判例全文 | ||
【事件名】カラオケ無断使用事件(水戸市)(3) 【年月日】平成13年3月2日 最高裁(二小) 平平成12年(受)第222号 著作権侵害差止等請求事件 (一審・水戸地裁平成9年(ワ)第106号、二審・東京高裁平成11年(ネ)第2788号) 判決 主文 1 原判決中被上告人に係る部分を次のとおり変更する。 第1審判決を次のとおり変更する。 (1) 被上告人は、上告人に対し、753万9239円及びこれに対する平成9年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 上告人の被上告人に対するその余の請求を棄却する。 2 訴訟の総費用は、これを5分し、その1を上告人の、その余を被上告人の負担とする。 理由 上告代理人田中豊、同堀井敬一、同藤原浩の上告受理申立て理由について 第1 原審の適法に確定した事実関係等は、次のとおりである。 1 上告人は、第1審判決別紙カラオケ楽曲リスト及び同追録記載の音楽著作物(以下「本件管理著作物」という。)につき、著作権者から著作権の信託的譲渡を受けてこれを管理している。上告人は、本件当時から、カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分について著作権の信託的譲渡を受けて管理する、我が国唯一の音楽著作権仲介団体である。 被上告人は、茨城県南部を中心とした地域において業務用カラオケ装置のリース及び販売業務を行っている有限会社である。豊島秀夫は、「パブハウスニューパートナー」及び「ナイトパブG7」(以下「本件各店舗」という。)の共同経営者の1人である。 2 被上告人は、豊島との間で、パブハウスニューパートナーについて平成3年9月30日、ナイトパブG7について同年12月27日、それぞれカラオケ装置のリース契約を締結し(以下「本件リース契約」という。)、同人にレーザーディスク用カラオケ装置各一式を引き渡した。本件リース契約に係る書面には、「本物件を営業目的で使用する場合には、借主は上告人から著作物使用許諾契約を締結するよう求められます。当該契約の締結については、借主の責任で対処するようにして下さい。」との記載があり、被上告人は、本件リース契約締結時に、豊島に対し、口頭でもその旨説明したが、上記カラオケ装置の引渡しに際し、豊島が著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認しなかった。豊島らは、本件各店舗において、本件各リース契約締結の日から平成7年6月8日まで、上告人の許諾を受けることなく、被上告人からリースを受けた上記カラオケ装置を操作してレーザーディスクを再生することにより、本件管理著作物である歌詞及び楽曲を上映し、客や従業員に歌唱させ、もって店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図った。 3 被上告人は、平成7年6月9日以降、豊島が上告人申立てに係るカラオケ装置の使用禁止等の仮処分命令の執行を受けたことを知り、初めて豊島らが上告人と著作物使用許諾契約を締結していなかったことを認識するに至った。しかし、豊島が責任を持って解決し被上告人には迷惑を掛けない旨誓約したため、同年9月9日、新たに同人との間で、本件各店舗につき、それぞれカラオケ装置のリース契約を締結し、同人に通信カラオケ用カラオケ装置各一式を引き渡した。豊島らは、パブハウスニューパートナーにおいて平成8年12月20日まで、ナイトパブG7において平成7年10月20日まで、上告人の許諾を受けることなく、被上告人からリースを受けた上記カラオケ装置を操作して、本件管理著作物である楽曲を再生し、客や従業員に歌唱させ、もって店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図った。 4 上告人が本件各店舗から本件管理著作物に係る著作物の使用につき受けるべき金額は、それぞれ1箇月当たり7万3542円である。 第2 本件は、上告人が、被上告人の行為は豊島らの著作権侵害行為と共同不法行為を構成すると主張して、被上告人に対し、使用料相当損害金の賠償を請求した事案である。 第3 原審は、平成7年9月以降の期間における被上告人の過失を認めて上告人の損害賠償請求を認容したが、次のとおり判示して、同年6月8日までの期間における被上告人の過失を否定した。 1 カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置が著作権侵害の道具として使用されないよう配慮すべき一般的な注意義務を負うが、リース契約締結時に契約の相手方に対し、口頭又は書面により、著作物使用許諾契約を締結すべき法的義務のある旨を指導すれば、通常の場合上記注意義務を果たしたものというべきである。そして、カラオケ装置のリース業者は、契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結しない可能性が相当程度予見できるような場合や、リース契約締結後も著作物使用許諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情がある場合には、上記契約締結を確認するまでカラオケ装置を引き渡さないようにし、引渡し後であればこれを引き揚げるなど、著作権侵害を生じさせない措置を講じなければならないが、一般的にリース契約の締結後カラオケ装置の引渡しに先立って、相手方が上告人に対し著作物使用許諾契約締結の申込みをしたことを確認すべき注意義務や、カラオケ装置を引き渡した後においても、随時上記契約締結の有無を確認すべき注意義務を負うものではない。 2 本件リース契約に係る書面には上告人と著作物使用許諾契約を締結するよう注意書きが記載され、被上告人は豊島にその旨口頭でも説明し、本件リース契約締結当時同人が著作物使用許諾契約を締結する意思のないことや、本件リース契約締結後も著作物使用許諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情を認めるに足りないから、平成7年6月8日までの期間の注意義務違反はない。 第4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 1 飲食店等の経営者が、音楽著作物である歌詞及び楽曲の上映機能を有するレーザーディスク用カラオケ装置又は音楽著作物である歌詞の上映及び楽曲の再生機能を有する通信カラオケ用カラオケ装置(以下「カラオケ装置」という。)を備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目につきカラオケ装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を上映又は再生して、同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなど、音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用し、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図しているときは、上記経営者は、当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り、客や従業員による歌唱、カラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映又は再生につき演奏権ないし上映権侵害による不法行為責任を免れない(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参照)。 2 カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。けだし、(1)カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば、カラオケ装置は、当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経営者による前記1の著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置ということができること、(2)著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法119条以下)、(3)カラオケ装置のリース業者は、このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであること、(4)一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であって、カラオケ装置のリース業者としては、リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことが確認できない限り、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること、(5)カラオケ装置のリース業者は、著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを容易に確認することができ、これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることを併せ考えれば、上記注意義務を肯定すべきだからである。 3 これを本件についてみるに、豊島が本件管理著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用するものであることは明らかであるから、被上告人は、本件リース契約に基づきカラオケ装置を引き渡すに際し、著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認する措置を講じて豊島らによる著作権侵害が行われることを未然に防止すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、被上告人は、豊島に対し、上告人との間で著作物使用許諾契約を締結するよう告知したのみで、著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認することなく、漫然と同人にカラオケ装置を引き渡したものであって、前記条理上の注意義務に違反したものである。それにより豊島らの著作権侵害が行なわれたものであるから、被上告人の上記注意義務の懈怠と豊島らの著作権侵害による上告人の損害との間には相当因果関係があるものといわざるを得ない。 したがって、被上告人には平成7年6月8日までの期間の注意義務違反がないとした原審の前記判断は、法令の解釈適用を誤り、その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由がある。 第5 進んで、被上告人の賠償すべき損害額について判断する。 上告人の1箇月当たりの損害額は7万3542円であり、著作権侵害の期間は、パブハウスニューパートナーにつき平成3年9月30日から平成7年6月8日までの44月10日間及び同年9月9日から平成8年12月20日までの15月12日間、ナイトパブG7につき平成3年12月27日から平成7年6月8日までの41月13日間及び同年9月9日から同年10月20日までの1月12日間であることは、前記のとおりである。そうすると、上告人の損害額は、パブハウスニューパートナーにつき439万1168円、ナイトパブG7につき314万8071円の合計753万9239円となる(日割計算に係る部分は円未満切捨て。)。 よって、上告人の被上告人に対する本件請求は、753万9239円及びこれに対する不法行為の日の後である平成9年3月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。 第6 以上に説示するところにより、これと異なる第1審判決は上記のとおり変更されるべきであるから、原判決中被上告人に係る部分を本判決主文第1項のとおり変更することとする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷玄 |
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