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【事件名】ゴルフクラブ販売差し止め事件
【年月日】平成10年12月25日
 東京地裁 平成6年(ワ)第5563号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成10年9月14日)

判決
原告 キャラウェイ ゴルフカンパニー
右代表者社長 ドナルド・エイチ・ダイ
右訴訟代理人弁護士 中川康生
同 佐藤泉
被告 株式会社ミニボックス
右代表者代表取締役 松本秀樹
右訴訟代理人弁護士 新井博
同 今井和男
同 古賀政治
同 横山雅文
右訴訟復代理人井護士 柴田征範
同 市川尚
同 大越徹


主文
一 被告は、別紙目録(一)、(二)、(三)及び(四)記載のゴルフクラブヘッド及び別紙目録(五)、(六)、(七)及び(八)記載のゴルフクラブを販売、頒布及び販売広告してはならない。
二 被告は、原告に対し、金四一八一万五七四一円及び内金一六四二万三〇〇七円に対する平成六年四月二六日から、内金一一九二万九二八一円に対する同年四月三〇日から、内金一〇一七万一八六六円に対する平成七年四月三〇日から、内金二七四万二八六八円に対する平成八年四月三〇日から、内金五四万八七一九円に対する同年八月二九日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決は、第一項、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
一 主文第一項のとおり
二 被告は、原告に対し、金八〇〇〇万円及び内金四〇〇〇万円に対する平成四月二六日から、内金四〇〇〇万円に対する平成八年八月二九日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告が、被告によるゴルフプヘッド等の販売が原告の有する商標権の侵害に当たる旨主張して、被告に対し、商標権に基づき右ゴルフクラブヘッド等販売等の差止めを、また不法行為損害賠償をそれぞれ求めた事案である。
一 争いのない事実等(特に断らない限り、当事者間に争いがない。)
l 当事者
 原告は、アメリカ合衆国法人であり、後記2の登録商標を使用して、ゴルフクラブ及び関連商品をアメリカ合衆国にて製造し、全世界で販売している。
 被告は、外国車及びスポーツ用品の輸入販売を主たる業務とする法人であり、その業務の一つとして、店頭及び通信販売により有名メーカーのゴルフクラブ及びクラブヘッドを販売している。
2 原告の商標権
 原告は、次の各商標権(以下、総称して「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有する。
(一)登録番号第二〇一一五七三号
 登録日 昭和六三年一月二六日
 存続期間の更新登録日 平成九年九月二日
 商品の区分 旧二四類
 指定商品 運動具、その他旧第二四類に属する商品
 登録商標 別紙登録商標目録(1)記載のとおり(更新登録の点は、弁論の全趣旨により認める。)
(二)登録番号 第二二七九八三八号
 登録日 平成二年一一月三〇日
 商品の区分 旧二四類
 指定商品 ゴルフクラブ、その他旧第二四類に属する商品
 登録商標 別紙登録商標目録(2)記載のとおり
(三)登録番号 第二四九四五三一号
 登録日 平成五年一月二九日
 商品の区分 旧二四類
 指定商品 運動具
 登録商標 別紙登録商標目録(3)記載のとおり
3 被告の行為
(一)被告は、平成四年五月ころから現在まで、本件登録商標の一つないしすべてが付された、別紙目録(一)ないし(四)記載のゴルフクラブヘッド(以下「被告販売クラブヘッド」という。)を販売している。
(二)被告は、平成四年五月ころから現在まで、本件登録商標の一つないしすべてが付されたゴルフクラブヘッドに第三者の製造するシャフトを結合した、別紙目録(五)ないし(八)記載のゴルフクラブ(以下「被告製造ゴルフクラブ」という。)を製造し、販売している。
(三)被告は、平成四年五月ころから現在まで、本件登録商標の一つないしすべてが付された、輸入ゴルフクラブ(以下「被告輸入ゴルフクラブ」という。)を販売している。
(四)被告は、別紙目録(一)ないし(八)のとおりのゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブ(以下「被告ゴルフクラブ等」という場合がある。)について宣伝広告をしている。
4 被告の販売個数等
(一)被告ゴルフクラブ等について、平成四年五月一日から平成八年八月二八日までの販売個数、販売金額は、別表A、B、C、D、Eのとおりである。
(二)被告ゴルフクラブ等について、平成四年五月一日から平成八年八月二八日までの仕入(輸入)個数は、別表Fのとおりである。
(三)被告ゴルフクラブについて、平成四年五月一日から平成八年八月二八日までの仕入先別仕入(輸入)個数、販売個数、販売金額は、以下のとおりである(別表G参照)。
 このうち、ウォールターケラー、ゴルフ・エクスチェンジ、バード・ヒルズ、ワシントン・ゴルフ、フェアウェイ・ゴルフ・アンド・テニスは、原告の正規の販売代理店なので(弁論の全趣旨により認める。)、これらから輸入したゴルフクラブ一四六一本については、本件商標権を侵害していない商品である。
 なお、右五社以外の仕入先からの輸入品が本件商標権を侵害しているか否かについては争いがある。
(1)被告販売クラブヘッド
 クラブヘッドのみの販売個数(被告が米国で販売したと主張する九五四個を除外する。)は二〇二個で、その販売総額は五四〇万四三〇二円である。
(2)被告製造ゴルフクラブ
 販売個数は二三八八本で、その販売総額は一億〇〇〇一万六五一七円である。被告製造ゴルフクラブのクラブヘッドは、@被告が輸入したクラブヘッド、A正規代理店から購入したゴルフクラブのクラブヘッド、B正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドのいずれからも使用された可能性があるが、輸入クラブヘッドをまず使用したと考えるのが合理的であるので、輸入クラブヘッドはすべて利用されたものとして算定する。また、正規代理店から購入したゴルフクラブのクラブヘッドと正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドとは、仕入個数割合に応じて使用されたと考えるのが合理的であり、そのように算定する。
 その結果、被告製造ゴルフクラブ二三八八本において使用されたクラブヘッドのうち、四七九個は輸入クラブヘッドを、残り一九〇九個は仕入個数割合に従って按分して、一二八一個は正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドを、六二八個は正規代理店から購入したゴルフクラブのクラブヘッドを使用したものと算定する。
(3)被告輸入ゴルフクラブ
 本件登録商標の付された輸入ゴルフクラブの販売個数二四七四本については、被告の利益のために正規代理店から購入した輸入ゴルフクラブ残八三三本(一四六一本−六二八本)はすべて販売されたものとして、正規代理店以外から購入した輸入ゴルフクラブ残一七〇〇本(二九八一本−一二八一本)のうち一六四一本(二四七四本−八三三本)を被告の販売した正規代理店以外から購入したゴルフクラブ個数として算定する。正規代理店以外から購入したゴルフクラブの販売個数とキャラウェイ・シャフト・ゴルフクラブ総売上個数(二四七四本)との単純割合に従って算定すると、被告の販売した正規代理店以外から購入したゴルフクラブの販売総額は、五五五七万三七六九円となる。
二 争点
1 被告ゴルフクラブ等の販売は、真正商品を販売したものとして、違法性がないといえるか否か。
(被告の主張)
(一)被告販売クラブヘッドについて
 被告販売クラブヘッドは、真正な原告製クラブヘッドである。
(二)被告製造ゴルフクラブについて
 被告製造ゴルフクラブについては、原告製ゴルフクラブに対する信頼や商標の出所表示機能を害することはないので、その販売態様は違法とならない。
 ゴルフクラブはその目的によりシャフトを付け替えて使用することが多く、殊に上級者やプロ選手の間では日常的である。原告自身、プロ選手等に対して、その注文に応じて他社のシャフトと付け替えて販売しているのであって、こうした販売形式はゴルフ業界では一般的である。どのようなシャフトとヘッドの組合せが妥当かは、顧客の体型、技術、趣味等により全く異なるため、個人個人が付け替えをしている。被告は、顧客の注文に応じてシャフトを付け替えて販売する方法も採っているが、その場合には、原告のゴルフクラブに他社のシャフトを付け替えることを明記しているので、原告の商品に対する信頼や商標の出所表示機能を害することはない。すなわち、例えば広告に「新日本テック・ビッグバーサ」、「ターボテック・ビッグバーサ」等の表示をしているが、前部がシャフトの会社名、後部がへッドの名称(本件登録商標)であることを意味している。
 したがって、被告が被告製造ゴルフクラブを販売することは、原告製ゴルフクラブに対する信頼や商標の出所表示機能を害することはないので、商標権侵害に当たらない。
(三)被告輸入ゴルフクラブについて
 被告が、原告により販売代理店として指定された者以外の業者から仕入れた商品も、真正な原告製ゴルフクラブである。
(原告の反論)
(一)被告販売クラブヘッドについて
 被告販売クラブヘッドは、以下のとおり、真正な原告製クラブヘッドとはいえない。
 原告は、平成四年当時、ゴルフクラブを構成するヘッド、シャフト、グリップを、原告の設計仕様に基づき、それぞれ別々の下請業者に製造委託し、納品させ、これらの業者から納品を受けた構成部品を原告のカールスパッド工場で更に加工を加えた上、ゴルフクラブに組立完成し、このような完成品ゴルフクラブのみを販売、輸出していたものであり、構成部品単体で販売したことはない。この製造工程及び完成品のみの販売方式は、現在も同じである。
 被告がマックス・トップ・インク社から輸入した被告販売クラブヘッドは、原告の下請工場から盗み出された未完成の無許可クラブヘッドであるから、右クラブヘッドを真正商品ということはできない。
 また、被告販売クラブヘッドが、下請工場から盗み出されたものでないとしても、原告はそもそもクラブヘッド単体での販売を行ったことはないので、真正商品とはいえない。
(二)被告製造ゴルフクラブについて
 被告製造ゴルフクラブは、以下のとおり、真正な原告製ゴルフクラブとはいえない。
 被告製造ゴルフクラブを製造するに当たり用いたクラブヘッドは、@被告が輸入したクラブヘッド、A正規代理店から購入したゴルフクラブのクラブヘッド、B正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドである可能性があるが、そのいずれを用いた場合であっても、被告製造ゴルフクラブは、真正商品とはいえない。
 @については、前記のとおり、原告は、ゴルフクラブを構成するへッド、シャフト、グリップにつき、原告の設計仕様に基づき、それぞれ別々の下請業者に製造委託し、納品させ、これらの業者から納品を受けた構成部品を原告のカールスパッド工場で更に加工を加えた上、ゴルフクラブに組立完成し、このような完成品ゴルフクラブのみを販売、輸出していたものであり、構成部品単体で販売したことはない。したがって、被告が輸人したクラブヘッドが、真正商品に当たることはあり得ない。
 A、Bの場合について、真正商品に当たらない理由は、以下のとおりである。
 被告製造ゴルフクラブは、原告製ゴルフクラブが遵守しているへッド重量についてのスウィング・ウェイト基準を満たしていない等、原告製ゴルフクラブと異なり、品質上問題がある。
 被告製造ゴルフクラブは、原告製ゴルフクラブと比較すると、その形状・デザイン、材質、価格において、大きく相違する。すなわち、@原告製ゴルフクラブにはネックセルが取り付けられずに、へッドとシャフトが直接結合され、へッドとシャフトの結合部分(ホーゼル又はネック部分)がないのに対し、被告製造ゴルフクラブではへッドとシャフトの結合部分にネックセルが装着されていること、A原告製ゴルフクラブのシャフトは主としてスチールであるのに対し、被告製造ゴルフクラブのシャフトはすべてグラファイトであること、B原告製ゴルフクラブであるスチールシャフトゴルフクラブの価格帯に比べ、被告製造ゴルフクラブははるかに高額の価格帯で販売されていること等の点で相違がある。
 被告による被告製造ゴルフクラブの販売の態様は、通信販売方式を用いて、被告がシャフトの交換された数種類のゴルフクラブを販売広告し、顧客がその中から好みに応じた物を選択し、これに応じた製品を販売するものである。被告が、顧客に対し、一旦原告製ゴルフクラブを販売した後、顧客からのシャフトの交換の要請に応じるという態様とは全く異なる。
 以上のとおり、被告製造ゴルフクラブは、原告製ゴルフクラブと商品の同一性が異なるので、真正商品ということはできない。
(三)被告輸入ゴルフクラブについて
 原告の正規代理店以外の業者から被告が仕入れたゴルフクラブについては、原告の正規代理店を経て右業者に流通した経路の立証がない限り、真正商品として扱うことはできない。
 なお、被告が原告の正規代理店から仕入れたゴルフクラブをそのまま販売した場合については、真正商品の販売として商標権侵害に当たらないことは認める。
2 賠償すべき額はいくらか。
(原告の主張)
(一)被告ゴルフクラブ等の販売による被告の利益は六五〇〇万円である。少なくとも以下の計算による三八八一万五七四一円を下らない。
(1)被告ゴルフクラブ等についての純利益率は、以下のとおり算定すべきである。
(ア)被告ゴルフクラブ等の純利益については、被告のゴルフ用品の売上に係る純利益率を用いるべきである。被告ゴルフクラブ等については、個別の商品についての仕人等の売上原価、販売及び一般管理費を特定することは困難なため、利益額ないし利益率を個々に主張立証することは事実上不可能である。そこで、被告が取り扱うゴルフ用品の売上とにより通常得られる利益率を算定し、これを被告ゴルフクラブ等の利益率として適用すべきである。被告の事業は、車両販売(車両修理、部品販売を含む。)とゴルフ用品販売の二つの事業から成り立っている。ゴルフ用品の利益率は車両を加えた総売上の利益率を大きく上回っているから、総売上の利益率を被告ゴルフクラブ等の売上の利益率に適用するのは合理的ではない。
(イ)右二つの事業の売上、仕入については、各年度の決算書類に明確に区別されている。このうち、関連年度のゴルフ用品に係る売上総利益率(粗利益)を計算すると、第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月三〇日)、第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)、第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)の総利益率は、順に四六・六八%、三五・八七%、三〇・六三%である。
(ウ)前項の売上総利益率から、ゴルフ用品についての販売直接費を控除することにより、ゴルフ用品の売上純利益率が算定される。
 その際、各期の損益計算書又はこれに添付の販売費及び一般管理費内訳書記載の科目から、固定的無関連原価及びゴルフ用品売上と非関連費用を控除した金額を、全社的販売直接費とすべきである。そして、全社的販売直接費を、ゴルフ用品売上金額の全売上金額に対する割合で按分した額を、ゴルフ用品についての販売直接費とするのが合理的である。
 なお、固定的無関連原価については、ゴルフ用品の販売を行うか否かの判断の影響を受けることなく会社内で発生する費用相当額と考えるべきであり、被告の販売費及び一般管理費内訳書記載の科目のうち、支払報酬、減価償却費、役員報酬、地代家賃、租税公課、保険料、諸会費、リース料、寄付金、雑費、管理警備料等の間接費を指すと考えるべきである。また、ゴルフ用品売上非関連費用は、自動車経費科目をいう。
 右により計算をすると、第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月二〇日)、第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)、第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)のゴルフ用品関連販売直接費率は、順に一五・二六%、一六・一七%、一九・一四%となる。したがって、右各期のゴルフ用品売上の純利益率は、順に三一・四二%(四六・六八%−一五・二六%)、一九・七%(三五・八七%−一六・一七%)、一一・四八%(三〇・六二%―一九・一四%)となる。
 また、資料が提出されていない第一三期(平成四年五月一日ないし平成五年四月三〇日)については、直後の第一四期の純利益率を基礎とすべきである。
(2)以上の純利益率を適用して計算した被告の利益額は以下のとおりである。
(ア)第一三期(平成四年五月一日ないし平成五年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額四二七二万一二二〇円に、利益率三一・四二%を乗じると、被告の利益額は、一三四二万三〇〇七円となる。
 なお、売上額は、@被告販売クラブヘッド、A被告製造ゴルフクラブ、B被告輸入ゴルフクラブ(ただし、正規代理店以外から購入したゴルフクラブに限った。正規代理店以外から購入したゴルフクラブの販売個数とキャラウェイ・シャフト・ゴルフクラブの総販売個数に対する按分比率で算定した。)の各売上額の合計である。(以下も同様である。)
 5,188,222 + 34,631,443 +4,374,435×1,641/2,474 =42,721,220
(イ)第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額三七九六万七一五九円に、利益率三一・四二%を乗じると、被告の利益額は、一一九二万九二八一円となる。
 125,980+27,896,360+14,992,982×1,641/2,474=37,967,159
(ウ)第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額五一六三万三八四二円に、利益率一九・七%を乗じると、被告の利益額は、一〇一七万一八六六円となる。
 90,100+18,355,320+50,035,440×1,641/2,474=51,633,842
(エ)第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額二三八九万二五八一円に、利益率一一・四八%を乗じると、被告の利益額は、二七四万二八六八円となる。
 16,925,654+10,503,460×1,641,2474=23,892,581
(オ)平成八年五月一日ないし同年八月二八日
 被告ゴルフクラブ等の売上額四七七万九七八五円に、利益率一一・四八%を乗じると、被告の利益額は、五四万八七一九円となる。
 2,207,740+3,877,660×1,641/2,474=4,779,785
(カ)以上の合計利益額は、三八八一万五七四一円となる。
(二)原告が本件訴訟を提起、遂行するために必要な弁護士費用は一五〇〇万円を下らない。
(被告の反論)
(一)被告の利益率に関する原告の主張は争う。
(二)被告は元々車両販売を中心として設立された会社であり、現在も車両が売上の重要な割合を占めているため、経費について車両とゴルフ用品に関する部分を分割して算出することは困難である。また、ゴルフ用品の中でも、被告ゴルフクラブ等は少ない割合を占めているにすぎないため、宣伝費やシャフトの交換費用、その他の諸経費を特定することは困難である。したがって、被告のすべての営業の結果から純利益を推定するのが合理的である。被告の平成四年五月一日から平成八年四月三〇日までの平均利益率は約三・八パーセントであるから、これを被告ゴルフクラブ等についても基礎とすべきである。
(三)支払報酬、減価償却その他の経費を費用から控除して利益を算定することは不合理である。ゴルフ用品の売上は全売上の五割近くあるから、車両だけの業務をする場合に比較し、被告の業務は約二倍の規模になっている。したがって、人的、物的設備に要する費用は当然増大するのであり、これらの経費はゴルフ用品の販売と直接関係している。現に、被告は、ゴルフ用品だけの店舗を有し、設備や人員を備えている。
(四)原告の計算方法は、以下のような不合理な点がある。
 被告ゴルフクラブ等の売上高は、ゴルフ用品全体の中でも一割に達しておらず、車両を含めた総売上の中では数パーセントしか占めていない。原告の主張によれば、この僅かな部分で被告の会社の営業利益の相当部分(例えば第一三期については五割近く)を上げていることになり、不当である。
 また、原告の計算方法によれば、例えば一四期については、ゴルフ用品の売上総額が五億一七〇六万九〇四四円であり、原告主張の純利益率三一・四二パーセントを乗じると、ゴルフ用品全体の純利益が一億六二四六万三〇九三円になり、第一四期全体の営業利益二九一一万八二八二円を上回ってしまい、不当である。
 また、クラブヘッドのみを輸入した場合や、シャフトを交換して販売する場合には、新しいシャフトやグリップの仕入、交換のための加工費を要するから、その売上における本件ゴルフクラブの寄与度は五割以下である。
第三 争点に対する判断
一 争点(被告ゴルフクラブ等の販売は、真正商品を販売したものとして、違法性がないといえるか)について判断する。
1 被告販売クラブヘッドについて
 <証拠略>によれば、被告によるクラブヘッド等の輸入期間において、原告は、ゴルフクラブを構成するヘッド、シャフト、グリップを、原告の設計仕様に基づきそれぞれ別々の下請業者に製造委託して納品させ、これらの業者から格別に納品を受けた構成部品を原告工場で更に加工を加えた上、ゴルフクラブに組立完成していたこと、原告は、完成品ゴルフクラブのみを販売、輸出し、各構成部品単体で販売したことはないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、被告販売クラブヘッドは、原告がその意思に基づいて流通させた真正の商品でないことは明らかである。
 したがって、被告において被告販売クラブヘッドを販売する行為が、違法性を欠く行為であるとはいえない。
2 被告製造ゴルフクラブについて
 被告製造ゴルフクラブを製造するに当たり用いたクラブヘッドは、@被告が輸入したゴルフヘッド、A正規代理店から購入しだゴルフクラブのクラブヘッド、B正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドのいずれかである。そこで、それぞれの場合について、被告において、被告製造ゴルフクラブを販売することが違法性を欠くといえるか否かを検討する。
(一)被告が輸入したクラブヘッドを用いたもの
 被告による本件係争商品輸入の当時、原告は、ゴルフクラブを構成するへッド、シャフト、グリップを、原告の設計仕様に基づきそれぞれ下請に製造させ、下請から納入された部品を自社工場で組み立て、ゴルフクラブとして完成し、販売輸出していたものであり、クラブヘッド単体で、原告の意思に基づき流通に置いたことがないのは、前記認定のとおりである。
 したがって、右クラブヘッドを用いた被告製造クラブヘッドを販売する行為が、違去性を欠く行為であるとはいえない。
(二)正規代理店ないし正規代理店以外の業者から購入したゴルフクラブのクラブヘッドを用いたもの
 <証拠略>によれば、@原告製ゴルフクラブにはネックセルが取り付けられておらず、ヘッドとシャフトが直接結合され、ヘッドとシャフトの結合部分がないのに対し、被告製造ゴルフグラブはへッドとシャフトの結合部分にネックセルが装着されていること、A原告製ゴルフクラブのシャフトは、主としてスチールであるのに対し、被告製造ゴルフクラブのシャフトはグラファイトであること、B原告製ゴルフクラブは、原告独自の製造基準を遵守して製造されていることが認められ、これに反する証拠はない。そうすると、被告製造ゴルフクラブは、そのデザイン、材質等の品質が原告製ゴルフクラブと大きく異なっているということができる。
 また、<証拠略>によれば、被告は、雑誌広告を利用して被告製造ゴルフクラブを通信販売しているが、その広告に予めシャフトの交換された数種類のゴルフクラブが示され、顧客がその中から選択して注文したり、広告に示されたヘッドとクラブの中から適宜組合わせを選択して注文したりして、それに応じて、被告においてゴルフクラブを組み立てて販売するという販売態様を採用しており、本件登録商標が付されたクラブヘッドに第三者の製造したクラブシャフトを結合して被告製造ゴルフクラブを製造するのは被告自身であることが認められ、これに反する証拠はない。この点、被告は、原告製ゴルフクラブを一旦、顧客に販売した上、その注文に応じて適宜付け替えを行っている旨主張するが、前証拠によるも、右主張を裏付ける事実はない。
 以上の各事実によれば、被告が製造するゴルフクラブは、原告製ゴルフクラブと品質、形態等において大きく相違するから、被告が右態様で被告製造ゴルフクラブを販売する行為は、本件登録商標出所表示機能、品質保証機能を害するものであり、違法性を欠く行為とは言えない。
3 被告輸入ゴルフクラブについて
 前記のとおり、被告が原告の正規代理店であるウォールターケラー、ゴルフ・エクスチェンジ、バード・ヒルズ、ワシントン・ゴルフ、フェアウェイ・ゴルフ・アンド・テニスから仕入れたゴルフクラブ(正規代理店品)をそのまま販売した場合が、真正商品の販売として商標権侵害に当たらないことは、当事者間に争いがない。
 原告の正規代理店以外の業者から被告が仕入れたゴルフクラブについて、本件前証拠によっても、、原告又はこれと同視得る者の意思に基づき流通過程に置かれたものであることを認めることはできない。
 したがって、被告による右正規代理店品以外の被告輸入ゴルフクラブの販売は、本件商標権の侵害に当たる。
4 以上のとおり、被告が被告ゴルフクラブ等を販売する行為は、被告が原告の正規代理店から仕入れた正規代理店品をそのまま販売する場合(前記のとおり当事者間に争いがない。)を除いて、すべて本件商標権の侵害に当たる。
二 争点2(賠償すべき額はいくらか)について
1 本件商標権を侵害する被告ゴルフクラブ等の販売によって得た被告の利益額について
(一)被告の得た利益額を算定するに当たっては、粗利益率(売上額から売上原価を控除した額の売上額に対する割合)から、変動経費率(売上に伴って変動する経費額の売上額に対する割合)を控除した利益率を算定の基礎とするのが相当である。
(1)被告の営む事業のうち、ゴルフ用品の販売に係る売上総利益率(粗利益率)は、<証拠略>によれば、第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月三〇日)、第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)、第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)において、順に四六・六八%、三五・八七%、三〇・六二%であることが認められる。
(2)変動経費額については、被告の事業における全販売費及び一般管理費から、@ゴルフ用品売上と無関係の費用、A固定費(支払報酬、減価償却費、役員報酬、地代家賃、租税公課、保険料、諸会費、りース料、寄付金、雑費、管理警備料等の間接費)の合計額を控除した額を、ゴルフ用品売上金額の全売上金額に対する割合で按分した金額とすべきであり、変動経費率は、右変動経費額を基礎として算定することができる。
 <証拠略>によれば、右の方法により算定すると、第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月三〇日)、第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)、第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)のゴルフ用品関連の変動経費率は、順に一五・二六%、一六・一七%、一九・一四%となり、したがって、右各期のゴルフ用品売上の利益率は、順に三一・四二%(四六・六八%−一五・二六%)、一九・七%(三五・八七%−六・一七%)、一一・四八%(三〇・六二%−一九・一四%)となることが認められる。なお、第一三期(平成四年五月一日ないし平成五年四月三〇日)については、前期の資料が提出されず利益率を計算できないので、直後の第一四期の利益率を用いるのが合理的である。また、平成八年五月一日ないし同年八月一八日については、直前の第一六期の利益率を用いるのが合理的である。
 被告は、利益率の算定に当たって、支払報酬、減価償却費を控除した額を基礎とすべきであると主張する。しかし、被告は車両販売及びゴルフ用品販売の二つの事業を営んでいるが、被告における被告ゴルフクラブ等の販売は被告の営む事業全体のごく一部であること、被告ゴルフクラブの販売態様は、雑誌広告に基づく通信販売によるものであること等の点に照らすならば、右支払報酬等は、被告ゴルフクラブ等の売上額の増減に伴って変動する性質を有するものと解することはできず、結局被告の右主張は採用できない。
(二)以上の利益率を適用して被告の利益を計算すると、以下のとおりとなる。
(1)第一三期(平成四年五月一日ないし平成五年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額四二七二万一二二〇円に、利益率三一・四二%を乗じると、被告の利益額は、一三四二万三〇〇七円となる。
 なお、右売上額は、@被告販売クラブヘッド、A被告製造ゴルフクラブ、B被告輸入ゴルフクラブ(ただし、正規代理店以外から購入したゴルフクラブに限った。正規代理店以外から購入したゴルフクラブの販売個数のキャラウェイ・シャフトゴルフクラブの総販売個数に対する按分比率で算定した。)の各売上額の合計である(以下も同様である。)。
 5,188,222+34,631,443+4,374,435×1,641/2,474=42,721,220
(2)第一四期(平成五年五月一日ないし平成六年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額三七九六万七一五九円に、利益率三一・四二%を乗じると、被告の利益額は、一一九二万九二八一円となる。
 125,980+27,896,360+14,992,982×1,641/2,474=37,967,159
(3)第一五期(平成六年五月一日ないし平成七年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額五一六三万三八四二円に、利益率一九・七%を乗じると、被告の利益額は、一〇一七万一八六六円となる。
 90,100+18,355,320+50,035,440×1,641/2,474 =51,633,842
(4)第一六期(平成七年五月一日ないし平成八年四月三〇日)
 被告ゴルフクラブ等の売上額二三八九万二五八一円に、利益率一一・四八%を乗じると、被告の利益額は、二七四万二八六八円となる。
16,925,654+10,503,460×1,641/2,474 = 23,892,581
(5)平成八年五月一日ないし、同年八月二八日
 被告ゴルフクラブ等の売上額四七七万九七八五円に、利益率一一・四八%を乗じると、被告の利益額は、五四万八七一九円となる。
 2,207,740 + 3,877,660×1,641/2,474 = 4,779,785
(6)以上の合計利益額は、三八八一万五七四一円となる。そうすると、被告が本件商標権を侵害したことによって、原告が被った損害額は、右同額と推定される。よって、被告はこれを賠償する義務を負う。
 なお、遅延損害金については、被告ゴルフクラブ等の販売は、遅くとも各決算期の未日までに行われたと認められるから、各決算期の最終の日から起算すべきと解するのが相当である。
(三)被告は、被告ゴルフクラブ等の販売事業は、被告の営む事業のうち僅かであるにもかかわらず、その利益額が多額にすぎる旨主張するが、右主張は、前記認定に照らし採用できない。その他、被告はるる主張するが、いずれも採用の限りでない。
2 弁護上費用について
 本件事案の性質、内容、訴訟の経過等の諸般の事情を総合すれば、被告の本件商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害としては、三〇〇万円が相当と認める。なお、これに対する遅延損害金は、不法行為の日から起算すべきである。
三 以上のとおり、本件請求は、被告ゴルフクラブ等の販売、頒布、販売広告の差止め、並びに損害賠償金四一八一万五七四一円及び内金一六四二万三〇〇七円に対する平成六年四月二六日(平成五年四月三〇日の後の日)から、内金一一九二万九二八一円に対する平成六年四月三〇日から、内金一〇一七万一八六六円に対する平成七年四月三〇日から、内金二七四万二八六八円に対する平成八年四月三〇日から、内金五四万八七一九円に対する同年八月二九日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 沖中康人


別紙 目録(一)〜(八)<略>
別表 A〜G<略>
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