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【事件名】商標“ALWAYS”侵害事件 【年月日】平成10年7月22日 東京地裁 平成9年(ワ)第10409号 商標権侵害差止等請求事件 (平成10年5月15日 口頭弁論終結) 判決 原告 博兼商事株式会社 右代表者代表取締役 A 右訴訟代理人弁護士 杉浦幸彦 右補佐人弁理士 後藤政喜 同 永井冬紀 同 松田嘉夫 被告 長野コカ・コーラボトリング株式会社 右代表者代表取締役 B 右訴訟代理人弁護士 田中克郎 同 宮川美津子 同 中村勝彦 同 五十嵐敦 主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求 一 被告は、「ALWAYS」なる欧文字又は「オールウェイズ」なるカタカナ文字の表示からなる標章をコーラの缶に付し、又は右標章を付した缶入りコーラを販売し、若しくは販売のために展示してはならない。 二 被告は、前項の標章を付したコーラの缶を廃棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金一○○万円及びこれに対する平成九年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、後記商標権に基づき、「オールウェイズ」等の標章を付した缶入りコーラの販売等の差止め、及び被告による右商標権の侵害により弁護士・弁理士費用相当額の損害を被ったとして、損害賠償を、それぞれ求めた事案である。 一 争いのない事実等(証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。) 1 原告の商標権 原告は、次のとおりの商標権(以下「本件商標権」といい、その 登録商標を「本件登録商標」という。)を有する。 登録番号 第一六四三九三○号 登録日 昭和五八年一二月二六日 存続期間の更新登録 平成六年五月三○日 指定商品 コーヒー、その他旧第二九類に属する商品 登録商標 別紙登録商標目録記載のとおり 2 被告の行為 (一) 被告は、業として、清涼飲料コカ・コーラを製造販売している。 (二) 被告は、平成五年から、右コカ・コーラの缶に、「ALWAYS」ないし「always」なる欧文字(以下「本件欧文字表記」という。)を付している。その態様は、別紙被告標章目録一記載のとおり、缶上に一か所、小さく白抜きの円弧が描かれ、その中に、コカ・コーラのボトルの図柄を背景とした「Coca−Cola」という文字が記載され、その上部に、円弧に沿って、小さな字で「ALWAYS」という白抜き文字が記載されている図柄(以下「被告図柄一」という。)のものである(甲三の1)。 (三) 被告は、平成九年四月から、右コカ・コーラの缶に、本件欧文字表記及び「オールウェイズ」なるカタカナ文字(以下「本件カタカナ表記」という。)を付している。その態様は、別紙被告標章目録二記載のとおり、缶上に大きな円弧の上下一部が缶の大きさに収まらない形で描かれ、円弧の中心に、コカ・コーラのボトルの図柄が描かれ、それを背景として円弧の中央を横切るように「Coca−Cola」という文字が記載され、円内のその周辺に、日本語「オールウェイズ」、英語「always」、スペイン語「Siempre」、ポーランド語「zawsze」及びフランス語「Toujours」が記載されている図柄(以下「被告図柄二」という。)のものである(甲三の2、乙一、一三)。 二 争点 1 商標的使用の有無 (原告の主張) 被告は、前記のとおり、コカ・コーラの缶に、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記を付しているのであるから、これらの標章を商標として使用しているものである。 なお、コカ・コーラの商標を所有する米国法人のザ・コカ・コーラ・カンパニーは、自ら開設したインターネットのホームページにおいて、「ALWAYS」アイコンが同社の商標であることを認めている。また、同社は、平成五年二月一日に、「ALWAYS」なる通常の字体による欧文字の標章につき、清涼飲料等の第三二類の商品を指定商品として商標出願しているから、同社は右標章を商標として使用していることを自認している。 (被告の主張) 次のとおりの、被告が本件欧文字表記及び本件カタカナ表記を使用するに至る経緯、使用態様、取引の実情等を総合すれば、被告は右各表記を自他商品を識別するという機能を有するものとして使用していないというべきであり、被告による右各表記の使用は、商標としての使用ではない。 (一) 米国法人である訴外ザ・コカ・コーラ・カンパニー、訴外日本コカ・コーラ株式会社及び被告は、平成五年三月から、「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンを一斉に開始した。 長期間にわたって世界中で圧倒的な人気を得ているコカ・コーラについては、これまでも様々なキャンペーンが実施され、各キャンペーン毎に「Come on in.Coke」、「Yes Coke Yes」、「Coke is it!」、「I feel Coke.」、「さわやかになる、ひととき」といったキャッチフレーズが使用されてきた。そして、非常に印象的なテレビコマーシャルの製作、放送を始め、大規模な広告宣伝活動が行われ、多くの消費者に各キャンペーンテーマを強く印象づけてきた。多くの場合、キャンペーンの一環として、各キャッチフレーズは、被告を含むコカ・コーラボトラー各社の主力商品であるコカ・コーラの缶上に実際に表示されてきた。 これらに引き続いて、平成五年三月から全世界的な規模で「Always Coca−Cola」キャンペーンが開始され、これまでのキャンペーン同様に大規模な広告宣伝活動が行われ、日本でも、毎年五○億円を超える広告宣伝費が費やされ、多くの消費者に強い印象を与えてきた。そして、他のキャンペーン同様、キャンペーンの一環として、コカ・コーラの缶上には、「Always Coca−Cola」のキャッチフレーズが表示されてきた(被告図柄一)。平成九年四月からコカ・コーラの缶のデザインが一新されたが、そこにおいても、「Always Coca−Cola」のキャッチフレーズが表示されている(被告図柄二)。 以上の経緯から明らかなとおり、本件欧文字表記も本件カタカナ表記も、キャンペーンのキャッチフレーズである「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」の一部に過ぎず、コカ・コーラの缶上にもこれらの表記が独立して表記されているのではなく、これらの表記は、右キャッチフレーズ全体の一部を構成するに過ぎない。 (二) 被告図柄一は、缶の一部に小さくキャンペーンの実施を示す円形のキャンペーン・マークが一か所付加的に記されているもので、前記のとおりの構成であるから、全体として、キャンペーンのキャッチフレーズを消費者に強く印象付けている。被告図柄一では、「ALWAYS」という文字と「Coca−Cola」という文字は二段で表記されているが、マークとしての一体性に加え、「Always Coca−Cola」キャンペーンが大規模に宣伝広告され大多数の消費者に認知されていることも考慮すれば、この缶を購入する消費者は、被告図柄一全体を不可分一体のものと認識し、本件欧文字表記を単独で意識することはない。 また、被告図柄二は、前記のとおりの構成であるから、全体として、キャンペーンのキャッチフレーズを消費者に強く印象付けている。被告図柄二では、「always」及び「オールウェイズ」という文字と「Coca−Cola」という文字は二段で表記されているが、マークとしての一体性に加え、「Always Coca−Cola」キャンペーンが大規模に宣伝広告され大多数の消費者に認知されていることも考慮すれば、この缶を購入する消費者は、被告図柄二全体を不可分一体のものと認識するのであり、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記を単独で意識することはない。 (三) 本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が記載された缶には、商品名として世界的に著名な「Coca−Cola」という商標が記載されている。右商標は、字体は一貫して同じものが世界中で使用され続けてきており、しかも、コカ・コーラの缶上においては一貫して、赤字に白抜きで表示されてきたものであり、極めて識別力が強いものである。したがって、正に右商標が他の商品との識別を可能としているのであって、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、商品の出所を示すものとして機能していない。 2 商標の類否 (原告の主張) 本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とは、次のとおり類似する。 (一)称呼の類似 本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、英語の「ALWAYS」に由来すると考えられ、需要者により「オールウエイズ」又は「オールウェイズ」(両者の差異は微差に過ぎない。)と発音される。「ALWAYS」なる英単語は、冒頭の「A」にアクセントがあり、末尾の「S」は単なる子音に過ぎない。また、右「S」は、名詞を副詞に変形させる機能以外には何の意味もなく、曖昧に発音される。一般的に、単語の末尾の発音は、殊更注意されないことが多い。 以上から、「ALWAYS」の要部は「ALWAY」(日本風の発音では「オールウェイ」)であるが、これは本件登録商標の称呼と同一ないし著しく類似する。したがって、本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とは、称呼において類似する。 (二) 観念の類似 本件登録商標は、英語の「ALLWAY」及び「ALWAY」に由来するが、需要者が本件登録商標から「ALLWAY」なる英語を容易に想起することは明らかである。本件欧文字表記の「ALWAYS」は、「ALWAY」及び「ALLWAY」と同義である。 したがって、本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とは、観念において類似する。 (三) 外観の類似 本件登録商標は、「オールウエイ」なるカタカナ書きの六文字を横一列に配置したものであるのに対し、本件カタカナ表記は、「オールウェイズ」なるカタカナ書きの七文字を横一列に配置したものである。 両者の差異は、「エ」の大小と「ズ」の有無である。前者については、その大小により外観にはそれほどの相違を来さない。後者については、末尾の文字は一般的に意識されにくいこと、本件カタカナ表記はコーラ缶の側面において使用されているところ、角度によっては末尾の「ズ」は見えないこと等に照らせば、その有無により外観上重大な相違を生じない。さらに、本件カタカナ表記が特徴のない普通の字体のカタカナで記載されているに過ぎないことも考え併せれば、本件登録商標と本件カタカナ表記とは外観上類似する。 (四) 本件で問題となっている清涼飲料や果実飲料は、食料品であって一般消費者が日常頻繁に購入する商品であり、商品選択性の強い部類には属さないから、需要者において、商品の出所を表示する商標の異同について相当の注意を払うとは認められない。 商標権に基づく差止請求権が成立するためには、被告が、商標権に係る指定商品と同一又は類似する商品に、同一又は類似する商標を使用していることが必要であるが、具体的な出所混同の恐れを生じることは必要でないのであるから、原告の本件登録商標の使用状況が本訴において問題となることはない。 (被告の主張) 本件欧文字表記及び本件カタカナ表記と本件登録商標との類似性は、次のとおり認められない。 (一) 原告は、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記そのものと本件登録商標との類似性を主張しているが、本件商標登録と類否の判断をすべき対象は、「ALWAYS Coca−Cola」、「always Coca−Cola」あるいは「オールウェイズ Coca−Cola」であって、「ALWAYS」、「always」、「オールウェイズ」そのものではないので、右原告の主張は失当である。 すなわち、前記のとおり、被告図柄一及び二のマークとしての一体性に加え、「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンが大規模に宣伝広告され、大多数の消費者に認知されていること等を併せ考慮すれば、「ALWAYS」や「オールウェイズ」という表記が独立して単独で自他識別機能を有する商標として消費者に認識されることはないのであって、あくまでも「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」というキャッチフレーズを表示するものとして全体的に認識されるものと考えられる。 そして、本件登録商標と「ALWAYS Coca−Cola」、「always Coca−Cola」、「オールウェイズ Coca−Cola」の各商標との類似性を検討すると、Coca−Cola商標は極めて識別力の強い商標であるから、右各商標の要部はいずれも「Coca−Cola」と考えられ、したがって、本件登録商標と称呼、外観、観念のいずれにおいても非類似である。また、右各商標全体と本件登録商標を比較しても同様である。 (二) 仮に、本件登録商標と類否の判断をすべき対象を、本件欧文字表記のみであるとしても、本件登録商標と右表記とは、次のとおり類似しない。 (1) 本件登録商標はカタカナから構成されており、本件欧文字表記はアルファベットから構成されており、両者は、外観上非類似である。 (2) 本件登録商標の称呼を文字表記すると「オールウエイ」であり、本件欧文字表記の称呼をカタカナで文字表記すると「オールウェイズ」である。本件登録商標では、「エ」の部分が大文字であるため、「ウ」、「エ」、「イ」の各文字をそれぞれはっきりと発音するのに対し、本件欧文字表記は「エ」の文字が小文字であり、拗音の発音がされるため、「ウェイ」の部分は一気に短音で発音される。また、本件欧文字表記には末尾に「ズ」という濁音があり、これが大きな特徴となっているが、本件登録商標にはかかる特徴は存しない。 したがって、本件登録商標と本件欧文字表記とは称呼において類似しない。 (3)本件欧文字表記の「ALWAYS」という英単語は、「常に」、「いつも」という観念、意味を直ちに相起するほど一般的に親しまれている英単語である。 一方、本件登録商標の「ウエイ」の部分(すべて大文字であり、拗音を含まない。)から「WAY」との英単語を一般人が想起することは非常に困難であるから、本件登録商標から「ALL WAY」又は「ALWAY」といった英単語を一般人が想起することは困難である。したがって、本件登録商標と本件欧文字表記とは、観念上非常に大きく相違している。仮に、本件登録商標から「ALL WAY」との英語を想起できたとしても、一般人はこれから「すべての道」又は「すべての方法」といった意味しか想起できない。 したがって、本件登録商標と本件欧文字表記とは、観念においても非類似である。 (三) 仮に、本件登録商標と類否の判断をすべき対象を、本件カタカナ表記のみであるとしても、次のとおり本件登録商標と右表記とは非類似である。 (1) 本件登録商標は六文字から構成されるのに対し、本件カタカナ表記は七文字から構成されている。また、本件登録商標に含まれる「エ」の文字は大文字であり、六文字とも同一の大きさであるのに対し、本件カタカナ表記に含まれる「ェ」の文字は小文字であり、七文字中一文字だけが小文字であるという特徴を有している。さらに、本件カタカナ表記の末尾には「ズ」という文字があり、この文字は、他の文字と異なる濁音文字であるという特徴を有している。これらの外観上の相違点から、本件登録商標と本件カタカナ表記とは外観上非類似である。 (2) 前記(二)(2)のとおり、本件登録商標と本件カタカナ表記とは、称呼において非類似である。 (3) 前記(二)(3)のとおり、本件登録商標と本件カタカナ表記とは、観念において非類似である。 (四) 仮に、本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記との間に称呼において幾らかの類似性が認められるとしても、前記のとおりの観念、外観における大きな相違点や、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記の使用態様、取引の実情等を総合的全体的に判断すれば、類似性は認められない。 (五) 商標法の目的は、登録商標と出所の混同を生じるおそれのある商標の登録及び使用を排除することにより公正な競争秩序を維持することにあるから、出所混同のおそれがない限り、商標の類似は認められない。 本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、非常に著名な商品であるコカ・コーラの缶に記載されているものであり、当該缶上には極めて識別力の強い商標であるCoca−Cola商標が記載されているのであるから、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が付された被告商品を購入する者は、疑いなく、著名なコカ・コーラと認識した上で商品を購入しているのであって、他の第三者の商品と誤認して購入する可能性はないから、本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記との類似性は認められない。 原告は、本件登録商標を付した梅ジュースを販売している旨主張するが、既に流通している他人の既存の商品に、本件登録商標が記された極めて簡易なシールを貼って、ごく少量を転売しているに過ぎない。のみならず、右梅ジュースは、被告による不使用取消審判請求の前に急造されたものと判断せざるを得ない。したがって、原告は本件登録商標を商標として使用していないものというべきであるから、本件登録商標と本件欧文字表記及び本件カタカナ表記との誤認混同のおそれはない。 3 権利濫用の有無 (被告の主張) 原告は、本件登録商標の更新登録手続の際に、本件登録商標の使用を証する証拠として、前記梅ジュースではなく、ココナッツミルクの缶上に本件登録商標が記載されている写真を提出している。しかし、ココナッツミルクは食材として使用される物であり、旧分類第二九類に属するものではない。また、右写真は、他社の商品の商標を消去し、代わりに本件登録商標を付して撮影した疑いがある。したがって、右更新登録手続には重大な瑕疵がある。このように不使用商標である本件登録商標に基づく請求は権利の濫用として許されない。なお、訴外ザ・コカ・コーラ・カンパニーは右更新登録の無効審判を特許庁に請求している。 (原告の主張) 争う。 第三 争点に対する判断 一 争点1(商標的使用の有無)について 1 証拠(甲三の1、2、乙一、二の1ないし6、三ないし六、一三)に争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実を総合すれば、次の事実が認められる。 (一) 清涼飲料コカ・コーラの商品名は、日本国内において著名である(当裁判所に顕著な事実)。 日本コカ・コーラ株式会社は、清涼飲料コカ・コーラについて、米国法人であるザ・コカ・コーラ・カンパニーから商標権等の使用許諾を得てその製造、販売等を行っている。日本コカ・コーラ株式会社は、日本国内の一七の担当地域ごとのボトラーに対して、商標権等の使用の再許諾をし、各ボトラーがその担当地域においてコカ・コーラ等の製品を製造、販売している。被告は、長野地区を担当するボトラーである。 (二) コカ・コーラについては、従前様々なキャンペーンが実施され、各キャンペーン毎に「Come on in.Coke」、「Yes Coke Yes」、「Coke is it!」、「I feel Coke.」、「さわやかになる、ひととき」といったキャッチフレーズが使用され、それを使用した広告宣伝活動が大規模に行われてきた。 ザ・コカ・コーラ・カンパニーは、平成五年三月から、「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンを全世界的に一斉に開始した。このキャンペーンについても大規模な広告宣伝活動が行われ、日本でも、毎年五○億円を超える広告宣伝費を費やして広告宣伝活動が行われた。例えば、雑誌等の広告では、「止まって動いてまた止まっての……あいまにもオールウェイズ、コカ・コーラ」、「心があちこち遊び回っている……あいまにもオールウェイズ、コカ・コーラ」等のコピーが、コカ・コーラの缶やボトルの図柄とともに掲載された。そして、このキャンペーンの一環として、コカ・コーラの缶に、被告図柄一のとおり、「Always Coca−Cola」のキャッチフレーズが表示された。平成九年四月からコカ・コーラの缶のデザインが一新されたが、そこにおいても、被告図柄二のとおり、「Always Coca−Cola」のキャッチフレーズが表示された。 (三) 被告がコカ・コーラの缶に付している被告図柄一の態様は、別紙被告標章目録一記載のとおり、缶上に一か所、小さく白抜きの円弧が描かれ(その直径は、缶の高さの約六分の一程度である。)、その中に、コカ・コーラのボトルの図柄を背景とした「Coca−Cola」という文字が記載され、その上部に、円弧に沿って、小さな字で「ALWAYS」という白抜き文字が記載されている(その縦幅は小さな円弧の直径の約七分の一程度である。)図柄である。被告図柄二の態様は、別紙被告標章目録二記載のとおり、缶上に大きな円弧の上下一部が、缶の大きさに収まらない形で描かれ、円弧の中心に、コカ・コーラのボトルの図柄が描かれ、それを背景として円弧の中央を横切るように「Coca−Cola」という文字が大きく記載され、円内のその周辺に、カタカナ「オールウェイズ」、英語「always」、スペイン語「Siempre」、ポーランド語「zawsze」及びフランス語「Toujours」が小さく記載されており、そのうち、「Coca−Cola」の文字の上部には近接して「always」及び「オールウェイズ」の文字が記載され、「always」及び「Coca−Cola」は共に白抜き文字により構成されている。 右事実によれば、被告図柄一は、缶の一か所に、ごく小さく、「Coca−Cola」という文字の上部に「ALWAYS」という文字が記載されており、また、被告図柄二も、円弧の中心にコカ・コーラボトルの図柄及び「Coca−Cola」の文字が大きく強調され、その周囲に小さく「always」、「オールウェイズ」の文字が「Coca−Cola」の文字の上部に近接して記載されており、また「always」及び「Coca−Cola」の文字は共に白抜き文字により構成されたものであるから、被告図柄一及び二に接した一般の取引者、需要者は、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とコカ・コーラ商標とが一体の表記であるとの印象を受けることが認められる。 2 以上のとおり、@コカ・コーラについては、従来から、「Come on in.Coke」、「Yes Coke Yes」、「Coke is it!」、「I feel Coke.」、「さわやかになる、ひととき」等の様々なキャッチフレーズによるキャンペーンが実施されていたこと、「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」のキャッチフレーズは、これらのキャンペーンの一環として、平成五年から長期間にわたり、大規模に広告宣伝活動が行われてきたこと、A被告図柄一及び二において、前記のとおり、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、いずれも、著名商標である「Coca−Cola」に隣接した位置に、一体的に記載されていること、B「Always」ないし「オールウェイズ」が、「常に、いつでも」を意味することは、一般に知られているものと解されること、特に、被告図柄二においては、同一の意味を指すスペイン語「Siempre」、ポーランド語「zawsze」及びフランス語「Toujours」の語とともに記載されていること、C右キャッチフレーズは、ごく短い語句であるが、需要者が、いつも、コカ・コーラを、飲みたいとの気持ちを抱くというような、商品の購買意欲を高める効果を有する内容と理解できる表現であること等の事情に照らすならば、コカ・コーラの缶上に記載された本件欧文字表記及び本件カタカナ表記を見た一般顧客は、専ら、ザ・コカ・コーラ・カンパニーがグループとして実施している、販売促進のためのキャンペーンの一環であるキャッチフレーズの一部であると認識するものと解される。したがって、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、いずれも商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものとはいえないから、商標として使用されているものとはいえない。 なお、原告主張のとおり、ザ・コカ・コーラ・カンパニーが、自ら開設したインターネットのホームページにおいて「ALWAYS」アイコンが同社の商標であるとしていること、及び平成五年二月一日に、「ALWAYS」なる通常の字体による欧文字の標章につき、清涼飲料等の第三二類の商品を指定商品として商標登録出願していることが認められる(甲四、六)が、これらの事実があっても、なお、コカ・コーラの缶上における本件欧文字表記及びカタカナ表記が自他商品の識別のためのもの、すなわち商標としてのものであると認めることはできず、前記結論を左右するものとはいえない。 したがって、被告が、本件各表記を商標として使用していることを前提とする原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。 二 争点2(商標の類否)について 以上のとおり、原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく失当であるが、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記と本件登録商標との類否についても、付加して、検討する。 1 被告図柄一について 被告図柄一には本件欧文字表記が含まれているが、前記のとおり、被告図柄一は、缶に付されたごく小さい円形のマークであり、全体として一体のマークとしての印象を一般の取引者、需要者に強く与えるデザインであるというべきであるから、類否を判断するに当たっては、被告図柄一全体と本件登録商標とを対比すべきである。 そして、前記のとおり、@本件欧文字表記は、被告図柄一の外縁を描く小さな円弧の上部に、円弧に沿って、小さな文字で記載されているが、その縦幅は小さな円弧の直径の約七分の一程度であり、被告図柄一の中の「Coca−Cola」なる文字に比べて本件欧文字表記は小さく記載されていること、A円弧の中央には特徴的なコカ・コーラのボトルの図柄が描かれ、「Coca−Cola」の文字が円弧の中央を横切るように大きな文字で記載されていること、B更に、前記のとおりコカ・コーラ商標は著名であること等の事実に照らすならば、被告図柄一のうち、我が国の一般的な取引者及び需要者の注意を惹いて中心的な識別力を有する要部は、「Coca−Cola」の部分と解するのが相当である。 そうすると、被告図柄一の要部は、外観、称呼、観念のいずれにおいても本件登録商標と類似しないものであるから、被告図柄一は、本件登録商標と類似しない。 2 被告図柄二について 被告図柄二には本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が含まれているが、前記のとおり、被告図柄二は、円弧の中心にコカ・コーラボトルの図柄及び「Coca−Cola」の文字が大きく強調され、その周囲に小さく「always」、「オールウェイズ」等の文字が記載され、特に右二つの文字は「Coca−Cola」の文字の上部に近接して記載されており、また「always」及び「Coca−Cola」の文字は共に白抜き文字によって構成されていること、また、「Always Coca−Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンが長期にわたり大規模に行われていること等を考慮すれば、「always」及び「オールウェイズ」の部分と「Coca−Cola」の部分とは全体として一体の標章であるとの印象を我が国の一般的な取引者及び需要者に与えるものというべきであるから、類否を判断するに当たっては、被告図柄二全体と本件登録商標とを対比すべきである。 そして、@被告図柄二において「always」及び「オールウェイズ」なる語が「Coca−Cola」の文字よりも小さく記載されていること、A「Coca−Cola」の文字は、円弧の中央を横切るように、「always」及び「オールウェイズ」の文字より、極めて大きな文字で記載されていること、Bコカ・コーラ商標は著名であること等の事実に照らすならば、被告図柄二のうち、我が国の一般的な取引者及び需要者の注意を惹いて中心的な識別力を有する要部は、「Coca−Cola」の部分と解するのが相当である。 そうすると、被告図柄二の要部は、外観、称呼、観念のいずれにおいても本件登録商標と類似しないものであるから、被告図柄二は全体として、本件登録商標と類似しない。 三 したがって、原告の本件請求は、いずれも理由がないからこれを棄却する。 東京地方裁判所民事部第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人 別紙 登録商標目録 略 被告標章目録一 略 被告標章目録二 略 |
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