1)イに関する被告の主張は理由がなく、本件記事の掲載は、原告Aに対する不法行為に該当するものである。
三 争点(2)について
(1)被告が、本件雑誌二に本件写真一を、本件雑誌四に本件写真二を、本件雑誌六に本件写真三及び本件写真四をそれぞれ掲載又は再掲載したことが、原告Aの肖像権を侵害したものであるか否かについて判断をするに、原告Aが被告に対し、本件写真の掲載又は再掲載について、いずれも個別の承諾をしていないことについては、前記のとおり、当事者間に争いがない。
 ところで、人は、一人の人格として尊重されるため、およそ自己の容姿をみだりに撮影され、それを公表されない権利を有しているものであり、仮にそのような権利を肖像権と呼ぶとすれば、当該人の承諾なくその容姿を撮影した写真を雑誌に掲載し、これを広く社会に公表することは、その肖像権の侵害に当たるものである。
 被告は、本件写真が、そもそも公表することを前提として撮影されたものであることから、原告Aにおいて、本件写真を公表されない利益を有してはおらず、また、公表の態様等に関する目論見の違い等は、保護に値する被侵害利益とはなり得ないから、本件写真の掲載又は再掲載は不法行為には当たらない旨主張しており、確かに、原告Aは、本件写真の撮影時、本件写真が本件雑誌三又は本件雑誌五に掲載されるものであることを承諾していたものであることは当事者間に争いはない。
 しかしながら、肖像権を放棄し、自らの写真を雑誌等に公表することを承諾するか否かを判断する上で、当該写真の公表の目的、態様、時期等の当該企画の内容は、極めて重要な要素であり、人が自らの写真を公表することにつき承諾を与えるとしても、それは、その前提となった条件の下での公表を承諾したにすぎないものというべきである。したがって、公表者において、承諾者が承諾を与えた前記諸条件と異なる目的、態様、時期による公表をするには、改めて承諾者の承諾を得ることを要するものというべきであり、公表自体についての承諾があれば、その公表の態様等に違いがあっても、肖像権の侵害にはならないとする被告の主張は失当である。
 また、このことは、本件写真二のように、一度、当初の企画のとおりの掲載がされた写真を再度掲載する場合にも同様に当てはまるのであって、再掲載された雑誌において、当初掲載された雑誌の誌面を紹介するために、当該写真を再掲載する場合にはなお、当初の企画の際にされた承諾の範囲内にあると考える余地もあるものの、それを越えて、当該写真を当初のものと異なる目的、態様の下に公表することは、当初約束あるいは留保された公表の範囲を超えているものであるから、このような場合には、当該再掲載について、改めて肖像権を有する者の承諾を必要とすると解するのが相当である。
 そして、本件においては、<証拠略>によれば、本件写真二が再掲載された本件雑誌四の該当部分の誌面は、確かに、当初、本件雑誌五に掲載された際、本件写真二上に印刷された活字ごと本件雑誌四に掲載したものであるから、一見すると当初掲載された本件雑誌五の誌面を紹介するものであるかのようにも思われるが、本件写真二の下に印刷された本文部分には、原告Aが「法政大学時代に六本木の”夜の店”で働いていた」との本件記事の内容及びその公表に伴う原告Aによる本件訴訟の提起について触れ、「タレントなどにまじり、その見事な肢体を惜しげもなく披露している。」との記載もあることが認められ、これらの事実からすると、本件写真二の再掲載は、本件写真二が本件雑誌五に掲載された事実を紹介するものではなく、実質的には本件写真二それ自体の再掲載が主たる目的であると認めることができるから、本件写真二の再掲載についても、肖像権を有する原告Aの同意、あるいは肖像権の放棄等の事実が認められない限りは、肖像権侵害の不法行為を構成するものというべきである。
 よって、被告の前記主張は、採用することができない。
(2)被告は、これら本件写真の掲載又は再掲載について、原告Aは、本件写真の撮影時に、雑誌出版業界の慣行により、本件写真の使用について包括的に承諾していた旨主張し、証人戸塚隆の証言ないし陳述書(<証拠略>)中の陳述中には、いわゆるパブリシティの利益を享受し得ないようなモデルについては、派遺業者は企画者の要求に応じたモデルを撮影現場に向かわせ、その対価を得るものであって、企画者とモデルとの間には何らの契約関係もなく、撮影された写真については、どのようにそれを使用しようと企画者の自由であり、その使用につき、モデルや派遣業者の承諾を得る必要はないとするのが、雑誌出版業界の慣行である旨の証言ないし陳述部分がある。
 しかしながら、いかにパブリシティの利益を享受し得ないモデルであるといえども、自分の写真がどのような目的でどのように公表されるのかに関心を持たずに撮影に応ずるとは考え難く、また、派遺業者も、その点を明らかにすることなくモデルを募集することは困難であると考えられることからすると、出版業界に前記証人が証言するような慣行があるとは到底認め難い。現に本件の場合においても、<証拠略>によれば、原告Aが、本件写真撮影当時、所属し、原告Aを被告に派遣した派遺業者である株式会社スプラッシュは、本件写真のいずれについても、当該雑誌に掲載するとの条件で、原告Aらモデルを派遣したものであり、その企画外使用を無条件に承諾した事実はなかったこと、原告Aにおいても、本件写真は本件雑誌三あるいは本件雑誌五に掲載されるものであるとの説明を受けて撮影に応じたものであることが認められる。
 そして、他に、原告Aにおいて、本件写真の使用一切について包括的承諾をしていたと認めるに足りる証拠はないから、被告の前記主張は採用することはできない。
(3)また、被告は、原告Aが、テレビを通じて、その容姿を広く社会に露出する職業に従事していることをとらえ、このような場合には、その肖像の公表に関する利益の侵害について、受忍すべき程度が高く、本件写真の撮影は相当であるから、本件写真の掲載又は再掲載については不法行為を構成しない旨主張している。
 しかしながら、仮に、その容姿を広く社会に露出している者の肖像の公表に関する利益の侵害については、そうでない者に比べて受忍すべき限度が高いと評価されることがあり得るとしても、それには限度があるのであって、いかに日常その容姿を社会に露出しているアナウンサーであるからといって、アナウンサーとしての生活とは関係のない学生時代の水着姿等を撮影した写真についてまで、肖像権を放棄しているものとは到底解し難く、被告の前記主張は、採用することができない。
(4)さらに、被告は、本件写真の掲載又は再掲載について、公共の利害に関する事実の報道というその報道目的から違法性が阻却される旨主張するが、原告Aが学生時代にどのようなアルバイトをしていたかという事柄は、公共の利害に関する事柄であるとはおよそいえないものであることは、前記説示のとおりであり、本件訴訟において、本件記事が真実であるか否かが争点となったからといって、前記事柄が公共の利害に関する事柄になるわけでもないから、その余の点について判断するまでもなく、被告の前記主張は理由がないことが明らかである。
(5)以上によれば、争点(2)に関する被告の主張はいずれも理由がなく、本件写真の掲載又は再掲載は、原告Aの肖像権を違法に侵害するものであるということができるから、不法行為に該当する。
 よって、被告は、これにより原告Aが受けた損害を賠償すべき義務を免れない。
四 争点(3)について
(1)名誉毀損により受けた損害
ア 慰謝料
 本件記事の掲載が、原告Aの名誉を侵害するものであり、不法行為に該当するものであるところ、その記事内容は、一般人をして、原告Aが破廉恥なサービスをするアルバイトを行っていたと誤信させるものであり、さらに、相当の理由もないままに真実であるかのような記事とされたことは、いずれも前記説示のとおりであり、これらの事実に鑑みれば、被告の原告Aに対する本件記事による名誉毀損は、悪質なものといわざるを得ない。
 そして、<証拠略>によれば、原告Aは、本件記事の掲載により、多大なる精神的苦痛を受けたことが認められ、前記説示の点等本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告Aの前記精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料は五〇〇万円をもってするのが相当である。
イ 弁護士費用
 被告による名誉毀損によって、原告Aが、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、そのために弁護士に対する委任をしたことは当裁判所に顕著な事実であるところ、前記弁護士に委任するための費用のうち、五〇万円が被告による名誉毀損と相当因果関係ある損害である。
ウ 謝罪広告
 また、被告の原告Aに対する名誉毀損の前記態様に鑑みれば、慰謝料の支払のみによっては、侵害された原告Aの名誉を回復することはできず、それを回復するためには、被告が本件記事を掲載した雑誌「週刊現代」誌上において、別紙三記載の掲載条件により、別紙一記載の内容の謝罪広告を掲載することが必要不可欠である。
 よって、被告は、原告Aに対し、名誉毀損に対する原状回復措置として、前記のとおりの謝罪広告を掲載すべき義務があるというべきである。
(2)写真掲載により受けた損害
ア 慰謝料
 本件写真の掲載が、原告Aの承諾なくその肖像権を侵害する違法なものであることは前記説示のとおりであるところ、原告Aは、名誉毀損による精神的苦痛と同様に、被告による本件写真の無断掲載によって大きな精神的苦痛を受けたと認められる。そして、前記説示の点等本件に顕れた一切の事情を勘案すれは、原告Aの前記精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料は二〇〇万円をもってするのが相当である。
イ 弁護士費用
 被告による不法行為によって、原告Aが、本件訴訟を提起することを余儀なくされ、そのために弁護士に対する委任をしたことは当裁判所に顕著な事実である。そして、前記弁護士に委任するための費用のうち、二〇万円が被告による不法行為と相当因果関係ある損害である。
第四 結論
 以上説示したところによると、原告らの請求のうち、原告Aについては、不法行為に基づく損害賠償として七七〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一一年一〇月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに被告の発行する雑誌「週刊現代」誌上に別紙一記載の謝罪広告を別紙三記載の掲載条件により一回掲載することを求める限度で理由があるから、その範囲でこれを認容することとし、原告Aのその余の請求及び原告会社の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

 裁判長裁判官 高田健一
 裁判官 遠藤浩太郎
 裁判官 大野晃宏


別紙一 謝罪広告
 おわびと記事の取消し
 当社発行の「週刊現代」一九九九年九月二五日号に、「学生時代の<恥>アルバイト テレビ朝日の新人美人アナは『六本木のランパブ嬢』だった」との見出しのもとに、テレビ朝日のアナウンサーであるAさんが、学生時代に六本木のランジェリーパブでアルバイトをしていたとの記事を掲載しましたが、そのような事実は全くありませんでした。
 事実無根の記事を掲載し、Aさんの名誉を著しく傷つけたことについて、深くおわびするとともに、右記事をすべて取り消します。

 株式会社講談社
 代表取締役 野間佐和子
 A様

別紙二 謝罪広告<略>

別紙三 掲載条件
 五分の二ページ(縦九センチメートル、横一五・五センチメートル)
 文字の大きさは、「週刊現代」誌面本文の通常の文字の倍角による。

別紙四、五<略>
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日本ユニ著作権センター
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