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【事件名】印刷用書体ゴナU対新ゴチック体U事件(2)
【年月日】平成10年7月17日
 大阪高裁 平成9年(ネ)第1927号 著作権侵害差止等本訴・同反訴請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成5年(ワ)第2580号、第9208号)
 (当審口頭弁論終結日 平成10年5月20日)

判決
東京都(以下住所略)
 控訴人(一審本訴原告) 株式会社写研
右代表者代表取締役 石井裕子
右訴訟代理人弁護士 花岡巖
同 新保克芳
同 木崎孝
大阪市(以下住所略)
 被控訴人(一審本訴被告) 株式会社モリサワ
右代表者代表取締役 森沢嘉昭
兵庫県(以下住所略)
 被控訴人(一審本訴被告) モリサワ文研株式会社
右代表者代表取締役 森澤公雄
右両名訴訟代理人弁護士 小林秀正
同 渡邊幸博


主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人株式会社モリサワは、原判決別紙目録(一)及び(二)記載の各書体を記録したフロッピーディスクその他の記録媒体の製造及び販売並びに右各書体を搭載した写真植字機用文字盤の販売をしてはならない。
3 被控訴人モリサワ文研株式会社は、前項記載の写真値字機用文字盤(ママ)を製造、販売してはならない。
4 被控訴人株式会社モリサワは、その占有する第2項記載の各書体の原字並びに同項記載のフロッピーディスク及び写真植字機用文字盤を廃棄せよ。
5 被控訴人モリサワ文研株式会社は、その占有する第2項記載の各書体の原字及び写真植字機用文字盤を廃棄せよ。
6 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、一六八〇万円及びこれに対する平成五年三月二六目から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
7 被控訴人株式会社モリサワは、控訴人に対し、七八〇〇万円及びこれに対する平成五年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
8 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
9 仮執行宣言
二 被控訴人ら
 主文と同旨
第二 当事者の主張
 当事者の主張は、以下に付加訂正するほか、原判決の「事実」のうち「第二 当事者の主張」の一ないし四に記載するとおりであるから、これを引用する。
一 原判決七頁一〇行目と一一行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「なお、著作権法で要求される美術の著作物の要件は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということだけであり、幼児が描いた絵であっても著作物とされるように、成果物の巧拙や見る者にどのような印象を与えるかということによって、著作物性の有無が左右されることはない。たとえ美的感興を呼び起こさなくても、審美感を満足させなくても、思想又は感情を創作的に表現した美術の範囲に属するものであれば、美術の著作物として保護されるのである。書体が美術の著作物と言えるためには「見る者の視覚に訴え、その美的感興を呼び起こし、審美感を満足させるもの」という特別の要件が必要であるとするのは誤りである。書体は、書体デザイナーが、デザインコンセプトを決めて、これを実現するために、一文字ずつ多大の時間と費用をかけてデザインしていくものであり、こうした創作活動の末に創り出される新たな書体は、デザイナーの思想又は感情を創作的に表現したものであり、著作物性を備えたものであることは明らかである。」
二 原判決一〇頁七行目と八行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「書体には、情報伝達機能が不可欠であるから、美術の著作物の代表である絵画などと比較して創作の自由度が狭いということはあるが、そのことは、著作物性の判断において書体のみに加重な要件を要求する根拠となるものではない。書体は、創作性の幅が絵画などよりも狭いために、既存の書体と類似した新書体が出てきたときに、これが、既存書体を複製したものか、それとも独自に一から創作したものかを判定するのが、絵画などに比べて難しいといった問題はあり得るかもしれない。しかし、真に創作性のある書体であれば、結果的に既存書体と酷似するということは起こらないのであり、具体的な書体に即して書体の創作性は判定し得るものである。
 書体は、印刷業界、出版業界、サインディスプレー業界、コンピュータ業界等では、著作物であると理解され、そのように扱われている(甲九〜一九)。そして、書体利用の実際は、印刷業者等が、書体の著作権者から書体を購入したり、あるいは有償で使用許諾を受け、この書体を利用して文字組として固定することにより「言語の著作物」が制作される。それ以後は、印刷機等によって大量に印刷されるが、その段階で書体の複製使用が問題にされることはない。これは、売買あるいは使用許諾契約によって印刷業者が正当に入手した書体で文字組固定した後の複製又は改変については、書体の著作権者が使用許諾(明示あるいは黙示の)を与えていると考えて良い(「用尽」と言っても良い)。以上のことは、業界の商慣行として古くから定着しており、何の混乱も起こっていない。したがって、出版された言語の著作物を複写によって利用する場合には、その言語の著作物が正当に入手された書体を用いて作成されたのであれば、書体著作権者の承諾を得ないで言語の著作物をそのままコピーしたとしても、書体自体のコピーについては少なくとも黙示の許諾があったものとみなすことができ、書体に著作権を認めたとしても、言語の著作物の利用に対する重大な支障になることはない。」
三 原判決一三頁六行目の「ている。」の次に「ここで同条約二条(7)項が締約国の国内法の定めるところにゆだねているのは、応用美術を著作物として保護するか意匠として保護するかという選択及び応用美術を著作物として保護した場合の具体的条件設定についてだけである。同条(6)項にいう「前記の著作物」には応用美術も当然含まれ、何らの限定も付されていないのであるから、同条約は、応用美術が同盟国において何らの保護も受けられないというようなことは認めていないのである。」を加える。
四 原判決一六頁五行目「特徴を有する」の次に「画期的な」を加える。
五 原判決二〇頁一〇行目と一一行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「(四) ゴナは、前述のとおり、既存のゴシック書体を基礎にしてそれを発展させたというものではなく、中村が、独自のデザインコンセプトで一から創作した極めて独創的な書体である。ゴシック体の範疇に属するものでも、多数の書体デザイナーが多数の書体を創作しており、書体デザイナーが、既存の書体を複製せず、一から自分の手で創作していけば、それぞれ個性の違った書体ができあがるものである。特に、中村が創作したゴナは、デザインコンセプトの一つとして挙げられているように、広い範疇でいえばゴシック体の中には入るが「従来のゴシック体にはない斬新」な書体を創ろうとして、一から創作したものであるため、それ以外の多数のゴシック体とは一線を画する極めて独創的な書体として高い評価を受けて、広く利用されているのである。独創性があったからこそ「ゴナ系」という言葉が生まれ、被控訴人らを初めとする各書体メーカーがゴナに追随する書体を次々と発表しているのである。
(五) 書体の特徴は、個々の文字の骨格やエレメントの形状、大きさ等の特徴の組み合わせ、その相互作用により表れてくるものである。前記(二)の(1)ないし(9)ほかの特徴がすべて備わっているというところにゴナの書体としての特徴、創作性があるのであって、個々の特徴を一つ一つ切り離して既存書体と比較検討するような分析方法では、書体としてのトータルの特徴を把握することはできない。ゴナの個々の特徴の中に過去の書体でみられたデザイン処理もあるとしても、だからといってゴナの特徴、創作性が否定されるものではない。ゴナは、甲第五一号証で「ゴナはグラフィック的に完成された無性格な「記号」的書体と言えます」と評価されているが、それ故にこそ、他の書体とは一線を画した特徴があり、独特の気分、ムード、思想、感情が表現されていると評価され、従来の書体とは全く異なる独創性のあるものとユーザーに認められて、数ある書体の中から特に選択され、広く利用されているのである。
 したがって、仮に美術の著作物に当たるためには「美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性」を必要とすると解するとしても、ゴナはこれを有するものである。」
六 原判決二二頁四行目の「は、」の次に「前記のとおり、画期的な書体であり、従来の角ゴシック体と明確に一線を画すものと理解されているのであって、」を、同頁六行目の「もとより、」の次に「大企業の社名や商品名の表示、」をそれぞれ加える。
七 原判決二七頁七行目と八行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「(4) 乙第四四号証で被控訴人が指摘するゴナと新ゴシック体の部首形態の相違は、極めて些細なものである。新ゴシック体を制作した小塚は、新ゴシック体のへんやつくりのデザインは自分が統一化したと証言し、また乙第四四号証の作成にも関与し、その部首ごとの両書体の差は大変大きな差であると証言しているのであるが(同人の証人調書四六丁裏四七丁表)、その大きな違いがあるはずの部首の文字が示されても、書体名の表示がなければ、当の本人でさえ、ゴナであるのか新ゴシック体であるのか全く区別できないのである(甲三九、右証人調書四七丁裏)。
(5) ゴナは、中村が既存の書体を参考とせず創作的に一文字ずつ作っていったものであるため、新規とは言えないデザイン処理が一部にあったとしても、書体全体として見れば、既存のゴシック体とは全く印象も骨格も異なるものとなっており、だからこそ、ユーザーから高い評価を得て、広く利用されているのである。これに対し、新ゴシック体は、ゴナに対抗する書体を作ろうという制作意図のもとに、ゴナを基にして、これに微細な改変を加えて制作されたものであるため、部分的にはゴナと異なるところもあるが、一般人をして、また、制作者である小塚をしても区別が不可能なまでに全体として極めて酷似した書体となっているのである。
(6) 新ゴシック体はゴナに対抗する書体として制作されたものであること、実際に出来上がった新ゴシック体の印象及び骨格が、極めてゴナに酷似している一方、他のゴシック書体とは大きく異なるものであること、そうであるにもかかわらず、被控訴人は、新ゴシック体を制作する際、専らツデイのみを参考にし、ゴナは全く参考にしなかったなどと強弁し、新ゴシック体制作の過程については極めて不自然な主張・立証に終始していること、乙第四四号証に挙げるような書体制作者自身にも区別できない部首の形態上の微細な相違点ばかり強調していること、などから、新ゴシック体が、ゴナを基にして、これに微細な改変を加えて制作されたものであることは、容易に認定できるものと言わざるを得ない。」
八 原判決三一頁八行目を削除する。
九 原判決三二頁四行目と五行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「同(四)の主張のうち、ゴナが独創的な書体であるとの主張は否認する。ゴナはありふれた書体である。乙第三二号証にみられる中村の文章は、次の三点を意味している。(1) ゴナの基本的なデザインコンセプトは、従来から存在する標準的な角ゴシック体を超特太にすることにあった。したがって、文字のふところの取り方、字面の大きさなどは、ゴナの制作以前から時代の推移に伴って次第に強調されてきている書体制作上の一般的傾向に倣ったものである。(2) ゴナの制作は、従来から存在する標準的な角ゴシック体を参考としてこれを太くすることによりされたものである。(3) その結果できあがったゴナは、右書体制作上の一般的傾向の流れの中の一書体として印象付けられるものである。
 また、ゴナ系なる分類は、ゴナが制作された当時もその後も一般的にされておらず、控訴人の提出する甲第四九号証、第五〇号証の記事は、特異というよりむしろ奇異な存在である。
 右のとおり、ゴナはその制作当時における書体制作上の一般的傾向に倣い制作されたものであって、控訴人の主張するゴナの特徴とは、右の一般的傾向そのものを指しているにすぎない。」
一〇 原判決三五頁五行目の文章に続けて次の文章を加える。
 「また、新ゴシック体のデザインの基本は、人間の文字を書く動作の軌跡の尊重であり、ゴナのそれは面の処理であって、両書体はこの点で大きく相違している。前記のとおり、書体のデザインの基本は、書体を構成する個々の文字に端的に表現されているのであるから、書体の類否の判断はそれぞれの書体に属する個々の文字の比較によって初めて可能であると同時に、それが唯一の方法である。」
第三 証拠関係
 本件原審記録及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、主位的請求、予備的請求とも理由がないものと判断する。その理由は、以下に付加訂正するほか、原判決の「理由」第一に説示するところと同一であるから、これを引用する。
 控訴人の当番における主張・立証をふまえて検討しても、右の判断を左右するには足りない。
二 原判決八〇頁三行目から八三頁四行目までを次のとおり改める。
 「2 美術の著作物は、絵画、版画、彫刻等、思想又は感情を創作的に表現した著作物であって美術の範囲に属するものをいう(著作権法二条一項一号、一〇条一項四号)。そして、著作権法二条二項の規定や同法制定の経緯等に照らせば、著作権法上美術の範囲に属するといえるためには、純粋美術あるいは艦賞美術の作品ということができる必要があり、実用品である美的創作物ないし応用美術作品については、原則として意匠法等工業所有権制度による保護にゆだねられているのであって、これらも広く著作権法上の美術の著作物に当たると解することはできない。しかし、客観的、外形的にみて純粋美術としての絵画等と何ら質的差異がなく、これらと同視し得るような創作物については、それが実用品であるからといって、およそ美術の著作物に当たらないとするのは相当ではない。創作の目的、創作後の現実の利用形態とは別に、その創作物を客観的にみた場合、社会通念上、実用性の面を離れて一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となり得ると認められるもの、純粋美術と同視し得るものについては、美術の著作物として保護されると解するのが相当である。
 本件で問題とされるゴナ等のようなタイプフェイス(印刷用書体)は、個々の漢字、仮名、アルファベット等の字体を実際に印刷などに使用できるようにするために、統一的なコンセプトに基づいて制作された文字や記号の一組のデザインであって、大量に印刷、頒布される新聞、雑誌、書籍等の見出し及び本文の印刷に使用される実用的な印刷用書体であり、その性質上、万人にとって読解可能で読みやすいといった文字が本来有する情報伝達機能を備えることが最低限必要であるとともに、何よりも重視されるものである。したがって、その形態については、そこに美的な表現があるとしても、情報伝達という実用的機能を十全に発揮し、特定の文字として認識され得るように、字体を基礎とする基本的形態を失ってはならないという制約を受けるものである。このような書体における創作性は、情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさ、読み手に与える視覚的な印象等の実用的な機能を発揮させることを目的とし、その目的にかなう手段として一定の特性を持たせるという側面が大きい。すなわち、このような書体は、字体を表現する具体的形態であり、印刷文字として人々の日常生活に利用されるものであるから、書体の制作者(デザイナー)は、その表現しようとする文字形態を、まず読者に読みやすく、分かりやすく、かつ、見た目にも美しいものとなるように、特定のコンセプトの下に制作しようとするものである。その制作において、制作者は、骨格の決定、文字を形成する縦線・横線等のウエイト、へん・つくりのバランス、はらい等のエレメントのバランス、字画の多少によるウエイトの調整等の工夫を行うものであり、それにはかなりの労力・時間・費用を要するものであることは推察するに難くない。しかしながら、書体は、右のとおり、字体を分かりやすく、読みやすいものとして表現しなければならないということから来る大きな制約があり、骨格の決定においても、字体から遊離することは許されないはずであり、文字を形成する縦線・横線等のウエイト、へん・つくりのバランス、はらい等のエレメントのバランス、字画の多少によるウエイトの調整等を工夫する面においても、その裁量の幅は大きくなく、また、過去に成立した各種書体からの大きな差異を創出する余地も余りないものといわなければならない。このような書体に内在する制約や書体の実用的機能にかんがみると、書体は、純粋美術として成立する「書」とはかなり趣を異にし、一般的に、知的・文化的活動の所産として思想又は感情を創作的に表現する美術作品としての性質まで有するに至るものではなく、これに著作権の成立を認めることは困難といわなければならない。
 また、仮に書体に著作権の成立を肯定すると、類似した著作権が、成立時期も不明確なまま、数多く、かつ、権利者が法人であれば五〇年、個人であれば更に長期にわたって成立し得ることとなり、その登録制度もない我が国においては、著しい混乱を誘発するおそれがあり、結果的に、広く利用されるべき文字の使用自体にも支障をもたらすおそれがある。さらに、このような書体が印刷物等における言語の著作物に常に伴う関係にあることからして、言語の著作物の利用にも支障を生ずる事態も考えられる。このような観点からも、書体について著作物性を肯定し得る余地があるとしても、相当の制約を受けざるを得ない。
 したがって、先に説示したとおり、それ自体が美的鑑賞の対象となるいわゆる「書」の範疇に入るようなものは格別、ゴナのような印刷用書体であってなお美術の著作物として著作権の保護を受けるものがあるとすれば、それは、文字が本来有する情報伝達機能を失うほどのものであることまでは必要でないが、その本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさ等とは別に、こうした実用性の面を離れてもなお当該書体それ自体が一つの美術作品として美的鑑賞の対象となり得ることが社会通念上認められるものでなければならないというべきであり、そのためには、一般的にいって、これを見る平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものである必要があるといえる。
 なお、控訴人は、書体に著作権による保護を与えても、字体の使用は自由であるから、何ら文字の独占になるわけではなく、他の人が表現の自由を奪われるということはない旨主張する。しかし、右のような要件を満たさない書体までが一般的に著作物として保護されることになれば、言語の著作物を印刷により出版することが一般的である今日、言語の著作物を出版する際に、書体の著作者の氏名を逐一表示しなければならないなどの対応を余儀なくされるばかりでなく、出版された言語の著作物を複写によって利用する場合、当該言語の著作物の著作権者の許諾だけではなく、印刷に使用された書体の著作権者の許諾をも受ける必要があり、また、出版された言語の著作物自体は著作権による保護の対象とならないもの(著作権法一三条)であるときでも、使用された書体の著作権者の許諾を受ける必要があることになり、著作権の存続期間が長期にわたることもあって、言語の著作物の利用に対する重大な支障になることは明らかであり、著作物等の「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図」るという著作権法の目的(一条)に反することにもなるといわなければならない。
 控訴人は、出版された言語の著作物を複写によって利用する場合には、その言語の著作物が正当に入手された書体を用いて作成されたのであれば、書体著作権者の承諾を得ないで言語の著作物をそのまま複写したとしても、書体自体の複写については少なくとも黙示の許諾があったものとみなすことができるから、書体に著作権を認めたとしても、言語の著作物の利用に対する重大な支障になることはないと主張するが、常に黙示の許諾があったとみなすことができるかどうかも問題であるばかりでなく、このような解釈を当然のようにする必要があるということは、それ自体、書体が、一般的に著作権による保護の対象になると解することを適当とせず、むしろ、そのような制限を伴った権利として法的保護の対象とすることを相当とするような性質のものであることを示すものということができよう。
 したがって、タイプフェイスが前記のとおり多くの労力、時間、費用を費やして制作されること等に照らしてこれに対する何らかの法的保護を与えることは検討に値するところであるとしても、前記のような限定もなく一般的に、現行著作権法による美術の著作物として保護の対象となるものと解することは困難である。」
三 原判決八四頁五行目の「外れるものではなく、」から同頁末行までを、「外れるものではない。別紙目録(三)(ゴナU)及び同(四)(ゴナM)記載の各書体のデザインに徴しても、その本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさ、印象等の面で、タイプフェイスとしての新規性ないし創作性を有していることを肯定することはできるとしても、それとは別に、当該書体それ自体がタイプフェイスとしての実用性の面を離れてもなお一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となり得ると社会通念上認められるほど、これを見る平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものというには未だ至っていないという外ない。したがって、ゴナは、現行著作権法上美術の著作物として著作権の保護を受けるものということはできない。」と改める。
四 原判決八八頁六行目の「ても、」の次に「前記のとおり、このような書体が多くの労力、時間、費用を費やして制作されること等にかんがみると、」を加える。
五 原判決九二頁一行目の「ファンタジータイプ」を『ファンシータイプ』に改め、同九四頁三行目の「記載がある。」の次に「また、現代デザイン事典一九九七年版(乙五一の2)には、「字面の大きなゴシック体も一九七〇−八〇年代(昭和四五年から五五年)の写植書体の流行であった。」との記載がある。」を、同一〇一頁一〇行目と一一行目との間に改行して「ウ 前記「マジック73(乙二五。ただし、第一画はわずかに右下がりの直線である)」を、同一〇六頁四行目の「繰り返して、」の次に「本訴被告らの主張2記載のような」を、同一一四頁八行目の「関しては、」の次に「ゴナでは、」を、同頁一〇行目の「明らかである。」に続けて「一方、右に掲げた各文字について、新ゴシック体では、「かぎ」の角部が直角に切り取られている。」をそれぞれ加える。
六 原判決一二一頁六行目と七行目との間に、改行して次の文章を挿入する。
 「(13) なお、甲第二八号証等を参照しつつ、ゴナ、新ゴシック体、ツデイを比較すると、右のほかに、例えば、@ 「四」や「西」の右のかぎが、ゴナでは直角に右縦線とつながっているのに対し、新ゴシック体では跳ね上がっていて右縦線と接していない、A 「下」の点が、ゴナでは、縦線と離れているか(ゴナM)、一部離れている(ゴナU)のに対し、新ゴシック体では縦線と完全に重なっている、B 「家」の右側の左はらいと右はらいのつながり方がゴナと新ゴシック体とで異なる、C 「外」の「ト」の右はらいの始筆が、ゴナでは「タ」と重なっているのに対し、新ゴシック体では離れている、D ゴナMでは「来」の点とはらいが下の線とつながっているのに対し、新ゴシック体Lでは離れている、E ゴナMでは「町」の「丁」が「田」とつながっているのに対し、新ゴシック体Lでは離れているなどの相違点がある。これらの点は、いずれも新ゴシック体とツデイとでは共通又は類似する点である。」
七 原判決一二五頁一行目から二行目にかけて「ならざるをえないこと」とあるのを「ならざるを得ず、そもそも、ゴシック体は、字形が同一の太さの線によって構成され、線に強弱がないため目に安定した感じを与えるなどの特徴を有する(乙五一の1)ところ、文字のふところを広くとり、かつ、仮想ボディの中で可能な限り最大に字面をとるといった当時の書体制作上の一般的傾向に従い、直線を主体とするモダンサンセリフという共通のデザインコンセプトに基づいて制作する以上、書体から受ける印象も類似せざるを得ないこと、これらの点が共通していても、骨格やエレメントの相違、例えば、斜めの線の角度や曲げ方などで書体の印象は変わり得るものであること(甲五一)、」に改める。
八 原判決一二五頁七行目の「新ゴシック体は、」の次に「直線を主体とすることにより斬新な感覚を備えたモダンサンセリフとするなどのデザインコンセプトの下で、文字のふところを広くとり、字面を仮想ボディいっぱいに構成するなどの形態を採ったこともあって、」を、同頁八行目の「存在し、」の次に「そのデザインコンセプトの設定自体からしても、」を加える。
第五 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部
 裁判長裁判官 小林茂雄
 裁判官 小原卓雄
 裁判官 川神裕
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