判例全文 line
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【事件名】「のびのび更年期」事件
【年月日】平成10年7月17日
 東京地裁 平成6年(オ)第9490号

判決


主文
一 被告Yは、原告X1に対し、27万5,674円及びこれに対する平成5年4月24目から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告Yは、原告X2に対し、7,837円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 被告Yは、原告X3に対し、7,837円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四 被告Yは、X4に対し、2万5,888円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
五 被告Yは、原告X5に対し、2万5,888円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
六 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用は、被告Yに生じた費用の8分の7、原告らに生じた費用及び被告株式会社海竜社に生じた費用を原告らの負担とし、被告Yに生じたその余の費用を被告Yの負担とする。
八 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告X1に対し、各自103万1,250円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告X2に対し、各自51万5,625円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告X3に対し、各自51万5,625円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは、原告X4に対し、各自134万7,500円及びこれに対する平成5年4月24目から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、原告X5に対し、各自134万7,500円及びこれに対する平成5年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告らは、共同して、別紙広告目録記載の謝罪広告を1回視載せよ。
7 訴訟費用は被告らの負担とする。
8 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告X1及び訴外Nは、医師でありカリフォルニア大学メディカルセンター産科・婦人科・生殖科学科助教授であるアメリカ人サジャ・グリーンウッド著「メノポウズ・ナチュラリー」1989年版(以下、「メノポウズ・ナチュラリー」1989年版を「原著89年版」という。)を翻訳した「のびのび更年期(副題 メノポウズ・ナチュラリー)」(以下「原告著作物」という。)を共同で著作し、原告X4及び同X5は、原告X1及び訴外Nから、原告著作物につき、出版権の設定を受け、昭和63年11月20日、原告著作物を出版した。
 「メノポウズ・ナチュラリー」は、その後、内容を一部改めたうえ、平成4年(1992年)、改訂版が出版された(以下、「メノポウズ・ナチュラリー」1992年版を「原著92年版」という。)。
2 訴外Nは、平成3年1月24日、死亡し、原告X2及び同X3が、その著作権を相続した。
3 被告Yは、「更年期からの素敵ダイエット」(以下「被告書籍」という。)を著作し、被告株式会社海竜社(以下「被告海竜社」という。)は、平成5年4月24日、被告書籍を出版した。
4(一) 被告Yは、原告著作物に依拠して被告書籍を著作した。
 被告Yは、原著92年版を参考にして被告書籍を著作したものであり、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものではないと主張する(後記二4(二))。しかし、原著92年版には、改訂により、原著89年版とは内容、表現の異なった部分がある。別紙1ないし7の「原告らの主張」欄の「依拠に関する主張」欄記載のとおり、原著92年版にはなく、原告著作物のみにある表現が被告書籍には用いられており、他方、原著92年版にのみあり、原告著作物にはない表現は被告書籍には用いられていないから、被告Yが原告著作物に依拠して被告書籍を著作したことは明らかである。
(二) 被告書籍には、別紙1、4、7ないし30の部分について、別紙1、4、7の「原告らの主張」欄の「複製又は翻案に関する主張」欄及び別紙8ないし30の「原告らの主張」欄記載のとおり、原告著作物と同一又は類似の表現がある。
(三) したがって、被告Yが被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告X1、同X2及び同X3が原告著作物に対して有する複製権が侵害され、複製権が侵害されなかったとしても翻案権が侵害され、また、原告X4及び同X5が原告著作物に対して有する出版権が侵害された。
5 被告らは、被告書籍の出版に際し、原告X1の氏名を表示せず、これにより、原告X1が原告著作物に対して有する氏名表示指が侵害された。
6(一) 被告Y及び同海竜社には、原告X1、同X2及び同X3の複製権、翻案権、原告X4及び同X5Hの出版権、原告X1の氏名表示権を侵害するについて、故意又は少なくとも過失がある。
(二) 被告Yが被告書籍を著作した行為と、被告海竜社がこれを出版した行為は、関連共同している。
7(一) 原告X1、同X2之及び同X3らの著作権者と原告X4及び同X5らの出版権者は、著作権者と出版権者の利益の配分割合を5対14とすることを約した。
 また、著作権者である原告X1、同X2及び同X3らの間の利益の配分割合は、2対1対1であり、出版権者である原告X4及び同X5の間の利益の配分割合は、1対1である。
(二)(1)民法709条、著作権法114条1項に基づき著作権者及び出版権者が損害賠償を請求する場合は、被告らが侵害行為により受けた利益の額が損害の総額と推定され、原告各自の被った損害の額は、右利益の額を右(一)の割合に基づき割り振った金額である。
(2) 被告海竜社が原告著作物の著作権等の侵害行為により受けた利益は、被告書籍の売上げ総額である386万4,100円であり、これは、侵害行為によって原告らが被った損害の額と推定される。
 そこで、原告各自の被った損害は、原告X1については、右の額の38分の5に当たる50万8,434円、原告X2及び同X3については、それぞれ、右の額の76分の5に当たる25万4,217円、原告X4及び同X5については、それぞれ、右の額の19分の7に当たる142万3,616円である。
(3) 被告Yが原告著作物の著作権等の侵害行為により受けた利益は、被告海竜社から被告Yに支払われた印税の額である86万2,500円であり、これは、侵害行為によって原告らが被った損害の額と推定される。
 そこで、原告各自の被った損害は、原告X1については、右の額の38分の5に当たる11万3,486円、原告X2之及び同X3については、それぞれ、右の額の76分の5に当たる5万6,743円、原告X4及び同X5については、それぞれ、右の額の19分の7に当たる31万7,763円である。
(三)(1)民法709条、著作権法114条2項に基づき著作権者が損害賠償を請求する場合は、通常使用料相当額が損害の総額とされ、原告X1、同X2及び同X3の各自が被った損害の額は、右通常使用料相当額を右(一)の割合に基づき割り振った金額である。
(2)原告X1、同X2及び同X3がその著作権の行使につき通常受けるべき金額は、書籍の売上げ総額の10パーセントであり、被告書籍の予想売上げ総額は875万円であるから、その10パーセントに当たる87万5,000円が通常使用料相当の損害の総額である。
 そこで、原告X1が被った損害の額は、右総額の2分の1に当たる43万7,500円であり、原告X2及び同X3が被った損害の額は、それぞれ、右総額の4分の1に当たる21万8,750円である。
8 原告X1は、氏名表示権の侵害により精神的損害を受けたものであり、その慰謝料としては50万円が相当である。
9 原告らは、本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したが、右費用のうち43万2,500円が、被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害であり、これを原告5名で按分した8万6,500円が、各原告の損害である。
10 原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求の遅延損害金の起算日は、被告らが被告書籍を出版し、原告著作物の著作権等を侵害した日である平成5年4月24日であり、原告らは、被告らに対し、同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
11 原告X1が、前記5のとおり氏名表示権を侵害されたことについて、原告X1の名誉を回復するためには、別紙広告目録記載の謝罪広告を1回掲載することが必要である。
12 よって、原告らは、被告らに対し、次のとおり求める。
 原告X1は、民法719条、709条、著作権法21条、27条(主位的に21条、予備的に27条)、114条1項、2項(主位的に114条1項、予備的に114条2項)、民法710条、著作権法19条1項に基づき、被告らに対し、複製権又は翻案権侵害の損害である50万8,434円、氏名表示権侵害の損害である50万円及び弁護士費用8万6,500円の合計109万4,934円の一部請求として、前記第一、一請求の趣旨(以下、単に「請求の趣旨」という)1のとおり金員の支払を求め、著作権法115条に基づき、請求の趣旨6のとおり謝罪広告の掲載を求める。
 原告X2は、民法719条、709条、著作権法21条、27条(主位的に21条、予備的に27条)、114条1項、2項(主位的に114条1項、予備的に114条2項)に基づき、被告らに対し、請求の趣旨2のとおり金員の支払を求める。
 原告X3は、民法719条、709条、著作権法21条、27条(主位的に21条、予備的に27条)、114条1項、2項(主位的に114条1項、予備的に114条2項)に基づき、被告らに対し、請求の趣旨3のとおり金員の支払を求める。
 原告X4は、民法719条、709条、著作権法80条1項、114条1項に基づき、被告らに対し、出版権侵害の損害である142万3,616円及び弁護士費用8万6,500円の合計151万0,116円の一部請求として、請求の趣旨4のとおり金員の支払を求める。
 原告X5は、民法719条、709条、著作権法80条1項、114条1項に基づき、被告らに対し、出版権侵害の損害である142万3,616円及び弁護士費用8万6,500円の合計151万0,116円の一部請求として、請求の趣旨5のとおり金員の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、原著92年版が出版されたことは認め、その余は不知。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実は認める。
4(一) 同4の事実のうち、原告著作物と被告書籍に、別紙1ないし30の各記載があることは、認める。
(二) 同4(一)のその余の事実は否認する。
 被告Yは、原著92年版を参考にして被告書籍を著作したものであり、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものではない。この点に関する被告らの主張は、別紙1ないし7の「被告らの主張」欄記載のとおりである。
(三) 同4(二)のその余の主張は争う。
(1) 別紙1、4、7ないし30の「被告らの主張」欄記載のとおり、被告書籍の別紙1、4、7ないし30の部分は、原告著作物と同一又は類似の表現ではないし、原告著作物の著作権等を侵害するものではない。
(2) 原告著作物と被告書籍は、版を異にするとはいえ、同じ原著に依拠するものであるから、本件は、単に原告著作物に依拠した著作権侵害の問題ではなく、同じ原典を翻訳した2つの書物の間で著作権侵害があるかどうかという問題である。
 原典を同じくするならば、プロットも文章も同様のものになるであろう。また、具体的に個々の訳文、訳語を比較検討してみると、双方が同じ原典に依拠していることにより生じ得るであろうと予想される程度を超えた一致が見られる場合があるが、その場合でも、全体として文体、語調に違いがあれば、全体としての著作権の侵害は認められない。本件においては、被告書籍は、全体として原告著作物とは違いがあるので、原告著作物全体に対する著作権侵害はない。
 一つの著作物の一部分に対する著作権侵害が成立するためには、その部分が独創性又は個性的特徴を備えていることが必要であるが、原告らが侵害を主張する原告著作物の対比部分は、原告著作物と被告書籍が同じ原典に依拠するものであることを考えると、いずれの部分も独創性又は個性的特徴を備えているとはいえないから、原告著作物の一部分に対する著作権侵害もない。
(四) 同4(三)の主張は争う。
5 同5の主張は争う。
6(一) 同6(一)の事実は否認する。
(二) 同6(二)の事実は否認する。
7(一) 同7(一)の事実は不知。
(二)(1) 同7(二)(1)の主張は争う。
(2) 同7(二)(2)のうち、被告書籍の売上げ総額が386万4,100円であることは認め、その余の主張は争う。
 被告海竜社は、被告書籍の出版により、60万9,860円の赤字が出たものであり、被告書籍の出版によって利益を得ていない。
(3) 同7(二)(3)のうち、被告海竜社から被告Yに支払われた印税の額が86万2,500円であることは認め、その余の主張は争う。
 被告Yは被告書籍を執筆するために印税の40パーセントの費用がかかったので、被告書籍の執筆により得た利益は、51万7,500円である。
 原告らが原告著作物の著作権等を侵害すると主張する部分は、被告書籍の中の5パーセントに過ぎないから、仮に侵害が認められたとしても、その損害は、被告Yの右利益の額の5パーセントに当たる2万5,875円である。
(三)(1) 同7(三)(1)の主張は争う。
(2) 同7(三)(2)の主張は争う。
8 同8の主張は争う。
9 同9のうち、原告らが本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したことは不知であり、その余の主張は争う。
10 同10の主張は争う。
11 同11の主張は争う。
12 同12の主張は争う。

理由
一 請求原因1の事実のうち、原著92年版が出版されたことは当事者間に争いがない。甲第1号証、第3号証、第6号証の1、6、13、15、27、第8号証、第9号証及び弁論の全趣旨によると、請求原因1のその余の事実が認められる。
二 弁論の全趣旨によると、請求原因2の事実が認められる。
三 請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。
四 請求原因4について
1 原告著作物と被告書籍に、別紙1ないし30の各記載があることは当事者間に争いがない。
2 依拠について
(一) 被告Yは、被告書籍を著作するに当たって原告著作物に依拠したことを否認し、被告書籍は原著92年版を参考にして著作したと主張し、同被告は、同被告本人尋問において、同旨の供述をする。
(1)そこで、まず、別紙1ないし7の部分について、右の点を検討すると、次のとおりである。
@ 別紙1の部分について
 甲第8号証、第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当個所の記述は、a year after it(終わった後の1年)であったが、原著92年版の該当個所は、a year or two after it(終わった後の1、2年)と、幅をもつ記述に変更されたことが認められるところ、被告書籍の別紙1の部分には原著92年版の該当個所のようには書かれておらず、原告著作物と同様に、「終わった後の1年」と書かれている。
 被告Yは、同被告本人尋問において、産婦人科医に確かめて、「終わった後の1年」と記載したと供述する。しかし、更年期がどのような期間をさすかということは、被告書籍の別紙1の部分のうちで最も重要な事項の一つであるから、被告Yが原著92年版の該当個所を参照していたとすれば、更年期が最後の月経が終わった後の1ないし2年をさすという右原著の記述をあえて変えたものとは考えられず、むしろ、その部分を忠実に被告書籍に記載したであろうと考えるのが自然である。また、もし、原著92年版を参照していたにもかかわらず、被告書籍のように書いたとすれば、右原著の記述を変えた方がよいと判断するための根拠となる医学的情報を得ていたはずであるが、被告Yの供述によれば、産婦人科医に確かめたという程度の根拠しか示されておらず、医学的情報を、原著以外のどのような書物から得たかという点についても明確な指摘がない。そうであるとすれば、原著92年版を参照していたにもかかわらずなお右原著の記述を変えて被告書籍を書いたとは認められず、被告Yの前記供述は、信用することができない。
A 別紙2の部分について
 甲第8号証、第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当個所には、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたという記述があるが、原著92年版の該当個所では、これらの記述は削除され、「体は疲れ緊張し、落ち込んでしまった」という記述に変更されたものと認められるところ、被告書籍の別紙2の部分には、原告著作物と同様に、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたということが書かれている。
 被告Yは、同被告本人尋問において、更年期の母親が娘にあたるということ又は医師にホルモン剤を処方されて乳房が張ったり頭痛がしたということは、更年期の逸話としてよくあり、被告Y自身の着想により、そのような逸話を被告書籍に挿入した旨の供述をする。しかし、更年期の母親が娘にあたるということ又は医師にホルモン剤を処方されて乳房が張ったり頭痛がしたということが更年期の逸話としてあり得るとしても、原著92年版を参照したうえで、その「体は疲れ緊張し、落ち込んでしまった」という記述の代わりに右のような逸話を挿入するということは、通常容易に想起し得るとは考えられないから、被告Yの前記供述は、信用することができない。
B 別紙3の部分について
 甲第8号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当個所には、「最近では癌の危険をできるだけ少なくするため、月の最後の10日間はエストロゲンのほかにプロゲスティンも加えたほうがよいことが明らかになっている」という記述があったが、原告X1は、訴外Nと相談のうえ、当時の実情に合わせ、原著では10日間となっていた日数を、10日ないし14日としたことが認められる。甲第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著92年版の該当個所では、癌の種類が子宮癌と特定されており、日数については、毎月10日間と書かれ、月の最後のという限定はなくなっており、さらに、プロゲスティンを毎日服用する女性もいるということが付け加えられて記載されていることが認められる。しかるところ、被告書籍の別紙3の部分には、原告著作物と同様に、癌の種類は特定されておらず、日数について「月の最後の10〜14日間」と書かれており、プロゲスティンを服用する女性もいるということは書かれていない。
 被告Yは、医師の意見などを聞いて、日数を「10〜14日間」とし、癌を子宮癌に特定しなかったと主張する。しかし、甲第2号証によると、被告書籍の別紙3の部分は「ホルモン剤はやせるけれど危険」という表題のもとに、ホルモン剤の発癌性を指摘し、その危険を防止するためにプロゲスティンを加えることがよいとされていると述べている部分であることが認められ、どのような種類の癌の危険性があるか、発癌の危険性を防止するためにどのようにプロゲスティンを服用するのがよいかは、右部分において重要な事項であるから、被告Yが原著92年版を参照していながら、右のような異なる記述をするとは考えられず、被告Yの右主張を採用することはできない。
C 別紙4の部分について
 甲第8号証、第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当箇所には、「ほてりの感じは2〜3分でおさまる」、「人によっては1時間も続く」という記述があるが、原著92年版の該当個所では、原著89年版の「2〜3分」が「1〜5分」に変更され、「人によっては1時間も続く」という記述は削除されていることが認められるところ、被告書籍には、原告著作物と同様に、ほてりの続く時間として「2〜3分」と書かれ、「人によっては1時間も続く」と書かれている。
 被告Yは、同被告本人尋問において、同被告自身がほてりが1時間続き、他にもそのように言う者がいたことから「人によっては1時間続く」ということを書いたと供述するが、「1〜5分」という原著92年版の記述を「2〜3分」と書き換え、原著92年版にない「人によっては1時間も続く」ということを書き加えたことの理由としては極めて曖昧であり、同被告の右供述は、信用することができない。
D 別紙5の部分について
 甲第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著92年版の該当個所には、別紙5の該当部分の後に、「ほてりで眠れないという問題があるときは、日中運動をして、夜暖かい風呂に入り、夕食のときアルコールやカフェインを避け、寝る前に牛乳かヨーグルトをとると、眠れないという問題はやわらぎます。ほてりは、まだ月経がある期間に始まることが多いのです。特に月経中に起こります。」という内容の記述があることが認められる。しかし、被告Yがフードドクターであり栄養学の専門家であるからといって、被告Yが原著92年版を参照していた場合には、右記述を被告書籍に必ず書くとまで認めることはできない。したがって、被告書籍に右記述がなかったとしても、そのことは、被告Yが原著92年版を参照していないということの根拠にはならない。
E 別紙6の部分について
 甲第8号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当部分には、原告著作物の別紙6の部分と同旨の記述があったことが認められ、甲第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著92年版の該当部分には、「白人女性の約25パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。アジア人女性の方が白人よりいく分リスクが小さく、いちばん危険が少ないのはラテン系と黒人の女性です。黒い肌と太くて丈夫な骨とは相関関係があると考えられています。」という記述があることが認められるところ、被告書籍の別紙6の部分には、原著92年版の該当個所の内容は書かれておらず、黒人以外の女性の25パーセントが骨粗鬆症にかかるという、原告著作物と同じ趣旨の記載がされている。
 被告Yは、被告書籍の「黒人以外の女性」という部分は、原著92年版の「白人女性」、「アジア人女性」、「ラテン系の女性」という記述を言い換えたものである旨を主張する。しかし、前記のとおり、原著92年版の該当個所は、「白人女性の約25パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。」という記述であるから、それを参照していながら、「黒人以外の女性はその25%が重い骨粗鬆症にかかると言われます。」と記述することは不自然であって、被告Yの右主張は、採用することができない。また、被告Yは、同被告本人尋問において、白人、アジア人、黒人ということは一種の差別であり、書きたくないから、「黒人以外」と書いた旨供述している。しかし、被告Yが人種で区別したくないという考えを持っているとしても、原著92年版に「白人女性」と書かれているところを殊更書き換えて「黒人以外の女性」としたというのは不自然であって、被告Yの右供述を信用することはできない。
F 別紙7の部分について
 甲第8号証及び弁論の全趣旨によると、原著89年版の該当個所において、表は、線で上下に分けられており、線の上側に重要な項目が記載されており、線の下側にあまり重要でない項目が書かれていること、遺伝的、医学的要因の最初の項目は、「黒人以外の人種に属している」であることが認められ、甲第9号証及び弁論の全趣旨によると、原著92年版の該当個所の表においては、重要な項目とそうでない項目の区別がされず、遺伝的、医学的要因の最初の項目は、「白人(又はアジア人)」であることが認められるところ、被告書籍の別紙7の表は、原告著作物の表と同様に、あまり重要でない項目に*印が付けられ、遺伝的の医学的要因の最初の項目が「黒人以外の人種に属している。」と書かれている。
 被告Yは、同被告本人尋問において、同被告の考えで、重要でないと思われる項目に*印を付けたと供述している。しかし、被告Yの供述によっても、重要な項目とそうでない項目をどのような基準で分けたかについては明らかではなく、それにもかかわらず、どの項目が重要か否かについて、原著89年版の判断と被告Yの判断が一致するのは不自然であるし、甲第8号証及び弁論の全趣旨によると、そもそも原著89年版においても、重要な項目とそうでない項目は、線の上下に書き分けることにより区別されており、*印であまり重要でない項目を示すことは、原告X1らが工夫したところであると認められるから、原告著作物を参照せず、原著92年版を参照しただけで同様の工夫を着想したというのも不自然であって、被告Yの前記供述は、信用することができない。
(2)弁論の全趣旨によると、原著89年版に記載されておらず原著92年版にのみ記載されている部分で、原告著作物には記載されておらずかつ被告書籍に記載されている部分は、存在しないことが認められる。
(3)以上によると、被告Yが原著92年版を参照したと認めることはできず、右認定の各事実(右(1)Dを除く)は、被告書籍が原告著作物に依拠して作成されたことを推認させるということができる。
(二)右(一)で述べたところに、後記3(一)ないし(三)のとおり、被告書籍には、表現が原告著作物と同一の部分があることを合わせ考えると、被告Yは、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものと認められる。
3 表現の同一性又は類似性について
(一)被告書籍が原告著作物の複製権を侵害したものであると認められるためには、被告らが原告著作物に依拠して被告書籍を作成し、かつ、その被告書籍が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであることが必要であり、また、被告書籍が原告著作物の翻案権を侵害したものであると認められるためには、被告らが原告著作物に依拠して被告書籍を作成し、かつ、原告著作物における表現形式上の本質的な特徴を被告書籍から直接感得することができることが必要である。そして、出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有するものであるから、被告書籍によって複製権が侵害される場合には、同時に出版権も侵害されるものと認められる。
(二)ところで、甲第18号証及び弁論の全趣旨によると、原告著作物は、日本の読者の理解を容易にするために、原著89年版の原文をそのまま翻訳することなく、別の語句に言い換えたり、右原著にない語句を補ったりした部分があるものの、全体としては、原文にほぼ忠実に翻訳しているものと認められる。そうであるとしても、翻訳に当たっては、多くの訳語の中から、語句を選択し、その順序や配列を考えて行うことが必要であり、そこに創作性が認められるから、原告著作物は、全体として創作性を有するものであるが、原告著作物の創作性は、主に、以上のような語句の選択、配列にあるということができる。全体の構成、論理の展開、説明の方法などについては、原告著作物は、原著89年版に依っているのであるから、原告著作物にそのような点について創作性を認めることは困難である。そこで、以上のような観点から、別紙1、4、7ないし30の部分につき、被告書籍の該当部分が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるか、又は原告著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得させるといえるかどうかについて検討することとする。
(1)被告書籍の該当部分と原告著作物の表現の類似性が高いと考えられるところについて検討する。
@ まず、原告著作物と被告書籍の別紙1の部分を対比する。
 被告書籍の別紙1の部分の「更年期がくると実際に何が起こるのでしょうか。」、「英語でメノポウズ(menopause)といいますが」、「つまり閉経ということ」、「最終月経前の2〜3年と、終わったあとの1年をさして」、「卵巣から出るホルモンの量が次第に減少し、それにつれて月経は不規則になるのですが、やがてなくなります。」という部分は、原告著作物の別紙1の部分の「更年期がくると実際何が起こるのでしょうか。」、「英語のメノポウズ(menopause」、「つまり閉経ということば」、「最後の月経までの2〜3年と終わったあとの1年を合わせた」、「卵巣からでるホルモンの量が減るにつれて、月経は不規則になり、やがてなくなります。」という部分と、語句の選択、配列に共通性が認められ、被告書籍の別紙1の部分は、それらの共通性が認められる部分がほとんどを占めているから、被告書籍の別紙1の部分は、原告著作物の内容及び形体を覚知させるに足りるものであるということができ、それを複製したものと認められる。
A 次に、原告著作物と被告書籍の別紙7の部分を対比する。
 原告著作物の別紙7の部分の個条書きの表題は、「遺伝的・医学的要因」と「ライフスタイル上の要因」であり、被告書籍の別紙7の部分の個条書きの表題は、「遺伝的の医学的要因」と「ライフスタイル上の要因」であり、表現はほぼ同一である。
 原告著作物の別紙7の部分の遺伝的・医学的要因の項目のうち、1番目の「黒人以外の人種に属している」、4番目の「やせている(とくに背が低い場合)」、7番目の「腎臓透析を行なっている」、ライフスタイル上の要因の項目のうち、1番目の「アルコール摂取量が多い」、3番目の「運動不足j、8番目の「出産の経験がない」は、被告書籍の別紙7の部分においても、全く同一である。
 その他の項目についてみると、原告著作物の別紙7の部分の遺伝的・医学的要因の項目は、2番目が「過去に大事には至らなかった程度の骨折をしている」、3番目が「骨粗鬆症の女性が親類にいる」、6番目が「慢性下痢や胃ないし小腸の一部を外科手術でとっている」、8番目が「コルチゾンを常用している」、9番目が「甲状腺剤(1日2グレイン以上)やジランチン(抗てんかん剤)ないしアルミニウム含有の制酸剤を常用している。」であるのに対し、被告書籍の別紙7の部分の遺伝的の医学的要因の項目は、2番目が「過去に骨折している(大事に至らない程度のもの。)。」、3番目が「骨粗鬆症の女性が家族、親類にいる。」、6番目が「慢性下痢、胃や小腸の一部を外科手術でとっている。」、8番目が「コルチゾン(副腎皮質ホルモン)を常用している。」、9番目が「甲状腺剤やジランチン(抗てんかん剤)、アルミニウム含有の制酸剤を常用している。」である。また、原告著作物のライフスタイル上の要因の項目は、2番目が[たばこをすう」、4番目が「食生活でのカルシウム分不足」、5番目が「日光や食事や錠剤からとるビタミンDの不足」、6番目が「高蛋白の食生活」、7番目が「高塩分の食生活」、9番目が「カフェイン摂取量が多い(1日5杯以上)」であるのに対し、被告書籍のライフスタイル上の要因の項目は、2番目が「タバコを吸う。」、4番目が「食事中のカルシウム不足。」、5番目が「日光や食事、錠剤からのビタミンDの不足(ビタミンDはカルシウムの吸収をよくする)。」、6番目が「高たんぱく質の食事。」、7番目が「高塩分の食事。」、9番目が「カフェインの摂取量が多い(1日5杯以上)。」である。これらの表現を比較すると、語句の順序の入換え、語句の加除、同意義語への置換えなどが見られるが、これらがあったとしても、語句の選択、配列は、大部分において共通しているということができるから、各項目とも、表現はほぼ同じである。
 また、原告著作物の別紙7の部分の末尾には、「(*印はその他のものほど重大な要因ではありません)」と記載されており、遺伝的・医学的要因の9番目の項目及びライフスタイル上の要因の9番目の項目の各末尾には「*」が付されているのに対し、被告書籍の別紙7の部分の末尾にも、「(*印は、その他のものほど重大な要因ではない)」と記載されており、遺伝的の医学的要因の9番目の項目及びライフスタイル上の要因の9番目の項目の各末尾には「*」が付されており、この部分についても、原告著作物と被告書籍の表現は、ほぼ同じである。
 したがって、被告書籍の別紙7の部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから、それを複製したものと認められる。
 なお、甲第2号証によると、被告書籍の別紙7の表の前には、「サジャ・グリーンウッド博士はその原因を次のようにあげています。」と記載されていることが認められるが、サジャ・グリーンウッドのどの著作からの引用か示されておらず、また、原告著作物からの引用であることの表示もないから、被告書籍の別紙7の部分は、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
B 次に、被告書籍の別紙12の部分の「ふつう生理が終わったあと2週間は体の動きは活発です。この時期に体の活動を刺激するエストロゲン(女性ホルモン)が一番多く分泌されます。そして排卵が終わり、卵巣からプロゲステロンが分泌されはじめると、活動がにぶり、食欲が出て食べる量がふえます。」という部分と原告著作物の別紙12の部分の「月経のある年代の女性についての調査では、月経が終わったあとの2週間が、からだの動きが活発になっています。この時期にからだの活動を刺激するエストロゲンがいちばん多くなるからです。排卵が終わり卵巣からプロゲステロンも分泌されはじめると、活動がにぶり、食べる量はふえます。」という部分を対比する。
 甲第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「からだの活動を刺激する」という表現は、もともと原著になく、訴外Nが加筆したものであることが認められるが、被告書籍には、この表現が、「からだ」という語を「体」という漢字に置き換えただけでそのまま使用されている。また、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列はほとんど共通しているものと認められ、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから、それを複製したものと認められる。
C 次に、被告書籍の別紙18の部分の「骨粗鬆症にかかった骨は、ちょっとした刺激で折れやすく、曲がりやすく、あるいは圧縮されやすくなりますから、痛みや運動障害をひき起こすのです。」という部分と原告著作物の別紙18の部分の「骨粗鬆症にかかると、骨は折れたり曲がったり、あるいは圧縮されやすくなるため、痛みや運動障害を引き起こします。」という部分を対比すると、被告書籍の右部分は、「ちょっとした刺激で」というところ以外は、原告著作物の右部分と語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
D 次に、被告書籍の別紙19の部分の「体内に摂取カルシウムが増加して、血液中から骨へ入ってくると、骨はかたく、強く、太くなります。」という部分と原告著作物の別紙19の部分の「カルシウムが増加して血液中から骨に入れば、骨は堅く強くそして太くなります。」という部分を対比する。
 甲第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「血液中から骨に入れば」という表現の原著の該当個所は、enter the bones from the blood streamであり、直訳すれば「血流から骨に入る」という表現であったところ、原告X1は、これを「血液中から」と意訳したこと、また、原告著作物の右部分の「堅く」という表現の原著の該当個所は、denserであり、「骨密度が高い」という意味であったが、原告X1は、これを「堅い」と意訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、これらの表現がそのまま使用されている。さらに、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
E 次に、被告書籍の別紙22の部分の「活力がわいてくる、体重が安定する、髪の毛にもツヤがでる、抜け毛が止まる、顔色がよくなる、歯ぐきからの出血が止まる、便秘が解消する、といった具合です。」という部分と原告著作物の別紙22の部分の「活力がわいてくるし体重も安定し、髪の毛のツヤも増して抜け毛は止まり、顔色がよくなって歯ぐきの出血もなくなるうえに、便秘もなおります。」という部分を対比する。
 甲第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「活力がわいてくる」という表現の原著の該当個所は、Energy increasesであり、普通であれば「元気が出てくる」、「エネルギーが増す」と訳されるが、原告X1が工夫して「活力がわいてくる」と訳したこと、原告著作物の右部分の「顔色がよくな」るという表現の原著の該当個所は、skin looks betterであり、普通であれば顔と限定せずに「肌(又は皮膚)のつやがよくなる」と訳されるが、原告X1が「顔」ということばを補い、「顔色がよくなる」と訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、これらの表現がそのまま使用されている。さらに、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
F 次に、被告書籍の別紙23の部分の「食事を低脂肪に変えることは、第二の人生を元気に送るために、非常に大切なことです。それは自己啓発をし、関心を怠らない必要があるとはいえ、活力に満ち病気に対する抵抗力がつくという点で、非常にやりがいのあることでしょう。子どもの時から低脂防食を始めるのが最善としても、更年期から始めても遅くはありません。心臓病の危険性が高くなるのは更年期からですし、低脂肪食、運動はそれまで以上に重要になります。」という部分と、原告著作物の別紙23の部分を対比する。
 甲第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「自己啓発」という表現の原著の該当個所は、self-educationであり、普通であれば[独学」と訳されるところ、原告X1が工夫して「自己啓発」と訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、この表現がそのまま使用されている。原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
 なお、被告書籍の別紙23の部分のうち、「カリフォルニア大学助教授のサジャ・グリーン・ワッド氏のアドバイスは、」という部分は、原著の著者であるサジャ・グリーンウッドの著作からの引用であることを示すものとも解されるが、サジャ・グリーンウッドのどの著作からの引用か示されておらず、また、原告著作物からの引用であることの表示もなく、さらに、被告Yの著作した文章と引用部分との区別が明らかでないから、被告書籍の別紙23の部分は、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
G 次に、被告書籍の別紙24の部分の「健康を保つため、塩分をできるだけひかえ、その代わりに玉ねぎ、にんにく、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味づけをしなさい」という部分と原告著作物の別紙24の部分の「健康をたもつため、塩分をひかえ、その代わりに玉ネギやニンニク、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味をつけたほうがよい」という部分を対比すると、これらの部分は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
 なお、被告書籍の右部分は、前後に、「アメリカ人は、」、「と言っていますが」と書かれているが、原著の著者であるサジャ・グリーンウッドの著作からの引用であることは示されておらず、また、原告著作物からの引用であることも表示されていないから、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
H 次に、被告書籍の別紙28の部分の「カフェインは女性の乳房にできる良性のしこりにも関係する」、「胸の特定の細胞成長因子を刺激するらしく、生理の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。カフェインをやめると4〜6ヵ月でしこりが殆ど消えることがあります。」という部分と原告著作物の別紙28の部分の「カフェインは女性の胸房にできる良性のしこりに関係があるといわれます。どうやら胸房にある特定の細胞成長因子を刺激するらしく、月経の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。胸房にしこりのある女性がカフェインを断つと、4〜6ヵ月でしこりはほとんどなくなることがよくみられます。」という部分を対比すると、原告著作物の「胸房」、「月経」ということばが被告書籍において「乳房」、「生理」ということばに置き換えられている他は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
 なお、被告書籍の別紙28の部分には、「と、アメリカのサンジャ・グリーンウッド博士は言っています。」、「博士によると」という記載があり、原著の著者の名前が示されているが、サジャ・グリーンウッドのどの著作からの引用か示されておらず、原告著作物からの引用であることの表示もないから、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
I 次に、被告書籍の別紙30の部分の「エストロゲンが充分にないと、骨のカルシウムは骨化より早い速度で溶けてくるのです。そこで骨は、もろくなり、折れやすくなってしまいます。なぜエストロゲンが骨を強くするか、まだ確かなことはわかりませんが、妊娠中にカルシウムが減りすぎないように骨を守り、授乳が終わって次の妊娠までに骨の再カルシウム化(骨化)を急速にすすめるためのメカニズムと考えられています。その時期には、必ずエストロゲンのレベルが高くなっているからです。」という部分と原告著作物の別紙30の部分の「エストロゲンがもはやたっぷりとはないとなると、骨のカルシウム分は骨化よりもはやい速度でとけます。そのため女性の骨は軟化し、もろくなり折れやすくなるのです。なぜエストロゲンが骨をじょうぶにするという重要な役目をもつのでしょう。確かなことはわかりませんが、おそらく妊娠中にカルシウムが減りすぎないよう骨を守り、授乳が終わってから次の妊娠までに骨の再石灰化をはやくすすめるためのメカニズムといえるでしょう。この時期になると体内のエストロゲンのレベルは高くなるのです。」という部分を対比すると、これらの部分は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
(2)別紙1、4、7ないし30の部分のうち、右(1)@ないしIにおいて検討した部分以外においても、原告著作物と被告書籍の間に、全体の構成、論理の展開、説明の方法を共通にし、又は文節若しくは単語の単位において語句を共通にするところが存在する。
 しかし、前記のとおり、原告著作物は、全体の構成、論理の展開、説明の方法などは、原著89年版に依っており、原告著作物にその部分について創作性を認めることは困難であるから、全体の構成、論理の展開、説明の方法に共通性があっても、それをもって原告著作物の複製、翻案であるとはいえない。また、文節又は単語の単位において見た場合には、原告著作物と被告書籍の語句が共通しているところが存するし、その中には、甲第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告X1又は訴外Nが独自の工夫をして翻訳した部分と認められるもの(例えば、別紙9の「明るい更年期観」、別紙10の「更年期以降の元気」、別紙16の「からだのいうことに耳を傾け」など)も存する。しかし、そのような文節又は単語については、それのみでは、著作物性を認めることはできないから、それらが共通であるからといって、直ちに原告著作物の複製、翻案であるとはいえず、前後の文も含めて考えなければならない。
 そうすると、別紙1、4、7ないし30の部分のうち、右(1)@ないしIにおいて検討した部分以外は、共通する語句が一部に存在するとしても、ある程度まとまった部分として見た場合には、語句の選択、配列が異なっており、原告著作物の内容及び形式を覚知させ又は原告著作物の表現形式上の本質的な特徴を直接感得させるに足りるとはいえない。
(三)以上によれば、右(二)(1)@ないしIのとおり、被告書籍の別紙1及び7の部分の全部、被告書籍の別紙12、18、19、22、23、24、28、30の部分の各一部は、原告著作物を複製したものと認められる。
4 したがって、被告Yが被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告X1、同X2及び同X3は、原告著作物に対して有する複製権を侵害され、原告X4及び同X5は、原告著作物に対して有する出版権を侵害されたものと認められる。
五 前記四2及び3のとおり、被告書籍は、原告著作物に依拠して著作され、一部原告著作物を複製したものであるから、被告書籍中に、原告著作物の著作者である原告X1の氏名が表示されるべきであるところ、甲第2号証によると、原告X1の氏名は、被告書籍中に表示されていないものと認められる。
 したがって、被告Yが被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告X1が原告著作物に対して有する氏名表示権が侵害されたものと認められる。
六 被告書籍のうち、原告らの複製権、出版権、氏名表示権を侵害する個所(以下「侵害部分」という。)は、前記四3(二)(1)@ないしI、(三)のとおりであり、甲第2号証及び弁論の全趣旨によると、被告書籍のうち、侵害部分は、行数に換算して約2パーセントであるが、被告書籍は、更年期の女性に起こる身体的変化や症状を示し、それを医学的に説明したうえで、食事を中心とした対処法を明らかにすることを内容としており、被告Yの専門とする栄養学に基づく食事療法等を記述する前提として、更年期に関する医学的所見は、被告書籍の中で重要な位置を占めており、その部分に侵害部分が存することが認められるから、このようなことも考慮すると、被告書籍に対する侵害部分の寄与率は、5パーセントとするのが相当と認められる。
七1 以上の事実によると、被告Yは、被告書籍の一部に、原告著作物に依拠し、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを執筆したことについて、そのような認識があったものと認められるから、前記四4、五の侵害行為につき故意があったものと認められる。
2(一)被告海竜社(その代表者又は社員)が、被告書籍の一部に原告著作物を複製した部分があることを、被告書籍の出版前に認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
(二)被告海竜社(その代表者又は社員)は、出版社として、書籍の出版に当たり、他人の著作権、著作者人格権、出版権を侵害しないように注意する義務がある。
 ところで、甲第1号証、甲第6号証の1ないし25、27、第15号証、第18号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物は、昭和63年に初版7,000部が出版され,その後増刷されたこと、原告著作物の書評が昭和63年から平成元年にかけて雑誌等に掲載されたこと、原告著作物は、平成3年に日本で出版された書籍を紹介した日本書籍総目録に掲載されたこと、以上の各事実が認められる。これらの事実によると、原告著作物は、一定部数発行され、雑誌等で紹介されたことは認められるものの、一般に広く知られた書物であったとまでは認められないから、被告海竜社(その代表者又は社員)が平成5年に被告書籍を出版する際に原告著作物の存在を容易に知り得たとまでは認められない上、前記六のとおり、侵害部分の被告書籍に対する割合はわずかであることをも考慮すると、被告海竜社(その代表者又は社員)が、被告書籍の出版前に被告書籍の一部が原告著作物の複製権、出版権又は氏名表示権を侵害することを認識することができたとまでは認められない。
 したがって、被告書籍の出版によって、原告著作物に関する複製権、出版権及び氏名表示権を侵害することについて、被告海竜社に過失があったとまでは認められない。
八 被告Yが、被告書籍を著作したことにより、被告海竜社から86万2,500円の印税の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。
 被告らは、被告Yが被告書籍を執筆するために印税の40パーセントの費用がかかった旨を主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。
 被告書籍に対する侵害部分の寄与率は、前記六のとおり5パーセントであるから、右印税の金額の5パーセントに当たる4万3,125円が、複製権及び出版権の侵害による損害の額と推定され、本件においては、右推定を覆すに足りる事情は認められないから、4万3,125円が右損害の額と認められる。
九1 弁論の全趣旨によると、原告X1、同X2及び同X3の著作権者と原告X4及び同X5の出版権者は、著作権者と出版権者の利益の配分割合を5対14とすることを約したこと、著作権者である原告X1、同X2及び同X3の間の利益の配分割合は、2対1対1であり、出版権者である原告X4及び同X5の間の利益の配分割合は、1対1であること、以上の各事実が認められるから、損害も右の割合に従って、原告X1は38分の5、同X2及び同X3はそれぞれ76分の5、原告X4及び同X5はそれぞれ19分の7として割り振るのが相当であると認められる。
2 そうすると、複製権の侵害による損害は、原告X1につき5,674円、原告X2及び同X3につき、それぞれ、2,837円、出版権の侵害による損害は、原告X4及び同X5につき、それぞれ、1万5,888円であることが認められる。
一〇 甲第18号証及び弁論の全趣旨によると、原告X1は、被告らによる氏名表示権の侵害により精神的損害を受けたことが認められ、被告書籍に対する侵害部分の寄与率などを考慮すると、その慰謝料としては20万円が相当である。
一一 甲第18号証及び弁論の全趣旨によると、原告らは、本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したことが認められるが、右費用のうち10万円が、被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害と認められ、このうち各原告が被った損害は、原告X1につき7万円、原告X2及び同X3につき、それぞれ、5,000円、原告X4及び同X5につき、それぞれ、1万円であると認められる。
一二1 以上によると、損害の合計額は、原告X1について、複製権侵害の損害である5,674円,氏名表示権侵害の損害である20万円及び弁護士費用7万円の合計27万5,674円であり、原告X2及び同X3につき、それぞれ、複製権侵害の損害である2,837円及び弁護士費用5,000円の合計7,837円であり、原告X4及び同X5につき、それぞれ、出版権侵害の損害である1万5,888円及び弁護士費用1万円の合計2万5,888円であることが認められる。
2 原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求の遅延損害金の起算日は、不法行為の結果発生時、すなわち被告書籍が出版された平成5年4月24日であると認められ、原告らは、被告らに対し、同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
 著作権法ll5条は、著作者は、著作者人格権を侵害した者に対して、著作者の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができると規定しているが、右規定にいう著作者の名誉若しくは声望とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち、社会的な名誉声望を指すものであって、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないところ、原告X1の社会的な名誉声望が、被告書籍の著作及び出版によって、毀損されたものと認めるに足りる証拠はない。したがって、謝罪広告を求める請求は認められない。
 よって、原告らの被告Yに対する請求は、主文第1項ないし第5項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告海竜社に対する請求は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 中平健
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