判例全文 line
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【事件名】「呉青山学院」の名称事件
【年月日】平成13年7月19日
 東京地裁 平成13年(ワ)第967号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年6月11日)

判決
原告 学校法人青山学院
原告訴訟代理人弁護士 高井伸夫
同 岡芹建夫
同 廣上精一
同 山本幸夫
同 三上安雄
同 市川裕史
同 大山圭介
同 伊藤 真
同補佐人弁理士 野原利雄
被告 学校法人清水ヶ丘学園
被告訴訟代理人弁護士 俵正市
同 苅野年彦
同 坂口行洋
同 寺内則雄
同 小川洋一
同 井川一裕
同 山田陽彦


主文
1 被告は、「呉青山学院中学校」、「Kure Aoyama Gakuin」又は「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称を被告の設置する中学校の名称に使用してはならない。
2 被告は、「青山学院」又は「Aoyama Gakuin」の語を含む名称を被告の設置する中学校及び高等学校の名称に使用してはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 主文第1、2項と同じ。
2 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成13年2月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告は「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人であるが、被告が設置運営する中学校に「呉青山学院中学校」、ローマ字表記、英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称を用いる行為は、不正競争行為に当たり、同時に「青山学院」「AOYAMA GAKUIN」等の原告の商標権を侵害するとして、被告に対し、選択的に、不正競争防止法2条1項1号、2号又は商標法36条1項に基づき上記各名称等の使用差止めを求めるとともに、被告の不正競争行為又は商標権侵害を理由とする損害賠償を求めている。
1 当事者間に争いのない事実
(1) 原告について
ア 原告は、「青山学院大学」、「青山学院女子短期大学」、「青山学院高等部」、「青山学院中等部」、「青山学院初等部」及び「青山学院幼稚園」の各学校を設置し、運営する学校法人である。
イ 原告は、その設置する前記各学校又はその集合体を表すものとして「青山学院」、「Aoyama Gakuin」の各名称(以下、これらを併せて「原告名称」といい、個別に呼ぶときは順に「原告漢字名称」、「原告ローマ字名称」という。)を用いている。
ウ 原告は、別紙商標目録1から4記載の各商標につき、次のとおり商標権を有している(以下、これらの商標を併せて「原告各商標」という。)。
(ア)商標 別紙商標目録1のとおり(横書きで1列に「青山学院」と記したもの。以下、「原告商標1」という。)
 区分 第41類
 指定役務 大学における教授、短期大学における教授、高等学校における教育、中学校における教育、小学校における教育、幼稚園における教育
 登録番号 第3032474号
(イ)商標 別紙商標目録2のとおり(横書きで1列に「AOYAMA GAKUIN」と記したもの。以下、「原告商標2」という。)
 区分 第41類
 指定役務 大学における教授、短期大学における教授、高等学校における教育、中学校における教育、小学校における教育、幼稚園における教育
 登録番号 第3032475号
(ウ)商標 別紙商標目録3のとおり(横書きで1列に「青山学院中等部」と記したもの。以下、「原告商標3」という。)
 区分 第41類
 指定役務 中学校における教育
 登録番号 第3032478号
(エ)商標 別紙商標目録4のとおり(横書きで1列に「Aoyama Gakuin Junior High School」と記したもの。以下、「原告商標4」という。)
 区分 第41類
 指定役務 中学校における教育
 登録番号 第3032485号
(2) 被告について
 被告は、従前「清水ヶ丘高等学校」という名称の高等学校を設置し、運営していたが、平成12年4月、「呉青山学院中学校」という名称の中学校を新たに広島県呉市に開設し、これを運営している。
 被告は、この学校を表す名称として上記「呉青山学院中学校」のほか、そのローマ字表記ないし英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の各名称を用いている(以下、これらを併せて「被告名称」といい、個別に呼ぶときは順に「被告漢字名称」、「被告ローマ字名称」、「被告英語名称」という。)。
 被告は、この中学校がいわゆる中高一貫教育を行う私立中学校であることをうたって、入学希望者の募集等の宣伝活動を行っている。
2 争点
(1) 不正競争防止法2条1項2号の該当性
ア 原告名称が、「著名な商品等表示」に該当するかどうか。
イ 原告名称と被告名称が類似するかどうか。
(2) 不正競争防止法2条1項1号の該当性
ア 原告名称が、需要者の間に広く認識されている商品等表示に該当するかどうか。
イ 原告名称と被告名称が類似するかどうか。
ウ 被告が被告名称を用いることにより、原告の営業との間に混同のおそれが生じているかどうか。
(3) 原告各商標と被告名称が類似するかどうか(商標法37条1号参照)。
(4) 被告名称が「普通名称等を普通に用いられる方法で使用し」たもの(不正競争防止法11条1項1号)又は「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項3号)に該当するかどうか。
(5) 原告各商標が「普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項1号)に該当し、無効なものであって(同法46条1項1号)、これに基づく権利行使は権利の濫用に当たり許されないか。
(6) 原告の損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(著名な商品等表示)について
(原告の主張)
ア 原告名称は、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校について、その営業を表示するものである。そして、不正競争防止法にいう「営業」の概念には経済収支の計算の上に立って行われる事業一般が含まれるものと解されるところ、被告が私立学校として国や地方公共団体から補助金を受けているとしても、その補助金の収入も勘案した収支決算の下で学校法人の運営が行われている以上、不正競争防止法の「営業」に当たることに疑いはない。そして、そのことは、当該事業が種々の許認可制度の下にあることや公的な監督に服すること等は全く別の事柄である。
イ 次の各事情によれば、原告名称は、遅くとも平成11年3月末日までには、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を示す名称として著名となっていたということができる。
(ア) 「青山学院」は、明治時代に米国メソジスト監督教会の宣教師による伝道・教育活動の中で創立され、以来125年余もの長い歴史を持つ我が国有数の総合的教育機関である。原告は、その創立以来現在まで世紀を超える多年にわたり、建学の精神たるキリスト教主義教育を継承しつつ、教育機関として真の教育が果たすべき使命に真摯に取り組み、その伝統を維持・発展させてきた。その努力の結果、現在では、幼稚園から大学院までを擁する総合教育学園の名門として、その学風及び格式に対する高い評価・名声は揺るぎないものとして確立されている。
(イ) 原告名称の知名度は、原告の運営する各学校の所在地である首都圏のみならず、北海道から沖縄に至るまで全国津々浦々にまで及んでいる。このことは、以下のことからも明らかである。
@ 青山学院大学の入学志願者は北海道から沖縄まで全国にわたっており、全国的に高い評価を得ている。これに応じて、原告は、例年、受験生、保護者を対象とする進学相談会や入試についての広報を、全国規模で実施している。
A 青山学院大学の卒業者に対しては、全国から多岐にわたる産業分野に及んだ求人がある。これに応じて、各県への就職を志向する卒業生も、多く存する。
B 上記(ア)の長い歴史の中で、青山学院大学の多数の卒業生が全国・各界で活躍し、また、全国各地において校友会が組織されるなど支援・交流体制も確立されている。
C 学校や在学生に対する調査の結果によっても、大半の入学志望者や在学生において「青山学院」が著名であるとのイメージを持っている。
(ウ) さらに、原告は、全国放送、雑誌、新聞を通じた建学の精神、総合的な教育事業の内容、キャンパス紹介等、積極的に広報活動を行い、その名声を高める努力を行っている。
ウ 上記のとおり、原告名称は、原告の行う教育事業及び原告の運営する各学校を示す名称として著名となっているのであり、「青山学院」という名称からは「青山地区に存する教育機関」という観念が想起されるのではなく、原告又は原告の設置する学校が容易に想起される。「青山学院」の語に限れば「地名」プラス「学院」の語の識別性を論じる以前に、顕著な識別力を有していることが明らかである。
(被告の主張)
ア 一般に「営業表示」の中には役務の表示も含まれるが、学校教育という役務は「営業」の概念に含まれない。「営業」とは、広く解釈しても、経済上その収支計算の上にたって行われるべき事業であることを要するというのが、裁判例一般の立場である。しかるに、私立の中学校、高等学校においてはその経常費の約35〜50%が公費から補助され、経済上の収支を無視した学費の徴収によって学校の管理・運営が行われている。被告においても、経常費の40%弱の補助を受けて教育事業を行ってきたものであり、公費補助なくして被告の設置する学校における学校教育の実施はできない。したがって、学校教育という役務の提供は経済上その収支計算の上に立って行われているものではなく、「営業」には当たらない。
イ 「著名性」については、「青山学院」といえば「青山学院大学」であるといった程度の知名度があることは認めるが、その余の「青山学院中等部」等の学校の知名度は高いとはいえない。
 「青山学院大学」の名称についても、他の有名大学との比較において、決して、特別に顕著であり著名性があるとは、いえない。「青山学院大学」は、戦前からある大学の1つとして多数の大学と肩を並べたものとして認識されているにすぎず、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学等の旧帝国大学の流れを引く国立大学や早稲田大学、慶応義塾大学といった私立の有名大学と比べると、偏差値から分かる入試の難易度や、各種国家試験の合格者数の点で、明らかに差があり知名度は劣るといわざるを得ない。
 さらに、後記(7) のとおり「青山学院」が「青山」という地名と「学院」という普通名称から構成され、「青山学院」という言葉に独占を認めるべきはないことから考えても、「著名性」は認められない。
(2) 争点(1)イ(表示の類否)について
(原告の主張)
ア 被告漢字名称は「呉青山学院中学校」というものであるが、
@ 「中学校」の文字が、学校教育法上の中等普通教育を施すことを目的とする学校を示す名称であること(学校教育法35条)
A 「呉」の文字が広島県の都市として全国的に広く知られた地名であること
B 学校の名称に、その所在地の地名を冠することが一般に行われていること
C 特に著名な大学などの付属中学校、高等学校の名称において、大学などの名称にその所在地の地名を冠する形の学校名の採択が広く行われていること、
D 「青山学院」の名称が、前記のとおり原告の設置する各学校を示す名称として著名であること
 からすれば、その要部は構成文字中の「青山学院」の部分にあり、これにより「アオヤマガクイン」の称呼を生じる。
 したがって、被告漢字名称が原告漢字名称と類似することは明らかである。
イ 被告ローマ字名称及び被告英語名称については、
@ 「Junior High School」の文字が、中学校を英語で表記したものであること
A 「Kure」の文字が、全国的に広く知られた地名である「呉」のローマ字表記であること
B 学校の名称に、その所在地の地名を冠することが一般に行われていること
C 特に著名な大学などの付属中学校、高等学校の名称において、大学などの名称にその所在地の地名を冠する形の学校名の採択が広く行われていること、
D 「青山学院」「Aoyama Gakuin」の名称が、前記のとおり原告の設置する各学校を示す名称として著名であること
 からすれば、その要部は構成文字中の「Aoyama Gakuin」の部分にあり、これにより「アオヤマガクイン」の称呼を生じる。
 したがって、被告ローマ字名称、被告英語名称が原告ローマ字名称と類似することは明らかである。
(被告の主張)
ア 原告の名称は正式には「学校法人青山学院」であり、原告が設置する学校の名称は、前記のとおり「青山学院大学」、「青山学院高等部」、「青山学院中等部」等である。原告の正式な名称には「青山学院」のみというものは存在しないから、存在しない名称と被告名称との類否を主張するのは無意味である。
 営業表示及び商品表示の類否については、取引の実情に応じて判断すべきものであるが、本件では中学校への進学を希望する者が需要者であるから、被告名称と「青山学院中等部」とを対比すべきであり、役務表示の一部のみを抽出して対比するのは誤りである。また、中等部の本体に当たる青山学院大学は「青学」又は「青学大」と略称されているから、もし、一部を抽出して対比するならば、「青学」と対比すべきものである。
イ 「青山学院」は、青山通りに面した場所に設置された学校であり、「青山」という役務提供の場所の名称と「学院」という私立の学校であることを示す普通名称との組み合わせからなるもので、識別力は非常に弱い。このことは学校名に「青山」を付した学校が全国で60校あること、「地名」プラス「学院中学校」、「地名」プラス「学院高等学校」の表示を名称とした学校が多数存在することからも明らかである。 
 一般に営業表示の類否については、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想などから両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第3小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
 この基準に基づき検討するに、まず、「呉青山学院中学校」と「青山学院中等部」又は「青山学院」とでは、外観が異なることは明白である。
 称呼については、称呼における識別上重要な要素を占める語頭音が、「呉青山中学校」では「ク」で始まっているのに対し、「青山学院中等部」では「ア」で始まっており、称呼の識別性は明らかである。また、語尾の称呼については、「青山学院中等部」の語尾である「中等部」の表示は、学校教育法1条の定める中学校という名称とは異なった特異な称呼である。これは、受験をすることなく系列の青山学院大学に進学できることを強調するもので、原告の学校案内でもこの点がうたわれている。このように両者の称呼は異なり、特に語尾の「中等部」は特異な称呼であるから、識別力が強く、要部ともいうべきものであって、類似性は認められない。
 観念については、表示自体からみて、「青山学院」の表示からは、青山にある私立学校という観念が生じるのに対し、「呉青山学院」の「呉」からは旧海軍ゆかりの地で現在も海上自衛隊の基地のある地名としての「呉」の観念が生じる。学校の特色に照らしても、原告の設置する「青山学院中等部」は、キリスト教信仰に基づく教育を行い、また青山学院大学に内部進学できることを特色とするのに対して、被告の設置する「呉青山学院中学校」は、宗教教育を行わない中高一貫教育を行う進学校であることを特色にしている。 したがって、両者は観念の点でも類似しない。
(3) 争点(2)ア(周知性)について
(原告の主張)
 原告名称が全国的に著名であることは、前記(1) のとおりであるが、前述の点に次のことを併せ考慮すれば、原告名称が少なくとも周知な商品等表示であることは、明らかである。
ア 原告は、広島県においても大学進学説明会を実施しており、ここ数年の広島県内の高校出身の青山学院大学入学志願者は、450名から500名を超える程度にのぼっている。平成10年度では、広島県内の高校出身の青山学院大学在校生は206名であるが、これは大阪府出身者の数を凌ぐものであり、関西以西では福岡県出身者に次いでいる。
 また、例年広島県からの求人はある上に、広島県下の会社に就職する学生は多数おり、校友会広島支部は1064名の会員(うち呉市は67名)を擁している。
イ 原告が設置する「青山学院中等部」について付言するに、同校は戦後総合的な教育事業が展開される中で創立され、50年余にわたる長い歴史を誇る中学校である。
 その創立当時200名の定員に1215名もの志願者があった旨は全国紙に報道されるなど、当初から全国的に知られる存在であった。
 中学校という性格上、入学志願者や在校生は東京を中心とする地域に限定されているものの、著名な大学を運営する学校法人が中学校や高等学校を設置し運営することは一般的であり、原告においても「青山学院」の名称を付した中学校を設置運営していることは、原告の行う全国規模の広報活動により広島県を含む全国に広く知られている。
ウ また、私立中学校の受験生の間では、受験用参考書などにその入試問題が掲載されていることなどからも、広く知られるに至っている。
(被告の主張)
ア 不正競争防止法が「周知性」を要件とした趣旨は、一定の地域内とはいえ表示が周知となるほど信用が蓄積した以上は保護を与えるという点にある。
 本件で、仮に青山学院大学の存在が広島県において周知性を備えているといえたとしても、「青山学院中等部」の存在が広島県呉市において、「周知性」を備えているとは決していえない。
イ 不正競争防止法2条1項1号は「需要者間に広く認識されている」と規定するが、ここにいう「需要者」とは、学校役務については進学校の選択、志願、入学をする子供及びその保護者をいう。そして「広く認識されている」とは、中学校の地域性から、進学校の選択等をする保護者の住居地である広島県呉市を中心とする地域の住民の間で周知性を有することと解される。
 この周知性があるかどうかは、対象となる商品や役務の性質に応じて検討される必要がある。そこで、「青山学院中等部」について検討すると、中学校の地域性から、進学校の選択を行う者は東京を中心とする地域に限定されており、他方、「呉青山学院中学校」については、選択を行う者は広島県呉市を中心とする住民に限定されている。このような中学校教育という役務の性格からして、青山学院中等部が広島県呉市において周知性を有しているかについては厳格に判断すべきところ、青山学院大学はともかく、広島県呉市において「青山学院中等部」の存在が周知であるとは到底いえない。
 また、周知性の有無の判断について、名称の性格が影響を及ぼすことがあり、地名の代名詞や一般名称の組合せからは「周知性」を認めることは困難であるとした裁判例もある。そこで、「青山学院中等部」について検討すると、「中等部」というのは特殊な言葉であるが、少なくとも「青山」は地名であり、「学院」は普通名称であって、この点からすれば周知性の判断は厳格に行われるべきである。
ウ 以上によれば、「青山学院中等部」の存在が周知であるとはいえない。
(4) 争点(2)イ(表示の類否)について
(原告の主張)
 原告名称と被告名称が類似することについては、前記(2) で主張したとおりである。
(被告の主張)
 「青山学院中等部」という表示と「呉青山学院中学校」という表示が類似しないことは、前記(2) で主張したとおりである。
(5) 争点(2)ウ(混同のおそれ)について
(原告の主張)
 原告は、総合的教育事業の一環として中高一貫教育を行う中学校及び高等学校を設置運営している。そして、大学を設置する学校法人が、複数の中学校及び高等学校を付属校や併設校として同時に設置運営する例は少なくない。また、付属校や併設校でなくても、内部進学テストによる大学入学のコースを設けるなど、大学と緊密な関係を持つ高等学校の例も存在する。
 そして、このような付属校や併設校の中学校・高等学校の名称においては、大学などの名称にその所在地の地名を冠する形の学校名の採択が広く行われている。この点については、
 ・駒場東邦中学校(東邦大学と同一法人)
 ・湘南白百合学園中学校(白百合女子大学の併設校)
 ・千葉日本大学第1中学校(日本大学の付属校)
 ・土浦日本大学高等学校(日本大学への内部進学テストを行う準付属校)
 など、多くの例を挙げることができる。
 したがって、「呉青山学院中学校」という学校名に接した生徒や保護者において、被告の設置する同校が、原告が設置運営する併設校又は青山学院大学の付属校であるなどとの誤認混同を生じ、あるいは、少なくとも原告と何らかの関連のある教育機関であるとの誤認混同を生じるおそれが極めて高い。
(被告の主張)
ア 判例は、広義の混同につき、親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存することの誤信としている。そして、混同のおそれの有無の判断に関しては、具体的条件において具体的に判断されるべきであり、混同のおそれを否定する事情として、@当該標識が元来的に自他識別力の弱いものであること、A営業規模の相違、B業種、営業内容、営業方式の非近似性、C商品の品質の相違の程度、D営業活動地域の相違、E顧客層の相違等が考えられる。
イ この観点から「青山学院中等部」と「呉青山学院中学校」とを対比すると、両者は、生徒数(前者は1学年276名、後者は1学年56名)、生徒層(富裕層を対象とするか否か)、教育内容(キリスト教信仰に基づくかどうか)の点において異なっている。
 さらに、校名の表示方法について、被告の学校案内のパンフレットの裏表紙には、呉青山学院中学校の表示の上に、三角形を基本としたデザインでスクール・カラーの校章と、設置者である「学校法人清水ヶ丘学園」の表示をし、下部には「呉市青山町2−1」とその所在地を表示している。そして、インターネットのホームページでも、校章や「学校法人清水ヶ丘学園」の表示を明示している。
 そして、被告の担当者が学校説明のために地域内の小学校を回ったときにも、呉青山学院中学校は学校法人清水ヶ丘学園の設置する学校であることを明確に説明しており、このことは周知となっている。入学希望者からも、原告との関連に関する質問が寄せられたことはない。
ウ 以上によれば、「青山学院中等部」と「呉青山学院中学校」との間には混同のおそれは存しない。
(6) 争点(3)(商標の類否)について
(原告の主張)
ア 原告各商標のうち、原告商標1、原告商標2の要部はその構成全体にある。
 原告商標3、原告商標4についても、その構成文字中「中等部」、「Junior High School」が、中学校の別称表記及び中学校を意味する英語表記にすぎないことからして、「青山学院」、「Aoyama Gakuin」の文字部分が要部となる。したがって、原告各商標のいずれからも「アオヤマガクイン」の称呼が生じる。
 そして、「青山学院」の名称が原告の行う教育事業を示す名称等として著名となっており、特別顕著性(識別力)を有することは前記(1) のとおりである。
イ 原告各商標と被告名称を対比するに、
@ 「中学校」及び「Junior High School」の文字が役務の内容を示したにすぎない記述的表記であること
A 「呉」及び「Kure」の文字が、全国的に広く知られた地名を示すものであること
B 学校の名称に、その所在地の地名を冠することが広く一般に行われていること
C 特に著名な大学などの付属中学校・高等学校の名称において、大学などの名称にその所在地の地名を冠する形の学校名の採択が広く行われていること
D 「青山学院」及び「Aoyama Gakuin」の名称が原告の行う教育事業を示す名称等として著名であり、特別顕著性を有すること、
 からすれば、被告名称の要部は、構成文字中の「青山学院」、「Aoyama Gakuin」の部分にあり、これより「アオヤマガクイン」の称呼が生じる。また、「青山学院」という名称を用いて教育事業を行う原告又は原告が運営する各学校が観念される。
ウ 以上によれば、被告名称は、原告各商標と同一か少なくとも類似の称呼及び観念を生じさせるから、原告各商標に類似する。
(被告の主張)
 原告各商標と被告名称が類似しないことは、前記(2) で主張したとおりである。
(7) 争点(4)(普通名称)について
(被告の主張)
ア 「呉青山学院中学校」は、同校が呉市青山町に所在することから、「呉青山」という役務提供の場所の普通名称と「学院」という設置者が学校法人であること、言い換えれば都立、府立、県立等と区別される私立学校であることを示す普通名称と、「中学校」という学校教育法1条に定義された普通名称からなるものである。
 そして、我が国には「青山」という地名が多くあるうえ、学校法人が学校名に地名を冠した名称を付けることがしばしばあることからすれば、「青山学院」という言葉に独占を認めることは、標章決定の自由を著しく損なうものである。
 「青山町」は、字の名称であるが、「青山」だけであってもそれが役務提供の場所を示すことに何ら問題はないし、呉市青山町の地名を表示するのに、市と町を省略し、「呉青山」とすることに何ら不合理はない。
イ そして、学校名に「学院」又は「学園」を付した中学校、高等学校は全国で629校あり、「地名」プラス「学院中学校」、「地名」プラス「学院高等学校」という構成の学校も数多く存在することからすれば、地名である「呉青山」と「学院中学校」とを結合して表示することは「普通に用いられる方法で使用し表示した」ものといえる。
ウ 以上によれば、被告漢字名称については、不正競争防止法11条1項1号及び商標法26条1項3号の適用がある。このことは、被告ローマ字名称及び被告英語名称についても同様である。
(原告の主張)
ア 「呉青山」なる名称は、普通名称には当たらない。
 被告の主張によれば、「青山町」は字の名称であるというのであるから、「青山町」を地名として「青山」と「町」に分断することはあり得ず、役務提供の場所は「青山町」というべきである。
 また、役務提供の場所を学校名として用いることがあるとしても、所在地を重複して用いることは一般的でなく、少なくとも「呉青山」は「営業の普通名称」には当たらない。
イ さらに、もともと「学院」を付加することは「普通に用いられる方法」に該当しない。被告が挙げる、学校名において地名その他の普通名称に「学院」や「学園」の語が付加された名称は、一連一体の名称として識別されており、「地名」プラス「中学校」の場合と異なり、普通に用いられる方法とはいえない。
 原告は、一連一体の「青山学院」の語を用いた被告の学校名を問題にしているのであり、「青山」の名称や「学院」の名称を用いること自体を問題としているのではない。その意味で、「大阪青山短期大学」や「都立青山高等学校」の存在は、本件と全く関係がない。
ウ そもそも、従前は、「青山学院」の語を含む学校は原告以外には存在していなかった。そして、「青山学院」なる商品等表示に関しては、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を示す名称として著名になっているという事実が存在するのみで、教育界はもとよりいかなる業界においても「青山学院」を役務の普通名称などとして使用している例はなく、それ故「普通に用いられる方法」であるか否かを検討する前提すら存しない。
(8) 争点(5)(商標登録の無効)について
(被告の主張)
 原告各商標は、普通名称からなるものであるから、本来商標登録が拒絶されるべきものであり、原告の有する上記各商標は過誤登録された無効な商標というべきである。したがって、これらの商標権に基づく原告の権利行使は、権利の濫用に当たり、許されない。
(原告の主張)
 被告の主張は、争う。 
(9) 争点(6)(原告の損害)について
(原告の主張)
 原告の設置する前記各学校は教育機関として高く評価されていること、「青山学院」という名称が著名であること、「青山学院」という名称が著名で社会的に有名であることが大学受験生が「青山学院大学」を選択する1つの理由になっていることは、明らかな事実である。そして、原告も積極的に広報活動をしてその名声を高める努力をする一方、前記のとおり「商標登録」も行い、「青山学院」の名称が冒用されないよう努めている。
 しかるに、被告が被告名称を使用することにより、「呉青山学院中学校」という名称に接した者に、原告が設置運営する併設校又は青山学院大学の付属校であるとの誤認混同を生じていること、少なくとも原告と何らかの関連のある教育機関であるとの誤認混同が生じていることは前記(5) のとおりである。
 そして、この状態が続けば「呉青山学院中学校」を知る者の間では、「青山学院」の名称から原告や原告の設置運営する学校を想起することなく、被告や「呉青山学院中学校」を想起するようになるのであり、このことは原告が大切に守ってきた「青山学院」という名称の識別力を希釈化し、いわゆる「グッドウィル」を毀損するものである。
 これによる損害を金銭で評価することは困難であるが、前記のように「青山学院」の名称が著名でかつ高い評価を得ていること、原告が広報活動に多額の費用を費やしていることにかんがみれば、原告の被った損害の額は1000万円を下らない。
(被告の主張)
 原告の主張は、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1) ア(著名な商品等表示)について
(1) 「営業表示」該当性について
 原告は、「青山学院大学」、「青山学院中等部」等の学校を設置し、それらの各学校又はその集合体を表すものとして、原告名称を用いている(当事者間に争いがない。)。したがって、原告名称は、原告が行う教育事業及び原告が設置運営する各学校の営業を表示するものということができる。
 不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」とは、広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指し、病院等の医療事業、予備校の経営や慈善事業等をも含むものであって、私立学校の経営もこれに含まれるものというべきである。
 この点について、被告は、私立学校については公費の補助なくして事業を行い得ないことから、その経営は経済上の収支決算の上に立って行われる事業ではなく「営業」に当たらないと主張する。しかし、私立学校を経営する主体である学校法人が営利事業を目的とする商人でないことは、社会通念上明らかなところであるが、不正競争防止法にいう営業とは、単に営利を目的とする場合のみならず、広く経済上その収支計算の上に立って行われる事業をも含むものであって、それが国や地方公共団体からの補助金の収入をも含んだ収支計算であっても、営業に該当する旨の判断を妨げるものではない。被告の主張は、失当である。
(2) 「著名性」について
ア 証拠(甲1〜11、乙11)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認 めることができる。
(ア) 原告「青山学院」は、明治時代に米国メソジスト監督教会から派遣された宣教師によって開校された「女子小学校」、「耕教学舎」及び「美會神学校」の3校に端を発し、以来125年余の歴史を有するもので、私学として我が国有数の総合的教育機関を運営するものである。原告の前身である前記3校は、その後合併、発展を続け、東京英和学校が男子教育の「青山学院」(明治27年改称)となり、東京英和女学校が女子教育の「青山女学院」(明治28年改称)となり、この両校が現在の「青山学院」の母体となった。第2次世界大戦後に至り、原告は、昭和21年に「青山学院初等部」を、同22年に「青山学院中等部」を、同24年に新制大学としての「青山学院大学」を、同25年に「青山学院高等部」及び「青山学院女子短期大学」を、同36年に「青山学院幼稚園」を順次設置し、これらの各学校につき、建学の精神たるキリスト教信仰を基礎とした教育方針に基づいて、その運営を行っている。
(イ) 青山学院大学の入学志願者は北海道から沖縄まで全国にわたっており、これに応じるべく、原告は、例年、受験生、保護者を対象とする進学相談会や入試に関する広報を、全国規模で実施している。
(ウ) 上記(ア)の長い歴史を通じて、青山学院大学の多数の卒業生が全国・各界で活躍し、また、全国各地において校友会が組織されるなど、全国規模で、同大学を始めとする原告の運営する各学校への支援・交流体制が確立されている。
 そして、青山学院大学の卒業者に対しては、全国から多岐にわたる産業分野に及ぶ求人があり、これに応じて各県への就職を志向する卒業生も多く存在する。
(エ) 平成9年に実施された青山学院大学の入学志願者に対するアンケートによれば、3799名中2089名が原告についてのイメージとして「知名度が高い」と回答している。また、平成10年に実施された青山学院大学在学生に対するアンケートによれば、同大学を選んだ理由として、「社会的に有名であること」と回答した者が44.1%に上っている。
(オ) また、「青山学院高等部」、「青山学院中等部」、「青山学院初等部」及び「青山学院幼稚園」の各学校については、青山学院大学に併設され、同大学との一貫教育を行う私立学校として、教育関係者のみならず、受験雑誌等を通じて学齢期の子女の保護者の間にも、首都圏を中心に広く知られている。
(カ) 原告は、全国放送、雑誌、新聞を通じて建学の精神、総合的な教育事業の内容、キャンパス紹介等について積極的に広報活動を行い、その名声を高める努力を行っている。また、原告名称について商標登録を行い、これを管理して、原告名称が冒用されることのないように努めている。
イ 上記認定の事実によれば、原告名称は、遅くとも平成11年3月までには、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を表す名称として、学校教育及びこれと関連する分野において著名なものになっていたものと認めることができる。
 この点につき、被告は、青山学院大学の入学試験の難易度が他の有名私立大学に比べて劣ること、青山学院大学卒業生の各種国家試験の合格者数が少ないことなどを指摘して著名性を争うが、これらの点が著名性を基礎付ける要素のひとつとなるとしても、これらは著名性の必須の要件ではなく、本件においては、上記アに認定のとおり、原告名称には著名性が認められるというべきである。被告の主張は、採用できない。
2 争点(1) イ(表示の類否)について
(1) 類否判断の基準
 一般に営業表示の類否については、取引の実情の下において、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想などから両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第3小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
 そこで、以下、本件につき、この基準に基づき類否を判断する。
(2) 原告漢字名称と被告漢字名称の類否について
 原告漢字名称は「青山学院」であって、一般論として、このうち「青山」の部分が人名(姓)又は地名(東京都港区内等に存在する。)としてありふれた名称であり、「学院」の部分が学校の異称であって、ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称であることからすれば、それぞれの部分からは営業主体の識別表示としての称呼、観念は生じず、「青山学院」全体としてのみ識別表示としての称呼、観念が生じるものであるところ、本件においては、前記のとおり、原告名称が著名性を有するものであるから、「青山学院」全体として強い自他識別力を有するものと認められる。
 他方、被告漢字名称は「呉青山学院中学校」というものであるところ、このうち「中学校」の部分は学校教育法上の中等普通教育を施すことを目的とする学校を示す普通名称であり(学校教育法35条)、「学院」の部分は学校の異称であって、ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称である。そして、冒頭の「呉青山」のうち、「呉」が広島県の都市の名称として全国的に広く知られたものであるのに対して、「青山」の部分は、人名(姓)又は地名としてありふれた名称であって、少なくとも広島県の地名として「青山」の名称が使用されている地域があることは知られていない。そうすると、被告漢字名称のうち、営業主体の識別表示としての称呼、観念が生じるのは、「呉青山学院中学校」全体、「呉青山学院」の部分及び「青山学院」の部分であるが、本件においては、前記のとおり原告名称が著名性を有するものであることに照らせば、「青山学院」の部分が、特に被告漢字名称を目にした者の注意をひき、強い自他識別力を有するものと認められる。
 上記のとおり、被告漢字名称については、そのうち「青山学院」の部分からも識別表示としての称呼、観念が生じるものであるから、原告漢字名称と被告漢字名称とは、「青山学院」の部分について外観が共通し、「アオヤマガクイン」の称呼を生じる点でも同じである。そして、前記1(2) で認定したとおり「青山学院」の表示が著名であることからすれば、被告漢字名称からは「青山学院と何らかの関連を有する呉所在の中学校」という観念が想起されるのであって、両者は観念において類似するというべきである。
 この点につき、被告は、「青山学院」ではなく、「青山学院中等部」という表示を類否判断の対象とすべきである旨主張するが、前記のとおり、原告名称が原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を表す名称として著名となっていたものであるから、「青山学院」なる原告漢字名称と被告名称の類否を判断するのが当然である。被告の主張は、採用できない。
 以上によれば、被告漢字名称は原告漢字名称と類似する。
(3) 原告ローマ字名称と被告ローマ字名称、被告英語名称の類否について
 原告ローマ字名称は「Aoyama Gakuin」であるところ、このうち「Aoyama」の部分が人名(姓)又は地名(東京都港区内等に存在する。)としてありふれた名称である「青山」をローマ字表記したものであり、「Gakuin」の部分が学校の異称であって、ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称である「学院」をローマ字表記したものであることからすれば、これらの部分からは営業主体の識別表示としての称呼、観念は生じず、「Aoyama Gakuin」全体としてのみ識別表示としての称呼、観念が生じるものであるところ、本件においては、前記のとおり、原告名称が著名性を有するものであるから、「Aoyama Gakuin」全体として、強い自他識別力を有するものと認められる。
 他方、被告ローマ字名称は「Kure Aoyama Gakuin」、被告英語名称は「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」というものであるところ、「Junior High School」の文字は中学校を意味する英語を表記したものであり、「Gakuin」の部分は学校の異称であって、ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称である「学院」をローマ字表記したものである。そして、冒頭の「Kure Aoyama」のうち、「Kure」の部分が広島県の都市の名称として全国的に広く知られた「呉」のローマ字表記であるのに対して、「Aoyama」の部分は、人名(姓)又は地名としてありふれた名称である「青山」のローマ字表記である(少なくとも広島県の地名として「青山」の名称が使用されている地域があることは知られていない。)。そうすると、被告ローマ字名称については、営業主体の識別表示としての称呼、観念が生じるのは、「Kure Aoyama Gakuin」全体及び「Aoyama Gakuin」の部分であり、被告英語名称については、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」全体、「Kure Aoyama Gakuin」及び「Aoyama Gakuin」の部分であるが、本件においては、前記のとおり原告名称が著名性を有するものであることに照らせば、「Aoyama Gakuin」の部分が、特に被告ローマ字名称又は被告英語名称を目にした者の注意をひくものと認められる。
 上記のとおり、被告ローマ字名称及び被告英語名称については、そのうち「Aoyama Gakuin」の部分からも識別表示としての称呼、観念が生じるものであるから、原告ローマ字名称と被告ローマ字名称、被告英語名称は「Aoyama Gakuin」の部分について外観が共通し、「アオヤマガクイン」の称呼を生じる点でも同じである。そして、前記1(2) で認定したとおり「Aoyama Gakuin」の表示が著名であることからすれば、両者は観念の点でも類似するというべきである。
 したがって、被告ローマ字名称及び被告英語名称は、いずれも原告ローマ字名称と類似する。
3 争点(4) (普通名称)について
(1) 被告は「呉青山学院中学校」という名称は営業の普通名称であり、不正競争防止法11条1項1号が適用されるから、被告が被告名称を用いる行為は、不正競争行為に該当しないと主張するので、この点について検討する。
 被告の設置運営する呉青山学院中学校の所在地が呉市青山町2番1号であることに照らせば、「呉青山」は、「呉市青山町」を短縮表記したものとして、役務提供の場所を示す名称ということができる。また、「中学校」の語は学校教育法上の中等普通教育を施すことを目的とする学校を示す普通名称であるが、法令上の用語でもある(学校教育法1条、35条参照)。他方、「学院」は、学校の異称であって、ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称であるが、法令上の根拠を有する語ではない。「学院」の語は、所在地の地名と組み合わせて学校の名称として用いられることもあるが、地名(地方名、県名、市町村名等)に「学院」の語を直接続けた「○○学院」の名称を用いている中学校ないし高等学校の数は約30校で、全国の中学校、高等学校の総数からみれば極めて小さな割合であり、また、それらの名称をみると、例えば、地方名を冠したものは東北学院、関東学院、関西学院、九州学院、常総学院など、県名・市町村名等を冠したものは広島学院、宮城学院、目黒学院、帝塚山学院などであって、その多くは、単に当該地名により表された地域に所在する学校という意味を超えて、特定の経営主体により設置運営されている特定の学校を示す固有名称として社会的に認識されていること(弁論の全趣旨により認められる。)に照らせば、所在地の地名と「学院」の組合せが、普通名称又は学校について慣用されている表示に該当すると認めることはできない。
(2) また、「Kure Aoyama Gakuin」、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の各名称も、同様の理由で、普通名称又は学校について慣用されている表示とはいえない。
(3) 以上によれば、本件に不正競争防止法11条1項1号を適用することはできないというべきである。
4 原告の差止請求について
 以上のとおり、被告が設置する中学校につき被告名称を用いる行為は、不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争行為に該当する。したがって、これと選択的関係に立つ同法2条1項1号所定の不正競争行為及び商標権侵害を理由とする各差止請求に関する原告の主張の当否につき検討するまでもなく、被告に対して被告名称の使用の差止めを求める原告の請求は理由がある。
 また、本件紛争の経過に照らせば、被告において、「青山学院」、「Aoyama Gakuin」の語を含む被告名称以外の名称をその設置運営する学校の名称として用いるおそれがあると認められるから、これらの名称の使用差止めを求める請求も理由がある(被告の設置運営する中学校は中高一貫教育を標榜しているから、被告が将来、設置運営する高等学校に「青山学院」の名称を使用するおそれも、また、認められるというべきである。)。
5 争点(6) (損害賠償請求)について
 原告は、被告が被告名称を用いたことにより、不正競争防止法1条1項2号所定の著名商品等表示としての原告名称の識別力が希釈化し、いわゆる「グッドウィル」が毀損されたという意味での損害を被ったと主張する。
 しかし、本件全証拠によっても、被告の行為によって、原告名称につき上記の内容の具体的な損害が生じたとまでは、いまだ認めることはできない。よって、原告の損害賠償請求は理由がない。
 また、前記2、3に判示したのと同様の理由により、被告による被告名称の使用は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当し(なお、証拠によれば、混同のおそれが認められる。)、原告各商標について原告が有する商標権を侵害するものと認められるが(なお、被告名称は商標法26条1項3号所定の「普通名称」に該当せず、原告各商標が無効事由を有するとはいえない。)、周知の商品等表示としての原告名称及び原告各商標について、そのグッドウィルが害されたとまでは認められないから、いずれにしても、原告の損害賠償請求は理由がない。
6 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告名称の使用差止め及び「青山学院」又は「Aoyama Gakuin」の語を含む名称の使用差止めを求める限度で、理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 和久田道雄


別紙 商標目録 略
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