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【事件名】パチスロ機の誹謗中傷事件
【年月日】平成13年8月28日
 東京地裁 平成12年(ワ)第19078号 不正競争行為差止等請求事件

判決
原告 日本電動式遊技機特許株式会社
代表者代表取締役 徳山謙二朗
訴訟代理人弁護士 島田康男
被告 アルゼ株式会社
代表者代表取締役 岡田和生<ほか一名>
被告ら訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 戸田泉


主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して二〇〇万円及びこれに対する平成一二年九月二一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の請求中、差止請求に係る部分を却下する。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
五 この判決は一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告らは、別紙記載の謝罪広告を株式会社遊技通信社発行の雑誌「遊技通信」に一回掲載せよ。
二 被告らは、原告の業務に関し虚偽の陳述又はそれを掲載した文書の流布をしてはならない。
三 被告らは、原告に対し、連帯して一〇〇〇万円及びこれに対する平成一二年九月二三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 原告(日本電動式遊技機特許株式会社)は、パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」という。)業界において、特許権等の工業所有権及び著作権(以下「特許権等」と総称する。)を保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得て、同業界の製造業者(以下「パチスロ機製造業者」と総称する。)に対して有償で再実施許諾して、その実施料を特許権者等に還元することを業とする会社であり、同業界において、一般的に「日電特許」と略称されている。
 本件は、原告が、パチスロ機業界の一社である被告アルゼ株式会社(以下「被告会社」という。)の代表者である被告岡田和生が、記者会見で原告の業務を詐欺呼ばわりして誹謗中傷する発言をし、かつ、被告らが雑誌杜をして原告を誹謗中傷する内容の記事を掲載させたと主張して、被告らに対して、不正競争防止法二条一項一三号の不正競争行為を理由として、虚偽の風説の告知・流布の差止め、謝罪広告、慰謝料の支払を求めているものである。
一 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、商業登記簿上の事業目的を、遊技機器に関する工業所有権及び著作権の取得、実施権の設定並びに許諾に関する事業及び遊技機器の研究、開発に関する事業とする株式会社である。被告会社は、遊戯機器及び遊技機器の試験研究、企画、開発、製造、販売等、並びに、特許権、商標権、著作権その他の知的財産権の取得、利用の開発、管理、使用許諾、譲渡及びこれらの仲介を業とする株式会社であり、被告岡田は、被告会社の代表者である。
(2) 被告会社は原告の株主であり、他の株主と同様に四〇株を有する。
(3) 被告岡田の行為
ア 被告岡田は、平成一一年一一月一五日、遊技機業界開運のマスコミ関係者を被告会社本社事務所に集めて、記者会見を行った(以下「本件記者会見」という。)。本件記者会見は、被告会社が訴外サミー株式会社(以下「サミー」という。)に対して提起した特許権侵害訴訟(当庁平成一一年(ワ)第二三九四五号事件。以下「別件対サミー訴訟」という。)に関する事情等を説明するとして開かれたものである。
イ 岡田発言の内容
 本件記者会見において、被告岡田は、次のように発言した。
@ 「(被告会社は、原告を)脱会しました。」(〈証拠略〉)
A 「あそこ(原告を指す。)にお金を払っているのは全然意味がありません。日電特許は異常な会社ですよ。みんなからお金を取っている。特許を持っていない人がお金を取っている。払っている人もおかしい。異常なことです。」
B 「日電特許に絡んでいるから何となく安心していられるなんていうのは、考え方が一つおかしいということね。日電特許なんて詐欺的行為ですよ。日電特許の行っていることは非常に怖いことを行っている。こうみていいんじゃないでしょうかね。」
C 「日電特許もおかしいですよ。解約しているんですから。日電特許がお金を回収しちゃおかしいんです。」(〈証拠略〉)
ウ 訴外株式会社遊技通信社(以下「遊技通信社」という。)は、本件記者会見における被告岡田の発言内容を、雑誌「遊技通信」一二四三号(二〇〇〇年一月号、平成一一年一二月二〇日発行。以下「本件雑誌」という。)の「パチスロ特許紛争勃発 今後の許諾関係にも影響必至」なる表題を付した記事(以下、「本件記事」という。)において、次のとおり掲載した。
 「ここに至るまでは、パチスロ関連の特許を管理運営する日電特許の運営のあり方についても関連があるという。岡田社長は、『保有する特許がないにもかかわらず、あたかも有るようにふるまい、さらにはメーカーから会費を徴収するというのは詐欺的行為にも等しい。』と日電特許を厳しく非難している」(本件雑誌二三頁第四段)
 「そこでアルゼは日電特許を脱会し、自社の持つ特許を引き上げ、自主管理することで直接交渉に応じることにしたのだという。」(本件雑誌二三頁第五段)
(4) 原告と被告らの関係等
ア 現在のパチスロ機の基になるスロットマシンは昭和五二年ころ登場し、風俗営業法の認可の下で登場したのは昭和五五年ころであるが、そのころから、パチスロ機製造業者の間で、特許権・実用新案権をめぐる紛争が頻発した。そのため、業界におけるその種の紛争を調整するために、昭和五九年三月に現在の原告代表者である徳山謙二朗を代表者とする日本電動遊技機特許株式会社(後に、日本電動特許株式会社と商号変更)が設立された。その後、同種の業務を行う会社として、平成二年三月には警察庁出身の海江田鶴造を代表者とする全国回胴遊技機特許株式会社が、その二年後には被告岡田を代表者とする電動式特許株式会社がそれぞれ設立されたため、一時は同業三社が鼎立した。この三社がパチスロ機製造業界における上記のような紛争の調整を行ったがうまくいかず、かえって三社が主導権争いを演じることになり、混乱した。このような状態を解消するために原告が設立され、特許権等の管理を行う会社を原告に一本化することとして、三社は解散した。原告には、それまでの上記三社に参加していたパチスロ機製造業者が概ね参加し、被告会社も、四〇株を出資して原告の株主となった。被告岡田も、原告の取締役となった。
イ パチスロ機をめぐる特許権等の管理について原告の行う方法は、特許権等を保有する者が、その保有する特許権等を、原告に対し、多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで、実施許諾するというものである。そして、再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は、遊技機に貼付する証紙を原告が発行し、パチスロ機製造業者が製造台数分の証紙を購入するという方法によりされていた。この方法は、従前の三社で行われていた方法と同じである。被告岡田が代表者を務めていた電動式特許株式会社においても同様の方法が採られていた。この証紙の代金一枚二〇〇〇円から、一〇〇〇円を実施料として、特許権を保有する者の側に、特許権等の使用状況を考慮して支払う。特許権等を保有する者の側に支払われる実施料の算定は、再実施許諾の対象となる特許権等の個数に応じてされている。
二 争点
(1) 岡田発言が、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当するか(争点1)。
(2) 本件記事が、被告らによる同号所定の不正競争行為に該当するか(争点2)。
(3) 差止請求の当否、原告の損害、信用回復の措置の必要性(争点3)
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(岡田発言が、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当するか)について
(1) 原告の主張
ア 不正競争防止法二条一項一三号該当生
(ア) 原告と被告会社は、ともに、「遊技機器に関する工業所有権及び著作権の取得、実施権の設定並びに許諾に関する事業」を株式会社の事業目的としており、これまでの両者のパチスロ機業界における立場、これまでの「争いのない事実等」記載の経緯(被告会社は、その代表者である被告岡田を電動式特許株式会社の代表者にして、業界各社の工業所有権の実施許諾の仲介を行ってきたこと、その地位が原告に取って代わられたこと)などに照らし、さらにまた、現在、被告会社が、自社の特許権等の実施許諾を、原告を介さず、被告会社を中心に業界各社との間で直接交渉することを宣言し、その系列の一部の会社との間で、原告と無関係に実施許諾契約を締結していることからも、原告と被告会社は同種営業を行い、現に競争関係にある。
(イ) 本件記者会見は、パチスロ機業界に関係するマスコミの記者に呼びかけて開かれたものであり、同業界の関係者にも伝わっており、その出席も格別拒まれていたわけでない。そのような場で、被告岡田は、前記岡田発言(第二、一(3)@〜C)を行い、原告の営業活動が詐欺的行為であるなどと述べた。上記発言は、またたく間に業界各社の知るところとなり、原告の営業上の信用は著しく害された。また、本件雑誌は、パチスロ機業界に関係する者(パチスロ機の製造・販売業者だけでなく、監督官庁関係者も含まれる。)は必ずといっていいほど目を通す、いわゆる業界誌であるから、本件記事を読んだパチスロ機業界関係者が、原告の営業活動は「詐欺的行為」であると考え、原告との間で実施許諾契約を締結して実施料を支払うことが無意味であるとして、被告会社と実施許諾契約を締結しなければならないと考えるおそれがあり、これにより原告の営業上の信用は著しく害された。
(ウ) 原告の営業活動が詐欺的であるとの岡田発言は、虚偽の事実を流布するものである。
a 被告岡田は、原告が特許権等を保有していないことをもって、実施許諾契約を締結して実施料を回収することがおかしいと発言している。しかし、同被告も、代表者を務めていた電動式特許株式会社において、特許権等を保有する者との間で再実施許諾権付きで実施許諾契約を締結し、当該再実施許諾権に基づいて、他の各社との間で再実施許諾契約を締結していたのであって、自ら同様の契約関係を結んでおきながら、原告の営業活動を妨害するために、同じ行為を「詐欺的行為」であると発言したものである。さらに、被告会社も、従来の三社が原告に集約された際に、その保有する特許権等につき、原告との間で、再実施許諾権付きの実施許諾契約を締結している。
b 被告岡田は、「被告会社は原告から脱退している。」、「原告との間の実施許諾契約を解約している。」と発言しているが、被告会社は依然として原告の株式四〇株を有する株主であり、原告との間の実施許諾契約を解約する旨の合意は存しない。したがって、これらの発言も事実に反する。
c 被告岡田は、原告に対して再実施許諾権付きの実施許諾契約を締結している特許権等の保有企業が、あたかも被告会社及びその傘下の企業のみであるかのような発言をしている(被告会社が原告との間で合意解約しているから、原告に特許権等はないと誤解される発言を行っている。)。しかし、このような発言も事実に反する。
 まず、原告に対して再実施許諾権付きの実施許諾契約を締結している特許権等の保有企業は、被告会社及びその傘下の企業のみではない。特許権等を保有する企業は被告会社に限られないし、原告又は原告代表者が発明者、出願人となっている特許権等も存する。したがって、原告が特許権等を保有していないとし、「実施許諾契約を締結して実施料を回収することがおかしい。」とか、「詐欺的である。」などと非難・中傷するのは、事実の法律的評価はもちろんその前提となる事実自体を偽っている。
 被告岡田は、自己が原告と同様の特許権管理会社の代表者を務めたことなどから、再実施許諾権付きで実施許諾契約を締結するに当たっては、このような特許権管理会社自身が特許権等の保有者である必要がないことを知悉しながら、原告の営業上の信用を害する目的で、原告が特許権等を保有していないとの虚偽の発言を行い、また、特許権等を保有していない原告の行為は詐欺的であるなどと虚偽の発言をし、もって、虚偽の事実を告知し、流布したものである。
イ(ア) 被告岡田は、平成九年初めころから、パテントプール方式を解消して、特許権等の保有者とパチスロ機製造業者との個別の直接契約によることを主張し始めた。被告会社が、原告との再実施許諾権付き実施許諾契約が終了したと主張する根拠は、以下のようなものであった。
@ 同年六月一一日の原告の取締役会において、原告との再実施許諾契約及び実施許諾契約を共に終了する旨、新たにパチスロ機製造業者との個別の直接契約を締結する旨を決議した。
A 同年六月一八日の原告の株主総会において、株主全員の同意の下、上記@と同じ内容が決議された。
(イ) しかしながら、このような事実はないし、被告会社等が平成一二年二月に原告を相手として提起した不当利得返還請求訴訟(当庁平成一二年(ワ)第三七〇一号事件。以下「別件対日電特許訴訟」という。)の判決でも認められていない。同年六月一一日の原告の取締役会、同月一八日の原告の株主総会のいずれにおいても、被告岡田がこの件を持ち出し、話し合われたが、話はまとまらなかった。したがって、契約関係終了の決議はされていない。
 さらに、平成一〇年八月五日に、各社から選任された技術専門家委員の出席の下に、専門家委員会が開かれ、各社がどの権利を使用しているか、各社の有する権利の重要性はどれほどかなどを検討して、実施料等を合理的に算定しようとした。これは契約関係が存続しているから、契約条件を検討するために開かれたのである。この専門家委員会には被告会社からも委員が出席している。
(ウ) 平成九年六月一八日の原告の株主総会以降、被告会社は、パテントプール方式の終了を主張して、特許権侵害訴訟を次々提起しており、別件対サミー訴訟もその一つである。このこと自体、被告岡田の提案が他の株主や契約名杜の同意を得られていないことの証左である。
 以上のとおり、岡田発言において被告岡田が基礎としている原告との契約関係終了の事実は、それ自体虚偽である。
ウ 本件は、「公正な論評」の法理の適用されるようなものではない。岡田発言は、原告の社会的信用を著しく低下させるものであって、営業活動として自由競争の範囲内において許容される限度を逸脱するものである。
(2) 被告らの主張
ア 原告の主張する岡田発言は、実際の被告岡田の発言を部分的に寄せ集めて、発言の趣旨を間違って受け取られるように構成したものである。
 被告岡田は、「日電特許が絡んでいるから、何となく安心していられるなんていうのは、もう考え方が一つおかしいということです。詐欺的行為ですよ、日電特許なんて。別に中傷・誹謗で言おうという話ではないんですけど。今お金を集めていることが責任持てるか、ということが一番重要なことです。日電特許が行っていることは、非常に怖いことを平気で行っている。こう見ていいんではないでしょうかね。」との発言に続いて、「あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ない。」と発言しており、被告会社の特許権等に限定して発言している。もともと本件記者会見自体、被告会社の特許権等に関する事情を説明する会見であったので、すべての発言が被告会社の特許権等に関連してされたことは、明らかである。また、被告岡田が「特許」と言っているのは、被告会社の特許権等の実施許諾権及び再実施許諾権を含む意味での発言であることは明白である。したがって、被告岡田が、原告自身が特許権等を保有していないなどということを問題にしたことはないし、原告の主張するように、原告に対して再実施許諾権付きの実施許諾契約を締結している特許権等の保有企業が被告会社のみであるかのように発言したこともない。
イ(ア) 被告会社は原告との間の再実施許諾権付きの実施許諾契約を解除したので、原告は、被告会社の保有する特許権等について再実施許諾権を有していない。それにもかかわらず、原告は、平成一一年一一月一五日(本件記者会見の日)当時、再実施許諾の対価たる実施料を、パチスロ機製造業者から回収していた。このような行為は異常なことであり、再実施許諾権なしに実施料を回収するのは、詐欺的行為と評価し得る。すなわち、被告会社が原告に実施許諾している特許権等は、原告がパチスロ機製造業者に再実施許諾している全特許権等の約五〇%(パチスロ機製造業者が特許権等を使用している経済的価値を基準として)を占める。被告会社は、原告との再実施許諾権付き実施許諾契約を解除しているので、原告が被告会社の特許権等の分を証紙の代金から減額するならともかく、解除前と同様に証紙一枚につき二〇〇〇円をパチスロ機製造業者から回収しているのは詐欺的だ、と本件記者会見において被告岡田は発言した。この被告岡田の発言はすべて事実である。
 原告は、再実施許諾権付き実施許諾契約について合意解約の事実がない旨を主張するが、仮に合意解除の効力が生じていないとしても、同契約は期間満了又は債務不履行解除により終了している。したがって、岡田発言は虚偽ではない。
(イ) 被告岡田は、被告会社の代表者にすぎず、原告とは競争関係にない。また、被告会社も、原告の行っているような排他的パテントプール方式による特許権等の管理を行っておらず、原告とは競争関係にない。
ウ 岡田発言は、公共の利害に関する事実に係る「公正な論評」として、不法行為責任を阻却される。
(ア) 公共の利害に関する事実
 原告の行っている排他的パテントプール方式は、独占禁止法に抵触する疑いがあり、現に、同様の方式を採用しているパチンコ機業界が、公正取引委員会から勧告を受けていた。したがって、パチスロ機業界にとっては、パチスロ機に関する特許権等のパテントプール方式は、潜在的な独禁法対象行為ということができる。このような状態を解消し、独禁法上の問題を生じない個別の直接契約に切り換えるべきことは、公共の利害に関わる事実というべきである。
(イ) 専ら公益を図る目的で事実を摘示したこと
 原告と被告会社との間の再実施許諾権付き実施許諾契約は、独禁法違反の疑いのあるパテントプール方式の中核となるものであった。被告岡田は、専ら公益のために、このようなパテントプール方式が終了したにもかかわらず、原告が解除前と同様に証紙一枚につき二〇〇〇円をパチスロ機製造業者から回収しているのは詐欺的だ、と発言したのである。被告岡田の行為は、専ら公益を図る目的で事実を摘示したものである。
(ウ) 公正な論評の範囲内であること
 岡田発言の「詐欺的」という言葉は、事実関係を示すことなくいきなり「原告が詐欺的だ」と発言しているのでなく、上記のとおりの事実を明確に指摘したうえで、これらの事実を併せて「詐欺的」と論評したものである。このような岡田発言は、「公正な論評」の範囲内のものとして、保護されるものである。
(エ) 岡田発言の内容は、上記のとおり真実である。仮に真実でなかったとしても、本件では、関係証拠に照らし、被告岡田において、当該発言内容を真実と誤信するにつき相当の理由がある。したがって、このような岡田発言は、たとえ発言の対象者の名誉や信用を毀損したとしても、故意過失がないものとして、不法行為責任が阻却される。
二 争点2(本件記事が、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当するか)について
(1) 原告の主張
ア 被告らは、本件雑誌等の業界誌に自己の見解を記載させるために本件記者会見を行ったものであり、本件記者会見に招かれた遊技通信社は、被告らの意思に従って、本件記事を掲載したものである。
イ 本件記事には、前記一第二、一(3)ウ)のとおり、岡田発言を掲載した部分があるが、掲載された岡田発言が虚偽の内容であって、原告の営業上の信用を害するものであることは、既に岡田発言について主張したとおりである。したがって、本件雑誌記事の掲載は、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当する。
(2) 被告らの主張
 遊技通信社は、被告らの意思に従って本件雑誌に本件記事を掲載したものではない。本件記事の内容については、被告らは一切関与していない。
三 争点3(差止め請求の当否、原告の損害、信用回復の措置の必要性)について
(1) 原告の主張
ア 岡田発言及び本件記事により、原告の名誉と信用は著しく毀損され、原告は営業上の利益を侵害された。したがって、原告は、被告らに対して、原告の業務に関し虚偽の陳述又はそれを掲載した文書の流布の差止めを求める。
イ 被告らの不正競争行為により、原告が被った損害は、一〇〇〇万円を下らない。
ウ 岡田発言に加えて、同発言が本件記事に掲載されたことにより、原告の名誉と信用はさらに毀損されており、原告は金銭の支払のみによっては回復し難い損害を受けている。したがって、原告が被告らの行為により害された営業上の信用を回復するためには、上記金銭の支払とともに、本件雑誌への別紙記載の謝罪広告の掲載が必要である。
(2) 被告らの主張
ア 原告の差止め請求は、差止めを求める行為の内容が特定しておらず、不適法である。
イ 損害及び信用回復の措置の必要性に関する原告の主張は、争う。
第四 当裁判所の判断
一 争点1(岡田発言が、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当するか)について
(1) 岡田発言の内容について
 前記争いのない事実(第二、一(3)アイ)に〈証拠略〉を総合すると、以下の事実が認められる。
 本件記者会見は、被告会社が、平成一一年一〇月二六日に東京地裁に提起した別件対サミー訴訟(当庁平成一一年(ワ)第二三九四五号事件)について、訴訟提起に至る経緯、訴訟における請求の内容等の事情を説明する目的で、平成一一年一一月一五日、遊技機業界のマスコミ関係者を、被告会社本社事務所に集めて開かれた。
 本件記者会見において、被告岡田は、長時間にわたり発言したが、原告指摘の部分については、次のように述べた。
@ (質問者)「ちなみに岡田社長は日電特許を昨年、脱会された。」
 (被告岡田一「はい、脱会しました。」
A 「日電特許とは全然関係ありません。あそこにお金を払っているのは、何の意味か。全然意味がありません。日電特許はもう異常な会社です。みんなからお金を取っていること自体が。特許を持っていない人がお金を取っているんです。払っている人もおかしい。異常なことです。」
B 「日電特許が絡んでいるから、何となく安心していられるなんていうのは、もう考え方が一つおかしいということです。詐欺的行為ですよ、日電特許なんて。別に中傷・誹謗で言おうという話ではないんですけど。今お金を集めていることが責任持てるか、ということが一番重要なことです。日電特許が行っていることは、非常に怖いことを平気で行っている。こう見ていいんではないでしょうかね。あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ない。」
C 「日電特許がおかしいんですよ。解約しているんですから。日電特許がお金を回収してはおかしいんです。私どもの回収機関でも何でもありません。」
 本件記者会見における被告岡田の発言のうち原告が虚偽陳述と指摘する箇所の発言の内容は、上記のとおりと認められる。
 被告らは、原告主張の岡田発言は、本件記者会見における実際の被告岡田の発言のうち、一部のみをつなぎ合わせて、発言の趣旨を間違って受け取られるように構成されていると主張する。原告が虚偽陳述と指摘する岡田発言は、本件記者会見における一連の発言の一部であるから、これらが「虚偽の事実の告知又は流布」に該当するかどうかは、本件記者会見の趣旨・目的、記者会見における被告岡田の発言全体の内容、発言全体の文脈中における原告指摘の発言部分の占める役割等を総合して判断するのが相当である。したがって、被告らの主張する点については、原告指摘の発言部分が虚偽陳述に該当するかどうかを判断する際に、検討することとする。
(2) 岡田発言の背景
 前記争いのない事実等(第二、一(1)(2)(4))、〈証拠略〉を総合すると、岡田発言の背景となっている事情として、次の事実を認定することができる。
ア 原告は、パチスロ機業界において、パチスロ機等に関する特許権等につき、これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得て、同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾して、その実施料を特許権者等に還元することを主たる業務としている。被告会社は、パチスロ機の製造のほか、特許権等の取得、管理、使用許諾等を業とする会社であり、パチスロ機関連の多数の特許権等を保有している。
 パチスロ機には、多数の特許権等が用いられており、現在のようなパチスロ機が登場して以来、特許権等の侵害の問題をどのように解決するかがパチスロ機製造業界における大きな課題であった。そのため、原告のような業種の会社が早くから登場し、特許権等の紛争の解決に当たってきた。そして、一時はこの種の会社三社が鼎立したこともあったが(そのうち一社は、被告岡田が代表者を務める電動式特許株式会社であった。)、三者間で主導権争いを演じるのみで、問題の適切な解決に至らなかった。原告は、このような状態を解決して特許権管理会社を一元化する目的で、平成五年に設立されたものである。
イ 原告の調整方法は、いわゆるパテントプール方式というものである。原告に参加している特許権等の保有者は、少なくとも一定数の特許権等を拠出し、原告に対して再実施許諾権付きで実施許諾をする。この契約は書面で行われており、毎年四月一日から翌年三月三一日まで期間を一年間として締結されているが、契約書所定の解除事由その他契約を継続し難い特段の事由のない限り契約の更新を拒否できないとの条項が置かれており、毎年更新されている。
 原告に参加しているパチスロ機製造業者は、原告が上記のような契約により保有者から実施許諾を受けている特許権等につき、原告から再実施許諾を得て、これを実施する。具体的には、パチスロ機製造業者は、原告から一枚二〇〇〇円で証紙を購入し、これをその製造に係るパチスロ機に貼付するものであるが、パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは、主としてパチスロ機製造業者の申告によっており、原告は、この申告に基づき、特許権等の使用実績により、上記二〇〇〇円の半分の一〇〇〇円を財源として、個別の特許権等の保有者に対する配分額を決定する。パチスロ機製造業者は、原告から証紙を購入して貼付している限り、特許権等の問題は一応解決済みのものとして行動していた。
ウ 被告らは、原告が再実施許諾している特許権等につき、被告会社がその多くを保有しているにもかかわらず、被告会社に対する実施料の支払額が低いと考え、これに不満を抱いていた。また、パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかが、パチスロ機製造業者の自己申告によっているため、特許権等の保有者の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても、製造業者からの申告がされない限り原告が実施料の支払をしないことにも不満を抱いていた。そこで、平成九年六月にパチンコ機製造業者の間での同様のパテントプール制度につき、公正取引委員会から独禁法違反の勧告がされたことを契機に、受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して、原告のパテントプール方式によるのでなく、個々の特許権等保有者がパチスロ機製造業者との間で個別に直接契約を締結する方法に切り換えるべきであるとの持論を展開するようになった。
エ 被告会社は、原告との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が平成九年三月三一日をもって合意解除により終了したと主張するようになり、その結果、被告会社の保有する特許権等については、もはや原告に実施許諾していないとの見解を主張している。そして、被告会社は、被告会社の保有するCT機(チャレンジタイム機。すなわち、パチスロ機のリール制御により、一定の範囲で競技者の技術による操作可能性を採り入れた機種)に関する特許権を使用していると考えたサミーに対し、同特許権を使用しているかどうかを問い合わせ、これに対する応答がなかったことから、平成一一年一〇月二六日に、同社に対し、別件対サミー訴訟(当庁平成一一年(ワ)第二三九四五号事件)を提起した。
 本件記者会見は、同訴訟の提起に関する事情を説明するとして開かれたもので、上記のような被告らの持論を展開する場となった。
 また、被告会社は、原告との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が平成九年三月三一日をもって合意解除により終了したとの上記主張に基づき、平成一二年二月に、原告に対し、パチスロ機製造業者から徴収した実施料を不当利得としてその返還を求める別件対日電特許訴訟(当庁平成一二年(ワ)第三七〇一号事件)を提起した。
(3) 岡田発言の虚偽陳述該当性について
 上記認定の事実関係を前提として、岡田発言のうち、原告指摘の部分が「虚偽の事実」に当たるか否かにつき検討する。
ア 前記のとおり、本件記者会見は、被告会社が提起した別件対サミー訴訟について、訴訟提起に至る経緯、訴訟における請求の内容等の事情を説明する目的で、平成一一年一一月一五日、遊技機業界関連のマスコミ関係者を、被告会社本社事務所に集めて開かれたものである。特許権等の保有者が自己の権利を侵害されているとの考えの下に、当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは、当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情のない限り、当該特許権等の行使として許される行為であり、当該訴訟提起の事実をマスコミ等の第三者に告げる行為も、権利行使に当然に伴う行動として許容されるものであって、それが直ちに不正競争行為に該当するものではない。しかしながら、第三者に対する告知が、当該相手方に対して訴訟を提起した事実や当該訴訟における自己の請求の内容や事実的主張、法律的主張の内容を説明するという限度を超えて、当該相手方を根拠なく誹謗中傷する内容にわたる場合には、当該誹謗中傷部分が不正競争行為に該当することがあるものというべきである。
イ 上記の観点から、本件記者会見における被告岡田の発言のうち、原告が虚偽陳述と指摘する発言部分について、これらが不正競争行為に該当するかどうかを検討する。
(ア) 岡田発言のうち(1)の@の発言部分について
 当該発言部分は、「ちなみに岡田社長は日電特許を昨年、脱会された。」との質問に対して「はい、脱会しました。」と答えたものである。これは、原告への参加企業としての地位から離脱した旨を述べたものであるが、被告会社の保有する特許権等についての実施許諾契約が解除により終了しているという別件対サミー訴訟における被告会社の基本的な主張の背景事情となる内容である。別件対サミー訴訟の提起に際して被告会社の基本的な主張内容を説明する旨の本件記者会見の趣旨に照らせば、出席したマスコミ関係者からの質問に対して被告岡田がこのように回答したことは、訴訟における被告会社の主張内容を告げる範囲にとどまるものというべきであり、不正競争行為に該当するものとはいえない。また、@の発言部分は、本件記者会見の冒頭において前記のとおり質問に対して回答したものであり、前後の発言との関係からすれば、実施許諾契約終了の理由の説明というより、むしろ被告会社はもはや原告の参加企業の一員として統一行動をとっているものではなく、原告と袂を分かって別行動をとっていることを述べた発言と理解することができるが、そうであれば、実施許諾契約解除の法的効力はさておき、現に被告会社が原告のパテントプール方式に異を唱えて、原告から脱退した者として行動している以上、「日電特許を脱会した」との発言内容を虚偽ということはできず、また、その内容自体をもって原告の信用を害するということもできないから、この点からも、不正競争行為には該当しないものというべきである。
(イ) 岡田発言のうち(1)のAの発言部分について
 この発言部分は、別件対サミー訴訟において被告会社が特許侵害品と主張したCT機に関連して、一般的にパチスロ機をめぐる特許権等の問題について述べた一連の発言のなかで述べられたものである。被告岡田は、この点に関し、被告会社が有する特許権等につき、製造業者に個別に許諾をするから実施料を被告会社に直接支払ってもらいたいという持論を展開しているものであるが、そのなかで唐突にAの発言部分が出てきている。Aの発言部分は、別件対サミー訴訟における被告会社の見解を説明するという範囲を超えて、原告が製造業者から特許権等の再実施許諾の対価を徴収していること自体を異常な行動と断定する内容である。本件記者会見における被告岡田の発言全体との関係からみれば、この発言部分は、原告の主張するように「原告が特許権管理会社で自ら特許権等を有しないのに許諾業務を行っていることがおかしい」旨を述べているものではなく、「被告会社の保有する特許権等につき被告会社との間の許諾契約が解除により終了しているにもかかわらず原告がその分も含めた実施料を回収していることがおかしい」旨の、別件対サミー訴訟における被告会社の主張との関連で述べた発言と理解できないわけではないが、そのように解されるとしても、この発言部分は訴訟における自らの主張内容の単なる説明にとどまるものではないから、その前提たる許諾契約の終了が事実と異なる場合には、発言が不正競争行為に該当するものというべきである。
(ウ) 岡田発言のうち(1)のBの発言部分について
 この発言部分は、被告会社の保有する特許権等をめぐる訴訟に関する被告岡田の説明のなかで述べられたものであるが、原告が製造業者から特許権等の再実施許諾の対価を徴収していること自体を「詐欺的行為」と断定するなど、別件対サミー訴訟における被告会社の見解を説明する範囲を超えるものである。この発言部分は、末尾に「あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ない。」との部分を含むものであり、本件記者会見における被告岡田の発言全体との関係からみれば、Bの発言部分全体が「原告が被告会社の保有する特許権等の分も含めた実施料を製造業者から回収している行為」について言及した発言と理解できないわけではないが、そのように解されるとしても、この発言部分は訴訟における自らの主張内容の単なる説明にとどまるものではないから、その前提たる許諾契約の終了が事実と異なる場合には、発言が不正競争行為に該当するものというべきである。
(エ) 岡田発言のうち(1)のCの発言部分について
 Cの発言部分は、Bの発言部分からの流れで、被告会社の保有する特許権等をめぐる訴訟に関する被告岡田の説明のなかで述べられたものであり、「被告会社の原告に対する許諾契約が解除されているから、被告会社の有する特許権等について、原告が製造業者に再許諾して、その対価としての実施料を徴収することはできない」旨の別件対サミー訴訟における被告会社の基本的な主張を述べたものであることが、容易に理解できる。したがって、Cの発言部分は、訴訟における被告会社の主張内容を説明する範囲にとどまるものというべきであり、不正競争行為に該当するものとはいえない。
ウ 許諾契約終了の事実の虚偽性について
 そこで、岡田発言のうち、ABの発言部分が不正競争行為に該当するかどうかを判断するために、次に、被告会社の原告に対する許諾契約が終了した旨の陳述が虚偽かどうかを検討する。
 前記(2)認定のとおり、被告会社は、平成一二年二月に、原告に対し、パチスロ製造業者から徴収した実施料を不当利得としてその返還を求める別件対日電特許訴訟(当庁平成一二年(ワ)第三七〇一号事件)を提起したものである。〈証拠略〉によれば、この訴訟において、被告会社は、平成九年六月一八日に開催された原告の株主総会において、原告との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が合意解除されたなどとして、同契約は平成九年三月末日ないし六月一八日をもって終了したと主張したが、東京地方裁判所民事四七部は、平成一二年一〇月三一日、被告会社の主張する許諾契約の解除は認められず、同契約は効力を有するものと認められると判示して、被告会社の請求を棄却する判決を言い渡したことが認められる(なお、被告会社は右判決を不服として東京高等裁判所に控訴したが(同裁判所平成一二年(ネ)第五七〇七号事件)、同裁判所第六民事部は、平成一三年七月一九日、控訴審における被告会社のその余の解除原因についての追加主張をも排斥して、許諾契約の解除を認めず、同契約は効力を有するとの見解の下で被告会社の控訴を棄却する判決をした。この事実は、当裁判所に顕著である。)。本件訴訟における全証拠に照らしても、被告らの主張する許諾契約の合意解除は認められない。
 さらに、被告会社は、本件訴訟において、期間満了による契約の終了及び債務不履行解除による終了をも主張しているが、本件における全証拠に照らしても、これらの原因により許諾契約が終了したと認めることはできず、同契約は被告会社と原告との間でいまだ効力を有しているものと認められる。
 以上によれば、岡田発言において被告会社の原告に対する許諾契約が終了した旨をいう点は虚偽であるから、これを前提とするABの発言部分は、「虚偽の事実」を述べたものというべきである。
エ 競争関係の存在について
 前記(2)認定のとおり、原告はパチスロ機等に関する特許権等につき、これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得た上で、製造業者に対して有償で再実施許諾しているものであり、他方、被告会社は、パチスロ機の製造のほか、特許権等の取得、管理、使用許諾等を業とする会社であるところ、パチスロ機関連の多数の特許権等を保有し、それらにつき製造業者との間で個別に有償の実施許諾契約を締結しようとしているのであるから、原告と被告会社が競争関係にあることは明らかである。また、被告岡田は、被告会社の代表取締役であり、被告会社の代表者の職務として本件記者会見において発言し、前記のABの発言部分を述べたのであるから、その行為については、被告会社と共に、不正競争行為の主体として、その責任を負うべきものである。
オ 被告らの故意過失等について
 被告らは、岡田発言は、公共の利害に関し専ら公益を図る目的で事実を摘示したものであるから、公正な論評として保護されるものであり、仮に真実でなかったとしても、被告岡田において発言内容を真実と誤信するにつき相当の理由があるから、故意過失を欠くものとして不法行為責任を阻却されると主張する。
 不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為は、「虚偽の事実」を告知又は流布することを要件とするものであるから、発言内容が真実である限り、同号所定の不正競争行為に該当するものではない。しかし、本件においては、前記のとおり、岡田発言において被告会社の原告に対する許諾契約が終了した旨をいう点は虚偽であるから、ABの発言部分をもって公正な論評という被告らの主張は、その前提を欠き、失当である。また、被告会社と原告との間の許諾契約が終了したかどうかは、被告会社は契約当事者として自らこれを判断するに足りる事実を了知していたものであるから、被告岡田において仮にその点についての判断を誤っていたとしても、少なくとも過失があったというべきである。
 また、被告岡田は、遊技機業界関連のマスコミ関係者を集めた本件記者会見においてABの発言部分を述べたものであり、その場で発言を聞いたマスコミ関係者を通じて発言内容が報道されることを想定して当該発言をしたものであるから、これが虚偽の事実を「告知し、又は流布する行為」に該当することは明らかである。
カ 小括
 以上によれば、被告岡田が本件記者会見においてABの発言部分を述べた行為は、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為と認めるのが相当である。
二 争点2(本件記事が、被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当するか)について
 原告は、本件記者会見に招かれた遊技通信社は、被告らの意思に従って本件記事を掲載したものであるから、本件記事は被告らによる不正競争防止法二条一項一三号所定の不正競争行為に該当すると主張する。
 たしかに、遊技通信社が本件雑誌に本件記事を掲載したのは、本件記者会見において被告岡田の発言を聞いたことが契機となっているものということができる。しかしながら、本件における全証拠に照らしても、被告らが遊技通信社に対して具体的に何らかの働きかけをして本件記事を掲載させたことを窺わせる事情は何ら認められない。したがって、本件記事の掲載をもって、被告らによる同号所定の不正競争行為ということはできない。
 また、本件記事(〈証拠略〉)の内容を見るに、本件記事は、「パチスロ特許紛争勃発今後の許諾関係にも影響必至」なる表題の下、「アルゼがサミーをCT機能の特許権侵害で四二億円の賠償を求め提訴。」との小見出しを付けたもので、冒頭に被告会社がマスコミに配布した別件対サミー訴訟の提訴に関する説明文の抜粋を引用した上で、同訴訟の提訴に至る背景としてのパチスロ機関連の特許等をめぐる問題を説明するとともに、本件記者会見における被告岡田の発言を紹介する内容のものである。たしかに、本件記事中には、争いのない事実等(第二、一(3)ウ)に記載したとおり、「ここに至るまでは、パチスロ関連の特許を管理運営する日電特許の運営のあり方についても関連があるという。岡田社長は、『保有する特許がないにもかかわらず、あたかも有るようにふるまい、さらにはメーカーから会費を徴収するというのは詐欺的行為にも等しい。』と日電特許を厳しく非難している」との記載があるが(本件雑誌二三頁第四段)、この記載は、本件記事の末尾部分に置かれたものであり、これに引き続く部分において、原告の行うパテントプール方式をめぐっての原告と被告会社との間の見解の対立を説明した上で、「そこでアルゼは日電特許を脱会し、自社の持つ特許を引き上げ、自主管理することで直接交渉に応じることにしたのだという。」(本件雑誌二三頁第五段)と記載されているものであって、本件記事を全体として見れば、前記の岡田発言の引用部分は、別件対サミー訴訟との関連で被告会社の保有する特許等について被告岡田が述べた発言であることが理解できるものである。また、本件記事は、冒頭に引用した被告会社配布の説明文の内容についてのサミーの反論を記載しているほか、記事の最後には、「本文中の岡田社長のコメントは全て一一月一五日、アルゼ本社において行われた記者会見の席でのものです。一方、サミーは今回の件について『現在、係争中であるのでコメントは差し控えたい。しかし、双方の意見には食い違いがあるので、アルゼの要求を全面的に受け入れる訳にはいかない』としている。」との文章を掲載しているものでありこれらの点を併せて読むときは、岡田発言の引用部分が訴訟に関連しての一方当事者の言い分であることが読者に容易に理解できるものである。したがって、本件記事は、その内容自体としても、「虚偽の事実の告知又は流布」として不正競争行為に該当するものとはいえない。
三 争点3(差止め請求の当否、原告の損害、信用回復の措置の必要性)について
(1) 差止め請求の当否について
 本件において原告が求めている差止請求は、請求の趣旨第二項記載のとおり、「被告らは、原告の業務に関し虚偽の陳述又はそれを掲載した文書の流布をしてはならない。」というものであるが、これは陳述ないし文書の具体的な内容を特定することなく、陳述及び文書の配布を差し止めることを求めるものであって、不正競争防止法三条一項により認められる予防請求の範囲を超えるものであり、また、不作為命令が遵守されているかどうかの判断が困難であって強制執行(民事執行法一七二条一項)が不能なものというほかはないから、不適法な請求として却下を免れない。
 なお、本件においては、不正競争行為に該当する被告岡田の前記ABの発言部分は、別件対サミー訴訟の提起に伴う本件記者会見において、訴訟における被告会社の主張内容を説明する際に、訴訟内容の説明としての範囲を逸脱して発言されたものであって、偶発的な発言ということができるところ、その後他の場所において被告会社又は被告岡田が同内容の発言を繰り返した事実は認められず、また、本件記事についても、前記のとおり、これを本件雑誌に掲載することにつき被告らが具体的に関与したものではないから、現時点において予防請求として被告らに対して陳述及び文書配布の差止めを求める必要が存在するとは認められない。したがって、仮に原告において差止め請求の内容を補正したとしても、これを認容する余地はないものというべきである。
(2) 原告の損害について
 原告は、被告岡田のABの発言部分により営業上の信用を害されたものであり、被告岡田の発言は、遊技機業界関連のマスコミ関係者を集めての記者会見という場で公然行われたものではあるが、同発言部分は、本件記者会見における岡田発言全体からすれば一部分にとどまるものであり、かつ、前記のとおり、被告岡田の発言部分は記者会見における訴訟内容の説明の範囲を逸脱した偶発的な発言と認められ、また、同発言部分の一部が本件記事において引用されているとはいえ、これが訴訟に関連しての一方当事者の言い分であることが読者に容易に理解できる形で引用されているものである。これらの点に加えて、前記認定の被告会社による別件対サミー訴訟提起に至る背景事情等、本件において認められるその他の諸事情をも総合考慮すれば、原告の損害は、二〇〇万円をもって相当と認められる。
(3) 信用回復の措置の必要性について
 原告は、信用回復のための措置(不正競争防止法七条)として、本件雑誌に別紙記載の謝罪広告を掲載する必要があると主張するが、本件においては、前記のとおり、被告岡田のABの発言部分は、本件記者会見における岡田発言全体からすれば一部分にとどまるものであり、また、本件記事については被告らが具体的に関与したものではなく、本件記事において岡田発言が引用されている部分も、これが訴訟に関連しての一方当事者の言い分であることが読者に容易に理解できる形で引用されているものであるから、損害賠償に加えて更に本件雑誌上への謝罪広告の掲載が必要とまでは認められない。
四 結論
 以上によれば、原告の本訴請求のうち差止請求に係る部分は不適法として却下すべきものであり、その余の請求については、被告らに二〇〇万円及び遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があるが、これを超える賠償及び謝罪広告の掲載を求める部分は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之

別紙謝罪広告〈略〉
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