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【事件名】ゲームソフト「ワールドサッカー」事件(2)
【年月日】平成13年5月29日
 東京高裁 平成12年(行ケ)第461号 審決取消請求事件

原告 テクモ株式会社
代表者代表取締役 柿原彬人
訴訟代理人弁理士 西良久
被告 コナミ株式会社
代表者代表取締役 上月景彦
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 花水征一
同 木村耕太郎
訴訟代理人弁理士 足立泉


【主文】
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

【事実及び理由】
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 特許庁が平成一一年審判第三五六三六号事件について平成一二年一〇月一一日になした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
 主文と同旨
第二 当事者間に争いのない事実
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、商品区分第九類の「測定機械器具、配電用又は制御用の機械器具、回転変流機、調相機、電池、電気磁気測定器、電線及びケーブル、写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、電気通信機械器具、録音済み磁気カード、その他のレコード、メトロノーム、電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・CD−ROMその他の電子応用機械器具及びその部品、業務用ビデオゲーム機・業務用ビデオゲームのプログラムを記憶させた電子回路その他の遊園地用機械器具、電気アイロン、電気式ヘアカーラー、電気式ワックス暦き機、電気掃除機、電気ブザー、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、家庭用テレビゲームのプログラムを記憶させた磁気ディスク、同CD−ROMその他の家庭用テレビゲームおもちゃ」を指定商品とし、別紙審決書の写しの本件商標欄記載のとおり、「TECMO WORLD SOCCER」の欧文字と「テクモワールドサッカー」の片仮名文字を上下二段に横書きした構成から成る、登録第三三六七一五一号商標(平成六年一二月二一日登録出願、平成九年一二月一九日設定の登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告は、審決書写しの引用A商標、引用B商標欄記載のとおりの構成から成り、商品区分第九類の「サッカーゲームを内容とする遊園地用機械器具、サッカーゲームを内容とする家庭用テレビゲームおもちゃ、サッカーゲームを内容とする録画済ビデオディスク及びビデオテープ、サッカーゲームを内容とする映写フィルム、サッカーゲームを内容とするスライドフィルム、サッカーゲームを内容とする電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・CD−ROM・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器」を指定商品とする登録第三三三四六三二号商標(平成六年八月二四日登録出願、平成九年七月二五日設定の登録。以下「引用A商標」という。)と、同じく商品区分第二八類の「遊技用器具、ビリヤード用具、おもちゃ、人形」を指定商品とする登録第三二五九六五八号商標(平成六年八月二四日登録出願、平成九年二月二四日設定の登録。以下引用A商標とまとめて「引用各商標」という。)の商標権者である。
 被告は、平成一一年一一月二日、原告を被請求人として、本件商標は、引用各商標との関係で商標法四条一項一一号に該当するにもかかわらず登録されたものであると主張して、その登録を無効にすることにつき審判を請求した。特許庁は、これを平成一一年審判第三五六三六号として審理した結果、平成一二年一〇月一一日に、本件商標の指定商品中「電気通信機械器具、電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・CD−ROMその他の電子応用機械器具及びその部品、業務用ビデオゲーム機・業務用ビデオゲームのプログラムを記憶させた電子回路その他の遊園地用機械器具、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、家庭用テレビゲームのプログラムを記憶させた磁気ディスク、同CD−ROMその他の家庭用テレビゲームおもちゃ」(以下「本件商品」という。)について、その登録を無効とするとの審決をし、その謄本は、平成一二年二月七日原告に送達された。
二 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書の写しの理由に記載されたとおりである。要するに、本件商標と引用各商標とは、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念を共通にするものであるから、両商標はこの点において紛らわしく、出所の混同を生ずるおそれがあって、類似するものであり、また、本件商標の指定商品に含まれる本件商品は、引用各商標の指定商品と同一又は類似の商品であるから、本件商標の登録は、本件商品について、商標法四条一項一一号に違反してされたものであり、同法四六条一項により、これを無効とすべきものである、というものである。
第三 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は、本件商標と引用各商標とは、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念を共通にするものであるから、類似するものであるとしたが、本件商標は、「テクモワールドサッカー」という一連の称呼のみを有するものであるのに対し、引用各商標は、「ジッキョウワールドサッカー」ないし「ワールドサッカー」との称呼を有するものであるので、両者は、「テクモ」部分と「ジッキョウ」部分との相違あるいは「テクモ」部分の有無という形で明瞭な差異がある、非類似の称呼を有するものであり、その観念及び外観においても非類似である。したがって、審決は、本件商標と引用各商標の類似性についての認定、判断を誤ったものであって、この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
一 本件商標について
 審決は、「本件商標は……これを全体として称呼した場合はやや冗長に亘る」(審決書七頁下から五行〜同三行)、「本願商標は、「TECMO」「テクモ」の各文字と「WORLD SOCCER」「ワールドサッカー」の各文字とをそれぞれ結合してなるものと容易に認識し理解されるものといえる。ところで、「TECMO」、「テクモ」の各文字(標章)は……業務用ゲーム機器、家庭用テレビゲームソフトを主業務としわが国ゲーム機業界において中堅の一角を占める株式上場企業である被請求人会社がその事業を表彰し或いはその取り扱いに係るゲーム機器等を表示するための商標として、すなわち、被請求人会社に係る代表的出所標識として、取引者、需要者間において広く認識せられた標章とみて差し支えなく」(同八頁九行〜一七行)、「しかして、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、構成中の「TECMO」「テクモ」の各文字は、当該業務主体を表彰する代表的出所表示部分と捉え、以て、全体として「テクモの取り扱い(又は販売)に係るワールドサッカー(WORLD SOCCER)印(じるし)」の如く、「ワールドサッ力ー(WORLD SOCCER)」の文字をその取り扱いに係る個別商標(個別商品毎に使用するいわゆるペットネーム)と認識し、把握するとみるのが相当である。」(同八真二〇行〜二六行)として、本件商標から、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念をも生ずるとした。しかし、本件商標は、次に述べるとおり、「テクモワールドサッカー」として一連にのみ認識されるものであり、そこから「ワールドサッカー」との称呼及び観念が生ずることはない。
(1) 本件商標は、八音から成る「ワールドサッカー」部分、及び、三音から成る「テクモ」部分によって構成されているので、全体として一連によどみなく発音される。これを冗長な音数ということは許されない。また、本件商標は、同書同大で横一連に表記されているので、その文字構成上の観点からみても「TECMO」「テクモ」部分を「WORLD SOCCER」「ワールドサッカー」部分から分離する理由はない。
(2) 「ワールドサッカー」の意味は、取引の実際における経験則に照らして判断すべきものである。引用各商標と本件商標との共通の需要者は、引用各商標の指定商品によって限定され、引用各商標の指定商品は、サッカーゲームを内容とする商品に限定されているから、その需要者は、サッカーに興味を有する一般消費者である。そして、サッカーにおいて「ワールドサッカー」の名称は、サッカーの国際試合、すなわち、国籍を異にするサッカーチーム間の試合を示す名称として使用されているものであり、例えば、「シャープ・ワールドサッカー'90」、「ワールドサッカー'91」「コカコーラ・ワールドサッカー92」、「シャープカップワールドサッカー'97」、「KIRIN WORLD SOCCER」(一九九八年からのキリンカップの英語表記)、「ジャパンカップ・キリンワールドサッカー」(一九八○年から一九八四年までのキリンカップ)等のサッカーの国際試合があり、サッカーの試合を後援する企業名の略称や商標名を「WORLD SOCCER」や「ワールドサッカー」の前に冠して国際試合名を示す名称としている。このように、「WORLD SOCCER」の語は、サッカーの著名な国際試合名で使用し続けられているものであるから、需要者は、「ワールドサッカー(WORLD SOCCER)」の語から、サッカーの国際試合を認識するのが自然である。また、スポーツの試合名の前に、その試合を後援する企業名の略称や商標名を冠する例は、タイトル・スポンサーシップ又は冠スポーツと呼ばれて一般的である。したがって、本件商標からは、テクモが後援する「ワールドサッカー」(サッカーの国際試合名)という一連の意味合いが感得されるものである。
 「テクモ」は、原告の略称であり、審決が認定するとおり、原告に係る代表的出所標識として、取引者・需要者間において広く認識された標章である。本件商標は、このように広く認識された企業名の略称である「TECMO」「テクモ」とサッカーの国際試合を意味する「WORLD SOCCER」「ワールドサッカー」とが一体に結合したものであるから、需要者は、本件商標を「テクモが後援するサッカーの国際試合名」という一連の意味を有するものと認識し、そこからは「テクモワールドサッカー」の一連の称呼しか生じない。したがって、審決がいうように、「テクモ」の販売に係る「ワールドサッカー印」と認識することはあり得ない。
(3) 本件商標の「ワールドサッカー」の語は、引用各商標の指定商品であるサッカーゲームに関する商品との関係では、サッカーの国際試合あるいはこれを模したサッカーのビデオゲームを示すもので、商品の内容を表示したものにすぎず、識別力を有しないため、この部分が類否判断の要部として抽出され、対比されることはない。したがって、本件商標は、「テクモワールドサッカー」として一連にのみ称呼されるものである。
二 引用各商標について
 審決は、「実況」の文字部分は、「家庭用、業務用を問わずこの種サッカー競技を模したテレビゲーム機又は同ゲームソフトないしは同機器関連の通信用機器及び電子機器等の分野においては、需要者に対し当該ゲームが恰も実際に中継放送される放映画面の如く臨場感を備えた映像又は同映像を可能とさせるべく企画・設計してなる各種映像関連機器の品質を一種誇称的に表示するもの」(審決書九頁九行〜一四行)であり、「専ら前記「ワールドサッカー」の語に従属し又はそれを修飾するものとして認識し把握されるとみるのが相当である。」(同九頁一五行〜一六行)ので、取引者・需要者が、引用各商標につき、「「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼・観念をもって簡便に取引に資する場合も決して少なくないとみるのが取引の経験則に照らし相当である。」(同九頁二〇行〜二二行)と認定している。しかし、この認定は誤りである。
 まず、「実況」の語は、「物事の、実際に行われている状況」の意味を有するものであって、「実況中継」の意味を有するものではない。
 次に、「ワールドサッカー」の語は、サッカーの国際試合名を意味する名称として、引用各商標の出願前から使用されており、引用各商標の指定商品もサッカーゲームを内容とするものに限られているから、その需要者には、サッカーに興味を有する者が含まれている。そうである以上、「ワールドサッカー」の語は、サッカーの国際試合を模したゲームソフトの名称として使用される限り、単にその内容を表示するものとしての意味しか持ち得ず、それ自体では識別力を欠くから、引用各商標から「ワールドサッカー」の称呼が生じることはあり得ない。
 したがって、引用各商標は、「ジッキョウワールドサッカー」として一連にのみ認識されるというべきである。
三 類否判断について
 本件商標からは、「テクモワールドサッカー」の称呼が生じ、テクモが後援するワールドサッカー(サッカーの国際試合名)との観念が生じる。これに対し、引用各商標からは、「ジッキョウワールドサッカー」あるいは審決のいうとおり「ワールドサッカー」の称呼が生じる。したがって、いずれにしても、引用各商標と本件商標とは、「テクモ」の部分に関して称呼上明瞭な差異を有し、観念も異なることが明らかである。
 また、本件商標の「WORLD SOCCER」「ワールドサッカー」の部分は、サッカーの国際試合名を意味するものであって、この部分だけでは、引用各商標の指定商品との関係では、単に内容(品質)を表示したものにすぎず、識別力を有しないため、この部分が類否判断の要部として抽出して対比されることはあり得ない。
第四 被告の反論の要点
 審決の認定・判断は、正当であり、審決に原告主張のような違法はない。
一 本件商標について
 取引者・需要者は、本件商標の「TECMO」ないし「テクモ」の部分を原告の営業標識ないし会社名の略称と認識したうえ、全体としての本件商標を「テクモの取り扱い(又は販売)に係るワールドサッカー(WORLD SOCCER)印(じるし)」と認識し、把握するものというべきである。そして、この状況の下では、取引者・需要者が、本件商標を付した商品について、単に「ワールドサッカー」(世界のサツカー)の称呼及び観念をもって取引に当たる場合も決して少なくないと認められるから、本件商標からは単に「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念も生じるということができる。なお、原告は、審判においては、本件商標から「テクモワールドサッカー」の称呼及び観念のほかに、「ワールドサッカー」の称呼及び観念も生じる可能性があることを認めておきながら、本訴では、「ワールドサッカー」の称呼が生じることはない旨その主張を変更し、審判における主張と矛盾した主張をしている。
二 引用各商標について
(1) 引用各商標においては、「実況」部分の文字が「ワールドサッカー」部分の文字よりも小さく、両部分の文字の態様(書体を含む)も異なっており、そのため、両部分は、視覚上おのずと分離して看取されることになる。また、「ジッキョウワールドサッカー」の称呼は、全一二音とやや冗長にわたる音構成であり、さらに、意味のうえでも、「実況」の文字部分は、専ら「ワールドサッカー」の語に従属し又はそれを修飾するものであるから、取引者・需要者が、単に「ワールドサッカー」(世界のサッカーの称呼及び観念をもって簡便に取引する場合も、決して少なくないのである。したがって、引用各商標からは、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念も生じるということができる。
(2) 被告のゲームソフトの中で、「ワールドサッカー」の語を含むシリーズは、第一作の「実況ワールドサッカー PERFECT ELEVEN」がヒットしたのを始めとして、第二作以降も、サッカーゲームの定番として確たる人気を誇っている大ヒットシリーズである。このように、被告が並々ならぬ努力を継続して築きあげてきた「ワールドサッカー」シリーズに対し、仮に、他社が「○○○ワールドサッカー」のように会社名を冠した点だけが異なる商標を自由に使用することができるとするならば、商標制度は意味をなさないものとなる。原告の本件商標の存続を許すことは、被告の「ワールドサッカー」シリーズの名声に対する、原告によるただ乗り行為を許すことにほかならない。
三 原告の主張に対する反論
(1) 「テクモ」が、原告に係る代表的出所標識として取引者・需要者間に広く認識されているということは、それがゲーム製作会社としての原告の代表的出所標識として広く認識されているということである。このような状況の下では、本件商標に接した取引者・需要者は、「TECMO」「テクモ」の各文字を当該業務主体を表彰する代表的出所表示部分ととらえ、「ワールドサッカー(WORLD SOCCER)」をその取り扱い商品に係る個別商標と認識することになるのである。
(2) 「ワールドサッカー」の語は、サッカーの特定の大会を指す名称として認識されているものでも、サッカーの国際試合を意味する普通名詞として使われているものでもない。したがって、「ワールドサッカー」の語は、広く「世界のサッカー」という程度の意味合いを感得させる以上の意味を持たない語であり、「ワールド」と「サッカー」とを結合させて一つの語とした一種の造語とみるべきものであるから、識別力を十分に有するものである。また、この点はおくとしても、引用各商標も本件商標も、実際のサッカーの試合の企画・運営を指定役務としているわけではないことを忘れるべきではない。サッカーのテレビゲームと実際のサッカーの試合とは、全く別物であり、取引者・需要者を異にする全く別の種類の商品と役務である。引用各商標や本件商標の指定商品の需要者に実際のサッカーの試合に興味を有する者が含まれているとしても、このことに変わりはない。
第五 当裁判所の判断
一 本件商標について
(1) 「TECMO」ないし「テクモ」は、業務用ゲーム機及びテレビゲームソフト等の製作、販売を主たる業務とする原告の略称ないし商標として、取引者・需要者間において広く認識された標章である(争いがない。)。「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の語は、一般の日本人にとっても分かりやすい英語ないしは片仮名言葉の日本語であって、世界のサッカー、あるいはサッカーの国際試合程度の意味合いで認識されるものである(当裁判所に顕著である。)。これらの状況の下で、原告が、業務用ゲーム機あるいは家庭用テレビゲームソフト及びその関連機器等に本件商標を使用した場合、これに接する取引者・需要者は、本件商標の構成中の「TECMO」ないしは「テクモ」の語を、当該商品の取り扱い主体を表示する代表的出所表示部分としてとらえ、「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の語を、原告の個別商標、すなわち、原告の取り扱いに係る多くの商品の種類を個別化して特定するための商標の一つと認識し、把握するものと認めるのが相当である。そして、本件商標は、全部で一一音から成り、一連のものとして称呼することの容易性の観点からみた場合、比較的冗長なものということができることを考慮すると、この種商品の取引者・需要者が、その代表的出所表示部分を省略して個別商標部分である「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」をもってこれを称呼することがしばしば見受けられるであろうことは、容易に推測されるところである。以上により、本件商標については、「テクモワールドサッカー」との一連の称呼が生じるほか、「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の各文字部分に対応して、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)との称呼及び観念も生じるものと認められる。
(2) 原告は、本件商標について、テクモすなわち原告が後援して開催するサッカーの国際試合との一連の観念が生じるものであるから、本件商標からは「テクモワールドサッカー」との一連の称呼しか生じない旨主張する。しかし、本件商品が、サッカーの国際試合の企画、運営等の役務ではなく、業務用ゲーム機あるいは家庭用テレビゲームソフト及びその関連機器等であることからすると、テクモすなわち原告が後援する有名なサッカーの国際試合が実際に存在し、継続的に開催されているなどの特段の事情がない限り、本件商品について本件商標が使用された場合、その取引者・需要者が、これを原告が後援して開催するサッカーの国際試合ないしそれを模したテレビゲームと認識し、把握するものと認めることはできない。ところが、上記特段の事情に該当する事実は、本件全証拠によっても認めることができない。原告の上記主張は、採用することができない。
 また、原告は、「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の語は、引用各商標の指定商品との関係では、単に商品の内容を表示したものにすぎず、識別力を有しないため、この部分が類否判断の要部として抽出して対比されることはない旨主張する。
 確かに、引用各商標をその指定商品に使用した場合、その使用が、サッカーゲームに無関係なおもちゃに使用するなど不自然なものでない限り、引用A商標(この指定商品は、すべてサッカーゲームを内容とするものに係るものである。)に典型的にみられるように、そこでの「WORLD SOCCER」ないし「ワールドサッカー」の語は、商品の内容を表示することになる。しかし、そのことは、これらの語が商品の出所を表示するものとしての識別力を持たないことに直ちにつながるものではない。これらの語が出所を表示するものとしての識別力を有するか否かは、それが用いられる商品により変わり得るものというべきである。これらの語は、サッカーの国際試合そのものの企画、運営等に関して用いられる場合には、それ自体では、その内容を示すのみで、上記識別力は持ち得ないであろう。しかし、これらの語が、引用各商標の指定商品との関係で、その中の特定のものの内容を示す一般的な名称となっていることは本件全証拠によっても認められないから、これに接した取引者・需要者がそこから特定の出所を認識することは、十分あり得ると考えるのが合理的というべきである。現に、〈証拠略〉によれば、被告は、被告の製作、販売に係るサッカーのテレビゲームソフトに、「実況ワールドサッカー」「実況ワールドサッカー2」「実況ワールドサッカー3」「実況ワールドサッカー2000」及び「ワールドサッカー実況ウイニングイレブン'97」「ワールドサッカー実況ウイニングイレブン3」「ワールドサッカー実況ウイニングイレブン4」「ワールドサッカー実況ウイニングイレブン2000」「ワールドサッカーウイニングイレブン5」等の商標を使用し、また、「ワ−ルドサッカー」シリーズの商品との表示も使用するなどしており、家庭用テレビゲームソフトとしては、「ワールドサッカー」シリーズとして継続的ないわゆるヒット商品となっていることが認められ、上記事実によれば、「ワールドサッカー」との語は、テレビゲームに関連する指定商品について、それ自体識別力を有する商標として使用されているものと認められるのである。原告の上記主張は、採用することができない。
二 引用各商標の称呼・観念について
(1) 引用各商標は、別紙審決書写しの引用A商標、引用B商標欄記載のとおり、左方からやや右上がりにはけで掃いたような薄墨色地模様を背景として、その模様の中央部に「ワールドサッカー」の片仮名文字を横書きし、「ワ」の文字の上部にやや小さく「実況」との漢字を陰影を施して横書きした構成から成ることから、「実況」の語と「ワールドサッカー」の語とは、視覚上、おのずと分離して看取されることになる。また、「ジッキョウワールドサッカー」の語は、一連のものとして称呼することの容易性の観点からみた場合、全一二音とやや冗長にわたるものである。さらに、「実況」の語は、その語義に照らし、業務用ゲーム機ないし家庭用テレビゲームソフトあるいはその関連機器の分野においては、需要者に対し、当該ゲームがあたかも実況放送される放送画面の如く臨場感を備えた映像であること、あるいは、そのような映像を可能とした企画、設計のテレビゲーム等であることを表示するもの、すなわち、上記「ワールドサッカー」の語を修飾する語として認識し、把握されるものと認められる。このような状況下で、引用各商品をその指定商品に使用した場合、取引者・需要者は、引用各商標の構成中の顕著な部分である「ワールドサッカー」の文字部分に着目し、「実況(ジッキョウ)ワールドサッカー」の称呼及び観念によることなく、「ワールドサッカー」(世界のサッカー)の称呼及び観念をもって簡便に取り引きする場合も少なくないとみるのが相当である。
(2) 原告は、「ワールドサッカー」の語は、サッカーのテレビゲームに使用した場合、ゲームの内容を表示したにすぎず、識別力を欠くものであるから、引用各商標から「ワールドサッカー」(世界のサッカー)との称呼及び観念が生じることはない旨主張するが、「ワールドサッカー」の語が、引用各商標の指定商品に関し、識別力を有するものであることは、上記一(2)のとおりであるから、原告の上記主張も、採用することができない。
三 本件商標と引用各商標との類否について
 上記一及び二に認定したところによれば、本件商標と引用各商標は、いずれも「ワールドサッカー」としての称呼及び観念をも生ずるものであるから、その称呼及び観念を共通にするものであり、その外観の差異を考慮したとしても、両者は、その出所の混同を生じさせるほどに類似しているものと認められる。そして、本件商標の指定商品の一部である本件商品が、引用各商標の指定商品と同一又は類似の商品を含むことは、明らかである。
 したがって、本件商標の登録は、本件商品について商標法四条一項一一号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、本件商品についての登録は、同法四六条一項により、これを無効とすべきである。
四 以上のとおりであるから、原告主張の審決の取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第六 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸

別紙 審決書の写し〈略〉
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