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【事件名】宝石取引情報ソフト職務著作事件
【年月日】平成11年2月26日
 東京地裁 平成10年(ワ)第22135号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成11年1月29日)

判決
東京都(以下住所略)
 原告 シュワルツ・ジャパン株式会社
右代表者代表取締役 アビシャイ・オルナー・ゴールドベルグ
右訴訟代理人弁護士 若林安行
住居所不明
最後の住所 東京都(以下住所略)
 被告 インターガイドことY

主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを、原告の所有する外部記憶装置に転送して引き渡せ。
二 被告は、別紙物件目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを複製し又はその複製物を頒布若しくは業務上使用してはならない。
三 被告は、原告に対し、金1027万1497円及びこれに対する平成9年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由
一 原告は、次のとおりの判決を求めた。
1 主文第一項同旨。
2 被告は、別紙物件目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを複製し又はその複製物を頒布し、業務上使用し若しくは第三者に使用許諾してはならない。
3 主文第三項同旨。
二 原告は、次のとおり請求原因を述べた。
1 原告は、イスラエル国法人エイ・シュワルツ・アンド・サンズ社の子会社であり、ダイヤモンド等の輸出入、販売及びこれらに付帯関連する一切の業務を目的とする会社である。
 被告は、ハンガリー国籍を有し、日本に居住するコンピューターエンジニアであり、平成8年2月、原告に雇用されたが、平成9年1月ころ、原告を退職した。
2 原告は、ウインドウズ95のオペレーティングシステムにおいて作動し、ダイヤモンド等の宝石類取引業務に特有のブローカー在庫情報、グレーダー在庫情報、委託所有顧客の在庫情報、採算値段の自動計算等の情報処理機能を有する専用ソフトウエア(以下、このようなソフトウエアを「専用ソフトウエア」という。)を開発、作成し、これを、日本を始めとする世界中の宝石業者に販売することを企画した。
 原告は、平成8年2月、専用ソフトウエアを開発、作成するためのコンピューターエンジニアとして被告を雇用し、被告は、ビジュアルベーシック・ソフトウエアを使用して、その職務上、専用ソフトウエアを開発、作成した。
 原告は、専用ソフトウエアの開発、作成のために、被告にノートパソコンを貸与したほか、被告をイスラエル国の親会社に派遣して、ダイヤモンドの取引業務に関する情報を提供し、専用ソフトウエア開発のための技術指導を受けさせるなどした。
 専用ソフトウエアは、平成8年10月、一応完成し、「ウィンダイヤ」という仮称が付され、取りあえず原告の社内のコンピューターにインストールされた(以下、完成された右ソフトウエアを「本件ソフトウエア」という。)。
 原告と被告との間には、本件ソフトウエアの著作者を被告とする旨の別段の定めはなかった。
 したがって、本件ソフトウエアの著作者は、原告である。
3 原告が本件ソフトウエアの開発、作成のために投下した資金は、合計893万1737円であった。
4 被告は、本件ソフトウエアが完成した直後、それを自分のものであると主張し始め、本件ソフトウエアを原告指定の場所において保管するように求める原告の指示に従わず、原告の社内のコンピューターにインストールされた本件ソフトウエアを作動不能にし、本件ソフトウエア及びそのソースコードを格納した外部記憶装置を占有している。原告は、本件ソフトウエア及びそのソースコードを引き渡すように求めたが、被告は、これを拒否した。
 原告は、このような被告の行為により、本件ソフトウエアを利用することが全くできなくなった。
5 原告は、東京地方裁判所に仮処分を申し立て、平成9年2月24日、本件ソフトウエア及びそのソースコードの複製を禁じ、本件ソフトウエア及びそのソースコードが格納された外部記憶装置の執行官保管を命ずる仮処分決定を得、これを執行したが、被告がソフトウエアの名称やパスワードを変更していたため、執行官保管部分の執行は不能とされた。
 被告は、その後、本件ソフトウエアの名称を「プレシャスジェム97(Precious Gem97)」として、その複製物を宝石業者に販売し、「インターガイド」名義で広告も出している。
6 原告は、これらの被告の行為により、本件ソフトウエアヘの投下資金相当額893万1737円の損害を被った。また、原告は、本訴の提起を原告訴訟代理人に委任し、その弁護士費用として右金額の1割5分に当たる133万9760円の支払を約したから、右弁護士費用相当額も原告の損害である。したがって、原告の損害の合計額は、893万1737円と133万9760円の合計の1027万1497円である。
7 よって、原告は、被告に対し、著作権又は雇用契約に基づき、別紙物件目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを原告の所有する外部記憶装置に転送して引き渡すことを求め、著作権に基づき、同目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードの複製、その複製物の頒布、業務上の使用又は第三者への使用許諾の差止めを求め、雇用契約に基づく義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき、金1027万1497円及びこれに対する履行期又は不法行為の後である平成9年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告は、公示送達による適式の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
 甲第1号証の1、2、第2号証、第3号証、第4号証の1ないし3、第5号証、第6号証、第7号証の1、2及び弁論の全趣旨によると、右二1ないし5の事実が認められる。
四1 右二1、2の事実によると、本件ソフトウエアの著作権は原告に属すること、本件ソフトウエアは別紙物件目録記載1のとおり特定され、本件ソフトウエアのソースコードは、同目録記載2のとおりであることが認められる。
 右二1ないし5の事実によると、被告は、同目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを複製し又はその複製物を頒布し若しくは使用するおそれがあると認められる。ところで、被告による同目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードの複製は、著作権法21条により、その複製物の頒布は、同法113条1項2号により、その複製物の業務上の使用は、同法113条2項により、いずれも原告の本件ソフトウエアに対する著作権を侵害するものと認められる。しかし、同目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードの複製物の使用を第三者に許諾することは、原告の著作権を侵害する行為とは認められないし、第三者への使用許諾を差し止めることは、著作権の侵害の停止又は予防に必要な措置であるとも認められない。したがって、原告は、被告に対し、同法112条1項に基づき、同目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードの複製又はその複製物の頒布若しくは業務上の使用の差止めを求めることはできるが、第三者への使用許諾の差止めを求めることはできない。
2 右二1ないし5の事実によると、被告は、原告に雇用されて本件ソフトウエアの開発、作成に従事していたものであるから、雇用契約に基づき、本件ソフトウエアが完成したときに、本件ソフトウエア及びそのソースコードを原告に引き渡し、原告が使用することができるようにする義務があったというべきである。しかし、被告は、原告の社内のコンピューターにインストールされた本件ソフトウエアを作動不能にし、本件ソフトウエア及びそのソースコードを格納した外部記憶装置を占有して、本件ソフトウエア及びそのソースコードの原告への引渡しを拒否し、原告は、このような被告の行為により、本件ソフトウエアを利用することが全くできなくなったのであるから、このような被告の行為は、雇用契約に基づく右義務に違反し、債務不履行を構成するというべきである。
 そして、被告の行為により、原告は、本件ソフトウエアヘの投下資金相当額893万1737円及び本訴の提起に要した弁護士費用相当額の損害を被ったものと認められるところ、原告が請求している弁護士費用相当額133万9760円は、全額が被告の右行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
 したがって、原告は、被告に対し、雇用契約に基づき、別紙物件目録記載1のソフトウエア及び同目録記載2のソースコードを、原告の所有する外部記憶装置に転送して引き渡すことを求め、債務不履行に基づく損害賠償として1027万1497円及びこれに対する履行期の後である平成9年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
五 以上により、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 中平健


物件目録
一 「ウィンダイヤ」、「プレシャスジェム97(Precious Gem 97)又は他の名称を付され、ビジュアルベーシック・ソフトウエアを使用して開発され、ウインドウズ95のオペレーティングシステムにおいて作動し、ダイヤモンド等の宝石類取引業務に特有のブローカー在庫情報、グレーダー在庫情報、委託所有顧客の在庫情報、採算値段の自動計算等の情報処理機能を有する専用ソフトウエア

二 右ソフトウエアのソースコード
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日本ユニ著作権センター
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