判例全文 | ||
【事件名】共有音楽著作権事件 【年月日】平成13年9月5日 東京地裁 平成13年(ワ)第14743号 代表出版社の地位不存在確認請求事件 判決 原告 株式会社アンリミテッドグループ 訴訟代理人弁護士 北村行夫 同 中島龍生 同 大井法子 同 杉浦尚子 同 大江修子 同 吉田朋 同 望月克也 被告 株式会社バーニングパブリッシャーズ 訴訟代理人弁護士 矢田次男 同 渡邉誠 主文 1 別紙楽曲目録1、2記載の共有著作物について、被告が著作権法65条、64条所定の共有著作権行使の代表者の地位にないことを確認する。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 事案の概要 本件は、原告、被告間で締結された、音楽の共同著作物に係る著作権法65条、64条所定の共有著作権行使の代表者の地位を被告とした契約の解除の効力が争われた事案である。請求の趣旨は主文と同旨である。 (請求原因) 1 契約の成立 (1) 別紙楽曲目録1、2記載の各著作物(以下「本件各著作物」と総称し、個々の著作物を示す場合は、別紙楽曲目録1及び2の楽曲番号を付して「本件著作物1」などという。)は原告及び被告等の共同著作物である。 (2)ア 原告は、被告との間で、本件著作物1ないし8、11、13ないし27、32ないし47について、これらを共同して管理することに関する各契約(以下「本件各契約1」と総称する。)を締結した。 イ また、原告は、被告及び訴外会社との間で、本件著作物9、10、12、28ないし31、48について、これらを共同して管理することに関する各契約(以下「本件各契約2」と総称し、本件各契約1と本件各契約2を併せて本件各契約という。)を締結した。 (3)ア 本件各契約では、@社団法人日本音楽著作権協会(以下「音楽著作権協会」という。)からの使用料の受領は、被告が代表して行うこと、A被告は、本件協会から受領した上記使用料のうち原告の受領分を、毎年3月、6月、9月及び12月の各末日を計算期の締切日として、締切日後60日以内に、原告に支払うことが約定された。 イ そして、原告の上記受領分は、本件各契約1においては2分の1、本件各契約2においては3分の1である。 2 債務不履行 ところが、被告は、原告に対して、音楽著作権協会から受領した本件各著作物の使用料のうち本件各契約に基づく原告の前記受領分の平成12年4期及び平成13年1期分の支払を全く履行しない。 3 解除通知 原告は、平成13年6月11日、被告に対し、前記2の未払金を7日以内に支払うことを要求する旨及び同期限までに同支払がない場合は本件各契約を解除する旨の通知をした。 4 よって、原告は、被告に対し、本件各契約が解除されたことにより、被告が本件各著作物について、被告が共有著作権の行使における代表者の地位にないことの確認を求める。 (請求原因に対する認否等) 1 請求原因1(2)ア、イ及び同1(3)アの各事実は認める。 2 請求原因1(3)イの事実のうち、本件各契約2における本件著作物10及び48についての原告の受領分は否認し、その余の事実は認める。 本件著作物10及び48についての原告の受領分はそれぞれ4分の1である。 3 請求原因2及び同3の各事実は認める。 4 なお、本件訴えは確認の利益を欠くから却下されるべきである。 第2 当裁判所の判断 1 請求原因について 証拠(甲1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(1)の各事実が認められ、その他の請求原因事実は当事者間に争いがない。なお、被告は、本件著作物10及び48についての原告の受領分が3分の1であることを否認しているが、被告は、原告の受領分の平成12年4期及び平成13年1期分の支払を全くしなかったのであるから、上記の点は被告の本件の債務不履行の有無に影響を及ぼさない。 なお、被告は本件訴えについて確認の利益を争う。しかし、@本件確認の対象は、被告が著作権法65条、64条所定の共有著作権行使の代表者の地位にあるか否かであって、現在の権利義務に関する争いである点は明らかであること、A被告は音楽著作権協会から受領した使用料のうちの原告の受領分を支払わないから、本件各契約を解除したとして、被告が上記地位にないことの確認を求めているものであるが、その主張の経緯に照らして、原告には、これを確認することにより、被告が上記原告受領分を代表して受領してしまうことを防ぐことができるなどの利益が存する点も明らかであることから、確認の利益を認めることができる。 したがって、原告の請求は理由がある。 2 補足説明 本件は、被告答弁書、準備書面を擬制陳述して、第1回口頭弁論期日において終結した事件である。 迅速審理の要請に応えて実施している最近の知的財産権事件の審理運営(第1回口頭弁論期日の充実など)に関して、誤解を避け、あわせて理解と協力を得るため補足説明する。 当裁判所は、本件訴訟提起(平成13年7月13日)後、第1回口頭弁論期日(同年9月5日)前に、概要、以下のような期日外釈明を行った。すなわち、原告に対しては、請求の趣旨を明瞭にするための釈明を求め、原告は、これに応じて、7月30日付けの「請求の趣旨の訂正申立」書を提出した。また、被告から提出された答弁書(8月24日)には、請求原因に対する認否が記載されていなかったため、同日、電話で、被告訴訟代理人に対して、紛争の概要、実態に関する説明及び請求原因に対する認否を促した。被告は、第1準備書面(9月5日)を提出し(ファクシミリ送付)、同書面には、請求原因の認否が記載されている(なお、前記のとおり、請求原因には争いがない。)。 当裁判所は、以上の経緯に照らし、また、次のような観点を考慮して、第1回弁論期日において、弁論を終結して、判決を言い渡した。 (1) 本件紛争の性質について 本件は、原告、被告間で音楽の共同著作物に係る著作権法65条、64条所定の共有著作権行使の代表者の地位を被告と定めた契約が、債務不履行を理由とする解除により消滅したことを根拠とする訴訟である。一般的に、このような紛争においては、原、被告間に複雑な事情が存在し、仮に被告が金銭債権を主張するのであれば、相互の債権債務を確定した上で、その点に関する法的紛争も含めて、一挙に解決することが相応しい場合も存在する。 しかし、@裁判所が被告に対してした期日外釈明の聴取内容(被告側から原告側に対する交渉は開始されていないこと、本件紛争に関連した別件訴訟が係属中であること、被告が原告に対して有すると主張する金銭債権の発生原因及び額等の確定には、なお時間を要すること)、A原告側も全体的な解決には困難が予想されると考えていること、B原告は、本件で、音楽著作権協会等からの著作権使用料の受領を受けるに当たり、被告が、代表する立場にないことの確認のみを求めており、その余の請求を一切していないことに照らすと、本件に関する迅速審理を求める意向が強いと判断されること、C仮に、被告が、音楽著作権協会等から代表して金銭を受領できないことになっても、その不利益は必ずしも重大とまではいえないこと(判決の効力は、被告が本件各著作物の共有著作権者であること自体に影響を及ぼすものではない。)等の事情を総合的に考慮して、当裁判所は、本件においては、他の法的な紛争を含めて解決することは必ずしも相当でないと判断した。 (2) 相殺の抗弁の可能性について 仮に、被告が原告に対して何らかの金銭債権を有している場合、これを自働債権とし、原告の有する音楽著作権協会から支払われた使用料についての前記原告受領分の支払請求権を受働債権とした相殺の抗弁を主張した場合の可否について、検討を加えた結果を述べる。 被告の平成13年9月5日付け準備書面には、「ただし、今回調査により楽曲目録10について、被告は原告に対し、誤って、3分の1を分配していたことが判明したため、今後、差額分について請求する所存である。」と記載されているが、この記載からすると、被告が上記請求権を自働債権とした相殺の意思表示をすることを想定した場合においても、その意思表示が解除の意思表示の到達前にされないことは明らかである。契約解除の効力は解除後にされた相殺の意思表示に影響されない点は、確定した判例である(最判第2小法廷昭和41年1月14日集民82号41頁、同第2小法廷昭和32年3月8日民集11巻3号513頁参照)以上、上記請求権を自働債権として、原告の上記原告受領分の支払請求権と相殺することにより、解除の効力を争うことはできない。また、仮に、被告が上記準備書面において示唆した債権以外に原告に対する債権を有していたとしても、弁論の全趣旨及び合理的な経験則に照らして、これを自働債権とした相殺の意思表示を本件各契約の解除前にしていたと認めることはできない(仮に、被告が同債権を自働債権とした相殺の意思表示を本件各契約の解除前にしていた可能性が皆無ではないとしても、当裁判所が本件において相殺の主張を可能とする事実があったのではないかと推測して、被告から上記相殺の抗弁が提出されるまで終結を延ばすことが、本件訴訟の審理運営として妥当なものとはいえない。)。 東京地方裁判所民事第29部法廷 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 谷有恒 裁判官 佐野信 |
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