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【事件名】「ときめきメモリアル」無断改変事件A(3)
【年月日】平成13年2月13日
 最高裁(三小) 平成11年(受)第955号 損害賠償等請求事件
 (一審・大阪地裁平成8年(ワ)第12221号、二審・大阪高裁平成9年(ネ)第3587号)


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

理由
1 事案の概要
 本件は、コンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という。)について著作者人格権を有する被上告人が、商品名「X-TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」というメモリーカード(以下「本件メモリーカード」という。)を輸入、販売する上告人の行為は、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものであると主張して、慰謝料を請求する事案である。
 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、本件ゲームソフトについて著作者人格権を有する。本件ゲームソフトは、ゲームを行う主人公(プレイヤー)が架空の高等学校の生徒となって、設定された登場人物の中からあこがれの女生徒を選択し、卒業式の当日、この女生徒から愛の告白を受けることを目指して、3年間の勉学や出来事、行事等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。
 本件ゲームソフトにおいては、プレイヤーの能力値として9種類の表パラメータ(体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性及びストレス)及び3種類の隠しパラメータ(女生徒のプレイヤーに対する評価を示すときめき度、友好度及び傷心度。以下、表パラメータと併せて「パラメータ」という。)の初期値が設定されている。そして、プレイヤーが選択できるコマンドが予め設定されるとともに、コマンドの選択により上昇するパラメータと下降するパラメータとが連動するように設定されており、プレイヤーが到達したパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが決定される。本件ゲームソフトにおいては、初期設定の主人公の能力値からスタートし、あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度等に応じて他の女生徒との出会いがあるという設定となっており、そのストーリーは、一定の条件下に一定の範囲内で展開されるものである。
(2) 上告人は、本件メモリーカードを輸入し、522個販売した。本件メモリーカードには、データの記憶単位(ブロック1ないし13)に本件ゲームソフトで使用されるパラメータがデータとして収められ、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当たり、本件メモリーカードの任意のブロック内のデータをゲーム機のハードウエアに読み込んで、そのデータを使用することができる。
(3) 本件ゲームソフトにおいては、主人公の能力値が低い段階からスタートし、コマンドの選択により上昇するパラメータと下降するパラメータとが連動する形で設定されているため、最も効率よく表パラメータの数値を上昇させることができたとしても、卒業間近の時点で特定少数の表パラメータを高数値にするのが限度であり、プレイヤーの主体的な操作のみで9種類の表パラメータのほとんどを高数値にすることはできない。また、表パラメータの数値が一定値に達する時期までは女生徒が登場しない前提でストーリーの展開が図られている。
 これに対し、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、入学直後の時点でストレス以外の表パラメータのほとんどが極めて高い数値となり、これがあこがれの女生徒に合った達成度でプレイできるような数値である結果、入学当初から本来は登場し得ない女生徒が登場する。
 また、本件メモリーカードのブロック12又は13のデータを使用すると、ゲームスタート時点が卒業間近の時点に飛び、その時点でストレス以外のすべての表パラメータの数値が本来ならばあり得ない高数値に置き換えられ、かつ、あこがれの女生徒から愛の告白を受けるのに必要な隠しパラメータの数値を充たすようにデータが収められており、必ずあこがれの女生徒から愛の告白を受けることができるようになっている。
2 上告代理人山本紀夫、同山本智子の上告受理申立て理由四について
 本件ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ、前記事実関係の下においては、本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし、本件ゲームソフトにおけるパラメータは、それによって主人公の人物像を表現するものであり、その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ、本件メモリーカードの使用によって、本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになるからである。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
3 同五について
 本件メモリーカードは、前記のとおり、その使用によって、本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ、前記認定事実によれば、上告人は、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上、上告人は、現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ、他方、前記事実によれば、本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると、本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ、上告人の前記行為がなければ、本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた上告人は、他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
 所論の点に関する原審の判断は、結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 奥田昌道
裁判官 千種秀夫
裁判官 元原利文
裁判官 金谷利廣
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