判例全文 line
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【事件名】自動車整備用システムソフトの無断複製事件
【年月日】平成13年5月25日
 東京地裁 平成8年(ワ)第10047号 損害賠償等請求事件(甲事件)
 /平成8年(ワ)第25582号 不正競争行為差止請求事件(乙事件)

中間判決
甲事件原告(乙事件被告) 翼システム株式会社
訴訟代理人弁護士 宮下佳之
同  高橋美智留
訴訟復代理人弁護士 吉能平
同 米津航
甲事件被告(乙事件原告) 株式会社システムジャパン
訴訟代理人弁護士 安江邦治


主文
 甲事件の請求中、不法行為に基づく損害賠償請求の原因は理由がある。

事実及び理由
第1 請求
(甲事件)
1 被告は、別紙物件目録記載の製品を、製造し、販売し、その他頒布してはならない。
2 被告は、原告に対し、金9億5000万円及びこれに対する平成8年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
被告は、別紙不正競争目録記載の事実の告知又は流布をしてはならない。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1)ア 甲事件原告(乙事件被告)(以下、単に「原告」という。)は、コンピューター、オフィスオートメーション機器及び通信機器の販売及び賃貸並びにコンピューターのソフトウェアの開発、販売及び賃貸等を業とする株式会社である。
イ 甲事件被告(乙事件原告)(以下、単に「被告」という。)は、ビデオ機器、コンピュータの販売、ビデオ機器のレンタル、リース及び修理並びにビデオソフト・コンピュータソフトの企画、編集、製作、販売、レンタル及びリース等を業とする株式会社である。
(2)  原告は、昭和61年、自動車整備業用システムである「スーパーフロントマン」(以下、「原告システム」という。)を開発した(甲25、弁論の全趣旨)。
 原告システムは、自動車整備業者において、見積書、作業指示書、納品書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両等に関する入力データをデータベース化し、顧客管理やダイレクトメールの発送等に活用できるように構成されたものであるが、日本国内において実在する四輪自動車(以下「実在の自動車」という。)に関する一定の情報を収録したデータベースである「諸元マスター」を構成要素としている(甲1、25、弁論の全趣旨)。
 原告は、平成6年ころ、諸元マスターの平成6年度版(以下「本件データベース」という。)を作成し、同年6月ころ、その販売を開始した(甲27、56、検甲4、弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、昭和61年3月ころから、自動車整備業用システムである「トムキャット」(以下「被告システム」という。)を製造販売している(乙62、乙事件甲1、弁論の全趣旨)。
 被告システムは、自動車整備業者において、見積書、作業指示書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両に関する入力データをデータベース化し、顧客管理等に活用できるように構成されたものであり、実在の自動車に関する一定の情報を収録したデータベース(以下、「被告データベース」という。)がその構成要素となっている(甲2、弁論の全趣旨)。
2 本件のうち、甲事件は、原告が、「被告は、本件データベースを複製しているところ、この複製は、本件データベースの著作権を侵害するか又は不法行為を構成する。」と主張して、被告システムの製造等の差止め及び損害賠償を求める事案であり、乙事件は、被告が、「原告が被告の取引先等に虚偽事実を告知した。」と主張し、虚偽事実の告知等の差止めを求める事案である。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張
1 争点
(1) 本件データベースの著作物性
(2) 被告が本件データベースないしその車両データを複製したかどうか
(3) 被告が本件データベースの車両データを複製したことが不法行為に当たるかどうか
2 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告の主張)
 本件データベースは、多様な媒体に散在する一定の自動車に関する情報のうち、自動車整備業を営む者が効率的に業務を行うことを支援するという思想に基づいて、創作的に、データベースに蓄積すべきデータを選択して、これを体系的に構成して開発したもので、対象となる自動車の選択、対象となるデータ項目の選択及び体系的構成の観点から創作性を有するから、著作権法12条の2に規定するデータベースの著作物に該当する。
ア 本件データベースは、情報の集合物であって、情報を、一定の方式に従って階層化し、関連付けることによって、電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したものであるから、著作権法2条1項10号の3にいう「データベース」に該当する。
イ 本件データべースが対象としている自動車は、昭和57年6月発刊の社団法人自動車販売協会連合会発行の年製別型式早見表(以下「年製別型式早見表」という。)に掲載された自動車及び平成元年7月12日付けから平成6年2月10日付けまでの官報に掲載された自動車等のうち、国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車であって、原告が実際に日本国内において適法に運行の用に供されていると判断した自動車のみを対象としている。
 自動車は、道路運送車両法75条1項により運輸大臣から型式の指定を受ける際、指定番号(以下「型式指定番号」という。)が付され、エアコンその他の装備の有無等に応じて、各メーカーによって、3桁の番号(以下、「類別区分番号」といい、型式指定番号を含めた番号を「型式指定−類別区分番号」という。)が付される。
 自動車メーカーは、自動車の販売を計画して類別区分番号を付しても、その後の計画変更等により実際にはその自動車を販売しない場合もあるので、一定の時期に販売されていた自動車は、一義的に決定できるものではなく、車検証、各自動車メーカーが発行しているカタログなどの資料を参照して、検討、選別するという知的精神活動を必要とする。
 原告は、複数のデータソースを収録選別の基準として使用し、各データソースの信頼度に対する評価、判断に基づいて、本件データベースに収録する自動車を選別している。
 また、本件データベースのように極めて多数の型式指定−類別区分番号を管理するデータベースの場合、個別の評価・判断が集積するに従って、作成者の個性が強く現れるから、本件データベースは、他社のデータベースと、収録対象が相当異なっている。
 このように、本件データベースは、データソースの評価や、各データソースにある自動車が実在しているか否かについての原告独自の判断が反映されている点及びその結果として原告独自の型式指定−類別区分番号の車両が選択されている点において、創作性を有する。
 また、本件データベースには、他業者による無断複製を検知するために原告が創作した架空の自動車のデータ(以下「ダミーデータ」という。)も含まれているところ、架空の自動車の件数、そのデータ内容等の選択、構成には、相当の創意工夫が必要である。
 さらに、本件データベースには、各型式指定番号に属する自動車の代表データとして類別区分番号が「000」である架空の自動車が収録されている。
ウ 本件データベースは、自動車整備業を営む者が、主に、自動車検査証を作成するために用いることを想定して作成されている。そのため、本件データベースに収録されている車両データ項目は、対象自動車に関する全ての情報を網羅しているのではなく、型式が公表される官報、年製別型式早見表、各自動車メーカーが発行しているカタログ、社団法人自動車技術会発行の自動車諸元表(以下「自動車諸元表」という。)等において開示される多様な情報から、効率的に業務を行う上で必要かつ十分である項目として原告が選択した下記の項目のみを収録している。これらの項目は、自動車検査証に記載すべき記述形式に準拠しているものが多いが、自動車検査証に記載する必要がない「車種」(下記d)を含むなど、創作的な特徴を有する。
 a 型式指定番号
 b 類別区分番号
 c メーカーコード
 d 車種コード
 e 型式
 f 種別コード
 g 用途コード
 h 車体形状コード
 i 寸法(長さ・幅・高さ)
 j 軸重(FF、FR)
 k 定員
 l 最大積載量
 m 車両重量
 n 車両総重量
 o エンジン(原動機)形式
 p 総排気量
 q 燃料コード
 本件データベースは、(a)原告が開発した自動車部品のデータベースと連携して使用できるという思想、観点から、データ項目に対応するデータの内容について、(ア)「メーカー」として、「ダットサン」と標記すべきところを「日産」と表示するなど、自動車検査証において表示すべきものとは異なるメーカー名を一部用いている、(イ)「車種」として、「コロナエクシブ」を「コロナ」と標記するなど、一般的に使用されている名称以外の名称を相当数用いている、(b)原告独自の各種コード番号が選択されている、(c)各数値データが参照した資料に記載された数値そのものではなく、原告が設定したチェックロジックによって検証されたデータである等の諸点において創作的な特徴を有する。
エ 本件データベースは、別紙「データ項目の分類及びその属性等」のようにデータ項目を分類し、各項目の属性等を決定することにより設計されたものであるので、体系的な構成において創作性を有する。
(被告の主張)
 本件データベースの個々の情報には著作物性がない。したがって、本件データベースに著作物性が認められるには、含まれる情報の選択又は体系的な構成のいずれかにおいて創作性が認められなければならない。
ア 本件データベースにおいて、実在の自動車を選択していること、車検証、メーカーのカタログ等を用いて収録自動車を選択していること、対象自動車を国内自動車に限定していることは、他社製品のデータベースでも同様であり、本件データベースの創作性を基礎付けることにならない。
 また、架空の自動車については、データベースそのものとは何らの関係も有さない単なるおとり情報であるから、架空の自動車の情報が含まれているからといって、本件データベースに創作性が付与されるものではない。
イ 本件データベースの情報項目のうち、「メーカー」以外の情報項目は自動車検査証に記載されるべき項目そのものであって、自動車検査証に合致させるために選択されたものである。また、「メーカー」についても、現実には、自動車検査証にこれを記載することが一般的実務となっているので、結局、本件データベースの情報項目は、自動車検査証に存在する情報項目をそのまま選択したものである。したがって、情報項目の選択に創作性はない。
 原告が、車種の名称として独自の名称と主張する名称は、自動車販売会社のカタログ等で一般的に使用されているものである。また、原告独自の各種コード番号なるものは、情報の選択とは別個の問題であって、情報の選択の観点からは何の意味も有しない。
ウ データベースの体系的な構成に創作性があるというためには、思想又は感情を創作的に表現したものといえるような個性的な体系的構成を有していることを要するが、本件データベースの体系的構成は、従来公知のデータベースにおける構成と対比して、創作性を有するとはいえない。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
ア 被告は、平成6年末ころ、本件データベースを入手し、そのうち、型式指定−類別区分番号4800−001から7619−004までの自動車の車両データをそのまま機械的に複製した車両データベース(RUIBETU.DATというファイル名のもの。以下、「被告データベース1」という。)を作成し、これを顧客に販売した。
(ア) 原告は、平成8年初めころ、東京都内の被告システムのユーザーが被告データベース1を使用していることを発見した。この被告データベース1には、本件データベースに収録されている自動車のうち、一定の型式指定−類別区分番号以降の自動車が、原告が創作したダミーデータを含め全て収録されていた。
(イ)  被告は、有限会社鏑木自動車整備工場(以下、「鏑木自動車」という。)に、平成6年12月11日ころ、被告データベース1を提供した。そのことは、次の各事実から明らかである。
a 原告の従業員は、平成8年9月26日、鏑木自動車の従業員の立会のもと、同社が使用している被告システムにダミーデータの型式指定−類別区分番号を入力し、このシステム内のデータベースにダミーデータが存在することを確認したうえ、同月28日、このデータベースがインストールされているハードディスクを、初期化した別のハードディスクにそのまま複製し、この複製したハードディスクを、鏑木自動車の代表者の面前で、同社の代表者印で封印した。この複製されたハードディスクは、公証人の前で開封され、CDR(検甲1)に複製された。
 被告は、平成8年10月末ころ、鏑木自動車に対し、新たにRUIBETU.DATというファイル名の車両データベースを無料で提供して、被告データベース1に上書きし、平成11年3月3日、鏑木自動車のこの上書きしたデータベースが格納されたハードディスクをCDR(検乙1)に複製した。
b 検甲1に複製されたデータベースが、鏑木自動車において、上記上書きがされるまで使用されていたデータベースであることは、以下の事実からも明らかである。
(a) 被告データベースにおいて、ユーザーが新規に登録した型式指定−類別区分番号及び被告が収録した車両データをユーザーが更新した型式指定−類別区分番号については、フラグ「1」が記録される。ユーザーが新規に登録した型式指定−類別区分番号は、被告が提供した型式指定−類別区分番号の末尾に連続して記録される。また、被告がデータを更新する場合、フラグ付きデータは当初の位置にそのまま残存する。
 検甲1中のRUIBETU.DATファイルと、検乙1中のRUIBETU.DATファイルは、9031件から6万1699件まで及び6万1792件から6万1901件までのフラグ付きデータが、同一件数目に同一内容で記録されている。これだけ広範囲のフラグ付きデータが同一になることは、これらのファイルが同一のユーザーによって運用されたのでなければあり得ない。
(b) 検甲1中のRUIBETU.DATファイルの末尾の型式指定−類別区分番号は、原告の従業員が平成8年9月26日に確認したダミーデータである。このダミーデータは、検乙1中のRUIBETU.DATファイルにも含まれ、そのデータ内容は、原告従業員が上記確認時に所持していたメモにおいて、このデータの直前の行に記載されたものと同一である。鏑木自動車が実在しないダミーデータを入力するとは考えられないから、このデータは、原告の従業員が、鏑木自動車でダミーデータを確認した際に記録されたものとするのが自然である。
(c) 検乙1中のRUIBETU.DATファイルの先頭には、型式指定ー類別区分番号4800−001のデータがあり、このデータにはフラグが付されているが、ユーザーが新規に登録するデータが先頭部分に記録されることは上記主張のとおりあり得ないことからすると、結局、鏑木自動車には、先頭がこの番号である車両データベースが提供されていたと考えざるを得ないところ、検甲1中のRUIBETU.DATファイルの先頭の型式指定−類別区分番号は、4800−001である。
c 検甲1中のRUIBETU.DATファイルには、型式指定−類別区分番号4800−001から7619−004まで、6万0238件の車両データが収録されているが、これらの型式指定−類別区分番号は、本件データベースに含まれているものと全く同一である。
 検甲1中のRUIBETU.DATファイルには、本件データベースに収録されているダミーデータのうち、収録範囲内であるものが5件含まれている。道路運送車両法75条1項により運輸大臣に指定された自動車の件数は原告システムで対象としているものだけでも15万件に及ぶから、ある者が創作した架空の自動車に関するデータが他の者が創作した架空のデータと偶然一致することはあり得ない。
 本件データベースは、「車種」につき、車検証に表記する名称と異なる名称を使用しているものがあるが、検甲1中のデータベース及び検乙1中のデータベースにおいても同一の名称が用いられている。検乙1中のデータベースでは、本件データベースと同一の範囲の型式指定−類別区分番号の自動車については、本件データベースと同一の車種の名称を用い(コロナ、カリーナ等)、範囲以外の自動車については、一般的な車種の名称(コロナエクシブ、カリーナED等)を用いている。
 したがって、検甲1中のRUIBETU.DATファイルは、被告データベース1にほかならない。 
 d 検甲1中のRUIBETU.DATファイルが格納されたドライブ中の実行ファイルが、「MS」との名称のフォルダー中のものを除き、すべて平成6年12月11日であることからすると、被告データベース1は、同日ころ鏑木自動車に納入されたものと推認される。
T 原告は、鏑木自動車の社員立会のもと、平成8年9月26日(甲36別紙の黄色線によると9−27の可能性もあると被告は主張したいようだが、これは、鏑木の同日の営業の際に更新された可能性もある)、鏑木自動車が使用しているデータベースにダミーデータを入力し、ダミーデータが存在することを確認したうえ、同月28日、このデータベースをコピーし、封印した(甲40、38、A証人)。このハードディスクは、公証人の前で、この封印が破られ、CD−R(検甲1号証)にコピーされた(甲34)。
U 検甲1号証のデータベースには、型式指定番号−類別区分番号4800−001から7619−004まで、6万0238件の車両データが収録されている(検甲1と本件データベースは、形式指定−類別区分番号が全く同一である(甲43))が、本件データベースに収録されているダミーデータのうち、収録範囲内であるものが5件含まれている(しかも、フラグが付いていない)。
 本件データベースで空欄となっていた一定の車種に関するデータ部分は、検甲1号証でも同様に空欄になっている。
 本件データベースは、「車名」「車種の名称」につき、車検証に表記する名称と異なる名称を使用していたが、検甲1号証でもそのまま用いていられている。
 被告データベースには、本件データベースに含まれていない車種に関するデータは一切含まれていない(訴状)
 被告データベースのデータ項目は、本件データベースに収録されているデータである。(原1P12)。
V 検甲1号証が、鏑木自動車において使用されていたデータベースであることは、検甲1号証と検乙1号証とで、ユーザーが入力したと思われる共通部分があること(フラグ付き9031〜9675、57094〜57123、61792〜61901。被告は、これらにつき内容が相違するものもあると主張)、検乙1号証にも検甲1号証にも、原告が平成8年9月28日にダミーデータの存在を確認した証拠があること(4357−600 情報は4987−050のもの(乙42、原告準備書面12(6))。A証人も、スバルに関するダミーデータを入力したと証言(4357−600、4987−050−はいずれもスバルのもの(甲40))、検乙1号証において、平成8年9月28日までに鏑木自動車に提供されたものは、型式指定番号−類別区分番号4800−001から7619−004であることは、検乙1のフラグの分析でわかる(甲42。なお反証として乙45)が、これは、検甲1号証(その先頭につき乙35の別紙5)と同じであるし、H7年7月に被告が大谷に納入したデータベース(検甲3号証)とも同じである(検甲3の先頭が4800−001であることにつき乙57)。
 なお、原告が、検甲1をコピーする前に、鏑木自動車のデータースに変更が加えられたことはない(甲35ー2、44−2)。
 また、検甲1の「MEIBO.DIC 」及び「MEIBO2.DIC」には車両データが記録されていないが(原16P31)。
 ダミーの確認関係につき原16P42〜。
W 検乙1号証は、鏑木自動車が、平成7年10月版被告データベース修正版に追加入力したものを、平成11年3月3日に被告が鏑木自動車からコピーしたものであるが、被告が、本件訴訟提起後である平成8年10月に鏑木自動車で大幅に書き替えたものである。
 被告は、被告データベース1を提供した顧客に、平成7年10月改定データベース修正版のうち、RUIBETU.DATの形式のものを無料で提供し、被告データベース2を提供した顧客に、平成7年10月改定データベース修正版のうち、RUIBETU2.DATの形式のものを無料で提供した。
 被告は、これらのデータベースを、DOSシステムのユーザーへの対応を一本化するため、全ての顧客に無料配布したと主張(あるいは、ruibetu2に移行しないユーザーの対応を簡易化するために、移行しないユーザーに限り、ヴァージョンアップを無料で行ったと主張(乙46、53))。するが、Tこれまで有償(甲22、38)で行っていたデータメンテナンスを、敢えて本件訴訟の継続中に、データメンテナンスを希望しない顧客をも対象にして行うのは、極めて不合理かつ不自然であること、Uこのデータベースが提供されていない顧客も存在すること(乙54、55、68、69)、V平成8年10月の時点で、平成8年5月改定データベースの修正版ではなく、平成7年10月改定被告データベースの修正版を配付したのは不自然であること(被告が言うには、この時期には、すでにH8−5更新版が作成済みであったが、鏑木のパソコンは、容量が足りないので、H8−5更新版はインストールできなかったとのこと(乙46)。なお、被告は、訴訟の途中まで、鏑木はH8−9−28ころ、H7修正版を使用していたと主張していた)等からすると、このような主張は極めて不自然である。
 なお、被告の主張する「平成7年10月改定被告データベース」は、実在しないか、又は平成8年10月以降に作成されたものである(原16P23〜27)。
 なお、本件データベースは、「車名」「車種の名称」につき、車検証に表記する名称と異なる名称を使用していたが、検乙1号証においても同様の名称が用いられている(検乙1には、一般的な車種の名称を用いたものも多数ある。検乙1は、本件データベースと同一の範囲の番号の車については、本件データベースと同一の車名を用い(コロナ、カリーナ)、範囲以外の車については、一般的な車名(コロナエクシブ、カリーナED)を用いている。*乙47でも、H6−4改訂版と、検乙1の車名の付け方は、明らかに異なる。
(ウ) 被告は、平成7年3月9日ころ、被告データベース1を、有限会社大谷自動車八幡車検センター株式会社(以下、「大谷自動車」という。)に提供した。そのことは、次の各事実から明らかである。
a 原告は、平成8年9月25日ころ、大谷自動車において、同社の従業員の立会の上、同社が使用している被告システム中のRUIBETU.DATというファイルをフロッピーディスクに複製した(検甲3)。
b 上記ファイルには、型式指定−類別区分番号4800−001から7619−004まで、6万0238件の車両データが収録され、本件データベースに収録されているダミーデータのうち、収録範囲内であるものが5件含まれている。また、本件データベースには、一部の型式指定ー類別区分番号の車種のデータについて、誤入力値が収録されているが、上記ファイルでも、この誤入力値がそのまま収録されている。したがって、上記ファイルは、被告データベース1にほかならない。
c 大谷自動車は、平成7年3月9日ころ、被告システムを購入したが、それ以来、上記複製までの間に、大谷自動車の被告システム中の上記ファイルは、被告によって変更を加えられていないから、被告データベース1は、同日ころ大谷自動車に納入されたものと推認される。
イ 被告は、平成8年3月初めころ、本件データベースをほとんどそのまま機械的に複製して、車両データベース(RUIBETU2.INDとの名称のファイルに型式指定−類別区分番号が収録され、各型式指定−類別区分番号に対応するデータが、RUIBETU2.DATとの名称のファイルに収録されたもの。以下、このデータベースを「被告データベース2」という。)を作成し、これを顧客に販売した。
 また、被告は、同月中旬ころまでに、本件データベースに依拠して、RUIBETU.DATというファイル名の車両データベース(以下「平成8年3月改定被告データベース」という。)を作成し、被告データベース2を提供した顧客に販売した。
 なお、被告は、車両編集の際に最初に参照され、ユーザーが登録した車両データが記録されるファイルであるRUIBETU.DATに、比較的新しい車両のみを対象とした平成8年3月改定被告データベースを収録し、これを補充するために、被告データベース2をRUIBETU2.IND及びRUIBETU2.DATに収録したものである。
 被告は、平成8年3月13日ころ、被告データベース2及び平成8年3月改定被告データベースを、有限会社富士モータース商会(以下「富士モータース」という。)に納入した。そのことは、次の各事実から明らかである。
(ア) 原告は、平成8年9月21日、富士モータースにおいて、同社の従業員の面前で、同社が使用している被告データベースが格納されたハードディスクを、初期化された別のハードディスクに複製し、その後、それを、CDR(検甲2)に複製した。
(イ) 検甲2中のRUIBETU2.IND及びRUIBETU2.DATファイルには、型式指定−類別区分番号1398−039から9527−004まで、12万2260件の車両データが収録され、本件データベース中の9件のダミーデータのうちの8件が含まれ、また、原告が本件データベースを作成する際に誤入力したデータがそのまま含まれていたから、上記ファイルは、被告データベース2にほかならない。
 検甲2中のRUIBETU.DATファイルには、型式指定−類別区分番号5424−001から7944−012まで、5万8072件の車両データが収録され、本件データベースと同一のデータが相当存在する。また、型式指定−類別区分番号5684−400の車両の「高さ」は、本件データベースにおいて、誤って収録されているところ、上記ファイルでは、本件データベースと全く同一の誤りが存する。したがって、上記ファイルは、平成8年3月改定被告データベースにほかならない。
(ウ) 被告は、平成8年11月初めころ、富士モータースに対し、RUIBETU.DATというファイル名の車両データベースとRUIBETU2.DATというファイル名の車両データベースを無償で提供し、これらのデータベースに書き替えた。
 原告は、平成8年12月末ころまでに、富士モータースの関係者の面前で、被告システムが導入された同社のコンピュータをそのまま箱詰めし、同社の社印で封印し、平成10年11月9日、富士モータースの従業員及び公証人の面前で開封し、その中の被告システムをCDR(検甲5)に複製した。
 検甲5中の被告システムは、富士モータースで使用されていた被告システムを複製したものであることが明らかであるが、検甲2中のRUIBETU.DATファイルと検甲5のRUIBETU.DATファイルのフラグ付データは、全く同一の保存位置に同一の内容で記録されている。
(エ) 被告は、平成8年3月13日ころ、富士モータースに対して、被告システムを納入した。
ウ 被告は、上記のとおり、原告が本訴を提起した後に、RUIBETU.DAT形式のもの及びRUIBETU2.DAT形式のものを、平成7年10月改定被告データベース修正版として、顧客に無料で提供した。これは、@これまで有償で行っていたデータメンテナンスを、本訴の係属中に、データメンテナンスを希望しない顧客や、被告システムを継続して使用することを希望していない顧客をも対象にして行ったものであること、A平成7年10月改定被告データベース修正版が提供されていない顧客も複数存在すること、B平成8年10月の時点で、平成8年3月改定被告データベースの修正版ではなく、平成7年10月改定被告データベースの修正版を提供していること等からすると、被告は、平成8年10月ころから、自らの違法行為を隠蔽するために、組織的に被告データベースの内容を書き替えたと考えざるを得ない。
エ 仮に、被告データベース1及び2並びに平成8年3月改定被告データベースが本件データベースの複製物に該当しないとしても、被告データベース1及び2並びに平成8年3月改定被告データベースは、本件データベースに依拠して作成され、本件データベースの本質的特徴を直接的に感得できるものであるから、被告データベース1及び2並びに平成8年3月改定被告データベースは、本件データベースの翻案物に該当する。
(被告の主張)
 原告の主張はいずれも否認する。
ア 被告データベースは、平成6年4月に改定された後、平成8年5月に改定されるまでの間には、型式類別番号が7桁から8桁に変更されるに伴って改定された平成7年10月改定被告データベースしかないから、被告データベース1、被告データベース2、平成8年3月改定被告データベースといったデータベースは存在しない。
イ 被告は、鏑木自動車に対し、被告データベース1を納入していない。
 被告は、平成6年4月18日付けで、鏑木自動車に対し、平成6年4月改定被告データベースを販売しているので、同社におけるデータベースは、平成7年10月改定被告データベース修正版を納入した平成9年10月28日以前は、平成6年4月改定被告データベースであるが、これは、検甲1中の車両データベースとは明らかに異なっている。
 原告が鏑木自動車において被告データベースを複製する作業をした際、同社の従業員はその作業内容を全く理解していなかった。
ウ 被告は、大谷自動車に対し、被告データベース1を納入していない。
 被告が大谷自動車に販売し、大谷自動車が平成8年9月末ころに使用していた被告データベースは、平成6年4月改定被告データベースであるが、これは、検甲3中の車両データベースと全く別のデータベースである。
 大谷自動車は、原告から、リース代残金の代払、原告システムの無償提供などの利益供与を受けており、公正な第三者とはいえないし、原告が大谷自動車の被告データベースを複製する作業をした際、大谷自動車の従業員はその作業内容を全く理解していなかった。
エ 被告は、富士モータースに対し、被告データベース2及び平成8年3月改定被告データベースを納入していない。
 被告は、平成8年3月13日、富士モータースに対し、平成7年10月改定被告データベースRUIBETU2.DATを組み込んだ被告システムを納入したが、検甲2中のRUIBETU2.DATと平成7年10月改定被告データベースRUIBETU2.DATは、全く別個のデータベースである。
 富士モータースは、原告から、リース代残金の代払、原告システムの無償提供などの利益供与を受けているから、公正な第三者とはいえないし、原告が富士モータースの被告データベースをコピーする作業をした際、同社の従業員はその作業内容を全く理解していなかった。
オ 検甲1ないし検甲3中の車両データベース及び本件データベースは、いずれも被告が現在までに顧客に提供したデータベースのいずれとも異なる。被告が製作したデータベースにおいて、型式指定−類別区分番号4800−001に始まり、7619−004に終わるものは存在しない。
カ 原告は、被告データベースを、そのユーザーから入手し、これを、加工する技術を有していた。原告は、平成8年初めころから、大谷自動車、富士モータース、鏑木自動車を継続的かつ多数回にわたり訪問していたから、原告が、これらの会社において被告データベースに何らかの加工を繰り返していた可能性が極めて高い。
キ 被告が、被告システムのユーザーに平成7年10月改定データベース修正版を無償で提供したのは、平成7年10月改定被告データベースの内容に問題があったうえ、DOS版システムのユーザーやRUIBETU2.DATに移行しないユーザーへの対応を一本化するためである。被告は、他にも、必要に応じ、ユーザーに各種データを無償で提供している。
(3) 争点(3)について
(原告の主張)
ア 著作権法は、同法に規定した創作性を有しないものについて、その法的保護を一切認めない趣旨ではない。とりわけ、データベースは、その開発に相当の投資を要するにもかかわらず、容易かつ廉価に複製することができるから、その保護の必要性が高い。そこで、@データベースが相当の投資によって開発されたこと、A当該データベースが単なる事実の羅列ではなく、知的創作活動の成果物として作成されたものであること、B当該データベースから、相当部分のデータの固まりが抽出又は複製されたこと、C抽出又は複製されたデータの固まりがほとんどそのまま競合品として販売されていること、Dデータベースの開発者が当該競合行為によって経済的な損害を被っていること、以上の要件が具備された場合、データベースからの情報の抽出、利用行為は不法行為を構成すると解すべきである。
イ 本件データベースは、原告による知的創作活動の成果物であり、また、情報の取得及び入力されたデータの適否のチェックに多大な費用及び労力を要し、のべ40人以上の要員が少なくとも累計7万2000時間を費やして開発し、開発に5億円以上、維持管理に年間4000万円もの費用を要したものであるから、このような商品を開発した原告は、本件データベースを盗用されない法的な権利を有している。しかるに、被告は、原告が投じた莫大な労力と費用にただ乗りして、不正な営業上の利益を享受するために、無断で本件データベースを盗用し、これを原告システムと競合する被告システムの中に組み入れたものであって、これによって原告が経済的な損害を被っていることからすると、被告の行為は不法行為を構成するものである。
(被告の主張)
 本件データベースが法的保護の対象である財物となるためには、著作物性が認められることが前提である。
 被告データベースは、本件データベースを複製したものではなく、被告が自ら開発したデータベースである。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)について
 原告は、本件データベースにつき、対象となる自動車の選択、自動車に関する情報の選択及び体系的構成に創作性があると主張するので、以下検討する。
(1)対象となる自動車の選択について
 証拠(甲3ないし10(いずれも枝番を含む))と弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
 本件データベースは、自動車整備業用システムにおいて使用されるもので、自動車整備業を営む者に対し、実在の自動車に関する情報を提供する目的で作成されたものである。
 自動車には、道路運送車両法75条1項により、運輸大臣から型式の指定を受ける際、型式指定番号が付され、エアコンその他の装備の有無等に応じて、自動車メーカーによって、3桁の番号である類別区分番号が付される。
 しかしながら、自動車メーカーは、自動車の販売を計画して類別区分番号を付しても、その後の計画変更等により実際には当該自動車を販売しない場合もあるので、型式が公表される官報、各自動車メーカーが発行している「型式指定・類別区分番号一覧表」に掲載されている型式指定−類別区分番号に該当する自動車が必ず実在するとは限らない。
 原告は、昭和57年6月発刊の年製別型式早見表及び平成元年7月12日付けから平成6年2月10日付けまでの官報に掲載された、国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車について、車検証、自動車諸元表、各自動車メーカーが発行しているカタログ、社団法人日本自動車整備振興会連合会発行のサービスデータなどの資料によって実在の自動車であるか否かの検証をし、実在の自動車であると判断したものに限って、本件データベースに収録した。
 また、本件データベースには、以上の実在の自動車に加え、他業者による無断複製を検知するためのダミーデータ及び各型式指定番号に属する自動車の代表データとして類別区分番号が「000」である架空の自動車(以下、「代表データ」という。)が収録されている。
 以上の事実によると、本件データベースは、原告が、日本国内に実在する国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車であると判断した自動車のデータ並びにダミーデータ及び代表データを収録したものであると認められるが、以上のような実在の自動車を選択した点については、国内の自動車整備業者向けに製造販売される自動車のデータベースにおいて、通常されるべき選択であって、本件データベースに特有のものとは認められないから、情報の選択に創作性があるとは認められない。
 原告は、本件データベースは、原告によるデータソースの評価や実在の自動車か否かの判断が反映されている点で、自動車の選択に創作性を有すると主張する。しかしながら、実在の自動車か否かの検証に一定の評価や判断が伴うことは、実在の自動車か否かを確認するための情報の収集過程において一定の知的作業を要するというにとどまり、情報の選択の創作性を基礎付けるものではない。
 また、ダミーデータ及び代表データを収録している点は、原告が作出した架空のデータを収録したということにすぎないから、そのことが情報の選択の創作性を基礎付けることはない。
 以上によると、本件データベースにおいて、対象となる自動車の選択に創作性があるとは認められない。
(2) 自動車に関するデータ項目の選択について
ア 証拠(甲1、12)と弁論の全趣旨によると、本件データベースのデータ項目は、対象自動車に関する全ての情報を網羅したものではなく、主に、自動車検査証の作成を支援する目的で、以下の情報のみを収録していることが認められる。
 a 型式指定番号
 b 類別区分番号
 c メーカー
 d 車種
 e 型式
 f 種別
 g 用途
 h 車体形状
 i 寸法(長さ・幅・高さ)
 j 軸重(FF、FR)
 k 定員
 l  最大積載量
 m 車両重量
 n 車両総重量
 o エンジン(原動機)形式
 p 総排気量
 q 燃料
 証拠(甲15の1ないし3、乙11の1、2)と弁論の全趣旨によると、これらの項目のうち、車種以外の項目は、自動車検査証に記載すべき項目であることが認められる。
 また、証拠(乙31、38、39)によると、他業者が作成している自動車整備業用システムで用いられているデータベースにおいても、車両データとして、自動車検査証に記載すべき項目を収録していること、自動車検査証に記載すべき項目のみを収録しているデータベースもあることが認められる。
 さらに、証拠(乙12の1、2、乙38)によると、他業者が作成している自動車整備業用システムで用いられているデータベースにおいても、「カローラ」、「スカイライン」といった車種を収録しているものが複数あることが認められる。
 以上の事実によると、本件データベースで収録している情報項目は、自動車検査証に記載する必要のある項目と自動車の車種であるが、自動車整備業者用のシステムに用いられる自動車車検証の作成を支援するデータベースにおいて、これらのデータ項目は通常選択されるべき項目であると認められ、実際に、他業者のデータベースにおいてもこれらのデータ項目が選択されていることからすると、本件データベースが、データ項目の選択につき創作性を有するとは認められない。
イ 原告は、本件データベースは、メーカーや車種について、一般に使用されているものと異なる名称を用いていることをもって、創作的な特徴を有すると主張する。
 証拠(甲43)と弁論の全趣旨によると、原告は、原告が開発した自動車部品のデータベースとの連携の必要性から、本件データベースの一部の自動車のメーカーについて、「ダットサン」を「日産」と表示するなど、車検証上の車名と異なる名称を用いたり、車種について、「カリーナED」を「カリーナ」と表示するなど、自動車諸元表や年製別型式早見表といった書籍で用いられている名称とは異なる名称を用いていることが認められるが、これは、すでに選択された車両の情報について、その車名や車種の名称として独自の名称を用いているというにすぎないから、情報の選択の創作性を基礎付けるものではない。
ウ 原告は、上記データ項目の一部に原告独自のコード番号が付されている点で創作的な特徴を有すると主張する。証拠(甲12、27、29)と弁論の全趣旨によると、本件データベースにおいて、上記データ項目のうち一部の項目は、原告が独自に付けたコード番号で収録され、このコード番号は、各コード番号に対応する文字情報を収録したファイルと関連付けられていることが認められる。しかしながら、このコード番号は、すでに選択された情報に付された番号にすぎないから、情報の選択の創作性を基礎付けるものではない。
エ 原告は、各数値データが、参照した資料に記載された数値そのものではなく、原告によって検証されたデータである点において創作的な特徴を有すると主張するが、各データについて、正確な数値を収録しているからといって、それが、データの選択についての創作性を基礎付けるものではない。
(3) 証拠(甲12、27、乙58、検甲4)と弁論の全趣旨によると、本件データベースは、型式指定−類別区分番号の古い自動車から順に、自動車のデータ項目を別紙「データ項目の分類及びその属性等」のとおりの順序で並べたものであって、それ以上に何らの分類もされていないこと、他の業者の車両データベースにおいても、型式指定−類別区分番号の古い順に並べた構成を採用していることが認められるから、本件データベースの体系的な構成に創作性があるとは認められない。
(4) 以上によると、本件データベースは、データベースの著作物として創作性を有するとは認められない。
2 争点(2)について
(1) 原告は、前記第2の1(2)のとおり、平成6年6月ころ、本件データベースの販売を開始した。
 証拠(甲12、27、56、79、乙58、60、検甲4)によると、本件データベースには、型式指定−類別区分番号1398−039から9542−012まで12万3407件の車両データ(代表データを除くと11万9039件)が収録され、その中には、他業者による複製を検知するためのダミーデータが9件含まれていたことが認められる。
(2)ア 証拠(甲34、35、38、40、41、44、検甲1、証人A)によると、原告の従業員であるAは、平成8年9月26日、鏑木自動車に、同社が使用している被告システムのデータベースに、本件データベースに収録されているダミーデータが収録されているかどうかの確認に行ったこと、鏑木自動車の事務員が、同日、被告システムに、型式指定−類別区分番号4899−750を入力したところ、その車両データが表示されたが、この車両は、本件データベースに収録された9件のダミーデータの1つであったこと、Aは、同月28日、他の従業員と共に、この被告システムがインストールされているハードディスクを、初期化した別のハードディスクに複製し、この複製したハードディスクを同社の代表者印で封印したこと、このハードディスクは公証人の面前で開封され、さらにCDR(検甲1)に複製されたこと、このCDRには、RUIBETU.DATという車両データベースファイルが格納されていること、以上の事実が認められる。
 また、証拠(乙26、30、34、74、77、98、検乙1)によると、被告は、鏑木自動車に対し、平成9年10月28日、新たな被告データベースを無料で納入し、平成11年3月3日、鏑木自動車において、同社が使用している被告システムの格納されたハードディスクを別の新規のハードディスクに複製し、それをさらにCDR(検乙1)に複製したこと、このCDRには、RUIBETU.DATという車両データベースファイルが格納されていること、以上の事実が認められる。
イ  証拠(証人A)によると、原告の従業員は、平成8年9月26日に上記確認を行い、同月28日に上記複製をする前に、鏑木自動車を営業目的で訪問していたが、その際、その従業員は同社の被告システムに触れていないことが認められ、また、他に、上記確認及び複製に先立って原告が被告のデータベースに修正を加えたことを認める証拠はない。
 そうすると、検甲1に複製されたデータベースは、被告から鏑木自動車に納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであると認められる。
ウ 検甲1に複製されたデータベースが、被告から鏑木自動車に納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであることは、次のような事実からも明らかであるというべきである。
(ア) 証拠(甲72、乙41)によると、被告データベースにおいて、@ユーザーが新規に登録した型式指定−類別区分番号及びA被告が収録した車両データをユーザーが読み出して車両データの登録をした型式指定−類別区分番号については、フラグ「1」データが記録されること、ユーザーが新規に登録した型式指定−類別区分番号は、被告が提供した型式指定−類別区分番号の末尾に連続して記録されること、被告が車両データを更新する場合、フラグ「1」データが記録された車両データは当初の位置にそのまま残存すること、以上の事実が認められる。
 証拠(甲42、乙43)によると、検乙1中のRUIBETU.DATファイルの先頭は、型式指定−類別区分番号4800−001の車両で、フラグ「1」データが記録されていることが認められる。また、証拠(乙35、36、43、48、56、59、82)によると、被告作成に係る平成6年4月改定被告データベースの先頭は、型式指定−類別区分番号0049−022であって、型式指定−類別区分番号4800−001の車両は、先頭から7692番目に登録されていることが認められる。これに上記認定のフラグ「1」が記録される仕組みを併せ考えると、鏑木自動車に平成6年4月改定被告データベースが納入されたことがあるとしても、その後、検乙1中のRUIBETU.DATファイルが納入される前に、先頭車両の型式指定−類別区分番号が4800−001のデータベースが鏑木自動車に納入されたことが推認される。
 しかるところ、検甲1中のRUIBETU.DATファイルは、後記認定のとおり、その先頭車両の型式指定−類別区分番号が4800−001である。
(イ)  証拠(甲42、乙40)によると、検甲1中のRUIBETU.DATと、検乙1中のRUIBETU.DATには、いずれも、9031件から6万1699件までの間及び6万1792件から6万1901件までの間に、フラグ「1」データが存するが、これらのフラグ「1」データの位置は、一致していることが認められる。これだけ広範囲においてフラグ付きデータの位置が一致することからすると、検甲1中のRUIBETU.DATと検乙1中のRUIBETU.DATは、ともに、同一のユーザーである鏑木自動車によって使用されていたデータベースであると推認される。
(ウ) 証拠(甲40、71)と弁論の全趣旨によると、検甲1中のRUIBETU.DATの末尾である6万1901件目に型式指定−類別区分番号4357−600の車両のデータが収録されていること、この車両は本件データベースに収録されたダミーデータであること、検乙1のRUIBETU.DATの6万1901件目に型式指定−類別区分番号4357−600の車両のデータがフラグ付きで収録されていることが認められる。また、証拠(甲40、乙42、証人A)と弁論の全趣旨によると、これらの車両データの内容部分は、Aが平成8年9月26日に鏑木自動車において同社の被告システムにダミーデータが存するかどうかを確認に行った際に持参したダミーデータの一覧表において、型式指定−類別区分番号4357−600の車両の1つ前の行にある型式指定−類別区分番号4987−050の車両のデータであること、鏑木自動車の事務員が、同日、被告システムに型式指定−類別区分番号4987−050を入力して、その車両データが表示された後、型式指定−類別区分番号4357−600を入力したところ、この車両は、被告システムに収録されていなかったために、画面上は型式指定−類別区分番号4987−050の車両データが表示されたままであったが、そのまま「登録終了」という操作をしたために、型式指定−類別区分番号4357−600の車両データとして、型式指定−類別区分番号4987−050のデータが収録されたこと、以上の事実が認められる。以上の事実によると、いずれのファイルの6万1901件目の型式指定−類別区分番号4357−600の車両のデータも、Aが平成8年9月26日に鏑木自動車においてダミーデータを確認した際に記録されたものと推認される。
エ 被告は、鏑木自動車に対し、平成6年4月18日、平成6年4月改定被告データベースを販売したが、その後、平成9年10月28日までに、鏑木自動車に被告データベースを提供したことはなく、検甲1中のデータベースは、被告が鏑木自動車に提供した被告データベースではないとの主張をするが、この主張は、すでに述べたところに照らすと、採用できない。
オ 証拠(甲36、42、43、乙52)と弁論の全趣旨によると、検甲1中のRUIBETU.DATファイルについて、次の事実が認められる。
(ア) このファイルには、型式指定−類別区分番号4800−001から7619−004までの約6万件の車両データが昇順に収録され、その後、鏑木自動車が新規に収録したデータが収録されている。
(イ) このファイルには、本件データベースに収録されているダミーデータのうち、収録範囲内であるものが5件含まれている。これらのデータは、フラグ「1」が記録されていないから、鏑木自動車が新規に登録した車両データではない。
(ウ) 本件データベースは、「車種の名称」につき、「カリーナED」を「カリーナ」と表示するなど、自動車諸元表等で用いられている名称と異なる名称を一部使用しているが、上記ファイルでも、同一の型式指定−類別区分番号の車両についてそれがそのまま用いられている。また、検乙1中の被告データベースにおいても、同一の型式指定−類別区分番号の車両についてそれが一部そのまま用いられている。
(エ) このファイルの車両データ項目は、本件データベースの車両データ項目と全く同一である。
(オ) このファイルに納入当初に収録された型式指定−類別区分番号の車両は、本件データベースにも収録され、その車両データの内容は、本件データベースに収録されたものと同一である。逆に、このファイルに納入当初に収録されていない型式指定−類別区分番号の車両は、本件データベースにも収録されていない。
(3)ア 証拠(甲27、45ないし47、58、検甲3)によると、原告の従業員は、平成8年9月25日、大谷自動車において、同社で使用している被告システム中の車両データベースに、本件データベースに収録されたダミーデータが含まれていることを確認し、この被告システム中のRUIBETU.DATという車両データベースファイルをフロッピーディスクに複製し、それを封印のうえ保管したことが認められる。
 証拠(乙74、77、84、98)によると、被告は、大谷自動車に対し、平成8年11月8日、新たな被告データベースを無料で納入したことが認められる。
イ 原告の従業員が、上記確認及び複製をする前に、大谷自動車の被告システムに変更を加えたことを認める証拠はないから、上記のフロッピーディスクに複製されたデータベースは、被告から大谷自動車に納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであると認められる。
 被告は、大谷自動車に対し、平成7年3月9日ころ、平成6年4月改定被告データベースが格納された被告システムを販売したのであって、上記のフロッピーディスクに複製されたデータベースは、被告が大谷自動車に納入した被告データベースではないと主張するが、以上述べたところに照らすと、この主張を採用することはできない。
 なお、被告は、大谷自動車は原告から利益供与を受けていると主張するが、この主張に沿う乙84の記載は、単なる伝聞にすぎず、これをにわかに信用することはできないし、その他、原告が大谷自動車に何らかの利益供与をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 また、証拠(甲40、77)によると、上記のフロッピーディスクに複製されたデータベースのRUIBETU.DATファイルの末尾には、本件データベースに収録されたダミーデータである型式指定−類別区分番号4357−600の車両が収録され、その車両データは、Aが鏑木自動車において同社の被告システムにダミーデータを入力した際に持参したダミーデータの一覧表において、型式指定−類別区分番号4357−600の車両の1つ前の行に記載された型式指定−類別区分番号4987−050の車両データであることが認められるところ、被告は、このように原告が鏑木自動車において複製したと主張するファイルの末尾と大谷自動車において複製したと主張するファイルの末尾のデータが一致するのは不自然であると主張する。しかし、原告の従業員が大谷自動車においてダミーデータの確認をした際に、前記(2)ウ(ウ)認定に係る鏑木自動車における手順と同様の手順で車両データが収録されたとすると、これらのファイルの末尾のデータが一致するとしても不自然ではなく、かえって、この事実は、上記のフロッピーディスクに複製されたデータベースは、被告から大谷自動車に納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであることを裏付けるというべきである。
ウ 証拠(甲26、27、甲31の4ないし7、甲32の4、甲33、77、79、乙57)と弁論の全趣旨によると、上記のフロッピーディスクに複製されたRUIBETU.DATファイルについて、次の事実が認められる。
(ア) 上記RUIBETU.DATファイルには、型式指定−類別区分番号4800−001から7619−004まで、6万0238件の車両データが昇順に収録され、その後、ユーザーが新規に収録した車両データが収録されている。
 このファイルにおいて、昇順に収録されている車両データのうち、5万8841件は、本件データベースに収録されているデータと全く同一であり、その余のデータのうち、41件については、フラグが付されていることから、大谷自動車によって内容が変更されたものである。また、その余のデータのうち、681件は、燃料コードのみが、「LPG」ではなく、ガソリンになっており、367件は、車種が本件データベースの車種コードと合致しないが、その余のデータは本件データベースのデータと同一である。
 また、このファイルに納入当初から収録されていた車両は、全て本件データベースにも収録されている。
(イ) このファイルには、本件データベースに収録されているダミーデータのうち、収録範囲内であるものが5件全て含まれている。
(ウ) 本件データベースは、「車名」につき「ダイヤモンドスター」を「三菱」と表示し、「車種の名称」につき「エスティマルシーダ」を「エスティマ」と表示するなど、自動車諸元表等で用いられている名称と異なる名称を一部使用しているが、上記ファイルでも、同一の型式指定−類別区分番号の車両についてそれがそのまま用いられている。
(エ) 型式指定−類別区分番号5684−400の自動車の「高さ」は、正確には「182」であるが、本件データベースでは「171」と誤まって収録されているところ、上記ファイルにおいても、同一内容の誤った数値が収録されている。
(オ) このファイルの車両データ項目は、本件データベースの車両データ項目と全く同一である。
(4) 証拠(甲48ないし54、65、67)によると、原告は、平成8年初めころ、鏑木自動車、大谷自動車以外の被告システムのユーザーが、型式指定番号−類別区分番号4800−001から7619−004まで、6万0238件の車両データが収録され、本件データベースに収録されたダミーデータのうち収録範囲内である5件のデータが全て含まれている被告データベースを使用しているのを確認したことが認められる。
(5)ア 証拠(甲30、62、78、検甲2、証人B)によると、原告の従業員は、平成8年9月21日、富士モータースにおいて、同社が使用している被告システムに本件データベースのダミーデータを入力し、このシステムの車両データベースにダミーデータが存在することを確認したうえ、この被告システムがインストールされたハードディスクを、初期化した別のハードディスクに複製し、それをさらにCDR(検甲2)に複製したことが認められる。
 証拠(甲11、26、30、76、79、乙64、70、78、検甲2)によると、上記CDRに複製されたファイルのうち、RUIBETU2.INDというファイルは、読み出し専用のファイルであるが、ファイルの更新日付が平成8年2月27日で、型式指定−類別区分番号1398−039から9527−004まで、12万2260件の型式−類別区分番号が含まれていること、上記CDRに複製されたRUIBETU2.DATというファイルは、読み出し専用のファイルであるが、ファイルの更新日付が平成8年3月8日で、上記RUIBETU2.INDファイルに収録された自動車に関する車両データが順次収録されたものであること、上記CDRに複製されたRUIBETU.DATというファイルは、ユーザーが新たに車両データを入力できるもので、ファイルの更新日付は平成8年9月20日であること、以上の事実が認められる。
イ 証拠(乙74、77、80、98、証人C)と弁論の全趣旨によると、被告は、富士モータースに対し、平成8年11月6日、被告データベースを更新したものを無料で提供し、また、同社の被告システムにパスワードの設定をしたことが認められる。
 証拠(甲63、64、70、検甲5)によると、原告は、同年12月中旬ころ、富士モータースの被告システムがインストールされたパーソナルコンピューターを梱包し、富士モータースの社印で封印したこと、このコンピューターは、平成10年11月10日、公証人の面前で開封され、その中の被告システムがインストールされたハードディスクが、CDR(検甲5)に複製されたこと、このCDR中には、RUIBETU.DAT、RUIBETU2.DAT及びRUIBETU.IND等のデータベースファイルが収録されていること、以上の事実が認められる。
ウ 原告の従業員が、上記確認及び複製をする前に、富士モータースの被告データベースに修正を加えたことを認めるに足りる証拠はないから、上記CDR(検甲2)に複製されたデータベースは、被告から富士モータースに納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであると認められる。
 被告は、富士モータースに対し、平成8年3月13日に、被告システムを新規に納入したが、被告が富士モータースに納入したのは、「平成7年10月改定被告データベース」(検乙6)というデータベースであって、検甲2中のデータベースは、被告が富士モータースに納入したものではないと主張するが、すでに述べたところ及び次のエで述べるところに照らすと、この主張を採用することはできない。
エ 検甲2に複製されたデータベースが、被告から富士モータースに納入され、同社において被告システムとともに使用されていたデータベースであることは、次のような事実からも明らかであるというべきである。
(ア) 証拠(甲75、81)によると、検甲2のRUIBETU.DATと検甲5のRUIBETU.DATにおいて、先頭から5万8178件までに存するフラグ「1」データの位置が、一致していることが認められる。前記(2)ウ(ア)認定のフラグが記録される仕組みに照らすと、これらのデータベースは、同一のユーザーである富士モータースによって運用されていたものと推認される。
(イ)  被告の前記主張によると、検甲5のRUIBETU.DATにおいて、フラグが付されている車両データ(富士モータースが新規に登録したものを除く)は、平成7年10月改定被告データベース(検乙6)に収録されていた車両データと、富士モータースがデータ内容を修正しないかぎり、一致するはずであるが、証拠(甲82)によると、検甲5のRUIBETU.DATにおいてフラグが付せられている車両データは、平成7年10月改定被告データベース(検乙6)中のRUIBETU.DATの車両データと一致しないものが相当数あり、かつ、そのいずれもが、本件データベースの車両データと一致していることが認められる。
(ウ) 証拠(甲72、75、81)によると、検甲2のRUIBETU.DATのファイルの末尾には、本件データベースに収録されたダミーデータである型式指定−類別区分番号4278−010及び4357−600の車両データが本件データベースに収録されたものと同一の内容で収録され、また、検甲5のRUIBETU.DATのファイルにおいても、同一の位置にこれらのデータがフラグ付きで収録されていることが認められるが、この事実に証拠(甲72)と弁論の全趣旨を総合すると、原告の従業員が富士モータースにおいてダミーデータを確認した際に、これらの車両のダミーデータがRUIBETU2.DATから読み出され、これらの車両のデータがRUIBETU.DATには存しなかったために、RUIBETU.DATに新たに登録されたものと認められる。
オ なお、被告は、富士モータースは、原告からリース代残金の代払、原告システムの無償提供などの利益供与を受けていると主張する。証拠(乙81、証人B)によると、原告は、前記イ認定のとおり、富士モータースのパーソナルコンピューターを受領した際、同社の被告システムのリース料を代払いし、かつ、原告システムを無償で提供したことが認められるが、これは、原告が、本件訴訟の証拠とするために富士モータースの被告システムを受領した代償として、これらの提供をしたものと認められるから、この事実をもって、原告が富士モータースに利益供与をしたとはいえない。また、前記ア認定のとおり検甲2にデータベースを複製する前に、原告が富士モータースに利益供与をしたことを認めるに足りる証拠はない。
カ 証拠(甲26、30、甲31の1、2、5ないし7、甲32の1、4、甲33、79、乙94)と弁論の全趣旨によると、検甲2中のファイルについて、次の事実が認められる。
(ア) 検甲2中のRUIBETU2.DATファイルは、12万2260件の車両データのうち10万件以上が本件データベースのデータと一致し、また、本件データベース中のダミーデータ9件のうち8件が含まれている。
 本件データベースは、「車名」につき「ダイヤモンドスター」を「三菱」と表示し、「車種の名称」につき「エスティマルシーダ」を「エスティマ」と表示するなど、自動車諸元表等で用いられている名称と異なる名称を一部使用しているが、上記ファイルでも、同一の型式指定−類別区分番号の車両についてそれがそのまま用いられている。
 型式指定−類別区分番号5684−400の自動車の「高さ」は、正確には「182」であるが、本件データベースでは「171」と誤まって収録されているところ、上記ファイルにおいても、同一の誤まりが存する。
(イ) 検甲2中のRUIBETU.DATファイルは、型式指定−類別区分番号5424−001から7944−012まで約5万8000件の車両データが収録され、そのうち相当数が本件データベースのデータと一致する。
(6) 上記認定のとおり、被告は、鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースのいずれに対しても、本件訴訟が提起された後に、新たな被告データベースを無料で納入したが、被告は、その理由について、平成7年10月改定被告データベースの内容に問題があったとか、ユーザーへの対応を一本化するためであったと主張する。
 しかしながら、証拠(甲38、68、乙80、証人C)と弁論の全趣旨によると、新たな被告データベースは、更新を積極的に希望しないユーザーに対しても、無料で納入されたものと認められること、証拠(乙54、68)によると、新たな被告データベースが提供されていない被告システムのユーザーも存在することが認められること、後記認定のとおり、車両データの取得、管理には相当高額な経費や労力が必要とされること、証拠(甲22、乙34、証人D)によると、被告データベースのデータ更新は、上記無料の納入までは有償で行われていたと認められることからすると、被告が、上記主張のような理由で新たな被告データベースを無料で納入したというのは、不自然であって、認められない。
(7) 以上のとおり、被告が鏑木自動車や大谷自動車に販売した被告データベースについては、本件データベースの車両データのうち、約6万件が一致し、被告が富士モータースに販売した被告データベースは、本件データベースの車両データのうち、10万件以上が一致すること、被告が鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースに納入したいずれの被告データベースにおいても、本件データベースに収録されたダミーデータが、それぞれの収録範囲において全て含まれており、また、これらのデータベースには、本件データベースにおける誤入力や、本件データベースが独自に使用している車名や車種の名称がそのまま用いられていること、被告が、本件訴訟係属後にこれらの被告データベースをいずれも無料で更新したこと、原告は、この3社以外の被告システムのデータベースにおいても、本件データベースのダミーデータ等を発見していること、以上の各事実が認められ、これらの事実からすると、被告が、本件データベースのデータを上記件数分複製して、これを被告データベースに組み込み、顧客に販売していたことは明らかであるというべきである。
3 争点(3)について
 民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する場合があるというべきである。
 これを本件についてみると、上記1認定のとおり、本件データベースは、自動車整備業を営む者に対し、実在の自動車に関する情報を提供する目的で、官報、年製別型式早見表、車検証等の種々の資料をもとに、原告が実在の自動車と判断した自動車のデータを収録したものであるが、証拠(甲25)と弁論の全趣旨によると、このような実在の自動車のデータの収集及び管理には多大な費用や労力を要し、原告は、本件データベースの開発に5億円以上、維持管理に年間4000万円もの費用を支出していることが認められる。
 また、弁論の全趣旨によると、原告と被告は、共に自動車整備業用システムを開発し、これを全国的に販売していたことが認められるから、自動車整備業用システムの販売につき競業関係にあり、証拠(証人B)によると、実際に、富士モータースにおいて、従前は原告システムを導入していたものの、その後、被告システムに変更したことが認められる。
 また、被告は、上記認定のとおり、本件データベースの相当多数のデータをそのまま複製し、これを被告の車両データベースに組み込み、顧客に販売していたものである。
 以上の事実によると、被告が本件データベースのデータを被告データベースに組み込んだ上、販売した行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。
 したがって、被告は、原告に対し、上記不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れない。 

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 岡口基一
 裁判官 男澤聡子


(別紙)
物件目録
製品名 トムキャット
種類 自動車整備業・板金塗装業用コンピュータシステム
製作者 株式会社システムジャパン

(別紙)
不正競争目録
1 システムジャパン社は翼のデータを盗用している。
2 システムジャパンは経営状態が悪く危ない。
3 システムジャパンはおもしろいことになるので、お金は支払わない方がよい。
4 東京海上は、システム
5 ジャパンとの提携をやめて翼社に一本化する。
6 システムジャパンの工数は、日整連の工数とは違う。

(別紙) データ項目の分類及びその属性等
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