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【事件名】ペット写真のカレンダー無断使用事件
【年月日】平成12年10月17日
 大阪地裁 平成11年(ワ)第9425号 損害賠償請求事件(甲事件)/平成12年(ワ)第4876号 損害賠償請求事件(乙事件)
 (平成12年7月18日 口頭弁論終結)

判決
甲乙事件原告 フラッシュ・フォトこと 【A】
右訴訟代理人弁護士 上原武彦
右甲事件訴訟復代理人兼乙事件訴訟代理人弁護士 今尾元彦
甲事件被告 株式会社杉本カレンダー
右代表者代表取締役 【B】
甲事件被告 【C】
乙事件被告 山甚こと 【D】
右被告ら訴訟代理人弁護士 石川利夫


主文
一 被告株式会社杉本カレンダーは、原告に対し、金一九〇万円及びこれに対する平成一一年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告株式会社杉本カレンダーに対するその余の請求並びに被告【C】及び同【D】に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の四、被告株式会社杉本カレンダーに生じた費用の二分の一、同【C】及び同【D】に生じた費用は原告の負担とし、原告及び被告株式会社杉本カレンダーに生じたその余の費用は同被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
一 被告株式会社杉本カレンダー及び被告【C】は、原告に対し、連帯して金七三五万円及びこれに対する平成一一年八月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告【D】は、原告に対し、前項の被告らと連帯して金一〇〇万円を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、ペット写真専門のカメラマンである原告が、自己が撮影して著作権及び著作者人格権を有する写真を無断で使用したカレンダーを被告らが輸入又は販売したとして、被告らに対し、著作権(複製権)侵害及び著作者人格権(公表権及び同一性保持権)侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。
二 基礎となる事実(争いがないか、弁論の全趣旨より明らかに認められる。なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。)
1 当事者
(一) 原告は、「フラッシュ・フォト」の屋号を用いて、ペット写真を専門としているカメラマンである。
(二) 被告株式会社杉本カレンダー(以下「被告杉本カレンダー」という。)は、カレンダーの製作及び販売等を目的とした株式会社である。
 被告【D】(以下「被告【D】」という。)は、山甚の屋号を用いてカレンダーの製作及び販売を行っている者、被告【C】(以下「被告【C】」という。)は、その従業員である。なお、以下において、被告【D】及び同【C】の行為のうち、事業者たる山甚としての行為等をいう場合には「山甚」ということがある。
2 原告写真の無断複製使用
 韓国のカレンダー会社である株式会社世e精版(以下「世e」という。)は、原告が撮影し、著作権及び著作者人格権を有する写真(以下「原告写真」という。)を別紙盗用関係一覧表記載のとおり無断で複製使用して、次の各カレンダーを製造した。なお、原告写真の中には、一部分のみが複製使用されているものもある。
 A 一九九九年版 商品名「ドッグファミリー」(大・検甲1)
 B 同 商品名「ドッグファミリー」(小・検甲2)
 C 同 商品名「リトルファミリー」(検甲3)
 D 二〇〇〇年版 商品名「ドッグファミリー」(検甲4)
 E 二〇〇〇年版 商品名「リトルファミリー」(検甲5)
 (以下、右カレンダーを「本件カレンダーA」等といい、併せていう場合には、「本件カレンダー」という。)
 右のうち、本件カレンダーA、B及びDは別紙カレンダー見本1のような態様のものであり、本件カレンダーC及びEは別紙カレンダー見本2のような態様のものである。
 右盗用された原告写真は、いずれも過去にカレンダー業者のアキラカレンダーが作成したカレンダーである「ワンワンランド」及び「マイ・フレンド」において使用されたものであり、詳細は別紙盗用関係一覧表記載のとおりである(甲32ないし35、46)。
3 被告らによるカレンダーの輸入、販売
(一) 被告杉本カレンダーは、平成一〇年一月以降、本件カレンダーAないしCを世eから輸入し、販売した。また、同被告は、平成一一年一月以降、本件カレンダーD及びEを世eから輸入した(販売の有無については争いがある。)。
(二) 山甚は、平成一〇年に本件カレンダーAないしCを被告杉本カレンダーから購入して販売した(なお、平成一一年に本件カレンダーD及びEを販売したか否かは争いがある。)。山甚において右購入及び販売業務を行ったのは、被告【C】であった。
三 争点
1 本件カレンダーを輸入、販売するに当たっての被告杉本カレンダーの故意又は過失の有無
2 本件カレンダーを販売するに当たっての被告【D】及び同【C】の故意又は過失の有無
3 損害額
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告杉本カレンダーの故意又は過失)について
【原告の主張】
 以下の点からして、被告杉本カレンダーには、本件カレンダーを輸入するに当たって故意又は過失がある。
1 原告写真の盗用源である「ワンワンランド」等は、専ら特定の者が自己の商号等を余白部分に印刷して得意先等に配布するために販売されるものであるから、世eが一般書店等から「ワンワンランド」等を入手して盗用するのは無理である。
 また、仮に世eが一般の書店等で「ワンワンランド」等を購入して原告写真を盗用した場合には、カレンダーの製造、販売時期の関係から、一九九九年版「ワンワンランド」を盗用して本件カレンダーDを製造するのは不可能である。
 以上からすれば、世eは、日本のカレンダー業者の知人である被告らから「ワンワンランド」等を入手して盗用したものというべきである。
2 被告杉本カレンダーは、本件カレンダーを輸入する際に他社カレンダーをチェックしたと主張するが、犬の写真を使った日本のカレンダーは毎年二一種類程度しか製造、販売されないから、適正な調査を行えば、原告写真が複製使用されていることを十分に知ることができた。
3 一般にカレンダー業者がカレンダーを製造するときは、著作権使用料を除いて一冊当たり最低一二〇円の経費が必要であり、これに利益を加えると、業者間の売値は、著作権使用料を差し引いたとしても一五〇円から一七〇円となる。ところが、被告杉本カレンダーは、本件カレンダーDを一冊九五円、本件カレンダーEを一冊一一五円で輸入している。しかも本件カレンダーDには写真が合計三七七点、本件カレンダーEには写真が合計一三点使われている。したがって、それだけの写真について一点五万円程度の適正な著作権使用料を支払えば、たとえ人件費の安い韓国でカレンダーを作ったとしても、到底一冊九五円や一一五円で業者間の売買をなし得るものではなく、被告杉本カレンダーは、輸入の際に、この事実を認識していた。
4 全国カレンダー出版協同組合連合会(以下「全カ連」という。)では、各地区ごと及び全国単位で毎年二月ころに組合員間で新作カレンダーの突き合わせ会を行っているが、平成一〇年二月に京都カレンダー出版協同組合が行った突き合わせ会において、アキラカレンダーこと【E】は、被告【C】に対し、本件カレンダーAないしCに原告写真が無断で複製使用されている旨を告げて、右カレンダーの販売を中止するよう申し入れるとともに、翌平成一一年二月の突き合わせ会においても、本件カレンダーD及びEに関して同様の指摘と申入れを行ったが、被告【C】はこれらを無視した。
 また、山甚は、平成一一年には、同社が出版元になっている別のカレンダーが他社のカレンダーを真似たものであるとして、全カ連から販売停止と罰則金三〇万円を支払うよう命じられたことがある。
5 原告は、平成一一年三月末に本件無断複製使用の事実を右審から知らされ、被告杉本カレンダー及び被告【C】に抗議したところ、両名は謝罪をした。
【被告らの主張】
1 被告杉本カレンダーは、本件カレンダーの輸入、販売に際し、原告写真が盗用されている事実を知らなかった。被告杉本カレンダーでは、平成一一年四月一日に原告から抗議があって初めて盗用の事実を知ったので、同年四月六日に直ちに受注を中止する措置を執った。
2 被告杉本カレンダーでは、長年世eと取引をしてきたが、これまで著作権侵害の問題は起こったことがなかった。
3 被告杉本カレンダーでは、輸入の際に、他社のカレンダーについても調査を行ったが、複製の事実を発見できなかった。本件カレンダーにおける原告写真の盗用は、被告杉本カレンダーの調査範囲外のものからなされたものであり、また、盗用の態様も原告写真の一部をカットして使用したものが多かったことから、複製の事実を調査するのは極めて困難であった。
4 被告杉本カレンダーでは、本件カレンダーをいずれも自社の見本帳及び正味値段表に掲載し、アキラカレンダーを含む全国のカレンダー関係者に配布した。また、被告杉本カレンダー及び山甚では、本件カレンダーをいずれも全カ連の突き合わせ会に出品していた。しかし、本件カレンダーについての注意や抗議はなかった。
5 原告は、本件カレンダーの輸入価格が不当に低額であると主張するが、カレンダーのコストは大量生産をすれば低下し、被告杉本カレンダーでは、経費は一冊五〇ないし六〇円であり、利益は一冊一〇ないし二〇円を基準としている。したがって、韓国のトップメーカーである世eからの本件カレンダーの輸入価格は決して著作権使用料を無視した低価格ではない。
6 被告らが原告に対して謝罪したのは、世eが複製したものとはいえ、そのような商品の販売に関わったことを謝罪したにすぎない。
二 争点2(被告【D】及び同【C】の故意又は過失)について
【原告の主張】
 争点1に同じ。被告【D】及び同【C】も、他社カレンダーをチェックすることにより、原告写真が複製使用されていることを認識し得た。
【被告らの主張】
 被告【C】は、事情を知らずに被告杉本カレンダーから勧められて本件カレンダーAないしCを販売したにすぎない。また、被告【D】も被告【C】らから何らの報告も受けておらず、事情を知らなかった。
三 争点3(損害額)について
【原告の主張】
 原告は、原告が撮影し著作権及び著作者人格権を有している写真のポジフィルムを貸与するについて、カレンダーの場合は一種・一版・一回五万円を貸与料としているが、ポジフィルム若しくは複製写真の無断使用の場合は、その三倍の一種・一版・一回一五万円を損害金として徴求するのが通常であり、この損害金の算定方法は、写真のポジフィルムを貸与している写真家・カレンダー業界、その他の出版業界において慣習化されているものである。
 したがって、原告は、被告らに対し、複製部分一点につき一五万円、四九点の合計七三五万円損害賠償請求権がある。なお、被告【D】に対してはこのうち一〇〇万円のみを本件において請求する。
【被告らの主張】
 争う。
第四 争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(被告杉本カレンダーの故意又は過失)について
 被告杉本カレンダーは、日本国内で販売する目的をもって、世eが無断で原告写真を複製使用した本件カレンダーを輸入したものであるから、右行為は著作権法一一三条一項一号により、原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものとみなされる。なお、原告は、侵害された権利として、複製権、同一性保持権及び公表権を挙げるところ、複製権侵害については原告の全写真についてこれを認めることができ、また原告写真の主要部分の一部をカットして複製使用したもの(別紙盗用関係一覧表中の●印を付したもの)については、同一性保持権の侵害を認めることができるが、原告写真はいずれも別紙盗用関係一覧表中の「盗用源」欄記載のカレンダーに掲載されて既に公表されているものであるから、公表権侵害は成立しない(著作権法一八条一項参照)。
 したがって、被告杉本カレンダーは、右行為を行うについて故意又は過失があれば、民法七〇九条により、原告に対して損害を賠償する責任を負う。そこで以下、被告杉本カレンダーの故意又は過失の有無について検討する。
1 事実経過
 証拠(後掲各書証、甲37、乙12、28、29、32及び40、証人【F】、証人【G】、原告本人、被告【C】本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 一九九九年版カレンダーについて
(1) 被告杉本カレンダーは、従来から、韓国の大手印刷メーカーの世eとの間で、カレンダーの輸出入取引を行っていたが、平成九年一二月ころ、世eから被告杉本カレンダーに対し、世eの一九九八年版カレンダーカタログ(乙7)が送付されてきた。そこには、本件カレンダーAないしCが掲載されていた(ただし、A及びBはサイズ違い。)。
 そこで被告杉本カレンダーは、平成一〇年一月一〇日、本件カレンダーAないしCを、日本向けの一九九九年版カレンダーとして購入することとし、世eとの間で基本となる売買契約を締結した(乙11)。右契約においては、世eから被告杉本カレンダーへの本件カレンダーの販売単価は、本件カレンダーAが一〇五円、同Bが八〇円、同Cが一〇五円とされた。
 そして、被告杉本カレンダーは、右契約に基づいて、本件カレンダーAないしCを、同年二月二四付け、同年五月四日付け及び同年九月一七日付けのオファーシートにより、それらの時期に三回に分けて輸入をした(乙25)。
 なお、世eがカレンダーを被告杉本カレンダーに販売するに当たっては、曜日や祝日の記載を日本向けのものととするとともに、全カ連の申し合わせによって求められる表示(必須のものとして、上部に「ZENKYO」及び「JCAL」のマーク及び会員のカタログに表示する商品番号、随意のものとして、下部に「Printed in Japan」等の表示)を付するのが慣行であり、本件カレンダーについてもそのようにされた。
(2) 被告杉本カレンダーにおいて本件カレンダーの輸入を取り扱ったのは常務取締役である【F】(以下「【F】」という。)であるが、同人は、韓国ではカレンダーのコピー商品がよくあると認識していたことから、世eの【H】(代表理事である【G】の父)に対して、そこで使用されている写真の使用についてはすべてクリアされているのか、日本の写真は使われていないのかと問うたところ、【H】は、韓国は日本よりもペットブームなので、小さいペットの写真は日本より優れている、写真は韓国ですべてクリアされていると答えた。
(3) また、被告杉本カレンダーでは、五名の企画部員が、他社カレンダーの平成一〇(一九九八)年版をチェックして、複製や模倣等の問題がないかどうかを調べたが、特に問題があるとはされなかった。
 なお、被告杉本カレンダーでは、毎年他社から送付される現物見本とカタログのうち、現物見本は一年しか保管しないが、カタログはその後も管理している。(本件カレンダーAないしCを輸入するに当たって、被告杉本カレンダーがどの時点でどの範囲で他社カレンダーを調査したかについて、証人【F】の証言は、さまざまな年度が尋問に登場するためか、矛盾混乱が見られる。しかし、同人の証言全体を見ると、少なくとも、一年前の他社カレンダーを調査したこと、他社カレンダーの現物見本は一年間に限って保管していること、毎年二月に見本出しを行うことは一貫しており、これらからすれば、一九九九年版カレンダーを輸入するに当たって被告杉本カレンダーが調査した範囲は、調査時に他社カレンダーの現物見本のあった他社カレンダーの一九九八年版であると認めるのが相当である。)
(4) 全カ連では、カレンダー業者である組合員が製作又は輸入した商品を初めて国内で販売する場合は、予め各地区の委員会及び全カ連の企画委員会の審査を受けることになっており、本件カレンダーA及びBについては、初めて国内で販売する商品であることから、協議により出版元とされた山甚から提出、申請されて認可された。全カ連の企画委員会は組合員から選ばれた一〇名の委員から構成され、そのうちの一人は、アキラカレンダーの【I】(【E】の息子)であった。
(5) また、全カ連では、毎年二月ころに各地区単位及び全国単位で、各組合員がその年に販売する商品を展示して、全組合員がそれを審査してコピー商品等の販売を防止する突き合わせ会が行われており、平成一〇年二月ころに行われた突き合わせ会では、京都の地区大会では山甚から本件カレンダーA及びBが出品され、本件カレンダーCは被告杉本カレンダーから出品されたが、組合員からクレームはなかった。
 また、本件カレンダーA及びBには、平成一〇年五月七日、全カ連の意匠登録承認がなされた(乙44)。右意匠登録承認は、全カ連が会員各社の企画保護の目的で毎年行っているものであり、独自の審査基準により審査をし、承認された作品は五年間他社が類似品の製作発行を控えるという制度である。
 なお、山甚は、平成一一年に、出版元として販売しようとしたカレンダー(乙38の1)が、他社のカレンダー(乙38の2)と類似する(テーマの「ガーデニング」が類似すると判断された。)として、全カ連から販売中止と決定されるとともに、特別登録料三〇万円の支払を命じられたことがあった。
(6) 被告杉本カレンダーでは、自社のカタログに本件カレンダーAないしCを掲載し、それを全国のカレンダー業者に配布したが、本件カレンダーについて特段の注意や抗議はなかった。
 また被告杉本カレンダーは、アキラカレンダーにも社員の【J】が右カタログを持参した上で営業活動を行ったが、アキラカレンダーからは特段の注意や抗議はなかった。
(7) 被告杉本カレンダーは、本件カレンダーAないしCを山甚に販売し、山甚は仕入れた右カレンダーを販売した(乙26、36、37)。アキラカレンダーは、平成一〇年二月一四日に山甚に対して本件カレンダーAを二〇冊発注し、同年三月二六日に納品された(乙37の4)。
(二) 二〇〇〇年版カレンダーについて
(1) 世eは、平成一〇(一九九八)年六月ころ、被告杉本カレンダーに一九九九年版カタログ(乙3)を送付し、さらに同年秋ころに二〇〇〇年版カタログ(乙4)を送付してきた。そこで、被告杉本カレンダーは、一九九九年版カタログから本件カレンダーEを、二〇〇〇年版カタログから本件カレンダーDを選んで、平成一一(一九九九)年一月一〇日、それぞれ二〇〇〇年用カレンダーとして、世eとの間で基本となる売買契約を締結した(乙1)。
 右契約においては、世eから被告杉本カレンダーへの本件カレンダーの販売単価は、本件カレンダーDが九五円、同Eが一〇五円とされた。
 そして、被告杉本カレンダーは、右契約に基づいて、本件カレンダーD及びEを、同年二月一三日付けのオファーシートにより、そのころに輸入した(乙2)。
(2) そして、本件カレンダーD及びEは、被告杉本カレンダーのカタログに掲載されて頒布される(乙34)とともに、突き合わせ会にも出品された。
(3) ところで、原告は、同年三月三一日にアキラカレンダーの【E】から、右カレンダーに原告写真が無断で使用されていることを教えられ、翌四月一日に被告杉本カレンダーに対して抗議をした。そして、被告杉本カレンダーの担当者が翌四月二日に原告を訪問してポジフィルムを確認の上、謝罪するとともに、四月七日にも被告【C】と共に原告を訪問して謝罪をした。
 被告杉本カレンダーでは、四月初旬当時、既に受注活動を行っていたが、原告の抗議を受けたことから、四月六日に本件カレンダーD及びEの販売中止と既に送付した見本の回収を関係者に通知した(乙5)。また、被告杉本カレンダーは、既に山甚に対して見本用に二〇〇〇冊を見本用価格で販売していたが(乙27)、右カレンダーの販売を中止したことに伴い、右代金は請求しておらず、山甚も右カレンダーを販売していないことから、結局、右カレンダーが市場で販売されることはなかった。
(三) 日本におけるカレンダーの製作数について
 日本では、毎年、一五〇〇種類程度のカレンダーが製作されるが、犬の写真を使用したカレンダーを製作していたのは一〇社、二一種類程度であった。
(四) 平成一〇年及び一一年の突き合わせ会における【E】の言動について
 原告本人は、アキラカレンダーの【E】が、平成一〇年二月及び平成一一年二月に京都で行われた突き合わせ会のときに、被告【C】に対し、本件カレンダーに原告写真が無断で使用されていることを指摘し、抗議したと聞いたと供述する。しかし、@被告【C】は右事実を否定しており、平成一〇年から数年前のときに【E】が何かのカレンダーの関係で何か使われているのではないかと言ったのは聞いたが、具体的に何がどう使われているのかは聞いていないというにとどまっていること、Aアキラカレンダーも本件カレンダーAないしCを山甚から購入していること、B被告【C】と審は従来から良好な付き合いを保っていること、C【E】から被告【C】に抗議がなされたならば、当然被告杉本カレンダーにも連絡されたと考えられるが、そうであるならば、被告杉本カレンダーは、先に認定したような原告から抗議を受けた際の素早い販売中止からして、一九九九年版のカレンダーの販売も中止したはずであると考えられることなどの状況に照らして、原告本人の右供述を採用することはできない。
2 以上に基づいて検討する。
(一) まず、原告は、被告杉本カレンダーは、本件カレンダーに原告写真が複製使用されていたことを認識していたと主張するが、それを認めるに足りる証拠はない。
 確かに、別紙盗用関係一覧表によれば、本件カレンダーD(二〇〇〇年版)には、一九九九年版の「ワンワンランド」から盗用された原告写真があり(35番、46番)、ワンワンランドはペットショップ等が空欄に自己の名前等を印刷して得意先に頒布するためのいわゆる名入れ用のカレンダーであり(検甲6)、一般の店頭で販売されることはまれであること、一九九九年版のカレンダーが一般に販売されるのは平成一〇年秋ころであると考えられることからすれば、世eがワンワンランド等を日本の店頭で購入して持ち帰ったとは考え難く、証人【G】の証言に照らせば、世eの日本における知り合いの業者から購入したと推認される。しかし、だからといって、被告杉本カレンダーが世eにワンワンランド等を提供して複製させた、又は輸入時に原告写真が盗用されたことを知っていた、というのは飛躍があるといわざるを得ない。
 また原告は、本件カレンダーで盗用されているのは個人カメラマンが管理する写真だけに限られている点を指摘するが、そうであるにしても、そのことが被告杉本カレンダーの故意を推認させるようなものとはいえない。
 さらに原告は、原告が被告杉本カレンダーらに抗議した際に、被告杉本カレンダーらは謝罪したと主張するが、右謝罪の趣旨は前記認定のとおり、原告写真を盗用したカレンダーを結果的に販売したことについてなされたものと認められるから、謝罪の事実をもって被告杉本カレンダーの故意を推認させるものではない。
(二) そこで次に、被告杉本カレンダーの過失の有無について検討する。
(1) まず、前記認定のとおり、本件カレンダーの輸入担当者であった【F】は、韓国においては、カレンダーのコピー商品がよくあると認識していたというのであるから、韓国製のカレンダーを輸入する被告杉本カレンダーとしては、そこに使用されている写真が他人の著作権を侵害するものでないか否かをチェックする注意義務があったというべきである。
 そして、客観的事実としては、本件カレンダーには、別紙盗用関係一覧表記載のとおりの盗用源から盗用された原告写真が使用されており、同一覧表「盗用源」欄記載のカレンダーについては、被告杉本カレンダーは、少なくともカタログ(甲33ないし35、46)の形では有していたから、それらのカタログと本件カレンダーを照合すれば、原告写真が盗用されていると気付くこと自体は、物理的に可能であったといえる。
(2) しかし、過失の有無は、このように原告写真の盗用を気付くことが物理的に可能か否かによって判断すれば足りるものではなく、前記被告杉本カレンダーの認識を前提として、日本のカレンダー業者が韓国からカレンダーを輸入するに当たって通常払うべき注意を怠ったか否か、右注意義務を尽くしていれば原告写真の盗用の事実を認識し得たか否かによって判断されなければならない。
ア そこで、被告杉本カレンダーが払うべき注意義務について検討すると、まず、輸入するのは日本の業者で、輸入する商品はカレンダーであるから、被告杉本カレンダーは、特段の事情がない限り、日本において過去に製作されたカレンダーに掲載された写真を調査すれば足りると解すべきである。
イ 次に、いつのカレンダーを調査する注意義務があるかを検討すると、前記1(三)のとおり、日本では、毎年、一五〇〇種類程度のカレンダーが製作されているので、被告杉本カレンダーが、他社製作のカレンダーを取り扱うに当たっては、少なくとも、直近一年分のカレンダーによって、当該カレンダーに使用されている写真等が他人の著作権を侵害していないことを調査する義務があるというべきであり、前記1(一)(3)によれば、実際、被告杉本カレンダーは、他社製作のカレンダーを取り扱うに当たって、直近一年分のカレンダーを調査していると認められる。
 しかし、被告杉本カンレンダーは、本件カレンダーの輸入元である韓国においては、カレンダーのコピー商品がよくあると認識していたのであるから、同被告が本件カレンダーを輸入するに当たっては、前記の通常要求される注意義務よりも高度の注意義務が課されるというべきである。そして、本件カレンダーは、いずれも犬の写真を主体とするものであるから、比較照合すべきカレンダーも犬の写真を使用したものに限ることが可能であり、前記1(三)のとおり、日本における犬の写真を使用したカレンダーの製作数は年間二一種類と比較的少ないことからすると、被告杉本カレンダーが犬の写真以外の写真等が使用されている他社製カレンダーをも取り扱っており、そのため直近一年分の一五〇〇種類程度のカレンダーを調査しているとしても、同被告が、本件カレンダーを輸入するに当たって、通常の場合と同様に直近一年分のカレンダーしか調査対象としなかったというのは、調査範囲として狭きに失するというべきである。
 そして、杉本カレンダーの前記認識を前提として、日本のカレンダー業者が韓国からカレンダーを輸入するに当たって通常払うべき注意義務を尽くしているといえるためには、特段の事情のない限り、直近二年分は調査すべきであり、それをもって足りると解するのが相当である。もっとも、このような二年分のカレンダーの調査によって、盗用の事実に気付いた場合には、さらに他の写真についても更に過去のカレンダーから盗用されているのではないかとの合理的疑念が生じてしかるべきであるから、その場合には、更に年度を遡って調査する注意義務が生じるというべきである。
(3)ア 本件カレンダーAないしCについて
 前記1(一)(3)のとおり、被告杉本カレンダーは、本件カレンダーAないしCを輸入するに当たって、一九九八年版のカレンダーを調査しているが、本件カレンダーAないしCは、一九九九年版カレンダーとして製作されたものではあるものの、それらは一九九八年版の世 eのカタログに掲載されていたのであるから、調査すべき直近二年というのは、カタログの年度を基準として、一九九六年及び一九九七年版カレンダーということになる。
そして、本件カレンダーAないしCについて、右の二年分を調査すれば、一九九七年版ワンワンランドからの盗用に気付き得たものと認められるので、さらに、一九九六年及び一九九五年版カレンダーからの盗用の有無を調査する注意義務が生じるというべきであるが、一九九六年及び一九九五年版カレンダーからの盗用はなく、二年分連続して盗用されていないことになるから、更に年度を遡って調査する注意義務はないというべきである。
イ 本件カレンダーD及びEについて
 アと同様に、本件カレンダーDについては一九九八年及び一九九九年版カレンダー、本件カレンダーEについては、一九九七年及び一九九八年版カレンダーを調査対象とすべきである。
 そして、本件カレンダーDについて、右の二年分を調査すれば、一九九九年及び一九九八年版ワンワンランドからの盗用に気付き得たものと認められるので、さらに、一九九七年及び一九九六年版カレンダーからの盗用の有無を調査する注意義務が生じるというべきである。そして、そのような調査を行えば、一九九七年版ワンワンランドからの盗用の事実に気付き得たものと認められるから、さらに、一九九五年版カレンダーまで遡って調査する注意義務が生じるというべきであるが、一九九六年及び一九九五年版カレンダーからの盗用はなく、二年分連続して盗用されていないことになるから、更に年度を遡って調査する注意義務はないというべきである。
 また、本件カレンダーEについて、右の二年分を調査すれば、一九九八年版ワンワンランドからの盗用に気付き得たというべきである。
ウ そうすると、結局、別紙盗用関係一覧表記載のうち、×印を付したものについては、右のような調査をすることによって、被告杉本カレンダーは、原告写真の盗用に気付くことができたというべきであるから過失があるが、×印を付していないものについては過失がないというべきである。
 なお原告は、本件カレンダーの輸入価格が低いことから、被告杉本カレンダーには過失があったと主張するが、右主張の原価には客観的な裏付けはない上、証人【F】は右と異なる原価を陳述していること(乙32)、犬の写真にはいわゆる著作権フリーのものもあり(乙41ないし43)、被告杉本カレンダーも使用していること(証人【F】の証言)から、直ちに本件カレンダーの輸入価格が写真の盗用に疑問を抱いてしかるべきであるというほど低いとはいえない。
(4) 以上の点について、被告らは種々の主張をするので、以下検討する。
ア まず被告らは、本件カレンダーに複製使用された写真は、盗用源の写真の一部をカットしたものが多いから、過去のカレンダーを調査して比較対照しても容易に気付くことができないと主張する。
 確かに、別紙盗用関係一覧表記載の本件カレンダーA、B及びDにおける盗用写真のうちには、盗用源に掲載された写真の一部のみがカットされて複製されたものも多く、比較照合に当たって高度の注意を払わなければ、同一の写真であると認識するのが困難な面もあることは否定できない。しかし、複製使用されたものの中には、盗用源の写真の全体がそのまま複製されたものもあり(例えば別紙盗用関係一覧表中の10番)、また背景の一部のみをカットしたにすぎないものも多数存しているのであって、それらについては、さほど高度の注意を払わなくとも同一の写真であると認識することができたと認められる。そうすると、一部についてであっても、同一の写真が使用されていたことが判明したならば、他にも使用されている写真があるのではないかとの観点から、より慎重に比較照合することが求められるというべきであるから、被告杉本カレンダーは、一部カットして複製使用されたものであっても、なお盗用に気付くべきであったと認めるのが相当である。
イ 次に前記認定のとおり、証人【F】は、輸入の際に世eから写真の使用関係についてはクリアされているとの説明を受けていたと認められる。
 しかし、もともと韓国で製作されるカレンダーには、コピー商品がよくあるというのが証人【F】の認識であったと認められるから、そうである以上、韓国のカレンダーメーカーである世eが右のように説明したとしても、それをもってただちに被告杉本カレンダーが独自に前記の注意義務を尽くすことを免れるとすることはできない。また、世eと被告杉本カレンダーとのこれまでの取引において、今回のような問題が生じたことがなかったことを前提にしても、右の理が変わるところはない。
ウ 被告らは、全カ連の審査や突き合わせ会を通じて、本件カレンダーには何らの注意や抗議もなかったと主張する。
 しかし、前記1(一)(5)で認定した山甚が全カ連から販売中止を命じられた内容(乙38の1と2)や、証人【F】自身も本件カレンダーA、B及びDが毎日の日付欄にほぼ一枚ずつの犬の写真が掲載されているという商品コンセプトの特異性に特に着目したことがその証言から窺われることからすると、全カ連の審査やカレンダー業者による突き合わせ会でのチェックは、主として商品コンセプトの類似性の観点から行われるものであって、カレンダー業者の関心もそこに向いており、使用されている写真の同一性(著作権問題)についてはさほど関心が払われないと推認されるから、全カ連の手続において抗議等が出なかった点をもって過失がないということはできない。
エ また被告らは、本件カレンダーについては被告杉本カレンダーのカタログに掲載して全国のカレンダー関係者に頒布したが、アキラカレンダーを含めて何らの注意や抗議がなかったと主張する。
 しかし、先に(ウ)で見たようなカレンダー業者の関心の方向や、本件のように原告写真を盗用したカレンダーの販売によって特に損害を被るカレンダー業者がいるとは思われないことからからすると、乙34のカタログに掲載されたような小さな写真を細かくチェックするカレンダー業者がいなくとも何ら不思議ではない。アキラカレンダーにしても、自己が過去に販売したカレンダーと同一の写真が使用されているにすぎず、同じ年度において直接に掲載写真の競合が生じているわけではないのであるから、取引関係にある被告杉本カレンダーや山甚に対し、あえて抗議をしなくとも異とするに足りない。したがって、右の点をもって無過失の根拠とすることはできない。
(5) 以上より、被告杉本カレンダーは、別紙盗用関係一覧表中の×印を記載した合計二九個所において原告写真を無断複製使用したカレンダーを輸入した点について過失があり、原告に対し不法行為責任を負うというべきである。
二 争点2(被告【D】及び被告【C】の故意又は過失)について
1 山甚は、被告杉本カレンダーから本件カレンダーの譲渡を受けて販売したものであるから、原告写真の盗用を認識していた場合に限り、著作権及び著作者人格権を侵害する行為を行ったとみなされ、単に過失があるにすぎない場合には、右侵害行為を構成することはない(著作権法一一三条一項二号)。
 原告は、被告【D】及び被告【C】の過失の有無も問題とするが、主張自体失当である。
2 そして、本件全証拠によるも、被告【D】及び被告【C】が原告写真の盗用を認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、京都で開催された突き合わせ会の際に、【E】が被告【C】に対して原告写真の盗用の点を指摘して抗議したと主張するが、その事実を認めるに足りないことは前記のとおりである。
3 したがって、被告【D】及び被告【C】に対する請求は、その余について検討するまでもなく理由がない。
三 争点3(損害)について
1 本件において原告は、著作権(複製権)侵害に基づく損害賠償請求については、著作権法一一四条二項の「著作権…の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」を損害の額として主張する趣旨と解される。そこでまず、本件カレンダーAないしCについての「通常受けるべき金銭の額」について検討する。
(一) 原告は、ペット写真、特に犬の写真を専門的に撮影するカメラマンであり、全国のドッグショーを常時回るなどして犬の写真を多数撮影し、それらの写真をカレンダー、ポスター、パンフレット等に使用することを業者に許諾して使用料を得ることを主たる業務としているものであること、通常、自己の撮影した写真をカレンダー用に使用許諾する際には、一種・一版・一回限りの使用で写真一枚当たり五万円の使用料を徴収し、無断使用の場合には右の三倍以上の相当金額を請求できる旨の契約条項を設けていることが認められ(甲3、39ないし42、原告本人)、一般に写真貸出及び使用許諾を行うことを業とするいわゆるエージェントが写真の貸出及び使用許諾を行う場合にも、無断使用の場合には通常の使用料の一〇倍を違約金として請求する条項を設けていることが認められる(甲43ないし45)。そして原告は、これらの契約の例を前提に、通常の使用料の三倍に相当する一枚当たり一五万円の使用料を「通常受けるべき金銭の額」として主張する趣旨であると解される。
 しかし、甲3の契約書における右記三倍又は一〇倍相当額の請求をし得る旨の規定は、実際に原告の写真の貸出しを受けた者が締結する写真貸出使用契約中に設けられた条項であって、専ら写真の貸出しを受けた者が、当該写真を自ら故意に無断で使用した場合を念頭においているものと解されることから、その規定を、最低限の損害額を保障する趣旨と解される著作権法一一四条二項の「通常受けるべき金銭の額」にそのまま適用することは、相当でないというべきである。
 しかし他方、前記認定事実からすると、写真貸出業界においては、許諾を得た使用の場合と無断使用の場合とで請求額に相違を設けることが一般的な慣行であると認められるから、本件において「通常受けるべき金銭の額」を定めるに当たっても、右慣行を全く無視することは相当でない。加えて、本件においては、著作物の同一性を侵害する態様で使用されている例が多数存することからしても、本件における原告が「通常受けるべき金銭の額」を、許諾を受けて使用する場合の料金と同等とすることは相当でない。
 以上の点を総合して考えると、本件において原告が本件カレンダーAないしCについて、「通常受けるべき金銭の額」は、一種・一版・一回限りの使用で写真一枚当たり一〇万円とするのが相当である。
(二) 次に、本件カレンダーD及びEについては、前記認定のとおり、被告杉本カレンダーは、原告から抗議を受けた後、販売を中止するとともに既に見本として客先に配布した分については回収通知を行い、結局、右カレンダーは市場で販売されることはなかったことから、原告に損害は生じていないとの見解も考えられるところである。
 しかし、甲39ないし45からすれば、本件のような写真貸出業における写真使用料は、一枚当たりの定額で定められるのが通常であって、販売の有無や量に連動するものとはされていないと認められるから、契約後に商品販売が中止されたとしても、いったん支払われた使用料は返還されないのが原則であると考えられる(甲43のキャンセル欄参照)。また、本件の場合、本件カレンダーD及びEは、いったんは被告杉本カレンダーのカタログに掲載されるとともに見本も頒布されたものである。これらの事情からすれば、本件カレンダーD及びEの販売が中止されたからといって、原告に損害が発生していないとはいえない。
 もっとも、先に認定したような、許諾を得た使用の場合と無断使用の場合とで請求額に明白な相違を設けるという写真貸出業界の慣行は、無断使用という行為に対する制裁的な要素を含んでいると考えられるところ、本件のように、過失によって侵害品を輸入したが、抗議によって侵害品であることが判明するや素早く販売中止と見本回収の措置を執り、結果として侵害品を市場で販売することがなかった場合にまで、右の制裁的要素を加味した金額を、「通常受けるべき金銭の額」を定めるに当たって考慮することは相当でないというべきである。
 このような観点を踏まえると、本件カレンダーD及びEについては、「通常受けるべき金銭の額」は、一種・一版・一回限りの使用で原告写真一枚当たり五万円とするのが相当である。
2 そして、本件において被告杉本カレンダーが輸入した本件カレンダーのうち、同被告に過失が認められるのは、前記のとおり本件カレンダーAないしCについては九枚分、同D及びEについては二〇枚分である(別紙盗用関係一覧表によれば、同一の原告写真を複数箇所にわたって掲載している例もあるが、1で検討した使用料相当損害金は一種・一版・一回限りの使用であるから、各使用部分について別個に損害が発生することになる。)から、本件において原告が被告に対して賠償を請求し得る損害額は、一九〇万円となる。
 なお、原告は、遅延損害金として、被告杉本カレンダーの輸入の後である平成一一年八月七日から支払済みまで年六分の割合の金員の請求をするが、不法行為による損害賠償請求権の遅延損害金については、民法所定の年五分が適用される。
3 ところで、原告は、著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく損害賠償も請求しているが、右請求に係る損害額として主張されているのは、前記著作権侵害に基づく損害と同一内容であり、また、右損害の性質上、著作権侵害による部分と著作者人格権侵害による部分を区分する趣旨とも解されないから、結局、本件における著作権侵害に基づく損害賠償請求と著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求とは、選択的併合の関係に立つものとして主張されているものと解される。そして、著作者人格権(同一性保持権)という精神的利益の侵害に対して、原告主張のような内容の損害の賠償を認めることは困難である上、仮に認められるとしても、損害額については、少なくとも前記著作権侵害の場合の損害額を上回ることはないと認められるから、本件では、前記著作権侵害に基づく損害額をもって認容額とすべきである。
第五 結論
 以上によれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由がある。

大阪地方裁判所第二一民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 高松宏之
 裁判官 安永武央


(別紙) 盗用関係一覧表
(別紙) カレンダー見本1 カレンダー見本2
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