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【事件名】「新潮45」の被告少年の実名報道事件(2)
【年月日】平成12年2月29日
 大阪高裁 平成11年(ネ)第2327号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成10年(ワ)第4322号 損害賠償請求事件)

判決
控訴人 株式会社新潮社
右代表者代表取締役 佐藤隆信(ほか二名)
右三名訴訟代理人弁護士 岡田宰
同 広津佳子
同 鳥飼重和
同 多田郁夫
同 森山満
同 遠藤幸子
同 村瀬孝子
同 今坂雅彦
同 橋本浩史
同 吉田良夫
被控訴人 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 木村哲也
同 金井塚康弘
同 山崎敏彦
同 浜田雄久
同 飯島歩
同 小久保哲郎
同 太田健義
同 河原誠
同 岩佐嘉彦
同 浦中裕孝
同 三木憲明


主文
一 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
二 右取消しに係る被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第一 申立て
一 控訴人ら
 主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
 本件は、平成一〇年一月八日早朝、当時一九歳の少年であった被控訴人が、大阪府堺市内において、シンナー吸引中幻覚に支配された状態で自宅から文化包丁を持ち出し、登校途中の女子高校生を刺して重症を負わせた後、幼稚園の送迎バスを待っていた母子らを襲い、逃げまどい転倒した五歳の幼女に馬乗りになって背中を突き刺して殺害し、さらに娘を守ろうとして蔽いかぶさった母親の背中にも包丁を突き立てて重症を負わせた、いわゆる堺通り魔殺人事件について、控訴人会社が発行する月間誌「新潮45」に、被控訴人の実名、顔写真等により被控訴人本人であることが特定される内容の「ルポルタージュ『幼稚園児』虐殺犯人の起臥」と題する本件記事が掲載されたため、被控訴人がプライバシー権、氏名肖像権、名誉権等の人格権ないし実名で報道されない権利が侵害されたとして、右記事の執筆者、雑誌の編集長及び発行所に対し、不法行為による損害賠償と謝罪広告を求めた事案であり、争いのない事実等及び争点は、原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 本件記事において、被控訴人の氏名、年齢、職業、住居、容貌その他により、被控訴人が本件事件の被疑者であると明確に特定できる内容の記述がされるとともに、被控訴人の中学校卒業時の顔写真等が掲載され、同時に被控訴人の生い立ち、非行歴や日常生活に関する事項についての記述も相当程度詳細にされていること、この記事が掲載された本件雑誌が全国の書店において販売され、被控訴人が居住する大阪府堺市内をはじめ全国の公衆の眼前にさらされたことは、右第二で引用した原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」記載のとおりである。
二 被控訴人は、プライバシー権、氏名肖像権及び名誉権はいずれも憲法一三条によって保障された基本的人権であるところ、人は、プライバシー権、氏名肖像権及び名誉権等の人格権から派生する人格的利益として、「実名報道されないという人格的利益」を有しており、特に少年においては、少年法六一条の規定が存在することにより、右の人格的利益は「実名で報道されない権利」にまで特別に高められていると解すべきである旨主張する。
 そこで、本件記事を掲載した本件雑誌の発行が被控訴人の主張する法的利益ないし権利を侵害し、不法行為となるかについて、以下検討する。
1 いわゆるプライバシー権、肖像権及び名誉権は、その権利ないし法益の内容・性質及び対象が異なることから、これらを一律に論じることができないとしても、いずれも一般的には憲法一三条にその根拠を求めることができ、公共の福祉に反しない限り、最大限に尊重されるべきものと解されている。これらの権利を人格権とみるか人格的利益とみるかの違いはあっても、正当な理由がなくこれを侵害された場合には、不法行為に基づく損害賠償等の請求が認められるといわなければならない。
 一方、憲法二一条一項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定しており、この表現の自由には、国民が自らその担い手として思想信条等を表現する自由と、その受け手として新聞・テレビ・書籍・雑誌等を通じて表現行為を享受することを含むといわれている。そして、表現の自由は、それ自体内在的な制約を含むとはいえ、民主主義の存立基盤であるから、憲法の定める基本的人権の体系中において優越的地位を占めるものではあるが、常に他の基本的人権に優越するものとまではいえない。そこで、表現行為によって個人のプライバシー権、肖像権及び名誉権が侵害された場合、表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては、表現の自由の憲法上の右の地位を考慮しながら慎重に判断されなければならない。
 このような観点からすれば、表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権等の侵害とはならないと解するのが相当である。
 そして、社会の正当な関心事であるか否かは、対象者の社会的地位や活動状況と対象となる事柄の内容によって決まるものというべきところ、犯罪容疑者については、犯罪の内容・性質にもよるが、犯罪行為との関連においてそのプライバシーは社会の正当な関心事となり得るものであり、また逆に、正当な関心事であっても、表現行為がその内容・方法において不当なものであれば、その表現行為は違法性を欠くとすることはできない。
2 次に、実名報道されない人格的利益ないし実名報道されない権利について検討するに、人格権には、社会生活を営む上において自己に不利益な事実に関し、みだりに実名を公開されない人格的利益も含まれているということができる。しかし、プライバシー権等の侵害、特に人に知られたくない私生活上の事情や情報の公開については、実名報道ないしそれに類する報道を前提としているから、人格権ないしプライバシーの侵害とは別に、みだりに実名を公開されない人格的利益が法的保護に値する利益として認められるのは、その報道の対象となる当該個人について、社会生活上特別保護されるべき事情がある場合に限られるのであって、そうでない限り、実名報道は違法性のない行為として認容されるというべきである。
 ところで、少年法六一条には、「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」旨規定されている。この規定は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的とする少年法の目的に沿って、将来性のある少年の名誉・プライバシーを保護し、将来の改善更生を阻害しないようにとの配慮に基づくものであるとともに、記事等の掲載を禁止することが再犯を予防する上からも効果的であるという見地から、公共の福祉や社会正義を守ろうとするものである。すなわち、少年法六一条は、少年の健全育成を図るという少年法の目的を達成するという公益目的と少年の社会復帰を容易にし、特別予防の実効性を確保するという刑事政策的配慮に根拠を置く規定であると解すべきである。
 したがって、少年法六一条が、新聞紙その他の出版物の発行者に対して実名報道等を禁じていることによって、その報道の対象となる当該少年については社会生活上特別保護されるべき事情がある場合に当たることになるといえるにしても、そもそも同条は、右のとおり公益目的や刑事政策的配慮に根拠を置く規定なのであるから、同条が少年時に罪を犯した少年に対し実名で報道されない権利を付与していると解することはできないし、仮に実名で報道されない権利を付与しているものと解する余地があるとしても、少年法がその違反者に対して何らの罰則も規定していないことにもかんがみると、表現の自由との関係において、同条が当然に優先するものと解することもできない。
 少年法六一条の違反者に対して何らの罰則も規定されていないことは、憲法における「言論出版等の自由」の規定への顧慮及び少年法の社会的機能に照らして、このような規定の遵守をできる限り社会の自主規制に委ねたものであり、新聞紙その他の出版物の発行者は、本条の趣旨を尊重し、良心と良識をもって自己抑制することが必要であるとともに、表現行為を享受する受け手の側にも、本条の趣旨に反する新聞紙その他の出版物ないしそれらの発行者に対しては厳しい批判が求められているものというべきである。
 なお、新聞協会の報道の準則として、「二〇歳未満の非行少年の氏名、写真などは、紙面に掲載すべきではない。ただし、(一)逃走中で、放火、殺人などの凶悪な累犯が明白に予想できる場合、(二)指名手配中の犯人捜査に協力する場合など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合については、氏名、写真の掲載を認める除外例とするように当局に要望し、かつ、これを新聞界の慣行として確立したい」旨の定めがあることは一般的に知られていることであり、新聞界がこの準則を守り、新聞紙上に少年の実名を記載しない報道をしてきた自主的姿勢は貴重ではあるが、少年法六一条の解釈として、右のような例外を認め得るか疑問が呈されているほか、逆に例外が右のような場合に限られるとも直ちにはいえない。
 したがって、前記のとおり、表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては、少年法六一条の存在を尊重しつつも、なお、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権等の侵害とはならないといわなければならない。
3 以上を前提として本件をみるに、本件事件は、早朝、通学、通園途中の女子高生及び幼稚園児と園児の母親が路上で殺傷されるという悪質重大な事件であり、被疑者として逮捕された被控訴人がシンナー吸引中で、被害者らとは何の因縁もない者であったこともあいまって、被害者及び犯行現場の近隣にとどまらず、社会一般に大きな不安と衝撃を与えた事件であり、社会一般の者にとっても、いかなる人物が右のような犯罪を犯し、またいかなる事情からこれを犯すに至ったのであるかについて強い関心があったものと考えられるから、本件記事は、社会的に正当な関心事であったと認められる。
4 そこで、本件記事の表現内容・方法が不当なものでないか否かについて検討する。
(一)一般に、犯罪の被疑者ないし被告人の姓名が市民の知る権利の対象であるか否かについては争いがあるが、犯罪の被疑者ないし被告人は未だ犯人とは決まっていないという推定無罪の原則と、犯人であったとしても家族などに影響があり、本人のスムーズな社会復帰の妨げになるという理由から、犯罪事実の報道においては、匿名であることが望ましいことは明らかであり、これは犯人が成人であるか少年であるかによって差異があるわけではない。
 他方、社会一般の意識としては、右報道における被疑者等の特定は、犯罪ニュースの基本的要素であって犯罪事実と並んで重要な関心事であると解されるから、犯罪事実の態様、程度及び被疑者ないし被告人の地位、特質、あるいは被害者側の心情等からみて、実名報道が許容されることはあり得ることであり、これを一義的に定めることはできないが、少なくとも、凶悪重大な事件において、現行犯逮捕されたような場合には、実名報道も正当として是認されるものといわなければならない。
(二)これを本件についてみるに、本件犯罪事実は、前記のとおり極めて凶悪重大な事犯であり、被控訴人が右犯罪事実について現行犯逮捕されていることと、被控訴人とは何の因縁もないにもかかわらず無残にも殺傷された被害者側の心情をも考慮すれば、実名報道をしたことが直ちに被控訴人に対する権利侵害とはならないといわなければならない。
(三)被控訴人は、実名等で少年が特定されるような報道をすることは、少年の将来の更生を阻害するものであって常に許されない旨主張する。
 確かに、事件関係者以外ほとんど知られていない犯罪事実について、実名及び写真等で少年と特定される報道がされると、いずれ地域に帰り地域の中で生活することになる少年にとっては、犯罪報道により「非行少年」又は「犯罪者」であるとのレッテルを貼られると、更生の妨げになることがあり得ることは被控訴人の主張のとおりである。
 しかしながら、本件犯罪事実は、前記のとおり、極めて凶悪重大であり、実名での報道はなかったものの、被控訴人の犯行事実を目撃した者も多く、しかも新聞やテレビ等のマスコミに連日報道されており、口コミで伝えられることも多いと思われるから、少年の居住する地域住民にとっては、本件記事が出る前から被控訴人の実名や本件犯罪事実を知悉しているとみるのが相当である。また、地域住民以外の一般市民は、本件記事によって被控訴人の実名を知ったと思われるが、仮にそうであるとしても、被控訴人を知らない一般市民が被控訴人の実名を永遠に記憶しているとも思えないし、仮に一部の市民が被控訴人の名前を記憶していたとしても、そのことによって直ちに被控訴人の更生が妨げられることになるとは考え難い。
 そもそも、本件のように重大な犯罪を犯した被控訴人が社会に復帰した場合に、いかなる生き方をしようとしているのか不明である上、その生き方が真に被控訴人の更生に繋がるものとしても、その場合に本件記事に実名が記載されたことが何ゆえにその更生の妨げになるかについては、被控訴人は何ら主張立証していない。
 したがって、本件記事に被控訴人の実名が記載されたことによって、被控訴人が社会復帰した後の更生の妨げになる可能性が抽象的にはあるとしても、そして更生の妨げになる抽象的な可能性をも排除することが少年法六一条の立法趣旨であるとしても、そのことをもって控訴人らに対する損害賠償請求の根拠とすることはできないといわなければならない。
(四)本件記事は、控訴人らの主張によれば、本件事件の「表層を切り裂き、被疑者とされている被控訴人の姿を、その生育歴、境遇、家族や周辺との関係の中から浮き彫りにしようとする」目的で行った「調査報道」であると解されるところ、控訴人BことC(以下「控訴人B」という。)の取材方法の適否は別として、被控訴人も本件記事の内容が虚偽であってそのため被控訴人の名誉が傷つけられた旨の主張をしていないから、本件記事の内容は事実に反するものではないと認められ、また、本件記事には被控訴人の親族に関する記載もあるが、それらの者に対するプライバシーの侵害があるか否かはさておくとして、こと被控訴人に関する限りは、その成育歴、境遇、家族や周辺との関係を自らの足で取材した材料に基づいて記されたものであって、表現方法において特に問題視しなければならないところも見受けられない。
 もっとも、控訴人らは、控訴人Bが本件事件について実名報道を行おうと決めたのは、「少年」の尊厳を認め、匿名性の中に埋没させずすべてを事実として書き、「少年」に自分のしたことを明確に認識させた上で、分からせるべきであると考えたためである旨主張し、控訴人Bは、乙第五号証の記載及び原審における本人尋問の結果中においても同様のことを述べている。確かに、本件事件の重大性ばかりでなく被控訴人の成育歴等に接した控訴人Bが、匿名性の中に埋没させずすべてを事実として書くことを思い立ったことは理解できなくはないが、本件記事において、実名によって被控訴人と特定する表現がなかったとしても、その記事内容の価値に変化が生じるものとは思われず、控訴人らが本件記事のあとがきで述べるように、本件事件の本質が隠されてしまうものとも考えられない。しかも、本件記事によって被控訴人に自分のしたことを認識させ分からせることができるかどうかは不明というべきであるし、そもそも控訴人らにそれをする権利があるとも解されないから、この点に関する控訴人らの主張は理由がない。
(五)そこで、さらに、本件記事が被控訴人の主張するプライバシー権、氏名肖像権、名誉権を侵害するものであるか否かについて検討する。
 プライバシーの権利は、みだりに私生活へ侵入されたり、他人に知られたくない私生活上の事実、情報を公開されたりしない権利であるが、前記のとおり、表現の自由とプライバシー権の侵害との調整においては、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権の侵害とはならないと解すべきところ、本件においては、前記のとおり、本件記事は、表現行為が社会の正当な関心事であり、その表現内容・方法も不当なものとはいえないから、被控訴人に対する権利侵害とはならない。
 また、被控訴人の主張する氏名肖像権は、いわゆる肖像権と同義と思われるが、肖像権は、何人もみだりにその容貌・姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真を公表されない権利であり、表現の自由と肖像権の侵害との調整においては、プライバシー侵害と同様に、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権の侵害とはならないと解すべきである。これを本件についてみるに、前記のとおり、本件記事は、表現行為が社会の正当な関心事であるが、本件犯罪事実の被疑者が一九歳とはいえ少年であり、本件記事において、顔写真によって被控訴人と特定し得る表現がなかったとしても、その記事内容の価値に変化が生じるものとは解されず、しかも用いられた写真が被控訴人の中学卒業時のアルバム写真であって、本件犯行時のかなり前のものであることからすると、本件記事に当該写真を掲載しなければならなかった必要性については疑問を感じざるを得ないところであるが、前記のとおり、犯罪報道における被疑者等の特定は、犯罪ニュースの基本的要素であって犯罪事実と並んで重要な関心事であると解されることと、本件事件の重大性にかんがみるならば、当該写真を掲載したことをもって、その表現内容・方法が不当なものであったとまではいえず、それは被控訴人に対する権利侵害とはならないといわなければならない。
 さらに、名誉権は、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉であるが、表現の自由との調整において、一般的には、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為に違法性がないとされているが、公共の利害に関する事実とは社会の正当な関心事であり、公共の利害に関する事実に係る報道は公益を図る目的でされるのが通常であるから、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容が真実であれば、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権の侵害とはならないと解すべきである。これを本件についてみるに、前記のとおり、本件記事は、社会の正当な関心事であり、本件記事の内容は真実であると認められるから、右表現行為に違法性はない。
5 本件記事は、少年法六一条に明らかに違反し、社会的に相当ではなく、控訴人会社が本件記事を同社の発行する「新潮45」に掲載したことについて、法務省が、人権侵害に当たることは明白であるとして、発行元の控訴人会社に対し、再発防止のために適切な処置を採るとともに関係者への謝罪などの措置を講じるように勧告しているところである。
 しかしながら、以上の検討によれば、少年法六一条に違反した記事が報道されたとしても、そのことから直ちにその報道の対象となった当該少年個人について損害賠償請求権が認められるものではなく、表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整において、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権等の侵害とはならないというべきであるから、本件記事は、被控訴人の主張するプライバシー権等の侵害には当たらないといわなければならない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の主張は理由がない。
三 よって、被控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきところ、これと結論を異にする原判決は不当であるのでこれを取り消して被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所民事第9部
 裁判長裁判官 根本眞
 裁判官 鎌田義勝
 裁判官 島田清次郎
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