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【事件名】映画のビデオ化事件 【年月日】平成13年2月28日 東京地裁 平成10年(ワ)第543号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成12年11月22日) 判決 原告 有限会社ユタカインダストリー(「原告ユタカ」という場合がある。) 右代表者代表取締役 【A】 原告 ワールドワイドフィルム有限会社(「原告ワールドワイド」という。) 右代表者代表取締役 【A】 原告 【A】 原告ら訴訟代理人弁護士 林正紀 被告 株式会社東北新社(「被告東北新社」という。) 右代表者代表取締役 【B】 被告 【B】(「被告【B】」という。) 被告ら訴訟代理人弁護士 森伊津子 被告ら訴訟復代理人弁護士 金澤優 同 追川道代 主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第一 請求 一 被告らは、原告らに対し、各自金五億円及びこれに対する平成一〇年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 二 被告らは、原告らに対し、別紙映画著作物目録一、二、四、六、七、九、一〇、一三、一四、一六ないし二〇、二二ないし二八記載の映画著作物を複製し又は頒布してはならない。 三 被告らは、原告ユタカに対し、別紙映画著作物目録一、二、四、九、一三、一四、一六、一八ないし二〇、二二ないし二八記載の映画著作物のビデオカセット及びマスターテープを廃棄せよ。 (なお、原告らは、平成一一年一〇月一五日付け弁論準備期日で請求の趣旨の変更をし、これによれば、原告ユタカについては訴えの一部を、その余の原告らについては訴えの全部を取り下げたものと解されるが、被告らはこれに同意しない。) 第二 事案の概要 原告らは、別紙映画著作物目録一ないし二八記載の映画著作物(以下順に「本件映画著作物一ないし二八」といい、全体を「本件映画著作物」という。)に係る著作権を取得したところ、被告らが本件映画著作物及びそのビデオグラムの複製販売を行い、原告らの右著作権(複製権及び頒布権)を侵害したと主張して、被告らに対し、右複製販売の差止め、複製物等の廃棄、損害賠償を求めた。 一 争いのない事実 1 RKO・ラジオ・ピクチャーズ・インク(その後、商号変更により、RKO・ジェネラル・インクとなった。以下あわせて「RKO」という。)は、もと本件映画著作物についての著作権(以下「本件著作権」という。)を有していた。 2 RKOは、一九五五年(昭和三〇年)一二月二二日、C&Cテレビジョンコープ(以下「C&C」という。)との間で、本件映画著作物に関して、RKOからC&Cに対して一定の権利を付与する旨の同日付契約(乙一一の一、二。以下「五五年契約」という。)を締結した(なお、契約の内容については争いがある。)。 3 C&Cの後身であるテレヴィジョン・インダストリーズ・インク(以下「インダストリーズ社」という。)は、一九六二年(昭和三七年)一一月一七日、オリエント・テレビジョン・インダストリー・インク(以下「オリエント社」という。)との間で、本件映画著作物に関して、インダストリーズ社がオリエント社に対して一定の権利をライセンスする旨の同日付契約(乙一八。以下「六二年契約」という。)を締結した。 さらに、インダストリーズ社は、一九六六年(昭和四一年)一月二八日、オリエントとの間で、新たな同日付契約(以下「六六年契約」という。)を締結した。この契約は、六二年契約で規定されていた許諾の期間を一九七七年(昭和五二年)一月一日まで延長すること等を内容とするものである。 4 インダストリーズ社の後身であるトランスベアコン(以下「破産会社」という場合がある。)は破産したところ、その破産手続(以下「本件破産手続」という。)において、一九七一年(昭和四六年)六月一日付けの米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所【C】破産判事(以下「【C】破産判事」という。)の決定に基づき、翌六月二日付で、破産会社の【D】破産管財人から本件映画著作物に関する一定の権利の譲渡(以下「本件バンクラプシー・セール」という。)がされた(原告ユタカに対して譲渡されたか否かについては争いがある。)。 二 争点 1 原告らの著作権の取得 (原告らの主張) 原告ユタカは、一九七一年(昭和四六年)六月一日の【C】破産判事の決定に基づき、翌六月二日付破産会社の【D】破産管財人による本件バンクラプシー・セールにおいて、譲渡証書(以下「本件譲渡証書」という。)に基づき、本件映画著作物を含む七四二作の長編及び九〇〇作の短編からなる「アールケーオーライブラリー」の日本、沖縄、韓国、台湾(以下「本件地域」という。)における複製権、放送権、有線送信権、上映権、頒布権、その他すべての著作権(本件著作権)を譲り受けた(また、原告ワールドワイドは、原告ユタカから本件著作権を譲り受けた。)。 被告らは、原告ユタカの前主である破産会社(破産財団)の保有していた権利は、本件著作権の一部にすぎない(ビデオテープを用いたテレビ放送又はビデオグラムの頒布を行う権利を含んでいない。)ので、原告ユタカが、破産会社(破産財団)の保有する権利を超えた権利を取得することはあり得ないなどと反論するが、右主張は、以下のとおり失当である。 (一) 本件バンクラプシー・セールにおいて原告ユタカが取得した権利の内容 本件破産手続において、破産管財人が原告ユタカにどのような権利を譲渡したかを判断するに当たっては、破産財団に何が存するかについての破産管財人の認識を基準とすべきである。本件譲渡証書には、「日本、沖縄、韓国、台湾またはこれらが現在構成する地域を領域として、テレビジョンインダストリーズインクとオリエントテレビジョンインダストリーズインクとの間の一九六二年一一月一七日付け契約に記載された特定の映画著作物の初期著作権、更新著作権に基づく唯一かつ独占的権利及びライセンスにおけるすべての権利、資格、利益」と、「ビデオグラム化権」「頒布権」を含む完全な著作権が譲渡されている旨が記載されている。したがって、本件バンクラプシー・セールにおいて、破産管財人は、本件映画著作物に関する日本における本件著作権を譲渡したとの意思を有していたことは明らかである。 (二) 破産手続等における権利主張の制限 仮に、五五年契約により、C&Cが権利の一部のみ付与されていたとしても、本件破産手続において原告ユタカが著作権を取得したことは、以下の法理によって保護を受ける。すなわち、 (1) 本件バンクラプシー・セールにおいて、フリー・アンド・クリアーの法理の適用がある。本件では、フリー・アンド・クリアーの適切な手続が行われ、ショー・コーズ・オーダーにおいて「免責証書を取り交し、特定の契約を批准する」(Exchanging Release and to affirm a certain contract)という記載が付されている。これにより、批准された契約書に書かれた内容の権利が移転し、それ以外の債権債務関係がすべて消滅する。裁判所により特定の契約を批准する許可が与えられた以上、その契約にフリー・アンド・クリアーの趣旨を盛り込むことができる。本件バンクラプシー・セールは、申立後、権利の排除される第三者に対して通知が行なわれるという、フリー・アンド・クリアーの形式に沿っている。RKOは、このような機会を与えられながら異議を述べなかった。その結果、事件は既に確定し、従前の法律関係は、本件バンクラプシー・セールの譲渡証書の契約条項で上書き(override)されている。したがって、被告らは、国家によって上書きされる以前の消滅した法律関係を前提に主張を展開できる立場にはない。 (2) 原告ユタカは、ボナファイドパーチェサーである。 本件においてボナファイドパーチェサーとは、「裁判所の決定に基づくバンクラプシー・セールで権利を取得した者」を意味し、「裁判所の決定の部分が上訴で破棄されたとしても、バンクラプシー・セールで購入した権利は保護される」という米国判例法上で確定した法理を意味する。原告ユタカは、裁判所の決定によるバンクラプシー・セールで権利を取得したものであるから、ボナファイドパーチェサーである。なお、本件では、バンクラプシー・セールを許可した決定が確定して既判力を獲得したわけであるから、ボナファイドパーチェサーか否かを議論するまでもなく、既判力を有する米国破産裁判所の決定に基づくバンクラプシー・セールで権利を取得したと主張することで充分である。 (3) 我が国の裁判所は、破産会社がいかなる権利を有していたかについて判断することはできない。 破産手続が係属中はもちろん、破産手続が終結した後においても、破産者の資産に対しては破産裁判所に専属管轄がある。したがって、本件バンクラプシー・セールにおいて権利を取得する際の原告ユタカのボナファイドネスの有無を判断する専属管轄は、バンクラプシー・セールの前後を通じてニューヨーク州南部連邦地方裁判所破産裁判所にある。この裁判管轄の問題は、国際私法上、外国国家政府によって、その管轄権に基づいてなされた国家行為を日本国政府が承認するかという問題に帰結するので、国際的協調の観点を尊重しなければならない。 (被告らの反論) 原告らは、一九七一年(昭和四六年)六月二日、破産管財人の譲渡証書に基づき、本件映画著作物のすべての著作権を取得したと主張するが、右主張は否認する。その理由は以下のとおりである。 (一) 原告らが根拠とする本件バンクラプシー・セールにおける本件譲渡証書の存在自体が疑わしい。被告らが破産記録を調査しても本件譲渡証書は存在しなかった。また、本件譲渡証書に記載されている一万ドルの破産管財人に対する支払は、実際には行われていない。本件譲渡証書は記載された作成日より後に作成されたものであると破産管財人が言明している。破産裁判所は、オリエント社に対する譲渡を許可したのであって、本件譲渡証書に記載された原告ユタカに対しては許可していない。債権者への通知も、オリエント社に対する譲渡についての同意を求めている。このような点で、原告ユタカは、本件破産手続において、本件譲渡証書に基づき、本件映画著作物に関して何らかの権利を取得したことはない。 (二) 原告らが原告ユタカの前主であると主張する破産会社は、以下のとおりの理由で、本件映画著作物についてホームビデオの複製頒布権を取得していない。 (1) 一九〇九年米国著作権法の下では、著作権は不可分のものとされ、著作権全体としてでなければ移転できなかった。C&Cは、RKOの有する権利の一部のみについて権利付与を受けたのであるから、右著作権法の下では、著作権を取得したものと解する余地はなく、ライセンシーの地位を取得したにすぎない。このように、C&C(インダストリーズ社、破産会社)は、本件映画著作物についてRKOが有する権利の一部について、五五年契約により許諾を受けた単なるライセンシーにすぎない(なお、破産会社は、破産前に、オリエント社に与えていたオプション権以外の一切の権利を、一九六六年(昭和四一年)一二月一日、ユーラフィルム社に譲渡している。)。 五五年契約では、C&C(インダストリーズ社、破産会社)が、サブライセンス契約をする場合には、サブライセンシーに同契約と同一の条項を遵守させることが義務づけられていた。その義務の中には、著作権がRKOに留保されていることを明示すべき義務も含まれている。また、RKOが権利を有する作品の多数の利用権を調整するため、五五年契約では、既存契約の制約の範囲内のライセンスであることが明示されている。 RKOは現在も存在しており、依然として留保された権利を保有し続けており、ライセンサーとしての立場にある。 (2) C&C(破産会社)は、五五年契約によって、ホームビデオ権を取得したことはない。非劇場権の許諾は、一六ミリフィルムを使用するもののみについて行われた。また、非劇場権からは明らかにホームユース権(家庭で上映する権利)が除外されている。したがって、いずれの点からも、破産会社は、ホームビデオの複製頒布権を取得していない。このことは、五五年契約に、特段許諾されている権利以外の権利はすべて明白にRKOに留保されている旨、及び破産会社が対象権利を担保提供又は譲渡できるとしても、同契約上のRKOに対する破産会社の義務を譲受人や担保権者に履行させることが条件である旨が規定されていることからも明らかである。 (3) インダストリーズ社(破産会社)は、六二年契約により、オリエント社に対し、自己の有する一六ミリフィルムを使用する非劇場権(ホームユース権は含まない。)のみを再許諾したにすぎない。すなわち、六二年契約は、五五年契約の条項が組み入れられており、五五年契約の範囲内でのみ再許諾することが明記されている。 原告らは、五五年契約及び六二年契約の別表を含めた全体を提出していない。したがって、両契約の対象作品や対象権利は明らかになっていない。 (二) 仮に、原告らが破産手続における本件バンクラプシー・セールによって一定の権利を取得したとしても、そこには、ホームビデオの複製頒布権は含まれておらず、破産手続によって権利は拡大していない。 (1) 本件譲渡証書には、「All of the right, title and interest in and to the sole and exclusive rights and licenses under the copyrights or renewals of copyrights of the certain films specified and described in an agreement of November 17,1962」と記載されている。つまり、譲渡対象は、「独占かつ単独の権利とライセンス」に存する「一切の権利、権原及び利益」であり、「著作権及び更新著作権に基づく」という文言は、あくまで「権利とライセンス」とを修飾しているにすぎない。「specified and described in an agreement of November 17,1962」は、「All of the right, title and interest in and to the sole and exclusive rights and licenses under the copyrights or renewals of copyrights of the certain films」全体を修飾している。そうでなければ、「sole and exclusive rights and licenses」の内容が分からないことになる。したがって、著作権自体は本件バンクラプシー・セールの対象になっていない。 (2) また、そもそも破産会社はホームビデオの複製頒布権を有していなかったのであるから、本件バンクラプシー・セールの対象に右権利は含まれない。破産管財人は破産者の財産でないものを移転する権限を有せず、移転しても無効である。一九〇九年米国著作権法下では著作権は不可分であったから、破産会社が一部の権利しか取得していない以上、著作権はRKOに留保されているのであるから、本件バンクラプシー・セールにより著作権が移転することはない。 (3) 原告らは、六二年契約の実質的な当事者であり、契約内容について悪意であったから、善意者として保護されることはなく、契約内容以上のものを要求することは公序良俗違反である。 (4) 本件映画著作物についての日本における著作権の譲渡の準拠法は日本法であるが、そこでは、著作権の善意取得は認められていない。 2 原告らの対抗要件欠缺 (被告東北新社の主張) 同被告は、本件著作物の著作権者であるRKOから、その行為について正当なビデオグラム権の再許諾を受けており、対抗要件の欠缺を主張できる法的利害関係を有する第三者である。 仮に原告らが本件著作権の譲渡を受けたとしても、かかる譲渡について著作権登録を受けていない以上、原告らは同被告に対し本件著作権の譲受けを対抗することができない(著作権法七七条一号)。 (原告らの反論) 同被告の前記主張を争う。 3 被告らの著作権侵害行為 (原告らの主張) 被告東北新社は、本件映画著作物をビデオグラムに複製し、これを第三者に頒布した。被告【B】は、被告東北新社の代表取締役として、共謀して右行為を行った。被告らの右行為は、原告らの有する複製権、頒布権の侵害に当たる。 (被告らの反論) 原告らの前記主張を争う。 4 損害 (原告らの主張) (一) 不法行為 原告らが被告らの故意又は過失による前記3記載の著作権侵害行為により被った損害額は四〇億円を下らないので、一部請求として、被告らに対し、各自五億円を請求する。 (二) 不当利得 被告らは法律上の原因なくして右著作権侵害行為により利益を受け、そのため原告らは損失を被ったが、右損失額は四〇億円を下らないので、一部請求として、被告らに対し、各自五億円を請求する。 (被告らの反論) 原告らの前記主張を争う。 原告らは、昭和六二年六月一五日までには、前記不法行為の損害及び加害者を知っていたから、被告らは、本訴提起より三年以前の不法行為に基づく損害については、消滅時効を援用する。 第三 争点に対する判断 一 まず、争点1(原告らの著作権取得)について検討する。 当裁判所は、以下のとおり判断した。 すなわち、@五五年契約において、破産会社の前身であるC&CはRKOから、本件映画著作物に関して権利を付与(ライセンスないし使用許諾)されたが、その権利範囲は、一六ミリ又は三五ミリフィルムという媒体を使用した劇場上映権等に限定され、日本国内においてビデオテープを用いてテレビ放送する権利及び家庭用ビデオカセットを頒布する権利は含まれていなかった。A六二年契約及び六六年契約により、インダストリーズ社(C&Cの後身)は、オリエント社に対して、一定の権利を付与(サブライセンス、再使用許諾)したが、右権利の範囲は、五五年契約においてC&Cが取得した権利の範囲に限定されていた。B本件破産手続の経緯に照らすならば、本件バンクラプシー・セールは、五五年契約により破産会社(C&C)がRKOからライセンスを受け、六二年契約により破産会社(インダストリーズ社の後身)がオリエント社にサブライセンス(修正により期間の制限ないものとなった。)したという契約上の権利関係を、破産管財人が、原告ユタカに対して譲渡したものと解することができる。Cしたがって、原告ユタカは、日本国内においてビデオテープを用いてテレビ放送する権利及び家庭用ビデオカセットを頒布する権利を取得していない。 以下において、その詳細を述べる。 1 五五年契約について (一) 五五年契約の内容は、次のとおりと認められる(乙一一の一、二)。右は、RKOとC&C(破産会社の前身である。)との間で締結された契約であるが、右契約書には、RKOはC&Cに対して、本件映画著作物に関して、一定の権利を売却又は付与する旨記載がされている。 (1) 五五年契約においては、その対象となる映画著作物について、@短編映画、A長編映画、B独立長編映画の三種類に分類しているが、本件で問題となっている本件映画著作物はいずれも長編映画に属する(2・0)。 (2) 長編映画については、@域内地域(1・01)とAそれ以外の域外地域(1・02)との区分に応じて、C&Cに付与される権利が定められている。域内地域は、合衆国大陸部、アラスカ、ハワイ、カナダ自治領及びその海外県、ニューファンドランド並びにバハマとされ(1・01)、域外地域は日本を含む。域外地域において、C&Cに付与される権利は、次のとおりと定められている。 ア 劇場上映権(3・02a) 「各映画を、一六ミリ又は三五ミリフィルムを用いて、域外地域内の映画館において上映し、上映する権限を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス、及び特権」 イ テレビ放映権(3・02b) 「無料テレビ及び有料テレビの双方において、又は域外地域に所在するテレビ局において、一六ミリ又は三五ミリフィルムを用いて、かかる映画を放送し、配信する権利、及びかかる権利を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス、及び特権」 ウ 非劇場上映権(3・042、1・11) 「一六ミリフィルムのみを使用して、各映画を上映し、配給し、その他利用する独占的で世界規模の権利及びかかる映画を上映し、配給し、その他利用する権限を他者に付与する独占的で世界規模の権利」 (3) 他方、五五年契約においては、RKOに留保される権利についても規定されている。すなわち、長編映画について「3・02、3・03及び3・04に基づいてC&Cに対し明確に付与されてはいないすべての権利は・・・RKOに明確に留保されている」とされ、特に、リメイク権(3・2)、テレビ翻案権(1・08)、舞台向け翻案権、ラジオ権、著作権及び域内地域における劇場上映権(再上映を含む。)等は明示的に留保される旨が規定されている(3・1)。 (4) ところで、RKOに留保された権利の一つとしての前記「テレビ翻案権」は、「(a)ライブベースによるか、フィルム、エレクトロニカム又は磁気テープによるか、あるいは現在知られているか又は将来発見されるその他のいかなる記録手段によるかを問わず、テレビ放送での使用のみを目的とした映画の新バージョン又は映画に基づくプレゼンテーション・・・を作成し、かかる作成を行う権限を他者に付与する独占的で永続的な権利・・・並びに(b)かかる新バージョン又はプレゼンテーションをテレビ局で放送し、かつかかる放送を行うライセンス及び権限を他者に付与する独占的で永続的な権利」と定義されている。右規定では、「フィルム」と「磁気テープ」とが明確に区別されている。また、「現在知られているか又は将来発見されるその他のいかなる記録手段によるかを問わず」という文言も明確に示されている。 (5) また、域内地域における長編映画に関するテレビ放映権は、「映画を無料・有料テレビの双方によって、又は域内地域に所在するテレビ局において、かかる各映画を放送し、配信する権利、及びかかる権利を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス、及び特権」と定義されている(3・03)。域外地域における長編映画に関するテレビ放映権の前記定義と比較すれば、「一六ミリフィルム又は三五ミリフィルムを用いて」という媒体の限定文言が付加されていない点が異なる。 (二) 以上のとおり、右契約書の記載内容及び体裁によれば、五五年契約において、C&CがRKOから付与された権利は、一六ミリ又は三五ミリフィルムを使用した権利に限定され、日本国内においてビデオテープを使用してテレビ放送する権利及び家庭用ビデオカセットを頒布する権利は含まれていないことは明らかである。 その根拠は、以下のとおりである。 @ 五五年契約によれば、本件映画著作物を含む長編映画について、日本を含む域外地域においては前記の三つの権利(劇場上映権、テレビ放映権、非劇場上映権)のみを付与する旨明確に規定し、それらの三つの権利の内容についても、「一六ミリ又は三五ミリフィルムを用いた」又は「一六ミリフィルムを用いた」との文言の点も含めて詳細かつ具体的に規定しているから、C&CがRKOから付与された権利はこれに限定されると解すべきである。また、C&Cに明確に付与されていないすべての権利がRKOに留保される旨の権利留保規定を、明示的に定めていることもこの解釈を裏付ける。 A 長編映画に関するテレビ放映権の定義規定において、域外地域と域内地域を比較すると、域外地域に関する規定のみ「一六ミリフィルム又は三五ミリフィルムを用いて」という媒体の限定文言が付加されていることに照らすと、同契約における「一六ミリフィルム又は三五ミリフィルムを用いて」という文言は、厳密に媒体を限定したものと解するのが相当である。 B RKOに留保された「テレビ翻案権」の定義規定において、「フィルム」と「磁気テープ」とが明確に区別されていることに照らすと、「一六ミリフィルム又は三五ミリフィルム」という用語には、磁気テープを含まないと解するのが相当である。 C 「テレビ翻案権」の定義規定のみに、「現在知られているか又は将来発見されるその他のいかなる記録手段によるかを問わず」という将来技術も含む旨の文言が明記されていることに照らすならば、C&CがRKOから付与された前記三つの権利の内容にこのような将来技術を含むと解するのは合理的でないというべきである。 なお、五五年契約に適用される一九〇九年米国著作権法は、著作者及び著作権者の保有する権利は不可分であって、その一部の譲渡は許されないとの前提(不可分性の原則)に立っていると解されるが、前記のとおり、五五年契約ではC&CにRKOの有していた権利のうち一部のみが売却又は付与されている旨記載されている点を考慮すると、同契約において、RKOがC&Cに対して付与した権利は、使用許諾権(ライセンス)と解するのが合理的である。五五年契約にはライセンスという語が多数用いられていることもこれを裏付ける。 2 六二年契約及び六六年契約について (一) インダストリーズ社(C&Cの後身)とオリエント社が締結した六二年契約の内容は、次のとおりと認められる(乙一八)。すなわち、インダストリーズ社は、オリエント社に対し、日本、沖縄、韓国及び台湾における、一六ミリフィルム又は三五ミリフィルムによる劇場、非劇場又はテレビにおける本件映画著作物の利用権を許諾する(3・1、4・2)。右契約書には、「本契約における付与及びライセンスは、五五年契約に記載の制限及び条件に従うものである。」とされ(1・4)、許諾の期間は、当初契約締結日から一〇年間(終期は一九七二年(昭和四七年)一一月一七日となる。)とされていた(4・1)。 さらに、インダストリーズ社がオリエント社と締結した六六年契約の内容は、六二年契約で規定されていた許諾の期間を一九七七年(昭和五二年)一二月三一日まで延長すると共に、同年一月一日までに一定の対価を支払うことによって当該許諾に係る権利について期間の制限のない利用権を取得するオプションを与えるものと認められる(弁論の全趣旨)。 (二) 以上の事実によれば、六二年契約及び六六年契約により、本件破産手続開始時において、オリエント社が有していた権利は、五五年契約に基づいてC&C(インダストリーズ社)が許諾を受けた権利のうちで、一定の期間内における一定地域内の利用権と、その利用権を期間の制限のないものとするオプション権ということができる。また、破産会社は、本件破産手続開始時において、C&C(インダストリーズ社)が有していた右各契約上の権利義務を引き継いでいたことが明らかである。 なお、六二年契約は五五年契約に基づきインダストリーズ社(C&C)がRKOから許諾(ライセンス)を受けた権利の一部を更にオリエント社に付与したものであるから、オリエント社が取得した権利も、再許諾(サブライセンス)を受けた権利と解するのが合理的である。 3 原告ユタカが本件バンクラプシー・セールにより取得した権利の内容 (一) 証拠によれば、本件バンクラプシー・セールに係る破産手続の経緯は以下のとおりと認められる。 (1) 破産管財人が破産管財業務の一環として作成した双務契約リスト(破産会社が破産宣告前に締結し、破産宣告後も承継すべき双務契約を記載したリスト)には、五五年契約が掲載されている(甲二七)。 破産管財人の破産裁判所に対する一九七一年四月二〇日付け許可申請書には以下のとおりの記載がある(甲三一)。すなわち、RKOとC&C(破産会社の前身)との間の五五年契約やインダストリーズ社(破産会社の前身)とオリエント社との間の六二年契約及び六六年契約について、「これまで破産者は、破産者とRKOとの間で締結された契約書に特定される一定の本数からなるRKO映画ライブラリを頒布し上映する権利を取得していた。破産者は、当該映画ライブラリに関する自らの様々な権利を移転したが、その中には、日本、韓国、沖縄及び台湾において一九七六年末まで当該映画を頒布し上映する権利のオリエント社への移転も含まれていた。」と記載されている(二項)。そして、オリエント社の取得した権利について、「当該契約において、オリエント社は、破産者から当該権利を期限の制限なく利用するオプションを付与された。かかるオプションは価額二万一〇〇〇ドルとされ、その行使期限は一九七一年一二月末まで延長された。」と記載されている(三項)。その上で、オリエント社の買受申出について、「オリエント社は、申請人に対し、破産者のオリエント社との契約を、当該契約に基づいて管財人が何らの責任も負わない形で上記権利を期間の制限なくオリエント社に譲渡する(破産者により取得された権利の譲渡を除く。)ことのみを範囲として承認するよう要求している。オリエント社は買受価額一万ドルを提示している」、「オリエント社による上記提示は、申請人がオリエント社に対して有している上記契約に基づく総額一万三二五〇ドルのロイヤルティ請求権について、申請人がオリエント社を免責することを条件としている。オリエント社は、かかる契約に基づく様々な懈怠行為・・・について主張し、かかる懈怠行為により上映用プリントを販売できなかったため損害を被ったと主張した。」と記載されている(五項、六項)。 右買受申出に対する破産管財人の意見については、「申請人は、・・・かかる買取価額が公正かつ合理的であると考えている。」、「申請人は、免責の取り交わしが、少なくとも一万ドル(かかる免責の取り交わしがなければ取得できない可能性が高いと考えられるもの)を本破産財団にもたらすことになる限りにおいて、かかる取り交わしが本破産財団のために最も得策であると真に考えている。」と記載されている(五項、六項)。 (2) 右の許可申請を受けて発令された、【C】破産判事の一九七一年四月二〇日付ショー・コーズ・オーダー(債権者集会に対する理由開示命令)は、破産管財人が六二年契約を承認するに当たって考慮するために、債権者集会を開催すること等を命じたものである(甲三一、乙一〇)。 右許可申請及び債権者集会に基づいて行われた【C】破産判事の一九七一年六月一日付売却許可決定では、管財人による申請について審理をした結果、許可申請書に記載された前記の範囲で六二年契約を承認することを許可する旨記載されている(甲三二)。 (3) その後、翌二日、破産管財人は、原告ユタカに対して、破産財団に属する権利の一部について譲渡をしたが、本件譲渡証書には、@【C】破産判事の右売却許可決定に基づいて、破産管財人が、原告又はその承継人に対して、一万ドルで、一定の権利を譲渡する旨、Aその譲渡対象となる権利に関しては、「日本、沖縄、韓国及び台湾の地域及び国々について、インダストリーとオリエント社との間で締結された六二年契約並びに破産会社が破産申立を行った時点において有していた一切の補足及び修正に記載された、特定の映画著作物に関する初期著作権、更新著作権に基づく唯一かつ独占的権利及びライセンスにおけるすべての権利、資格、利益」とする旨が記載されている(甲五)。 (4) なお、本件譲渡証書により、譲り受けた当事者は、オリエント社ではなく、原告ユタカであった。これは、両者の特別の関係から、両者の協議の下に、破産手続の最終段階で、原告ユタカが、オリエント社に代わって、当事者になったものと推認される。 (二) 以上の事実によれば、@双務契約リストの記載に照らすならば、破産管財人が、五五年契約の存在及び内容を十分認識していたこと、A買受申出人であるオリエント社は、破産管財人に対し、破産会社がオリエント社に対して六二年契約によって許諾した本件映画著作物に関する権利を期間の制限ないものとして利用する権利をオリエント社に譲渡する範囲でのみ、六二年契約を承認することを求めていたものであること、B破産管財人は、オリエント社の右買受申出を妥当なものと認め、承認の前提として債権者集会の開催等を破産裁判所に求めたこと、C【C】破産判事のショー・コーズ・オーダーや売却許可決定は、破産管財人の求めた前記の範囲で六二年契約を承認することの許可申請についてされたものであることが明らかである。 そうすると、右一連の破産手続の経緯に照らせば、本件譲渡証書によって原告に対して譲渡された権利の内容は、五五年契約により破産会社が付与された権利の範囲内で、かつ、六二年契約によりオリエント社に対して既にサブライセンス(再許諾、前記のとおり修正されて許諾期間の制限はなくなった。)したことに基づく破産会社の法的地位ないし権利であることは疑いの余地がない。 原告らは、本件譲渡証書の文言は、「六二年契約において特定される映画著作物」に関する一切の権利を本件バンクラプシー・セールの対象とする旨解釈されるべきである旨主張する。 なるほど本件譲渡証書には、「特定の映画著作物に関する初期著作権、更新著作権に基づく唯一かつ独占的権利及びライセンスにおけるすべての権利、資格、利益」と記載されている。しかし、前記のとおり、許可申請書、ショー・コーズ・オーダー、売却許可決定等その他の破産記録の記載と照らし合わせれば、破産管財人の認識は、「六二年契約により、破産会社が既にオリエント社に付与した権利を期間の制限ないものとして利用する権利をオリエント社に付与する」ことの承認に関するものであったことは明らかであるから、右一連の経緯に照らすならば、「specified and described in an agreement of November 17,1962」は「films」ではなく「all of the right, title and interest」を形容、修飾するもの、すなわち、「六二年契約において特定される破産者の権利」と解釈すべきことは当然である。原告ユタカに対し譲渡された権利の内容が、本件映画著作物に関する一切の無制約な権利と解することは到底できない。この点に関する原告らの主張は採用できない。 (三) 原告らのその他の主張について判断する。 原告らは、ショー・コーズ・オーダーにおいて「免責証書を取り交し、特定の契約を批准する」(Exchanging Release and to affirm a certain contract)という記載が付されているが、右は、批准された契約書に書かれた内容の権利が移転し、それ以外の一切の債権債務関係がすべて消滅することを意味するから、フリー・アンド・クリアーの適切な手続が行われているものであり、したがって、「劇場上映権」「テレビ放映権」及び「非劇場における頒布権」について、五五年契約及び六二年契約において課せられた「ホームユース」の制約及び「一六ミリ又は三五ミリフィルム」を使用するという制約は、「契約上の義務」あるいは「紛争のある第三者の権利」として、破産管財人が排除したものである旨主張する。 しかし、そもそも、前記のとおり、破産管財人は、六二年契約における「ホームユース」の制約及び「一六ミリ又は三五ミリ」のフィルムを使用するという制約を前提として本件バンクラプシー・セールを行ったものと解されるから、原告らの主張は、その前提において採用できない。したがって、この点についての原告らの主張は失当である。 原告のその他の主張もすべて理由がない。 二 結論 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告らの本件請求はいずれも理由がない。 なお、当裁判所は、平成一一年七月二六日第一一回弁論準備期日以降の被告らの新たな主張、立証(損害に係る主張、立証は除く。)を制限した。本判決は、右期日以前に、被告らにより陳述、提出された主張、立証を基礎とするものである。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第二九部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 沖中康人 裁判官 石村智 別紙 映画著作物目録 |
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