判例全文 | ||
【事件名】店舗のロゴマーク事件(2) 【年月日】平成12年6月26日 東京高裁 平成11年(ネ)第6204号 著作権譲渡代金等請求控訴事件 (原審・東京地裁八王子支部平成9年(ワ)第2263号) (平成12年5月15日 口頭弁論終結) 判決 控訴人(原審原告) A 右訴訟代理人弁護士 酒井憲郎 同 冨田司 被控訴人(原審被告) 株式会社福生カントリーファーム(旧商号・株式会社インビス、同・株式会社菩提樹) 右代表者代表取締役 B 被控訴人(原審被告) C 右両名訴訟代理人弁護士 橋場隆志 同 秋山誠 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一 当事者の求めた判決 一 控訴人 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、連帯して、控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成七年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。 4 仮執行の宣言 二 被控訴人ら 主文と同旨 第二 当事者の主張 一 当事者双方の主張は、次のとおり加入、訂正し、後記二及び三のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決三頁三行目の「被告株式会社菩提樹」から、同頁五行目の「に対し、」までを、「被控訴人株式会社福生カントリーファーム(設立当初の商号は株式会社インビス、平成一〇年七月一八日株式会社菩提樹に商号変更、平成一一年一〇月二九日現商号に変更、以下「被控訴人会社」という。)に対し、」に改める。 2 同五頁二行目から三行目にかけての「被告会社の代表取締役の氏名及び任期につき、甲一の1ないし3、」を、「被控訴人会社の代表取締役の氏名及び在任期間につき、甲一の1ないし3、三三、」に改める。 3 同六頁三行目から四行目にかけての「著作物(以下「本件著作物」という。)を」を、「著作物(以下「本件著作物」という。)に係る著作権を」に改める。 4 同頁一〇行目の「本件著作物の譲渡」を、「本件著作物に係る著作権の譲渡」に改める。 5 同一四頁三行目の「誤りである。」の次に、「ただし、カラーコーディネートは、独立した著作物ではなく、ロゴやキャラクターなどの著作物と相まって、全体として著作物を構成するものである。」を加える。 6 同頁五行目の「争点(被告Cの商法二六六条の三の責任の有無)」を「争点3(被控訴人Cの商法二六六条の三の責任の有無)」に改める。 二 控訴人の主張 原判決は、本件契約の成立に関し、甲第一五号証(控訴人の報告書)、第一七号証(Dの陳述書)、第一八号証(Eの陳述書)及び控訴人の原審における本人尋問の結果中の、平成六年一〇月一三日に、控訴人が本件契約の申込みをし、被控訴人Cの意を受けたFより、自動車で走行中の電話で承諾があって、本件契約が成立した旨の供述及び供述記載を、@当時、控訴人は、被控訴人会社の代表取締役がGであることを知っていたのに、右合意後、代表者との間で、その確認や契約書作成をした形跡がないこと、A控訴人において、被控訴人会社に対し、本件著作物の著作権について説明した形跡が窺われないことから、被控訴人会社には本件著作物についての著作権意識が全くなかったこと、B被控訴人会社は、平成六年一〇月六日に控訴人に対し、社章、商章デザイン料等として八〇万円(Eの分を併せると一三〇万円)を支払っているところ、著作権意識のない被控訴人会社がわずか一週間後に一〇〇万円で本件契約を締結するとは通常考えられないこと、C抽象的な著作権の譲渡が電話のみによって成立することは不自然であること、D甲第一八号証は控訴人からの伝聞であること、を根拠として排斥したが、次のとおり、かかる判断には理由がなく、誤りである。 1 被控訴人会社は、被控訴人Cが取引仲間などと始めた会社であり、被控訴人Cが実質的なオーナーとして、会社を経営しているものであって、原判決が認定した、平成六年七月一〇日頃の、控訴人が被控訴人会社の社章、キャラクター等の制作、屋台の装飾、看板等の製作をする旨の契約(以下「第一契約」という。)も、被控訴人Cとの交渉、合意によって成立したものである。形式上、被控訴人Cに代表権がなくとも、同人が実質的に被控訴人会社の代表者であることは明らかであり、同人との合意が効果を有さないということはできない。仮に、そうでないとしても、被控訴人Cは表見代表取締役というべきであり、被控訴人会社は、同人との合意につき、責任を負うべきである。 また、契約書の作成については、格別の商慣習があるわけでもなく、代金額がさほど高額ではないことに加え、被控訴人Cが不要であると言ったことから、控訴人は、被控訴人らとの信頼関係に基づいて、契約書を取り交わすことをしなかったのである。 2 平成六年一〇月一三日に控訴人の自宅兼事務所において、ホットドッグメニューの試食会が開かれ、被控訴人会社から、被控訴人Cのほか、G、F、Hが訪れたところ、控訴人は、その際、被控訴人Cらに対し、被控訴人会社が、屋台に使用する以外に、本件著作物である社章、商章、キャラクター及びインビスのロゴタイプを使用する場合には、デザイン、イラストの制作費とは別に著作権料を請求することになること、著作権料の決め方には、著作権を一〇〇万円で売り切る方法等、三種類があることを説明した。このことは、控訴人の原審における本人尋問の結果によって明らかであるほか、被控訴人Cも、原審における本人尋問において、その説明のあったこと、著作権を認識したこと、著作権料につき即答はしなかったものの、支払義務を認識したこと等を認める趣旨の供述をしている。 また、被控訴人会社は、将来は、フランチャイズ展開をすることを企図しており、実際に青山店の店舗展開も実行したものであって、本件著作物を制約なく自由に使用するために、その著作権を取得する必要性があった。 したがって、被控訴人会社には本件著作物についての著作権意識が全くなかったとの認定は誤りであるし、第一契約に係る社章、デザイン料等の支払後、短期間のうちに本件契約を締結したことに何ら問題はない。 3 本件契約に係る著作物及びその著作権は特定しており、具体的であるのみならず、たまたま、本件契約に係る承諾が電話でなされたものの、それ以前に面談のうえ、十分な時間をかけた契約交渉が行われているのであるから、本件著作物に係る著作権の譲渡契約が電話によって成立したことに何ら不自然な点はない。 三 被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。 第三 当裁判所の判断 一 争点1(本件契約の成否)について 1 甲第三号証、第六号証、第七号証の1ないし10、第八号証、第一二号証の1ないし4、第一五号証、乙第一、第二号証、第四号証の一、二、第五ないし第七号証、控訴人及び被控訴人Cの原審における各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 (一) 被控訴人会社は、被控訴人C及びその知人であったG、Fらが、設立したものであり、同人らは、被控訴人Cの親族が経営する株式会社福生ハム(なお、被控訴人Cは、平成七年一〇月二六日に同会社の代表取締役に就任した。)の製造するソーセージを使用し、スーパーマーケットの店頭において、屋台でソーセージやホットドッグ等を販売することを、被控訴人会社の設立当初の事業として企画していた。 被控訴人C及びGは、被控訴人Cの知人であるIから被控訴人会社の設立資金として、一〇〇〇万円を借り入れ、その設立(平成六年九月一二日)後まもなく、六〇〇万円を返済して、残余の約四〇〇万円を当初の被控訴人会社の運転資金に充てた。右借入金残金は、最終的に被控訴人Cが負担した。 (二) 被控訴人会社(平成六年九月一二日の設立までは、設立中の被控訴人会社、以下同じ。)は、前示屋台販売営業に供するため、屋台本体の製作を株式会社桜井建築工房に発注し、同年九月一七日頃までにその引渡しを受けて、同年一〇月三日にその代金六一万八〇〇〇円を支払い、また、冷蔵庫及びローラーグリラー(ソーセージの調理機械)を代金三三万四七五〇円で購入したほか、同年七月一〇日頃、Jの紹介により、控訴人との間で、控訴人が、被控訴人会社の社章及び商章のロゴマーク並びにキャラクターの各制作、看板、メニュー及び包装紙の製作、屋台の装飾等をする旨の契約(第一契約)を締結した。 (三) 控訴人は、同年八月一八日の、被控訴人会社及び株式会社桜井建築工房等との打合せを経て、同月下旬頃から、知人のEとともに、前示の仕事に取りかかり、同年九月二二日までに完成させて、被控訴人会社に引き渡した。被控訴人会社は、右の仕事に対し、控訴人から代金八〇万円の、また、Eからもコーディネイト一式として五〇万円の請求を受け、同年一〇月五日に控訴人に対し、また、同年九月二二日にEに対し、それぞれ右金員を支払った。本件著作物は、控訴人のした仕事のうちの、社章及び商章のロゴマーク並びにキャラクターに当たるものである。 (四) 被控訴人会社は、同年九月末頃から、右屋台を使用したソーセージ等の販売を、延べ日数で三〇日前後行ったが、殆ど利益を挙げることはできなかった。 以上の事実を認めることができる。 甲第一八号証中には、Eが控訴人の下請けではなく、直接、被控訴人Cから、販売員のユニフォーム(キャップ、エプロン)製作及び皿・調味料入れ等の備品の選定・購入などの注文を受け、それらに係る仕事をした旨の供述記載があるが、甲第一五号証(控訴人の報告書)中の、控訴人がEにこれらの仕事を依頼した旨の供述記載に照らして、甲第一八号証中の右供述記載部分は信用できず、他に、Eが、被控訴人会社ないし被控訴人Cから、控訴人の仕事から明確に区分された仕事の注文を受けたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被控訴人会社のEに対する前示五〇万円の支払は、被控訴人会社との第一契約に基づく仕事のうちEに行わせた部分の代金として、控訴人がEに支払うべき金員を、直接被控訴人会社からEに支払わせたものと解するのが相当である。 また、甲第一八号証中には、Eが、第一契約に係る控訴人の仕事とEの仕事とを併せて列挙した見積書(甲第五号証)を、事前に被控訴人Cに送付した旨の供述記載があるが、その作成日付が平成六年九月一五日とされていることに照らし、また、その作成名義がEとされているものの、被控訴人会社との関係で、右のような見積書をEの名義で被控訴人Cないし被控訴人会社に送付することは不自然であることに鑑みて、甲第一八号証中の右供述記載部分は信用できず、他に、第一契約の締結に際し、事前に、その代金額が決定され、あるいはその見積額が被控訴人会社に示されていたことを認めるに足りる証拠はない。 2(一) 甲第一五号証、第一七号証、控訴人及び被控訴人Cの原審における各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、平成六年一〇月一三日、控訴人の自宅兼事務所において、ソーセージの試食会が行われ、控訴人の兄のKらのほか、被控訴人C、G及びFも控訴人宅を訪れたこと、その際、控訴人は、被控訴人Cら被控訴人会社の者に対し、被控訴人会社が、前示屋台を使用したソーセージ等の販売営業の他に、本件著作物を使用する場合には、著作権料を請求する旨申し向け、本件著作物に係る著作権を一〇〇万円で買い取ることなど三通りの方法を提示して、いずれかを選択するよう要求したこと、これに対し、被控訴人Cら被控訴人会社の者は、右一〇〇万円での著作権の買取りを含め、控訴人の要求に応ずる旨の返答はしなかったことが認められる。 (二) しかるところ、甲第一五号証、第三五号証(控訴人の陳述書)及び控訴人の原審における本人尋問の結果中には、同日午後一〇時三〇分過ぎに、被控訴人C及びFが、被控訴人Cの運転する自動車に乗って控訴人宅を辞去した後、数分してから、右車中のFより控訴人宅に電話があり、「一〇〇万円を支払う方法で行きたいと被控訴人Cが言っている。ただし、支払はしばらく待って貰いたい。」との返答があったので、控訴人はこれを了承した旨の供述及び供述記載があり、甲第一七、第一八号証にも、これに沿う供述記載がある。 しかしながら、次の各事情に照らして、右各供述及び供述記載部分を直ちに信用することはできない。 (1) 被控訴人会社の代表取締役には、その設立時からGが就任し、平成六年一〇月一三日当時も同人が代表取締役であったことは、前示(原判決四頁五行目から一一行目まで)のとおりであるところ、甲第四号証の三及び控訴人の原審における本人尋問の結果によれば、控訴人は、被控訴人会社代表取締役としてのGの名刺や、被控訴人会社取締役としての被控訴人Cの名刺を作成したことが認められ、平成六年一〇月一三日当時、控訴人は、Gが被控訴人会社の代表取締役であって、被控訴人Cはそうではないことを知っていたものと推認することができる。そうだとすると、仮に、前示のFからの電話があって、控訴人において、それが、被控訴人会社としての本件契約締結の意思表示であると考えたとすれば、控訴人としては、被控訴人会社の代表者としてのGとの間で、契約書面の作成に及ぶか、少なくとも、同人との間で本件契約の確認をすることが自然であると考えられるが、かかる契約書面の作成や確認行為があったことを認めるに足りる証拠はない。 この点について、控訴人は、被控訴人Cが実質的な代表者として被控訴人会社を経営していたとか、契約書面は、その作成の商慣習があるわけでもなく、被控訴人Cが不要であると言ったので取り交わさなかった等と主張するところ、前示1の(一)のとおり、被控訴人会社の販売するソーセージが株式会社福生ハムの製品であることや、被控訴人会社の当初資金を被控訴人Cの知人から借り入れたこと等に鑑みて、被控訴人Cが被控訴人会社の事業活動の中心となっていたことが窺われるが、同人が実質的な代表者として被控訴人会社を経営していたとの事実まで認めるに足りる証拠はないのみならず、仮に、控訴人において、そのように考えていたとしても、前示のとおり、控訴人は、少なくとも形式上の代表取締役はGであるとの認識を有していたのであるから、控訴人が、被控訴人会社の代表者としてのGとの間で、前示契約書面の作成や確認行為に及ばなかったことが、前示内容の電話がFからあったことを疑わせる事情であることに変わりはない。 (2) 被控訴人会社が、平成六年一〇月五日までに、控訴人に対し、本件著作物に関するものを含め、第一契約の代金として合計一三〇万円を既に支払っていたことは、前示1の(二)、(三)のとおりであるところ、乙第一、第二号証、控訴人及び被控訴人Cの原審における本人尋問の結果によれば、少なくとも第一契約の締結に至るまでは、控訴人から、被控訴人C、Gらに対し、控訴人が第一契約に基づいて制作する社章及び商章のロゴマーク並びにキャラクターを、屋台を使用したソーセージ等の販売営業の他に使用する場合には、別途著作権料の支払を要するとの説明はなく、被控訴人C、Gらは、右一三〇万円の支払により、被控訴人会社において、本件著作物を自由に使用することができるものと認識していたことが認められる。そうすると、同月一三日に、控訴人から、前示(一)認定の要求を受けたからといって、被控訴人会社が、その日のうちに右要求に応じて、一〇〇万円の支払を約したとすることは不自然である。 この点につき、甲第一五号証、第三五号証及び控訴人の原審における本人尋問の結果中には、控訴人は、平成六年一〇月一三日以前から、被控訴人Cらに対し、著作権についての話をし、本件著作物の著作権料が右一三〇万円の支払とは別である旨を説明しており、また、同日にも、その旨説明して、納得を得たとの供述及び供述記載があるが、原審における本人尋問において、当該説明を再現するよう求められた際の控訴人の供述内容が、曖昧で説得性に乏しいことに照らして、前示のとおり、被控訴人会社において、本件著作物を自由に使用することができるものと認識していた被控訴人C、Gらが、控訴人の説明によって、著作権料ないし著作権買取代金を別途支払う義務があることを了承したものとは認め難い。 (3) 前示1の(一)、(二)、(四)のとおり、平成六年一〇月一三日当時、被控訴人会社は、資金的に余裕がある状態ではなかったのであるから、当時行っていた屋台を使用したソーセージ等の販売営業以外の別の営業を行うために、同日の段階で、本件著作物に係る著作権を買い取る契約を締結し、新たに一〇〇万円の代金債務を負担したとすること自体、考え難いことであるのみならず、まして、被控訴人Cらにおいて、控訴人の要求に返答を与えないで控訴人宅を辞去したにもかかわらず、わざわざ帰途の車中から控訴人に電話をして、本件契約の締結に及ぶ必要性は何ら考えられず、その点も極めて不自然であるといわざるを得ない。 控訴人は、この点に関連して、被控訴人会社が、将来はフランチャイズ展開することを企図しており、実際に青山店の店舗展開も実行したから、本件著作物を自由に使用するために、その著作権を取得する必要性があったと主張するが、甲第一五号証、乙第一、第二号証、控訴人及び被控訴人Cの原審における本人尋問の結果によれば、被控訴人Cが控訴人に対し、平成六年一〇月一三日よりも前に、被控訴人会社として全国的にフランチャイズ展開をしたいと述べたことはあるものの、何ら具体的な計画ないし目途があったわけではなく、青山店開店の企画が持ち上ったのも平成六年末ないし平成七年始め頃であったことが認められるから、いずれも、資金的に余裕のない被控訴人会社が、平成六年一〇月一三日の段階で、本件契約を締結する必要性を裏付けるものということはできない。 (三) 右のとおり、Fから控訴人に対し、控訴人主張の内容の電話があったとする前掲甲第一五号証、第一七、第一八号証、第三五号証の供述記載及び控訴人の原審における供述は、直ちにこれを信用することはできず、他に、本件契約の締結の事実を認めるに足りる証拠はない。 よって、その余の事実について判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がない。 二 以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男 |
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