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【事件名】中学校の設計図事件(2)
【年月日】平成13年8月9日
 東京高裁 平成13年(ネ)第797号 建築設計図使用差止等請求控訴事件
 (原審・長野地裁佐久支部 平成9年(ワ)第101号)
 (平成13年6月7日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 株式会社青建設計
訴訟代理人弁護士 隈元慶幸
被控訴人 布矢・甘利・篠原設計監理共同企業体
代表者 有限会社布矢建築事務所
訴訟代理人弁護士 花岡正人


主文
 本件控訴を棄却する。
 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 原判決を取り消す。
 被控訴人は、別紙第一設計図に基づいて第三者との間で設計契約又は設計監理契約を行うなどして同設計図を使用してはならない。
 被控訴人は、控訴人に対し、金300万円及びこれに対する平成9年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 当事者の主張
 本件は、控訴人が作成し、小諸市立東中学校改築事業基本設計コンペ(以下「東中コンペ」という。)に提出して合格したコンペ案(以下「東中コンペ案」という。)を前提とした実施設計図中の1枚である別紙第二設計図(以下「本件設計図」という。)を、被控訴人が複製又は翻案して、同市立芦原中学校改築事業基本設計コンペ(以下「芦原中コンペ」という。)に提出するために別紙第一設計図(以下「被控訴人設計図」という。)を作成し、控訴人の著作権及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したとして、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人設計図の使用の中止並びに慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。
 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
 なお、原判決にいう「原告設計図」を「本件設計図」と、「被告設計図」を「被控訴人設計図」と、「原告ら共同企業体」を「青建・布矢・甘利共同企業体」と、それぞれ言い換えることにする。
(当審における控訴人の主張の要点)
1 請求の根拠となる著作物の特定
 控訴人が本件において請求の根拠とする著作物は、別紙第二設計図(本件設計図)であり、それは、東中コンペに提出して合格したコンペ案(東中コンペ案)を前提とした実施設計図中の1枚である。
 被控訴人は、控訴人が侵害を主張する著作物が、当初、コンペ案(基本設計図)とされていたものから、実施設計図に変更されたことを取り上げて、問題とする。しかし、実施設計図は、実際に建築物を建てるために、コンペ案(基本設計図)を基にして作成するものであるから、両者を別物として考える実益はない。確かに著作物としては別々に成立する可能性も考えられるけれども、逆に、コンペ案と実施設計図との間には、原著作物と二次的著作物に似た関係があることを考えれば、これを厳密に分けて検討する必要に乏しいというべきである。
2 本件設計図の著作権の帰属
 原判決は、本件設計図の著作権は、当初、青建・布矢・甘利設計監理共同企業体(以下「青建・布矢・甘利共同企業体」という。)に帰属した、と認定したが、この認定は誤っている。後に著作者人格権(同一性保持権)について述べるのと同じ理由により、本件設計図の著作権は控訴人に帰属したのである。
3 著作者人格権(同一性保持権)の帰属
 控訴人は、原審において、著作権の侵害に係る主張のみならず、著作者人格権(同一性保持権)の侵害に係る主張もしていた。ところが、原判決は、著作者人格権(同一性保持権)の侵害に係る主張について何ら検討していない。
 東中コンペにおいては、青建・布矢・甘利共同企業体がこれに参加したといっても、共同企業体を構成する三者間においてのみならず、小諸市との間においても、当選の栄冠は、共同企業体に与えられるのではなく、当選した案を作成した者に与えられることになっており、当選後も、当選した案を作成した者が、単独で、小諸市から実施設計など一連の仕事を請け負い、その責任を負うことになっていた。要するに、設計監理共同企業体として参加するとはいっても、それは名前だけのことであり、共同企業体の全員に何らかの形で報酬と責任が生じるような仕組みになっている、というわけではなかった。
 小諸市内の業者は、東中コンペについて、小諸市に働き掛け、同市以外の業者には受注することができないようにすることにした。その際、小諸市の指導があって、小諸市内の業者も、コンペに応募するにふさわしい業者としての体裁だけは整える必要があるということで、事業規模を大きく見せかけるために、設計監理共同企業体という形を採ることになった。それだけのことであり、共同企業体という体裁に実体を伴わせることは、業者も小諸市も、予定していなかったのである。
 そして、実際にも、控訴人は、有限会社布矢建築事務所(以下「布矢」という。)及びB建築設計舎ことB(以下「B」という。)と関係なく、東中コンペ案を作成し、布矢及びBは、控訴人と関係なく、別のコンペ案を作成した。控訴人と布矢及びBとは、相互に打合せをしたり、アイデアを出し合ったりなどしたことは全くなかった。
 控訴人は、コンペ終了後、布矢及びBにパース代を支払っている。しかし、これは、費用の負担ではない。小諸市は、コンペに落選した者に対して、50万円を支給することになっていたものの、当選した側にある布矢及びBは、上記金員の支給を受けられなかったため、控訴人は、布矢及びBに実費分の支払いをしたのである。
 このように、青建・布矢・甘利共同企業体は、個々の業者が共同企業体という名の下に単に集合していたにすぎなかったのであり、共同企業体として何らの実体も具備していなかった。
 したがって、本件設計図の著作者人格権(同一性保持権)は、控訴人に帰属するものである。
4 著作権及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害
 本件設計図と被控訴人設計図の類似性は、明らかであり、被控訴人が、本件設計図を参考にして、被控訴人設計図を作成したこと及び両者が似ていることは、被控訴人自身、訴訟前に認めていたところである。被控訴人設計図は、本件設計図の一部(体育館、給食室及び校舎)を左右反対側に移しただけである。また、本件設計図に表現された、中学校という建築物に対する外形(デザイン)、機能(動線計画など)に関するアイデアが、すべてそっくり、被控訴人設計図に取り入れられている。
 したがって、被控訴人は、控訴人が本件設計図について有する著作権及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害していることが明らかである。
5 被控訴人の当事者能力
 青建・布矢・甘利共同企業体が共同企業体として何らの実体も具備していなかったことは、上記のとおりである。そのため、被控訴人についても、共同企業体として何らの実体も具備していなかったとの疑いが残る。しかし、被控訴人自身は、同人が法人格のない社団としての実態を有し、当事者能力を有するという点について争っていない。この問題は、職権探知の対象となるべき事項ではあるものの、原判決において全く問題としておらず、また、被控訴人が、法人格のない社団としての実態を有し、当事者能力を有する者として訴訟活動を行っている以上、格別、被控訴人の当事者能力について問題視し、主張立証活動を行う必要性はないというべきである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 請求の根拠となる著作物の特定について
 控訴人は、請求の根拠となる著作物は、別紙第二設計図(本件設計図)であり、それは、東中コンペに提出して合格した東中コンペ案を前提とした実施設計図中の1枚であるという。
 甲第5号証の2ないし5、第10号証の2、第22号証、乙第33号証及び原告(控訴人)代表者尋問の結果によれば、甲第5号証の2ないし5に記載されている青建・布矢・甘利共同企業体名義の小諸市立小諸東中学校改築工事1階ないし3階平面図及び配置図(別紙第四図1〜4参照、以下、これらをまとめて「東中実施設計図」という。)が東中コンペ案を前提にした実施設計図の一部に当たるものであることが認められる。
 一方、本件設計図が甲第5号証の1と同一内容の図面であることは、両者の対比から明らかである。そして、甲第5号証の1と甲第5号証の2ないし4の作成名義人を対比すると、前者(甲第5号証の1)においては、控訴人単独であるのに対し、後者においては、青建・布矢・甘利共同企業体であることが認められる。また、東中実施設計図と本件設計図とを比較すると、東中実施設計図の1階平面図に記載されている建築物の詳細な図面のうちの配置のみを取り出せば別紙第二設計図と極めて近似していることが認められる。これらのことからすると、別紙第二設計図は、控訴人が東中実施設計図とは別に、何らかの理由で東中実施設計図を元に作成した建築物配置の概念図であると推測することができる。これらの推測を覆し、本件設計図をもって、東中コンペ案を前提に作成された実施設計図の一部であると認めさせる資料は、本件全証拠を検討しても見いだすことができない。控訴人の主張をいかに善解しても、同人は、上記東中実施設計図についての著作権法上の保護を求めているとしかみることができない。本件設計図に、その際の参考資料以上の意味を与えることはできない。
2 東中実施設計図の著作権の帰属について
(1) 証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 小諸市は、同市立小諸東中学校の改築工事を実施するに当たって、複数の建築設計業者から構成される設計監理共同企業体を一つの応募単位として、同改築工事の基本的な設計を競わせ(東中コンペ)、応募させる設計図書(付近見取図、配置図、各階平面図、立面図、説明書)を審査したうえ採否を決定し、採用した設計図書の作成者には、改築工事の実施に当たり、実施設計・監理を委託し、これに対する報酬を支払うという方針を立て、昭和63年12月23日に、応募説明会を催した。その際の応募要領には、「採用した設計図書等の著作権は小諸市に帰属するものとし、この使用については小諸市が自由に行えるものとする。」と記載されていた。
(乙第1号証〜第3号証)
(イ) 小諸市内の建築設計業者である控訴人、布矢及びBは、東中コンペに参加するために、「青建・布矢・甘利 設計監理共同企業体協定書」を作成したうえ、昭和63年10月22日、設計監理共同企業体(青建・布矢・甘利共同企業体)を結成した。
(甲第2号証、乙第3号証)
(ウ) 東中コンペでは、小諸市の指示により、一つの設計監理共同企業体は、2通の設計図書を提出するものとされていたので、青建・布矢・甘利共同企業体は、控訴人と布矢・Bとの2グループに分かれて、それぞれ、設計図書を作成し、小諸市に提出した。そのうち、控訴人が作成した設計図書が東中コンペ案であった。2グループの設計図書を作成するに当たって、控訴人、布矢及びBの代表者が、意見交換などをし、相互にアイデアを話し合ったりしたものの、具体的な作成は、それぞれのグループに任せられ、東中コンペ案の作成は、最終的には、控訴人単独によるもので、布矢及びBの関与はなかった。
(甲第2号証、第5号証の2〜5、第10号証の2、乙第3号証、原告(控訴人)代表者尋問の結果、被告(被控訴人)代表者(A)尋問の結果及び証人Bの証言)
(エ) 小諸市は、審査のうえ、平成元年3月4日、青建・布矢・甘利共同企業体名義で提出した東中コンペ案を採用することに決定した。
(乙第3号証)
(オ) 小諸市長と青建・布矢・甘利共同企業体は、平成元年7月17日、小諸市長は平成元年度の市単事業としての小諸市立小諸東中学校改築事業実施設計・監理業務の処理を青建・布矢・甘利共同企業体に委託し、青建・布矢・甘利共同企業体は共同連帯して受託する旨の設計委託契約書を締結した。控訴人は、青建・布矢・甘利共同企業体の名目で、委託された実施設計・監理業務を遂行し、消費税を含めて約2300万円の報酬を受領して、その大部分を自らのものとし、布矢・Bには、100万円前後の金員を支払ったのみである。布矢からもBからも、この金員の処理につき、不服が出たことはない。
(甲第3号証、原告(控訴人)代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)
(2) 上記認定の事実によれば、青建・布矢・甘利共同企業体名義で提出し、採用された東中コンペ案及びこれを前提にした実施設計図(東中実施設計図)は、その著作者が控訴人であるか青建・布矢・甘利共同企業体であるかにかかわりなく、その著作権が小諸市に帰属していることが明らかである。
(3) この点について、控訴人は、原審において、東中コンペに合格したとしても、採用された設計図書の著作権全部が小諸市に移転するものではなく、東中学校を建設するのに必要な範囲で著作権の一部が小諸市に譲り渡されるにすぎず、それ以外は設計者である控訴人に残存する旨主張している。
 しかしながら、小諸市の応募要領には、前記のとおり、「採用した設計図書等の著作権は小諸市に帰属するものとし、この使用については小諸市が自由に行えるものとする。」と記載されており、応募者は、この条件を受け入れることを前提として、東中コンペ案を提出し、これが採用されたのであるから、小諸市と応募して採用された者との間には、採用された設計図書の著作権を小諸市に移転することについての合意が成立していると認められる。そして、小諸市の応募要領には、小諸市に移転するべき著作権の範囲について何らの限定もなく、また、上記権利移転の合意について何らかの制限があったことを窺わせるものは、本件全証拠を検討しても見いだすことができない。
(4) そうすると、東中コンペ案についてもこれを前提にした東中実施設計図についても、控訴人が、これに基づく著作権主張をなし得ないことは、明白というべきである。
3 著作者人格権(同一性保持権)の帰属について
 前記1(1)認定の事実によれば、控訴人は、東中コンペ案及びこれを前提にした東中実施設計図を単独で作成したものということができる。
 これを青建・布矢・甘利共同企業体の法人等著作といい得るためには、単に、青建・布矢・甘利共同企業体の著作の名義の下に公表されたのみならず、東中コンペ案及びこれを前提にした東中実施設計図が青建・布矢・甘利共同企業体の発意に基づいていること、控訴人が青建・布矢・甘利共同企業体の業務として東中コンペ案及びこれを前提にした東中実施設計図を作成したことが必要である。しかし、前記1(1)認定の事実によれば、青建・布矢・甘利共同企業体は、ある目的で結成された一つの組織とみることができるものの、著しく便宜的な組織であり、控訴人と布矢及びBとは、別個独立にコンペ案を作成し、採用された控訴人は、青建・布矢・甘利共同企業体の名目で小諸市長と契約を締結し、報酬のほとんどを取得しているという事情を考慮すると、東中コンペ案及びこれを前提にした東中実施設計図の作成について、青建・布矢・甘利共同企業体自体の発意があったとみることは困難というべきである。
 そうすると、控訴人は、東中コンペ案及びこれを前提にした東中実施設計図の著作者として、これらについて著作者人格権(同一性保持権)を享受することができるというべきである。
4 著作者人格権(同一性保持権)侵害について
(1) 控訴人は、被控訴人設計図(別紙第一設計図)は芦原中コンペに提出されたもので、被控訴人作成に係るものである旨主張する。
 しかしながら、本件全証拠を検討しても、被控訴人が、被控訴人設計図(別紙第一設計図)を作成したことを認める証拠を見いだし得ない。被控訴人が芦原中コンペにおいて作成した設計図は、乙第15号証及び第16号証に記載されている被控訴人作成名義の小諸市立芦原中学校改築工事における外構計画図、1階ないし3階の配置・平面計画図、日照計画図及び配置図(以下「芦原中コンペ設計図」と総称する。別紙第五図1〜6参照)等である。したがって、被控訴人設計図(別紙第一設計図)によってする控訴人の著作者人格権侵害の主張は、この点で既に失当である。
(2) しかし、事案に鑑み、芦原中コンペ設計図(別紙第五図1〜6参照)が、東中実施設計図(別紙第四図1〜4参照)について控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるかどうかについて検討する。
(ア) 前記1(1)に認定したところによれば、控訴人は、その精神活動に基づいて、東中実施設計図を作成したものであり、その各図面の全体に控訴人の思想又は感情が表現されているものということができ、この具体的な表現は、誰が行っても同じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないから、東中実施設計図の図面には、表現されたものの全体として創作性が存在するものと認めることができる。
(イ) 次に問題となるのは当該著作物の保護の範囲である。保護の範囲の広狭を検討するに当たって、本来は著作権法上の保護の対象とならない発想、すなわち、思想又は感情あるいは表現手法ないしアイデア自体の創作性が影響を及ぼすことがあることは、否定できないところである。一般的にいって、発想に卓越した創作性が存在する場合には、保護の範囲は広いものとなるであろうし、単に著作者の個性が表われているだけで、誰が行っても同じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないといった程度の創作性しか認められない場合には、保護の範囲は狭いものとなり、ときにはいわゆるデッドコピーを許さないという程度にとどまることもあり得る。
 甲第5号証の2ないし5によれば(別紙第四図1〜4参照)、東中実施設計図の図面の基本的な構成をなすのは、校舎棟4棟、給食室棟1棟(ただし、配置図においては、給食室予定地が示されているのみである。)、体育館1棟、中央廊下、らせん階段であること、校舎棟は、いずれも細長い長方形の外形をした建築物であり、給食室棟、体育館は、長方形の外形をした建築物であり、中央廊下は、細長い形状となっていること、校舎棟、給食室棟、体育館の建築物は、学校の敷地の北側の略長方形の敷地内に建築されることにされており、図面の中央に、南北一直線の廊下を配置し、上記廊下の東側には、北から南に向かって、順に、校舎棟、給食室棟、体育館を配置し、上記廊下の西側には、北から南に向かって、同じ長さの校舎棟3棟(北校舎、中央校舎、南校舎)を等間隔で配置し、南校舎と廊下の北側によって形成される北側の角にらせん階段を配置していることが認められる。
 中学校の校舎の設計図面において、校舎棟、給食室棟、体育館、廊下、らせん階段があること、また、校舎棟がいずれも細長い長方形の外形をしていること、給食室棟、体育館が長方形の外形をしていること、中央廊下が細長いものであることが、いずれもごくありふれたことであることは、当裁判所に顕著である。
 また、中学校における限られた敷地に、合計6棟の建築物を、廊下に接して建てようとする場合、中央に廊下を配置し、その両側に3棟ずつ建築物を配置してみようとすることは、誰でも容易に考えつくことである。
 甲第5号証の2ないし5によれば、東中実施設計図の各図面の基本的な構成に基づく具体的な表現は、別紙第四図1ないし4のとおりであり、前述したとおり、図面全体に控訴人の思想又は感情が表現されているものということができ、この具体的な表現は、誰が行っても同じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないから、東中実施設計図の図面の創作性は、まさにこの具体的な表現においてのみ存在するものというべきである。
(ウ) 東中実施設計図のうちの創作性の認められる具体的な表現について、芦原中コンペ設計図と対比すると、校舎の長さ、幅、各教室の配置、中央廊下の具体的形状、らせん階段の校舎に対する大きさ、建築物の間の広場の利用状態、プールの位置、駐車場の配置、その他多数の箇所において相違しており、全体として表現が相違していることは一目瞭然であり、後者から前者を直接感得できるものではない。
(エ) 控訴人は、本件設計図に表現された、中学校という建築物に対する外形(デザイン)、機能(動線計画など)に関するアイデアが、すべてそっくり、被控訴人設計図に取り入れられている旨主張する。控訴人の主張は、要するに、東中実施設計図の配置図と芦原中コンペにおける配意図とを対比したとき、そこに表現された建築物の外形(デザイン)や機能(動線計画など)に関するアイデアが同一であるというものである。
 しかしながら、アイデアは、それ自体として保護の対象とはなり得ない。のみならず、前記のとおり、控訴人のいう建築物の外形(デザイン)や機能(動線計画など)に関するアイデアをみても、格別の創作力を認めることができない。いずれにせよ、控訴人の主張は、失当というほかない。
5 被控訴人の当事者能力について
 乙第30号証、被告(被控訴人)代表者(A)尋問の結果及び証人Bの証言によれば、布矢、B及び篠原建築設計事務所ことC(以下「C」という。)は、平成9年2月18日ころ、小諸市立芦原中学校改築事業基本設計コンペ(芦原中コンペ)に参加するために、布矢・甘利・篠原設計監理共同企業体協定書を作成して、布矢を代表者として設計監理共同企業体を結成したこと、布矢、B及びCは、上記協定書の割合に従って共同出資し、3名で協力して一つの芦原中コンペ設計図を作成・提出したことが認められる。
 上記認定の事実によれば、被控訴人は、その組織及び運営の実体からして、法人格のない社団に該当するものというべきであり、当事者能力を有するものというべきである(最高裁判所昭和37年12月18日第三小法廷判決・民集16巻12号2422頁参照)。
6 以上検討したところによれば、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないから、原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担について、民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 宍戸充
 裁判官 阿部正幸


別紙 第一設計図
別紙 第一図
別紙 第二設計図
別紙 第二図
別紙 第三図
別紙 第四図
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別紙 第五図
  1234
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