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【事件名】カラオケ無断使用事件(カラオケボックス経営17社)(2) 【年月日】平成13年7月18日 東京高裁 平成13年(ネ)第787号 債務不存在確認・同反訴、著作権債務不存在確認・各同反訴請求控訴事件 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第6456号、同年(ワ)第21081号) (平成13年5月28日 口頭弁論終結) 判決 控訴人 A 控訴人 有限会社ベルショウ 両名訴訟代理人弁護士 山本宜成 同 荒井俊且 同 田中泰雄 被控訴人 社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護士 田中豊 同 藤原浩 同 市村直也 同 馬橋隆紀 同 岡本弘哉 主文 1 原判決主文第三項に係る控訴人Aの本件控訴を棄却する。 2 原判決主文第五項を次のとおり変更する。 (1) 控訴人有限会社ベルショウ及び同Aは、被控訴人に対し、連帯して、金515万8621円及び内金427万4100円に対する平成12年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人の控訴人らに対するその余の反訴請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを5分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら (1) 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の控訴人らに対する反訴請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 (1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要 本件は、音楽著作物についての著作権を管理する団体である被控訴人(第1審反訴原告)が、反訴請求として、(1) いわゆるカラオケボックスの営業をしていた控訴人(第1審反訴被告)有限会社ベルショウ(以下「控訴人会社」という。)に対し、控訴人会社がカラオケボックス店舗においてカラオケ装置を使用して音楽著作物を再生(演奏・上映)し、客に歌唱させたことが、被控訴人の管理に係る著作権の侵害に当たるとして、使用料相当額の損害賠償又は不当利得返還を求める(損害賠償請求と不当利得返還請求とは選択的併合に係る請求である。)とともに、(2) 控訴人(第1審反訴被告)A(以下「控訴人A」という。)に対し、同人が、控訴人会社による営業の開始前にカラオケボックスの営業をして、上記と同様の著作権侵害をしたとして、また、控訴人会社の営業開始後の上記著作権侵害につき、控訴人Aが控訴人会社と共同して上記カラオケボックスの営業をし、そうでないとしても、控訴人会社の取締役として有限会社法30条の3第1項所定の責任を負うとして、使用料相当額の損害賠償又は不当利得返還を求める(損害賠償請求と不当利得返還請求とは選択的併合に係る請求であり、控訴人会社の経営開始後は控訴人会社との連帯支払いを求めるものである。)事案である。 本件における被控訴人の請求額及びその内訳は、本判決添付別表1の1表(被控訴人の請求額)記載のとおりであり、原判決は、同別表の2表(原判決の認容額)記載の限度で、被控訴人の控訴人らに対する各反訴請求を認容し(ただし、控訴人会社に対する反訴請求は、平成5年2月17日から平成10年5月14日までのカラオケボックスの営業期間中、平成7年9月17日以降の著作権侵害については民法709条に基づく損害賠償請求を、同月16日以前の著作権侵害については民法703条、704条に基づく不当利得返還請求を認容したものであり、控訴人Aに対する反訴請求は、平成2年12月15日から平成5年2月16日までの同人によるカラオケボックスの営業期間中の著作権侵害につき民法703条、704条に基づく不当利得返還請求を認容し、平成5年2月17日から平成10年5月14日までの控訴人会社によるカラオケボックスの営業期間中の著作権侵害については有限会社法30条の3第1項に基づく請求を認容したものである。)、これに対して控訴人らのみが当審において不服の申立てをした。 なお、控訴人会社(第1審本訴原告)は、当審において、音楽著作物の使用に関する被控訴人に対する支払債務の不存在確認を求める本訴請求を取り下げた。 1 前提となる事実 (1) 被控訴人は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という。)に基づく許可を受けた音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権及びその支分権(演奏権、録音権、上映権等)につき信託的譲渡を受けるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者を始め、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等、各分野における音楽の使用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、その対価として使用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人であり、音楽著作物の各著作権者から、その著作権の信託的譲渡を受けて、これを現に管理し、あるいは管理していた(以下、被控訴人の管理する著作権を「管理著作権」といい、管理著作権に係る音楽著作物を「管理著作物」という。)。(争いがない。) (2) 控訴人会社は、平成5年2月17日から平成10年5月14日までの間(以下、この期間を「会社経営期間」という。)、埼玉県鳩ヶ谷市所在の名称を「*」とする店舗(以下「本件店舗」という。)において、客にカラオケ装置を備え付けた歌唱用の部屋を使用させるとともに飲食物を提供する、いわゆるカラオケボックスの営業を行っていた。(争いがない。なお、被控訴人は、控訴人Aが控訴人会社と共同して会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業を行っていたと主張する。) (3) 会社経営期間前の平成2年12月15日から平成5年2月16日までの間(以下、この期間を「個人経営期間」という。)においても、本件店舗におけるカラオケボックスの営業が行われていた。(争いがない。なお、個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体につき、被控訴人は控訴人Aであると主張し、控訴人らは、訴外Bであると主張する。) (4) 個人経営期間中及び会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックス営業に関し、管理著作物の使用がされていたが、その使用につき被控訴人の許諾は得られていなかった。(乙ち第1号証、弁論の全趣旨) (5) 控訴人らは、本件訴訟において、被控訴人の控訴人らに対する本件反訴提起の日(控訴人Aにつき平成10年3月30日、控訴人会社につき同年9月16日)より3年以上前の管理著作物の使用に関する損害賠償請求権につき、消滅時効を援用する。(記録上明らかである。) 2 争点及び争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(本件店舗における営業の主体) 個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体はだれであるか。また、会社経営期間中に控訴人Aが控訴人会社と共同してその営業を行っていたかどうか。 (被控訴人の主張) ア 個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体は控訴人Aである。平成2年12月21日にされた本件店舗における最初の食品衛生法に基づく食品営業許可に係る申請が控訴人A名義でされたほか、本件店舗におけるカラオケボックスの営業の根幹となる本件店舗に係る賃貸借契約、カラオケ設備のリース契約、営業資金の借入れ等の行為も控訴人A名義でされている。これらの事実に、控訴人会社の設立に伴って、その代表取締役に控訴人Aが就任したこと、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に関し、個人として、音楽著作物の使用に関する被控訴人に対する支払債務の不存在確認を求める本訴請求を提起したのは控訴人Aであり(ただし、後に取り下げた。)、訴外Bではないことを併せ考えれば、個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aであることは明らかである。 イ 会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業は控訴人Aが控訴人会社と共同して行っていたものである。 (控訴人らの主張) ア 個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体は控訴人Aの三男である訴外Bである。訴外Bは、1年間カラオケ店に勤務してその経営ノウハウを学んだ後、独立することとして、本件店舗におけるカラオケボックスの開業をしたものであるが、当時27歳の若年であったために、事業主としての信用力がなく、株式会社#の代表取締役であった父の控訴人Aの名義を借りて、食品営業許可の取得、本件店舗の賃貸借契約、カラオケ設備のリース契約、営業資金の借入れ等をしたものである。しかしながら、本件店舗におけるカラオケボックスの開業準備及び開業後の経営実務はすべて訴外Bが行い、控訴人Aが経営に携わることはなかった。控訴人会社の代表取締役に控訴人Aが就任したのも同様の事情によるものであり、訴外Bは、控訴人会社の取締役として、実質的な経営に当たっていた。 イ 会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業は控訴人会社が単独で行っていたものであり、控訴人Aが控訴人会社と共同してこれを行っていたことはない。 (2) 争点2(本件店舗における管理著作物の利用主体) 控訴人らが本件店舗における管理著作物の利用主体であったかどうか。 (被控訴人の主張) カラオケボックスは、客にカラオケ装置を備え付けた歌唱用の部屋を使用させ、当該カラオケ装置を操作させて管理著作物であるカラオケ伴奏音楽を再生(演奏・上映)し、伴奏音楽に合わせて客に歌唱させることを営業内容とするものである。そして、カラオケボックスでの音楽著作物の利用主体は、客がカラオケ装置を操作して音楽著作物であるカラオケ伴奏音楽を再生し、歌唱する場合であっても、その店舗の経営者である。 本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体が、個人経営期間中は控訴人Aであり、会社経営期間中は控訴人両名であったことは上記のとおりであり、控訴人らは、対応する各期間中、本件店舗において、カラオケ装置で管理著作物を再生(演奏・上映)して客に歌唱させる営業を行っていたものであるから、それぞれ対応する各期間中の本件店舗における管理著作物の利用主体であった。 (控訴人らの主張) 控訴人らは、本件店舗において、自ら客にカラオケ装置を操作させて管理著作物を再生し、これに合わせて客に歌唱させていたものではないから、管理著作物の利用主体ではなかった。 (3) 争点3(業務用カラオケソフトに係る管理著作物の再生等の許諾) 被控訴人が、管理著作物に係る業務用カラオケソフトの製作をその製作者に許諾した際、飲食店等において管理著作物を再生し、これに合わせて歌唱することについても許諾したものであり、その対価は既に業務用カラオケソフトの製作者から受けている対価に含まれているかどうか。 (控訴人らの主張) 本件店舗で使用されたカラオケソフトは業務用カラオケソフトであるところ、業務用カラオケソフトは、飲食店等においてこれを再生し、客がその伴奏音楽に合わせて歌唱するという営業上の利用形態を当然に予定しており、そのような利用に供することを目的として製作されるものである。そして、被控訴人は、このような利用に供されるものとして、管理著作物の業務用カラオケソフトの製作をその製作者に許諾し、その対価を製作者から受けているのであるから、当該許諾をしたことにより、飲食店等における業務用カラオケソフトを使用した管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱についても同時に許諾したものであって、その対価は既に業務用カラオケソフトの製作者から受けている対価に含まれているというべきである。仮に、カラオケソフトの製作、頒布、利用の各行為を区別し得るとしても、もともと飲食店等における商業利用を予定して製作される業務用カラオケについて、その商業利用を留保して許諾をするようなことは無意味である。このことは、被控訴人が業務用カラオケソフトの製作を許諾した昭和45年ころ以降、10年以上の長期にわたって別途演奏についての対価を徴収しなかった事実に照らしても明らかである。 (被控訴人の主張) カラオケソフトを製作する行為と、製作されたカラオケソフトを再生したり、これに合わせて歌唱する行為とは、別個の行為であり、業務用カラオケソフトについてカラオケボックス営業等での利用が予定されていたとしても、被控訴人は、業務用カラオケソフトの製作を許諾する際に、管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱についても許諾したということはなく、その対価が既に収受されている対価に含まれているということもない。 (4) 争点4(著作権法附則14条の適用の有無) 平成11年12月31日までのカラオケボックスにおける管理著作物の演奏につき、平成11年法律第77号(平成12年1月1日施行)による廃止前の著作権法附則14条(以下「旧附則14条」という。)の適用があるかどうか。すなわち、旧附則14条は「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法第三十条第一項第八号及び第二項並びに同項に係る旧法第三十九条の規定は、なおその効力を有する。」と規定し、旧法(旧著作権法・明治32年法律第39号)30条1項は「既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス」とした上、その8号において「音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法ニ写調セラレタルモノヲ興行又ハ放送ノ用ニ供スルコト」と規定し、さらに、旧附則14条に係る「政令」の規定であった平成11年政令第405号による廃止前の著作権法施行令附則3条(以下「旧施行令附則3条」という。)は「法附則第十四条の政令で定める事業は、次に掲げるものとする。」とした上、その1号において「喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」と定めていたところ、本件店舗におけるカラオケボックスの営業が旧施行令附則3条1号所定の営業に当たるかどうか。 (控訴人らの主張) 一般に、カラオケ装置は客に歌唱させるための設備であって、旧施行令附則3条1号の「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」には該当せず、また、カラオケボックスの営業が同号の「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする」ものでもない。カラオケ装置による録音テープの再生について旧附則14条が適用されることは、被控訴人自身が認めていたことである。 また、被控訴人は、カラオケボックスの営業が旧施行令附則3条1号の「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」に当たるから、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に旧附則14条が適用されるものではないと主張するが、後記のとおり、被控訴人は、カラオケボックスにおいては飲食が営業上不可欠の要素となっていないとして、「社交場」に該当することを否定しており、その主張は矛盾している。 したがって、本件店舗におけるカラオケボックスの営業は旧施行令附則3条1号所定の営業には該当しないから、管理著作物の演奏は、旧附則14条によって自由に行い得たものである。 (被控訴人の主張) カラオケ装置は旧施行令附則3条1号の「客に音楽を鑑賞させるための特別の装置」に、カラオケボックスの営業は同号の「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」に当たるから、本件店舗におけるカラオケボックスの営業には旧附則14条が適用されず、管理著作物の演奏が自由に行い得たものであるとはいえない。 被控訴人は、昭和50年代においては、カラオケ装置による伴奏音楽の再生が必ずしも「客に音楽を鑑賞させる」ものには当たらないとしていたが、当時のカラオケ装置が、客の歌唱を補助するためにメロディを再生するにすぎず、「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」に該当するかどうか疑問を生ずるものであったのに対し、本件店舗におけるカラオケボックス営業が開始された平成2年12月以降のカラオケ装置は、発売されたレコード演奏からプロ歌手による歌唱を除いたものという程度に内容が充実し、客自身がオーケストラやバックコーラスを従えて歌唱していると思わせるほどの臨場感を伴った高度なものに進化しており、もはや客の歌唱の補助的な装置とはいえず、「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」に該当する。 (5) 争点5(本件使用料率表による使用料の徴収の可否) 被控訴人は、控訴人らに対し、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に係る管理著作物の使用に関し、民法709条、719条、著作権法114条2項に基づく損害賠償として、管理著作物に係る使用料相当額及びこれに対する民法所定年5分の割合による遅延損害金を、又は民法703条、704条に基づく不当利得として、管理著作物に係る使用料相当額及びこれに対する上記割合による利息の返還を選択的に請求し、平成9年8月10日までの分の上記使用料相当額については、「カラオケ歌唱室の使用料率表」(以下「本件使用料率表」という。)により、また、同月11日以降の分の上記使用料相当額については、同日に一部変更認可され、同日施行された著作物使用料規程(以下「新使用料規程」という。)第2章第2節「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」の規定により、それぞれカラオケボックスにおける1か月当たりの管理著作物の使用料(消費税別)を算出すべきことを主張するところ、平成9年8月10日までのカラオケボックスにおける管理著作物の使用について、本件使用料率表によって算出される金額の使用料を徴収できるかどうか。特に、本件使用料率表が、昭和59年6月1日に文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程(以下「旧使用料規程」という。)第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づいて定められたものであるかどうか。 (被控訴人の主張) ア 本件使用料率表は、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づいて定められたものである。 すなわち、同規定は「本規定の(1)から(6)以外の演奏の場合は、本規定の(1)の規定の範囲内において、使用状況等を参酌して使用料を決定する。」と定めるところ、この規定は、演奏等の利用分野においてどの規定にも当てはまらない新たな利用形態が現われた場合に、著作物使用料規程が改正されるまでの間の管理著作物の新たな態様による利用に適時、適切に対応するために、被控訴人において一定の範囲内で管理著作物の具体的な利用状況等に応じた合理的な使用料額を決定することを認め、もって著作物の適法で円滑な利用の促進を図ったものであり、もとより白紙委任と評されるようなものではない。 カラオケボックスにおける管理著作物の使用は、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」に該当するものであるが、その(1)から(6)までのいずれの規定にも当てはまらないものである。そこで、カラオケボックスにおける管理著作物の使用について、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(1)の使用料額の範囲内で、1室当たりの定員数や他の業種とのバランス(特に、カラオケボックスにおいては管理著作物が社交場よりも多く利用されること)等を参酌し、カラオケボックスの経営者の意見を代表する者として株式会社第一興商と10回程度協議した上、社交場におけるのと同程度の合理的な使用料額を定めたものが、本件使用料率表である。本件使用料率表による使用料額が合理性を有することは、右金額がカラオケボックス営業において包括的使用許諾契約を結ぶ場合の使用料として平成9年8月11日に認可された金額と同一であることからも裏付けられる。 したがって、本件使用料率表は、文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程に基づいて定められたものであり、被控訴人は、平成9年8月10日以前のカラオケボックスにおける管理著作物の使用については、本件使用料率表に基づく金額の使用料を徴収できるものである。 イ 控訴人らは、カラオケボックスにおけるカラオケ伴奏による歌唱が「催物における演奏」ではないと主張するが、一般に「催物」とは、人が集って行う会合を意味する広い概念であり、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」における「催物」とは、その表現が盛り込まれた経緯に照らし、演奏会形式によらない演奏の総称であって、カラオケボックスにおける音楽著作物の再生、歌唱も、「催物における演奏」に当たるというべきである。 また、控訴人らは、カラオケボックスが旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「社交場における演奏等」の規定における「社交場」に該当するものであると主張するが、カラオケボックスにおいて、飲食又はダンスが営業上不可欠の要素となっていない以上、これに上記規定を適用することはできない。 ウ 著作権法114条2項は、著作権侵害を受けた権利者に対し、最低限度の損害賠償額を保証した規定であり、その額は、著作権者が侵害行為と同種の利用を許諾するとすれば合意したであろう使用料の額であるとされている。被控訴人は、平成元年以降、日本全国のカラオケボックス業者との間で本件使用料率表に基づいて使用許諾契約を締結しており、その数は数万件に上る。したがって、本件使用料率表に定めた使用料額が被控訴人において「通常受けるべき金銭の額」に相当することは明らかである。 (控訴人らの主張) ア 仲介業務法3条は、被控訴人による使用料徴収の根拠となる著作物使用料規程の設定及び変更について文化庁長官の認可を受けるべきものとし、また、同法施行規則4条は、著作物使用料規程には著作物の使用料率に関する事項を定めるべきものとし、著作物使用料率について著作物の種類及び利用方法の異なるごとに各別に定めて表にすべきものとしている。 ところが、被控訴人が本件使用料率表について文化庁長官の認可を受けたのは平成9年8月11日であるから、同月10日以前には本件使用料率表は効力が発生していなかったというべきである。したがって、被控訴人は、同日以前のカラオケボックスにおける管理著作物の使用について、本件使用料率表に基づく使用料を徴収することはできない。仮に、被控訴人が、カラオケボックスとの間で、本件使用料率表に基づく使用料の支払を内容とする契約を締結したとしても、その契約は公序良俗に反して無効であり、上記契約に基づく使用料の請求は、権利濫用又は信義則違反として許されない。 イ 被控訴人は、本件使用料率表について、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づいて定められたものである旨主張するが、「催物」とは、ある特定の目的のために人を集めて行う行事、興行などいわゆるイベントを意味するから、カラオケボックスにおけるカラオケ伴奏による歌唱を「催物における演奏」ということはできない。また、被控訴人は、上記(7)「その他の演奏」の規定が、演奏等の利用分野においてどの規定にも当てはまらない新たな利用形態が現われた場合に、著作物使用料規程が改正されるまでの間、被控訴人におい使用料額を決定することを認めたものであるとも主張するが、上記(7)「その他の演奏」の規定は「催物における演奏」の一形態として定められているから、「催物における演奏」以外に、演奏等の利用分野においてどの規定にも当てはまらない新たな利用形態を含むものではない。被控訴人の上記解釈は、使用料規定に定めのない管理著作物のすべての新たな利用方法に対する使用料額が被控訴人の判断に委ねられるとする白紙委任を主張するものであって、仲介業務法3条に反する。 さらに、本件使用料率表自体、その内容等に照らして、合理性、相当性を有するものとは到底いえない。 カラオケボックスにおける管理著作物の使用を旧使用料規程にあえて当てはめるとすれば、客に飲食させる営業を行う施設において、当該営業とともに著作物を演奏等する場合に当たるものとして、カラオケ喫茶やカラオケスナックにおける管理著作物の利用と同様、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「社交場における演奏等」の規定に該当するものと解するほかはない。カラオケボックスは、昭和63年ないし平成元年ころには、客に対する飲食の提供を伴った営業であることが認知されていたものである。したがって、カラオケボックスにおけるカラオケ伴奏による歌唱に対しては、同4「社交場における演奏等」の「カラオケ伴奏による歌唱」の使用料率が適用されるというべきである。そうだとすれば、各個の歌唱室の面積が16.5u(5坪)以下であるときは、使用料の支払いが免除されることになる。 ウ したがって、被控訴人が、平成9年8月10日以前のカラオケボックスにおける管理著作物の使用について本件使用料率表に基づく金額の使用料を徴収することはできないというべきであり、そうであれば、右金額が著作権法114条2項の「著作権・・・の行使につき通常受けるべき金銭の額」であるとして損害を算定をすることはできないし、被控訴人に右金額の損失が生じたということもできないから、被控訴人は、本件使用料率表に基づく使用料相当額の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有しない。 (6) 争点6(通信カラオケの使用料) 平成9年8月10日以前におけるいわゆる通信カラオケによる歌唱が本件使用料率表所定の「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」に含まれるかどうか。 (被控訴人の主張) 通信カラオケは、伴奏音楽の再生に伴う歌唱の際に、動画が再生されるものであって、その実態はビデオグラムの上映に伴う歌唱の場合と異ならない。本件使用料率表において、「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」に対するものとされている「オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する場合を含む。)」とは、伴奏音楽の再生に伴う歌唱の際に、影像を伴わない場合又は静止画を同時に再生する場合をいうものである。 したがって、通信カラオケによる歌唱は本件使用料率表所定の「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」に含まれるものというべきである。 (控訴人らの主張) 旧使用料規程第2章第9節「ビデオグラム」は、ビデオグラムにつき、「ビデオテープ、ビデオディスクなどに影像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう」と定義しているから、旧使用料規程上、通信カラオケがビデオグラムに当たらないことは明白であり、したがって、通信カラオケが本件使用料率表所定の「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」に含まれないことも明らかである。 そうすると、平成9年8月10日以前において、いわゆる通信カラオケによる歌唱につき、文化庁長官の認可を受けた使用料の定めは存在しないから、これに対してオーディオカラオケについての使用料額以上の使用料を徴収することはできない。 (7) 争点7(本件店舗における室区分等) 本件店舗における歌唱室の数、各歌唱室の本件使用料率表及び新使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」の規定に従ったカラオケ装置の種類、定員及び面積による区分(以下「本件店舗における室区分等」という。)は、どのようなものか。 (被控訴人の主張) 本件店舗における室区分等は、本判決添付別表2の1表(被控訴人主張の室区分等)記載のとおりである。 なお、これに基づき、被控訴人が控訴人らに支払を求め得る金額は、本判決添付別表1の1表(被控訴人の請求額)記載のとおりである。 (控訴人らの主張) 本件店舗における室区分等は、本判決添付別表2の2表(控訴人ら主張の室区分等)記載のとおりである。 (8) 争点8(有限会社法30条の3第1項の適用の有無) 仮に、会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業が、控訴人会社により単独で行われていたものとした場合、控訴人Aが有限会社法30条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うかどうか。 (被控訴人の主張) 控訴人Aは、会社経営期間中、控訴人会社の代表取締役として、本件店舗における営業を管理支配し、業務を執行していた者であるから、法令を遵守して同社の業務を執行すべき義務があるところ、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失により著作権法に違反して管理著作権を侵害したものである。したがって、控訴人Aは、有限会社法30条の3第1項により、会社経営期間中の管理著作権の侵害によって被控訴人が被った損害につき控訴人会社と連帯して賠償すべき責任がある。 (控訴人Aの主張) 個人経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体が控訴訴外Bであること、控訴人会社の代表取締役に控訴人Aが就任したのは、訴外Bに事業主としての信用力がなく、控訴人Aの名義を借りたものであって、控訴人会社の実質的な経営に当たっていたのは訴外Bであることは上記(1)のとおりである。控訴人Aは控訴人会社の名目上の代表取締役にとどまるものであるから、同人が控訴人会社の業務を執行するに当たり、悪意又は重大な過失により著作権法に違反して管理著作権を侵害したとする被控訴人の主張は理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件店舗における営業の主体)について (1) 個人経営期間中の営業の主体について 乙ち第2号証(埼玉県川口保健所長作成の「照会事項について(回答)」と題する書面)によれば、本件店舗についての最初の食品衛生法に基づく食品営業許可の申請及び平成2年12月21日付けの同許可の取得が控訴人Aの名義でされたことが認められ、また、甲ち第4号証(訴外B作成の陳述書)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業のための銀行からの運転資金の借入れ、店舗賃貸借契約の締結、カラオケ装置のリース契約がいずれも控訴人Aの名義でされたこと、個人経営に代わる本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体として平成5年2月17日に控訴人会社が設立されたところ、その代表取締役に就任したのは控訴人Aであり、同人は会社経営期間中、継続して控訴人会社の代表取締役であったことがそれぞれ認められる。 そして、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業のためにされた食品営業許可の取得、銀行借入れ、店舗賃貸借契約、カラオケ装置のリース契約等が、その性質上、同営業の根幹を成す重要な事項であることは明らかであるから、これらが控訴人Aの名義でされた以上、控訴人Aにおいても、訴外Bにおいても、同営業に係る損益や各種債権債務を控訴人Aに帰属させる意思を有していたものと認めることができ、この認定を覆すに足りる事実(例えば、同営業に係る損益を訴外Bに帰属させた税務申告がされたこと等)についての主張立証はない。また、そうであるとすれば、同営業に係る重要事項についての最終的な意思決定の権限は控訴人Aにあったものと推認されるところ、これらの事実に、上記のとおり、設立された控訴人会社の代表取締役に就任したのが控訴人Aであったことを併せ考えれば、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業の主体は控訴人Aであったものと認められる。 前掲甲ち第4号証及び甲ち第3、第5号証(いずれも控訴人Aの陳述書)には、本件店舗におけるカラオケボックスの営業を企図し、開業の準備をし、その経営に当たったのは、控訴人Aの三男である訴外Bであったが、同人は、若輩で信用力がなかったために、食品営業許可の取得、銀行借入れ、リース契約等に控訴人Aの名義を借り、あるいは、控訴人会社の名目的な代表取締役に控訴人Aが就任したものであって、控訴人A自身は、訴外Bの行う本件店舗におけるカラオケボックスの営業に口を出さなかった旨の記載がある。しかしながら、仮に、本件店舗におけるカラオケボックスの営業を発案したのが訴外Bであったとしても、あるいは、開業の準備業務や開業後の同営業に係る日常業務並びにこれに伴う限度においての同営業に関する意思決定が訴外Bに委ねられた事実が存在するとしても、それだけでは、同営業の主体に関する上記認定を左右するに足りないし、前掲甲ち第3〜第5号証には、同営業に対する訴外Bの関与が上記の程度を超えるものであるとする具体的な事実の記載はなく、また、他にそのような具体的事実を認めるに足りる証拠もない。すなわち、甲ち第8号証(株式会社エス・エヌ・ケイとの契約書)、第9号証(Cとの駐車場賃貸借契約書)及び弁論の全趣旨によれば、いずれも訴外Bの名義で、本件店舗におけるカラオケボックスの営業のために、平成6年11月16日に駐車場用地の賃貸借契約がされ、また、同年5月31日にゲーム機の設置契約がされたことが認められるが、これらはいずれも個人経営期間経過後のことであるし、また、前掲甲ち第4号証によれば、個人経営期間中に、訴外Bが「埼玉県カラオケ事業者協会」に参加して、その役員に就任したこともあることが認められるが、単なる任意団体と推認される同協会に参加し、その役員として活動したからといって、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に対する同人の関与が上記の程度を超えるものとすることはできない。そうすると、前掲甲ち第3〜第5号証の各記載中の、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの経営に当たっていたのが、控訴人Aではなく、訴外Bであるとの部分は採用することができず、他に、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aであったとの上記認定を覆すに足りる証拠はない。 (2) 会社経営期間中の控訴人Aの共同経営の有無について 本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aであったこと、個人経営に代わる本件店舗におけるカラオケボックスの経営主体として設立された控訴人会社の代表取締役に控訴人Aが就任したことは、上記(1)のとおりであるが、このような事実があるからといって、被控訴人主張のように、会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業を控訴人Aが控訴人会社と共同して行っていたことを推認するには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 2 争点2(本件店舗における管理著作物の利用主体)について 乙ち第1号証(カラオケ歌唱室実態調査報告書)及び弁論の全趣旨によれば、個人経営期間中及び会社経営期間中の本件店舗におけるカラオケボックスの営業においては、本件店舗内のカラオケ装置の設置された歌唱室を使用する客が、通常は自ら当該カラオケ装置を操作して伴奏音楽の再生(演奏・上映)をし、また、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱(演奏)していたものであること、他方、同営業の主体であった控訴人ら(個人経営期間中においては控訴人A、会社経営期間中においては控訴人会社)は、本件店舗の各歌唱室にカラオケ装置を設置し、客が容易にカラオケ装置を操作できるようにするとともに、客の選曲の便宜のため楽曲索引を備え置いた上で、各歌唱室を客に使用させており、また、客から求められれば、控訴人らの従業員がカラオケ装置を操作して、その操作方法を客に教示していたこと、客は、控訴人らから指定された本件店舗内の歌唱室を所定の時間使用し、控訴人らが用意したカラオケソフトに収録されている曲目の範囲内で管理著作物を含む楽曲を選択して、上記のとおり再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、また、歌唱室の使用時間に応じた使用料金を控訴人らに支払っていたことが認められる。 上記事実関係に照らせば、本件店舗におけるカラオケボックスの営業において、伴奏音楽の再生を目的として、現実にカラオケ装置の操作を行い、また伴奏音楽に合わせて現実に歌唱していた者は客であるものの、その操作、再生及び歌唱は同営業の主体である控訴人らの管理の下で行われていたものというべきであり、かつ、控訴人らは、客にその操作、再生及び歌唱をさせることによって、直接的に同営業に係る利益を得ているものであるところ、このような伴奏音楽の再生及び歌唱による管理著作物の利用(演奏・上映)の主体は、同営業の主体である控訴人らであるとすることが相当であり、控訴人らは、公衆(不特定多数の客)に直接聴かせ、見せることを目的として管理著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行ったものというべきである。 3 争点3(業務用カラオケソフトに係る管理著作物の再生等の許諾)について 管理著作物に係るカラオケソフトを製作する行為、すなわち、管理著作物を複製することと、製作された当該カラオケソフトをカラオケボックス店舗において公に再生する行為及びこれに合わせて歌唱する行為、すなわち管理著作物を公に演奏・上映することとは、明らかに別個の行為であり、それぞれについて別個に許諾がされ、著作物使用料が支払われるべきものである。そして、甲第6、第7号証の各1、2(音楽著作物使用許諾申請書、同別表及び同使用許諾書)並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、業務用カラオケソフト製作者との契約において、同製作者に対し、管理著作物の録音、すなわち、その複製を許諾したことが認められるが、その許諾をするとともに、飲食店やカラオケボックス等における業務用カラオケソフトを使用した管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱についても同時に許諾したとの事実を認めるに足りる証拠はない。もとより、業務用カラオケソフトの製作について許諾したからといって、当然に、カラオケボックス等における業務用カラオケソフトを使用した管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱について許諾の効果が生ずるということもできない。 この点につき、控訴人らは、飲食店等における商業利用を予定して製作される業務用カラオケについて、その商業利用を留保して許諾をするようなことは無意味であると主張するが、管理著作物に係る業務用カラオケソフトが、飲食店等における商業利用、すなわち、飲食店やカラオケボックス等において公に再生(演奏・上映)し、これに合わせて歌唱する行為に供することを目的として製作されるものであり、したがって、上記再生、歌唱の段階にまで至れば、これについての許諾を要するものであるとしても、その許諾を上記製作についての許諾を得る段階で必ず同時に得なければならないとする理由は存在しない。控訴人らの上記主張は、ある段階に至れば上記再生、歌唱についての許諾が必要になることと、その許諾が上記製作についての許諾を得る段階において必要であることとを混同した議論であるというほかはなく、これを採用することができない。なお、以上の点ついては、仮に、被控訴人が昭和45年ころ以降、長期にわたって演奏についての対価を徴収しなかった経緯があったとしても変わるところはないというべきである。 4 争点4(旧附則14条の適用の有無)について 上記2の認定事実に、前掲乙ち第1号証及び弁論の全趣旨を併せ考えると、本件店舗におけるカラオケボックスの営業において、控訴人らは、客に本件店舗内のカラオケ装置の設置された歌唱室を使用させ、客は当該カラオケ装置によって再生された伴奏音楽に合わせて歌唱を行っていたこと、控訴人らは、「カラオケ」、「カラオケ・ランド」等の表示のある看板等により本件店舗の広告をし、本件店舗において、客に対しジュース、ピザ、スパゲティ等の飲食物の提供をしていたことが認められる。 上記のとおり、本件店舗におけるカラオケボックスの営業において、控訴人らが客に対し飲食物の提供をしていた以上、同営業は、旧施行令附則3条1号の「客に飲食をさせる営業」に当たるものということができる。また、客が本件店舗内の歌唱室において再生された伴奏音楽とこれに合わせた歌唱とを聴くことは、同号の「音楽の鑑賞」に当たるものというべきであるから、歌唱室に設置されたカラオケ装置は、同号の「客に音楽を鑑賞させるための特別の装置」に当たり、さらに、上記看板等の「カラオケ」、「カラオケ・ランド」等の表示は、本件店舗の営業が、店舗内の歌唱室において伴奏音楽を再生し、これに合わせた歌唱をさせるものであって、客が伴奏音楽及び歌唱を聴くことができる態様のものであることを示すに足りるから、上記看板等を設置することにより、同号の「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し」ていたものということができる。 したがって、本件店舗におけるカラオケボックスの営業が旧施行令附則3条1号所定の事業に該当するものである以上、本件店舗における管理著作物の演奏につき旧附則14条の適用はない。 控訴人らは、カラオケ装置は客に歌唱させるための設備であって、旧施行令附則3条1号の「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」には該当せず、また、カラオケボックスの営業が同号の「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする」ものでもないと主張するが、カラオケ装置によって現実に伴奏音楽を再生することや、これに合わせて歌唱することが、これらを聴く者の存在を前提とするものであることは明らかであるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。なお、この点については、被控訴人が以前に異なる解釈を採っていたことがあったとしても、以上の判断を左右しない。 5 争点5(本件使用料率表による使用料の徴収の可否)について (1) 乙第3号証(被控訴人作成の著作物使用料規程(旧使用料規程))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、仲介業務法3条1項所定の「著作物使用料規程」に当たるものとして、管理著作物に係る「著作物使用料規程」を定めており、昭和59年6月1日から平成9年8月10日までの間の管理著作物の使用料については旧使用料規程が適用されること、旧使用料規程第2章第2節は、演奏等における管理著作物の使用料につき、1「上演形式による演奏」、2「演奏会における演奏」、3「演奏会以外の催物における演奏」、4「社交場における演奏等」、5「ビデオグラムの上映」に区分して定めるものであること、上記第2章第2節3「演奏会以外の催物における演奏」は、さらに(1)「レビューショー、ファッションショー、サーカス、舞踏会、アイススケートショー、フィギュアスケート、シンクロナイズド・スイミング、体操競技等舞踊、演技、衣裳が重要な要素となる催物における演奏」、(2)「演劇、漫才、奇術、演芸その他の芸能の催物における演奏」、(3)「楽器店、レコード店、百貨店、スーパーマーケット等での宣伝のための催物における演奏」、(4)「博覧会、展示会、動物園、遊園地その他これらに準ずる施設での催物における演奏」、(5)「野球、競馬、アメリカンフットボール、バスケットボール、サッカー、テニス等各種のスポーツの催物における演奏」、(6)「航空機、鉄道、自動車、船舶等各種の交通機関における演奏」、(7)「その他の演奏」に区分されること、上記第2章第2節4「社交場における演奏等」の規定は、「社交場における演奏等」の意義につき、「キャバレー、バー、スナック、音楽喫茶店、ダンスホール、旅館その他設備を設け客に飲食又はダンスをさせる営業を行う施設(以下「社交場」という。)において、当該営業とともに著作物を演奏又は上映する(ビデオグラムの上映に限る。以下「演奏等」という。)場合」と定めていること、以上の事実が認められる。 そして、旧使用料規程の上記各規定と、上記2の認定に係る本件店舗におけるカラオケボックスの営業の実態にかんがみれば、カラオケボックスにおける管理著作物の使用(伴奏音楽の再生及びこれに合わせた歌唱)は、旧使用料規程の適用においては、第2章第2節の3「演奏会以外の催物における演奏」に属するものであり、かつ、そのうちの上記(1)から(6)までのいずれにも該当しないから、上記(7)「その他の演奏」に当たるものと解すべきである。 控訴人らは、「催物」とは、ある特定の目的のために人を集めて行う行事、興行などいわゆるイベントを意味するから、カラオケボックスにおけるカラオケ伴奏による歌唱は「催物における演奏」に当たらないと主張するが、第2章第2節の3「演奏会以外の催物における演奏」中に、(6)「航空機、鉄道、自動車、船舶等各種の交通機関における演奏」が含まれているのであるから、旧使用料規程上、「演奏会以外の催物」が行事、興行などいわゆるイベントに限定されず、複数の人が参集する機会というような広い概念で用いられていることが明らかであり、また、「催物」の語の概念上、そのように解することが不自然であるとすることもできない。したがって、上記主張は採用することができない。 さらに、控訴人らは、カラオケボックスにおける管理著作物の利用が、客に飲食させる営業を行う施設において、当該営業とともに著作物を演奏等する場合に当たるものとして、第2章第2節「演奏等」の4「社交場における演奏等」の規定に該当すると主張する。しかしながら、旧使用料規程上、「キャバレー、バー、スナック、音楽喫茶店、ダンスホール、旅館」が「社交場」の例示として列挙されていること及びそれらが「社交場」と総称されることにかんがみて、その「社交場」とは、客が飲食又はダンスをして社交を行うために参集する場所であり、その場所で行われる伴奏音楽の再生及びこれに合わせた歌唱、その他の管理著作物の演奏等は、その社交が円滑、かつ、効果的に行われるための雰囲気を醸成する副次的な効果を有するにすぎないものと解されるのに対し、上記2の認定に係る本件店舗におけるカラオケボックスの営業の実態にかんがみて、カラオケボックスは、客がカラオケ装置によって伴奏音楽を再生し、これに合わせて歌唱することを主な目的として参集する場所であると解され、したがって、その場所でされる伴奏音楽の再生及びこれに合わせた歌唱は、その有する意義ないし効果の点において、上記「社交場」におけるものと明確な差異があるものというべきである。そうすると、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に関し上記4で認定したように、カラオケボックスにおいて一般に飲食物の提供がされ、それゆえに、カラオケボックスの営業が、旧施行令附則3条1号の「客に飲食をさせる営業」に該当するとしても、旧使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「社交場における演奏等」の規定する「社交場」の営業には当たらないものと解すべきであるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。 (2) 前掲乙第3号証によれば、旧使用料規程第2章第2節の3「演奏会以外の催物における演奏」のうちの(7)「その他の演奏」は、「本規定の(1)から(6)以外の演奏の場合は、本規定の(1)の規定の範囲内において、使用状況等を参酌して使用料を決定する。」と規定していることが認められるところ、当該規定の内容に、乙第9号証(文化庁長官官房著作権課長の当庁第18民事部裁判所書記官宛て「調査嘱託書について(回答)」と題する書面)の記載を併せ考えれば、上記(7)「その他の演奏」の規定は、近時の著作物利用手段の開発及びその普及が急激であることを背景として、管理著作物についての新しい利用方法が出現した際、著作権がこれに及ぶにもかかわらず使用料の徴収ができないという事態が生ずることを避けるため、著作物使用料規程に直接の規定がない利用方法であっても、被控訴人において一定の範囲内で管理著作物の具体的な利用状況等に応じた合理的な使用料額を決定し、使用料を徴収し得るように手当てしたものであることが認められる。そして、このような規定を設ける上記のような必要性があることは明らかであるし、また、この規定によって被控訴人が定め得る著作物使用料額につき、規定自体に、(1)「レビューショー、ファッションショー、サーカス、舞踏会、アイススケートショー、フィギュアスケート、シンクロナイズド・スイミング、体操競技等舞踊、演技、衣裳が重要な要素となる催物における演奏」に係る使用料額の範囲内との制約があり、さらに、解釈上、合理的な範囲内であることを必要とするものと解されることを併せ考えれば、上記(7)「その他の演奏」についての規定が、仲介業務法3条に反するものということはできない。 (3) 前掲乙第3号証、甲第15号証(大阪地方裁判所平成10年(ワ)第9409号・11624号事件における証人D尋問調書)、乙第4号証(被控訴人作成の「カラオケ歌唱室の使用料率表(年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合)」と題する書面)、乙第5号証(被控訴人作成の著作物使用料規程(新使用料規程))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、カラオケボックス等カラオケ歌唱室における管理著作物の使用について、平成元年4月1日、旧使用料規程第2章第2節の3「演奏会以外の催物における演奏」のうちの(7)「その他の演奏」の規定に基づく使用料額の定めとして本件使用料率表を作成し、以後、本件使用料率表に基づいた使用料額により、多数のカラオケボックスとの間で管理著作物の使用許諾契約を締結し、その使用料を徴収していたこと、本件使用料率表に係る使用料額は、第2章第2節の3の(1)の規定による使用料額の範囲内であり、カラオケボックスにおける管理著作物の具体的な使用状況や、営業等に占める著作物利用の重要性、著作物が聴衆、観衆に与える効果等を参酌し、当時カラオケボックスを大規模に経営していた株式会社第一興商と協議を重ねた上、第2章第2節の4「社交場における演奏等」とおおむね同程度と定めたものであること、平成9年8月11日に一部変更認可され、同日施行された新使用料規程には、第2章第2節「演奏等」のうちに、3「演奏会以外の催物における演奏」や5「社交場における演奏等」と並んで、4「カラオケ施設における演奏等」の規定が設けられ、カラオケボックスにおける管理著作物の使用に係る使用料額は同規定の定めるところによるものとされたところ、その定めによる使用料額(年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合)は、本件使用料率表に基づく金額と同一であることが認められる。 上記各事実に照らすと、本件使用料率表所定の管理著作物に係る使用料額は、平成元年4月1日に旧使用料規程第2章第2節の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演奏」の規定に基づくものとして、その規定に従って定められたものであって、かつ、合理的な範囲内の使用料額であると認められるから、同規定に基づき有効に定められたものと解される。したがって、被控訴人は、同日から平成9年8月10日までの間、カラオケボックスにおける管理著作物の使用について、本件使用料率表によって算出される金額の使用料を徴収できる本件使用料率表に基づく金額の使用料を徴収できるものというべきである。 6 争点6(通信カラオケの使用料)について 前掲乙第3、第4号証及び弁論の全趣旨によれば、本件使用料率表は、カラオケボックス等のカラオケ歌唱室における管理著作物の使用を、「オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する場合を含む。)」と「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」の2種類とし、各種類ごとに定員による区分に応じて、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合の使用料額を定めるものであること、使用料額は、定員による区分が同じである場合には、「ビデオカラオケによる歌唱」の方が「オーディオカラオケによる歌唱」よりも高額であること、旧使用料規程は、第2章第9節「ビデオグラム」の規定中に、「ビデオグラム」につき、「ビデオテープ、ビデオディスクなどに影像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう」と定めていること、いわゆる通信カラオケは、伴奏音楽及び歌詞影像とともに動画影像を再生するものであることが認められる。 そして、上記事実にかんがみれば、本件使用料率表の「ビデオカラオケ」には、通信カラオケが含まれると解するのが相当である。すなわち、上記5の認定判断に係る本件使用料率表制定の経緯及び趣旨にかんがみて、本件使用料率表は、カラオケボックス等のカラオケ歌唱室において管理著作物の使用がされる場合全般についての使用料額の定めであることは明白であり、また、上記使用料額の規定の仕方から見て、カラオケ歌唱室において管理著作物の使用がされる場合を、その再生の形態により「オーディオカラオケによる歌唱」と「ビデオカラオケによる歌唱」とに区分したものと解されるところ、前者に「静止画を同時に再生する場合」を含ましめ、後者を「ビデオグラムの上映を伴う場合」とした上、後者の使用料額を前者よりも高額としたことからすれば、その区分の規準が、伴奏音楽及び歌詞影像とともに、連続して再生される影像、すなわち、動画影像の再生を伴うか否かにあり、その区分の理由が動画影像の再生を伴う場合の使用料額を、これを伴わない場合よりも高額とすることにあることは明らかである。そして、上記5のとおり、本件使用料率表に係る使用料額は、著作物の具体的な使用状況、営業等に占める著作物利用の重要性、著作物が聴衆、観衆に与える効果等を参酌して決定されたものであるところ、伴奏音楽及び歌詞影像とともに動画影像を再生するものが、動画影像を再生しないものと比べ、顧客誘因力がより強いことは明らかであるから、このような区分及びその区分に応じて使用料額に差異を設けることは合理的であるということができる。そうすると、本件使用料率表の「オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する場合を含む。)」に対する「ビデオカラオケによる歌唱(ビデオグラムの上映を伴う場合)」とは、影像の再生を伴わず、又は静止画像の再生を伴うカラオケ装置による場合と対比して、伴奏音楽及び歌詞影像とともに動画影像の再生を伴うカラオケ装置による場合を「ビデオグラムの上映を伴う場合」と表現したものと解することができ、通信カラオケが、形式的には旧使用料規程第2章第9節所定の「ビデオグラム」に含まれないとしても、伴奏音楽及び歌詞影像とともに動画影像を再生するものである以上、それは本件使用料率表の「ビデオカラオケ」含まれるものと解すべきである。 7 争点7(本件店舗における室区分等) 本件店舗における室区分等については、平成5年12月1日以降、定員が10名を超え30名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(本判決添付別表2の1表及び2表の「ビ2」)が3室であったか(被控訴人の主張)、それが1室であり、被控訴人主張の3室のうちその余の2室は定員が10名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(同各表の「ビ1」)であったか(控訴人らの主張)という点においてのみ争いがある。 この点につき、前掲乙ち第1号証(カラオケ歌唱室実態調査報告書)には、平成10年3月7日当時、本件店舗内に、座席数が10席を超える歌唱室として、14席の歌唱室が2室、20席の歌唱室が1室あった旨の記載があるが、同報告書には、本件店舗につき定員が10名を超える歌唱室としては20名の歌唱室のみが記載されている料金表も添付されており、このことに照らすと、本件店舗に座席数14席の歌唱室が2室あった旨の上記記載は直ちに採用することはできず、他に上記被控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件店舗における室区分等のうち上記争いのある部分については、定員が10名を超え30名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(ビ2)が1室、定員が10名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(ビ1)が2室あった旨の控訴人ら主張を採用すべきであり、これに伴い、定員が10名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(ビ1)は当事者間に争いのない7室を含め合計9室となる。 8 争点8(有限会社法30条の3第1項の適用の有無)について 本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aであったこと、控訴人会社は、個人経営に代わる本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体として設立されたものであり、控訴人Aは、会社経営期間中、継続して控訴人会社の代表取締役であったことは、上記1の(1)のとおりである。また、これらの事実に弁論の全趣旨を併せ考えれば、本件店舗におけるカラオケボックスの営業が控訴人会社の中心事業であったこと、本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aから控訴人会社に移っても、その営業の態様に特段の変化はなかったことが認められる。 そして、上記のとおり、本件店舗におけるカラオケボックスの営業が控訴人会社の中心事業であり、かつ、カラオケボックスの性質上、同営業が管理著作物の使用を不可欠とする事情にかんがみれば、控訴人Aは控訴人会社の代表取締役として、控訴人会社に対し、控訴人会社が、管理著作物を使用するに当たって、関係法令を遵守し、被控訴人の管理著作権を侵害することのないようにすべき職務上の注意義務を負うものというべきである。ところが、控訴人会社は、会社経営期間中、被控訴人の使用許諾を取得しないまま本件店舗におけるカラオケボックスの営業のために管理著作物の使用を続けたものであり、そのことが被控訴人の管理著作権の侵害に当たることは、既に認定説示したところから明らかであるところ、本件訴訟の経緯に照らし、上記管理著作権の侵害行為については、使用許諾の要否につき独自の見解に依拠、固執したという以外の理由によるものであることはうかがわれない。そうであれば、控訴人会社が被控訴人の使用許諾を取得しないまま本件店舗におけるカラオケボックスの営業のために管理著作物の使用を続けて、被控訴人の管理著作権を侵害したことに対し、控訴人Aは、控訴人会社の代表取締役として、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失による任務懈怠の責めを負うべきものであり、かつ、有限会社法30条の3第1項に基づき、被控訴人に対し、控訴人会社の管理著作権侵害によって生じた損害を、控訴人会社と連帯して賠償すべき義務を負うものといわざるを得ない。 なお、控訴人らは、控訴人会社の実質的な経営に当たっていたのは訴外Bであり、控訴人Aは控訴人会社の名目上の代表取締役にとどまる旨主張し、前掲甲ち第3〜第5号証には、控訴人Aは、名目的、形式的に控訴人会社の代表取締役に就任したにすぎず、控訴人会社による本件店舗におけるカラオケボックスの営業は、控訴人会社の取締役である訴外Bが一切取り仕切っていた旨の上記主張に沿う記載がある。しかしながら、上記のとおり、本件店舗における個人経営期間中のカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aであったこと、控訴人会社は、個人経営に代わる本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体として設立されたものであること、本件店舗におけるカラオケボックスの営業の主体が控訴人Aから控訴人会社に移っても、その営業の態様に特段の変化はなかったことに照らせば、上記1の(1)で認定したように、いずれも訴外Bの名義で、本件店舗におけるカラオケボックスの営業のために、平成6年11月16日に駐車場用地の賃貸借契約がされ、また、同年5月31日にゲーム機の設置契約がされた事実があるにしても、本件店舗におけるカラオケボックスの営業に関し、訴外Bに委ねられた業務及びこれに伴う限度においての同営業に関する意思決定の範囲が、個人経営期間中と顕著に変化したものとは認められないから、前掲甲ち第3〜第5号証中の上記各記載部分は、直ちに採用することができず、他に、上記控訴人らの主張を認めるに足りる証拠はない。のみならず、そもそも、控訴人Aは、控訴人会社の代表取締役に就任したことに基づいて、上記のとおり、控訴人会社に対し、控訴人会社が、管理著作物を使用するに当たって、関係法令を遵守し、被控訴人の管理著作権を侵害することのないようにすべき職務上の注意義務を負うものである。そうすると、仮に、前掲甲ち第3〜第5号証の記載のように、控訴人Aが、控訴人会社の中心事業である本件店舗におけるカラオケボックスの営業に無関心であったとすれば、そのこと自体、控訴人会社の管理著作権侵害行為を招いた重大な要因であり、代表取締役としての職務を行うにつき悪意又は重大な過失による任務懈怠というべきである。したがって、いずれにしても、控訴人らの上記主張は採用できない。 9 本件認容額 (1) 以上によれば、控訴人会社は、会社経営期間中、本件店舗の各歌唱室における伴奏音楽の再生及び歌唱による管理著作物の利用の主体となって、故意又は過失により被控訴人の管理著作権を侵害したというべきであるから、被控訴人は、控訴人会社に対し、民法709条、著作権法114条2項に基づき、使用料相当額(遅延損害金を含む。)による損害賠償請求権を有しているところ、本件反訴提起の日より3年以上前(平成7年9月16日以前)の損害賠償請求権については時効消滅していることが明らかであり、控訴人らはこの消滅時効を援用する。しかしながら、控訴人会社は、管理著作権の侵害により、法律上の原因なくして管理著作物の使用料相当額の利益を受け、かつ、そのことについて悪意の受益者に当たるものというべきであり、他方、被控訴人はこれにより同額の損失を被ったものであるから、平成7年9月16日以前の管理著作物の使用につき、被控訴人は、控訴人会社に対し、民法703条、704条に基づき、使用料相当額(利息を含む。)の不当利得返還請求権を有するというべきである。 また、控訴人Aは、個人経営期間中、本件店舗の各歌唱室における伴奏音楽の再生及び歌唱による管理著作物の利用の主体となって、管理著作権を侵害したことにより、法律上の原因なくして管理著作物の使用料相当額の利益を受け、かつ、そのことについて悪意の受益者に当たるものというべきであり、他方、被控訴人はこれにより同額の損失を被ったものであるから、個人経営期間中の管理著作物の使用につき、被控訴人は、控訴人Aに対し、民法703条、704条に基づき、使用料相当額(利息を含む。)の不当利得返還請求権を有する。 さらに、被控訴人は、控訴人Aに対し、有限会社法30条の3第1項に基づき、会社経営期間中に被控訴人が被った使用料相当額(遅延損害金を含む。)による損害賠償請求権(控訴人会社と連帯)を有するところ、被控訴人Aは、同請求権につき、3年の消滅時効を援用するが、不法行為による損害賠償請求権ではないから(最高裁昭和49年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2059頁参照)、上記消滅時効の主張は理由がない。 (2) 上記(1)の各場合において、使用料相当額は、平成9年8月10日以前は本件使用料率表に基づき、同月11日以降は新使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」の規定により算出されるべきものであるところ、前掲乙第4号証によれば、本件使用料率表に基づく月額使用料は、定員が10名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(本判決添付別表2の「ビ1」)が4000円、定員が10名を超え30名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(同「ビ2」)が8000円、定員が3名までで面積が6u未満のビデオカラオケを使用する歌唱室(同「ビ特」)が3200円であることが、また、前掲乙第5号証によれば、新使用料規程第2章第2節「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」の規定に基づく月額使用料(カラオケ施設の利用料金の区分に応じて設定されているもののうち、当該利用料金が最低である区分に対応するもの)は、定員が10名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(同「ビ1」、「ビ特」)が9000円、定員が10名を超え30名までのビデオカラオケを使用する歌唱室(同「ビ2」)が1万8000円であることが認められる。 そして、本件店舗における室区分等につき本判決添付別表2の2表(控訴人ら主張の室区分等)に従い、上記月額使用料に基づいて算出した個人経営期間中の使用料相当額(消費税相当額を加算した額)は、本判決添付別表3の1表(個人経営期間中の使用料相当額)のとおり合計101万1350円、会社経営期間中の使用料相当額(消費税相当額を加算した額)は、同別表の2表(会社経営期間中の使用料相当額)のとおり合計402万4100円である。 (3) 上記使用料相当額に対する平成12年8月31日までの確定遅延損害金又は確定利息の額につき、被控訴人の算出方法に従い、各月ごとに算出した当該月に係る使用料相当額に対する翌月1日から平成12年8月31日まで民法所定年5分の割合による金員を、個人経営期間及び会社経営期間のそれぞれにつき合算して、これを算出すると、個人経営期間中の使用料相当額に対する確定利息額は、本判決別表4の1表(個人経営期間中の使用料相当額に対する確定利息額算出表)のとおり合計43万4038円であり、会社経営期間中の使用料相当額に対する確定遅延損害金又は確定利息額は、同別表の2表(会社経営期間中の使用料相当額に対する確定利息額等算出表)のとおり合計88万4521円である。 (4) 会社経営期間中の控訴人会社による上記著作権侵害行為と相当因果関係のある損害として控訴人らが負担すべき弁護士費用の額は、25万円とすることが相当である。 (5) 以上によれば、被控訴人において、個人経営期間中の管理著作物の使用につき、不当利得として控訴人Aに対し支払を求め得る額は144万5388円(使用料相当額101万1350円及び平成12年8月31日までの確定利息43万4038円の合計)及び内金101万1350円(使用料相当額)に対する平成12年9月1日から支払済みまで年5分の割合による利息であり、また、会社経営期間中の管理著作物の使用につき、不法行為又は不当利得として控訴人らに対し連帯支払を求め得る額は515万8621円(使用料相当額402万4100円、平成12年8月31日までの確定利息88万4521円及び弁護士費用25万円の合計)及び内金427万4100円(使用料相当額402万4100円及び弁護士費用25万円の合計)に対する平成12年9月1日から支払済みまで前同様の割合による遅延損害金又は利息であるから、被控訴人の反訴請求は上記の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 (6) そうすると、原判決主文第三項において、控訴人Aに対し、個人経営期間中の管理著作物の使用について被控訴人に対する支払を命じた額は、上記反訴請求につき理由がある限度に満たないが、当該部分に対して控訴人Aのみが不服を申し立てている本件においては、民事訴訟法304条に則り、当該部分について原判決を変更することができず、結局、控訴人Aの本件控訴は理由がない。 しかし、原判決主文第五項において、控訴人らに対し、会社経営期間中の管理著作物の使用について被控訴人に対する連帯支払を命じた額は、上記反訴請求につき理由がある限度を超えており、当該部分についての控訴人らの本件控訴は理由があるから、原判決主文第五項を変更し、被控訴人の反訴請求を上記限度において認容し、その余を棄却すべきである。 10 よって、原判決主文第三項に係る控訴人Aの本件控訴を棄却し、原判決主文第五項を上記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条、65条1項本文、67条2項を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利 別表1 省略 別表2 別表3 別表4 |
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