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【事件名】建築ソフト「積算くん」事件 【年月日】平成12年3月30日 大阪地裁 平成10年(ワ)第13577号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成11年12月16日) 判決 原告 株式会社アイシー・企画ソフトウエアハウス 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 伊丹浩 被告 株式会社コムテック 右代表者代表取締役 【B】 被告 有限会社ジーネット 右代表者代表取締役 【C】 被告 【C】 被告ら訴訟代理人弁護士 岩谷敏昭 主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求 一 被告らは、建築積算アプリケーションソフト「WARP」のバージョン一・〇三、同二・〇〇及び同二・〇二並びにこれらの基本入力マニュアルの販売及び頒布をしてはならない。 二 被告らは、別紙雑誌目録記載の雑誌に、別紙広告目録一記載の謝罪及び販 売中止広告を同目録二記載の条件で掲載せよ。 第二 事案の概要 (争いのない事実等) 一 当事者 原告は、コンピューターのソフトウエアの開発、販売及び賃貸業等を主たる目的とする株式会社である。 被告株式会社コムテック(以下「被告コムテック」という。)は、OA機器の販売を主たる目的とする株式会社であり、従前、原告が製造する建築積算アプリケーションソフト「積算くん」の販売代理店として活動していたことがあった。 被告有限会社ジーネット(以下「被告ジーネット」という。)は、OA機器の販売やコンピューターのシステム開発を主たる目的とする有限会社であり、被告【C】は、被告ジーネットの代表取締役である。 二 原告の代表取締役である【A】は、昭和五五年ころ、建築積算アプリケーションソフトである「積算くん」を開発したが、昭和五九年一二月ころ、同人は、原告に対し、積算くんに関する著作権を譲渡した(弁論の全趣旨)。 原告は、それ以後、積算くんを、逐次、改良しており、現在の積算くんは、ウインドウズ95又は98に対応したアプリケーションソフトとなっている。 積算くんは、建具工事積算システム、意匠内外装総合積算システム、RC造建物ー体積算システム及び見積書作成システム等のソフトウエアがパッケージされたアプリケーションソフトであり(甲1)、その中の意匠内外装総合積算システムを作動させると、別紙積算くん画面目録掲載のとおりのディスプレイ表示画面(以下単に「表示画面」という。)が表示される。 三 被告ジーネットは、意匠内外装積算を行う建築積算アプリケーションソフト「WARP」を作成し、被告コムテックはこれを販売している。WARPもウインドウズ95又は98に対応したアプリケーションソフトである。 本件訴え提起当時販売されていたWARPは、バージョン一・〇三であったが、被告らは、本件訴え提起後である、平成一一年三月ころバージョン二・〇〇に、同年七月下旬ころバージョン二・〇二に、それぞれバージョンアップされたと主張している(以下各バージョンをまとめていう場合には単に「WARP」という。)。 WARPバージョン一・〇三を作動させると、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録掲載のとおりの表示画面が表示され、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二を作動させると、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録掲載のとおりの表示画面が表示される。 (原告の請求) 原告は、被告らがWARPとその基本入力マニュアルを販売し、頒布する行為は、積算くんの表示画面、操作説明書及び出力(印刷)結果に対し原告が有する著作権(複製権及び同一性保持権)を侵害するとして、その行為の差止めを求めるとともに、謝罪広告を求めている。 (争点) 一 「積算くん」の表示画面は著作物に該当するか。 二 「積算くん」の出力(印刷)結果は著作物に該当するか。 三 本件請求のうち、「WARP」バージョン一・〇三及び二・〇〇を対象とする販売及び頒布の差止請求は、その必要性があるか。 四 「WARP」の表示画面は、著作物たる「積算くん」の表示画面と実質的に同一か。 五 「WARP」の出力結果は、著作物たる「積算くん」の出力(印刷)結果と実質的に同一か。 六 被告らは、「WARP」の表示画面、出力(印刷)結果、操作説明書を製作するに当たり、「積算くん」のそれらに依拠したか。 第三 争点に関する当事者の主張 一 争点一(表示画面の著作物性)について 【原告の主張】 1 積算くんの表示画面は、見る者の審美的感情に訴える要素を有しているから、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である。 2 建築積算業界で一般的に用いられる書式は存在せず、多種多様な積算方式に基づく積算ソフトが存在しており、その着想ないしアイディアの相違に基づいて積算方法が全く異なるため、それぞれのソフトの表示画面は全く異なっている。 したがって、積算くんの表示画面には創作性が認められる。 被告らは、ビジネスソフト一般について、物理的制約があると主張する。しかし、積算くんは、ウインドウズ95ないしウインドウズ98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトであり、画面解像度を高解像度にしたり、画面を上下左右にスクロールすることができるとともに、画面を階層構造にして順次開いていくように配列すれば、大量の情報を見やすいように整序することもでき、さらに、表示色も最高一六七七万色を使用することができるから、物理的制約があるとはいえない。 【被告らの主張】 1 積算くんは、技術に属する実用品ないし工業製品であり、その表示画面は「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではない。 2 積算くんの表示画面は、建築積算の書式にすぎず、「思想又は感情の表現」ではない。 3 積算くんは、建築積算を目的とするビジネスソフトであるが、ビジネスソフトの表示画面においては、文字数や図表、図形の大きさ、一画面に使用できる色の数等の物理的制約があり、ユーザーの学習容易性、操作容易性による制約がある。したがって、ビジネスソフトの表示画面は、多少のバリエーションはあっても、より効率の良い操作方法へと向かう一方向性を有しており、表現の多方向展開性を有する精神活動を意味する「創作性」を具備し得ない。よって、積算くんの表示画面も、「思想又は感情の創作的表現」たり得ない。 また、積算くんの表示画面は、建築積算業界及びこれと関連する周辺業界において使用されている各種書式等に依拠したもので、ありふれた初歩的、典型的なものであり、本質的に創作性がない。 原告は、積算方法の着想ないしアイディアを理由として、積算くんの表示画面の創作性を主張するが、着想ないしアイディアと表現とを混同した議論であり失当である。 二 争点二(出力(印刷)結果の著作物性)について 【原告の主張】 積算くんの出力(印刷)結果は、積算くんの開発者である原告の意匠内外装積算に関する思想を具体的に表現したものであるから、それ自体が著作物に当たることは明らかである。 【被告らの主張】 積算くんの出力(印刷)結果は、積算くんの表示画面に比べ、より一層書式としての性格が明確かつ強度である。したがって、出力(印刷)結果に至っては、著作物たり得る可能性はないというべきである。 なお、積算くんの出力(印刷)結果の一つである積算集計表は、既存の手書き書式と基本的に同じであり、創作性は認められない。 三 争点三(差止請求の必要性)について 【原告の主張】 被告らは、WARPをバージョンアップしたとして、旧バージョンのWARPに関する差止請求の必要性を否定するが、そもそも、そのようなバージョンアップが行われたことを原告は知らない。 また、仮に、被告らがWARPをバージョンアップしていたとしても、旧バージョンのWARPを保存しておかずに廃棄するということは考えられないから、なお差止請求の必要性が認められる。 【被告らの主張】 被告ジーネットは、平成一一年三月ころ、WARPを、バージョン一・〇三からバージョン二・〇〇にバージョンアップし、平成一一年七月下旬ころ、バージョン二・〇二にバージョンアップしたが、その際、それぞれ旧バージョンのソースプログラムを書き換える方法によりバージョンアップし、旧バージョンが保存された媒体を廃棄している。 したがって、被告ジーネット又はコムテックが、今後、旧バージョンであるWARPバージョン一・〇三及び二・〇〇を販売、頒布するおそれはないのであるから、同バージョンの販売及び頒布の差止めを求める必要はない。 四 争点四(WARPの表示画面と積算くんの表示画面の実質的同一性)について 【原告の主張】 1 積算くんの「工種名称、工種項目選択」画面について 積算くんの「工種名称、工種項目選択」画面は、別紙積算くん画面目録4掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録2掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録2掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 右両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 「工事名称一覧表」を画面の上部に縦五行、横四列の表形式で配置している点が同一である。 (2) 「工事名称一覧表」の工事名称が「ー体工事」、「組積工事」、「防水工事」、「石工事」、「タイル工事」、「木工事」、「金属工事」、「屋根工事」、「左官工事」、「ガラス工事」、「塗装工事」、「内装工事」、「雑工事」、「家具工事」、「備品工事」の一五項目について同一であるほか、積算くんが「フリー(AA)工事」などと表記しているのに対し、WARPバージョン一・〇三もこれとほぼ同一の「フリー1工事」などと表記している。 (3) 右一六種の「工種名称」を右の順序で配列している点が同一である。 (4) 「工種名称一覧表」の工種名称欄の左側に略号欄を設けている点、及び略号として、積算くんが当該工種名称の英語の頭文字若しくはローマ字表記の頭文字を使用しているのに対し、WARPバージョン一・〇三も当該工種の日本語表記の頭文字を使用している点が同一である。 (5) 積算くんでは、項目入力欄の左側の部位の入力欄をクリックすると、別紙積算くん画面目録4−1掲載のとおり、項目入力欄の上部に「床」、「巾木」、「壁」、「柱」、「梁」、「天井」、「廻縁」、「額縁」及び「その他」という部位の選択ボタンが表示されるが、WARPバージョン一・〇三も項目入力欄の上部に同一の部位の名称で、かつ同一の配列順序で、部位の選択ボタンを設けている。 (6) 項目入力欄の名称のうち「項目」、「単位」、「単価」、「原価」までが同一であり、かつ同一の配列順序で左から右へ配列されている点が同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) (一)(2)ないし(4)及び(6)と同一 (2) 積算くんでは、項目入力欄の左側の部位の入力欄をクリックすると、別紙積算くん画面目録4−1掲載のとおり、項目入力欄の上部に「床」、「巾木」、「壁」、「柱」、「梁」、「天井」、「廻縁」、「額縁」及び「その他」という部位の選択ボタンが表示されるが、WARPバージョン二・〇〇及び二〇二では、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録2−1掲載のとおり、工種名称の略号欄をクリックするとその右側にドロップダウンリストとして、同一の部位の名称で、かつ同一の配列順序で、部位の選択リストが表示される。 2 積算くんの「意匠・細部基準、隅柱・中間柱・独立柱」画面について 積算くんの「意匠・細部基準、隅柱・中間柱・独立柱」画面は、別紙積算くん画面目録5−1掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−1掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−1掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 「巾」、「奥行」、「天井高」及び「巾木高」という入力項目、及び「巾木高削除」を行うか否かの選択ボタンを有する部屋の平面図を有する点が同一である。 (2) 柱を「隅柱」、「中間柱」、「独立柱」に区分している点が同一である。 (3) 積算くんでは、「隅柱」についてはLa、Lb及びLcという記号を、「中間柱」についてはEa、Eb及びEcという記号を、「独立柱」についてはOa、Ob及びOcという記号を使用してているが、WARPバージョン一・〇三も、「隅柱」についてはCL1、CL2及びCL3という記号を、「中間柱」についてはCE1、CE2及びCE3という記号を、「独立柱」についてはCO1、CO2及びCO3という記号を使用している点が同一である。 (4) 柱の登録目録として「見付」、「見込」及び「個所」のみならず「床」及び「壁」までが同一であり、かつこれらが同一の配列順序で左から右へ配列されている点が同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 積算くんでは柱の登録項目として、「見付」、「見込」及び「個数」を設けているが、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二も「見付」及び「見込」という項目を設け、また積算くんの「個数」の代わりに「柱を*で拾う」及び「柱を+で拾う」という個数の入力項目を設けている点が同一である。 (2) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−1には、柱記号が表示されていないが、WARPバージョン一・〇三と同様、積算くんの柱記号に類似した記号を使用しているはずである。 3 積算くんの「意匠・細部基準、梁型」画面について 積算くんの「意匠・細部基準、梁型」画面は、別紙積算くん画面目録5−2掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−2掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−2掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 「巾」、「奥行」、「天井高」及び「巾木高」という入力項目、及び「巾木高削除」を行うか否かの選択ボタンを有する部屋の平面図を有する点が同一である。 (2) 梁型を「L梁型」と「U梁型」に区分している点が同一である。 (3) 積算くんではGLa、GLb、GLcという記号を使用してるが、WARPバージョン一・〇三もこれとほぼ同じGL1、GL2、GL3という記号を使用している。 (4) 梁型の登録項目として、「梁巾」、「梁成」、「長さ」、「個数」のみならず「壁」まで、同一もしくはほぼ同一の名称の項目を設けており、かつこれらが同一の配列順序で左から右へ配列されている点が同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 積算くんでは、梁型を「L梁型」と「U梁型」に区分し、かつ梁型の登録項目として、「梁巾」、「梁成」、「長さ」及び「個数」を設けているが、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二も「L梁で拾う」及び「U梁で拾う」という入力項目を設けて「L梁型」と「U梁型」とを区分し、かつ「巾」、「成」及び「長さ」という同一もしくはほぼ同一の名称の項目を設け、また積算くんの「個数」の代わりに上記「L梁で拾う」及び「U梁で拾う」によって個数を入力できるようにしている点が同一である。 (2) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−2には、梁型記号が表示されていないが、WARPバージョン一・〇三と同様、積算くんの梁型記号に類似した記号を使用しているはずである。 4 積算くんの「意匠・細部基準、凹凸部分・建具」画面について 積算くんの「意匠・細部基準、凹凸部分・建具」画面は、別紙積算くん画面目録5−3掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−3掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−3掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 「巾」、「奥行」、「天井高」及び「巾木高」という入力項目、並びに「巾木高削除」を行うか否かの選択ボタンを有する部屋の平面図を有する点が同一である。 (2) 登録事項を凹凸と建具とに区分している点が同一である。 (3) 積算くんでは、凹凸についてはHa、Hb、Hcという記号を、建具についてはWa、Wb、Wcという記号を使用しているが、WARPバージョン一・〇三もこれと同じく、凹凸についてHB1、HB2、HB3という記号を、建具についてはWT1、WT2、WT3という記号を使用している。 (4) 凹凸の登録項目として、「巾」、「奥行き」及び「個数」という同一もしくはほぼ同一の名称の項目を設けており、かつこれらが同一の配列順序で左から右へ配列されている点が同一である。また建具の登録項目として、「建具巾」、「建具成」及び「個数」という同一もしくはほぼ同一の名称の項目を設けており、かつこれらが同一の配列順序で左から右へ配列されている点が同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 積算くんでは登録事項を凹凸と建具とに区分し、凹凸の登録項目として、「巾」、「奥行き」及び「個数」という項目を設け、建具の登録項目として、「建具巾」、「建具成」及び「個数」という項目を設けているが、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二も「壁」、「巾木」及び「額縁」という入力項目を設けて凹凸と建具とを区分し、かつ「巾」「成」という同一名称の入力項目を設け、また積算くんの「個数」の代わりに上記「壁」、「巾木」及び「額縁」によって個数を入力できるようにしている点が同一である。 (2) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−3には、凹凸記号及び建具記号が表示されていないが、WARPバージョン一・〇三と同様、積算くんの凹凸記号及び建具記号に類似した記号を使用しているはずである。 5 積算くんの「意匠内外装/計算原稿一覧表」画面について 積算くんの「意匠内外装/計算原稿一覧表」画面は、別紙積算くん画面目録3−2掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録4掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録4掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 工種並びにその内容を記載する行の下に当該部位の計算行を設けている点、計算行を数値、演算記号、計算結果等の計算式の各項目を各要素ごとに別個のセルに配置している点が同一である。 (2) 壁、巾木及び額縁の総延長を求める計算式を、数学的には「(壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ)×2」として表記すべきところを、積算するものの思考のプロセスに即して入力することができるように、あえて「壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ×2」という形で表示している点が同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は、WARPバージョン一・〇三の場合と同じであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 6 積算くんの「他表のコピー」画面について 積算くんの「他表のコピー」画面は、別紙積算くん画面目録6掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録5掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録5掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 部屋を選択する、部屋別のセルが縦×横の表形式で配置されている点、及び部屋番号と部屋の名称のセルとが組み合わされて一つの部屋の単位になっている点が同一である。 (2) 部屋別の数量データを入力するには、積算くんでは部屋番号をクリックすれば、別紙積算くん画面目録6−1掲載のとおり、部屋番号、部屋名称、入力する部位及び部屋数を入力することができる「部屋別一覧表」が表示されるのに対し、WARPバージョン一・〇三では、画面の右側の表に部屋番号、部屋名称、部屋数及び備考欄に部位等を入力することができる。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は、WARPバージョン一・〇三の場合と同じであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 7 積算くんの「Data側のDrvの環境設定」画面について 積算くんの「Data側のDrvの環境設定」画面は、別紙積算くん画面目録7掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録6及び7掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録6及び7掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 両表示画面の同一の点は以下のとおりであり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (1) 別紙積算くん画面目録7掲載の画面の左側はデータの保管場所のディレクトリを表示するものであるが、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録6はデータの保管場所をディレクトリ名で表示する点で、同一である。 (2) 別紙積算くん画面目録7掲載の画面の右側はデータの保管場所をツリー表示の形式で表示するものであるが、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録7はデータの保管場所をツリー表示の形式で表示する点で、同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は、WARPバージョン一・〇三の場合と同じであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 8 積算くんの「工事概要」画面について 積算くんの「工事概要」画面は、別紙積算くん画面目録8掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録7掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録7掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 積算くんの「工事概要」画面は、「建物概要」として「建物番号」、「名称」、「場所」、「用途」、「構造」、「規模」、「建築面積」、「延床面積」、「担当者」及び「登録年月日」の入力欄を設けているが、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録7掲載の画面の右側は、「規模」を「地上〇階、地下〇階」に変更し、「登録年月日」を削除し、「備考欄」を設けている以外は同一である。 そもそも意匠内外装の積算においては、工事ないしは建物の概要の登録は本来必要がなく、これの登録がなくても積算には何ら差し支えないものである。したがって、他社の積算ソフトでは工事概要ないし建物概要の登録画面をもっていないものの方が多い。逆に、いわゆる工事概要として通常作成されるものは、詳細なものであり、積算くんやWARPバージョン一・〇三の右画面程度では不十分である。 それにもかかわらず、WARPバージョン一・〇三は、積算くんと同様に絞り込んだ工事概要の入力画面を有している。 したがって、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は、WARPバージョン一・〇三の場合と同じであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 9 積算くんの「意匠内外装集計計算・集計表印刷」画面について 積算くんの「意匠内外装集計計算・集計表印刷」画面は、別紙積算くん画面目録9掲載のとおりであり、これに対応するWARPバージョン一・〇三の画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録8掲載のとおりであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録8掲載のとおりである。 (一) WARPバージョン一・〇三について 積算くんの画面では、「表示画面」欄にチェックを入れて、その下の「工種」欄をクリックすると、別紙積算くん画面目録9−1掲載のとおり、工種名称一覧表がドロップダウンリストとして縦書きで表示され、また「部位」欄をクリックすると、別紙積算くん画面目録9−2掲載のとおり、部位一覧表がドロップダウンリストとして縦書きで表示される。また、積算くんの画面では、工種別かつ部位別に「項目」、「合計数量」及び「数量の単位」を表示するようになっている。 これに対し、WARPバージョン一・〇三では、工種名称一覧表、部位一覧表が当初から表示されているが、その項目内容及び配列順序は同一であり、工種別かつ部位別に「項目」、「合計数量」、「部屋別数量」及び「数量の単位」が表示される。 したがって、両者はほとんど同一であり、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 (二) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について 両表示画面の同一の点は、WARPバージョン一・〇三の場合と同じであり、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面と積算くんの右表示画面とは実質的に同一である。 【被告らの主張】 1 積算くんとWARPの個々の書式は、実際には画面内の各書式の配置・構成・色彩配分など一見して印象を異にするものとなっている。さらにいえば、画面内の個々の書式についても、その縦横比、ます数、体裁、項目の表記方法、レイアウト等につき枚挙にいとまがないほどの差異が存在する。 2 WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二について (一) 積算くんの「工種名称、工種項目選択」画面について 両者は基調となる全体的色彩が、積算くんではグレーなりブラウンの暗い印象であるのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二では白なりライトブルーによる明るい印象となっている。 また、工種名称の表示位置(積算くんでは上段、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二では横)、並べ方(積算くんでは横五列展開、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二では縦一列展開)、項目数(積算くんでは一七、WARPでは三〇)、用語(積算くんではアルファベット頭文字、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二では漢字)などは基本的に異なるし、項目欄の位置・構成も異なる(WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二には備考、名称、企画・寸法欄が設けられている等)など、その違いは枚挙にいとまがない。 (二) 積算くんの「意匠・細部基準、隅柱・中間柱・独立柱」画面について 色調の明暗が全く反対であるのみならず、画面内の書式の数と種類、画面全体の構成なども全く異なる。 (三) 積算くんの「意匠・細部基準、梁型」画面について (二)とおなじ。 (四) 積算くんの「意匠・細部基準、凹凸部分・建具」について (二)と同じ。 (五) 積算くんの「意匠内外装/計算原稿一覧表」について (二)と同じ。 また、原告が共通性を強調する別紙積算くん画面目録3−2の下半分と別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録4についても、色掛けの有無、罫線の用い方、工種名称の表示方法(積算くんではアルファベットの頭文字、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二では漢字)、イコール記号の有無などに顕著な差があり、同一性は認められない。 (六) 積算くんの「他表のコピー」画面について およそ書式とさえもいえない単純な表にすぎず、到底著作物性は認められないが、両者では色調の明暗が全く反対であるのみならず、画面内のセルの数(WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の方が格段に多い)、展開方法(WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二ではスクロールによる展開が可能)なども全く異なり、同一性は認められない。 (七) 積算くんの「Data側のDrvの環境設定」画面について およそ要部において共通するところがなく、全く異なる画面であること一目瞭然である。 (八) 積算くんの「工事概要」画面について 色調の明暗が全く反対であるのみならず、画面の構成なども異なる。 原告が共通性を強調する「物件概要」にしても、物件の特定のための一種の書式にすぎず、およそ著作物たり得ないものである。また、名称、場所、面積といった属性事項は、物件概要においては性質上必然的に共通するものであるから要部とはいえず、仮にこの点で共通部分があっても複製とはいえない。 (九) 積算くんの「意匠内外装集計計算・集計表印刷」画面について 色調の明暗が全く反対であるのみならず、画面内の書式の数と種類、画面全体の構成なども全く異なる。 五 争点五(WARPと積算くんの出力(印刷)結果の実質的同一性)について 【原告の主張】 1 積算くんの部屋別計算表について 積算くんの部屋別計算表とWARPの積算根拠を比較すると、@最初に工種並びに内容を表示する行を置き、その下に計算行を配置している点、A壁、巾木及び額縁の総延長を求める計算式を、数学的には、「(壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ)×2」として表示すべきところを、積算をする者の思考のプロセスに即して入力することができるように、あえて「壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ×2」という形で表示している点、B数値並びに計算記号の配列順序まで、全く同一である。 したがって、WARPの積算根拠と積算くんの部屋別計算表とは実質的に同一である。 2 積算くんの積算集計表について 積算くんの積算集計表とWARPの部位別部屋別印刷を比較すると、第一列に、縦に「工種」、「項目」、「単位」、「合計数量」及び「部屋別の数量」の欄を設け、かつ第二列以降に「石」、「木」、「左官」及び「内装」の順で工種別の集計欄を設けており、項目、名称及び配列が、全く同一である。 したがって、WARPの部位別部屋別印刷と積算くんの積算集計表とは実質的に同一である。 3 積算くんの部屋別集計表について 積算くんの部屋別集計表とWARPの部位別工種別印刷を比較すると、部位、工種、項目の名称及び部位、工種、項目、室名もしくは室番号の順に配列し、かつ項目の列と室名の列との間に数量の単位を表示する列を配している点まで、全く同一である。 したがって、WARPの部位別工種別印刷と積算くんの部屋別集計表とは実質的に同一である。 4 積算くんの工種項目別の部屋別集計表について 積算くんの工種項目別の部屋別集計表とWARPの工種別印刷を比較すると、部位及び工種の名称から項目の配列まで、全く同一である。 したがって、WARPの工種別印刷と積算くんの工種項目別の部屋別集計表とは実質的に同一である。 【被告らの主張】 争う。 積算くんとWARPの出力(印刷)結果は、同じ目的の書式ゆえ取り上げる項目などが性質上概ね共通とならざるを得ない。それにもかかわらず、両者を比較すると、そもそもタイトルの名称、データの表示位置、工種の表示方法、室名の表示方法、セルの数等に顕著な相違点がある。なお、WARPバージョン一・〇三からバージョン二・〇〇へバージョンアップされたことに伴い、出力(印刷)結果の積算根拠の部屋指定欄が表示されなくなった。また、バージョン二・〇二へバージョンアップされたことに伴い、部位別工種別印刷及び工種別印刷は出力(印刷)結果から削除されるとともに、積算根拠の部位の表示場所が変更された。 六 争点六(依拠性)について 【原告の主張】 WARPの表示画面、出力(印刷)結果が積算くんのそれらに類似していること、被告コムテックは、従前、積算くんの販売代理店であったことからすれば、被告らが積算くんに依拠してWARPを製作したことは明らかである。 【被告らの主張】 被告らは積算くんのアフターサービスをしていたころから、独自にノウハウやアイディアを考案、取得、応用そして蓄積し、これらを基本的骨格とし、これに既存の書式やWARP以前の同種製品を参考にして、WARPを開発した。 したがって、被告らは独自にWARPを開発した。 第四 当裁判所の判断 一 争点一(表示画面の著作物性)について 1 著作権法により保護される客体である著作物といえるためには、その表現されたものが、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」でなければならないが、ここにいう「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とは、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解される。 証拠(甲2)と弁論の全趣旨によれば、積算くんの意匠内外装積算ソフトは、著作者の意匠内外装の積算に関する知見に基づき、製作されたものであり、その表示画面は、同ソフトを使用する者が意匠内外装積算を行いやすいように配慮して、著作者が製作したものであると考えられるから、右表示画面は、著作者の知的精神活動の所産ということができる。 被告らは、積算くんが実用品ないし工業製品であるから「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではないと主張するが、そこに表現されている内容が、技術的、実用的なものであるとしても、その表現自体が知的、文化的精神活動の所産と評価できるものであれば、右要件は充足されるから、被告らの主張は採用することができない。 なお、原告は、積算くんの表示画面は美術の著作物であると主張するようであるが、表示画面に美的要素があることは否定できないとしても、その表示画面の表示形式、表示内容からすると、積算くんの表示画面を、あえて分類するとすれば、学術的な性質を有する図面、図表の類というべきである。 2 著作物であるといえるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」でなければならない。 (一) 「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められるためには、著作者の精神活動が、個性的に表現されていなければならない。 (二) 被告らは、積算くんの表示画面は、書式にすぎず、「思想又は感情の表現」ではないと主張するが、書式であったとしても、どのような項目をどのように表現して書式に盛り込むかという点において著作者の知的活動が介在し、場合によっては、その表現に著作者の個性が表れることもあると考えられるから、単に積算くんの表示画面が書式であることをもって、右要件を否定することはできない。 (三) 被告らは、積算くんのようなビジネスソフトの表示画面においては、文字数や図表、図形の大きさ、一画面に使用できる色の数等の物理的制約があり、ユーザーの学習容易性、操作容易性による制約もあることを理由に、その表示画面は創作的表現になり得ないと主張する。 しかし、積算くんはウインドウズ95又は同98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトであるところ、証拠(甲21の1)と弁論の全趣旨によれば、ウインドウズ95又は98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトにおいては、画面の解像度を変更したり、スクロールバーを縦横に設けることにより、一表示画面に表現できる情報の量を変更することができること、最高一六七七万色以上の色彩表現が可能であること、また画面に表示できる表現も文字だけに限らず、記号、図形など多彩であることなどが認められ、これらのことからすると、ウインドウズ95又は98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトにおける表示画面の物理的制約は、表現の創作性を検討する観点からは、無制限といってもよい程度の物理的制約にすぎないことが認められる。 また、ビジネスソフトは、不特定多数者の実務的利用を想定して製作されるから、利用者の学習容易性、操作容易性の観点から、その表示画面においては、できるだけ利用者がわかりやすい一般的・普遍的表現、すなわち著作者の個性が表れない表現が用いられる傾向があるであろうことは理解し得る。しかし、そうであるからといって、積算くんがビジネスソフトであることをもって、直ちに、その表示画面に創作性がないということはできない。 (四) そこで、具体的に、積算くんの表示画面において、思想又は感情が創作的に表現されているかどうかを検討する必要がある。 しかるところ、複製権侵害が認められるためには、WARPの表示画面と積算くんの表示画面とが実質的に同一であること、換言すれば、WARPの表示画面から積算くんの表示画面の創作的表現形式が直接覚知、感得できなければならないと解されるが、そのように評価できるためには、少なくとも、両表示画面の共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていなければならないというべきである。そこで、積算くんの表示画面において、思想又は感情が創作的に表現されているかどうかは、後記四でWARPの表示画面から積算くんの創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるかどうかを検討するに当たって、両表示画面の共通する表現形式を抽出した後に、当該共通する表現について検討することとする。 二 争点二(出力(印刷)結果の著作物性)について 1 原告は、積算くんを用いて積算を行った後の出力(印刷)結果である、部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表を原告の著作物であると主張する。 しかしながら、証拠(甲3)によれば、右各表のうち大部分は、積算くんを使用する者が、あるデータを入力して初めて印刷されるものであって、積算くんの著作者は、右各表のような表現で印刷できるような機能を積算くんに具備させているにすぎず、いまだ積算くんの著作者の表現行為があったとは認められない。 2 そして、証拠(甲3)によれば、部屋別計算表において、積算くんの著作者が表現していると認められるのは、同表上部に記載されている「工事名称」、「部屋別計算表」、「部屋番号、名称」、「表番号、表名称」、「指定部位」及び「計算個数=印刷表*個数」等の同表の特定のために必要となるデータの名称にすぎず、そのような表現に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。 また、同証拠によれば、積算集計表において、積算くんの著作者が表現していると認められるのは、「積算集計表」、「工事名称」及び「集計部位」という同表の特定のために必要となるデータの名称と、同表の各欄のデータ名称である「仕上げNo」、「工種」、「項目」、「単位」、「室名/合計」等である。そして、前者に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると認められないことは当然であり、後者についても、証拠(甲2)によれば、同表は、全工種の選択部位別の部屋別集計表であることが認められることからすると、右のような表現に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。 また、証拠(甲3)によれば、部屋別集計表において、積算くんの著作者が表現していると認められるのは、「工事名称」及び「部屋別集計」という同表の特定のために必要となるデータの名称と、同表の各欄のデータ名称である「工種」、「項目」、「室名」、「合計」である。そして、前者に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると認められないことは当然であり、後者についても、証拠(甲2)によれば、同表は、全工種の全部位の部屋別集計表であることが認められることからすると、右のような表現に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。 さらに、証拠(甲3)によれば、工種項目別の部屋別集計表において、積算くんの著作者が表現していると認められるのは、「工事名称」及び「工種項目別の部屋別集計」という同表の特定のために必要となるデータの名称にすぎず、そのようなものに積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。 3 以上より、原告が著作物と主張する、積算くんを用いて積算を行った後の出力(印刷)結果である、部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表は、いずれも著作権法上保護される著作物であるとは認められないから、その余の争点について検討するまでもなく、これらが著作物であることを理由とする原告の請求は理由がない。 三 争点三(差止請求の必要性について)について 証拠(乙3、15)と弁論の全趣旨によれば、被告ジーネットは、平成一一年三月ころ、WARPを、バージョン一・〇三からバージョン二・〇〇にバージョンアップし、平成一一年七月下旬ころ、バージョン二・〇二にバージョンアップしたことが認められる。 確かに、証拠(甲5、乙3)によれば、WARPバージョン一・〇三から同バージョン二・〇〇への変更に当たっては、本件で問題となっている表示画面が大幅に変更されていることが認められるため、特にバージョン一・〇三からバージョン二・〇〇への変更は、本件訴訟対策の意味合いもあった可能性は否定できないが、そうであるからといって、被告コムテックなどが、いったんバージョンアップしたWARPを旧バージョンに戻したり、バージョンアップした製品と旧バージョンとを並行して販売、頒布するとは考え難い。 なお、原告は、仮に、被告らがWARPをバージョンアップしたとしても、旧バージョンのWARPを保存しておかずに廃棄するということは考えられないため、なお差止請求の必要性は認められると主張する。しかしながら、仮に、被告らがWARPの旧バージョンのソースプログラムが保存された媒体を廃棄していないとしても、WARPをバージョンアップしている以上、今後、旧バージョンを販売、頒布するおそれがあると認められないことに変わりはない。 よって、原告の請求のうち、WARPバージョン一・〇三及び二・〇〇を対象とする請求は、その余の争点について検討するまでもなく理由がない。 四 争点四(WARPの表示画面と積算くんの表示画面の実質的同一性)について (前記三で判断したとおり、WARPバージョン一・〇三及び二・〇〇については、既に差止請求は理由がないものであるが、念のためにこれらについても以下の検討の対象とすることにする。) 1 別紙積算くん画面目録4掲載の表示画面について (一) 別紙WARPバージョン一・〇三画面目録2掲載の表示画面について (1) 右両表示画面は、工種項目作成画面であるが、以下の点で共通する。 ア 画面上半分に、「工事名称一覧表」を縦五行、横四列の表形式で設け、工事名称として「ー体工事」、「組積工事」、「防水工事」、「石工事」、「タイル工事」、「木工事」、「金属工事」、「屋根工事」、「左官工事」、「ガラス工事」、「塗装工事」、「内装工事」、「雑工事」、「家具工事」、「備品工事」、及び「フリー工事」を設けており、その配列順序も同一である。 イ 画面下半分に「項目」、「単位」、「単価」、「原価」の入力欄を、同一の配列順序で左から右へ配列している。 (2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する(甲2、5)。 ア WARPバージョン一・〇三の右表示画面は、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録1掲載の計算原稿の表示画面に示された四つの表のうち右上部に表示されている一つの表にすぎず、表示画面中に占める割合も四分の一程度である。 イ 画面上半分の工事名称一覧表において、積算くんの右表示画面においては、フリー(AA)工事とフリー(BB)工事の二つが設けられているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、フリー1工事ないしフリー6工事の六つ設けられ、さらに工種名称の追加用に、一〇個の空欄が設けられている。 ウ 工種名称一覧表の工種名称欄の左側に設けられている略号は、積算くんがアルファベットであるのに対し、WARPバージョン一・〇三は日本語である。 エ 積算くんの右表示画面においては、同表上において使用者が一定の操作をすると、工種名称一覧表が現れるような機能が施されているものの、当初から同一覧表は表示されていないが、WARPバージョン一・〇三においては、工種名称一覧表の下に部位一覧表が表示されている。 オ 積算くんの右表示画面における入力欄は、(1)イのみであるのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、さらに「備考」欄が表示されている。 カ 積算くんの右表示画面においては、画面下半分の入力欄の左に「自項目コピー」、「他工種コピー」、「キャンセル」、「OK」及び「項目印刷」等のボタンが表示され、入力欄の下に「項目コピー時上書き可能」及び「DOS版位置」のチェックボックスが表示されているが、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においてそのような表示はない。 (3) (1)アの共通点のうち、工種項目作成画面に工種名称一覧表を設ける点は、工種項目作成画面に工種名称一覧表を設ける必然性はないことから積算くんの著作者の個性が発揮されているが、それ自体はアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、同表に工事名称として具体的に記載されている一五種類の工事名称自体は、一般的な工事名称であり、その工事名称の選択、配列順序及び工事名称一覧表を縦五行、横四列の表形式で設けている点に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。また、(1)イの共通点については、そのような項目入力欄を設けること自体は、積算くんもWARPも積算ソフトであることを考慮すれば、特筆すべきことではなく、しかもその表現形式はありふれたものであるから、その部分に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは見ることができない。 そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン一・〇三の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン一・〇三の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。 (二) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録2掲載の表示画面について (1) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面も、工種項目作成画面であるが、次の点で、積算くんの右表示画面と共通する。 ア 工事名称一覧表が表示されており、工事名称として「ー体工事」、「組積工事」、「防水工事」、「石工事」、「タイル工事」、「木工事」、「金属工事」、「屋根工事」、「左官工事」、「ガラス工事」、「塗装工事」、「内装工事」、「雑工事」、「家具工事」、「備品工事」、及び「フリー工事」を設けている。 イ 「項目」、「単位」、「単価」、「原価」の入力欄を、同一の配列順序で左から右へ配列している。 (2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する。 ア WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面は、別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録1掲載の計算原稿の表示画面に示された四つの表のうち右上部に表示されている一つの表にすぎず、表示画面中に占める割合は四分の一よりも少ない。 イ 工事名称一覧表が、積算くんの右表示画面においては、画面の上半分に表示されているのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においては、画面の左部に表示されている。 ウ 工事名称一覧表において、積算くんの右表示画面においては、フリー(AA)工事とフリー(BB)工事の二つが設けられているのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においては、フリー1工事ないしフリー9工事及びフリーA工事ないしフリーF工事の一六のフリー工事欄が表示されている。 エ 工種名称一覧表の工種名称欄の左側に設けられている略号は、積算くんの右表示画面がアルファベットであるのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においては日本語である。 オ 積算くんの右表示画面における入力欄は、(1)イのみであるのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においては、さらに「備考」、「名称」、「企画−寸法」の入力欄が表示されている。 カ 積算くんの右表示画面においては、画面下半分の入力欄の左に「自項目コピー」、「他工種コピー」、「キャンセル」、「OK」及び「項目印刷」等のボタンが表示され、入力欄の下に「項目コピー時上書き可能」及び「DOS版位置」のチェックボックスが表示されているが、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においてそのような表示はない。 (3) 右(1)の共通点からすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所が存在しないことは、(一)で判示したことから明らかであり、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。 2 別紙積算くん画面目録5−1掲載の画面について (一) 別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−1掲載の表示画面について (1) 両者は、柱の登録画面であるが、以下の点で共通する。 ア 部屋の平面図が掲載され、部屋の基本寸法の入力項目が、「巾」、「奥行き」、「天井高」及び「巾木高」であり、「巾木高削除」というチェックボックスが存在する。 イ 入力する柱が、「隅柱」、「中間柱」及び「独立柱」と分類され、各柱の入力欄が、複数行ずつ画面の上から下に順に設けていること。 ウ 各柱の入力項目として、積算くんの右画面には、左から順に、「見付」、「見込」及び「個数」があり、WARPバージョン一・〇三の右画面にも、同様に、「見付」、「見込」及び「個所」があり、両者の入力欄の右には、床又は壁面積から柱の面積を引いて算出するための、「床」及び「壁」のチェックボックスが設けられている。 (2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する。 ア 積算くんの右表示画面において部屋の平面図は、画面の左上部に表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、画面の右上部に表示されている。 イ 積算くんの右表示画面においては、部屋の基本寸法の入力欄が部屋の平面図の下部に別個のウインドウで表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図上に当該入力内容に沿って表示されている。 ウ 積算くんの右表示画面においては、各柱の入力欄が独立のウインドウに表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、そのようになっていない。 エ 積算くんの右表示画面においては、各柱の入力欄が各柱ごとに五つ設けられているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、六つ設けられている。 オ 積算くんの右表示画面においては、各柱の入力項目は(1)ウ記載のもののみであるが、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、さらに「隅柱記号」、「中間柱記」又は「独立柱記」という入力項目が設けられている。 カ WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図の下部に、「柱記号」、「見付」及び「見込」の入力欄が設けられた「柱記号表」が表示されているが、積算くんの右表示画面においては、そのような表の表示はない。 (3) (1)ア記載の共通点のうち積算くんの右表示画面に部屋の平面図を設けている点は、証拠(甲2)と弁論の全趣旨によれば、床、壁及び天井の面積や巾木及び廻縁の周長を自動的に算出するなどの機能を果たしており、使用者の便宜に資するものではあるが、そのような機能を果たす平面図を設けるということ自体はアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、積算くんの平面図の具体的表現形式を見ると、横長で左下部に突部がある略長方形の図面であって、同図面上の四隅、各辺の中間及び中心に四角いマスが表示されているという、単純な図形が表示されているにすぎず、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 また、(1)ア記載の共通点のうち「巾木高削除」というチェックボックスが表示されている点は、幅木高を削除するか否かという機能を具備させているという点では、積算くんの著作者の個性が表れているということもできるが、それはアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、その表現形式は、「巾木高削除」という文字の左にチェックボックスが表示されているというものであるところ、ある機能を行うか行わないかをアプリケーションソフトの使用者に選択させるために、このようなチェックボックスを設けること自体は、一般的に見られる表現形式であるから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。このことは、(1)ウ記載の共通点のうち、「床」及び「壁」のチェックボックスが表示されている点にも妥当する。 また、(1)イ記載の共通点のうち入力する柱を「隅柱」、「中間柱」及び「独立柱」に区分すること自体は、アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、その表現形式は、隅にある柱を「隅柱」といい、隅柱以外の壁に接する柱(隅柱と隅柱の中間に位置する柱)を「中間柱」といい、壁に接しない柱を「独立柱」と表現しているにすぎないから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。そして、柱の入力欄を、複数行ずつ画面の上から下に順に設けている点は、1つの部屋に柱は複数本設けられる以上、その表現形式に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 さらに、(1)ア記載の共通点のうち、平面図の入力項目を「巾」、「奥行き」、「天井高」及び「巾木高」としている点は、一般的であり、(1)ウ記載の共通点のうち各柱の入力項目が、左から順に、積算くんの右画面では「見付」、「見込」及び「個数」であるのに対し、WARPバージョン一・〇三の右画面では「見付」、「見込」及び「個所」である点については、右両表示画面が柱の登録画面である以上、当然必要な事項であり、その表現形式に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 なお、右表現形式の各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン一・〇三の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン一・〇三の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。 (二) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−1掲載の表示画面について WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面も柱の登録画面であるが、同表示画面と積算くんの右表示画面とでは、「見付」及び「見込」という入力欄が設けられている点のみが共通しているにすぎない。 そして、右共通する部分に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることができないことは、(一)において判示したとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面が、原告の複製権を侵害するとは認められない。 なお、原告は、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面においては、積算くんの右表示画面の「個数」の代わりに「柱を*で拾う」及び「柱を+で拾う」という個数の入力項目を設けている点、及び積算くんの柱記号に類似した記号を使用しているはず点でも共通すると主張するが、前者については明らかに表現が異なり、後者については、同表示画面においてそのような表現が使用されているとの事実は認められないから、原告の主張は失当である。 3 別紙積算くん画面目録5−2掲載の表示画面について (一) 別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−2掲載の表示画面について (1) 両者は、梁型の登録画面であるが、以下の点で共通する。 ア 部屋の平面図が掲載され、部屋の基準寸法の入力項目が、「巾」、「奥行き」、「天井高」及び「巾木高」であり、「巾木高削除」というチェックボックスが存在する。 イ 入力する梁が、二つに分類され、各梁の入力欄が、複数行ずつ画面の上から下に順に設けている。 ウ 各梁の入力項目として、積算くんの右画面には、左から順に、「梁巾」、「梁成」、「長さ」及び「個数」があり、WARPバージョン一・〇三の右画面にも、同様に、「巾」、「成」、「長さ」及び「個所」があるとともに、両者の入力欄の右には、壁面積から梁型の表面積を算出し削除する機能を有する、「壁」のチェックボックスが表示されている。 (2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する。 ア 積算くんの右表示画面において部屋の平面図は、画面の左上部に表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、画面の右上部に表示されている。 イ 積算くんの右表示画面においては、部屋の基本寸法の入力欄が部屋の平面図の下部に別個のウインドウで表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図上に当該入力内容に沿って表示されている。 ウ 積算くんの右表示画面においては、各梁型の入力欄が独立のウインドウに表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、そのようになっていない。 エ 積算くんの右表示画面においては、各梁型の入力欄が各梁型ごとに五つ設けられているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、六つ設けられている。 オ 積算くんの右表示画面においては、各梁型の入力項目は(1)ウ記載のもののみであるが、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、さらに「L型梁記」又は「U型梁記」という入力項目が設けられている。 カ WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図の下部に、「梁記号」、「巾」、「成」及び「長さ」の入力欄が設けられた「梁型記号表」が表示されているが、積算くんの右表示画面においては、そのような表の表示はない。 (3) (1)ア記載の共通点及び(1)ウ記載の共通点のうち「壁」のチェックボックスが表示されている点は、2(一)(2)同様、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。 また、(1)イ記載の共通点のうち入力する梁を二種類に分けている点は、証拠(甲2、3)によれば、両者共に壁付き梁型と中央梁とに分けているものと認められるが、そのような区分自体はアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、その表現形式は、梁の入力欄を、複数行ずつ画面の上から下に順に設け、各行の左端に梁型を区別する記号として「GLa」、「GUa」などと表現しているにすぎず、そのような表現形式に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 さらに、(1)ウ記載の共通点のうち、各梁の入力項目として、積算くんの右画面には、左から順に、「梁巾」、「梁成」、「長さ」及び「個数」があり、WARPバージョン一・〇三の右画面にも、同様に、「巾」、「成」、「長さ」及び「個所」がある点は、2(一)(3)同様、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 なお、右表現形式の各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン一・〇三の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン一・〇三の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。 (二) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−2掲載の表示画面について WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面も梁型の登録画面であるが、同表示画面と積算くんの右表示画面とでは、梁型の登録項目として、積算くんの右表示画面では、「梁巾」、「梁成」、「長さ」を設けているのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面では、「巾」、「成」及び「長さ」を設けている点で、共通しているにすぎない。 そして、右共通する部分に、原告の創作的表現が現れていると見ることができないことは、(一)において判示したとおりである。 なお、原告は、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二も「L梁で拾う」及び「U梁で拾う」という入力項目を設けて「L梁型」と「U梁型」とを区分し、また積算くんの「個数」の代わりに上記「L梁で拾う」及び「U梁で拾う」によって個数を入力できるようにしている点で同一であると主張するが、それらは機能としては同一であったとしても、表現は異なるといわざるを得ず、原告の主張は失当である。また、原告は、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面には、WARPバージョン一・〇三の右表示画面と同様、積算くんの右表示画面中の梁型記号に類似した記号を使用しているはずであると主張するが、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面にそのような表現がされていると認めることはできないから、原告の主張は失当である。 4 別紙積算くん画面目録5−3掲載の表示画面との類似性 (一) 別紙WARPバージョン一・〇三画面目録3−3について (1) 両者は、凹凸部分・建具の設定登録画面であるが、以下の点で共通する。 ア 部屋の平面図が掲載され、部屋の基準寸法の入力項目が、「巾」、「奥行き」、「天井高」及び「巾木高」であり、「巾木高削除」というチェックボックスが表示されている。 イ 凹凸部分と建具の設定を同一の表示画面で行うようにしている。 ウ 凹凸の登録項目が、左から順に、積算くんの右画面においては、「巾」、「奥行」及び「個数」であり、WARPバージョン一・〇三の右画面においては、「巾」、「奥行」及び「個所」である。 エ 建具の登録項目として、積算くんの右画面には、左から順に、「建具巾」、「建具成」、「個数」があり、WARPバージョン一・〇三の右画面においても、同様に、「巾」、「成」及び「個所」があるとともに、両者の入力欄の右には、巾木計算式では基準巾木長さより建具巾を差し引き、壁計算式では建具成りより巾木成を差し引いた建具成で建具面積を計算するための、「巾」のチェックボックスが設けられている。 (2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する。 ア 積算くんの右表示画面において部屋の平面図は、画面の左上部に表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、画面の右上部に表示されている。 イ 積算くんの右表示画面においては、部屋の基本寸法の入力欄が部屋の平面図の下部に別個のウインドウで表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図上に当該入力内容に沿って表示されている。 ウ 積算くんの右表示画面においては、凹凸、建具の入力欄が独立のウインドウに表示されているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、そのようになっていない。 エ 積算くんの右表示画面においては、凹凸、建具の入力欄がそれぞれ五つずつ設けられているのに対し、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、六つ設けられている。 オ 積算くんの右表示画面においては、建具の入力項目は(1)ウ記載のもののみであるが、WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、さらに「建具記号」という入力項目が設けられている。 カ WARPバージョン一・〇三の右表示画面においては、部屋の平面図の下部に、「建具記号」、「巾」及び「成」の入力欄が設けられた「建具記号表」が表示されているが、積算くんの右表示画面においては、そのような表の表示はない。 (3) (1)ア記載の共通点及び(1)エ記載の共通点のうち、「巾」のチェックボックスが設けられている点は、2(一)(3)同様、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 また、(1)イ記載の共通点である凹凸と建具とを同一画面で登録させていること自体は、アイディアに属する事柄であり、それ自体が著作権法において保護の対象となるものではない。そして、積算くんの右表示画面の表現形式に着目した場合、登録画面の上半分に凹凸部分の登録表が、「記号」、「巾」、「奥行」及び「個数」という欄で五行設けられていて、登録画面の下半分に建具の登録表が、「記号」、「建具巾」、「建具成」及び「個数」という欄で五行設けられているにすぎず、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 なお、右表現形式の各共通点を一つのまとまりとして見ても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン一・〇三の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン一・〇三の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。 (二) 別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3−3掲載の表示画面について WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面は、建具の設定登録画面であるが、同表示画面と積算くんの右表示画面とでは、建具の登録項目として、積算くんの右表示画面では「建具巾」及び「建具成」が表示されているのに対し、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面では「巾」及び「成」が表示されている点が類似しているにすぎない。 そして、右類似する部分に、原告の創作的表現が現れていると見ることができないことは、(一)において判示したとおりである。 原告は、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二も「壁」、「巾木」及び「額縁」という入力項目を設けて、積算くんの右表示画面と同様、凹凸と建具とを区分し、また積算くんの「個数」の代わりに上記「壁」、「巾木」及び「額縁」によって個数を入力できるようにしている点が同一であると主張するが、それらは機能が同一であると主張するにすぎず、表現が異なることは明らかであるから、原告の主張は失当である。また、原告は、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二の右表示画面には、凹凸記号及び建具記号が表示されていないが、WARPバージョン一・〇三と同様、積算くんの凹凸記号及び建具記号に類似した記号を使用しているはずであると主張するが、同表示画面に表示されていない以上、同表示画面が積算くんの右表示画面に対する複製権を侵害するものではないことは明らかである。 5 別紙積算くん画面目録3−2掲載の表示画面と別紙WARPバージョン一・〇三画面目録4掲載及び別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録4掲載の各表示画面について 原告は、積算くんの右表示画面とWARPの右表示画面との共通点として、@工種並びにその内容を記載する行の下に当該部位の計算行を設けている点、計算行を数値、演算記号、計算結果等の計算式の各項目を各要素ごとに別個のセルに配置している点が同一である、A壁、巾木及び額縁の総延長を求める計算式を、数学的には「(壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ)×2」として表記すべきところを、積算するものの思考のプロセスに即して入力することができるように、あえて「壁面の一辺の長さ+他の一辺の長さ×2」という形で表示している点が同一であると主張する。 しかしながら、積算くんの右表示画面で、工種並びにその内容を記載する行の下に当該部位の計算行が表示されているのは、積算くんを使用する者がそのようにデータを入力するからに他ならず、積算くんがそのような入力前から表示している表示画面は、同目録3−1掲載の表示画面である。確かに、積算くんにおいては、同目録3−2掲載の表示画面のように入力することができる機能を備えているが、そうであるからといって、使用者が入力した結果の表現形式までもが、原告の著作権として保護されるものではない。そして、このことは、右Aについても妥当する。 そうすると、結局、右両表示画面の共通点として指摘し得るのは、計算行を数値、演算記号、計算結果等の計算式の各項目を各要素ごとに別個のセルに配置できるように表を構成している点ということになるが、そのような共通点に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 6 別紙積算くん画面目録6及び6−1掲載の表示画面と別紙WARPバージョン一・〇三画面目録5及び別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録5掲載の各表示画面について (一) 証拠(甲2、5、乙7)によれば、右表示画面は、部屋の一覧表の表示画面であり、別紙積算くん画面目録6掲載の表示画面では、部屋番号をクリックすると、同目録6−1掲載のとおり、当該部屋の計算表の一覧表の表示画面が表示されるのに対し、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録5掲載及び別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録5掲載の各表示画面においては、画面左半分に部屋の一覧表が表示され、表示されている部屋番号をクリックすると、画面右半分に当該部屋の計算表の一覧表の表示画面が表示されるようになっている。 (二) 原告は、@部屋の一覧表の表示画面において、部屋を選択する部屋別のセルが縦×横の表形式で配置されている点、及び部屋番号と部屋の名称のセルとが組み合わされて一つの部屋の単位になっている点が同一である、A部屋別の計算表の一覧表の表示画面において、部屋番号、部屋名称、入力する部位及び部屋数を入力することができる点が同一であると主張する。 しかしながら、原告が主張する共通点は、縦横にセルがある単純な表として画面上表示されているにすぎないから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは到底認めることができない。 7 別紙積算くん画面目録7掲載の表示画面と別紙WARPバージョン一・〇三画面目録6及び7並びに別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録6及び7掲載の各表示画面について 積算くんの右表示画面とWARPの右表示画面とは、原告が主張するように、データの保管場所をディレクトリ名やツリー形式で表示する点で、似ていなくもないが、積算くんの表示画面においてデータの保管場所がディレクトリ名で表示されたり、ツリー形式で表示されるのは、積算くんを使用する者が、データの保管場所にディレクトリ名を付したり、データを保管するフォルダに階層付けを施すからに他ならず、原告としては、積算くんの表示画面を製作する際、積算くんを使用する者が、そのようにした場合には、データの保管場所をディレクトリ名やツリー形式で表示できる機能を付しているに過ぎず、原告が積算くんの表示画面で具体的に表現されるディレクトリ名やツリー形式を表現しているわけではない。しかも、そのような表示は、ウインドウズ95又は98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトにおいて一般的に用いられるものである。 したがって、右共通する表示に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。 8 別紙積算くん画面目録8掲載の表示画面と別紙WARPバージョン一・〇三画面目録7及び別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録7掲載の各表示画面について 右表示画面は、いずれも建物の概要を表す表示画面であるが、それらは、「建物概要」の入力欄として「建物番号」、「名称」、「場所」、「用途」、「構造」、「建築面積」、「延床面積」及び「担当者」という表示をしている点が同一である。 しかし、右のような項目は、建物の概要を特定するための項目としてありふれたものであり、しかも、その項目の表現自体も、極めて一般的であって、何ら創作的な表現ということはできない。 原告は、そもそも意匠内外装の積算においては、工事ないしは建物の概要の登録は本来必要がなく、建物の概要はもっと詳細であるにもかかわらず、WARPは、積算くんと同様に絞り込んだ工事概要の入力画面を有していると主張するが、積算くんに建物概要の表示画面を設けること自体は、アイディアに属することであり、そのようなことは著作権法によって保護されるものではない。 9 別紙積算くん画面目録9掲載の表示画面と、別紙WARPバージョン一・〇三画面目録8並びに別紙WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録8掲載の表示画面について 右表示画面は、いずれも工種別集計表の表示画面であるが、積算くんの右表示画面と、WARPの右表示画面とで、共通する表現があるとは認められない。 原告は、工種名称と部位の内容及び配列順序が同一であると主張するが、工種名称と部位の内容自体は、一般的なものであり、その配列順序に原告の創作性が現れているとは認められない上、積算くんでは、それらが、工種欄又は部位欄をクリックすることにより、ドロップダウン形式で表現されるのに対し(別紙積算くん画面目録9−1及び9−2参照)、WARPでは、それらが、当初から画面に表現されている点で異なる。 なお、WARPの右表示画面においては、積算くんの右表示画面と同様、表示画面の下半分に、工種別かつ部位別の「項目」、「合計数量」、「数量の単位」が表示されるが(ただしWARPにおいては、さらに「部屋別数量」も表示される。)、そのような表示は、ソフトを使用する者がデータを入力して始めて表示されるものであって、原告は、そのように表示されるような機能を積算くんに備えさせているにすぎず、この点に積算くんの著作者の表現行為があるとは認められない。 10 以上によれば、積算くんの表示画面とWARPの表示画面との間には、表現が共通する部分が存在するものの、異なる表現も多々存在するのであり、しかも、両表示画面において表現が共通する部分に、積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現があるとみることはできない。 したがって、その余の点につき判断するまでもなく、WARPの表示画面が著作物たる積算くんの表示画面を複製したものと認めることはできない。 五 その他 原告は、積算くんの操作説明書を著作物として、複製権侵害を理由に、WARPの基本入力マニュアルの販売、頒布の差止めを求めているところ、WARPの基本入力マニュアルが積算くんの操作説明書を複製したものであることについて、何ら具体的に主張しない。証拠によって、積算くんの操作説明書(甲2)とWARPバージョン一・〇三(甲5)及びバージョン二・〇〇(乙3)の各基本入力マニュアルを対比しても、WARPの基本入力マニュアルの表現が、積算くんの操作説明書の表現形式を直接覚知、感得するものであるとはいえない。原告の右請求を、WARPの基本入力マニュアルにWARPの表示画面が印刷されていることをもって、WARPの表示画面が積算くんの表示画面に関する著作権を侵害するのと同様、積算くんの操作説明書に関する複製権を侵害すると主張するものと理解しても、WARPの表示画面が積算くんの表示画面に関する複製権を侵害するとは認められない以上、WARPの基本入力操作書を対象とする複製権侵害の主張も理由がない。 原告は、現行の積算くんの著作者は原告であるとして、著作者人格権にも基づく請求もしているが、同権利に基づく請求が理由がないことは、既に判示したところから明らかである。 六 結論 以上より、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二一民事部 裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 渡部勇次 裁判官 安永武央 |
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