判例全文 | ||
【事件名】「ライバル日本史」放送セット事件(2) 【年月日】平成12年1月18日 東京高裁 平成11年(ネ)第4444号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第27729号) (平成11年11月18日 口頭弁論終結) 判決 控訴人 A 右訴訟代理人弁護士 井上庸一 同 川口和子 被控訴人 日本放送協会 右代表者会長 B 右訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 富岡英次 同 吉田和彦 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一 当事者の求めた裁判 一 控訴人 原判決を取り消す。 被控訴人は、控訴人に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。 二 被控訴人 主文と同旨 第二 事案の概要 事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。 一 当審における控訴人の主張の要点 1 控訴人作品と被控訴人セットとの類似性について (一) 控訴人作品の表現形式の本質的特徴は、波紋を起こして揺らぐ透過した光、つまりそれ自体波立ち揺らぐ光が、部屋に配置されたオブジェやその背景に投影することにある。具体的には、波紋透過照明技法を用いていること、波紋ある水を透過させるべき光の源が複数であること、波紋ある水をたたえた水槽もまた複数であること、光源が水槽の下に置かれていること、波紋を透過した光が直接紗幕や壁面など空間の境界及びオブジェに投影されるだけでなく、光がオブジェに当たって屈折した後更に紗幕、部屋の壁面及び二方向の壁面に掲げられた平面作品に投影され、オブジェの影が紗幕、壁面及び平面作品にできること、オブジェが縦長であること、以上のようにして造形された空間全体、つまり空間造形が作品となっていること等である。 言い換えれば、控訴人作品の属性のうち、例えば部屋の大きさや形の細部、オブジェの材質、紗幕の配置の仕方、平面作品の図案等は、控訴人作品の本質的特徴ではない。 控訴人作品の右本質的特徴は、構成・素材を取り上げた単なるアイデアや、構成・素材の単なる組み合わせから生ずるイメージというような抽象的なもの、あるいは単なる手法に止まらず、控訴人作品の具体的な構成と結びついた表現形態から直接感得しうるものである。 (二) 控訴人作品の表現形式の右本質的特徴は、被控訴人セットにおいても失われておらず、被控訴人セットの中に利用されている状態においても直接感得し得るものである。 したがって、被控訴人セットは控訴人作品に類似する。 被控訴人セットを制作した被控訴人の行為は、被控訴人による控訴人作品への修正増減に創作性が認められるか否かに関わらず、控訴人が保有する控訴人作品の改作利用権及び著作者人格権中の同一性保持権の侵害を構成するものである。 2 取材契約違反(当審で追加された予備的請求原因)について 控訴人は、平成六年七月ころ、被控訴人のディレクターであるCからの取材申込みに対して取材に応じる旨の意思表示をすることによって、被控訴人との間で、右C担当の「おはよう日本」以外の番組で勝手に控訴人作品を紹介したり、その取材結果を剽窃したりしないことを含む取材契約を締結した。 被控訴人は、右取材契約に違反して、その取材内容を剽窃し、被控訴人セットに応用して用いた。 控訴人は、被控訴人の右行為により、被控訴人セットの制作報酬に相当する金額の損害を被った。右損害額は、二〇〇〇万円を下らない。 二 当審における被控訴人の主張の要点 1 控訴人作品と被控訴人セットとの類似性について (一) 控訴人が控訴人作品の本質的特徴と主張するものは、抽象的な手法についての説明にすぎず、具体的に表現された作品の特徴とはいい得ない。 (二) 控訴人の主張する右「本質的特徴」は、具体的な表現の特徴ではなく、ある手法の特徴にすぎない以上、右「本質的特徴」が被控訴人セットから感得し得たとしても、著作権又は著作者人格権の侵害にはならない。 2 取材契約違反について 被控訴人は、古くから、控訴人が右「本質的特徴」と主張する手法を用いて番組を制作してきたものであるから、これを使用しないことを約束するはずがない。 Cは、被控訴人の番組「おはよう日本」のディレクターであったにすぎないから、控訴人が主張するような不作為義務に関し、契約を締結する代理権を有していたはずもなく、控訴人がこれを知らないはずもない。 控訴人が主張する不作為義務の内容は明確ではないが、結局、「おはよう日本」で紹介された控訴人の著作物に関する著作権を侵害しないということに尽きるものと解されるから、著作権侵害が否定されれば、取材契約違反も成立しないものである。 第三 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。 (当審における控訴人の主張に対する判断) 一 控訴人作品と被控訴人セットとの類似性について 控訴人は、控訴人作品の属性のうち、例えば部屋の大きさや形の細部、オブジェの材質、紗幕の配置の仕方、平面作品の図案等は、控訴人作品の本質的特徴ではないと主張する。しかし、控訴人作品の右属性こそは、控訴人作品の具体的表現形態の特徴であって、これが本質的特徴ではないということはできない。したがって、控訴人作品と被控訴人作品とは、これらの特徴について共通点がない以上、波紋様の光が物体及び壁面等に当てられているという抽象的な共通性を有するとしても、両者を類似するということはできない。 控訴人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するものは、結局のところ具体的表現をする際に使用する手法ないし技法にすぎないものというべきである。そして、右のような手法ないし技法は、それ自体では、思想又は感情を表現したものということはできないから、著作権によって保護される対象とはならない。 そうである以上、控訴人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するものが、被控訴人セットに存在するとしても、被控訴人セットは、控訴人作品の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない。 二 取材契約違反について 控訴人は、被控訴人との間で、右C担当の「おはよう日本」以外の番組で勝手に控訴人作品を紹介したり、その取材結果を剽窃したりしないことを含む取材契約を締結したと主張する。 右「取材結果を剽窃したりしない」との意味は、明確ではないけれども、これが、控訴人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するところの手法ないし技法を使用しないという趣旨であれば、右の趣旨を含む契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。また、Cが、被控訴人から右の趣旨を含む契約を締結する代理権を与えられていたことを認めるに足りる証拠もない。 また、右「取材結果を剽窃したりしない」との意味が、控訴人作品の著作権又は著作者人格権を侵害しないという趣旨であれば、被控訴人セットは控訴人作品の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない以上、被控訴人に契約違反はないものといわなければならない。 なお、控訴人の主張が、被控訴人が「おはよう日本」以外の番組で控訴人作品を紹介したとの主張を包含するものであるとしても、本件全証拠によっても、被控訴人が「おはよう日本」以外の番組で控訴人作品を紹介したことを認めることはできない。 三 以上のとおりであるから、控訴人の主張は、採用することができない。 第四 結論 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第六民事部 裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充 |
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