判例全文 line
line
【事件名】ビジネスソフトの著作物性事件
【年月日】平成13年6月13日
 東京地裁 平成13年(ヨ)第22014号 著作権仮処分申立事件

決定
債権者 サイボウズ株式会社
代表者代表取締役 高須賀宣
代理人弁護士 小川義龍
同 平出晋一
債務者 株式会社ネオジャパン
代表者代表取締役 齋藤章浩
代理人弁護士 藤井正夫
同 原田肇
同 飯田和宏


主文
一 債務者は、別紙物件目録一記載のプログラムをフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体に格納し、有線ないし無線通信装置等によって送信又は送信可能の状態においてはならない。
二 債務者は、前記目録一記載のプログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体を頒布してはならない。
三 債務者は、前記目録一記載のプログラムの使用許諾をしてはならない。
四 債権者のその余の申立てを却下する。
五 申立費用は債権者の負担とする。

理由
第一 申立の趣旨
一 債務者は、別紙物件目録一及び二記載のプログラムをフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体に格納し、有線ないし無線通信装置等によって送信又は送信可能の状態においてはならない。
二 債務者は、前記目録一及び二記載のプログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体を頒布してはならない。
三 債務者は、前記目録一及び二記載のプログラムの使用許諾をしてはならない。
第二 事案の概要
 本件は、コンピューターソフトウエアの開発、販売、保守等を業とする債権者が、同じくコンピューターソフトウエアの開発、販売等を業とする債務者に対し、債務者が開発・販売するビジネスソフトウェア「i office 2000 バージョン2.43」(別紙物件目録一記載)及び「同バージョン3.0」(同二記載。以下、これらを、それぞれ「アイオフィス2.43」「アイオフィス3.0」といい、これらを併せて「債務者ソフト」という。)は、債権者が開発・販売する同種商品「サイボウズ office2.0」(以下、単に「サイボウズオフィス」あるいは「債権者ソフト」という。)のプログラム及びユーザー・インターフェイスを複製ないし改変した商品であり、債務者がアイオフィス2.43及び3.0を記憶媒体に格納したりする行為は、債権者がサイボウズオフィスに関して有する著作権を侵害する行為にあたるとして、前記第一記載のとおりの裁判を求めた仮処分申立事件である。
第三 当事者の主張
一 債権者の主張(詳細は、平成一三年一月三〇日付け差止仮処分命令申立書、同年二月二〇日付け申立補充書、同年三月二一日付け債権者主張書面及び同年五月一四日付け債権者主張書面(2)のとおりであるから、これらを引用する。)
(1) 債権者ソフト「サイボウズオフィス」及び債務者ソフト「アイオフィス」シリーズは、いずれも、グループウェアと呼ばれるスケジュール、アドレス帳、施設管理などのアプリケーションの集合体であり、各アプリケーションを構成する表示画面、入力画面及び設定画面等がコンピューター上のディスプレイに表示されるところ、これらアプリケーションの大半は客観的に表現しなければならない部分が多く、例えば、スケジュールの週表示であれば、週の表示を縦にとるか横にとるか程度の違いが出せるにすぎないから、創作性を発揮できる余地は限定されるようにも思える。また、これらソフトの表示画面のようないわゆるマン・インターフェイスは入力項目が限定されるため、それ自体創作性の幅が狭いとの見方もあり得る。
 しかしながら、仮に客観的表現をしなければならない部分が多くても、素材の取捨選択、配列及び表示方法等によって、ユーザーの使い勝手に大きな差異が生じるのであり、その点に創作性を見出すことができる。グループウェアで必然的な部分と言えば、スケジュール画面にカレンダー表示を用いるとか、アドレス画面に表組み形式を使うとかいった程度にとどまるのであり、それ以上に、カレンダー表示をいかに形作って見やすくするかとか、他画面とのつながりを考えて素材をいかに取捨選択・配置するかという点については選択肢が無数に存在し、創作性なしには語れない。また、グループウェアにおいては、グループそのものの情報と各構成員の情報とを、同画面または別画面で分かり易く表示しなければならないから、単なる個人情報を表示する場合に比べて格段に複雑となり、創作性の幅が広がる。さらに、本件のようなソフトウェアの画面の場合には、紙媒体上の情報と異なり、ある表示画面から他の表示画面や入力画面ないし設定画面に移動するための機能表示が付加されており、これらの機能を一画面で実現するのか、幾つかの画面で分割するのかだけでも、画面設計に相当な選択の幅が生じる。
 以上からすると、本件で問題となっているグループウェアにつき、客観的・機能的に表現する部分が多いから、あるいは、個々の画面の表示方法につき比較的限定される部分が多いからという理由だけで、その創作性を否定することは、グループウェアの設計等の実態に基づかない誤った議論というべきである。
(2) 債権者ソフトは、@パソコンモニターの限られた画面上における一覧性を追求するため、一画面あたりのコンテンツを絞り、一画面に入らないものは階層化して別画面にする、Aキーボード操作に不慣れな者を含むグループ構成員多数が使用することを前提に、マウス操作をキーボード操作に優先させる、B一画面のファイルサイズが大きくなると画面表示が遅くなり、グループウェアとしての機動性を損なうので、一画面のファイルサイズをできるだけ小さくするなどの基本的な設計思想に基づき、アプリケーションごとの移動を唯一つかさどるトップページを頂点とし、各アプリケーションにおいては、各画面が、情報の表示、情報の入力及び設定という各機能のいずれかに分類されることを原則として、サイトマップ(〈証拠略〉)に表われた階層化構造の下、各画面が機能的に配置されている。
 「サイボウズ・オフィス」の各画面は、一見するとありふれた画面構成をとったり、シンプルなボタンや枠組みを単純に選択・配置したりしただけのように見えるが、多くのグループウェアが同一画面で表示しているものを、あえて一機能に一画面を与えて分割表示する構成をとり、かつ、各画面においても、情報が一覧でき、かつ、直感的に把握できるよう留意しつつ、表示等のシンプルさを損なわないように、素材の取捨選択や配置等につき、ぎりぎりの練り込まれた表現方法をとっている。したがって、各画面自体及びサイトマップによって階層化された各画面の集合体が、全体として一貫した高度の創作性を持っているということができる。すなわち、債権者が主張しているのは、単に各画面ごとに著作物性が存するということではなく、ましてや、サイトマップに見られる階層構造自体に著作物性があるということでもない。具体的な著作物性を有する各画面が、全体として、一貫したコンセプトに基づき具体的階層構造を持って相互に牽連しているから、各画面の集合体としての債権者ソフトの全画面にも著作物性が存するという、いわば二重の著作物性を主張しているのである。
(3) なお、債務者は、本件で問題になっているビジネスソフト、とりわけウェブグループウェアにおいては、ユーザーから見た使い勝手の良し悪し、すなわち機能がほとんど全てであり、各社とも機能を追及する関係上、各ソフトのユーザーインターフェイスは類似のものに収斂するから、そこに創作性を認めることはできない旨主張するかのようであるが、この議論は誤りである。
 ウェプグループウェアのいずれもが、抽象的なアイデアのレベルにおいて、ブラウザを利用して画面表示されるインターフェイスを持っていたり、スケジュール管理画面を持っていたりするのは当然であるが、その一方で、グループウェアにおいては、ワープロや表計算ソフトと異なり、画面表示に多くの表現パターンが存在する。すなわち、ワープロや表計算ソフトにおいては、シート等と呼ばれる白紙部分が画面の大半を占め、せいぜいメニューバーに小さなアイコンが並ぶ程度の画面表示であるのに対し、グループウェアにおいては、画面の大半が独自にレイアウトされた編集によって構成される。そのレイアウト自体は、表組みやボタン・語句の選択及び配置の問題であり、例えば、表組みのアイデア自体はカレンダーというありふれたものであったりするが、そのカレンダーの中に、新規入力しやすいようにリンクが配置されたり、角に移動ボタンやトップぺージへの回帰リンクが配置されたりし、さまざまな表現要素の集合体として、債権者ソフトのカレンダー表示画面が成り立っている。しかも、そのカレンダー表示画面には、必ず設定画面に移動するためのリンクが設けられるなど、それぞれの画面が相互に牽連して編集・創作されている。
 よって、これら具体的な選択やアイデアが表現された個々の画面表示が創作性を持つに至るのである。
二 債務者の主張(詳細は、平成一三年二月一五日付け答弁書、同年三月一六日付け第一主張書面及び同年五月七日付け第二主張書面のとおりであるから、これらを引用する。)
(1) ビジネスソフトにおいては、その機能の良否が全てと言ってよく、画面表示の簡便さと操作性の向上が重要である一方で、表示については、作成ツールによって同様の形態のものが容易に作成できるから、例えば独自作成のイメージデータを埋め込むような表示でない限り、創作性は認められない。
 ことに本件のようなグループウェアにおける画面表示(いわゆるユーザーインターフェイス)においては、ブラウザの種類やバージョンにかかわらず、いかなる環境からでも閲覧できるように標準化して作成する必要があり、これらの物理的制約の中で、ユーザーがいかに効率的・直感的にその機能を利用できるかを工夫しなければならない。したがって、それ自体は、技術に属するアイデアそのものというべきもので、「表現」と言えるのは、各表示画面の文字・図柄やその具体的な配置・彩色等、ごく限られたものにとどまると解すべきである。
 プログラムのような技術の分野においては、技術の進歩に伴って創作物が効率性の高い方向に収斂する傾向があり、また、技術は積み重ねにより発展する要素が強いから、安易に創作性を認めて五〇年間という長期の排他性を認めることは技術の進歩を妨げることになる。このことからも、前記のような限定的な解釈が妥当というべきである。
(2) 債権者は、債権者ソフトにつき、@一覧性を保つために一画面あたりのコンテンツを絞り、階層化によって操作性が向上する体系にする、Aトップ階層から二階層程度までに全ての情報検索ができるようにして、検索の迅速性を維持できる体系にする、B一画面の情報量をできるだけ少なくするなどして、一画面ごとのファイルサイズを小さくするなどのコンセプトに基づき、一画面一機能を原則とし、階層化構造を採ったとするが、これらは抽象的な選択方法、配列方法、表示方法に過ぎず、機能的アイデアそのものというべきもので、著作権法による保護の範囲外にある。
 また、債権者は、債権者ソフトの個々の画面に創作性があると主張するが、例えば同ソフトのトップページの画面レイアウトをとってみても、@フレームを利用せず画面を縦に三分類し、上段に「サイボウズ」のロゴを、中段に大きめのメニューアイコンや社名を配置したこと、A機能を感覚的に把握できるようにするため、「行き先案内板」「共有アドレス帳」など、それまでグループウェアに存在しなかった造語を語法として選択したこと、Bメニューアイコンの配置について、「設定」メニューをトップメニューにおいて配置表示したこと、及び、C画面の配色をモノクロ単色としたことなどは、全てウェブ画面上で通常に用いられることであり、何ら創作性を有するものではない。
 債権者が自認するように、サイボウズ・オフィスの各画面は、一見すると、極めてありふれた画面構成を採っていたり、シンプルなボタンや枠組みを単純に配置・選択したりしているだけなのだから、画面表示そのものを素直に検討すれば、各画面に「思想又は感情を創作的に表現したもの」が表われているとは言えないとの結論になるはずである。「一定の設計思想の下で、各画面自体ないしサイトマップによって階層化された各画面の集合体が、全体として一貫した高度の創作性を持っている」旨の債権者の主張は、著作権の問題と別個のアイデアの問題を持ち出し、両者を混同させようとするものに他ならない。
(3) 債権者は、債権者ソフトの各画面が具体的階層構造(サイトマップ)を持って相互に牽連していることから、各画面の集合体としての債権者ソフトの全画面配置にも著作物性がある旨主張する。
 しかしながら、サイトマップは、プログラム設計に際しての基本設計部分であって、プログラム製品が一般に有するプログラム構成、処理の流れ及び構造を記載したものに他ならず、著作権法一〇条三項三号の「解法」か、あるいは、それより上流工程にある基本設計のアイデアに過ぎない。したがって、著作権法の保護が及ぶものではない。仮に「解法」と言えなくても、債権者が創作性の根拠として主張する諸点は、単なる機能的アイデアか、従前から存在した極めてありふれたものにすぎないから、創作性を認め得る余地はない。百歩譲って、創作性を認め得たとしても、単に著作者の個性が表れているだけで、誰が行っても同じになるであろうと言えるほどにありふれてはいないと言える程度の創作性しかない場合には、保護の範囲は狭くなり、時にはいわゆるデッドコピーを許さないという程度の保護にとどまると解すべきである。債権者ソフトについても、このように限定的な範囲での保護しか認められないと言うべきである。
第四 当裁判所の判断
一 債権者ソフトの著作物性について
 一般に、本件で問題になっているウェブグループウェアと呼ばれるビジネスソフトウェアにおいても、その各画面の表示に創作性を認め得る場合のあること自体は否定されないと考えられる。たとえ、グローバル環境で利用できるものでなければならないとか、機能を追及するゆえに似たような表示に収斂する傾向があるとかの事情があるにしても、それらはいわば事実上の制約であり、そのような制約の中で、表現者の個性が著作権法上の保護に値する程度に表現されているならば、創作性を肯定すること自体に妨げはなく、この点、他の表現行為と別異に解すべき理由はないからである。ただ、各画面の表示のみを問題にする場合には、前記のような制約は表現行為の幅を狭くする方向に働くと考えられるから、限定的な範囲での創作性しか認め得ない場合が多く、その結果、いわゆるデッドコピーを許さない程度の保護しか与えられない場合もあると考えられる。その限りにおいて、債務者の主張にも全く理由がないわけではない。
 しかしながら、本件においては、単なる各画面表示の創作性のみが問題になっているのではない。すなわち、債権者ソフトの各画面がそれぞれ別個に表示されるのは当然の前提として、これら各画面は、個々に分断された表現行為として、何の脈絡もなく順不同にユーザーの眼前に表れてくるのではない。当該画面がユーザーの前に表れ出たまさにその順序や画面配列に基づいて、かつ、当該画面から別画面へと枝分かれするリンク機能等の表示を持って、ユーザーの眼前に表れ出てくるのであるから、表現者が意図した選択・配列に基づく相互に牽連性を持った表現行為として、表現者の個性が表れている限り、そこに創作性を認めることも可能というべきである。そのことは、いわゆる編集著作物に著作物性が認められる場合があるのと同様であると説明することもできるし、例えば、ある文章が、ところどころ図形や図表を引用したり、下線や枠付けで視覚的に強調されたり、脚注が設けられたりしつつ、文章全体として、表現者の個性が表れた配列や構成を保ち、表現者が意図した順序に基づいて表現され、その結果、創作性を認め得る場合があるのと同様であると説明することもできる。そこで保護の対象となるのは、言うまでもなく、「図形や図表を引用した」とか、「下線や枠付けで視覚的に強調された」とかいう表現に関するアイデアそのものではなく、そのようなアイデアに基づいて表現された結果そのものであるから、同様の理に基づき、債権者ソフトの創作性を肯定したとしても、それが、機能的アイデアや抽象的な選択・配列そのものを保護することになるものではない。この点に関する債務者の前記主張は、採用することができない(なお、債務者は、前記第三の二(3)記載のとおり、債権者ソフトの具体的階層化構造(サイトマップ)は、著作権法一〇条三項三号の「解法」にあたると主張するが、本件においては、そもそも、プログラミング著作権が問題になっているのではないし、債権者は、サイトマップ自体に創作性を認め得る根拠があると主張しているわけではなく、債権者ソフトにおける各画面の牽連性等を図式に表したものとしてサイトマップを引用しているのであるから、前記主張は失当と言うべきである。)。
 以上からすると、債権者が主張するように、債権者ソフトの個々の画面表示に全て創作性が備わっており、そのことを前提に、ソフト全体にも創作性が備わっているとまで言えるかどうかは別にして、少なくとも、表現者の個性が表れた選択・配列方法の下、一定の創作性を認める余地のある態様で個々の表現行為(本件においてはソフトの各画面表示)がなされていれば、全体として一個の著作物性を肯定できる場合があると言うべきである。
 本件においても、債権者ソフトは、検索の迅速性を維持するため、無用の階層化をせず、基本的にアプリケーションのトップ階層から二階層程度までに全ての情報(画面表示)をおさめるとともに、どの階層からも必ずトップページに戻れるようにするとか、画面の機能を直感的に把握することを容易にするため、例えばタブ利用による一画面多機能設定の方法を避け、一機能に必ず一画面を与えるとか、誰が行ってもほとんど同じにならざるを得ないとは言えない程度の個性的な選択・配列方法の下、例えば週間グループ表示のトップページにおいて、ユーザー個人、ユーザーの属するグループ全体及び他のグループ構成員という順序で、上から下へと情報表示欄を配列し、かつ、ユーザー個人の情報表示欄とグループの情報表示欄の間に背景色付きのボーダーを入れ、情報の有用性に応じて視覚的な区別をするとか、週間グループ表示のグループの日表示画面等において、具体的な情報が入力・表示されている部分には時間帯を枠で区切った上で背景に色をつけ、情報のない部分は枠で区切らずに背景を白地のままにしておくとか、あるいは、アドレス一覧の新規アドレスの入力表示画面において、氏名の表示の次に、住所や会社名を持ってくるのではなく、E−mailアドレス、電話番号(Tel)、ファクス番号(Fax)の情報をこの順に並べるとか、独創的とまでは言えないにせよ、誰が行ってもほとんど同じにならざるを得ないとは言えない程度の個性をもって、具体的な画面表示がなされている。したがって、本件における債権者ソフトにも一定の創作性を認めることができ、同ソフトは著作権法上の保護の対象になるというべきである。
二 債権者ソフトと債務者ソフトの対比・検討
 次に、債務者ソフトが債権者ソフトの著作権を侵害しているか否かであるが、その判断にあたっては、@債権者ソフトにおける各画面表示と、それらの画面と同一機能を持つ債務者ソフトの各画面表示をそれぞれ対比して各共通部分や各相違部分を抽出し、Aさらに、これら共通部分を有する各画面がどのような順序や位置づけを持って配置され、全体としてどのような構造を持っているか、その点に関する共通性を抽出した上、債権者ソフトにおける各画面の本質的な特徴が債務者ソフトの各画面において感得できるか、また、債権者ソフト全体における各画面の選択・配置の本質的な特徴が債務者ソフトの全画面の選択・配置において感得できるかを、総合的・全体的に検討すべきと考えられる。牽連性や機能表示まで含めた各画面の創作性を問題にする以上、債権者ソフトの全画面に関する創作性の有無を抽象的に論じて、単に、対応する債務者ソフトの全画面を逐一対比させても、当該牽連性等を持った画面としての創作性を検討したことには必ずしもならないし、逆に、牽連性や階層構造に過度に着目して創作性を論じることも、各画面に個々具体的に表現された画面構成や機能表示等を相対化することになり、それこそ抽象的な画面の選択・配列そのものを保護することになりかねないからである。上記のような判断手法に基づき、次項において債権者ソフトとアイオフィス2.43を、次次項において債権者ソフトとアイオフィス3.0を、それぞれ対比・検討することにする。
三 債権者ソフトとアイオフィス2.4の対比
(1) 各画面表示の対比
 ソフト全体のトップページ(なお、債務者は、債務者ソフトの当該画面につき、厳密には「トップページ」ではない旨主張するが、対比・検討の上で本質的な議論とは言い難いので、この点は捨象する。)においては、画面が概ね上段・中段・下段に三分割され、上段左側に製品名のロゴが、下段にバージョン情報やコピーライト表示などのソフトウェア情報が配置されているほか、中段には各アプリケーションのアイコンが配置されている。債権者ソフト中段に三列に配置されたアイコンは、上段左から「スケジュール」「行き先案内板」「掲示板」「施設予約」「共有アドレス帳」、中段左から「To Doリスト」「プロジェクト管理」「電子会議室」「朝日新聞」「お探し物」、下段左から「ビジネス情報」「設定」である一方で、アイオフィス2.43中段に二列に配置されたアイコンは、上段左から「スケジュール」「伝言・所在」「掲示板」「設備予約」「共有アドレス」「仕事リスト」、下段左から「プロジェクト管理」「電子会議室」「設定」である(なお、他のアプリケーションをもアイコン表示すると、〈証拠略〉のとおり、アイコンが三列に配置されることがうかがわれる。)。以上からすると、債権者ソフト及びアイオフィス2.43の各トップページは、画面全体の大まかな構成、とりわけアプリケーションアイコンの表示が類似・共通するということができるが、その一方で、アイオフィス2.43については、画面上段右側に当日の仕事及び伝言の有無等を表示するボードがあること、画面中段のアイコンは、前記のとおり、二列に配置されていることなどの相違点が存する。
 週間グループ表示のトップページにおいては、ユーザー個人、グループ全体及び他のグループ構成員という順序で、上から下へと三段に情報表示欄が配列され、情報表示欄の左上部分にはグループ名がプルダウンメニューにより表示され、右上部分には「今日」というボタンが、左側に移動機能を示す「▲▲」「▲」ボタン、右側にも同じく「▲」「▲▲」ボタンを配置して、これらとともに表示されているほか、ユーザー個人の情報表示欄とグループの情報表示欄の間に背景色付きのボーダーが入っているなどの共通点がある。その一方で、アイオフィス2.43の前記三段の情報表示欄の上下には、いずれも、「トップページ」に戻るためのボタン、「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」等、さらに詳しい情報表示画面に移動するためのボタン等を配したえんじ系統色のボードが置かれているという相違点がある。
 週間グループ表示のグループの日表示画面においては、やはり、ユーザー個人、グループ全体及び他のグループ構成員という順序で、上から下へと三段に情報表示欄が配列され、三〇分刻みで時間帯の枠が区切られていること、具体的な情報が入力・表示されている部分は時間帯を枠で区切った上でクリーム色に着色され、情報のない部分は枠で区切らずに白地のままであることなどの共通点がある。その一方で、前記週間グループ表示のトップページと同様、アイオフィスの三段の情報表示欄の上下には、いずれも、「トップページ」に戻るボタン、「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」等、さらに詳しい情報表示画面に移動するためのボタン等を配したえんじ系統色のボードが置かれている。
 以上に列挙したような手法に基づき、各画面表示につき順次検討していくと、書証として提出されただけで約三〇に及ぶ画面表示の中には、週間グループ表示のスケジュール入力画面のように、画面に配列された情報入力欄の数自体が大きく異なっていたり、あるいは、アドレス一覧のトップページのように、債権者ソフトにはない検索用の五〇音文字盤を備えた入力部分が画面の相当割合を占めて配置されていたりするため、一見して異なる画面である印象を与えるものも存在するが、その一方で、その他の多くの画面は、上述したとおり、画面の構成やボタン等の配置がまるでコピーしたかのように共通する部分が少なくないばかりか、相違する部分も、アイコンや語句のわずかな違いがあったり、ほぼ同一と言えるほど類似する画面構成上枢要な部分が画面中央に位置する一方で、えんじ系統色、黄土色、緑色あるいは青色に着色された各ボードが、画面中央部分を挟んで上下に配置されたりしているに過ぎないから、一見して実質的に同一の画面であるとの印象を与えるものが多いということができる。
(2) 各画面の配列・相互の牽連性等
 用語の些末な差異を捨象すると、債権者ソフトにおいては、ソフト全体のトップページから、@週間グループ表示、A行き先一覧、B掲示板、C施設の週間予約状況、Dアドレス一覧、ETo Do一覧、F共通設定メニュー及びGパスワードの変更の各画面に階層化し、さらに、@〜Fについては、各アプリケーションの機能に応じてさらに画面が階層化するところ、これらの点は、アイオフィス2.43においても全く同様である。したがって、そもそも、ソフト全体の構成・画面配列が基本的に同一ということができる。ただし、アイオフィス2.43においては、トップページから、前記の各画面のほか、Hヘルプ及びI個人設定の各画面にも階層化するという相違点がある。
 債権者ソフトにおける週間グループ表示のアプリケーション(前記@)においては、同表示のトップページから、「個人月表示」、「グループの日表示」、「個人の日表示」、「ヘルプ」、「スケジュールの確認」、「スケジュールの入力画面」及び「設定」の各画面に階層化し、さらに、「設定」画面については、「一般設定」、「予約の設定」、「祝日の設定」及び「アクセス権の設定」の各画面に階層化して、ソフト全体のトップページから数えて三段階目の階層にまで画面が配列されている。これらの点は、アイオフィス2.43についても全く同様である。ただし、アイオフィス2.43においては、週間グループ表示のトップページから、前記各画面以外にも、「ユーザー情報」、「個人の二週間情報」及び「個人設定」の各画面に階層化する上に、各画面から直接移動できる画面が比較的限られている債権者ソフトと異なり、二段階目の階層にあたる各画面相互の移動が基本的に可能であるとか、三段階目の階層においても、「設定」画面から前記四画面のほかに「場所の設定」画面にも階層化するなどの相違点がある。
 債権者ソフトにおけるアドレス一覧のアプリケーション(前記D)においては、同表示のトップページから、「新規アドレスの入力」、「アドレスのヘルプ」、「検索」、「アドレスの変更」、「表示の設定」及び「設定」の各画面に階層化した上で、「アドレスの変更」画面から「アドレス削除」画面へ、「設定」画面から「CVSファイル形式からの読み込み」(ママ)、「CVSファイル形式からの書き出し」(ママ)、「アクセス権の設定」及び「アドレス項目のカスタマイズ」の各画面へと、それぞれ階層化するところ、これらの基本的構造はアイオフィス2.43においても同様である。ただし、アイオフィス2.43においては、二段階目の階層にあたる各画面のうち、「アドレスのヘルプ」及び「表示の設定」の各画面がない一方で、「グループの一覧」及び「個人設定」の各画面があるという差異がある。また、三段階目の階層を見ても、「設定」画面から「CVSファイル形式からの読み込み」(ママ)及び「CVSファイル形式からの書き出し」(ママ)の各画面に階層化する点は債権者ソフトと共通であるが、「アクセス権の設定」及び「アドレス項目のカスタマイズ」の各画面がない一方で、「一般設定」及び「共有アドレス帳の一括削除」の各画面があるという相違点がある。
 債権者ソフトの共通設定メニューのアプリケーション(前記F)においては、そのトップページから、「ログイン方法の変更」、「会社情報の変更」、「登録キーの設定」、「スタートメニューの設定」、「設定パスワードの登録」、「リンクの設定」、「グループの設定」及び「ユーザーの設定」の合計八画面に階層化し、さらに、前記「リンクの設定」画面から「追加する」「リンクの編集」及び「リンクの削除」の合計三画面に、「グループの設定」から「グループの追加」「グループの編集」「グループの削除」「CVSでのグループインポート」(ママ)及び「CVSでのグループエキスポート」(ママ)の合計五画面に、「ユーザーの設定」から「読み込み」「書き出し」「追加する」「ユーザーの削除」及び「ユーザーの編集」の合計五画面にそれぞれ階層化する。一方、アイオフィス2.43においては、トップページから前記八画面に「ウェブメイルサーバーの設定」を加えた合計九画面に、さらに、そのうち「リンクの設定」からは「追加する」等の前記三画面に、「グループの設定」からは前記五画面のうち「CSVでのグループエキスポート」を除く四画面に、「ユーザーの設定」からは前記五画面のうち「書き出し」を除く合計四画面にそれぞれ階層化する。したがって、各画面の構成・配列が、実質的に同一といってよいほど類似すると評価することができる。
 以上に列挙したような手法に基づき、ソフト全体の画面構成・配列をふまえつつ、各アプリケーションごとに、階層化構造における各画面の配列・リンク機能等の相互関係を検討すると、アイオフィス2.43は、債権者ソフトが備えるアプリケーションに二、三のアプリケーションを付加した関係で、その付加した部分だけサイトマップが変容したり、あるいは、例えば、週間グループ表示のアプリケーションにおいて、債権者ソフトにおける「個人月表示」「グループの日表示」「個人の日表示」の表示画面に加え、さらに、「個人の二週間表示」の画面を付加するなど、より詳しい表示機能が付け加わったと評価できる部分が存在するなどの事情は認められるものの、基本的な構造、すなわち、ソフト全体における各画面の選択・配置は、債権者ソフトとほぼ同一と言える程度に類似するということができる。そのことは、他の複数の同種ソフトと比べてみても、ソフト全体の基本構造や各画面の選択・配置がここまで類似している例は見られないことからも裏付けられると言うべきである。
(3) 結論
 以上を総合すると、アイオフィス2.43においては、債権者ソフトと実質的に同一と言えるほど類似した各画面の配列・牽連性の下、機能的に選択・配置された各画面が、一見すると異なる印象を与える幾つかの各画面表示も含みつつ、全体として類似性を肯定して差し支えない各画面表示をもって表現されているということができる。したがって、このような各画面表示が、このような順序・配列・機能をもってユーザーの眼前に表現された場合、そこからは、債権者ソフトを表現した者の個性が直観・感得されると言うべきであり、アイオフィス2.43は、債権者ソフトを複製したものとまでは言えないにせよ、同ソフトに表現された表現者の基本的な思想・個性を維持しながら、外面的な形式を若干改変して翻案されたものであると認められる。
 そして、債務者が債権者ソフトにアクセスして分析・研究したこと自体は認めていること、債権者と債務者の間に、かつて債権者ソフトとアイオフィス2.43の先行商品であるアイオフィス1.0の類似性を巡り、ユーザー用の「リード・ミー」なる部分はデッド・コピーである旨債権者からの警告があり、債務者がこれを受けて商品(ソフト)の仕様を変更した経緯があったこと、アイオフィス2.43の画面表示プログラムをつかさどるHTMLプログラムの中に、全体の中ではほんの数か所であるにせよ、不自然な一致部分が存在することなどを併せ考えると、アイオフィス2.43が債権者ソフトに依拠した事実が認められると言うべきである。
 そうすると、アイオフィス2.43のプログラムを記録媒体に格納し、送信したりする行為や、その使用を許諾したりする行為は、債権者ソフトに関する債権者の著作権を侵害する行為であると認められる。
四 債権者ソフトとアイオフィス3.0の対比
(1) 各画面表示の対比
 ソフト全体のトップページにおいては、画面が概ね上段・中段・下段に三分割され、上段左側に製品名のロゴが、下段にバージョン情報やコピーライト表示などのソフトウェア情報が配置されているほか、中段には各アプリケーションアイコンが配置されている。債権者ソフト中段に三列に配置されたアイコンは、上段左から「スケジュール」「行き先案内板」「掲示板」「施設予約」「共有アドレス帳」、中段左から「To Doリスト」「プロジェクト管理」「電子会議室」「朝日新聞」「お探し物」、下段左から「ビジネス情報」「設定」である一方で、アイオフィス3.0中段に二列に配置されたアイコンは、上段左から「スケジュール」「伝言・所在」「掲示板」「設備予約」「共有アドレス」「仕事リスト」「プロジェクト管理」、下段左から「電子会議室」「設定」「ヘルプ」である(なお、その他のアプリケーションをもアイコン表示すると、〈証拠略〉のとおり、アイコンが三列に配置されることがうかがわれる。)。以上からすると、債権者ソフト及びアイオフィス3.0の各トップページは、画面全体の大まかな構成、とりわけアプリケーションアイコンの表示が類似・共通するということができるが、その一方で、アイオフィス3.0においては、画面上部右側に当日の仕事及び伝言の有無等を表示するボードがあること、画面中段のアイコンは、前記のとおり、二列に配置されていることなどの相違点が存する。
 週間グループ表示のトップページにおいては、ユーザー個人、グループ全体及び他のグループ構成員という順序で、上から下へと三段に情報表示欄が配列され、情報表示欄の左上部分にはグループ名がプルダウンメニューにより表示され、右上部分には「今日」というボタンが、左側に移動機能を示す「▲▲」「▲」ボタン、右側にも同じく「▲」「▲▲」ボタンを配置して、これらとともに表示されているほか、ユーザー個人の情報表示欄とグループの情報表示欄の間に背景色付きのボーダーが入っているなどの共通点がある。その一方で、アイオフィス3.0においては、当該画面から「グループ週間」「グループ一日」「個人一日」「個人週間」「個人月間」の各画面へとさらに階層化していく機能の表示が、青色でくっきりと外枠付けされた情報表示欄の上端にタブカード方式で表示されているという相違点がある。
 週間グループ表示のグループの日表示画面においては、やはり、ユーザー個人、グループ全体及び他のグループ構成員という順序で、上から下へと三段に情報表示欄が配列され、三〇分刻みで時間帯の枠が区切られていることなどの共通点がある。その一方で、債権者ソフトにおいては、具体的な情報が入力・表示されている部分は時間帯を枠で区切った上で薄クリーム色に着色され、情報のない部分は枠で区切らず白地のままであるのに対し、アイオフィス3.0においては、いずれの部分も白地のままであること、また、情報表示欄の外枠全体が青色で強調された上、当該ぺージから「グループ週間」「個人一日」「個人週間」「個人月間」の各ぺージへと画面が移動する機能の表示が、同欄上端にタブカード方式で表示されているなどの相違点が存する。
 以上に列挙したような手法に基づき、書証として提出されただけで約三〇に及ぶ画面表示全体を通観しつつ、各画面表示につき順次検討すると、各画面の大まかな構成が似かよっている上に、ボタン等の配置がまるでコピーしたかのように共通している部分が散見される。また、表現形式が相違すると認められる部分においても、アイコン表示や語句のわずかな違いなど、表現の上で本質的とは思えない些末な点が少なくない。しかしながら、その一方で、週間グループ表示のスケジュール入力画面のように、情報表示欄の数自体が大きく異なっていたり、あるいは、アドレス一覧のトップページのように、債権者ソフトにはない検索用の五〇音文字盤を備えた入力部分が画面の相当割合を占めて配置されているため、一見して異なる画面である印象を与えるものも存在するだけでなく、ほぼ同一と言えるほど類似する枢要な部分が画面中央に位置する一方で、えんじ系統色、黄土色、緑色あるいは青色の各色に着色されたボードが、画面中央部分を挟んで上下に配置されるなどしていたに過ぎないアイオフィス2.43(前記三(1)参照)と異なり、情報表示欄自体を色付きの外枠で大きく囲む、画面中央の主要な情報表示部分の上下に色付きのボーダーラインを配する、おそらくは重要な機能を直感的に把握させるために、黒色の枠の中に赤色のゴシック体文字で「OK」と表示されたボタンや、赤色の背景に白抜きで「×」を配したボタンを多用するなどの相違点が見られる画面も少なくない。
(2) 各画面の配列・相互の牽連性等
 用語の些末な差異を捨象すると、債権者ソフトにおいては、ソフト全体のトップページから、@週間グループ表示、A行き先一覧、B掲示板、C施設の週間予約状況、Dアドレス一覧、ETo Do一覧、F共通設定メニュー及びGパスワードの変更の各画面に階層化し、さらに、@〜Fについては、各アプリケーションの機能に応じてさらに画面が階層化するところ、これらの点は、アイオフィス3.0においても全く同様である。したがって、そもそも、ソフト全体の構成・画面配列が基本的に同一ということができる。ただし、アイオフィス3.0においては、トップページから、前記の各画面のほか、Hヘルプ及びI個人設定の各画面にも階層化するという相違点がある。
 債権者ソフトにおける週間グループ表示のアプリケーション(前記@)においては、同表示のトップページから、「個人月表示」、「グループの日表示」、「個人の日表示」、「スケジュールの確認」、「スケジュールの入力画面」及び「設定」の各画面に階層化し、さらに、「設定」画面は、「一般設定」、「予約の設定」、「祝日の設定」及び「アクセス権の設定」の各画面に階層化して、ソフト全体のトップページから数えて段階目(ママ)の階層にまで画面が配列されている。これらの点は、アイオフィス3.0についても全く同様である。ただし、アイオフィス3.0においては、週間グループ表示のトップページから、前記各画面以外にも、「個人の二週間情報」の画面に階層化する上に、各画面から直接移動できる画面が比較的限られている債権者ソフトと異なり、二段階目の階層にあたる各画面相互の移動が基本的に可能であるとか、三段階目の階層においても、「設定」画面から前記四画面のほかに「場所の設定」画面にも階層化するなどの相違点がある。
 債権者ソフトにおけるアドレス一覧のアプリケーション(前記D)においては、同表示のトップページから、「新規アドレスの入力」、「アドレスのヘルプ」、「検索」、「アドレスの変更」、「表示の設定」及び「設定」の各画面に階層化した上で、「アドレスの変更」画面から「アドレス削除」画面へ、「設定」画面から「CVSファイル形式からの読み込み」(ママ)、「CVSファイル形式からの書き出し」(ママ)、「アクセス権の設定」及び「アドレス項目のカスタマイズ」の各画面へとそれぞれ階層化するところ、これらの基本的構造はアイオフィス3.0においても同様である。ただし、アイオフィス3.0においては、二段階目の階層にあたる各画面のうち、「アドレスのヘルプ」及び「表示の設定」の各画面がない一方で、「個人設定」の画面があるという差異がある。また、三段階目の階層を見ても、「設定」画面から「CVSファイル形式からの読み込み」(ママ)及び「CVSファイル形式からの書き出し」(ママ)の各画面に階層化する点は債権者ソフトと共通であるが、「アクセス権の設定」及び「アドレス項目のカスタマイズ」の各画面がない一方で、「一般設定」及び「共有アドレス帳の一括削除」の各画面があるという相違点がある。
 債権者ソフトの共通設定メニューのアプリケーション(前記F)においては、そのトップページから、「ログイン方法の変更」、「会社情報の変更」、「登録キーの設定」、「スタートメニューの設定」、「設定パスワードの登録」、「リンクの設定」、「グループの設定」及び「ユーザーの設定」の合計八画面に階層化し、さらに、前記「リンクの設定」画面から「追加する」「リンクの編集」及び「リンクの削除」の合計三画面に、「グループの設定」から「グループの追加」「グループの編集」「グループの削除」「CVSでのグループインポート」(ママ)及び「CVSでのグループエキスポート」(ママ)の合計五画面に、「ユーザーの設定」から「読み込み」「書き出し」「追加する」「ユーザーの削除」及び「ユーザーの編集」の合計五画面にそれぞれ階層化する。一方、アイオフィス3.0においては、トップページから前記八画面に「ウェブメイルサーバーの設定」を加えた合計九画面に、さらに、そのうち「リンクの設定」からは「追加する」等の前記三画面に、「グループの設定」からは前記五画面のうち「CSVでのグループエキスポート」を除く四画面に、「ユーザーの設定」からは前記五画面のうち「書き出し」を除く合計四画面にそれぞれ階層化する。したがって、各画面の構成・配列が、実質的に同一といってよいほど類似すると評価することができる。
 以上に列挙したような手法に基づき、ソフト全体の画面構成・配列をふまえつつ、各アプリケーションごとに、階暦化構造における各画面の配列・リンク機能等の相互関係を検討すると、アイオフィス3.0は、前記三で検討したアイオフィス2.4と同様、付加されたアプリケーションの分だけサイトマップが変容したり、あるいは、より詳しい表示機能が付け加わったと評価できる部分が存在するなどの事情は認められるものの、基本的な構造、すなわち、ソフト全体における各画面の選択・配置は、債権者ソフトと実質的に同一と言える程度に類似するということができる。
(3) 結論
 以上を総合すると、アイ・オフィス3.0においては、債権者ソフトと実質的に同一と言えるほど類似する配列・牽連性の下、概ね類似性を肯定して差し支えない各画面が表示されており、相違する部分も、各画面における画面構成のそれほど本質的でない部分や、単なる配色・枠付けなどに関する差異に過ぎないと評価することも可能に思える。したがって、前記のとおり、アイオフィス2.43が債権者ソフトに依拠すると認められ、アイオフィス3.0も、結局は、同2.43をバージョンアップしたものに過ぎないことをも考慮に入れると、同3.0も、債権者ソフトに関する債権者の著作権を侵害すると考えられなくもない。
 しかしながら、その一方で、同3.0については、前述したとおり、情報表示欄自体が色付きの外枠で大きく囲まれているとか、画面中央の主要な情報表示部分の上下に色付きのボーダーラインが配されているとか、おそらくは重要な機能を直感的に把握させるために、黒色の枠の中に赤色のゴシック体文字で「OK」と表示されたボタンや、赤色の背景に白抜きで「×」を配したボタンが多用されているとか、一つの画面で表示できることに制約がある中、ユーザーから見て、視覚的に無視し得ない相違点も存する。したがって、本件で問題になっているビジネスソフトウェアが、もともと機能的には似かよったものにならざるを得ない面があり、創作性を認め得る範囲が比較的限定されていることをも併せ考えると、少なくとも、各画面表示及びその牽連性に着目して創作性を論じる限り、これら各画面が、前記のような順序・配列・機能をもってユーザーの眼前に展開された場合、債権者ソフトとの何らかの類似性が感じられることはおそらく間違いないにせよ、同ソフトを表現した者の個性が直観・感得されるとまで言うことには躊躇を感じざるを得ない。
 そうすると、アイオフィス3.0については、債権者ソフトの著作権を侵害するとは認められないと言うべきである。
第五 結論
 以上によれば、本件仮処分の申立ては、アイオフィス2.43の差止めを求める限度で理由があるから、これを相当と認め、債権者に金一億円の担保を立てさせて認容することとし(なお、債務者は、アイオフィス2.43については、平成一三年三月に既に公開・販売を停止しており、在庫もない旨主張するが、本件全資料から認められる客観的な事実経過及び審尋の全趣旨にかんがみれば、保全の必要性は存在すると認められる。)、同3.0の差止めを求める部分については理由がないものとして却下することにして、主文のとおり決定する。

裁判官 青木孝之

別紙 物件目録
一 コンピューターソフトウエア「i office2000」バージョン2.43
二 コンピューターソフトウェア「i office2000」バージョン3.0(商品名「i office V3」)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/