判例全文 | ||
【事件名】商標共有者の一人による無効審決取消しの効力訴訟事件(2) 【年月日】平成13年2月26日 東京高裁 平成12年(行ケ)第476号 審決取消請求事件 判決 原告 株式会社コマリョー 代表者代表取締役 A 訴訟代理人弁護士 松村信夫 同 和田宏徳 同 塩田千恵子 同 岩井泉 同弁理士 清末康子 被告 B 主文 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた裁判 特許庁が平成11年審判第35434号事件について平成12年10月26日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 本件記録上認められる事実 原告及び株式会社レバンテ(以下「レバンテ」という。)は、「ETNIES」の欧文字を横書きして成り、商標法施行令別表の第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、手袋、ネクタイ、ネッカチーフ、マフラー、耳覆い、ヘルメット、帽子、バンド、ベルト」を指定商品とする登録第3116038号商標(以下「本件商標」という。)に係る商標権の共有者である。 本件商標は、平成4年12月17日に登録出願され、平成8年1月31日に権利者をレバンテとして設定登録された後、原告に対する商標権の一部移転がされ、平成11年1月21日にその登録がされたものである。 被告は、同年8月20日、原告及びレバンテを被請求人として、本件商標につき登録無効の審判請求をし、同請求は、平成11年審判第35434号事件(以下「本件審判事件」という。)として特許庁に係属した。なお、本件審判事件につき、被請求人である原告は弁理士C及び同Dを、レバンテは弁護士E、弁理士F及び同Gを審判代理人に選任した。 特許庁は、平成12年10月26日、本件審判事件につき、本件商標は、商標法4条1項19号の規定に違反して登録されたものというべきであるから、その登録は同法46条1項1号の規定により無効とすべきであるとして、「登録第3116038号の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。 第3 原告の主張及び当裁判所の判断 1 本件訴状には、原告の主張として、本件審決の謄本は平成12年11月15日に原告に送達されたところ、本件商標の登録の効力に関する本件審決の認定判断は誤りであるから、本件審決は違法として取り消されるべきである旨の記載がある。 2 ところで、共有に係る商標権について商標権者に対し商標登録の無効の審判を請求するときには、共有者の全員を被請求人として請求しなければならない(商標法56条1項において準用する特許法132条2項)が、そのような審判請求に対し、当該商標の登録を無効とする審決がされた場合に、その審決の取消しを求める訴えは、共有者が全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟と解すべきである。 この点につき、原告が提出した平成12年12月28日付け上申書には、原告の主張として、商標権の共有が、民法上のいわゆる合有ではなく通常の共有としての法的性質を有すると解されるから、共有者の一人は保存行為として商標登録を無効とした審決の取消しの訴えを提起することができるものと解すべき旨の記載があり、さらに、審決取消しの訴えは、審決が示した権利付与、権利の無効等の判断の適否を間接的に統制するものであるから、その結果が共有者間において合一的に確定されなければならない必要性は審決ほど高くない旨、すでに登録された商標が無効とされることによる影響の大きさは、原告のようにこれを使用して業務を行ってきた者と、レバンテのように商標権の共有者であってもこれを使用していない者とでは大きな相違があり、商標を使用していない共有者に商標登録を無効とした審決の取消しの訴えの提起を期待することは困難である旨の記載もある。 しかしながら、共有に係る商標権につき商標登録を無効とした審決の取消しを求める訴えにおいて、その審決を取り消すか否かは、間接的にではあれ、共有者全員の有する一個の権利の存否を決めるものとして、共有者全員につき合一に確定する必要があるものというべきである。この点は、仮に、商標権の共有の法的性質が民法上の通常の共有と解されるとしても、そのことによって別異に解されるものではなく、したがって、共有者のうちの一部の者のみが、保存行為として上記審決の取消しの訴えを適法に提起できるものではない。 また、商標法は、商標登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求する場合(商標法44条、45条)には、共有者の全員が共同して請求しなければならないとしており(商標法56条1項において準用する特許法132条3項)、さらに、共有に係る商標権の商標登録がされた後においても、それが、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則5条2項に規定する使用に基づく特例の適用の主張を伴う商標登録出願に係る同一又は類似の役務について使用をする同一又は類似の二以上の登録商標がある場合の当該登録商標であれば、その商標権の存続期間の最初の更新登録の出願に対してされた拒絶査定(商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)附則11条、13条)に対する不服の審判を請求する場合には、共有者の全員が共同して請求しなければならないとしている(商標法56条1項において準用する特許法132条3項)ほか、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)による商標法の改正前は、登録商標一般について同様の扱いであった(同改正前の商標法20条、21条、商標法56条1項において準用する特許法132条3項、なお、上記の商標権の存続期間の更新登録に関する改正は、登録更新についての規定を商標法条約(平成9年条約第2号)13条(6)に適合させる必要があることに基づき、登録商標一般につき更新時の実体審査を原則として廃止する目的によるものであって、共有に係る商標権について格別の配慮がされたものではない。)ことにかんがみると、商標法は、商標登録を受ける権利又は商標権の共有者中に権利の取得又は存続の意欲を失った者がいる場合には、一個の商標権全体について、その取得又は存続ができなくともやむを得ないとしていることがうかがえるのであるから、商標登録を無効とした審決の取消しの訴えの提起の場合に同様の扱いをすることが、格別不合理であるとすることはできない。 したがって、上記上申書記載の原告の主張は採用することができない。 3 そうすると、本件審決の取消しの訴えは、本件商標に係る商標権の共有者である原告及びレバンテの両名で提起すべきものであって、原告のみの提起に係る本件訴えは、不適法であるといわなければならない。 そして、本件審判事件につき、被請求人である原告及びレバンテがいずれも弁護士又は弁理士を審判代理人に選任したことは前示のとおりであるから、原告に対し本件審決の謄本が送達された平成12年11月15日ころに、レバンテに対しても本件審決の謄本の送達がされたものと推認されるところ、現在に至るまでレバンテから本件審決の取消しを求める訴えが当庁に提起された事実がないことは当裁判所に顕著である。したがって、レバンテについては、既に出訴期間(商標法63条2項において準用する特許法178条3項)が経過しているから、前示のとおり不適法である本件訴えは、その不備を補正する余地がなくなったものといわざるを得ない。 4 よって、本件訴えは、不適法でその不備を補正することができないから、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法140条に則り、口頭弁論を経ないで、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利 |
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