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【事件名】無断複製アダルトビデオ頒布事件
【年月日】平成10年10月30日
 東京地裁 平成8年(ワ)第1590号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成10年9月9日)

判決
東京都(以下住所略)
 原告 株式会社アテナ映像
右代表者代表取締役 二野井修
千葉県(以下住所略)
 原告 株式会社エフ・イー・メタル
右代表者代表取締役 小林裕樹
東京都(以下住所略)
 原告 株式会社シネマジック
右代表者代表取締役 横畠邦彦
東京都(以下住所略)
 原告 ジャパンホームビデオ株式会社
右代表者代表取締役 升水惟雄
東京都(以下住所略)
 原告 株式会社マックス・エ一
右代表者代表取締役 石井渉
東京都(以下住所略)
 原告 株式会社メディアステーション
右代表者代表取締役 古川正隆
原告ら訴訟代理人弁護士 前田哲男
東京都(以下住所略)
 被告 日本ビデオ販売株式会社
右代表者代表取締役 吉川一幸


主文
一 被告は、別紙ビデオ目録1ないし6記載の映画を複製し、又は同映画を複製したビデオテープを頒布し若しくは頒布の目的をもって所持してはならない。
二 被告は、別紙ビデオ目録1ないし6記載の映画を複製したビデオテープを廃棄せよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。

事実
第1 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
 主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、いわゆるアダルトビデオ(成人向映画)の製造販売を業とする会社であり、原告株式会社アテナ映像は、別紙ビデオ目録1記載の映画の著作権者であり、原告株式会社エフ・イー・メタルは、別紙ビデオ目録2記載の映画の著作権者であり、原告株式会社シネマジックは、別紙ビデオ目録3記載の映画の著作権者であり、原告ジャパンホームビデオ株式会社は、別紙ビデオ目録4記載の映画の著作権者であり、原告株式会社マックス・エ一は、別紙ビデオ目録5記載の映画の著作権者であり、原告株式会社メディアステーションは、別紙ビデオ目録6記載の映画の著作権者である(以下、別紙ビデオ目録1ないし6記載の映画を、まとめて「原告映画」という。)。
2 被告は、「ビデオ安売上」という名称のフランチャイズ方式のアダルトビデオの販売店のフランチャイザーとして各店舗にビデオテープを供給するとともに、「ビデオ安売上」という名称の直営店においてアダルトビデオを販売しているものである。
 被告は、原告映画を原告らに無断で複製し、原告映画を複製したビデオテープが原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたことを知りながら、それらのビデオテープを頒布したり頒布の目的をもって所持している。
3 よって、原告らは、被告に対し、原告映画の著作権に基づき、原告映画の複製、複製したビデオテープの頒布、頒布目的による所持の差止めを求めるとともに、原告らの著作権を侵害する行為によって作成された原告映画を複製したビデオテープの廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 請求原因2の事実のうち、被告が、「ビデオ安売王」という名称のフランチャイズ方式のアダルトビデオの販売店のフランチャイザーとして各店舗にビデオテープを供給するとともに、「ビデオ安売王」という名称の直営店においてアダルトビデオを販売していたことは、認め、その余は否認する。
 ビデオ安売王の店舗に無断複製物が存在したとしても、それは、フラチャイジー(ママ)が、被告以外のいわゆる鞄屋と称される者から仕入れた物であり、被告とは無関係である。
 被告は、被告の株式の譲渡を受けたと称する者などにより営業妨害を受け、在庫商品を持ち去られ、手形の不渡りにより銀行取引停止処分を受けるなどしたため、営業活動をすることができない状態にあり、被告が原告映画の著作権を侵害する行為に及ぶ可能性はない。
3 請求原因3の主張は争う。
理由
一 甲第1号証の1、2の1ないし13、第2号証の1、2の1ないし33、第3号証の1、2の1ないし72、第4号証の1、2の1ないし59、第5号証の1、2の1ないし50、第6号証の1、2の1ないし47、証人尾鼻悟の証言及び弁論の全趣旨によると、請求原因1の事実が認められる。
二1 請求原因2の事実のうち、被告が、「ビデオ安売王」という名称のフランチャイズ方式のアダルトビデオの販売店のフランチャイザーとして各店舗にビデオテープを供給するとともに、「ビデオ安売王」という名称の直営店においてアダルトビデオを販売していたことは、当事者間に争いがない。
2 右当事者間に争いのない事実と甲第7号証ないし第11号証、第12号証の1ないし128(枝番をすべて含む)、甲第13号証の1、2、第14号証、乙第3号証ないし第11号証、証人尾鼻悟の証言、調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(一) 原告らを含むアダルトビデオ製作会社は、著作権法や刑法175条に違反するビデオソフトを排除し、各都道府県の婦人青少年課等の関連機関と協力して自主規制ルールを徹底させるために、ビデオ倫理監視委員会(以下「監視委員会」という。)を設立しており、監視委員会は、主に警察官出身者をその職員としている。監視委員会は、平成5年5月以降、全国のビデオ安売王の店舗に対し、監視委員会の会員であるアダルトビデオ製作会社の製品の無断複製物(いわゆる海賊版)を販売していないかどうかを確認するために立入調査を行った。立入調査は、監視委員会の職員が、パッケージの外装が粗雑なものやパッケージの写真がぼけているものを捜し出し、それらについて、会員であるアダルトビデオ製作会社が製作した映画と、題名、監督、出演者等が同じものが別の会社から発売されているかどうかを確認するという方法で行われた。監視委員会の職員は、会員であるアダルトビデオ製作会社が製作した映画と、題名、監督、出演者等が同じものが別の会社から発売されていることを発見した場合には、それを無断複製品であると判断し、無断複製品が著作権を侵害していること、直ちに無断複製物の撤去、廃棄を求めること、撤去、廃棄がない場合は法的措置を執ること等を記載した警告書に、調査により無断複製物と判断したビデオテープの題名を記載して、調査対象店舗の責任者又は担当者に交付し、これらの責任者又は担当者をして警告書の控えに確認印を押させていたが、一部の店舗では、これらの責任者又は担当者が、警告書の受取りや確認印の押捺を拒否することがあった。
 ビデオ安売王の調査対象となった店舗では、1店舗を除き、いずれにおいても、監視委員会の職員が無断複製品であると判断したビデオテープが陳列、販売されていた。
 以上のようにして監視委員会がビデオ安売王の各店舗に交付した警告書は、合計169通であり、警告書に記載された原告映画の無断複製物は、別紙無断複製物目録一1ないし6のとおり合計582本であった。
 ビデオ安売王の各店舗の責任者又は担当者は、警告書の交付を受ける際に、監視委員会の職員に対し、無断複製物と指摘されたビデオテープは被告の本部から送られてきたものである旨を述べることが多かった。
 監視委員会の職員又は原告らの職員がビデオ安売王の店舗において客として購入したビデオテープのうち、別紙無断複製物目録二1ないし6の合計31本が、原告映画の無断複製物であると確認された。
(二) 横浜地方裁判所相模原支部裁判官は、原告株式会社アテナ映像、同株式会社シネマジック、同ジャパンホームビデオ株式会社、同株式会社マックス・エー等の申立てに基づき、平成7年3月31日、神奈川県相模原市東林間1丁目6番7号所在のビデオ安兄王東林間店において、証拠保全として、同店舗内に存する右申立人らが著作権を有する映画を収録したビデオテープ等の検証を行い、その結果、別紙無断複製物目録三1ないし4の合計23本の原告映画の無断複製物を含む多数の無断で複製されたビデオテープが名店舗に存在することが明らかになった。右無断複製物には、被告の略称として用いられていたJVSという符号が記載された値札が貼付されていた。
 右店舗の店長であった浜野温は、右証拠保全手続において、当時右店舗において扱っているアダルトビデオは約9000本であり、すべて被告から仕入れ、被告以外からは仕入れていない旨の説明をした。
(三) ビデオ安売王の店舗には、被告又はその関連会社である株式会社東京企画(以下「東京企画」という。)が経営をしている店舗(直営店)、フランチャイジーが開業資金の全額を支出し、被告とフランチャイズ契約を締結している店舗(フルオーナー店)、フランチャイジーが保証金だけを被告に差し入れ、被告とフランチャイズ契約を締結している店舗(サブオーナー店)があるが、右フルオ一ナー店の経営者と被告との間のフランチャイズ契約の契約書には、加盟店は店舗において販売するビデオ等の商品のすべてを被告本部から仕入れるものとする旨の条項が存した。
(四) 監視委員会は、被告に対し、無断複製物の販売をやめるように何度も申し入れ、平成6年11月15日ころには、被告に対し、監視委員会の代理人弁護士を通じて、無断複製物の販売中止、店頭からの引上げ、仕入先の開示を要求したが、その後もビデオ安売王の店舗から無断複製物がなくなることはなかった。 被告の会長を名乗り、被告の経営に対して大きな影響力を有していた佐藤太治は、平成5年11月及び平成6年1月ころ、監視委員会の職員に対し、無断複製物を処分する旨述べたが、その後もビデオ安売王の店舗から無断複製物がなくなることはなかった。
 被告は、月に1回程度、ビデオ安売王の各店舗に陳列して売れ残った商品を被告の本部を通じて他の店舗へ回すという方法により、商品の入替えを行っていたが、被告の専務取締役であった本田俊夫は、平成7年5月ごろ、監視委員会の職員に対し、商品の入替えの際に、各店舗から本部に送られた商品の中に無断複製物が含まれていても、それを他の店舗に送っている旨述べた。
(五) 被告は、商品の保管、配送を日本トラック株式会社(以下「日本トラック」という。)に委託していたが、保管費用、運送費用等を支払わなかったので、日本トラックは、平成7月11月22日、日本トラック三郷支店倉庫に保管していた被告の約60万本のビデオテープについて留置権を行使した。被告は、日本トラックと話合いの上、平成8年1月16日から23日まで、日本トラック三郷支店倉庫において、ビデオ安売王のフランチャイジーを対象として、年始特別感謝セールと称して、同倉庫に保管中のビデオテープの販売を行い、売上金を日本トラックに支払った。右セール中に販売されたビデオテープは、2万本余りであり、その売上げである約1700万円が、日本トラックに支払われた。残余の約58万本のビデオテープは、平成8年3月下旬から4月上旬にかけて、被告代表者の記名押印及び東京企画の代表者の記名押印のある貨物受領書を有する者に対し、右貨物受領書と引替えに日本トラックから引き渡された。
 監視委員会の職員が、右のセールにおいて販売されたビデオテープ8本を入手して調査したところ、別紙ビデオ目録五番号41、同目録二番号9記載の映画の無断複製物が含まれており、右を含め、少なくとも6本が無断複製物であることが確認された。
3 被告代表者の陳述書である乙第1号証には、日本トラック三郷支店倉庫にあったビデオテープが第三者に持ち去られた旨の記述があるが、右2(五)のとおり、日本トラックが、被告代表者の記名押印のある貨物受領書を有する者に対して右受領書と引替えに三郷支店倉庫にあったビデオテープを引き渡していることに照らすと、乙第1号証の右記述は信用することができず、日本トラック三郷支店倉庫にあったビデオテープは、被告又はその関係者に渡されたものと推認することができる。
4 右2(一)ないし(五)認定の事実を総合すると、被告は、原告らが著作権を有する映画の無断複製物を所持し、ビデオ安売王の各店舗に対して原告らが著作権を有する映画の無断複製物を大量に送っていたことが認められ、これらの事実に鑑みると、被告は原告らが著作権を有する映画を原告らに無断で複製したことが推認され、また、被告は、原告らが著作権を有する映画を複製したビデオテープが原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたことを知りながら、それらのビデオテープを頒布し又は頒布の目的をもって所持していたことが認められる。そして、右2(一)ないし(五)認定の事実によると、それらの無断複製の対象となった映画には、原告映画(別紙ビデオ目録1ないし6記載の映画)の多くのものが含まれていたと認められる。
三1 被告は、被告の株式の譲渡を受けたと称する者などにより営業妨害を受け、在庫商品を持ち去られ、手形の不渡りにより銀行取引停止処分を受けるなどしたため、営業活動をすることができない状態にあり、被告が原告映画の著作権を侵害する行為に及ぶ可能性はないと主張する。
 そして、被告代表者の陳述書である乙第1号証には、平成7年11月に被告の役員及び幹部が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により富山県警察に逮捕され、それ以後資金繰りが悪化したこと、平成8年4月10日、営業譲渡を受けたと称する第三者に営業妨害をされ、事務所を占拠されるなどし、それが刑事事件に発展したこと、その後、被告の事務所の賃貸借契約を解約し、従業員は退職し、日本トラック三郷支店倉庫にあった商品が第二者に持ち出されたこともあって、営業の継続が難しくなったこと、平成8年5月31日及び同年6月4日には手形が不渡りとなり銀行取引停止処分を受け、事実上営業活動が中止されたこと、以上の事実が記載されている。
2 ところで、甲第9号証及び弁論の全趣旨によると、右乙第1号証に記載されたことがらのうち、平成7年11月に被告の役員及び幹部が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反により富山県警察に逮捕され罰金刑を科せられたこと、被告の経営状態は、平成8年4月ころから悪化したこと、被告は、平成8年5月31日及び同年6月4日に手形が不渡りとなり、銀行取引停止処分を受けたこと、以上の事実が認められる。
 しかし、右二3のとおり、日本トラック三郷支店倉庫にあったビデオテープは被告又はその関係者に渡されたものと推認することができるし、被告は、解散したとか、ビデオ安売王という店舗が存在しなくなったとの事実も認められない。そして、右二4認定のとおり、被告は、原告らが著作権を有する映画を原告らに無断で複製したことが推認され、また、被告は、原告らが著作権を有する映画を複製したビデオテープが原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたことを知りながら、それらのビデオテープを頒布し又は頒布の目的をもって所持していたことが認められるのであり、それらの無断複製の対象となつた(ママ)映画には、原告映画の多くのものが含まれていたと認められるのであるから、被告は、原告映画を原告らに無断で複製し、また、原告映画を複製したビデオテープが原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたことを知りながら、それらのビデオテープを頒布し又は頒布の目的をもって所持するおそれがあるものと認められ、そのような侵害を予防するために、原告映画を複製したビデオテープを廃棄させる必要があるものと認められる。被告が原告映画の著作権を侵害する行為に及ぶ可能性はないという被告の主張は、採用することができない。
四 よって、原告らの請求は、いずれも理由があるので、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 中平健
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