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【事件名】女優イラスト模倣事件(2)
【年月日】平成12年2月23日
 東京高裁 平成11年(ネ)第3886号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第29546号事件)
 (平成12年1月19日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原審原告) 有限会社田代卓事務所
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 大川宏
同 野島正
被控訴人(原審被告) アイク株式会社
右代表者代表取締役 B
右訴訟代理人弁護士 石黒竹男
同 三木茂
同 井口加奈子
同復代理人弁護士 吉田正夫


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙目録記載一、二のイラストレーションを使用してはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成一一年一月八日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文と同旨
第二 当事者の主張
 当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決事実摘示中の「第二 事案の概要」並びに「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
1 本件キャラクターの著作物性について
 控訴人の主張する本件キャラクターは、原判決別紙著作物目録(以下「本件著作物目録」という。)に示された男の子と女の子の絵柄(原告イラスト)のうち、それぞれ顔の部分を指しているのであり、これが具体的表現であることは明らかである。その創作性のある独自の表現の特徴は、原審において主張した(原判決五頁一〜一一行)とおり、
@ 円若しくは楕円形で描かれている「顔の輪郭」の表現
A 正円若しくは正円に近い楕円形で輪郭が描かれ、黒目(瞳)部分が目全体のうち過半を占め、黒目部分の位置を右にするか左にするかで視線の向きを一つの方向に定め、かつ、顔全体のなかで大きなスペースを占める「目」の表現
B 円弧の下部の一部分と直線で形作られ、半円よりやや小さい「口」の表現
C 円弧の上部の一部分と直線で形作られている「眉」の表現
D 「鼻」を描かない表現
E 前記の「顔の輪郭」「目」「口」「眉」が全体的にほぼ一定の面積的バランスを保って配置されている表現であり、これについて原判決が、「当該人物イラストから離れた抽象的概念ないし画風」と認定したことは誤りである。
 すなわち、人物の顔を視覚的に表現する場合、実物や対象を写実的に表現する場合と、実物や対象なしに表現する場合とがあり、前者であれば、実物や対象を見て絵筆やペン等の道具を用い対象をそのまま表現することが可能である。しかし、写実的でない後者の場合、顔を視覚化して表現するには、顔の輪郭や一つ一つの造作を設計・デザインすることが必要となり、この作業の中に作者の思想・感情が表出される。本件キャラクターの制作者であるAの作意は、そのデザインに当たって、円や楕円や円弧の一部と直線などの抽象的形態を使って、顔の輪郭、眉・目・口・鼻(実際は描いていない。)等の造作を描き、これらをバランスよく組み合わせ、明るい色彩を用い平滑な色面のみを配することによって、元気で明るく健康的な人物の顔を表現することにある。したがって、本件キャラクターが、創作性・独自性のある表現であり、著作物性があることは明らかである。
 また、「画風」とは、絵の作風や作品の傾向のことをいい、具体的には、「絵の具のつきや伸び具合、つやなど作品そのものの肌の感じや材質感」(マチエール)、「絵画・彫刻の筆遣いやのみの使い方」(タッチ)、「風合い、素材感、材質感」(テクスチャー)のことをいい、描かれた対象が異なっても同じように感じ取られる作品の傾向のことと理解されている。これに対し、本件キャラクターは、人物の顔という一つの対象に集中している点で、「画風」とは異なるのである。
2 複製権侵害について
 連載漫画ポパイについての最高裁判決(平成九年七月一七日第一小法廷判決民集五一巻六号二七一四頁、以下「別件判決」という。)においても、そのキャラクターについての著作物性を否定しながら、複製に該当するか否かの判断は、漫画の特定のこまに描かれた具体的表現と離れて行われている。それと同様に、被告イラストについても、本件キャラクターの複製に当たるかどうかの判断をすべきであるにもかかわらず、原判決はこれを行っておらず審理不尽である。
 また、控訴人は、平成一〇年一二月、新潟県の専門学校の入校案内パンフレットのイメージキャラクターに関するコンペに参加したところ、不採用となったが、その理由の一つに「一般的にいわれるところの『サラ金』業者のイメージキャラクター的な扱いとして広告に使用されたことがある」ことが挙げられている(甲第五〇号証)。このことは、被告イラストが控訴人の作品を描いたものであることを知り得る事実を示すものである。
二 被控訴人
1 本件キャラクターの著作物性について
 控訴人は、原審において、本件著作物を本件キャラクターと主張していたにもかかわらず、控訴審では本件著作物目録に示された原告イラストを著作物であるかのようにすりかえて主張しており不当である。そして、本件キャラクター自体が抽象的概念であり著作物とはいえないことは、原判決の認定したとおりである。このことは、本件キャラクターが、控訴人主張のように画風とは異なるか否かとは関係のないことである。
2 複製権侵害について
 控訴人主張の別件判決においては、著作権者が、第一次的に漫画におけるキャラクターの著作物性を主張し、予備的に各回ごとに完結する漫画の著作物性を主張したところ、キャラクターについては、具体的表現でなく著作物に該当しないと判断し、一話完結形式の連載漫画については、著作権侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得ると述べ、どの回の漫画について著作権侵害が成立するか検討している。
 これに対し本件では、控訴人が、原告イラスト自体の著作権を主張していない以上、前記別件判決の判断に係る事案とは全く異なるものである。そして、本件キャラクターが著作物として保護されない以上、更に複製権侵害の問題に立ち入って判断する必要のないことは明らかであり、原審に審理不尽はない。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、当審における主張について、項を改めて説示するほか、原判決の「理由」欄と同じであるから、これを引用する。
二 当審における主張について
1 本件キャラクターの著作物性について
 控訴人は、本件キャラクターが、本件著作物目録に示された男の子と女の子の絵柄(原告イラスト)のうち、それぞれ顔の部分を指しており、その創作性のある独自の表現の特徴である前記@ないしEは、具体的表現であることが明らかである旨主張する。
 しかしながら、Aの制作に係る原告イラスト自体が著作物であることは格別、そこに表されたとされる表現上の特徴@ないしEにより構成される本件キャラクターについては、原告イラストを含めてAの制作した各人物イラストから抽出したとされる一般的・抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、その特徴的表現の範囲内においても、各人が様々な人物の顔を描くことが可能であることは明らかであり、これらが全て本件キャラクターとして控訴人の著作物に属するものと認めることができないことはいうまでもないから、原判決が、本件キャラクターについて、「当該人物イラストから離れた抽象的概念ないし画風というべきものであって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」(原判決九頁九〜一一行)と判断したことに誤りはなく、控訴人の主張を採用することはできない。
 また、控訴人は、「画風」が、一般的に絵の作風や作品の傾向のことをいうのに対し、本件キャラクターは、人物の顔という一つの対象に集中しているから、原判決のいう「画風」とは異なる旨主張する。
 しかし、原判決は、前示のとおり、本件キャラクターとされる特徴@ないしEが具体的表現から離れた抽象的概念である旨を説示するため「画風」との語を用いたものであり、それが人物の顔に係わることを否定するものではないから、控訴人の主張は原判決を正当に理解しないものであって、これを採用することはできない。
2 複製権侵害について
 控訴人は、別件判決においても、そのキャラクターについての著作物性を否定しながら、複製に該当するか否かの判断は、漫画の特定のこまに描かれた具体的表現と離れて行われており、それと同様に、被告イラストについても、本件キャラクターの複製に当たるかどうかの判断をすべきであると主張する。
 しかしながら、控訴人主張の別件判決においては、一話完結形式の連載漫画における登場人物のキャラクターとしての著作物性が否定されるとともに、著作権侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得ると判示されたものであって、本件キャラクターに基づく著作権侵害を主張するのみで原告イラスト自体の著作権を主張していない本件訴訟とは、事案の内容を異にするものであるから、控訴人の主張は失当であり、これを採用する余地はない。
 また、控訴人は、専門学校の入校案内パンフレットのイメージキャラクターに関するコンペにおいて、控訴人が不採用となった理由の一つに、控訴人の作品が被控訴人のイメージキャラクター的な扱いとして広告に使用されたことが挙げられており、このことは被告イラストが控訴人の作品を描いたものであることを知り得る事実を示すものである旨主張する。
 しかし、当該コンペの担当であった広告代理店から控訴人に宛てた書面(甲第五〇号証の二)によっても、被告イラストをAが制作したものと第三者が判断したことが明確に認められるものではない上、仮に、被告イラストが控訴人の作品を描いたものであると認識される場合があるとしても、そのことと本件キャラクター自体が抽象的概念であって具体的表現ではないこととは別異の問題であるから、控訴人のこの点に関する主張も採用することはできない。
三 以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第一三民事部
 裁判長裁判官 田中康久
 裁判官 石原直樹
 裁判官 清水節
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日本ユニ著作権センター
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