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【事件名】映画「スウィートホーム」二次的使用契約事件(2) 【年月日】平成10年7月13日 東京高裁 平成7年(ネ)第3529号 損害賠償控訴請求事件 (原審・東京地裁平成7年(ワ)5194号) 判決 主文 一 本件控訴を棄却する。 二 控訴人が当審で拡張した請求を棄却する。 三 控訴費用及び当審での拡張の請求に係る訴訟費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一 当事者の求めた裁判 一 控訴人 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自、金二○三六万五九九○円及びこれに対する被控訴人株式会社伊丹プロダクション(以下、「被控訴人伊丹プロ」という。)については平成四年四月二八日から、被控訴人東宝株式会社(以下、「被控訴人東宝」という。)については同月一五日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人らは、原判決別紙映画目録記載の映画(以下、「本件映画」という。)の著作物について、販売及びレンタル用に作製したビデオカセットテープ(以下、単に「ビデオ」という。)及びレーザーディスク(以下、単に「ディスク」という。)の各原盤並びにその複製ビデオ及びディスクを廃棄せよ。 4 被控訴人伊丹プロは、本件映画の著作物について、テレビ放映用に作製したビデオカセットテープ(以下、「本件テレビ用ビデオ」という。)を廃棄せよ。 5 被控訴人らは、控訴人に対し、各自、金五○○万円及びこれに対する被控訴人伊丹プロについては平成四年四月二八日から、被控訴人東宝については同月一五日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 6 被控訴人伊丹プロは、本件映画について、テレビ放映、有線テレビ放映、その他の劇場上映を除く一切の映画の利用行為を行ってはならない。 7 被控訴人伊丹プロは、控訴人に対し、金二○万円及びこれに対する平成二年一月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 8 訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人らの負担とする。 9 仮執行宣言 二 被控訴人ら 主文同旨 第二 当事者間に争いのない事実 当事者間に争いのない事実は、次のとおり、訂正、付加及び削除するほか、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」の「二 当事者間に争いのない事実」のとおりであるので、これを引用する。 一 原判決八頁の一行目から二行目にかけての「著作し、本件映画の監督業務を行ったとの限度で」を「著作した限度で」に改め、同二行目の「右事実を認めている。」の次に「また、被控訴人らは、伊丹が本件映画の総指揮の地位にあり、その地位に基づき、本件映画の編集、ダビング、特殊撮影や合成部分の仕上げ等の監督業務を行ったものであると主張している。」を加える。 二 同八頁の六行目の「ただし、」から一○行目の「争いがある。」までを削る。 三 同九頁九行目の「本件映画は、」の次に「ビスタサイズで製作されたうえ、」を加え、同行の次に改行して、次のとおり加える。 「(四)右(1)及び(2)の合計額の五○○万円は、本件映画の劇場公開後間もなく支払われ、このほか、控訴人は、その後、被控訴人伊丹プロから二○○万円の支払を受けた。」 四 同九頁末行から同一○頁一行目までの「被告東宝に対し、本件映画をビデオ化する権利を付与し、」を「販売及びレンタル用のビデオ及びディスクの各原盤を作製するとともに、その複製のビデオ及びディスクを作製し、」に改める。 五 同一○頁一行目の「複製し、」を削り、同行「頒布」の次に「(平成元年八月頃販売開始)」を加え、同行の次に改行して、次のとおり加える。 「本件映画のビデオ及びディスクの利用(販売及びレンタル)について、被控訴人東宝は、訴外株式会社イーティー(以下、「イーティー」という。代表取締役は、宮本信子こと池内信子。)との間で契約を締結した。ビデオの販売価格は一万三八○○円であり、ビデオのレンタルに伴って、イーティーは、被控訴人東宝から九○○二万九○一九円を受け取った。ビデオは、少なくとも二五七三本が販売された(販売本数は、右の限度で当事者間に争いがない。)。」 六 同一○頁二行目の「一月」の次に「二日」を加え、同行の次に改行して、次のとおり加える。 「(三) 控訴人は、被控訴人伊丹プロに対し、本件映画をビデオに複製して販売すること、本件映画のテレビ放映、有線テレビ放映その他の劇場上映を除く利用行為をすること(以下、これらを総称して「二次的利用」という。)を承諾していた(ただし、承諾した時期については争いがある。)。」 (四) 本件映画のビデオ化及びテレビ放映に際して、被控訴人伊丹プロは、別紙のとおり、トリミング及び改変(以下、「本件改変行為」という。)を行ったほか、テレビ・コマーシャルを挿入すべき箇所を指定して本件テレビ用ビデオを作製した(被控訴人東宝が共同して本件改変右行為を行ったかどうか、本件改変行為の結果、本件映画の従来の印象及び雰囲気が変更されたかどうかについては、争いがある。)。」 第三 当事者の主張 一 請求原因(なお、控訴人は、原審においては、@被控訴人らに対する、本件映画の脚本家としての著作権に基づく損害賠償請求、ビデオの販売等の差止及び廃棄請求並びに劇場上映以外の利用禁止請求、A被控訴人らに対する、本件映画の監督としての著作権に基づく損害賠償請求、ビデオ等の販売等の差止及び廃棄請求並びに劇場上映以外の利用禁止請求(予備的には、被控訴人伊丹プロに対する、債務不履行による追加報酬相当額の損害賠償請求)、B被控訴人らに対する、本件映画の監督としての著作者人格権(同一性保持権)に基づくビデオの販売等の差止及び廃棄請求並びに劇場上映以外の利用禁止請求、C被控訴人伊丹プロに対する、追加報酬支払合意に基づく本件映画の配収配分金額の報告等請求を求めていたが、当審において、次のように主張の整理がされた。) 1 被控訴人伊丹プロに対する脚本家及び監督としての請求(合意による追加報酬請求)について (一)(1) 控訴人と被控訴人伊丹プロは、遅くとも平成元年九月一一日(本件のビデオ複製が頒布された頃で、控訴人が伊丹から電話で「規定どおり支払います。」と言われた日)までに、二次的利用について、社団法人日本映画製作者連盟(以下、「映連」という。)の会員各社と原著作者三団体(協同組合日本シナリオ作家協会(旧名称・日本シナリオ作家協同組合)、協同組合日本脚本家連盟(旧名称・日本放送作家組合)及び社団法人日本文芸著作権保護同盟)及び協同組合日本映画監督協会(以下、「監督協会」という。)間で合意され、それぞれ締結された「申し合わせ」や「覚書」(以下、「本件覚書等」という。)の基準(ビデオ販売の場合は、販売本数の八○パーセントを対象としてその小売価格の一・七五パーセント、レンタルの場合は、レンタル価格の三・三五パーセント)に従い、追加報酬を支払うことを合意した。 (2) あるいは、右同日までに追加報酬の支払の合意がなされただけで、その金額が合意されなかったとしても、その金額は、右の合理的な基準によるべきである。この基準は、当時の商慣習法又は法例二条の慣習としても、法的効力を有するからである。 (3) あるいは、控訴人は、遅くとも、昭和六三年四月頃(本件契約締結の頃)までに、被控訴人伊丹プロに対し、ビデオ化につき選択権(これを行使すれば、ビデオ化をすることができ、かつ、追加報酬の支払義務を負うこととなるとの内容)を付与し、被控訴人伊丹プロは、その行使に伴い追加報酬支払義務を負担することに合意したところ、被控訴人伊丹プロは、平成元年九月一一日頃、右選択権を行使し、併せてその追加報酬額について、前記基準による旨の合意をした。 (4) 脚本家契約及び監督契約の映画業界における慣行については、原判決三○頁一○行目から同三四頁一○行までのとおりであり、被控訴人伊丹プロが二次的利用について右業界の慣行に従い追加報酬を支払う旨合意をした根拠については、原判決三四頁末行から同四○頁二行目までのとおりであるから、これを引用する。 (5) 本件映画の当初計画からビデオ発売前後までの経緯に関する被控訴人伊丹プロの主張及び映画業界における慣行に関する被控訴人伊丹プロの主張に対する控訴人の反論は、原判決四○頁三行目から同四二頁四行目までのとおりであるから、これを引用する。 (二) 追加報酬の金額 (主位的請求) ビデオ販売について 一万三八○○円(ビデオ販売価格)×五万七八八三本(販売本数)×八○パーセント×一・七五パーセント=一一一八万二九九五円 したがって、控訴人は、ビデオ販売に関して、脚本家及び監督としての報酬各一一一八万二九九五円の合計額から被控訴人伊丹プロから支払を受けた二○○万円を控除した二○三六万五九九○円の追加報酬請求権を有している。 (予備的請求) (1) ビデオ販売について 一万三八○○円(ビデオ販売価格)×二五七三本(販売本数)×八○パーセント×一・七五パーセント=四九万七一○三円 したがって、控訴人は、ビデオ販売に関して、脚本家及び監督としての報酬各四九万七一○三円の追加報酬請求権を有している。 (2) ビデオレンタルについて 九○○二万九○一九円(レンタルの場合のイーティーの受取金額)÷一五・四九パーセント(販売の場合のイーティーの受取金額割合)×三・三五パーセント=一九四七万○四四六円 したがって、控訴人は、ビデオレンタルに関して、脚本家及び監督としての報酬各一九四七万○四四六円の追加請求権を有している。 控訴人は、以上の合計額から支払を受けた二○○万円を控除した残額の内金二○三六万五九九○円を追加報酬として請求する。 (三) よって、控訴人は、被控訴人伊丹プロに対し、報酬合意に基づく追加報酬二○三六万五九九○円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四年四月二八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被控訴人東宝に対する不法行為(債権侵害)による損害賠償請求について 被控訴人伊丹プロは、本件映画のビデオ製作販売等による二次的利用に伴う脚本家及び監督としての報酬の追加支払に関する合意に基づき追加報酬支払義務を負担することになるところ、被控訴人東宝においては、被控訴人伊丹プロにその義務を履行する意思がないことを知りつつ、本件映画のビデオ製作販売契約に、本件映画の製作に何らの貢献もしていないイーティーを介在させて、本来被控訴人伊丹プロに支払われるべき販売金等の一部をイーティーに支払い、被控訴人伊丹プロによる支払義務の違反と控訴人の権利の侵害を助長し、その結果、控訴人の被控訴人伊丹プロに対する前記追加報酬債権二○三六万五九九○円を故意により侵害した。 よって、控訴人は、被控訴人東宝に対して、不法行為に基づき、二○三六万五九九○円及びこれに対する損害発生の日の後である平成四年四月一五日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 3 監督の著作者人格権に基づく廃棄請求について (一) 控訴人は、監督として、本件映画を製作し、同映画につき著作者人格権を有する。 (二) 被控訴人らは、共同して、本件映画について、控訴人の了解を得ずに、本件改変行為をした上、本件のビデオ及びディスクの各原盤並びにその複製のビデオ及びディスクを現に保持している。 (三) 被控訴人伊丹プロは、本件映画について、控訴人の了解を得ずに、本件改変行為をし、テレビ・コマーシャルの挿入箇所の指定をした本件テレビ用ビデオを現に保持している。 (四) 控訴人は、被控訴人らによる本件改変行為及びテレビ・コマーシャル挿入箇所の指定により、監督としての著作者人格権を侵害された。 (五) 本件改変行為については、別紙のとおりであるほか、原判決四二頁七行目から同四六頁七行目までのとおりであるから、これを引用する。 (六) よって、控訴人は、被控訴人らに対して、監督の著作者人格権に基づき、前記ビデオ及びディスクの各原盤並びに複製のビデオ及びディスクの廃棄を、被控訴人伊丹プロに対して、本件テレビ用ビデオの廃棄を求める。 4 監督の著作者人格権に基づく損害賠償請求について (一) 控訴人は、右3(一)のとおり、本件映画につき著作者人格権を有する。 (二) 控訴人は、被控訴人らによる前記の改変、複製及び頒布行為により、著作者人格権を侵害されて精神的苦痛を被り、その慰藉料は五○○万円が相当である。 (三) よって、控訴人は、被控訴人らに対し、監督の著作者人格権に基づき、五○○万円及びこれに対する損害発生の日の後である、被控訴人伊丹プロについては平成四年四月二八日から、被控訴人東宝については同月一五日から、それぞれ支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 5 脚本家の著作権に基づく差止請求について (一) 控訴人は、本件映画の脚本家として、同映画につき著作権を有する。 (二) 被控訴人伊丹プロは、控訴人の了解を得ずに、本件映画のテレビ放映をしており、今後も本件映画をテレビ放映、有線テレビ放映、その他劇場上映を除く利用行為に提供するおそれがある。 (三) 控訴人の著作権は、被控訴人伊丹プロによる右放映行為により、侵害された。 (四) よって、控訴人は、被控訴人伊丹プロに対し、脚本家の著作権に基づき、前記利用行為の差止を求める。 6 脚本家の著作権に基づく損害賠償請求について (一) 控訴人は、右5(一)のとおり、本件映画につき著作権を有する。 (二) 被控訴人伊丹プロは、右5(二)のとおり、控訴人の了解を得ずに本件映画をテレビ放映した。 (三) 控訴人の著作権は、被控訴人伊丹プロによる右のテレビ放映により、侵害され、使用料相当額の損害を被り、その金額は二○万円が相当である。 (四) よって、控訴人は、被控訴人伊丹プロに対し、脚本家の著作権に基づき、二○万円及びこれに対する損害発生の日の後である平成二年一月二日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する認否 (被控訴人伊丹プロ) 1 請求原因1について (一) (1) 請求原因(一)の(1)ないし(3)の事実は、否認ないし争う。伊丹が平成元年九月一一日に控訴人と電話で話をしたことはないし、「規定どおり支払います。」と述べたこともない。 (2) 控訴人が同(4)において主張する慣行及び合意成立について主張する慣行が映画業界全体の慣行となっていないこと、被控訴人伊丹プロが本件覚書等に従って追加報酬を支払う旨の合意をするはずがないことは、原判決二四頁七行目から同三○頁八行目までのとおりであるから、これを引用する。 (3) 本件映画に関する当初計画からビデオ発売前後までの経緯は、原判決一二頁八行目から二四頁六行目までのとおり(ただし、本件映画の二次的利用に係る主張を除く。前記のとおり、当審において、控訴人が、二次的利用について承諾したことは、当事者間に争いがなくなった。)であるから、これを引用する。 これらの事情によれば、被控訴人伊丹プロが追加報酬を支払う旨の合意をしていないことは明かである。 (二) 同(二)の事実は、否認ないし争う。 2 請求原因3について (一) 請求原因3(一)の事実は、認める。ただし、伊丹は、本件映画の製作総指揮の地位にあり、その地位に基づき、本件映画の編集、ダビング、特殊撮影や合成部分の仕上げ等の監督業務を行った。 (二) 同(二)ないし(四)の事実は、否認ないし争う。本件改変行為によっても、本件映画の従来の印象及び雰囲気が変わったものとはなっていない。また、被控訴人伊丹プロによる本件改変行為及びテレビ・コマーシャルの挿入部分の指定は、伊丹が、本件映画の製作総指揮の権限に基づき行ったものであり、控訴人も、少なくとも黙示的に承諾していたものであるから、著作権法二○条一項に規定する著作者の「意に反して・・・変更、切除その他の改変」をした場合には該当しないし、仮に該当するとしても、同条二項四号に規定する「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当する。特に、本件映画のシーン二六、五二及び七○(甲九一のカット表に基づく。以下、同じ。)の改変については、劇場公開後に再度修正することを、控訴人が事前に承諾していたものである。 (三) 同(五)の事実についての、被控訴人らの主張は、原判決四六頁九行目から同五二頁九行目までのとおりであるから、これを引用する。 3 請求原因4について (一) 請求原因4(一)の事実については、右2(一)において述べたとおりである。 (二) 同(二)の事実については、右2(二)において述べたとおりである。 4 請求原因5について (一) 請求原因5(一)の事実は、認める。ただし、本件映画の脚本は、控訴人と伊丹とが共同で執筆したものである。 (二) 同(二)及び(三)の事実は、否認ないし争う。 5 請求原因6について 請求原因6の事実については、右4において述べたとおりである。 (被控訴人東宝) 1 請求原因2について 請求原因2の事実は、否認ないし争う。 2 請求原因3について (一) 請求原因3(一)の事実は、認める。 (二) 同(二)、(四)及び(五)の事実は、否認ないし争う。被控訴人東宝は、現在、ビデオ等の原盤も、複製品も保持していない。 3 請求原因4について (一) 請求原因4(一)の事実は、認める。 (二) 同(二)の事実は、争う。 三 抗弁等 (被控訴人伊丹プロ) 1 監督の著作者人格権に基づく損害賠償請求に対する消滅時効について (一) 控訴人は、平成八年九月二五日付準備書面(平成九年四月二一日当審第七回口頭弁論期日陳述)において初めて前記の改変、複製及び頒布行為等を理由として、監督としての著作者人格権に基づく損害賠償請求をしたが、これは、本件映画のビデオの販売から七年一か月以上、本訴の提起(平成四年四月二日)から四年五か月以上を経過した後に主張されたものである。 したがって、控訴人の右請求権は、損害又は加害者を知りたる時より三年間を経過していることが明らかであり、被控訴人伊丹プロは、消滅時効を援用する。 (二) 控訴人が本件映画のビデオの販売時にはその内容を見ていなかったとの主張の点は、争う。 仮に見ていなかったとしても、控訴人は、原審の平成五年一二月一日付準備書面(平成六年二月二日原審第一三回口頭弁論期日陳述)において、本件映画のビデオの複製、販売及び貸与の差止請求を主張しており、その直前の平成五年一一月末頃までには、当該ビデオの内容を精査していたはずである。 ところで、本件映画のシーン二六及び五二の改変を理由とする損害賠償については、平成九年一月一六日付準備書面(平成九年四月二一日当審第七回口頭弁論期日陳述)において初めて主張されたものであり、控訴人がビデオの内容を精査してから三年一か月以上を経過しているから、少なくとも右主張に係る損害賠償請求権については、被控訴人伊丹プロは、消滅時効を援用する。 (三) なお、原審における前記差止請求が主張されたのは、本件映画のビデオの販売から四年四か月を経過しており、この時点で既に右損害賠償請求権は時効により消滅しているから、仮に控訴人が主張するように、右差止請求と右損害賠償請求が同一の事実を基礎としているとしても、損害賠償請求権については、時効の中断はしていない。 2 脚本家の著作権に基づく損害賠償請求に対する消滅時効について (一) 控訴人は、前記平成八年九月二五日付準備書面において初めて無許諾によるテレビ放映を理由として、脚本家としての著作権に基づく損害賠償を請求したが、これは、テレビ放映から六年八か月以上、本訴提起から四年五か月以上を経過した後に主張されたものである。 控訴人は、平成元年一二月末頃には、テレビ番組表を見て本件映画のテレビ放映を知っていたものであり、控訴人の右損害賠償請求権は、損害及び加害者を知りたる時から三年間を経過していることが明かであり、被控訴人伊丹プロは、消滅時効を援用する。 (二) なお、控訴人は、原審の前記平成五年一二月一日付準備書面において、本件テレビ放映の差止請求を主張しており、これは、本件映画のテレビ放映から三年一一か月を経過しているから、この時点で右損害賠償請求権は時効により消滅しており、仮に控訴人が主張するように、右差止請求と右損害賠償請求が同一の事実を基礎としているとしても、損害賠償請求権について時効の中断はしていない。 (被控訴人東宝) 監督の著作者人格権に基づく損害賠償請求に対する消滅時効については、被控訴人伊丹プロの主張と同一である。 四 抗弁等に対する認否 1 抗弁1について (一) 控訴人がビデオ化及びテレビ放映における前記改変、複製及び頒布行為等を理由として、監督としての著作者人格権に基づく損害賠償請求をしたのが前記平成八年九月二五日付準備書面であることは認める。 しかし、控訴人は、右ビデオの販売時にはその内容を見ておらず、本件改変行為に気づいたのは、右販売時ではない。 (二) 控訴人がビデオにおけるトリミング及び少女の顔の重合せによる改変(シーン七○)に気づいたのは、本訴の提起後であるから、この点に係る損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、早くとも右提起の日である。他方、控訴人は、前記平成五年一二月一日付準備書面において、前記トリミング及び改変を理由として、本件映画のビデオの複製、販売及び貸与の差止請求を主張していた。 このように、著作者人格権に基づく物的請求としての差止請求が係属した以上、同一の事実を基礎として、著作者人格権侵害の具体的行為及び対象を追加してこれに係る損害賠償を行っても、これは単なる攻撃防禦の方法の追加にすぎないから、差止請求を行った時点で、損害賠償請求権についても、時効が中断している。 (三) また、控訴人は、控訴審における検証期日(平成九年一月二四日)の直前に、その準備のために本件映画の劇場公開版のビデオを見て、本件映画のシーン二六及び五二の改変に気づいたものであり、その旨の主張は、前記平成九年一月一六日付準備書面で行っており、右改変に係る損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、早くとも右検証期日の直前であるから、消滅時効は完成していない。 2 抗弁2について (一) 控訴人が本件映画の無許諾によるテレビ放映を理由として、脚本家としての著作権に基づく損害賠償を請求したのが前記平成八年九月二五日付準備書面であること、控訴人が平成元年一二月末頃にテレビ番組表を見て本件映画のテレビ放映を知ったことは認める。 (二) しかし、控訴人は、前記平成五年一二月一日付準備書面において、本件映画のテレビ放映の差止請求を主張しており、テレビ放映による著作権侵害という事実を争っていたのであるから、これと同一の事実を基礎とする右損害賠償請求権については、差止請求を行った時点で時効が中断している。 第四 当裁判所の判断 一 本件契約に至る経緯等について 本件契約に至る経緯、本件映画について控訴人がなした脚本作成及び監督業務の内容、本件映画公開後の控訴人と被控訴人伊丹プロとの交渉の経緯並びに本件映画に関する映画及び脚本の著作権者の判断については、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の「一 争点1、2について」の1及び2(原判決五四頁四行目から八八頁一○行目まで)と同じであるから、これを引用する。 1 原判決五四頁一○行目の「二○、」の次に「二七、」を、「原告本人」の次に「(原審及び当審)」を、同一一行目の「被告伊丹プロ代表者玉置」の次に「、証人池内(当審)」をそれぞれ加える。 2 同七二頁一行目の「二八、」の次に「三五の1ないし36、」を、「四一、」の次に「九一、一○七、」を、「一五、」の次に「二七、二九、三一ないし三六、控訴人本人(当審)、証人池内(当審)、検証の結果(当審)」をそれぞれ加える。 3 同七八頁九行目から一○行目にかけての「取り仕切った。」の次に「控訴人は、このような伊丹の処理行為について特に異議を述べることなく進行してきた。」を加え、同頁末行の次に改行して、次のとおり加える。 「(3) 伊丹としては、本件映画の撮影終了後も、本件映画のうち、約三二コマにつき、特に、シーン二六(間宮夫人の部屋)、シーン五二(行き止まりの廊下)及びシーン七○(長い廊下)等の間宮夫人の亡霊に係わるショットについて、十分納得のできる状態ではないと判断していたことから、その撮り直し等も考慮していたものの、他方で本件映画の劇場公開の期日が迫っていたため、その時点では修正を保留し、将来のビデオ化、テレビ放映の際に更に手直しをすることとし、控訴人も、そのような伊丹の撮影、編集方針について、従前と同様に、特に異議を述べることなく了解していた。 (4) そして、伊丹は、ビデオ及びテレビ用ビデオの作製に際し、前記方針に基づいて、別紙のとおり、前記シーン二六については、一部のカットの差替えを行うとともに、燃えあがったスライドの中に焼け爛れた怪物のような女性(間宮夫人の亡霊)の顔が一瞬浮かび上がるものとし、シーン五二については、間宮夫人の亡霊を他のシーンと同様のものとし、シーン七○については、間宮夫人の亡霊の顔にエミの顔を重ね合わせたものとした。 (5) なお、本件映画の撮影に関しては、伊丹らはスタンダードサイズを主張していたが、控訴人がビスタサイズを強く主張したため、ビスタサイズで撮影された。」 4 同八三頁七行目の「原告本人」の次に「(原審)」を、「一一六項」の次に「、控訴人本人(当審)四一丁裏、四二丁裏、五一丁表」をそれぞれ加える。 二 合意による追加報酬請求(請求原因1)について 当裁判所も、本件映画の製作に伴う控訴人と被控訴人伊丹プロとの間での本件報酬の合意は、二次的利用に伴う対価を含めて合意されたものであり、これとは別個に二次的利用についての対価の支払合意をしたものと認めることはできない。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の事実及び理由の「第三 争点に関する判断」の「一 争点1、2について」の3ないし5(原判決八八頁末行から一二一頁末行まで)と同じであるから、これを引用する。 1 原判決九二頁六行目から七行目にかけての「甲二三の二、二三の四」を「甲二三の2ないし4」に改める。 2 同九三頁五行目の「作成」を「作製」に改める。 3 同九四頁末行、九五頁三行目、一○○頁三行目、一○一頁七行目及び一○三頁二行目の各「共同組合」を、それぞれ「協同組合」に改める。 4 同九六頁六行目の「甲六」の次に「、七四の1」を、同九七頁末行の「甲三○の一」の次に「七四の1」をそれぞれ加える。 5 同九八頁四行目の「被告伊丹プロ代表者伊丹」の次に「、証人池内(当審)」を加える。 6 同一○○頁五行目の「通して、」の次に「共通の手続きにしたがって、」を加える。 7 同一○一頁八行目の「甲一二」の次に「、七四の1」を加え、同行の「監督協会理事長」を「日本映画メインスタッフ連絡会代表」に改め、同一○二頁四行目の「通常である旨述べている(甲二五)。」の次に「また、監督協会事務局長の南場雄二も、同協会の会員が映連会員各社以外の映画製作者から映画のビデオ化に伴って追加報酬を受けた例が多数存在する旨述べている(甲七五、七六)。」を加える。 8 同一○七頁二行目の「副部長」を「副本部長」に改める。 9 同一○八頁三行目の「甲三九の資料八」の次に「、甲五五、五六」を加え、同頁八行目の「含ものであり、」を「含むものであり、」に改める。 10 同一一六頁二行目の「証人細越」の次に、「、証人池内(当審)」を加える。 11 同一二○頁末行の「1項a」を「1項b」に改める。 三 被控訴人東宝に対する損害賠償請求(請求原因2)について 控訴人の被控訴人東宝に対する損害賠償請求は、控訴人が被控訴人伊丹プロに対して追加報酬請求権があることを前提とするものであるところ、前記したように控訴人の追加報酬請求権が認められないのであるから、その余について判断するまでもなく、理由がない。 四 監督の著作者人格権に基づく廃棄請求(請求原因3)について 1 控訴人が本件映画の監督であること、被控訴人伊丹プロが本件改変行為を行い、販売及びレンタル用の本件のビデオ及びディスクの各原盤を作製するとともに、複製のビデオ及びディスクを作製したことは当事者間に争いがない。 2 そして、本件改変行為に関する経緯は、次のとおり付加、訂正及び削除するほか、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の「二 争点3について」の1(原判決一二二頁二行目から同一二六頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。 (一) 原判決一二二頁二行目の「三三、」の次に「三五の1ないし36、」を、「三六、」の次に「九一、一○三、乙二八、二九、」を、「被告伊丹プロ代表者伊丹」の次に「、控訴人本人(当審)、証人池内(当審)、検証の結果(当審)」をそれぞれ加え、同頁四行目及び五行目を削り、同頁六行目の「(二)」を「(一)」に、同頁九行目の「二・三五」を「二・五五」にそれぞれ改める。 (二) 同一二四頁九行目から一○行目にかけての「短所を考慮したうえで、」の次に「甲九一の全カット表のとおり、」を加える。 (三) 同一二五頁二行目の「本件映画のテレビ放送当時、」を「本件映画のビデオ化及びテレビ放映当時、」に改め、同行の「右Aの方法のみによって」の次に「ビデオ化される映画や、」を加える。 (四) 同頁五行目の「(三)」を「(二)」に、「(2)」を「(2)ないし(4)」にそれぞれ改める。 3 当裁判所も、本件映画のビデオ化に際しての本件改変行為のうち、少女の顔の重合せに関する部分については、著作権法二○条一項の「意に反して・・・変更、切除その他の改変」に該当せず、本件改変行為のその余の部分及びテレビ用ビデオの作製に際してのコマーシャルの挿入部分の指定行為については、いずれも、同条二項四号に規定する「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の事実及び理由の「第三 争点についての判断」の「二 争点3について」の2(一) (原判決一二六頁三行目から同一二八頁六行目まで)及び(三)(原判決一二九頁一行目から同頁八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。 (一)原判決一二七頁三行目の「行ったのであり、」から同頁五行目の「当たるものと認められる。」までを「行ったものである。」に改める。 (二) 同一二七頁五行目の次に改行して、次のとおり加える。 「(二) ところで、ビスタサイズの劇場映画をビデオに複製したり、テレビ放映するに際しては、トリミングしてスタンダードサイズに改変する必要があることは右に述べたとおりであるとしても、映画監督の了解なしに行って良いかどうかは別の問題である。 一般に、映画監督は、撮影する映画の視聴者に与える影響等を考慮して、スタンダードサイズとするか、ビスタサイズとするか、シネマスコープサイズとするかを考慮した上で選択しているものであり、そのサイズの改変は、当該映画の映画監督が事前又は事後に了解を与えていた場合や、同意を得ないでの改変も正当化されるような特段の事情が認められない限り、著作権法二○条一項に規定する「意に反」する「改変」に該当し、監督の著作者人格権を侵害するものであるからである。しかも、トリミングをするにしても、その具体的な方法としては、前記認定のとおり、種々の方法があるのであり、本件映画のトリミングに際しても、@の方法だけでなく、Aや、B方法も行われていたのであるから、監督の了解については、その具体的なトリミングの方法についての了解を得るか、同意がなくても改変できるような特段の事情の存在が必要と解される。本件映画について、対外的に「監督」として作品の評価を受けるのは、控訴人であって、監督である控訴人の了解を得ないで行う改変行為は、監督の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものといわなければならない(もちろん、本件映画は、被控訴人伊丹プロの作品としても、また、製作総指揮に当たった伊丹の作品としても、対外的な評価の対象となるから、被控訴人伊丹プロとしても、伊丹個人としても、その映画の内容や、構成に強く関心を持つことは当然であるとしても、それだけで、監督の了解を得ないでする改変行為が正当化されるものではない。また、本件映画の撮影の最後の段階では、伊丹が編集等を取り仕切っており、その段階では、控訴人が何らの異議も述べていなかったとしても、その段階では、編集内容等について、控訴人も意見を述べる機会があったのであるから、その段階で何らの異議を述べていなかっただけで、直ちに、その後の改変に同意をしていたことにはならない。)。 そして、本件では、具体的なトリミングの方法についても、控訴人が了解を与えていたことを的確に認めることができる証拠はない。 しかし、前記認定のとおり、控訴人は、本件映画がビデオ化されること、ビデオ化される際には、トリミングが行われることについて了解を与えていたこと、ビスタサイズの映画がビデオ化される際には、スタンダードサイズにトリミングされることが当時では通常であったこと、伊丹が、本件映画の製作総指揮として、本件映画の編集、ダビング、特殊撮影や、合成部分の仕上げ等の業務を行い、このような伊丹の編集等の参与について控訴人が特段の異議も述べていなかった事情を総合すると、本件改変行為当時としては、伊丹が、監督としての控訴人の了解を得ないでトリミングをしても差し支えないと判断し、その行為に出たとしても、本件改変行為当時としては、その行為は、妥当なものでなかったということはできず、著作権法二○条二項四号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するものと認めるのが相当である。伊丹としては、トリミングの具体的な方法について控訴人から一任を得るか、トリミングを行ったビデオについて控訴人に意見を述べる機会を与えることが当時としても望ましかったとはいえ、前記認定の本件映画の撮影完了に至るまでの経緯及び当時としてはビスタサイズの映画のビデオ化についてはトリミングが行われるのが通常であったことに鑑みると、伊丹が、本件映画の製作総指揮者あるいは本件映画の著作権者である被控訴人伊丹プロの代表者として、別紙の内容の改変を行ったとしても、当時としては、容認される程度のものと認めるのが相当である。」 (三) 同一二七頁六行目の冒頭に「(三)」を加え、同頁九行目の「その」を「同証拠中の」に改め、同一二八頁六行目の「述べるものではない。」の次に「さらに、映連と監督協会との間では、昭和五九年三月一日、劇場用映画の市販用ビデオ化の際のトリミングについて、映連各社は、トリミングの必要がある場合には、事前に通知し、その作業につき監督協会の会員の意思を尊重して行う旨の覚書が取り交わされており(甲一○、三九)、これによると、昭和五九年三月当時既に、映連加盟各社と監督協会との間では、映画のビデオ化の際のトリミングの方法が問題となっていたことが窺われるが、これは劇場用映画の市販用ビデオ化の際の追加報酬と同時に取り交わされたものであり、当時としては、本件覚書等が映連や、監督協会に所属していない者に対して直接の拘束力がないこと、また、映画業界の慣習となっていないことは、前記認定のとおりであるから、このような覚書の存在によって、トリミングなしでビデオ化することが通常であったと認めることはできない。」を加える。 (四) 同一二八頁七行目から同一二九頁八行目までを次のとおりに改める。 「(四) 本件映画の完成後、本件映画のビデオ化及び本件テレビ用ビデオの作製の際に、伊丹が、シーン二六(間宮夫人の部屋)、シーン五二(行き止まりの廊下)及びシーン七○(長い廊下)について、その一部の手直しをすること自体は、前記認定のとおり、控訴人が特に異議を述べることなく事前に了解していたものであり、実際に行われた別紙のとおりの改変も、その内容から控訴人の右了解の範囲内のものであることは明らかであるから、この改変行為は、著作権法二○条一項に規定する「意に反して・・・変更、切除その他の改変」行為に該当せず、したがって、監督の著作者人格権を侵害したものと認めることができない。 (五)(1) 伊丹が本件映画のテレビ放映に際し、販売及びレンタル用のビデオと同様にトリミングをした上、テレビ・コマーシャルの挿入箇所を指定した本件テレビ放映用ビデオを作製したことは当事者間に争いがなく、また、劇場映画を民間放送で長時間にわたり放映する場合には、テレビ・コマーシャルを挿入する必要のあることが通例であることは、弁論の全趣旨により認められる。そして、検証の結果(当審)によれば、テレビ・コマーシャルの挿入指定箇所は、六箇所であることが認められる。 (2) 一般に、テレビ・コマーシャルの挿入が必要であるとしても、著作者である監督の了解を得ないで行われたその挿入は、当然に正当化されるものではなく、その挿入の回数、時間、挿入箇所等の内容によっては、当該劇場映画が視聴者に与える印象に影響を及ぼすものと認められるから、その態様如何によっては、著作権法二○条一項に規定する「意に反」する「改変」に該当する場合があると解される。本件では、具体的なテレビ・コマーシャルの挿入箇所の指定につき、伊丹が、控訴人の了解を得たことを的確に認めることのできる証拠はない(本件映画の最終段階で、控訴人が、伊丹の編集等につき、特段の異議を述べていなかったとしても、それだけで、控訴人が具体的なテレビ・コマーシャルの挿入に了解していたことにならないことは、本件映画のビデオ化について述べたところと同じである。また、伊丹が本件映画の製作総指揮の地位にあることによって、改変行為を正当化することができないことも、本件映画のビデオ化について述べたところと同じである。)。 (3) しかし、前記認定のとおり、本件では、控訴人が本件映画のビデオ化、テレビ放映などの二次的利用を広く承諾していたものであり、その中には、当然、民間放送でのテレビ放映も含まれ、しかも、テレビ放映の際の六箇所のテレビ・コマーシャルの挿入部分の指定も、前記トリミング及び改変と同様、本件映画の製作総指揮として編集等を実質的に取り仕切った伊丹により慎重な配慮に基づいて行われたものであり、その回数、時間、挿入箇所等を併せ考えても、これらのテレビ・コマーシャルの挿入箇所の指定は、控訴人の了解の範囲内にあるものと認められるから、著作権法二○条二項四号に規定する「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変」に該当するものと認めるのが相当である(本件映画のビデオ化におけるトリミングと同様に、伊丹としては、事前に著作者人格権を有する監督としての控訴人に意見を述べる機会を与えることが望ましかったとはいえるが、それを怠ったからといって、「やむを得ないと認められる改変」に該当しないものということはできない。)。 (4) 控訴人は、六箇所のテレビ・コマーシャルの挿入のうち、別紙のとおりシーン六七(食堂)とシーン六八(地下通路)の間にテレビ・コマーシャルを挿入したことが音楽を中断させるものであって問題であると主張するが、この点を考慮するとしても、その他の挿入箇所に控訴人の指摘によっても特段の問題が認められない以上、本件映画のテレビ放映におけるテレビ・コマーシャルの挿入全体としては、右に述べたとおり、「やむを得ないと認められる改変」に該当するといわなければならない。 (六) 以上のとおり、監督の著作者人格権に基づく控訴人の廃棄請求は、認めることができない。」 五 監督の著作者人格権に基づく損害賠償請求(請求原因4)について 本件のビデオ及び本件テレビ用ビデオの作製におけるシーン二六(間宮夫人の部屋)、シーン五二(行き止まりの廊下)及びシーン七○(長い廊下)の改変が著作権法二○条一項に規定する「意に反して・・・変更、切除その他の改変」に該当しないこと、本件映画のその他のトリミング及び改変並びに本件テレビ用ビデオへのテレビ・コマーシャルの挿入箇所の指定が、少なくとも同条二項四号に規定する「著作物の性質並びにその目的及び態様に照らしやむを得ない改変」に該当することは、右に述べたとおりであるから、監督の著作者人格権に基づく控訴人の損害賠償請求は、その余について判断するまでもなく、理由がない。 六 脚本家の著作権に基づく差止請求(請求原因5)について 控訴人の右請求は、被控訴人伊丹プロが、控訴人の了解を得ないで本件映画のテレビ放映をしたことを前提とするところ、本件映画がテレビ放映されることにつき控訴人が承諾していたことは当事者間に争いがなく、また、本件報酬の合意が、本件映画の劇場上映のみならず、ビデオ化及びテレビ放映等の二次的利用に伴う対価も含めて合意されたものであることは前記認定のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、控訴人の右請求は、理由がない。 七 脚本家の著作権に基づく損害賠償請求(請求原因6)について 当審における控訴人の右請求も、被控訴人伊丹プロが、控訴人の了解を得ないで本件映画のテレビ放映をしたことを前提とするところ、本件映画のテレビ放映を控訴人が了解していたことは右に述べたとおりであるから、その余について判断するまでもなく、控訴人の右請求は、理由がない。 八 以上のとおり、控訴人の本件請求は、いずれも理由がなく、控訴人の本件請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴人が当審において拡張した請求も理由がないから、これも棄却することとし、控訴費用の負担及び当審における拡張に係る訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。 裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節 別紙 省略 |
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