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【事件名】デール・カーネギー商標事件(2)
【年月日】平成13年2月28日
 東京高裁 平成12年(行ケ)第109号 審決取消請求事件

原告 ディル カーネギー アンドアソシエイツインコーポレーテッド
代表者 マーク ケイジョンストン
訴訟代理人弁護士 森内憲隆
同 左高健一
同弁理士 小沢憲之輔
被告 株式会社エス・エス・アイ
代表者代表取締役 田中孝顕
訴訟代理人弁護士 井上定明
同弁理士 稲垣仁義


主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を三〇日と定める。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 特許庁が平成九年審判第一六四九七号事件について平成一一年一一月一一日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
 主文第一、二項と同旨
第二 当事者間に争いのない事実
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、「DALE CARNEGIE」の欧文字を横書きして成り、平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表の区分による第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」を指定商品とする登録第六七三一七八号商標(昭和三八年二月四日登録出願、昭和四〇年四月一二日設定登録、平成八年三月二八日に三回目の更新登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告は、平成九年九月二九日、原告を被請求人として、本件商標の指定商品中「印刷物」について不使用に基づく登録取消しの審判の請求をし、その予告登録が同年一〇月二九日にされた。
 特許庁は、同請求を平成九年審判第一六四九七号事件として審理した上、平成一一年一一月一一日に「商標法五〇条の規定により、登録第六七三一七八号商標の指定商品中,「印刷物」についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は同年一二月八日原告に送達された。
二 審決の理由
 審決は、別添審決書写し記載のとおり、被請求人(原告)の提出に係る証拠によっては、本件商標が、本件審判請求の予告登録前三年以内に日本国内において取消請求に係る指定商品「印刷物」についての便用をされていたものと認めることはできないから、本件商標の指定商品中「印刷物」についての登録は商標法五〇条の規定により取り消すべきものとした。
第三 原告主張の審決取消事由
一 本件商標は、以下のとおり、本件審判請求の予告登録前三年以内に日本国内において、通常使用権者により、その指定商品「印刷物」についての使用をされていたから、この使用の事実を認めなかった審決の認定は誤りであり、違法として取り消されるべきである。
二 本件商標の使用
(1)原告は、世界的に著名な文筆家、講演家である故デール・カーネギーにより設立されたアメリカ合衆国法人であって、故デール・カーネギーが創案した人間能力の開発方法に基づく教室教育事業を自ら行い、又はライセンシーを通じて行っている。
(2)パンポテンシア株式会社(以下「パンポテンシア」という。)は、平成六年以降、原告からライセンスを受け、日本国内において「デール・カーネギー・トレーニング」の名称により上記教室教育事業を行っており、本件商標についても使用許諾を受けている通常使用権者である。同社の本社営業所が存する東京都渋谷区神宮前の常設教室では、デール・カーネギー・コース、デール・カーネギー・セールス・コース、デール・カーネギー・マネージメント・セミナー、デール・カーネギー・カストマー・リレーションズ/エンプロイ・デペロプメント・コース、デール・カーネギー・上級コース経営戦略プレゼンテーション・ワークショップ、デール・カーネギー・リーダー・イン・ユー・コース等の各種講座を開設している。
(3)パンポテンシアは、上記教室教育事業の講座(以下「本件講座」という。)に使用する教材として、「The DALE CARNEGIE Course Participant Manual」と題する印刷物(甲第六号証)及び「Remember Names」と題する印刷物(甲第七号証)を有償で受講生に提供している。甲第六号証の印刷物は、その表紙に「The DALE CARNEGIE Course」の文字が付されており、特に「DALE CARNEGIE」の文字は他の文字とは切り離して記載され、登録商標であることを示す「(R)」のマークが付されているものであり、甲第七号証の印刷物は、その表紙に「DALE CARNEGIE(R)/TRAINING」を二段に記載しており、いずれも本件商標が使用されている印刷物である。
 審決は、これらはそれ自体商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品とはいえないとするが、パンポテンシアは、広く一股に本件講座の内容と印刷物の提供を宣伝し、これに興味を持つ者が受講生となって本件講座を受講し、上記印刷物の提供を受けるのであり、これらの印刷物はいずれも一般書店において販売されているものではないが、受講生に提供される教材として有償(ただし、受講料に含まれる。)で配付されているものであって、取引市場を流通しているということができる。
(4)パンポテンシアは、常設の講座以外に不定期の講演会、研修会等を行ってきたところ、平成七年九月一三日に日刊工業新聞杜を顧客として本社営業所で開催した講演会を始め、平成九年九月までに開かれた計一五回のこうした講演会会場で、希望者に対し、「THE LITTLE GOLDEN BOOK OF RULES」と題する印刷物(甲第八号証)を一冊一〇〇円で販売したが、この印刷物の表紙には、「Dale Carnegie(R)」の表示が付されており、本件商標が使用されている。
(5)パンポテンシアは、平成八年一二月一○日、原告に対し、「Dale Carnegie's Golden Book」(甲第一三号証の一)「Remember Names」(同号の二)及び「Speak More Effectively」(同号証の三)の英文印刷物を含む教材を発注し、平成九年二月二四日ころこれを輸入した。これらの印刷物は、いずれも表紙の左下部に「DALE CARNEGIE(R)/TRAINING」を二段に記載して、本件商標を使用しているから、本件商標は、これらの印刷物の輸入によっても、我が国における取引市場において商取引の対象である印刷物に使用されたことが明らかである。
第四 被告の反論
一 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
二 本件商標の使用について
(1)原告は、パンポテンシアは広く一般に講座内容と印刷物の提供を宣伝している旨主張するが、同社が一般市場で宣伝しているのは、「デール・カーネギー・トレーニング」等の名称を付した教育事業講座であり、甲第六、第七号証の印刷物を宣伝しているわけではない。これらの印刷物は、同講座の受講生全員に無償で配布され、受講者以外の者が入手することはできないものであり、同講座を離れて一般市場において商取引の対象となることはないから、商標法上の商品とはいえない。
(2)甲第六、第七号証の印刷物は、それぞれ「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座の受講者だけに配布される教材であるから、それぞれ「The/DALE CARNEGIE/Course」、「DALE CARNEGIE/TRAINING」と三段又は二段に表示されていても、一体に認識するはずであり、これらの記載は、社会通念上、本件商標と同一の商標を使用しているとはいえないというべきである。また、「(R)」マークは、日本において登録商標の表示として公認されているわけではなく、このマークを付したからといって登録商標の使用がされているとはいえない。
(3)本件商標は、「ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」として登録されているところ、原告主張の印刷物における「The/DALE CARNEGIE/Course」等は表題を付したものであって、本件商標を使用するものとはいえない。
(4)甲第八号証の印刷物は、B五判用紙の約四分の一の大きさで六頁から成り、内容は教えや技法を項目で並べたもので、価格の記載もないから、このような体裁及び内容からみても、一般市場で流通に供されるものとはいえず、商標法上の商品には当たらない。
(5)原告は、甲第一三号証の一〜三の印刷物の輸入をしたことをもって、本件商標の使用に当たる旨主張するが、その輸入部数は極めて少なく、その体裁及び内容に照らして、一般市場で流通に供されることを目的として輸入されたとは考えられない。
第五 当裁判所の判断
(1)本件商標の通常使用権者
 〈証拠路〉によれば、パンポテンシアは、原告の許諾を得て「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の下に、「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」、「デール・カーネギー・マネージメント・セミナー」等を含む本件講座を主宰しており、本件商標についても、平成六年以降その使用許諾を受けた通常使用権者であること、同社は、本件審判請求の予告登録前三年以内である平成六年一〇月二九日から平成九年一〇月二八日までの間、甲第六〜第八号証及げ第一三号証の一〜三の各印刷物に「DALE CARNEGIE」との表示を付して、これを本件講座に使用するなどしてきたことが認められる。
 原告は、パンポテンシアのこうした行為は、本件商標を、その指定商品「印刷物」について使用をするものである旨主張するが、商標法五〇条の適用上、「商品」というためには、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならず、また、「商品についての登録商標の使用」があったというためには、当該商品の識別表示として同法二条三項、四項所定の行為がされることを要するものというべきであるから、この点について以下具体的に検討する。
(2)甲第六、第七号証の印刷物について
 〈証拠略〉によれば、甲第六、第七号証の印刷物は、本件講座(甲第六号証の印刷物については、本件講座のコースの一つである「デール・カーネギー・コース」)の教材として用いられているものであり、その受講生には配布されるが、同印刷物のみが販売されることはなく、そのため定価も定められておらず、また、奥書もないこと、甲第六号証の印刷物は、ビニール貼りの三穴バインダーに、加除可能なように本文が編綴されているものであり、バインダーの表紙には、中央部に大きく三段にわたって「The/DALE CARNEGIE(R)/Course」と記載されており、本文冒頭の頁にはこれと同じ記載とともに、下部に小さく「受講生マニュアル」を意味する「Participant Manual」との記載があること、その本文は、「このコースは、週一回約三時間の授業で一二週間に亘って行われます。」、「授業は、このマニュアルに書いてある順序に従って行われます。」などと記載されているように、本件講座を受けることを前提とした教材であって、各講座のポイントのほか、講義において指示されたことを記入するための作業欄も設けられていること、甲第七号証の印刷物は、文庫判大、本文一二頁の薄い小冊子で、その表紙には、左上部に大きく「Remember Names」、左下部に小さく二段に「DALE CARNEGIE(R)/TRAINING」と記載されていること、その本文は、「名前を憶える法」を具体例を挙げながら説明するものであることが認められる。
 以上の事実に照らすと、甲第六、第七号証の印刷物は、専ら「デール・カーネギ−・コース」等の本件講座の教材としてのみ用いられることを予定したものであり、本件講座を離れ独立して取引の対象とされているものではないというほかなく、したがってこれらを商標法上の商品ということはできない。また、その表紙に付された「DALE CARNEGIE」の記載については、それぞれ「デール・カーネギー・コース」ないし「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座の教材であることを示す「The/DALE CARNEGIE(R)/Course」ないし「DALE CARNEGIE(R)/TRAINING」との記載の一部分にすぎないから題号としての使用にとどまるか、本件講座に係る役務の出所又は役務の内容を表示するものであって、いずれにせよ、当該印刷物自体の識別表示と解することはできないから、当該印刷物について本件商標の使用がされたということもできない。なお「(R)」のマークは、本来、米国における商標登録の表示形式であって、日本において登録商標の表示として公認されている法定形式ではないから(商標法七三条、同法施行規則一七条参照)、これが付されていることは、上記判断を左右するものではない。
(3) 甲第八号証の印刷物について
 〈証拠略〉によれば、甲第八号証の印刷物は、B七判程度の大きさで本文六頁のごく薄い小冊子であり、「『人を動かす』による法則」と「『道は開ける』による法則」との各見出しの下に、「人間関係を伸ばす法/1.批判も非難もしない。苦情もいわない。/2.率直で、誠実な評価を与える。/3.強い欲求を起こさせる/4.誠実な関心を寄せる。」等の簡潔な教えが箇条書きで記され、それ以上に特段の記載のないものであること、その表紙には、上部に「THE LITTLE GOLDEN BOOK OF RULES」、中段にデール・カーネギーの肖像写真、その右下に「Dale Carnegie(R)」、下部に「From HOW TO WIN FRIENDS AND INFLUENCE PEOPLE and HOW TO STOP WORRYING AND START LIVING」、「(C)1964 Dale Carnegie & Associates, Inc.」との記載があること、パンポテンシアは、この印刷物を常設の教室で行う本件講座の教材として使用するほか、顧客の依頼に応じて随時開かれる講座において、その参加者に対し、希望に応じて一冊一〇〇円で販売したことがあること、しかし、同印刷物が書店等で一般に販売されることはないことが認められる。
 以上の事実によれば、甲第八号証の印刷物は、上記のような抽象的一般的で簡潔にすぎる記載内容や、その体裁等からすると、本件講座を受講することを前提に、その講義内容の理解を助けるためにポイントとなる点を列挙したにすぎないものと認められ、独立した読み物としての内容を有していないものであって、本件講座を離れて市場において独立して商取引の対象となるものとは認められないから、同印刷物についても、これを商標法上の商品ということはできない。また、「Dale Carnegie(R)」との記載についても、上記のような記載態様からすると、上記肖像写真の人物が故デール.カーネギーであることを表示しているにすぎないと解されるものであって、当該印刷物自体の識別表示ということはできないから、当該印刷物について本件商標の使用がされたということもできない。
(4)甲第一三号証の一〜三の印刷物について
 〈証拠略〉によれば、パンポテンシアは、平成七年一二月ころと平成九年二月ころ、それぞれ原告から、「Dale Carnegie's Golden Book」と題する英文印刷物(甲第一三号証の一)を一一四冊及び五七冊、「Remember Names」と題する英文印刷物(同号証の二)を九一冊及び六八冊、「Speak More Effectively」と題する英文印刷物(同号証の三)を一一二冊及び五六冊輸入したこと、これらの印刷物は、表紙の左下部に「DALE CARNEGIE (R)/TRAINING」と二段に記載しているなど、前記甲第七号証の印刷物とほぼ同一の体裁であること(甲第七号証の印刷物は、甲第一三号証の二の印刷物の日本語版であることが明らかである。)が認められる。
 そして、原告は、パンポテンシアによる上記各印刷物の輸入により、本件商標がこれら印刷物について使用された旨主張するが、パンポテンシアにおいて、これらの印刷物を一般市場で流通に供することを目的として輸入したものであると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、これらの印刷物と甲第七号証の印刷物との類似性に照らすと、甲第一三号証の一〜三の印刷物についても、甲第七号証の印刷物と同様、専ら本件講座の教材として使用するために輸入されたことが認められる。そうすると、甲第一三号証の一〜三の印刷物が原告とパンポテンシア間での取引の対象となったからといっても、我が国の市場において独立して商取引の対象として流通に供されたわけではなく、これを商標法上の商品ということはできない。また、これらの印刷物に付されている「DALE CARNEGIE」の記載も、「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座に使用される教材であることを示す「DALE CARNEGIE(R)/TRAINING」との表示の一部にすぎず、当該印刷物自体の識別表示であると解することはできないから、当該印刷物について本件商標の使用がされたということもできない。
二 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期問の指定につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利


審決理由
1 本件商標
 本件登録第六七三一七八号商標(以下「本件商標」という。)は、「DALE CARNEGIE」の欧文字を横書きしてなり、昭和三八年二月四日に登録出願、第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」を指定商品として、昭和四〇年四月一二日に登録され、その後、三回にわたり商標権存続期問の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
2 請求人の主張
 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第一号証ないし同第三号証を提出した。
(1)請求の理由
 本件商標は、その指定商品「印刷物」について、継続して三年以上日本国内において使用した事実が存しないから、商標法第五〇条第一項の規定により取り消されるべきものである。
 本件商標は、「Dale Carnegie」の署名体で登録になっているのに対し、甲第一号証(被請求人発行のパンフレットの表紙)では「Dale Carnegie-Founder」の活字体として使用されている。しかも、署名体と活字体の相違だけでなく、文字も「-Founder」が加わっているので本件商標とは同一でなく明らかに相違する。
 また、本件商標は、指定商品において「ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」として、登録になっているのに対し、パンフレットの表紙に表題として使用するものであるから、この理由からしても、甲第一号証の使用は本件商標の使用ではない。また、甲第二号証(被請求人発行のパンフレットの表紙)では、文字は、署名体として使用しているが、肖像は本件商標とは、同一ではなく異なっている。したがって、甲第二号証の使用も本件商標の使用ではない。
 さらに、甲第二号証では、パンフレットの中に単に「デールカーネギー」の肖像として表示されているにすぎず、商標としての使用ではない。即ち、出版社の商品であることを識別させるために、パンフレットに付されたものではないから、商標としての使用とは認められない。
 したがって、本件商標は、その指定商品「印刷物」について使用されていないことが明らかである。
(2)答弁に対する弁駁
 甲第一号証及び同第二号証は、商標法上の商品たる印刷物にも該当しない。これは、甲第一号証及び甲第二号証に、定価の記載のないことからも明らかなように、該甲号証は、無償で頒布しているパンフレットであるから、商標法上の商品たる印刷物に該当しないこと明らかである。
 被請求人は、乙第三号証(請求人提出の甲第一号証に相当する、以下同じ)及び乙第四号証(請求人提出の甲第二号証に相当する、以下同じ)を提出し、該乙号証で本件商標を使用していると主張している。上記乙号証は、商標法上の商品たる印刷物には該当しないものであるが、仮に印刷物と解釈できたとしても、乙第三号証では「Dale Carnegie Course」として使用しているものであり、乙第四号証では、「The Dale Carnegie TRAINING」として使用しているものであるから、いずれも本件商標「DALE CARNEGIE」を使用しているものでもない。
 被請求人は、上段に「Dale Carnegie」、下段に「Course」と表示され、「Carnegie」の右肩に(R)の表示が付されているので、実質的に「Dale Carnegie」を使用している旨主張している。
 しかし、乙第三号証に、デール・カーネギー・コース、デール・カーネギー・コース参加マニュアルと記載されていることから明らかなように、「Dale Carnegie」と「Course」との結びつきが強く、しかも.「Course」だけでは単独の意味を有しないので、二段に表示されていても、「デール・カーネギー・コース」と一連に認識されるものであるから、乙第三号証は、本件商標「DALE CARNEGIE」と社会通念上同一の商標を使用するものでないこと明らかである。
 乙第四号証は、上段に「デール・カーネギー・トレーニング」、中段に「The Dale Carnegie」、下段に「TRAINING」と表示するものである。上段は、フリガナと認識されることと、全体として「デールカーネギーの訓練」の意味に認識されるものであるから、「ザデールカーネギートレーニング」の称呼のみが生ずるものであり、「ザデールカーネギー」「デールカーネギー」の称呼は生じないから、本件商標「DALE CARNEGIE」と社会通念上同一の商標を使用するものでないこと明らかである。
 仮に、乙第三号証及び乙第四号証で本件商標「DALE CARNEGIE」と社会通念上同一の商標を使用していると解釈することが出来たと仮定しても、乙第三号証は、デール・カーネギー・コース参加者用マニュアルと題号を表示したものであり、また、乙第四号証は、デール・カーネギー・トレーニングの内容を示す題号であるから、いずれも商標の使用に該当しないこと明らかである。
 これに関する判例として、書籍の題号として「POS実践マニュアル」「POSの導入と実際」等の表示を用いても、それらは「POS」に関する書籍であるという内容を示すにすぎないから、商標の使用ではないと判示している甲第三号証(東京地裁昭62(ワ)九五七二号、POS事件、昭63・9・16判決)を提出する。
 また、仮に、題号としての使用も商標の使用であると解釈できたと仮定しても、本件商標は、「ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として便用される場合を除く」として登録されているので、指定商品についての登録商標の使用にならないこと明らかである。この点に関して、被請求人は、本件商標が使用されていることを前提とする「表題としての使用」を論ずることは、論理の矛盾であると主張しているが、請求人は、表題として使用していると解釈できたと仮定しても、商標の使用にはならない旨主張するものであり、何ら矛盾するものではない。
 乙第三号証では、デール・カーネギーの写真の下に「Dale Carnegie-founder」と表示されている。これも、「Dael Carnegie-founder」として使用されているものであるから、本件商標「DALE CARNEGIE」と社会通念上同一の商標を使用するものでないこと明らかである。仮に、上記表示を本件商標と同一商標の使用と解釈できたと仮定しても、甲第三号証によれば、出所表示機能を有しない態様の場合は、商標の使用と認められない旨判示している。
 「Dale Carnegie」は、乙第三号証の写真の人物であり、デール・カーネギー・コースで教える内容の著作物の著者であるから、出所表示機能を全く有しないものである。即ち、デール・カーネギーの著作物の著作権は、既に消滅しているものであるから、何人もこの著作物の著者の写真とこの写真の人物が著者であることを示す表示をすることができるものであるから、このような表示が出所表示機能を有しないこと明らかである。
 以上、乙第三号証及び第四号証は、無償で頒布しているパンフレットであるから、商標法上の商品たる「印刷物」に該当しない。また、仮に、乙第三号証及び同第四号証が商標法上の商品たる「印刷物」と解されると仮定しても、該乙号証は本件商標と社会通念上同一といえない態様で商標を使用するものであり、しかも、題号としての使用であるから、いずれにしても本件商標の使用に該当しない。
 したがって、本件商標は、その指定商品「印刷物」について使用されていないものである。
3 被請求人の答弁
 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第一号証ないし同第一四号証を提出した。
(1)請求人は、本件商標は、文字が「Dale Carnegie」の署名体で登録になっているのに対し、甲第一号証では「Dale Carnegie-founder」の活字体として使用されていると主張している。しかし、本件商標は、署名体ではなく、「DALE CARNEGIE」のローマ字大文字の通常の印刷字体からなるものである(乙第一号証及び同第二号証)。また、請求人は肖像について言及しているが、本件商標は肖像を含まない。
(2)請求人は、本件商標が「Dale Carnegie-founder」の活字体として使用されていると述べ、「-founder」が加わっているから、本件商標とは同一でなく相違すると述べるが、上記の表示は、写真の下に付され、写真の人物を説明するものである。写真の人物は、「Dale Carnegie」であり、「founder」の文字は「Dale Carnegie」が被請求人会社の設立者であることを説明するものである。写真の上方に「Dale Carnegie」のやや特殊な活字体の登録商標表示を伴う表示があり、その下段に分離して「Course」の表示がある。前記「Dale Carnegie」の表示は、本件商標と実質的に同一の商標であり、したがって、被請求人は、これをもって本件商標の使用があると考える。
 請求人は、本件商標は、「特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」とされているのに対し、パンフレットの表紙に表題として使用するもので、本件商標の使用ではないと述べている。
 しかし、請求人は、もともと本件商標は使用されていないと主張するものであるから、本件商標が便用されていることを前提とする「表題としての便用」を論ずることは明らかに論理の矛盾がある。
(3)請求人は、甲第一号証及び同第二号証が定価の記載がなく、無償で頒布しているパンフレットであるから商標法上の商品たる印刷物に該当しないと述べている。
 商標は業務を行うものが商品等について使用するものであるが、業務は営利的な行為であることを要しない(乙第五号証)。したがって、無償で頒布しているから商標法上の商品でないとの請求人の主張は誤っている。
 被請求人は、同人が行っている人間能力開発を目的とする講座に関連する「Participant Manual」と題する印刷物(乙第六号証)を有償で受講生に提供している。この印刷物はその表紙に「The DALE CARNEGIE Course」の文字を付しており、「DALE CARNEGIE」の文字を他の文字とは切り離して明記し、登録商標のマークを付している。この印刷物と同一内容の印刷物は現在も使用中である。
(4)被請求人が刊行している小冊子の一つである「Remember Names」(名前を憶える法)を乙第七号証として提出する。奥付に(C)一九九六の著作権表示があり、現在も刊行されている。その表紙に「DALE CARNEGIE」「TRAINING」の表示があるが、二段にわけて記載されていること、「DALE CARNEGIE」の末尾に登録商標の表示のあることなどから、商標「DALE CARNEGIE」の使用が明らかである。
(5)請求人は、乙第三号証と同第四号証に使用されている「Dale Carnegie Course」及び「The Dale Carnegie TRAINING」の表示は本件商標の使用ではない旨述べる。
 しかし、上記使用表示中、「The」は意味のない冠詞であり、「Course」及び.「TRAINING」は刊行物の内容を表わしていて識別力に欠ける文字であることから、要部は「Dale Carnegie」にあるというべきである。したがって、上記の表示は本件商標の使用というべきものである。
 請求人は、乙第三号証はデール・カーネギー・コース参加者用マニュアルの題号を表示したものであり、乙第四号証はデール・カーネギー・トレーニングの内容を示す題号であるから、商標の使用に該当しないと述べている。使用表示の「Course」又は「TARINING」等の文字は刊行物の内容を表わしているとしても、「Dale Carnegie」の文字は、それ自体、特別の意味をもつ文字ではないので内容を表わすものとはいえない。
 この点に関連して、請求人は甲第三号証として昭和六二年(ワ)九五七二号の東京地裁昭和六三年九月一六日付判決を引用するとしているが、判決原文ではなく一解説書を引用している。したがって、提出された甲号証は判決内容を正しく伝えるものか否か不明であるが、著作物の題号が商標たりうるかどうかは一般論で決めつけることはできず、要は具体的な案件において識別力の有無を判断すべき問題であると考える。甲第三号証は商標権侵害を構成しないと判断された一事例であり、本件における商標使用の判断の参考にはならない。
 なお、前記したとおり、「Dale Carnegie」の表示は、乙第三号証、同第四号証の印刷物の内容を表示するものではない。したがって、その意味においても甲第三号証は本件に当てはまるものではない。
(6)請求人は、デール・カーネギーの著作物の著作権はすでに消滅したと述べるが、これは誤りである。請求人は「DALE CARNEGIE」や「CARNEGIE」の名を含む商品等表示を使用し、デール・カーネギーの著作物を無断使用して書籍及びカセットテープセットを販売する等の行為があったため、被請求人及び故デール・カーネギーの著作権の相続人等は、不正競争防止法違反、著作権侵害等を理由に仮処分命令申立手続を東京地方裁判所に対し行った。(平成九年(ヨ)第二二〇二四号仮処分命令申立事件)
 平成一〇年四月八日付で同裁判所は本件請求人らに対し、著作権に基づく書籍及びカセットテープセットの販売差止を命じるとともに、不正競争防止法に基づき「その営業上の施設又は活動に、「SSI D.カーネギー・プログラムス」その他「デース・カーネギー」「D.カーネギー」、「カーネギー」、「DALE CARNEGIE」「Dale Carnegie」「D. CARNEGIE」「D. Carnegie」、「CARNEGIE」、「Carnegie」を含む表示を使用してはならない」旨を命じる決定をなした。この事実は、裁判所が前記著作権が日本国内において有効に存続する事実を認めたこと、「DALE CARNEGIE」等の表示が被請求人らの業務について日本国内で周知な表示であることを認めたことを示すものである。
 なお、この仮処分決定に対し請求人は保全異議の申立てを行ったが(東京地裁平成一〇年(モ)第五一二〇号)、平成一〇年九月二一日付で請求人自ら保全異議を取下げている。
 さらに、「即ち、デール・カーネギーの著作物の著作権は、すでに消滅しているものであるから、何人もこの著作物の著者の写真とこの写真の人物が著者であることを示す表示をすることが出来るものであるから、このような表示が出所表示機能を有しないこと明らかである」と述べているが、このような主張は上述の事実より、成立の余地のないこと明らかである。
4 当審の判断
 商標法上、商標の本質的機能は、商品の出所を明らかにすることにより、自己の取り扱いに係る商品と他の取り扱いに係る商品との品質等の相違を認識させること、即ち、自他商品識別機能にあると解するのが相当であるから、商標の使用といい得るためには、当該商標の具体的な表示態様、使用方法からみて、それが出所を表示し自他商品を識別するために使用されていることが客観的に認められることが必要である。そして、当該商標が使用と認められるためには、商品について便用されていることを要するところ、商標法上商標が付される商品(以下、「商標法上の商品」という。)とは、商取引の目的物として流通性のあるもの、即ち、一般市場において流通に供されることを目的として生産され、又は取り引きされる有体物であると解されるものである。
 そこで、前記観点にたって被請求人が本件商標の使用の事実を証明するものとして提出した乙第三号証及び同第四号証並びに乙第六号証及ぴ同第七号証をみるに、まず、乙第三号証は、印刷物の写しであるところ、第一枚目において「WORLD WIDE LEADERSHIP TRAINING」、「効果的な話し方/リーダーシップの養成/人間関係の創造」、「☆コースの一〇大内容、1.恐れと劣等感を取り去り、自信を持たせる〜10.新しい友人を得る法」、「デール・カーネギー・コース使用テキスト」等の文字が表示され、また、左側部分に申込用の氏名・生年月日・住所等が印刷された欄を設けている。
 同印刷物の第二枚目においては、左側部分に「デール・カーネギー・コース開講ご案内」、「デール・カーネギーの組織について」、「開講要領」、「クラス・スケジュール表」の文字とその内容とが表示され、また、右側部分に「デール・カーネギー・コース申込書」の文字と共に氏名・会社名・勤務地等が印刷された欄を設けている。
 また、乙第四号証は、表紙と認められる第一枚目に「デール・カーネギー・トレーニング」、「The Dale Carnegie/TRAINING」の文字と共に、「前向きに、時代の変化に対応するために。」の文字を縦書きにし、第二枚目以降にデール・カーネギーの生い立ちの紹介、「明日からのビジネスにすぐに活かせる実践プログラム、六コース。」と題して、「1 デール・カーネギー・/コース Dale/Carnegie/Course」の文字と共に、そのコースの目的、期待できる効果、コース日程が「六デール・カーネギー・/リーダー・イン・ユー・コース Dale/Carnegie/Leader/In/You Course」まで、六つのコースについて紹介されている印刷物の写しであると認められる。
 してみれば、乙第三号証は、「デール・カーネギー・コース/Dale Carnegie Course」の名称を冠した教育事業講座の受講希望者を募るため頒布される受講申込書付きの印刷物と認められるものであるから、それ自体商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品とはいえないものである。同じく、乙第四号証は、「デール・カーネギー・トレーニング/The Dale Carnegie/TRAINING」と題し、「デール・カーネギー・/コース Dale/Carnegie/Course」他六つのコース(講座)を紹介した印刷物にすぎず、それ自体商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品とはいえないものである。
 また、乙第三号証及び第四号証において、「デール・カーネギー・コース使用テキスト」と称し、また、「デール・カーネギー・トレーニングから生まれたベストセラー。」と称し、商品「書籍」を取り扱っているかのごとき表示が見受けられるところ、この書籍は当該教育事業講座において使用するテキストとしての書籍を単に紹介したにすぎないものというのが相当である。しかも、前記書籍が商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品であり、本件審判請求の登録前三年以内に取引の対象となっていたことを示す、例えば納品書、請求書等の取引の際に通常用いられる取引書類等客観的な証拠は提出されていない。そもそも乙第三号証及び同第四号証は、いずれも「(主宰)パンポテンシア株式会社」と表示されているのみで、被請求人の使用権者である事実を示す使用権許諾書等の証左は何も提出されていないものである。
 次に、乙第六号証は、表紙と認められる第一枚目の中央部に「The/DALE CARNEGIE/Course」その文字、の下方部分に小さく、参加者マニュアルの意味を有する「Participant Manual」の文字が表示され、デール・カーネギー・コースなる教育事業講座がいかに行われるか、またこのコースの進め方等をまとめた内容からなる印刷物の写しであると認められるところ、その内容及び「Participant Manual」の語の意味等からみて該印刷物は、ザ・デール・カーネギー・コースなる教育事業講座の受講者に対し、その講座の内容について説明する印刷物とみるのが相当であり、それ自体商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品とはいえないものである。
 乙第七号証は、表紙と認められる第一枚目の上方部分に名前を憶える法の意味を有する「Remember Names」、その下方部分に「DALE CANEGIE/TRAINING」の各文字が表示され、その内容が九枚(表紙を含め)からなる印刷物の写しであると認められるところ、その体裁、内容等からみて一般市場で流通に供されることを目的として生産され、又は取り引きされる商品「書籍」とみることはできないものである。
 被請求人は、乙第六号証及び同第七号証について商取引の目的物として流通性のある商標法上の商品であり、本件審判請求の登録前三年以内に取引の対象となっていたことを示す、例えば納品書、請求書等の取引の際に通常用いられる取引書類等客観的な証拠は提出していない。
 そうとすれば、被請求人の提出に係る乙第三号証及び同第四号証並びに第六号証及び同第七号証の印刷物と称するものは、商標法上の商品とは認められないものであるから、例え、そこに本件商標と同一の綴り字からなる文字が表され、(R)が付されていたとしても、それをもって本件商標を使用しているものとはいえない。
 被請求人は、その他種々述べる点があるが、前記のとおり商標法上の商品について使用していると認められない以上、その主張は採用できない。
 してみると、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件商標を本件審判請求の登録前三年以内に日本国内において、取消請求に係る指定商品「印刷物」について使用していたものと認めることはできないものである。
 したがって、本件商標の登録は、商標法第五〇条の規定により、指定商品中、結論掲記の商品について取り消すべきものとする。
 よって、結論のとおり審決する。
 被請求人のため出訴期間として九〇日を付加する。
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