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【事件名】高校総体HP事件
【年月日】平成13年5月31日
 京都地裁 平成10年(ワ)第3435号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年2月28日)

判決
原告 株式会社ヴイテック
訴訟代理人弁護士 菱田健次
同 菱田基和代
被告 株式会社情報工房
訴訟代理人弁護士 浅岡美恵
同 牧野美絵


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
          
事実及び理由
第1 請 求
1 被告は、別紙目録記載のCD−ROMを複製・頒布してはならない。
2 被告は同CD−ROMを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、3520万円及びこれに対する平成10年12月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、京都新聞、朝日新聞、読売新聞の各朝刊に、別紙の謝罪文を掲載せよ。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 3項につき仮執行宣言

第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、京都市で開催された平成9年度全国高校総合体育大会(以下「高校総体」という。)のインターネットホームページを制作した原告が、当該ホームページ等をCD−ROM化した被告に対し、著作権侵害・著作者人格権侵害を理由に、著作権法112条に基づき、当該CD−ROMの複製・頒布の停止、保有するCD−ROMの廃棄を求め、また、民法709条、710条、著作権法114条に基づき、損害賠償として3520万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年12月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、著作権法115条に基づき、名誉回復措置として、上記損害賠償と共に謝罪広告を求める事案である。
2 基本的事実関係
(1) (当事者 争いがない。)
 原告は、昭和61年5月28日設立された資本金2400万円の株式会社で、コンピュータ関連機器及びソフトウエアの制作販売を業としている。
 被告は、平成9年3月3日設立された資本金1000万円の株式会社で、設立前に代表者が個人として行ってきた企画編集制作業を法人化したものである。
 原告と被告は、従前、財団法人平安建都1200年記念協会でのパソコン通信やファックスによるイベント情報の発信などの仕事を共同で行ったことがある。
(2) (京都市と被告間のホームページ製作委託契約 乙1、2)
ア 被告は、平成8年8月13日付で、京都市から高校総体ホームページ制作について委託契約を受け、同日付け契約書(乙1)が作成された(以下、同契約を「第1委託契約」といい、同契約書を「第1契約書」という。なお、第1契約書において「甲」は京都市を、「乙」は被告を指す。)。
 第1契約書本文には、「甲は、乙に対し、インターネット1996DI(であい)ステーションのページにおけるコンテンツの企画及び制作について委託する。」(1条1項)、「甲は、乙に対し、第1条に規定する事項に要する費用として、委託料3、000、000円(うち消費税相当額87、378円)を支払うものとする。」(3条1項)、「第1条に規定する業務に伴う成果物は、すべて甲に帰属するものとし、乙は、甲の承諾を受けないでこれを使用してはならない。ただし、マップナビゲーションシステムについては、乙に帰属するものとする。」(4条)との各規定がある。また、第1契約書と一体をなす委託仕様書には、委託内容として、「・デジタルマップ 京都市全域を描画範囲とし、競技開催地及び観光名所を表示する。また、2q四方の拡大地図を使用することにより、より詳しい地図情報を提供する。なお、マップナビゲーションシステムについては、情報工房が所有するものを使用する。」「・交流ワールド 本市市立高校生と国内外の高校生との交流の場とする。国内外の高校からのホームページ及びニュースの募集、募集結果による電子壁新聞の作成、スマイルCGの作成。」と記載されている。
イ 被告は、平成8年8月30日付で、京都市から高校総体ホームページ制作について委託契約を受け、同日付けで契約書(乙2)が作成されている(以下同契約を「第2委託契約」といい、同契約書を「第2契約書」という。なお、第2契約書においても「甲」は京都市を、「乙」は被告を指す。)。
 第2契約書には、「甲は、乙に対し、京都総体インターネット発信事業に伴う次の事項を委託する。 (1)事業の企画に関すること。 (2)ホームページにおけるコンテンツの意匠制作に関すること。 (3)マップナビゲーションシステム及び祭礼情報システムの運営に関すること。 (4)プログラムのメンテナンスに関すること。 (5)メールの対応に関すること。(6)事業の告知に関すること。」(1条)、「甲は、乙に対し、第1条に規定する事項に要する費用として、委託料2、999、998円(うち消費税相当額87、378円を含む。)を支払うものとする。」(4条1項)、「第1条に規定する業務に伴う成果物は、すべて甲に帰属するものとし、乙は、甲の承諾を受けないでこれを使用してはならない。ただし、マップナビゲーションシステム及び祭礼情報システムについては、乙に帰属するものとする。」(5条)との各規定がある。
(3) (高校総体ホームページの製作・内容 検乙1及び実質的に争いがない事実)
 第1委託契約及び第2委託契約に基づき、以下の内容のホームページが制作された。
ア 本件ホームページには、別紙コンテンツ集1の1頁ないし6頁、14ないし32頁、別紙コンテンツ集2の1頁、53、54頁の画面(以下「本件画面」という。ただし、本件画面は本件ホームページをCD−ROM化したものによっており、インターネット上で公開されたものとは異なるものがある。)、別紙コンテンツ集1の33頁ないし67頁の地図(gifファイルによる画像データ。以下「本件地図」という。)、別紙コンテンツ集2の2ないし52頁、55頁の画像ないし文字情報(以下「本件画像等」という。)が含まれている。
イ 本件ホームページの日本語版のトップページ(以下単に「トップページ」という。)は別紙コンテンツ集1の1頁の画面である(なお、ソースコードによれば、トップページのJavaScript対応版では、高校総体開催前は、「インターハイ’97京都総体まであと 日!」との表示がされていたことが窺える。)。
 トップページの「IE3.0以上をご利用の方はこちらをクリックしてください」とある部分をクリックすると、動画部分のあるトップページとなる(「DI Stationとある左側の記号が回転し、右側の音符が動き、メールアドレスの上の封筒のイラストが回転する。)。
ウ トップページのInformation欄のScheduleをクリックすると、別紙コンテンツ集1の2頁の「大会スケジュール」と題するページが表示される。
 同ページで「会場地」と表示されている部分をクリックすると、京都府内の自治体名を示す別紙コンテンツ集1の3頁が表示され、そこで特定の自治体名を選択すると、当該自治体での大会スケジュールを示す画面が表示される(別紙コンテンツ集1の4頁が「京都市」を選択した場合、同5頁が大山崎町を選択した場合)。同様に、別紙コンテンツ集1の2頁の「大会スケジュール」と題するページで、「競技種目」と題するページをクリックすると、競技種目の一覧を示す別紙コンテンツ集1の6頁が表示され、そこで特定の競技種目名を選択すると、当該競技種目の大会スケジュールを示す画面が表示される(別紙コンテンツ集1の7ないし9頁が、それぞれ「サッカー」、「ボクシング」、「ソフトボール」を選択した場合)。さらに、別紙コンテンツ集1の2頁の「大会スケジュール」と題するページから、大会日程をエクセル形式ないしロータス1ー2ー3形式でダウンロードすることができ、エクセル形式でダウンロードしたものが別紙コンテンツ集1の10ないし13頁である。
 以下、このシステムを「大会スケジュール検索システム」という。
エ トップページのInformation欄のHighlightsをクリックすると、別紙コンテンツ集1の14頁の「高校総体大会ハイライト」と題するページが表示される。
 同頁で「一覧検索」と記載されている欄をクリックするとハイライト情報の一覧をまとめた別紙コンテンツ集の1の15頁の画面が表示され、「日付でソート」と記載されている欄をクリックすると、ハイライト情報の表題を登録日付に対応してまとめた別紙コンテンツ集1の17頁の画面が表示され、「会場でソート」と記載されている欄をクリックすると、ハイライト情報の表題を会場ごとにまとめた別紙コンテンツ集1の16頁の画面が表示され、「競技でソート」と記載されている欄をクリックすると、ハイライト情報の表題を競技ごとにまとめた画面が表示される。そして、それぞれの画面の「avと題する欄の各番号をクリックするとハイライト情報を表示することができる。別紙コンテンツ集1の16頁のbP2264をクリックすると別紙コンテンツ集1の18頁が表示され、別紙コンテンツ集1の17頁のbP8489をクリックすると別紙コンテンツ集1の19頁が表示される。
 以下、このシステムを「ハイライト検索システム」という。
オ トップページのInformation欄のCalendarをクリックすると、別紙コンテンツ集1の20頁の1996年9月から1997年8月までの各月を示す「Event Calendar」と題するページが表示される(ただし、20頁は後記(7)記載の本件ホームページのCD−ROM版の画面であり、インターネットで公開されていたものについては「このCD−ROMでは、8月16日(大文字五山送り火)の検索が体験できます。」との記載や、8月を示す「8」の数字や「August」の下線部はない。)。
 同頁で8月をクリックすると、8月のカレンダーを示す別紙コンテンツ集1の21頁が表示され(ただし、これもCD−ROM版の画面であり、インターネットで公開されていたものについては「この祭礼カレンダーはサンプルとして8月16日のみ情報が入っています。」との記載及びカレンダーの「16」の下線はない。)、各日付をクリックすると、その日の伝統行事、イベントなどの写真や解説を示す頁が表示され、それらの頁で下線の付された地名をクリックすると、その場所を示す地図が表示される(例えば8月16日の欄をクリックすると、別紙コンテンツ集1の23、24頁が表示され、23頁の「東山如意ヶ嶽」をクリックすると別紙コンテンツ集1の25頁の地図が、24頁の「大北山」をクリックすると別紙コンテンツ集1の26頁の地図がそれぞれ表示される。)。
 以下、このシステムを「イベント検索システム」という。
カ トップページのInformation欄のMap Informationをクリックすると、京都市の全域図を中心とした別紙コンテンツ集1の28頁が表示される(これもCD−ROM版の画面であり、インターネットで公開されていたものについては、「このCD−ROMでは、二条城(中京区二条通堀川西入)の検索が体験できます。」との記載はない。)。
 ここで、全域図上に表示された特定のポイントをクリックすると、そのポイント近辺の詳細地図が表示され、そこで表示された特定のポイントをクリックすると、そのポイントに関する観光情報が表示される(例えば別紙コンテンツ集1の28頁の「二条城」をクリックすると別紙コンテンツ集1の29頁の詳細地図が表示され、同詳細地図で「二条城」をクリックすると、別紙コンテンツ集1の30頁の観光情報が表示される。なお、本件CD−ROMで検索できるのは二条城に関する情報のみである。)。
 以下、このシステムを「本件マップナビゲーションシステム」という。
(4) (被告のCD−ROM制作委託受注と制作・配布 乙3、検乙1、原・被告各代表者)
ア 被告は、平成9年11月6日付けで、平成9年度全国高等学校総合体育大会京都市実行委員会(以下「委員会」という。)から、本件ホームページの記録CD−ROM制作について委託を受け、同日付けで契約書(乙3)が作成されている(以下同契約を「第3委託契約」といい、同契約書を「第3契約書」という。なお、第3契約書において「甲」は委員会を、「乙」は被告を指す。)。
 第3契約書には、「甲は乙に対し、次の事項を委託する。 (1)京都市高校総体インターネット事業に係る記録CD−ROMの制作」(1条)、「甲は、乙に対し、第1条に規定する事項に要する経費として、委託料金4、000、000円(うち消費税相当額190、476円)を支払うものとする。」(3条1項)、「記録CD−ROMの著作権は、甲に帰属するものとする。」(4条)、「記録CD−ROMの原版所有権は、甲に帰属するものとする。」(5条)、「記録CD−ROMの複製権は、甲に帰属するものとする。」(6条1項)との各規定がある。
イ 被告は、平成9年12月ころ、本件ホームページのCD−ROM化について、ソースコードの修正とCD−ROMチェックを原告に依頼した。
ウ 原告は、平成10年2月20日ころ、CD−ROM化のために修正した本件ホームページのソースコードや画像データなどの入ったMO(以下「本件MO」という。)を被告に交付した。
エ 被告は、本件MOを使用して、本件ホームページのCD−ROM版(以下「本件CD−ROM」という。)を制作し、1000枚配布した。
 なお、本件CD−ROM終了の際、「企画・著作:平成9年度全国高等学校総合体育大会京都市実行委員会 CD−ROM制作:株式会社情報工房 協力:株式会社ヴィテック」との表示を含むテロップが流れる。
3 争点
(1) 本件CD−ROMの画像等の著作物性
(2) (1)が肯定された場合の著作者
(3) 本件マップナビゲーションシステムの複製行為の有無
(4) 著作物の改変行為等の有無
(5) 著作権の譲渡ないし利用許諾の有無
(6) 被告の故意・過失の有無
(7) 被告に賠償責任が認められた場合、原告に賠償すべき損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件CD−ROMの画像等の著作物性)について
【原告の主張】
(1) 本件画面、本件画像等について
 本件画面は、例えばトップページについては高校総体にふさわしいように高校生らしい爽やかさや親しみやすさを醸し出すために工夫され、また、別紙コンテンツ集1の2頁の画面なども、CGキャラクターを使用して親しみやすさを醸し出している。また、トップページでは、当時の過渡的なテクノロジーに合わせて、Java、JavaScript対応版と非対応版の2つを用意して、見やすく、使いやすくしている。
 本件画像等のうち別紙コンテンツ集2の2頁ないし16頁の画像は、文字自体を画像化したりあるいは独自にキャラクターや文字を組み合わせて創作したものであり、17頁及び18頁の画像は本件ホームページの本件マップナビゲーションシステムの説明のために創作した画像であり、19頁ないし45頁の画像は、独自に文字自体が画像化されたものであり、46頁ないし55頁は本件ホームページのインデックスに使用するために文字、イラスト、地図、写真等の素材を組み合わせて創作したものである。
(2) 大会スケジュール検索システムについて
 もともと1枚の大きな表であったものを細分化し、会場、競技からスケジュール情報を分かりやすく検索することができるとともに、会場地の自治体名から会場・競技種目・日程を、競技種目から会場地・会場・日程をそれぞれ容易に検索できるようにした編集著作物であり、その素材の選択又は配列によって創作性を有する。
(3) ハイライト検索システムについて
 大会期間の多数のハイライト情報から目的の情報を「一覧リスト」「日付順」「会場ごと」「競技ごと」に素早く検索することができるデータベースの著作物であり、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有する。
(4) イベント検索システムについて
 編集著作物であり、その素材の選択又は配列によって創作性を有する。
 また、開催場所を地図で表示するために、独自に地図の制作をしており、位置表示のために線と四角の囲いを組み合わせて表示するシステムを導入して工夫を凝らしている。
(5) 本件地図及び本件マップナビゲーションシステムについて
ア 本件地図について
 以下のとおりの創作性がある。
(ア) 画像サイズについては、当時のインターネット通信回線速度、パソコンの表示速度、地図の見やすさから、何通りも考えた上決定している。
(イ) 色については、道路、川、ランドマークの属性などにより見やすい色彩を工夫して全体的に統一された図柄にしている。
(ウ) 文字情報については、高校総体を機会に京都の観光をする人が対象となることから、高校、大学、寺社仏閣、美術館、博物館、公衆トイレ、警察、駅、通り名などに絞っている。
(エ) 画面上でのスクロールを考えて同一画面に複数通り名の表示をして、スクロールしても通り名がわかるようにしている。
(オ) 地図情報を観光ナビゲーション目的に合わせてデフォルメ(省略化)している。
イ 本件マップナビゲーションシステムについて
 編集著作物として、その素材の選択又は配列によって創作性を有している。あるいは、データベースの著作物として、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有する。
 ナビゲーションを目的として観光情報と地図をリンクさせたコンテンツは従来存在しなかった。本件システムは、地図から目的の観光スポットの情報を得るに当たり、分かりやすく容易に情報が入手できるように、全域図と詳細地図の二層構造にしている。また、全域地図のサイズ、詳細地図のサイズ及び分割数については、表示速度と地図の見やすさとのバランスを検討し、最適な値を決めている。
ウ ソフトウエアについて
 地図画像をスムーズにスクロールさせたり、地図にクリックして詳細情報を得たり、詳細情報の会場名から地図を呼び出し、その地図上のポイントを四角で囲んで即座にわかるようにしている。
【被告の主張】
(1) 本件画面、本件画像等について
 本件画面は、いずれも、委員会の指示に基づいて、委員会の提供した文字情報、写真などを画像化したものであり、配列にも京都市のチェックが入った上で作成されたものである。そして、原告の主張するような工夫点は、当該情報提供のために誰でもする範囲の域を超えるものでなく、創作性があるとはいえない。
 ホームページのトップページにおいて、Java、JavaScript対応版と非対応版の2つを用意することは、当時の環境ではよくある手法であった。
 本件画像等のうち別紙コンテンツ集2の2頁ないし16頁の画像については、市販のソフトを使えば同じような表現が可能なありふれたものである。
(2) 大会スケジュール検索システム、ハイライト検索システム、イベント検索システムについて
 上記のとおり、委員会から提供された素材に基づき画像化されたものであり、配列にも京都市のチェックが入っている。そして、原告が主張するような工夫点は、当該情報提供のためには当然に行われる範囲を超えるものではなく、創作性があるとはいえない。
(3) 本件地図及び本件マップナビゲーションシステムについて
ア 本件地図について
 本件地図は、京都市都市計画局で入手したものをもとに、以下のとおり、一般的な手法のもとに作成しただけのもので、創作性はない。なお、文字情報の配置や通り名の配置については創意工夫があるとしても、被告の指示に基づくものである。
(ア) 画像サイズについて、プログラムの目的に応じて、地図の枚数やダウンロードに要する速度を決めていくというのは一般的なことであり、目的により画像サイズもある程度決まってしまうものである。
(イ) 地図の属性による色分けも一般的に行われてきたものである。
(ウ) 地図情報を目的に応じてデフォルメするのも一般的な手法である。
イ 本件マップナビゲーションシステムについて
 これに用いたデータは京都市から提供されたものであり、創作性はない。
ウ ソフトウエアについて
 検索を可能にすることは京都市の指示によるものであり、検索において利用している階層やスクロール機能を有する地図システムは、当時、既に販売されていたものである。
エ 上記のとおり本件地図に創作性はなく、また、本件マップナビゲーションシステムも創作性がないから、これらを組み合わせても、創作性が認められるものではない。
 原告は全域図と詳細地図の二層構造にしていることを創作性の根拠とするが、層構造にすることは委員会が求めてきたところである。そして、委員会が三層とすることを求めていたのを原告が二層にしたのは、目的や予算の都合からであり、独自の創意工夫とはいえない。
2 争点(2)((1)が肯定された場合の著作者)について
【原告の主張】
 原告が、上記のような創意工夫をして、本件ホームページを創作したのであるから、原告が著作者であることは明らかである。
 被告は、京都市が本件ホームページ制作について具体的な指示をおこなったから、著作者は京都市ないし被告である旨主張するが、以下のとおり理由がない。
(1) 京都市高校総体推進室(以下「推進室」という。)作成の平成8年6月付の「全国高校総体インターネット事業について」と題する書面(乙4の1枚目から7枚目まで)は、基本方針を定めているにすぎず、具体的な指示はない。なお、同企画案では、マップナビゲーションシステムの階層について、全体、エリア、詳細の三階層の地図システムを考えていたが、原告における種々のテスト評価の結果、エリア地図(8キロメートル四方)をやめて二階層の地図システムとしたものである。
(2) 乙4の8、9枚目は、本件ホームページがインターネット上で公開された後である平成8年9月以降に推進室が内部的に作成した運営説明資料であり、10枚目は、平成9年8月の高校総体開催前にリニューアルしておきたいコンテンツをリストアップしたものであり、11枚目から13枚目は本件ホームページでなく本件CD−ROMの制作に関する資料である。
 乙5は、本件ホームページ制作後、推進室が事後的に本件ホームページの修正要望事項を記載した書面である。
 乙6は、高校総体終了後である平成9年11月に、本件ホームページのリニューアルのための修正を原告から被告に対して連絡した書面である。
 乙7ないし14は、本件ホームページでなく本件CD−ROMの制作に関する資料である。
【被告の主張】
 本件ホームページに著作物が含まれるとしても、以下のとおり、創作をしたのは京都市ないし被告である。
(1) 本件画面について
 本件画面は、いずれも、委員会の文字情報、写真などの指示に基づいて画像化したものであり、素材は提供されたもので、配列にも京都市のチェックが入っている。
(2) 大会スケジュール検索システムについて
 表示の仕方、検索の方法については、すべて委員会が指示したものであり、委員会の指示どおりに制作されたものにすぎない。
(3) ハイライト検索システムについて
 ハイライト情報は委員会が提供したものであり、これらの情報の表示の仕方、検索の方法についても委員会の指示による。
(4) 本件地図及び本件マップナビゲーションシステムについて
ア 本件地図について
(ア) 文字情報については被告の指示によるものである。
(イ) 同一画面に複数通り名の表示をしたのも、被告の指示によるものである。
イ 本件マップナビゲーションシステムについて
 地図を層構造にしたのは、委員会の指示に基づくものである。
(5) 原告の主張について
 原告は、京都市は基本的な方針を決めていたにすぎず、推進室からの具体的な指示はなかった旨主張するが、推進室は具体的な細かな指示をしてきた。
 テキスト情報は京都市が提供し、原告はその発信についてのひとつのアイデアを出したにすぎない。
3 争点(3)(本件マップナビゲーションシステムの複製行為の有無)について
【原告の主張】
(1) 被告は本件CD−ROMに本件マップナビゲーションシステムを含まない旨主張するが、本件CD−ROMの制作に関する資料である乙7には、「・マップインフォメーション 競技会場へのリンク表示→色がかわらないようにする。(飛ばないように) 全体地図→詳細地図→詳細データ(表示されないが?表示できるように)」と記載されている。
(2) 乙4の5枚目「京都総体インターネット事業企画案」において、「@マップ・ナビゲーション マップをベースに、観光名所・文化施設・伝統産業体験施設などの京都情報が検索できる。」と記載されているところであり、二条城について本件地図を使用しながら本件マップナビゲーションシステムは使用しないということはあり得ない。
 【被告の主張】
(1) 本件CD−ROMは、高校総体のホームページを記録として残すものであり、本件マップナビゲーションシステムは本件ホームページにとって大きな柱であったことから、その紹介を入れないということは考えられない。そこで、ホームページに本件マップナビゲーションシステムがあったことを疑似体験できるように地図を階層にしてCD−ROMの中に入れることが考えられていたのである。本件マップナビゲーションシステムそのものを使うことを予定していたわけではなく、実際にも使用していない。
(2) 本件CD−ROMでは、Javaは機能しておらず、単に体験版としてイメージマップでリンクしているだけであり、CD−ROMの制作に本件マップナビゲーションシステムは使用していない。
4 争点(4)(著作物の改変行為等の有無)について
【原告の主張】
(1) イベント検索システムにおいて、本件ホームページでは平成8年9月から平成9年8月までの伝統行事、観光イベントなど約170件の検索ができたのに、被告は本件CD−ROMにおいて、平成9年8月16日の大文字五山送り火の検索しかできないように改ざんし(基本的事実関係2(3)オ参照)、同一性保持権を侵害した。
(2) 本件マップナビゲーションシステムは約200のポイントを検索することができたのに、被告は本件CD−ROMにおいて二条城の検索しかできないように改ざんし(基本的事実関係2(3)カ参照)、同一性保持権を侵害した。
(3) 被告は、本件CD−ROMの制作者を被告とし、協力者として原告を表示し(基本的事実関係2(4)エ参照)、氏名表示権を侵害した。
【被告の主張】  
 被告は、原告がCD−ROMのチェックを行わないため、独自に本件CDROMを制作したものであるから、氏名表示権の侵害はない。
5 争点(5)(著作権の譲渡ないし利用許諾の有無)について
【被告の主張】
(1) 原・被告は、本件ホームページに関し、本件マップナビゲーションシステム以外の成果物は京都市に帰属する旨合意した。
 また、CD−ROM化については原・被告合意の下に進めている。
(2) 本件マップナビゲーションシステムについては、原・被告及びオフィスクリエーションことA(以下「A」という。)の持分割合が1対2対2である。
【原告の主張】
(1) 第1委託契約及び第2委託契約において、本件マップナビゲーションシステム以外の成果物が京都市に帰属する旨合意されているとしても、著作者である原告が関与していないから、合意の効力は原告に及ばない。
(2) 本件マップナビゲーションシステムの持分割合は認める。
6 争点(6)(被告の故意・過失の有無)について
【原告の主張】
 被告は、本件CD−ROMには本件マップナビゲーションシステムを含まないとしていたのに、二条城についてこれを導入しようとしていたので、原告が委託料を明確にするために契約書案(甲1)を送付したのに(甲8)、これを無視して、本件MO(デモンストレーション用として渡した途中修正版であり、本件地図やソフトウエアが収録されている。)を使用して本件CD−ROMを作成したのであるから、故意があることは明らかである。
 【被告の主張】
(1) 甲8の送付はない。
(2) 本件MOは修正済みの完成品として受領した。
 被告は原告から本件MOに本件地図が収録されているとは知らされていなかった。仮に、知っていたら、本件MO受領後に二条城に関するデータを原告に要求する(甲8)ことはなかった。
7 争点(7)(被告に賠償責任が認められた場合、原告に賠償すべき損害額)について
【原告の主張】
(1) 同一性保持権・氏名表示権侵害に対する慰謝料は200万円が相当である。
(2) 本件ホームページのうち本件地図を除くものについての実施料相当損害は100万円である。
(3) 本件地図についての実施料は本件地図1枚あたり1000円が相当であり、損害賠償については原告が準共有者のAから委託を受けていることから(甲12)、原告とAの持分相当額1枚800円として、本件CD−ROM1000枚分(それぞれ1枚につき本件地図35枚が収録されている)2800万円が相当である。
(4) 被告による著作権侵害を調査するために専属調査員に日当6万円で委託して20日間、合計120万円を要した。
(5) 弁護士費用については、事件の困難さ、要する時間と労力を考慮すれば、300万円が相当である。
(6) 原告は著作者人格権を無視されたので、名誉回復措置として、謝罪広告をさせる必要がある。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(本件CD−ROMの画像等の著作物性)について
(1) 本件画面、本件画像等について
 本件画面は、画像、文字情報、動画(JavaScript対応版トップページ)などが組み合わされて表現されたものであり、制作者の思想が創作的に表現されている知的・文化的精神活動の所産と評価することができるから、著作物性を肯定することができる。被告は、上記表現は誰でも考え得る程度のものであって、創意工夫がない旨を主張するが、著作権法にいう創作的な表現とは、他に類例がない程度の独創性をいうものではなく、著作者の個性が何らかの形で表現されていれば足りると解されるところ、少なくとも、具体的な表現形式として誰がしても本件画面のような配置になるものではないから、著作者の個性が表現されているといえる。
 本件画像等のうち別紙コンテンツ集2の2頁ないし13頁、15頁、19頁、21頁、43頁、46ないし52頁、55頁の画像は、イラストや、それらの組み合わせであり、創作性を認めることができる。また、同コンテンツ集17頁及び18頁の画像は本件マップナビゲーションシステムの画面のサンプル的な意味を有するものであるが、実質的には本件画面の縮小版的な意味を有するもので、創作性を認めることが可能である。
 他方、別紙コンテンツ集2の24頁については、本件画面中、本件マップナビゲーションシステムにおいて表示される画面(別紙コンテンツ集1の28頁ないし30頁参照)の下端部に表示される競技会場、競技内容を示す図表の一部であって、独立の思想を表現する著作物とは認め難い。また、多少図案化(立体的表現)されてはいるが、基本的には文字の組み合わせである別紙コンテンツ集2の14頁、16頁、19、20頁、22、23頁、34、35頁、41、42頁(文字情報は順に「Virtual Inter-High」、「Inter-High Memory」、「DI(であい) Station Digital Inter-High」、「WANTED」、「募集中」、「WARNING」、「Internet Map Information System」、「Internet Map Information System」、「Yell Mail」、「W」)、簡単な色ないし模様の長方形上に文字情報が表記されている別紙コンテンツ集2の25頁、30頁、37頁、44頁(文字情報は順に「Vtech」「全域図」「全域図」「市長賞」)、文字情報を表記したクリックボタンである同コンテンツ集の26ないし28頁、31ないし33頁、36頁、38頁、45頁(文字情報は順に「イベントカレンダー」「伝統的建造物保存地区」「Help!!」「クイズ」「紅葉情報」「さくら情報」「トップページに戻る」「全域図に戻る」「地図を見る」)については、文字情報と独立した意義を認め難く、かつ、文字情報も単なる事実の伝達の域を超えるものではないから、著作物とはいえない。同コンテンツ集39、40頁についてはほとんど図案化すらされていない文字情報そのものであり(順に「このプログラムは株式会社Vtechが制作しました」「メーリングリスト募集」)、かつ、事実の伝達の域を超えるものではないから、著作物とはいえない。矢印の組み合わせであるアイコン(同コンテンツ集29頁)も端的に機能を示すものにすぎないから著作物とはいえない。
(2) 大会スケジュール検索システムについて
 原告の主張する素材、選択、配列の具体的内容が明らかではないが、@画面に着目すると、大会日程検索の画面・地名ないし競技種目選択の画面・選択後の検索結果の画面という素材を配列したものということはでき、A検索結果に着目すると、素材として会場地・競技種目・日程を選択し横一線に配列したり、会場地、競技種目、日程、競技会場を選択し横一線に配列したりしているということはできる。
 しかし、@及びAの素材の選択ないし配列は、いずれも、目的とする機能である大会スケジュールの選択の観点からすれば誰がしても同一の結果に達するものといわざるを得ず、創作性は認め難い。
(3) ハイライト検索システムについて
 原告主張の「情報の選択又は体系的な構成」の具体的内容が必ずしも明らかではないが、大会のハイライト情報について、日付、会場、競技というかたちで検索の基礎となる分類体系を定めたものと考えられる。
 しかし、競技大会のハイライト情報の検索という目的上、上記分類体系は極めて基本的なものであり、制作者の個性が反映されたものと認めることは困難であるから、創作性は認め難い。
(4) イベント検索システムについて
 原告の主張する素材、選択又は配列の具体的内容が必ずしも明らかではないが、イベントカレンダーの画面、特定の月のカレンダーを示す画面、特定の日のイベントを示す画面及びそのイベントの行われる地図を示す画面という素材を選択、配列したものといえる。イベントの検索の観点からは、常識的であるといえるが、素材の選択と配列について、誰がしても同じになるといえるほどありふれたものとまではいえず(カレンダー形式によるか否か、地図を含めるかどうかなど)、制作者の思想が表現されたものとして編集著作物に該当すると認められる。
(5) 本件地図及び本件マップナビゲーションシステムについて
ア 本件地図について
 証拠(甲4、検乙1、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件地図は都市計画地図を基礎としているところ、画像サイズについては、当時のインターネット通信回線速度、パソコンの表示速度、地図の見やすさ等を総合してサイズを決めていること(全域図は87.4キロバイトから174キロバイトまでの3つのサイズを用意し、詳細図32枚はそのカバーする範囲に対応して22.4キロバイトから77.4キロバイトまである。)、色については、道路を水色、川を薄い水色、建物を黄緑色といったかたちで色分けしていること、文字情報については、本件ホームページの閲覧者が高校総体を機会に京都の観光をする人であることから、高校、大学、寺社仏閣、美術館、博物館、公衆トイレ、警察、駅、通り名などに絞っていること、本件地図はウインドウサイズによって全部がフルスクリーンで見えない場合があり、そのときはスクロールさせる必要があるが、スクロールしても通り名がわかるように同一画面に複数通り名の表示をしていることがそれぞれ認められる。
 以上によれば、本件地図は、制限の多いインターネット上で最大限効率的に地図情報を表示できるように工夫されたもので、その表現に創作性を認めることができる。
イ 本件マップナビゲーションシステムについて
 編集著作物としての素材の選択又は配列に関する創作性、データベースの著作物としての情報の選択又は体系的な構成に関する創作性についての原告の主張は必ずしも明確ではない。
 しかし、本件マップナビゲーションシステムは、全域図を示す画面、詳細地図を示す画面、観光情報を示す画面を選択し配列したものということができるところ、全域図と詳細地図の層構造自体は必ずしも個性的な表現形態とは認め難いが(一般の地図でも行われるところである。)、詳細地図にどのようなサイズを選択するか、観光情報として何を選択するかについては制作者の個性の発現を認めることができるから、著作物性を認めることができる。
ウ なお、原告は、本件マップナビゲーションシステムのソフトウエアについて、地図画像をスムーズにスクロールさせたり、地図にクリックして詳細情報を得たり、詳細情報の会場名から地図を呼び出し、その地図上のポイントを四角で囲んで即座にわかるようにしている旨主張する。しかし、これは、平成11年7月2日第2回弁論準備期日においてソースコードの著作権に関する主張を撤回した趣旨に反する主張であるといわざるを得ないし、これを措くとしても、著作権法によって保護されるのは、具体的な表現であるところ、上記主張は、アイデアないし機能の創作性をいうものであり、表現の創作性をいうものではないから、主張自体失当というべきである(なお、ポイントを四角で囲むとの点は、表現を主張するものと解せられないでもないが、これに創作性がないことは明らかである。)。
2 争点(2)((1)が肯定された場合の著作者)について
 上記1において著作物性が認定されたもの(本件画面、本件画像の一部、イベント検索システム、本件地図、本件マップナビゲーションシステム)について問題となるところ、上記著作物を表現するための画像やソースコードの作成などの具体的な作業を直接行ったのが原告であることは当事者間に実質的に争いのないところである。しかるに、被告は、上記著作物の制作は、京都市ないし被告の指示によって行われたから、著作者は京都市ないし被告である旨主張するので、この点を検討する。
(1) 推進室作成の平成8年6月付の「全国高校総体インターネット事業について」と題する書面(乙4の1枚目から7枚目まで)に記載されているところは、比較的詳しいものでも、「@マップ・ナビゲーション マップをベースに、観光名所・文化施設・伝統産業体験施設などの京都情報が検索できる。〈マップ〉カテゴリー→エリア地図(8q四方)→詳細地図(→2q四方)〈データ〉社寺/約100件 文化・伝統産業/約70件 *当初入力分」「Aカレンダー 年間の伝統行事を紹介するほか、観光イベント等をトピックスで紹介する。〈伝統催事〉9〜12月一括掲載(約20件/月) 年間更新 〈イベント〉2〜3件/月 毎月更新 〈花だより〉桜、紅葉の開花・色付き速報」という程度のものであり、これはホームページの内容の大枠の指定というべきもので、具体的な素材の選定・配置・作成まで指定したものということは到底できない。したがって、上記1で著作物とされたものについて京都市を著作者と認めることはできない。
 被告は、本件画面について、いずれも、委員会の指示に基づき、委員会が提供した文字情報、写真などの素材を画像化したものであり、配列にも京都市のチェックが入っている旨主張するが、これを客観的に裏付けるに足りる的確な証拠はないから、採用することはできない(なお、京都市が素材を提供したとしても、原告は、これについて著作権を主張しているわけではないから、この点は、上記著作物の著作者の判断に影響するものではない。)。
 被告は、また、本件マップナビゲーションシステムについて、地図を層構造にしたのは、委員会の指示に基づくものである旨主張する。確かに、上記のとおり、乙4の書面において、地図を層構造にするという構想は記載されているが、具体的な表現の指示まではないし、同企画案では、全体、エリア、詳細の三階層の地図システムが考えられていたのに対し、最終的な本件マップナビゲーションシステムにおいては、原告における種々のテスト評価の結果、エリア地図(8キロメートル四方)をやめて二階層の地図システムにしたのであるから(原告代表者の供述)、これを京都市の指示による制作とみることは到底できない。
(2) 被告は、本件地図について、本件地図に入れる文字情報や同一画面に複数通り名の表示をするなどは、被告の指示によるものである旨主張し、被告代表者はこれに沿う供述をする。そして、原告代表者の陳述書(甲13)において、「マップナビゲーションシステムで、文字情報、通り名の配置に関して、被告が著作権を主張されていますが、このことをふまえて全体著作権の20%を被告には与えています。」との記載があることに照らせば、原告もこれを実質的には認めているとも考えられる。しかし、被告による指示がどの程度具体的であったのかを認定するに足りる証拠はなく、被告を創作者であったと認めるに十分ではない。
3 争点(3)(本件マップナビゲーションシステムの複製行為の有無)について 本件マップナビゲーションシステムを、全域図を示す画面、詳細地図を示す画面、観光情報を示す画面を選択し配列した編集著作物ととらえる限りにおいて、本件CD−ROMについても、二条城近辺に限定して、これが再現されているものといえるから、この限度で複製が肯定される。
 しかし、上記を除いては、複製を認めることができない。すなわち、本件地図は本件CD−ROMに収納された本件ホームページのクリックボタンからは検索できず、また、本件CD−ROMに上記を除いた本件地図が収納されている旨の記載もなく、かような無意味な複製をすることは考え難い。
 被告は、本件CD−ROMでは、Javaは機能しておらず、単に体験版としてイメージマップでリンクしているだけであり、CD−ROMの制作に本件マップナビゲーションシステムは使用していない旨主張するが、これは上記の編集著作物を機能させるソフトウエアについての主張であって、表現されたものについての主張ではないから、失当である(ソフトウエアが複製されずとも、編集著作物が有形的に再生されることはあり得る。)。
4 争点(4)(著作物の改変行為・氏名表示権侵害の有無)について
(1) 基本的事実関係に記載したとおり、本件CD−ROMでは、大文字五山送り火の検索のみが可能であり、また、二条城の観光情報のみが検索可能である。したがって、この点に関し、イベント検索システム及び本件マップナビゲーションシステムの同一性は損なわれているといわざるを得ない。もっとも、これは、改変行為というより、むしろ、一部複製行為というべきものである。
(2) 原告は、被告が、本件CD−ROMの制作者を被告とし、協力者として原告を表示したことをもって、氏名表示権の侵害に当たる旨主張する。しかし、第3委託契約の下請である原告の地位を表示するものとして不正確とまではいえないから、上記主張は採用することができない。
5 争点(5)(著作権の譲渡ないし利用許諾の有無)及び争点(6)(被告の故意・過失の有無)について
(1) 前記基本的事実関係記載の事実及び証拠(甲5ないし9、乙3、10ないし15、原・被告各代表者)によれば、以下の事実を認めることができる。これに反する原告代表者の供述部分及び陳述(甲4)部分、被告代表者の供述部分及び陳述(乙15)部分はいずれも採用しない。
ア 被告は、平成9年11月6日、第3委託契約により、京都市から高校総体インターネット事業に係る記録CD−ROMの制作を、予算額400万円、作成枚数1000枚の約定で委託されたが、同委託契約においては、CD−ROMの著作権は京都市に帰属するものとされた。京都市は、これを参加高校等に無料配布する予定であった。
イ 被告は、上記受注した作業のうち、ホームページソースコードの修正及びCD−ROMのデジタルデータチェックを原告に下請させた。その際、被告は、原告に対し、CD−ROMの著作権は京都市に帰属すること、マップナビゲーションシステムはCD−ROMに不要であり、そのため、二次使用料は発生しないことを告げたが、原告からは特段の異議は述べられず、平成10年1月5日ころ、代金100万円で下請契約が成立した。なお、被告としては、ソフトウェアとしてのマップナビゲーションシステムは使用しないが、本件ホームページをCD−ROM化する以上、画像及び地図は当然にサンプルとして使用するとの認識であったが、原告との間でこの点に関して明確な確認はされなかった。
ウ 原告担当者のBは、平成10年2月18日水曜日付の被告宛の電子メール(乙10の4枚目)で「修正MOですが、金曜日の午前中にお渡しできるようにしたいと思いますのでよろしくお願いします。」と被告に通知し、同月20日、修正済みとの記載のある本件MOを被告に交付した。これには35枚の地図データが入っていた。
 (原告は、本件MOがデモンストレーション用として渡した途中修正版である旨主張するが、少なくとも被告がデモンストレーション用として本件MOを要求したと認めるに足りる証拠はない。)
エ 被告は、同月22日、原告に対し、「クイズでマップ」の二条城のデータを欲しい旨のファックスを送信したところ、原告は、本件マップナビゲーションシステムを使用される恐れがあるとして、翌23日に、マップナビゲーションシステムの使用許諾については別途契約書を作成することなどを内容とする契約書案(甲1)を被告にファックス送信した。しかし、被告側からはこれについて特段の応答がなかった。
 被告は、上記MOを利用して、本件CD−ROMを制作したが、その際、MOに含まれていた地図データ5枚を利用して、二条城に限定して本件マップナビゲーションシステムのサンプルを、また、五山の送り火に限定して、イベント検索システムのサンプルを制作した。
(2)ア 上記認定事実によれば、原・被告間で、マップナビゲーションシステムを除き、本件ホームページをCD−ROMに複製し、複製したCD−ROMは京都市が著作権を有することの合意があったものといえる。したがって、マップナビゲーションシステム以外の複製及び改変行為(サンプル的な一部複製行為)は、原告の包括的な許諾に基づく行為といえるし、少なくとも、イベント検索システムの創作性の程度に照らせば、その改変に違法性はないというべきである。
イ そこで、次に、被告が本件マップナビゲーションシステムを複製、改変したことについての被告の過失の有無を検討する。
 本件マップナビゲーションシステムは、全域図を示す画面、詳細地図を示す画面、観光情報を示す画面から構成される編集著作物であるところ、上記認定事実によれば、被告は、複製が禁じられる「マップナビゲーションシステム」は、編集著作物である本件マップナビゲーションシステムではなく、汎用性のあるソフトウエアとしてのマップナビゲーションシステムであると考えていたというのである。このことは、原告代表者が本人尋問において「マップナビゲーションシステム」の事業化を考えていた旨供述するところからも裏付けられるところである(本件マップナビゲーションシステムすなわち高校総体時点での京都市全域図を示す画面、詳細地図を示す画面、観光情報を示す画面という限定された素材を使用したシステムが事業化できるはずはない。)。そして、ホームページの記録保存という事業目的の限度で、ソフトウエアとしてのマップナビゲーションシステムを使用せずに、編集著作物としての本件マップナビゲーションシステムの限られた一部をサンプルとして複製することは許されるとの被告の認識は十分な合理性を有するものといえるところ、原告から受領した「修正済みMO」には、上記サンプルとしての利用に適する地図が入っていたのであるから、被告がこれを使用して本件CD−ROMを制作することは原告の許諾するところであると考えたとしても過失があるということはできない。もっとも、原告は、被告からの二条城のデータ要求に対し、甲1の契約書案を送付したのであるが、既に、原・被告間ではCD−ROM化についての下請契約が締結され、原告が修正済みMOを被告に交付した後のことであり、しかも、同契約書には、被告の行おうとしているサンプルとしての地図取り入れが本件マップナビゲーションシステムの著作権侵害であることを示すような文言は記載されていないのであるから、これをもって、被告の過失を裏付けるものということはできない。
6 結 論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。
    
京都地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 赤西芳文
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 鈴木紀子は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 赤西芳文
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