判例全文 line
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【事件名】外国著作物使用料の源泉税事件(2)
【年月日】平成9年9月25日
 東京高裁 平成6年(行コ)第69号 源泉徴収所得税等決定取消請求控訴事件
 (一審・東京地裁昭和62年(行ウ)111号)

判決
控訴人 テレプランニングインターナショナル株式会社
右代表者代表取締役 藤田敦
右訴訟代理人弁護士 木村喜助
被控訴人 四谷税務署長 網野隆一
右指定代理人 中井國緒<ほか四名>


主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が昭和五八年一二月二四日付けでした別表1記載の内容の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし、別表2の昭和五六年九月分の処分のうちの順号欄02記載の金員の支払に関する処分、同年一二月分の処分のうちの順号欄03記載の金員の支払に関する部分及び昭和五八年一月分の処分を除く。)のうち、昭和五九年七月一○日付けの異議決定処分により取り消された後の部分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 本件課税処分の経緯
1 被控訴人は、昭和五八年一二月二四日付けで、控訴人に対し、別表1記載の各月分の源泉徴収に係る所得税につき、各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした(以下「本件各処分」という。)。
2(一) 控訴人は、昭和五九年二月二四日、被控訴人に対し、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。
(二) 本件異議申立ての範囲は、本件各処分の全部である。
 すなわち、本件異議申立書(乙第一号証)を見ると、本文と一体となっている添付一覧表には、本件各処分の全部が記載されており、これとこれを異議申立てから除くとか、これとこれにつき異議を申し立てるとかいう特別の指定はない。したがって、まず本件のすべての処分について異議申立てがあったものとして取り扱われるのが至当である。
 ただ、異議申立ての趣旨に、本件各処分のうち本税二五二五万九〇〇六円、不納付加算税二五二万五〇〇〇円を上回る部分の取消しを求める旨と記載されているから、右金額相当額については異議が申し立てられていないと取り扱われるのもやむを得ないが、それだからといって原判決が却下した処分に異議申立てがされていないと解することはできない。
3 被控訴人は、昭和五九年七月一〇日付けで、別表2の「異議決定後の原処分類」欄記載のとおり、本件各処分の一部(昭和五五年一二月分に係る「順号」欄01記載の支払に関する処分)を取り消したものの、本件各処分のうちその余の処分についてはこれを維持する旨の異議決定をした。
4 控訴人は、昭和五九年八月一〇日、国税不服審判所長に対し、右異議決定後の本件各処分につき審査請求を行った。
5 国税不服審判所長は、昭和六二年五月二一日、右異議決定後の本件各処分につき実体審理をし、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同年六月九日に控訴人に送達された。
6 以上のとおり、控訴人は、本件各処分の全部につき適法な異議申立てを経由している。
二 違法事由
 本件各処分(異議決定で一部取り消された後のもの)のうち、別表2の昭和五六年九月分の処分のうちの順考欄02記載の金員の支払に関する部分、同年一二月分の処分のうちの順考欄03記載の金員の支払に関する部分及び昭和五八年一月分の処分を除いたものには、所得税法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下、同じ)。一六一条七号ロの著作権等の使用料及び「所得に関する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(昭和四七年六月二三日条約第六号)(以下「日米租税条約」という。)一四条(3)(a)の著作権等の使用の対価に該当しないものを誤って該当すると判断した違法があるから、取り消されるべきである。
三 よって、請求の趣旨記載の判決を求める。
第三 請求の原因に対する認否及び不服申立前置についての反論
一 請求の原因一のうち、1は認め、2(一)は認め、2(二)は争う。3のうち、本件各処分のうちその余の部分についてはこれを維持する旨の異議決定をしたことは争い、その余は認める。4、5は認め、6は争う。
二 同二は争う。
三1 源泉徴収による所得税に係る納税告知は、その法定納期限までに納付されなかったときにするものである(国税通則法三六条一項二号)ところ、源泉徴収による所得税は、源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に納税義務が成立し、成立と同時に納付すべき税額が確定する(同法一五条二項二号、同条三項二号)ものであって、その法定納期限は、源泉徴収すべきものとされている所得の支払の日の属する月の翌月一〇日とされている(所得税法二〇四条一項)ことからして、源泉徴収による所得税の納税告知は、少なくとも支払月ないし法定納期限ごとに別個の処分であるというべきであり、したがってまた、源泉所得税をその法定納期限までに完納されなかった場合に徴収される不納付加算税に係る賦課決定処分も法定納期限ごとに別個の処分であるといわなければならない。
2 控訴人は、昭和五五年七月、九月、一〇月、昭和五六年六月、昭和五七年二月、五月、七月、八月及び昭和五八年八月分の支払に係る各納税告知処分及び各賦課決定処分に対しては異議の申立てを行っておらず、したがって異議決定もなされていない。
3 また、本来不適法として却下を免れないものにつき審査請求段階で実体審理の上棄却の裁決がなされても、右裁決は、国税通則法一一五条一項柱書所定の「審査請求についての裁決」に当たらないものというべきである。
4 したがって、本件訴えのうち、右各月分に係るものは、前置が要求される異議決定及び裁決を欠くものであって、不適法である。
第四 被控訴人の主張
一 契約内容
1 USGAとの契約
(一)(1)(支払順号1、2) 控訴人は、昭和五五年六月五日付けで、トランス・ワールド・インターナショナル社(以下「TWI」という。)の関与の下に、全米ゴルフ協会(以下「USGA」という。)との間で、一九八○年全米女子オープン・チャンピオンシップを放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
(2) その内容の骨子は、次のとおりである。
ア USGAは、控訴人に対し、右競技を、日本国内のみにおいて、本契約に定める放映期間内のみ、かつ本契約中に定められるあらゆる制限と条件に従い、テレビにより放映する権利を許諾する(一項)。
イ 通常のニュース番組を除き、本契約に基づき許諾される権利は、各放映期間において独占的なものとされる(二項)。
ウ 控訴人が右競技のフィードの受信費用を負担するという条件で、控訴人は右競技を日本に衛星生中継する権利を有するものとする。また、控訴人は右競技のビデオ録画による放送の権利を有するものとする(三項)。
エ USGAは、控訴人の適当な通知があった場合、右競技の放映、特にプログラム・フィードの受取に関して控訴人に極力協力するものとする。
 USGAは、さらに、控訴人からの合理的な要請に基づき、右競技の生フィード、ナチュラル/国際サウンド付きの録画されたビデオテープを受取人払いの航空便で送るものとする(四項)。
オ 控訴人は、通常のニュース番組等の場合を除き、右競技のいかなる部分も、三回を超えて、又は一つを超える放送網で放映してはならない(五項)。
カ 控訴人は、USGAへ、日本の租税を支払った後の手取り額として二万五〇〇〇米国ドル(以下「ドル」という。)を支払うことに同意する。次に示す金額のうち、五〇パーセントは放映権料とし、残りの五〇パーセントは控訴人に提供される技術相談料とする。
 支払日            金額(ドル)
 一九八○年六月一五日 一万二五〇〇
 同年七月一〇日      一万二五〇〇
 当該支払は、USGAの頭書の住所(TWI気付)あての郵便送金によりなされるものとする(六項)。
 キ 控訴人に対して、ここに特定して許諾していない権利については、すべてUSGAが留保し、USGAが適当と思料する方法で使用する(七項)。
 (3) 控訴人が右契約によりUSGAから取得した権利は、右競技を、USGAの提供する影像を利用した衛星生中継により、又は、ビデオテープにより、日本で放送する権利である。
 (4) 控訴人は、昭和五五年七月七日、全国朝日放送株式会社に対し、右契約に係る放映権を譲渡し、同会社は、同月一三、一四日に衛星録画又は衛星生中継により右競技を放送した。
 (5) 控訴人は、USGAに対し、前記契約に基づき、昭和五五年六月一八日技術料として一万二五〇〇ドル(円換算額二七〇万七五〇〇円)(支払順号1)、同年七月一〇日放映権料として一万二五〇○ドル(同二七四万二五〇〇円)(支払順号2)を支払った。
 (二)(1) (支払順号5)控訴人は、昭和五五年六月五日付けで、TWIの関与の下に、USGAとの間で、一九八○年全米男子アマチュアゴルフ・チャンピオンシップを放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
(2) その内容の骨子は、次の約定を除き、(一)のものと同趣旨である。
 控訴人は、USGAへ、放映期問の初日又はそれ以前に、日本の租税を支払った後の手取り額として七五〇〇ドルを支払うことに同意する。当該金額のうち、五〇パーセントは放映権料とし、残りの五〇パーセントは控訴人に提供される技術相談料とする。
(3) 控訴人が右契約によりUSGAから取得した権利は、(一)のものと同様である。
(4) 控訴人は、USGAに対し、前記契約に基づき、昭和五五年八月二八日放映権料として三七五〇ドル(円換算額八三万五一八八円)及び技術相談料として三七五〇ドル(同八二万五一八七円)(支払順号5)を支払った(なお、右放映権料相当分については、控訴人は、源泉所得税を自主納付した。)。
(三)(1) (支払順号9ないし14、31ないし36)控訴人は、昭和五六年六月一七日付けで、TWIの関与の下に、USGAとの間で、次の競技を放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
 @ 一九八一年全米オープンゴルフ・チャンピオンシップ
 A 一九八二年全米オープンゴルフ・チャンピオンシップ
 B 一九八一年全米女子オープンゴルフ・チャンピオンシップ
 C 一九八二年全米女子オープンゴルフ・チャンピオンシップ
 D 一九八一年全米男子アマチュアゴルフ・チャンピオンシップ
 E 一九八二年全米男子アマチュアゴルフ・チャンピオンシップ
(2) その内容の骨子は、次の約定を除き、(一)のものと同趣旨である。
ア 控訴人が右各競技のフィードの受信費用を負担するという条件で、控訴人は右各競技を日本に衛星中継する権利を有するものとする。また、控訴人は右各競技のビデオ録画による放送の権利を有するものとする(四項)。
イ 控訴人は、USGAへ、日本の租税を支払った後の手取り額として、(1)の各競技につき次の金額(ドル)を支払うことに同意する。当該金額のうち、五〇パーセントは放映権料とし、残りの五〇パーセントは控訴人に提供される技術相談料とする。
 @につき 二六万一〇〇〇
 Aにつき 三〇万四五〇〇
 Bにつき 三万
 Cにつき 三万五〇〇〇
 Dにつき 九〇〇〇
 Eにつき 一万〇五〇〇
 支払の半額は、各競技の直前の五月一五日又はそれ以前に支払い、残りの半額は、次の六月一五日又はそれ以前に支払うものとする。
 各支払は、セントラル・ナショナルバンク内TWIの口座に、電信で振り込まなければならない(八項)。
ウ 控訴人に対して、ここに特定して許諾していない権利については、すべてUSGAが留保し、USGAが適当と思料する方法で使用できる。理由のいかんを問わず、この契約が期問満了又は解除された場合、控訴人はどのイベントどのプログラムをも以後使用することを許されない(一〇項)。
(3) 控訴人が右契約によりUSGAから取得した権利は、(一)のものと同様である。
(4) 控訴人は、日本放送協会又は全国朝日放送株式会社に対し、前記(1)@ないしCに係る放映権を譲渡した。
(5) 控訴人は、USGAに対し、前記契約に基づき、別表2支払順号9ないし14、31ないし36各支払金額欄記載のとおり、支払った。
2 USTAとの契約
(一)(1) (支払順号3)控訴人は、昭和五四年三月五日付けで、TWIの関与の下に、米国テニス協会(以下「USTA」という。)との間で、一九八○年全米オープンテニスチャンピオンシップを放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
(2) その内容の骨子は、次のとおりである。
ア USTAは、控訴人に対し、右競技を、ここに挙げる本契約のすべての条件及び条項の下に、日本国内においてのみ、そして一定期間中のみ、テレビによって放映する権利を許諾する。この権利は、その期問中、ニュース取材を除いて独占的に与えられる権利である(一項)。
イ 控訴人は、右競技の原創作者から、この録画を取得する権利を有するものであり、控訴人は、本契約に基づく権利を行使するのに必要なすべての放送信号と録画を取得すべき責任を負担する(二項)。
ウ USTAは、控訴人の要求と適当な通知に応じて、控訴人がプログラムフィードを受領するのにできる限りの援助を与えるべく努力する(三項)。
エ 本契約六項に規定される放映権料に加えて、控訴人は、USTAに対し、明細を付した請求書受領後直ちに、本契約に基づき引き渡される録画の制作につき、USTAが要した雑費を支払うことに同意する(四項)。
オ 右競技のどの部分も三回を超えて放映されてはならない(五項)。
カ 控訴人は、USTAに対し、昭和五五年八月一日に日本の租税をすべて支払った後の手取り額である六万ドルを直ちに支払うことに同意する。
 総額のうち、五〇パーセントは放映権料であり、残り五〇パーセントは技術顧問料とする(六項)。
キ 本契約中で、明示的に控訴人に許諾されていないあらゆる権利は、USTAの財産であり、USTAが適当と思料する任意の方法により、USTAが使用する(七項)。
(3) 控訴人が右契約によりUSTAから取得した権利は、右競技を、USTAの提供する影像を利用した衛星中継により、又は、録画物により、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、昭和五五年四月一六日、右権利を日本放送協会に譲渡し、NHKテレビにおいて衛星録画により放映された。
(5) 控訴人は、USTAに対し、前記契約に基づき、昭和五五年八月一日放映権料として三万ドル(円換算額六八七万九〇〇〇円)及び技術相談料として三万ドル(円換算額六八七万九〇〇〇円)(支払順号3)を支払った(なお、控訴人は、放映権料相当分に対する源泉所得税については、自主納付した。)。
(二)(1) (支払順号17、20、24、29、39ないし41、49ないし51)控訴人は、昭和五六年四月九日付けで、TWIの関与の下に、USTAとの間で、次の競技を放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
 @ 一九八一年全米オープンテニスチャンピオンシップ
 A 一九八一年全米女子室内テニスチャンピオンシップ
 B 一九八二年全米オープンテニスチャンピオンシップ
 C 一九八二年全米女子室内テニスチャンピオンシップ
 D 一九八二年全米ナショナル室内テニスチャンピオンシップ
 E 一九八三年全米オープンテニスチャンピオンシップ
 F 一九八三年全米女子室内テニスチャンピオンシップ
 G 一九八三年全米ナショナル室内テニスチャンピオンシップ
(2) その内容の骨子は、次の約定を除き、(一)のものと同趣旨である。
ア 本契約により許諾される権利の中には、いかなるイベントの映画フィルムに対する権利も含まれないものとする。ただし、USTAは、このようなフィルムを日本で、イベント終了後九〇日以内に放送する権利を第三者に許諾しないものとする(三項)。
イ 控訴人は、本件契約対象のプログラムを衛星生中継で日本に放映する権利を有する。この場合、「プログラム」フィードの受信に係る費用は、控訴人が負担する。
 控訴人はさらに、「プログラム」をビデオテープ録画により放映する権利を有する(四項)。
 控訴人は、USTAへ、日本の租税を支払った後の手取り額として、(1)の各競技につき次の金額(ドル)を支払う。当該金額のうち、五〇パーセントは放映権料とし、残りの五〇パーセントは控訴人へ提供される技術相談料とする。
 @につき 一〇万
 Aにつき 五〇〇〇
 Bにつき 一二万五〇〇〇
 Cにつき 五〇〇〇
 Dにつき 五〇〇〇
 Eにつき 一五万
 Fにつき 五〇〇〇
 Gにつき 五〇〇〇
 各支払は、TWIの口座に、電信で振り込まなければならない(八項)。
(3) 控訴人が右契約によりUSTAから取得した権利は、右競技を、USTAの提供する影像を利用した衛星生中継により、又は、ビデオテープにより、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、日本放送協会に対し、右契約に係る放映権の一部を譲渡した。
(5) 控訴人は、USTAに対し、前記契約に基づき、別表2支払順号17、20、24、29、39ないし41、49ないし51各支払金額欄記載のとおり、支払った(なお、控訴人は、右以外の支払の一部である昭和五六年九月一六日支払の一九八一年全米オープンテニスに関する五万ドル(円換算額一一三九万二五〇〇円)及び同月二二日支払の一九八一年全米女子室内テニスに関する二五〇〇ドル(円換算額五六万五〇〇〇円)については、源泉所得税を自主納付した。)。
3 ANIとの契約
(一)(1) (支払順号4)控訴人は、昭和五五年四月一日、オーガスタ・ナショナル社(以下「ANI」という。)との間で、ANIが日本におけるテレビ放映権を有するTWI制作の「レングスンド・シャドウ・オブ・ア・マン」と題するテレビ映画ほかマスターズゴルフトーナメントを収録したフィルム等に関する契約を締結した(乙第一〇号証)。
(2) その内容の骨子は、次のとおりである。
ア 控訴人が九〇分のテレビ・スぺシャル(プログラム)を制作するに当たり、ANIは、てレングスンド・シャドウ・オブ・ア・マン」と題するテレビ番組のほか、一九七九年マスターズゴルフトーナメントを収録したビデオテープ等(以下「基礎作品」という。)の一部又はすべてを組み入れることを許諾する(一項A)。
イ ANIは、控訴人が放映期間内に右プログラムの一部として右基礎作品を放映することを許諾する(一項B)。
ウ ANIは、この基礎作品の著作権を保有するが、他方、控訴人は、本契約書に規定する基礎作品の使用に関する制限下に、二次的著作物(プログラム)の著作権を有するものとする(一項C)。
エ 放映期間は、一九八○年四月一日から一九八三年三月三一日までとし、その期間に、プログラムの一部なりともテレビで三回を超えて放映してはならない(二項)。
オ 本契約中に明示的に許諾されていないすべての権利は、留保されるものとする(三項)。
カ 控訴人は、ANIに対し、右許諾の対価として二万五〇〇〇ドルを支払う(五項)。
(3) 控訴人が右契約によりANIから取得した権利は、ANIが著作権を有するテレビ映画やビデオテープ等を使用して二次的著作物を制作し、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、昭和五五年三月二六日、右権利のうちテレビで放送する権利を株式会社東京放送(以下「TBS」という。)に譲渡した。
(5) 控訴人は、昭和五五年八月二七日、ANIに対し、前記契約に基づき、二万五〇〇〇ドル(円換算額五四九万二五〇〇円)を支払った(その半額が支払順号4である。控訴人は、残りの半額二七四万六二五〇円については源泉所得税を自主納付している。)。
(二)(1) (支払順号30)控訴人は、昭和五七年ころ、三菱自動車のコマーシャルフィルムを制作するため、ANIから写真を使用する許諾を受け、同年五月一三日、ANIに対し、その対価として二五〇〇ドル(円換算額五八万八一二五円)を支払った(支払順序30)。
(2) 右支払は、ANIが許諾権を有する写真を使用してコマーシャル映画ないしビデオを制作することを控訴人が許諾された、著作物の翻案許諾の対価と解される。
4 LPGAとの契約
(一) (支払順号6、15,19、21ないし23、37)控訴人は、昭和五四年、ピープル・プロパティ社(以下「P&P」という。)を代理人として、全米女子プロゴルフ協会(以下「LPGA」という。)との間で、一九八○年から一九八四年までのLPGAゴルフトーナメントのビデオテープによる放送に関する契約を締結した。
(二) その内容の骨子は、次のとおりである。
(1) LPGAは、控訴人に対し、LPGAが保有し、米国又は他の国で実際に放映されるすべてのLPGAの試合の日本国内における再放送権を独占的に許諾する。
(2) 控訴人は、当該テレビ番組を、日本の全国放送網を通じて再放送するものである。
(3) LPGAは、当該テレビ番組を収めた二インチのテープを控訴人のニューヨーク事務所へ提供する。
(4) 控訴人は、LPGAに対し、次の金額を支払う。
支払対象試合 金額(ドル・手取額)
一九八○年  一七万五〇〇〇
一九八一年  二〇万
一九八二年  二〇万
一九八三年  二〇万
一九八四年  二〇万
(三) 控訴人が右契約によりLPGAから取得した権利は、右競技を、LPGAの提供するビデオテープにより、日本で放送する権利である。
(四) 控訴人は、これらの権利のうち、一九八○年から一九八二年に関する分を株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)又は日本テレビ放送網株式会社(以下「日本テレビ」という。)に譲渡した。
(五) 控訴人は、前記契約に基づき、別表2支払順号6、15、19、21ないし23、37各支払金額欄記載のとおり、支払った(なお、控訴人は、他の支払の一部である昭和五六年二月一八日支払の一九八一年LPGAゴルフトーナメントに関する一〇万ドル(円換算額二〇六二万六三〇〇円)については、源泉所得税を自主納付した。)。
(六) 控訴人主張のLPGA公式戦の日本における開催権については、乙第一一号証の契約書によれば、一項がLPGAの主催する試合の放映権の合意であって、その項において、その許諾料として一九八○年分から各年分の金額が掲げられている上に、乙第一一号証とは別に、一九八○年六月三〇日付けで、控訴人、LPGAトーナメントプレイヤーズコーポレーション(以下「LTPC」という。)及び株式会社スポニチサービスセンター(以下「スポニチサービスセンター」という。)の三者間で契約書が交わされており、その中で、一九八○年から一九八二年までの間、毎日放送及び株式会社スポーツニッポン新聞社(以下「スポーツニッポン新聞社」という。)が主催者となって日本でのLPGA公式戦を開催する旨約定されている。日本でのLPGA公式戦は、従前から毎日放送及びスポーツニッポン新聞社が主催者となって開催し、ジャパンクラシックと称されていたものであり、昭和五五年からマツダシャパンクラシックと称されることとなったものであるが、右LPGA公式戦の日本におけるテレビ放映権は、三者間契約書において、スポニチサービスセンターが有するものとされており、同社はその許諾の対価として少なくとも五〇〇〇ドルをLTPCに支払うこととされている(同契約書のIV(4)項参照)から、乙第一一号証に記載の許諾料を控訴人主張のマツダシャパンクラシックの興行権についてのものであると解することはできない。
5 UCLAとの契約
(一) (支払順号7、8)控訴人は、昭和五四年ころ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(以下「UCLA」という。)との間で、一九八○年UCLAフットボールゲームのビデオテープによる放映に関する契約をした。
(二) その内容の骨子は、次のとおりである。
(1) UCLAは、控訴人に対して、一九八○年のUCLAフットボールゲーム(合計一一試合)を日本で放映することを許諾する(前文)。
(2) 放映回数は、選択した各試合につき二回とし、放映許諾期間は、一九八○年一月一日から始まり一九八一年一一月三〇日に終了する(三項、四項)。
(3) UCLAは、控訴人が選んだ各試合のインターナショナル・サウンド・ビデオテープ記録を提供する(八項a)。
(4) 控訴人は、UCLAに対して、ライセンス料として、各ゲームにつき一〇〇〇ドル(技術協力料として五〇パーセント五〇〇ドル、放映権料として五〇パーセント五〇〇ドル)を支払う(九項)。
(三) 控訴人が右契約によりUCLAから取得した権利は、右競技を、UCLAの提供するビデオテープにより、日本で放送する権利である。
(四) そして、控訴人は、右契約に従って、昭和五五年一〇月ごろ、フットボールゲームの録画されたビデオテープを入手し、その対価として、同月二四日、UCLAに対し、五七三五・三五ドル(円換算額一二一万五四五七円)を送金した(支払順号7)。
 なお、送金依頼票の支払目的欄にはバスケットボールとの記載があり、この点の詳細は不明であるが、何らかの事情により、バスケットボールに関する同様の契約が追加されたなどの事情が考えられる(乙第二〇号証の五)。
(五) また、控訴人は、同じく前記契約に基づいて、同年一二月ころ、KTLAテレビジョン製作のUCLAフットボールゲーム七試合分のビデオテープを入手し、同月一五日、UCLAに対し、その対価として六一九三・七五ドル(円換算額一二九万七二八○円)を支払った(支払順号8)。
(六) 控訴人は、(四)の契約のうちバスケットボールに関する権利を日本テレビに譲渡し、その番組は、昭和五五年一二月二〇日、二一日に日本テレビにおいて放映された。
6 NBCIとの契約
(一)(1) (支払順号16)NBCインターナショナル社(以下「NBCI」という。)は、昭和五六年ころ、控訴人に対し、NBCIが許諾権を有するローズボールゲームをNBCIの提供するテレビ番組フィルムにより日本で放映することを許諾した。
(2) 控訴人は、同年七月二七日、NBCIに対し、右契約に基づき、ローズボール番組フィルム製作費名下に、一万一六三六・四〇ドル(円換算額二七二万四〇八一円)を送金して支払った(支払順号16)。
(二)(1) (支払順号25ないし28)控訴人は、昭和五六年九月二四日付けで、NBCIとの間で、NBCIは、一九八二年ローズボールゲームを衛星生中継又はNBCIが提供するビデオテープによる放映を許諾する、ライセンス期問は、一九八二年一月一日から同年二月二八日まで、放映回数は一回とする、控訴人は、その対価として五万五〇〇〇ドルを支払う旨の契約を締結した。
(2) 控訴人は、昭和五六年一〇万八日付けで、NBCIとの問で、NBCIは、一九八二年オレンジボールを衛星生中継又はNBCIが提供するビデオテープによる放映を許諾する、ライセンス期問は、一九八二年一月一日から同年二月二八日まで、控訴人は、その対価として一万五〇〇〇ドルを支払う旨の契約を締結した。
(3) 控訴人が右(1)、(2)の契約によりNBCIから取得した権利は、右競技を、NBCIの提供する影像を利用した衛星生中継により、又は、ビデオテープにより、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、一九八二年ローズボールに関する契約に基づく権利を日本テレビに譲渡し、その番組は、昭和五七年一月二日、衛星生中継により放映された。
(5) 控訴人は、右二つの契約に基づき、別表2支払順号25ないし28各支払金額欄記載のとおり、支払った〈なお、控訴人は、昭和五七年四月二〇日付け三万七四九八ドルの支払については、源泉所得税を自主納付している。)。
7 TWIとの契約
(一)(1) (支払順号18)控訴人は、昭和五六年一月一七日、TWIとの間で、一九七九年から一九八一年に開催された全米オー
プンゴルフ大会のハイライトシーンを収録したテレビ放送用フィルムによる放映に関する契約を締結した。
(2) その内容の要点は、次のとおりであり、他の約定については、先に述べたUSGA及びLPGAとの間の契約と同趣旨である。
ア TWIは、控訴人に対し、右フィルムを、日本国内のみにおいて、本契約に定める期間のみ、かつ本契約中に定められているあらゆる制限と条件に従い、テレビにより放映する権利を許諾する(一項)。
イ 放映期問は、これのプリントの受領の日に開始し、これから一八か月経過した時に終了する。控訴人は、各プログラムのいかなる部分も三回を超えて又は日本国内の一つを超える放送網で放映してはならない(二項)。
ウ 控訴人は、TWIに対し、各イベントについて、次のとおりの報酬を支払う。これは日本の租税を払った後の手取り額である。その五〇パーセントは放映権料とし、残りの五〇パーセントは技術相談料である(七項)。
 イベント             金額(ドル)
 一九七九年オープンゴルフ 一〇〇〇
 一九八○年オープンゴルフ 二○○〇
 一九八一年オープンゴルフ 二○○○
エ 本契約中で、明示をもって控訴人に許諾されていないすべての権利については、TWIが保有する。本契約の期間満了により、又は、何らかの理由によりこの契約が終了した場合、以後控訴人は右フィルムのいかなる部分をも使用してはならない(九項)。
(3) 控訴人が右契約によりTWIから取得した権利は、右競技を、TWIの提供する競技フィルムにより、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、昭和五六年九月一日、TWIに対し、右契約に基づき、一九八一年全米オープンゴルフ分二〇〇〇ドル(円換算額四六万三八○○円)を支払った(支払順号18。なお、控訴人は、一九七九年分一〇〇〇ドル、一九八○年分二〇〇〇ドルについては、源泉所得税を自主納付した。)。
(二)(1) (支払順号38)控訴人は、昭和五七年ころ、三菱自動車のコマーシャルフィルムを製作するため、TWIから、USGAのフィルムを使用する許諾を受け、その対価として、同年八月一九日、二〇〇〇ドル(円換算額五一万八三〇〇円)をTWIに送金して支払った(支払順号38)。
(2) 控訴人は、右契約により、著作物たるUSGA制作の映画フィルム又はビデオテープを利用した翻案の許諾を得たものである。
8 ABCスポーツとの契約
(一)(1) (支払順号44、45)控訴人は、昭和五七年八月一二日付けで、ABCスポーツ社(以下「ABCスポーツ」という。)との間で、一九八二年米ソ対抗陸上大会をビデオテープによりテレビ放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
(2) その内容の要点は、次のとおりである。
ア ABCスポーツは、放映地域−日本、放映回数−テレビ放映一回、放映期間−一九八二年九月一日から一九八二年一二月三一日まで、とする条件で、控訴人に対し、一九八二年米ソ対抗陸上大会の一インチ五二五ビデオテープで、約三五分に編集された素材を提供する(一項ないし五項a)。
イ 本契約に基づき許諾される権利の全対価として、控訴人は、ABCスポーツに対し、公租公課を控除した後の手取り額として六〇〇〇ドルを支払う(六項)。
ウ 後記(二)の契約と同様、本契約により明示をもって、控訴人へ許諾されていないすべての権利は、何らの制限、規制を受けることなく、ABCの裁量のみに基づく、ABCの全面的かつ独占的な使用及び処分に帰するものとする旨の約定があると解される。
(3) 控訴人が右契約によりABCスポーツから取得した権利は、右競技を、ABCスポーツの提供するビデオテープにより、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、ABCスポーツに対し、右契約により、放映権料として昭和五八年四月六日、増額された九〇〇〇ドル(円換算額二一四万六五〇〇円)を支払った(支払順号44、45)。
(二)(1) (支払順号42、43、48)控訴人は、昭和五八年二月一日付けで、ABCスポーツとの問で、一九八三年インディアナポリス五〇〇自動車競走(以下「インディ五〇〇」という。)をテレビ放映する権利の許諾に関する契約を締結した。
(2) その内容の要点は、次のとおりである。
ア ABCスポーツは、@放映地域−日本、A放映回数−テレビ放映一回、B放映期問−一九八三年五月二九日から一九八三年一二月三一日までとする条件で、控訴人に対し、ABC制作一九八三年インディ五〇〇に係る素材を提供する(一ないし五項a)。
 この素材は、後記(4)の放映内容からすると、生フィード、すなわち通信信号である。
イ 本契約に基づき許諾される権利の全対価として、控訴人は、ABCスポーツに対し、公租公課を控除した後の手取り額として五万ドルを支払う。控訴人の委託による制作費は別途支払う(六項)。
ウ 本契約により明示をもって、控訴人へ許諾されていないすべての権利は、何らの制限、規制を受けることなく、ABCの裁量のみに基づく、ABCの全面的かつ独占的な使用及び処分に帰するものとする(標準約款の権利留保の項)。
(3) 控訴人が右契約によりABCスポーツから取得した権利は、右競技を、ABCスポーツの提供する影像を利用した衛星生中継により、日本で放送する権利である。
(4) 控訴人は、その後、右テレビ放映権をTBSに譲渡し、その番組は、昭和五八年五月二九日、衛星生中継により放映された。
(5) 控訴人は、ABCスポーツに対し、右契約に基づく許諾料として、昭和五八年四月六日三万ドル(円換算額七一五万五〇〇〇円)を一支払順号42、43)、同年六月一六日二万ドル(同四六九万五〇〇〇円)を(支払順号48)支払った。
(6) なお、ABCスポーツとABC株式会社との関係については、本件契約中にはABC株式会社の著作権を表示する旨の規定があるから、著作権自体はABCスポーツの商標権を持つABC株式会社が持つとしても、放映許諾契約の相手方であるABCスポーツが当該著作権の使用に関して許諾を与え得る権限を有しているものと解される。
(7) 控訴人は、一九八三年にTBSで放映されたインディ五〇〇の影像の最後には「制作著作TBS」と表示されているのであって、ABC株式会社が著作権者との表示はないから、国際影像は著作物ではない旨主張する。しかしながら、日本でテレビ放映された右番組は、ABC株式会社が製作した国際影像に独自影像やアナウンスなどを通過した二次的著作物の影像であるから、右二次的著作物の影像にABC株式会社が著作権者である旨を表示しなかったとしても、このことにより、右国際影像が著作物性を有しないということではなく、著作権の表示をすることについて、契約当事者間でその責任を追求されるにとどまるというにすぎないから、この点の控訴人の主張は理由がない。
9 WPEとの契約
(一) (支払順号46、47)控訴人は、昭和五六年一〇月ごろ、TWIの関与の下に、ワールド・プロダクション・エスタブリッシュメント社(以下「WPE」という。)との間で、NCAAバスケットボール選手権の放送に関する契約を締結した。
(二) その内容の要点は、次のとおりである。
(1) WPEは、控訴人に対し、一九八二ないし一九八四年のNCAA・ディビジョン・I・チャンピオンシップバスケットボール・シリーズの中の準決勝、決勝を含む一一試合につき日本での独占放映権を許諾する(一項、二項(a))。
(2) プログラムは、控訴人の選択、又は許諾するテレビ設備を通じて、日本全国で放送することができる。プログラム中のいかなる部分も二回を超えて放送してはならない。
 一九八二年の放映期間は、一九八二年のプログラム中の最初の試合日から、一九八三年のプログラム中の最初の試合の前日までとする。一九八三年、一九八四年の放映期問もこれに準ずる(二項(a))。(3) プログラムの引渡しは原則として各試合一本のビデオテープをもって行う。
 ただし、三〇日以前に控訴人がWPEに通知すれば衛星生中継で行う権利を持つ。この場合WPEは控訴人に国際プールフィードを入手させるよう取り計らう。この通信衛星費は控訴人がWPEに支払うが、このための追加の権料や放映料を支払う義務はない(三項)。
(4) 控訴人は、本契約により許諾される放映権料の対価として、次の金額を支払う(単位 ドル)
対象年分  技術仲介料   放映権料    合計
一九八二年 二万二五〇〇 二万二五〇〇 四万五〇〇〇
一九八三年 二万七五〇〇 二万七五〇〇 五万五〇〇〇
一九八四年 三万二五〇〇 三万二五〇〇 六万五〇〇〇
 右金額は租税支払後の手取り額とし、すべての日本での税金は控訴人が責任をもつものとする(四項)。
(三) 控訴人が右契約によりWPEから取得した権利は、控訴人の選択により、右競技を、WPEの提供するビデオテープにより、又は、影像を利用した衛星生中継により、日本で放送する権利である。
(四) 控訴人は、右契約による権利を、昭和五八年四月一一日、日本放送協会に譲渡し、その番組は、同月一七日に録画放送された。
(五) 控訴人は、昭和五八年五月二四日、WPEに対し、前記契約に基づき一九八三年分として五万五〇〇ドル(円換算額一二九六万〇七五〇円)を支払った(支払順号46、47)。
(六) 控訴人の反論は、右NCAAバスケットボール選手権大会と、NCAAバスケットボール公式戦とを混同するものである。
二 国内源泉所得の課税について
 控訴人が支払った前項の金員は、所得税法一六一条七号ロに規定する国内源泉所得である著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権その他これに類する権利の使用の対価に該当するから、控訴人は、所得税法二一二条一項、二一三条一項、租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(以下「租税条約特例法」という。)三条一項及び同省令二条一項並びに日米租税条約一四条(2)の規定により、右国内源泉所得の金額(税引前支払金額)に一〇〇分の一〇の税率を乗じて計算した源泉所得税額を国に納付すべき義務がある。
 控訴人は右源泉所得税をその法定納期限までに納付しなかったので、被控訴人は、控訴人に対し、所得税法二二一条及び国税通則法三六条一項二号の規定により納税告知処分を行い、国税通則法六七条一項の規定によりその源泉所得税額(一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税の賦課決定処分をしたものである。
三 国内源泉所得該当性
1 放映権料の本質
(一) いわゆる放送権、放映権なる言葉の発祥については明らかではないが、そもそも高度に商業化された社会においては、各種の催物を主催する興行主は、その催物について入場料収入を上げるとともに、直接その場に来場できない公衆のためにテレビ放映を許し、その放映権料を得てより多くの収入を上げる。報道する放送事業者側も、催物のテレビ放映をすれば、公衆の利益に奉仕し、また、広告料収入を上げる手段としても利用することができることから、専属的放映権を取得すべく、そのためには放映権料を支払うことを当然視する関係にある。そのような関係において、興行主たる主催者は、当該催物をいかなる者に放映させるか、また、その態様、条件を決するについては、絶対的な許諾の権利を有している。そして、放映権なるものの内容は、原始的には、権利を得た放送事業者又はその者から委託を受けた者がその催物の行われている会場に立ち入り、主催者の付した条件に従ってテレビ放映に用いる画像を作製し、その影像を各々が独自にテレビ放映するといったことを予定していたと解される。
(二) しかしながら、放送事業者も多数となり、国際報道メディアも発達した近代社会においては、最早、その催物の現場に多数の放送事業者が押しかけて、それぞれが自前の画像を作製するということは、興行主側にとっては、催物そのものにとって煩わしく制御が困難となり、他方、放送事業者側にとっても、同一の催物のために各々がほぼ同様の画像を取得することは経費的に甚だ不合理と感ぜられるようになった。そこで、特に、広大な公共の場所でない会場での催物などにおいては、代表取材に似た形として、まず、興行主が一つの放送事業者をホスト・ブロードキャスターとして契約し、その者に良好な撮影・取材条件を提供して撮影させ、この催物を放映したい他の者は、興行主に放映権料を支払えば、このホスト・ブロードキャスターからその作製した画像を提供されるという形に変容してきた。放映権料を支払った者は、自己の放映用に都合の良いように、ホスト・ブロードキャスターに依頼して、前記の画像に更に希望する場合の画像を付加してもらうこともできるし、本来の形に一部戻って、自己のための撮影者を立ち入らせて付加すべき画像を作製することもできる。しかし、これらの付加分のための費用は放映権料には含まれておらず、別途ホスト・ブロードキャスターないし契約した撮影者に支払う必要がある。
(三) 本件のようなスポーツイベントにおいても、現在、その主催者は、ホスト・ブロードキャスターを選任し、それに映像製作の一切を委託し、委託されたホスト・ブロードキャスターが作製した映像を放映権を取得した各国放送金杜に配信する形となっている。放映権料には、ホスト・ブロードキャスターが作製した影像(国際影像)の使用料のほか、日本向けの番組にするための独自映像の製作・自由な編集、日本語のアナウンスを付けることの許諾料も含まれる。しかし、国際影像以外に独自の(日本向け)映像の製作をホスト・ブロードキャスター等に依頼した場合には、その製作費は放映権料に含まれず、ホスト・ブロードキャスター等に別途支払われるものである。
(四) このように、放映権料のうち、競技会場への立入りの対価としての性質は、ホスト・ブロードキャスターが作製した国際影像の取得の対価へとその本質が変容しており、放映権の取得にとって最早本質的な部分ではないというべきである。殊に、国際影像が収録されたビデオテープ・フィルムの提供を受けてこれを日本国内でテレビ放映するような場合においては、影像は既に完成しており、控訴人らがイベントを撮影するために会場内に立ち入ることは通常考え難く、放映権料が専ら競技会場への立入りの対価として支払われているとは考えられない。
(五) また、本件における契約のうち、控訴人とUSGA、USTA及びTWTとの契約においては、ホスト・ブロードキャスターから配信される国際影像が受信できない場合には契約金額を全額返還する旨の条項が存在する。放映権料というものが仮に競技会場への立入りの対価であるとするならば、国際影像の取得が可能であるか否かにかかわりなく、主催団体は放映権者である控訴人に対し競技のすべてを独自に撮影させ、日本でテレビ放映させることにより主催団体の義務を免れるはずである。
2 ビデオテープ・フィルムの提供によりテレビ放映する権利の性質
(一) スポーツイベントに係る影響を収録したテレビ放映用のビデオテープ・フィルムの提供(ビデオテープ・フィルムから創出される送信信号を国際通信衛星により送受信するものを含む。)を受けて放映する権利の取得の類型に属する支払金員は、映画の著作物の利用に関するものであることは明らかであるから、所得税法一六一条七号ロ所定の著作権等の使用料、日米租税条約一四条(3)(a)所定の著作権等の使用の対価に当たるものである。
(二) わが国の著作権法上、映画の著作物には、本来的意味における映画のほか、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」(同法二条三項)ものとされている。したがって、本来的意味における映画以外のものについても、@映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること、A物に固定されていること、B著作権法二条一項一号の規定する「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」という知的創作性を備えることの三要件が満たされていれば、これを映画の著作物であると認めて差し支えないこととなる。
 テレビ放送用の磁気テープ・フィルム等に固定された連続影像をブラウン管等に投影させるという表現方法を用いるものが、右の@及びAの要件を具備することは疑問の余地がない。
 さらに、Bの要件に関しても、ここで要求される創作性とは、厳格な意味での独創性とは異なり、著作物の外部的表現形式に著作者の個性が表れており、人間の知的活動が介在していればそれで十分であると考えられているので、カメラワークの工夫、モンタージュあるいはカット等の手法、フィルム編集など何らかの知的な活動が行われ、創作性がそこに加味される場合には、これを満たしているというべきところ、本件のようなスポーツイベントの撮影等に当たっては、視聴者の最も欲する影像を効果的に表現し、焦点となる場面の選択に注意を払い、臨場感、一体感をもたせ、競技者の細かな心理を探るような影像を得るため、ディレクター及びプロデューサー等は、カメラの配置のみならず、カメラマンに逐次指示を与え、カメラワークに細心の工夫を施し、臨機応変に画面を切り換え、更に重要場面の再映、スローモーション化、モンタージュあるいはカット等の手法、フィルム編集等の何らかの知的な活動を行い、創作性がそこに加味されているといえるのであるから、Bの要件も満たしている。
(三) なお、本件のような米国で製作されたテレビ放送用ビデオテープ・フィルムに対する支払金員が著作権等の使用料に当たるといい得るためには、著作権法の適用範囲を画する六条三号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たるか否かが問題となる。しかして、米国では、本件当時ベルヌ条約の同盟国ではなかったため、同号の該当性の判断に当たっては、わが国と米国の両国が加入している万国著作権条約の適用を考慮しなけれぱならないところ、同条約の適用上は、前記ビデオテープ・フィルムがわが国の著作権法上客観的に著作物性を有するものであること(同条約二条一項参照)及び米国連邦著作権法(以下「米国著作権法」という。)上保護される著作物の種類に属するものであること(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律三条二項、同条約四条四項(a)参照)の各要件を充足するかどうかを判断する必要があるが、これがわが国の著作権法上映画の著作物に当たることは前述のとおりであり、また、米国著作権法上も、映画その他視聴覚著作物が保護される著作物の一つとして掲記されており(同法一〇二条(a)(6))、前記ビデオテープ・フィルムが創作性及び固定性を満たすことは先に述べたところから明らかである。
四(1) テレビ放送用の映画の著作物については、第一次的にはこれを製作した放送事業者に著作権が帰属する。
(2) しかしながら、著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる(わが国著作権法六一条一項、米国著作権法二〇一条(d))。
(3) 本件の場合、ホスト・ブロードキャスターである放送事業者以外のスポーツイベント主催団体が契約の当事者となり、許諾の対価である金員も当該主催団体に支払われたものがあるが、これについては、本来放送事業者が映画の著作物を制作したことにより有する著作権の全部又は一部、少なくとも右著作物を用いてその内容たる影像を国外において放送することを許諾できる権利が当該主催団体に譲渡されたと認めるべきである。
(4) すなわち、著作物の使用許諾に係る契約においては、利用を認める契約の範囲や利用地域、更には利用方法等を定めるのが通常であるところ、本件における契約においても、契約書中、@放映期間及び放映回数を限定している条項があり、A契約に規定するあらゆる制限と条件に従う旨の記載がある上、B契約において特定して許諾していない権利については、すべて主催団体が留保し、主催団体が適当と思料する方法で国際影像を使用できることが規定されている。
(5) 主催団体がホスト・ブロードキャスターたる放送事業者の撮影したビデオテープ・フィルムを使用して日本で放送することを許諾する契約の当事者となることについて、ホスト・ブロードキャスターたる放送事業者から何らの疑義も出されていないばかりか、控訴人らに対し、何ら異議を唱えることなく、自ら製作した国際影像を送信している。
(6) LPGAのトーナメント・スポンサーズ・マニュアルのブロードキャスティングコントラクツの項において、テレビ、ラジオ放送に関するすべての権利はLPGAに帰属するものと明記されており、さらに、スポンサーは、LPGA主催の競技が放送された場合は、当該放送を収録したテープのコピー二巻をLPGAに提出することに同意することとされており、現に、乙第三一号証の六及び七においては、「LPGAが米国内又は日本以外の他の場所でトーナメントを放送するのに使用するために、日本に於ける各トーナメント放送の、一インチ又は二インチビデオテープを、無償でLPGAに提供することに同意する」との規定が設けられている。
(7) この点については、TBSなど日本でのテレビ放映を実際に行う放送事業者においても同様の認識である。
(8) 米国著作権法に準拠の場合には、米国著作権法上、著作権の譲渡は書面によることが要件とされているが(二〇四条(a))、仮に右書面を取り交わしていないとしても、それは、第三者から著作権の譲渡の無効を主張された場合、その第三者に対抗できない場合が考えられるにすぎないのであって、本件の場合、主催団体と控訴人という契約当事者間においては、当然有効なものというべきであり、著作権の譲渡に係る書面がないからといって、主催団体に著作権が帰属していないということにはならない。
3 影像の提供によりテレビ放映する権利の性質
(一) 影像の提供を受け、これを国際通信衛星により受信して放送する権利(これをビデオテープに録画して放送する権利を含むことがある。)に基づくものにおいては、その対価は、所得税法一六一条七号ロ所定の著作権等の使用料、日米租税条約一四条(3)(a)所定の著作権等の使用の対価に当たるものである。
(二) 著作権の使用
(1) 映画の著作物
ア ホスト・ブロードキャスター作製の画像(影像、衛星放送通信用信号)は、テレビカメラの撮影者などにより、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されており、かつ、創作的な要素を備えている。
 これが米国著作権法上も保護されることは、前記2(三)において述べたとおりである。
イ また、固定性の要件については、いわゆる同時固定でよいと解される。この固定性の要件については、米国においても同様に解されている。
 本件における契約においては、ビデオテープ・フィルムと衛星生中継が選択的な方法とされている場合が多く、また、ホスト・ブロードキャスターとしては、万一の衛星放送回線の事故などに備えて、信号発信と同時にビデオテープに収録するのが常態であること、また、右収録されたビデオテープは、主催団体が他国等で放送するのに使用するため、ホスト・ブロードキャスター側から無償で提供を受けていることからすると、固定性の要件も充足するものである。
(2) 編集著作物
 本件のようなテレビで放映するスポーツイベントの影像は、編集著作物にも該当する。
 すなわち、著作権法一二条一項は、「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定めている。そして、右素材は、著作物に限定されるものではなく、素材の選択又は配列に創作性が認められるものであれば、更に編集著作物として著作権の保護を受けることとされている。
(3) その他の点については、前記2と同様である。
(三) 著作権に準ずる権利の使用
(1) 仮に、画像(影像、衛星放送通信用信号)が厳密には映画の著作物に該当しないとしても、所得税法上は、著作権に準じたものの使用として観念できる。すなわち、イベントの主催団体がスポーツイベントの放映につき絶対的な許諾の権利を有しているが、その手段は、ビデオテープ・フィルムの提供によるか、国際衛星通信回線を利用する生中継であり、これらは全く等価で、選択可能なものとすらされている。また、画像が視覚的にはビデオテープと類似の効果を有する。なによりも、支払の当事者問では、さしたる対象の区別の意識がなく、使用の対価たる金員が授受されている契約関係において、その対象の違いに応じて課税対象となるか否かが全く変わってくるというのは、課税の公平の見地からいって、不合理極まりない。本件の放映権料については、控訴人をはじめとする類似業者において、源泉徴収をなすべき国内源泉所得に該当するとの認識が、従来、当然のこととして存在したものである。
(2) 所得税法一六二条は、租税条約に異なる定めがある場合には、その条約の定めるところによる旨規定しており、日米租税条約一四条(3)は、著作権に類する財産若しくは権利の使用に係る使用料に租税を課する旨規定しているのであるから、所得税法一六一条七号ロの規定を著作権に準ずるものも対象としていると解釈しても差し支えないというべきである。
(四) 著作隣接権に準ずるものの使用(その一)
(1) 所得税法一六一条七号ロの著作隣接権に準ずるものとは、そのものの性質及び内容が著作隣接権に類似していることをいい、その場合にはそれをも国内源泉所得とするとの趣旨の規定である。
(2) 現行著作権法上の各著作隣接権のうち、控訴人が取得した権利と最も近接性があるのは、放送事業者の著作隣接権(九八ないし一〇〇条)であるが、主催団体は、@反復して各種スポーツイベントを主催し、公衆に対するスポーツ放送を許諾する地位にある者であり、Aその放送の内容はスポーツイベントであり、放送事業者の著作隣接権の対象たる放送に含まれ、B主催団体が有している権利は、その各種スポーツイベントの放送を許諾し又は禁止する排他的権利である、という点において、放送事業者の著作隣接権と類似しているということができる。
(五) 著作隣接権に準ずるものの使用(その二)
(1) 米国内のホスト・ブロードキャスターである放送業者の有する、通信衛星回線を通じて通信信号を受信してするテレビ放映を許諾する権利は、放送事業者の著作隣接権たる再放送権に準ずる権利である。
 すなわち、著作権法九九条一項には、放送事業者はその放送の再放送権を専有する旨規定されている。ここでの「再放送」の意義は、原放送を受信して同時に再放送する場合と、原放送を受信して再放送のための手段として固定した上で、その固定物を用いて再放送する場合があるが、放送事業者が公衆向けに送信する放送信号を受信して行うのが再放送であるとされている。本件において、控訴人が行ったテレビ放映用の放送信号の受信は、ホスト・ブロードキャスターが米国内で放映したものを受信したものではないので、ホスト・ブロードキャスターが有する再放送権の範疇には含まれない。しかし、通信と放送の境界も曖昧となりつつある今日において、放送事業者の放送に関する権利が、その放送の伝達手段が、放送事業者にとり受動的な放送の受信が、それとも能動的な通信によるか、により異なる結果となるのは奇異といわねばならない。本件におけるような米国内の放送事業者が通信衛星回線を通じてテレビ放映用の通信信号を送り、これを日本においてテレビ放映することを許諾する権利は、まさに所得税法一六一条七号ロのいう著作隣接権に準ずる権利として、かかる権利の対価はその使用料に該当すると解するべきである。
(2) そして、前記2(四)に述べたとおり、ここでの著作隣接権に準ずる権利は、ホスト・ブロードキャスターと主催団体との明示又は黙示の契約により、後者に移転しているものである。
4 その他
 写真又は映画使用(翻案)の許諾料は、「写真又は映画の著作物」の使用の対価であり、所得税法一六一条七号ロ所定の著作権等の使用料、日米租税条約一四条(3)(a)所定の著作権等の使用の対価に当たるものである。
5 技術相談料等について
(一) TWIの関与しないもの
(1) 支払順号4、15、19、21ないし23、26、28、43、45、48は、控訴人と、ANI,LPGA,NBCI及びABCスポーツとの各放映権許諾契約に基づく支払であるところ、各契約においては、控訴人が技術相談料等を支払うとの文言は何ら存在せず、単に放映許諾の対価が支払われることになっているにすぎない。
(2) また、ANIに対する支払順号4の支払は、既製のテレビ番組やビデオテープを使用して二次的著作物を制作することに関する契約に基づくものである。このような契約においては、画像は既に完成しており、控訴人が主張するような、日本向けの画像を特に作ってもらうというような主催者による技術指導が発生する余地はなく、契約中にもかかる条項は存在しない。
(3) したがって、右各支払が放映権料として支払われたことは明らかである。
(二)TWI関与のもの
(1) 支払順号1、3、5、9ないし11、17、20、32、34、36、40、41及び47の支払の基となった契約には、技術相談料又は技術顧問料として支払われるとの約定が存在するが、それらの契約は、すべてTWIが関与し又はTWI自身が契約当事者となって作成されている。特定の契約担当者の契約においてのみ一様に技術相談料等の支払を要することとなっているのは、奇異なことといわなければならない。
(2) しかも、契約書上、技術相談料等に係る具体的な役務提供の内容は全く明記されていないばかりか、およそ役務提供は全く不必要と考えられる過去の試合のフィルム(乙第一二号証)についてすら、技術相談料等を支払う文言があるというのは甚だ不自然といわなければならない。
(3) 仮に、何らかの役務の提供があるとしても、一律に五〇パーセント相当額とするのは、過大であり、技術相談料等の虚構性をうかがわせるものである。
(4) したがって、右各契約における技術相談料等は名目的なものにすぎず、控訴人が技術相談料等であると主張して支払った金員は、実質的にはすべて放映許諾の対価である。
6 控訴人の主張に対する反論
(一) 控訴人は、本件における契約における放映権とは、各種スポーツイベントの競技会場に自ら立ち入り、日本向けの独自影像を撮影し、日本語のアナウンス等を加え、日本でテレビ放映できる権利であり、ホスト・ブロードキャスター作製の影像の使用を本来の目的とするものではないから、放映権料を著作権の使用料の対価とみることはできない旨主張する。しかしながら、本件における契約書上、放映権料を控訴人が主張するような競技場への立入り、撮影できる権利の対価と認めるような記載は全く存在せず、いずれもホスト・ブロードキャスターの製作したフィード、テープないしフィルムの提供ないし受取りを目的とした契約であることは明らかであって、本件放映権料が、控訴人の主張するような対価であるとは考えられない。
(二) 一九八三年インディ五〇〇のビデオテープの影像を見ても、ホスト・ブロードキャスターの製作した国際影像を中心にして、それに、以前に開催されたレースのビデオテープ等による独自影像や日本語のアナウンス等を加えるなどして日本国内でテレビ放映されており、高橋証人が独自影像ではないかと証言する場面もわずかである。
(三) 仮に独自影像を撮影するために競技会場への立入りを認める対価であることが契約の内容に含まれるとしても、それは国際影像の取得を前提としてそれに従たるものとして付加される程度のものにすぎないのであり、本件における契約の内容を構成する著作物たる国際影像の使用許諾の対価たる著作権の使用料以外のものとして独自に認められるほどのものでもなく、したがって、逆に著作権の使用料との性格を失わせるほどのものともいえないのである。すなわち、仮に本件における契約に立入権なるものが含まれているとしても、本件における契約の主たる目的は国際影像の取得であって、独自影像の撮影のための競技場への立入りは、せいぜい右国際影像の効用を補充しようとの目的によるものであって極めて付随的、付従的なものとしかいえず、右立入権の対価に相応する部分を独自に取り出して明確に区分することもできないから、放映権料が全体として著作権の使用料との性格を有するものといわなければならない。
(四) 控訴人は、ホスト・ブロードキャスター内部のストライキに遭遇して、控訴人側がイベントの全部を撮影して放映した実例もあるとして、これを根拠に本件放映権料は競技場への立入りの対価である旨主張する。しかしながら、そもそも、ホスト・ブロードキャスター内部のストライキのごとき希有の事態を中心に据えて放映権につき立入りの対価として構成して契約すること自体が考えにくい上、仮にストライキが発生するような場合があったとしても、本来、主催団体が別の放送事業者を急速ホスト・ブロードキャスターとするなどしてイベントを撮影させるのが通常であると考えられるから、控訴人の主張には何ら根拠がない。
(五) さらに、控訴人は、国際影像は各国放映権者の共有的影像である旨主張する。しかしながら、国際影像は、ホスト・ブロードキャスター自ら製作した影像であり、ホスト・ブロードキャスター以外の放送事業者は右国際影像の製作自体に資金的にも人的にも一切関係していないこと、ホスト・ブロードキャスター以外の放送事業者は競技のすべてを自由に撮影できないこと、本件における契約書上、控訴人が国際影像をホスト・ブロードキャスターと共同製作するとか、その製作費用を負担するというような記載はないこと、また、各契約書上放映回数等が制限されていることなどから、控訴人とホスト・ブロードキャスターとは国際影像の共同製作者という関係にはないのであり、この点の控訴人の主張は理由がない。
(六) 控訴人は、日本向けの番組にするために独自の影像を製作し、国際影像を自由に編集することや、日本語のアナウンスを付けることの許諾料は著作権等の使用料の対価ではない旨主張する。しかしながら、そうした許諾は、著作権から派生的に生ずる改作利用権の行使であるから、本件におけるような独自影像を作製し、国際影像を自由に編集することや、日本語のアナウンスを付けることの許諾料は、いうまでもなく著作権者による改作利用権の許諾を意味し、したがって、国際影像という著作権の使用料に含まれるものであるといえる。
(七) 控訴人は、ホスト・ブロードキャスターから受け取る国際影像は素材の一つであって、映画の著作物ではない旨主張する。しかしながら、ホスト・ブロードキャスターが製作した国際影像が著作物性を有するか否かは、これが日本でそのままテレビ放映されるものか否かと関係がない。本件のようなスポーツイベントの生中継番組の国際影像は、ホスト・ブロードキャスターの自国においてはそのままテレビ放映できるものであるから、それが映画の著作物に該当する影像であることは明らかである。
 また、例えば、一九八三年インディ五〇〇の影像は、控訴人らが競技会場に自ら立ち入って撮影した独自撮影の部分はほとんど存在せず、国際影像を中心に、その影像に、過去に開催されたパレードやレースの様子、インデアナ大学、インデアンミュージアム及び町の紹介、現地でのクイズ番組や競技場周辺の様子などを映したビデオテープ等による影像を加えただけのものであるから、初めてインディ五〇〇の放映権を取得した一九八三年の国際影像が、素材の切れはしとは到底考えられない。
 高橋証人は、一九九一年のインディ五〇〇において、ホスト・ブロードキャスターのディレクター等が一本に編集した国際影像の他に、何本がその他の影像もホスト・ブロードキャスターから受け取っていた旨証言する。仮に、右その他の影像があったとしても、その影像自体も、映画の著作物に該当するものである。固定性の要件については、影像を再現したり、衛星放送回線等の万一の事故により影像が受信できない事態等に備え、個別に送信する価値がある以上は、送信と同時にビデオテープ・フィルムに固定されていると考えられる。
 いずれにしても、高橋証人の右その他の影像に関する証言は、日本人レーサーが初めて参加し、日本での関心も高く、それなりに視聴率を見込める一九九一年のレースに関するものであり、右証言から一九八三年の影像において、その他の影像を受信していたことまでは推認できない。
第五 被控訴人の主張に対する控訴人の認否及び反論
一 1 USGA
 被控訴人の主張一1(一)のうち、(1)、(2)は認める。ただし、エのビデオテープの送付は、生中継を行わない国の業者に対応するか、何らかの原因で衛星中継による生フィードが送受信不能となった場合に備えた定めである。(3)は争う。控訴人が取得したのは、右競技を衛星生中継で日本で放送する権利、すなわち、控訴人制作の番組(これを録画すればその著作権は控訴人にある)を衛星中継する放映権(録画中継、再放送を含む)に関する権利である。(4)、(5)は認める。
 同一1(二)のうち、(3)は争い、その余は認める。
 同一1(三)のうち、(3)は争い、その余は認める。
2 USTA
 同一2(一)、(二)のうち、各(三)は争い、その余は認める。
 (二)(2)アの条項は、対象競技の映画の著作物の使用権と放映権とは明確に区別され、USTAが何らかの方法で取得する映画の著作物は、全く別の扱いとなっていることが明らかであるから、この点からしても本件における放映に関する権利が著作物に関するものであるとの被控訴人の主張は失当である。
3 ANI
 同一3のうち、(一)は認める。
 (二)(1)のうち、同年五月一三日、ANIに対し二五〇〇ドルの支払があったことは認めるが、その余は争い、同(2)は争う。この支払については、契約書又はそれに代わる資料がなく、何に対する対価であるかは特定できない。
4 LPGA
 同一4のうち、(一)は争う。乙第一一号証は、その末尾に「正式の契約書は、LPGAの弁護士が作成中であり、近日中に貴殿へ送付される予定です」と記載され、タテワキの同意署名もないことからすれば、合意された契約ではなく、又は、白紙になった契約書である。
 (二)、(三)は争う。仮に乙第一一号証に効力があるとしても、乙第一一証は、一九八○年から一九八四年までの@LPGAトーナメントのビデオテープによる放映権、A日本におけるLPGA商標の商品化権、B日本におけるLPGA公式トーナメント(マツダジャパンクラシック)開催権を控訴人が取得することを内容としている。この中で最も価値があるのはBであり、@のみでは年間一七万五〇〇〇ドルないし二〇万ドルの価値はない。控訴人は、乙第一一号証の契約により、主としてBのLPGAの日本における公式戦の興行権(実況中継放映権を含む。)を取得したものであり、@のビデオテープはセットで付き合わされて買わされたものである。
 (四)は明らかに争わない。被控訴人の主張する放送内容は、近畿地域で毎日放送が深夜一一時五〇分からせいぜい三〇分程度放映したというもので、この程度のビデオテープが年間二〇万ドルの価値を持つことはない。
 (五)は争う。
 (六)は争う。乙第一一号証は、一九七九年一〇月三〇日付けで、控訴人、LTPC、スポニチサービスセンター(毎日放送系)の三者契約より八か月も前のものであり、控訴人は、マツダジャパンクラシックの興行権を毎日放送系の会社に売り込んで成約に至ったものが右三者契約である。この契約に控訴人が加わっているのは、乙第一一号証によりLPGAが控訴人に対し日本国内においてLPGA公式試合を企画し実施する排他的権利を控訴人に与えたからに他ならない。
5 UCLA
 同一5のうち、(一)は認め、(二)は、試合数が一一試合であることは否認し、その余は認める。(三)、(四)は争う。
 支払順号7の支払対象競技がUCLAフットボールゲーム(合計一一試合)か否かは、判然としない。なぜなら、日本で行われる一試合は、現実に日本で行われ、実況中継放映されているからである。しかも、支払順号7の支払目的欄にはバスケットボールとの記載があるが、これを何らかの事情でバスケットボールに関する同様の契約が追加されたものと主張するのは、勝手な推測である。
 (五)は争う。乙第二〇号証の一、五は、調査対象者の書面押印もなく、内容的にも明確なものではないから、採用できない。(六)は争う。バスケットボールの試合は、乙第一九号証とは何の関係もない。
6 NBCI
 同一6のうち、(一)は争う。支払順号16の支払については、契約書もなく、乙第二〇号証の一、六は、前記のとおり証拠能力も証明力もない。
 (二)(1)、(2)は認める。ただし、ビデオテープによる放映権は、あくまで送受信の不都合で中継放映ができなくなった場合の規定である。(二)(3)は争う。控訴人が取得した権利は、実況生中継の放映する権利、すなわち、控訴人制作の番組(これを録画すればその著作権は控訴人にある)を衛星中継する放映権(録画中継、再放送を含む)に関する権利である。(二)(4)は認める。(二)(5)は明らかに争わない。
7 TWI
 同一7のうち、(一)は認める。
 (二)は争う。この件については、契約書がなく、また、乙第二〇号証の六に証拠能力も証明力もないことは、前記のとおりである。
8 ABCスボーツ
 同一8のうち、(一)は争う。乙第一八号証が支払順号44、45の根拠であると解するには疑問が多い。仮に被控訴人の主張のとおりであるとしても、米ソ対抗陸上大会のテープは、セットで押し付けられて買わされたとも考えられ、そうなると入手したい他の放映権の取得経費というべきものであり、純粋な著作権の対価といえないところがある。
 (二)のうち、(1)、(2)は争う。乙第一六号証の一は、契約当事者の署名がなく、これを正式な書類と見ること自体おかしいし、その付属書類(五項a)がないから、何が提供され、乙第一七号証の著作権条項の適用を受けるのは何かは特定できない。(3)は争う。(4)は認める。(5)は明らかに争わない。(6)は争う。
9 WPE
 同一9のうち、(一)、(二)は認め、(三)は争う。(四)は認める。(五)は明らかに争わない。
 全米大学バスケットボール公式戦が、昭和五八年(一九八三年)一二月一五日、一六日、一八日、日本で行われ、日本テレビで放映された。これらの試合は、控訴人が取得した右放映権に基づくものである。
 二 同二は争う。
 三 同三1は争う。
 2 同三2は争う。
(一) 被控訴人主張の@放映期間及び放映回数を限定している条項があり、A契約に規定するあらゆる制限と条件に従う旨の記載があり、B契約において特定して許諾していない権利については、すべて主催団体が留保し、主催団体が認めた方法でしか国際影像等を使用できない旨が本件における契約書中に記載されている点も、それらは正に放映権の許諾条件であり、主催団体の有する興行権とか放映権とかの基本的な諸権利の抽象的宣言であって、著作権についての契約か否かとは何の関係もないことである。
(二) 他人の書いた本を入手してそれを第三者に送付すること又は自分の書いた本を誰かに送付することは、著作権の譲渡とは何の関係もないことと同じであるように、乙第三一号証の六及び七において、ビデオテープを無償でLPGAに提供することに同意するとの規定が設けられていることは、著作権の譲渡とは無関係である。(三)乙第三七号証の一ないし五は、原供述者の署名押印もなく、内容も、自ら経験していない事項を契約書など検討しないまま供述するものであり、信用性に欠けるものである。
 3(一) 同三3のうち、(一)は争う。
 (二) (二)(1)は争う。
 単なる電子信号としての影像そのものは映画の著作物でないことは当然であり、したがって、単なる影像使用の対価を不当な拡大、類推解釈により著作権使用の対価とする被控訴人の主張は租税法律主義に反する。
(三) (二)(2)は争う。
 編集著作物は、材料を収集し、分類し、選別し、配列するという一連の行為に知的創作性を認めたもので、具体的な編集物に具現化された編集方法を保護するものであるから、本件の場合、むしろ控訴人側がその著作権者となるものである。
(四) (三)ないし(五)は争う。
 4 同三4は争う。
 5 同三5のうち、(一)は争う。
 (二)は争う。現地における番組制作に当たっては、放送スタッフ、ディレクター、プロデューサー、カメラマン、解説者、ゲスト、技術者その他多数のスタッフが競技場に立ち入る場所の確保、中継施設、中継車の設置場所の獲得、放送席、撮影場所、自由に動ける場所の確保等が必要であるため、主催団体側から国際影像提供以外の各種の有形無形のサービス、しかも他より条件のよいサービスの提供を受けなければならないのであり、このために必要なものが技術料である。
6 控訴人の主張
 (一) 控訴人と主催団体との間の本件における契約は、放映権契約であって、著作権契約ではない。右放映権の内容は、基本的にはスポーツ競技場へ立ち入ってその競技の撮影とテレビ放映ができる権利である。そして、その放映に当たっては、当該競技はもとより、解説者の話、レポーターによるレポート、過去のレースの歴史等の影像と音声等を自由に組み合わせ、総合的に日本向け番組を制作して放映することができる。
 被控訴人も、放映権料には、日本向けの番組にするための独自影像の製作、自由な編集、日本語のアナウンスを付けることの許諾料も含まれることを認めているが、これが著作権の使用料でないことは明らかである。
(二) 主催団体は、各国放映権者の撮影権を認めつつも、会場整理権に基づいてホスト・ブロードキャスターを指名して、競技の代表撮影と他の放映権者に対する配信を指示し、各国放映権者は、スムーズな配信を条件としてこれを了承する。ホスト・ブロードキャスターは主催団体の従業員でもなければ、同団体と契約して同団体のために国際影像を製作するものでもない。国際影像なるものは、各国放映権者の共有的影像として利用されるものである。
(三) 各国の放映権者は、ホスト・ブロードキャスターに対し、製作費を分担して支払っている。代表撮影であるからこそ、控訴人らの放映権者が分担して製作実費をホスト・ブロードキャスターに支払うものである。
(四) ホスト・ブロードキャスター側のストライキ等で国際影像がない場合には、当然に自らの撮影権が前に出て、当然に自らの撮影権により自由に競技等の撮影を行うことができるのである。過去にそのような実例があった。
(五) 衛星生中継に関する各契約書全体を検討しても、その内容中に、@ホスト・ブロードキャスターの撮影する国際影像を映画の著作物と認めるとか、その著作権の目的として契約するという条項、Aこの国際影像の著作権者を主催団体と認めるという条項、B主催団体が映画の著作権者として国際影像の使用を許諾すること、及びこれに対して対価を支払う旨の条項、C国際影像の使用についてどの程度の内容変更、独自影像の付加等を許容するか等の条項は全くない。
 米国著作権法上、著作権の譲渡又は使用許諾の契約は、書面によることを要し、かつ、それが明確になされることが要件となっている。このような条項の全くない本件における支払を、他に見るべき客観的証拠もないのに、著作権使用の対価と解釈することは到底できない。
(六) 衛星生中継により日本で放映されたスポーツイベント番組の制作・著作者は、控訴人又は控訴人の取得した放映権の承継者である日本の放送事業者であり、放映画面にそのように表示され、米国の主催団体やホスト・ブロードキャスターが制作者であるとか原著作者であるとかの表示は一切ない。
(七) 契約上も、実際上も、控訴人がホスト・ブロードキャスターから受け取る国際影像は、素材としての影像信号であって、映画といえるような知的創作性を備えたものではない。撮影現場の競技場の中継施設のモニターテレビには、ホスト・ブロードキャスターの撮影した多くの影像のほか、日本側の撮影した独自影像が雑多に入ってくる。これを控訴人側のディレクターが選り分けたり独自影像を加えたりして番組として一本にまとめ、これに適当な自然音、打球音、歓声、アナウンス、解説等の音声を入れて、日本向けの番組を制作して、中継施設により衛星送信し、これが日本国内のテレビに放映されるのである。
(八) 同時固定による著作物性の取得は、わが国著作権法には規定されていないし、わが国における定説でも判例上確定した解釈でもない。わが国の著作権法は種々の問題を検討した上で「物に固定」を要件としたものであり、映画の著作物は文字どおり基本的にはフィルムとかビデオテープ等の「物」であり、その「物」と物の内容となる影像、言語、音楽等が一体となって著作物になるのである。仮にホスト・ブロードキャスターが国際影像を自らビデオテープに同時固定していると仮定した場合であっても、この固定は、ホスト・ブロードキャスターが自己のために行うものであって、このテープが衛星生中継放映用に控訴人側に交付されるわけではなく、まして主催団体との間の本件放映権契約上、このビデオテープが取引の対象となっているわけではない。もちろん、この内容の影像は日本における放映番組の影像とは全体として異なるものである。したがって、この固定とは別ルートで控訴人側に配信された生影像は映画の著作物ではない。生影像を受信することは、影像の伝達を受けたというべきものであって、著作物の使用をしたとかいうべきものではない。
(九) 一例として、一九八三年インディ五〇〇について検討する。ビデオテープの末尾には、制作・著作TBSと表示されている。ホスト・ブロードキャスターや主催者が製作の一部を担当したとか、その原始的な著作者であるとかの表示は全くない。もし国際影像が映画の著作物であるなら、当然そのような表示がなされて然るべきものである。
 また、国際影像が取り入れられているが、それ自体固定された状態ではなく、TBSが自由にこれを取捨選択しながら番組に組み入れたものであり、その他に、TBSが独自に日本向けに製作した種々の画面やアナウンス等が多数入っている。TBS側のカメラは、タワーテラスの右上に一台、パドックの屋根上に少なくとも一台、ピット付近に少なくとも一台、中継パウンド内に一台が配置され、これが独自影像を撮影している。
 影像の受取りも、控訴人側は、自ら調達した大きな中継車の中に一五台くらいのモニターテレビを用意し、その画面に日本の独自影像と国際影像をカメラごとに受信して受け取る。その後は、TBSのプロデューサーかディレクターが右の全部の影像を見ながらスイッチングにより自由に取捨選択し、これに日本語のアナウンスや解説を付け、過去のカーレース等を組み入れる等して日本向け番組を制作し、衛星中継により放映している。独自影像の割合は、番組全体の三ないし四割にのぼる。
(一〇) そうすると、本件における支払額のうち五〇%は、前記のとおり技術料であり、その余の部分のうち独自影像の割合が三ないし四割であるから、支払金額のうち合計で六五ないし七〇%が国際影像を除く部分の対価となる。
第六 証拠<略>
【理由】
第一 本件課税処分経緯及び異議申立ての前置の点について
一 請求の原因一のうち、1、2(一)、3のうち、本件各処分のうちその余の部分についてはこれを維持する旨の異議決定をしたことを除く事実、4、5の事実は、当事者間に争いがない。
二 控訴人は、本件異議申立ての範囲は本件各処分の全部であると主張するので、この点について判断する。
1(一) <証拠略>によれば、控訴人は、本件異議申立書(乙第一号証)の「1 異議申立てに係る処分」の欄に、「別紙日付による源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課処分」と、「3 添付書類」の欄に、「異議申立部分にかかる契約書」と、「4 異議申立ての趣旨及び理由」の欄のうち、「(1) 趣旨」及び「(2) 理由」の欄に、いずれも「別紙のとおり」とそれぞれ記入し、「異議申立の趣旨及び理由」と題した別紙には、「(1) 趣旨」として、「源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分のうち本税二五、二五九、○〇六円、及び不納付加算税二五二五、○○○円合計二七、七八四、○〇六円を上まわる部分の取消しを求めます。」と記載し、「(2) 理由」の欄に、USGAに対する支払のうち、五〇%相当額は、USGAによる技術相談サービスの費用、すなわち米国において提供される人的役務の対価であり、日本国内にその源泉がある所得とはならず、日本国によって課税できない、その他についても上記の理由と同様である旨の記載をし、さらに、添付一覧表の支払内容の欄には、昭和五五年七月分(支払順号2)、同年九月分(支払順号6)、同年一〇月分(支払順号7)、昭和五六年六月分(支払順号12ないし14)、昭和五七年二月分(支払順号24)、同年五月分(支払順号30)、同年七月分(支払順号37)、同年八月分(支払順号38)及び昭和五八年八月分(支払順号49ないし51)について、放映権料、写真フィルム使用料又はVTR製作費と記載され、技術費との記載はされておらず、添付一覧表の支払内容の欄に技術費と記載したものの合計額はほぼ一七二三万六九五五円であり、これは、本件納税告知処分額から前記控訴人が自認した二五二五万九〇〇六円を差し引いた額に一致することが認められる(別表2参照)。
(二) ところで、源泉徴収による所得税については、源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時にその納税義務が成立すると同時に納付すべき税額も確定するものとされており(国税通則法一五条二項二号、同条三項二号)、その法定納期限は右所得支払の日(所得税を徴収すべき日)の属する月の翌月一〇日とされている(所得税法二〇四条一項)。そうすると、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分は、少なくとも支払月あるいは法定納期限ごとに別個に行われる処分であり、また、これに関する不納付加算税賦課決定処分も、法定納期限ごとに別個に行われる処分と解すべきである。
(三) そうすると、控訴人による本件異議申立ては、少なくとも技術費として支払われたものが含まれない月分、すなわち、昭和五五年七月分(支払順号2)、同年九月分(支払順号6)、同年一〇月分(支払順号7)、昭和五六年六月分(支払順号12ないし14)、昭和五七年二月分(支払順号24)、同年五月分(支払順号30)、同年七月分(支払順号37)、同年八月分(支払順号38)及び昭和五八年八月分(支払順号49ないし51)については、これを不服としてその取消しを求める異議申立てを行ってはおらず、したがって、これらの月分の処分に対する異議決定も行われていないものというベきであるから、本件訴えのうち、右の各月分の取消しを求める部分は、不適法なものとして却下すべきである。
2(一) 控訴人は、本件異議申立書(乙第一号証)の添付一覧表には、本件各処分の全部が記載されており、これとこれを異議申立てから除くとかの特別の指定はないから、本件のすべての処分について異議申立てがあったものとして取り扱われるのが至当であり、本件異議申立ての範囲は、本件各処分の全部であると主張する。
 確かに、前記乙第一号証によれば、控訴人主張のように、本件異議申立書の添付一覧表には、本件各処分の全部が記載されていることが認められ、異議申立書(乙第一号証)一枚目の「1 異議申立てに係る処分」の欄に、「別紙日付による源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課処分」と記載されていることは前記認定のとおりであるが、異議申立ての範囲の認定も、異議申立書(乙第一号証)の記載を中心とした当事者の意思解釈の問題であると解されるところ、前記認定のとおり、異議申立ての趣旨において、一定額を超える部分の取消しを求め、異議申立ての理由に、技術費は日本国内にその源泉がある所得とはいえない旨の理由のみが記載されていた本件の事実関係の下では、技術費の支払の主張が含まれていない右各月分については異議申立てがされなかったと解さざるを得ない。そして、甲第二号証及び乙第二号証(異議決定書)を検討しても、右認定を左右する事情は認められない。
(二) なお、その後の審査請求において本件各処分全体について審理した上裁決がされている点も、異議申立ての対象とされなかった処分に関する審査請求は本来不適法なものであり、これに対して誤って実体審理の上裁決がされたとしても、それによって異議申立ての対象とされなかった処分につき異議申立てがされたことになるものではないから、前記結論を左右するものではない。
第二 著作権等の使用料に当たるかの点について
一 米国におけるスポーツイベントの放映の実情について
1 <証拠略>によれば、次の事実が認められる。すなわち、
(一) 本件におけるような米国等で行われる各種スポーツイベントについては、地域別あるいは種目別に各種協会などの団体が作られておりこれらの団体が各種スポーツイベントを主催する。これらの主催団体は、その主催するスポーツイベントをいかなる者に放映させるか、また、放送の態様、条件等を決する絶対的な許諾の権限を有している。各国の放送事業者は、各国でテレビ放映するための放映権の交渉をこれら主催団体又はその代理店等と行っている。
(二) あるスポーツイベントがテレビ放映される場合、各国の放送事業者が競技場等に立ち入ってそれぞれ撮影すると競技の進行に支障が生じ、また、撮影の無用な重複は経済的でもないので、ほぼ例外なく、放送事業者の中から(通常は、当該スポーツイベントが行われる国の放送事業者である。)ホスト・ブロードキャスターが指名され、ホスト・ブロードキャスターが自分も使用する影像を製作し、これを国際影像として各国の放送事業者に配信するという方法が採られている。その場合、製作された国際影像の著作権の全部又は一部、少なくともその著作物を用いてその内容である影像を国外において放映することを許諾することができる権利は主催団体に帰属することになる。国際影像の配信は、影像信号の送信による場合と、影像を収録したビデオテープ・フィルムの提供による場合とがある。国際影像の配信を受けた各国の放送事業者は、これに自国語のアナウンスや独自の影像を加えるなどして、各国で放送することになる。独自影像の撮影方法は、自社の撮影者を競技会場に立ち入らせて影像を撮影する場合や、他社に依頼して撮影してもらう場合があるが、後者の場合にその費用を別途当該他社に支払う必要があることは当然である。
(三) 国際影像にどの程度独自のものを加えるかは、番組ごとに異なり、国際影像に自国語のアナウンスを加えるだけものから、独自影像の比率が三割程度に及ぶものまである。
(四) そうすると、一般的に、スポーツ競技を日本でテレビ放送することを目的とする放映権契約においては、@国際影像を使用して日本でテレビ放送すること、A競技の円滑な進行に影響を与えない限度で、競技場に立ち入るなどして独自影像を撮影すること、B日本向けの放送にするために国際影像に独自影像や日本語のアナウンス、解説等を加えて日本でテレビ放送すること、が許諾されていると認められる。
2(一) 控訴人は、国際影像の製作は放映権者らの代表撮影にすぎない旨主張し、<証拠略>中には、右主張に沿う供述部分がある。
 まず、原審における控訴人代表者人尋問の結果中には、代表撮影を行うホスト・ブロードキャスターに別途製作費を支払う場合があるかのような供述があるが、この供述は、<証拠略>に照らし、採用できない。
 次に、前記認定の事実によれば、国際影像が作られるようになった初期の段階においては、国際影像の製作は、重複撮影が経済的でない等の理由により、各国放送事業者の話し合いにより行われるようになったのではないかとうかがわれないではない。しかしながら、本訴においてホスト・ブロードキャスターと各国の放送事業者が国際影像の取得について契約や協議を行っていることをうかがわせる証拠は提出されていないことからすると、放送事業者の中の一社が自分も使用する映像を製作し、これを国際影像として各国の放送事業者に配信する方法が定着し、主催団体がその点の手配をするようになると、国際影像の使用は、放映権者である放送事業者同士の協議による代表撮影的なものから、放映権契約により主催団体から許諾されるとの色彩が強くなったものと認められるから、これに反する<証拠略>中の各一部は採用できず、控訴人の右主張は採用できない。
(二) さらに、控訴人は、控訴人と主催団体との間の本件における契約は、放映権契約であって、基本的にはスポーツ競技場へ立ち入ってその競技の撮影とテレビ放映ができることを内容とするものである旨主張し、その例として一九八三年インディ五〇○を挙げる。確かに、控訴人主張のとおりのビデオテープであることについて当事者間に争いのない<証拠略>によれば、一九八三年インディ五〇〇においても、TBS撮影担当者らが競技場に立ち入って独自に競技の模様を撮影した部分があることが認められ、放映権料の中に競技場に立ち入って独自影像を撮影し、放送することの対価としての部分があることは、控訴人主張のとおりである。しかしながら、<証拠略>によれば、ABCスポーツ側で撮影したインディ五〇〇の影像を控訴人に供給することが規定されていることが認められ、しかも、<証拠略>によれば、自動車競走自体の放映の大部分ABCスポーツ側で撮影した影像を使用していることが認められるから、放映権契約の中に右影像を使用して日本でテレビ放送することの許諾が含まれていることも、同様に否定できないことであるといわなければならない。したがって、この点の控訴人の主張は採用できない。
 さらに、控訴人は、ホスト・ブロードキャスター側のストライキの場合には自らの撮影権により自由に競技等の撮影を行うことができるのであり、過去にそのような実例があった旨主張する。確かに、控訴人主張のストライキの場合に自らすべての撮影を行い、国際影像を使用しなかったのであれば、当該放映権契約により支払われた対価は著作権の使用料ではないと解する余地がある。しかしながら、国際影像を使用して日本でテレビ放送が行われている通常の場合には、前記説示のとおり、国際影像を使用して日本でテレビ放送することの許諾が含まれていることは否定できないものであり、<証拠略>によれば、本件における契約のうち、控訴人とUSGA,USTA及びTWIとの契約においては、控訴人が国際影像を受信できず、それに代わるビデオテープも入手できない場合には契約金額を全額返還する旨の条項が存在することが認められるから、例外的なストライキ時の対応をもって、一般の放映権契約をスポーツ競技場へ立ち入ってその競技の撮影とテレビ放映ができることのみを内容とする契約と位置づけることはできないといわなければならず、この点の控訴人の主張は採用できない。
二 名契約内容
 前記一に説示したところを踏まえて、各契約内容について検討すると、次のとおりである。
1(一) (支払順号1)
 被控訴人の主張一1(一)(1)、(2)、(4)及び(5)の事実は、当事者間に争いがない。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が右契約により取得した権利は、右競技を、USGAの提供する影像を利用した衛星生中継により日本で放送する権利であり、ビデオテープの送付等は、生中継を行わない国の業者に対応するか、何らかの原因で衛星中継による影像の送受信不能となった場合に備えた定めであり、控訴人側が競技場に立ち入って独自影像を撮影すること及びホスト・ブロードキャスターの撮影した影像に右独自影像や日本語のアナウンス、解説を加えて編集した上で日本で放映することは、右放映する権利に当然付随するものとして許容されていると認められる。
(二) (支払順号5)
 被控訴人の主張一1(二)(1)、(2)及び(4)の事実は、当事者間に争いがない。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、右(一)に判示したと同様の権利であると認められる。
(三) (支払順号9ないし11、31ないし36)
 被控訴人の主張一1(三)(1)、(2)、(4)及び(5)の事実は、当事者間に争いがない。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、右(一)に判示したと同様の権利であると認められる。
2(一) (支払順号3)
 被控訴人の主張一2(一)(1)、(2)、(4)及び(5)の事実は、当事者間に争いがない。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、USTAの提供する影像を利用する右1(一)と同様の権利であると認められる。契約の条項が「控訴人は、右競技の原創作者から、この録画を取得する権利を有する」等となっている点も、控訴人がホスト・ブロードキャスターと認められる者に別途金員の支払をした等の事情も認められないから、右認定を左右するものではない。
(二) (支払順号17、20、29、39ないし41)
 被控訴人の主張一2(二)(1)、(2)、(4)及び(5)の事実は、当事者間に争いがない。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、右(一)に判示したと同様の権利であると認められる。
3 (支払順号4)
 被控訴人の主張一3(一)の事実は、当事者問に争いがない。
4 (支払順号15、19、21ないし23)
 被控訴人の主張一4(四)の事実は、控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。<証拠略>によれば、被控訴人の主張一4(一)ないし(三)及び(五)の事実が認められる。
 控訴人は、乙第一一号証の契約により、主としてLPGAの日本における公式戦の興行権(実況中継放映権を含む。)を取得したものであり、ビデオテープはセットで付き合われて買わされたものであると主張する。しかしながら、<証拠略>によれば、乙第一一号証の第一項は、一九八○年の一七万五〇〇〇ドルの支払等は、LPGAの試合の日本国内における再放送権の許諾の対価と規定しており、第三項は、これとは別に、日本国内においてLPGA公式戦を企画、実施する権利について規定しており、第一項の支払が第三項の公式戦の企画、実施する権利の対価でもあることを示唆する記載はないことが認められ、これらの事実によれば、仮に、控訴人が日本国内においてLPGA公式戦を企画、実施する権利の取得に役立つと考えてビデオテープによる放映権の対価として高額の支払をした事情があったとしても、そのような事情は、右再放送権取得の動機又は契機にすぎないものというべきであり、右一七万五〇〇〇ドル等の支払がビデオテープによる放映権の対価であることを何ら変更するものではないと認められる。したがって、控訴人の右主張は、採用できない。
5 (支払順号8)
(一) 被控訴人の主張一5(一)は、当事者間に争いがなく、同(二)の事実は、試合数の点を除き、当事者間に争いがない。<証拠略>によれば、一〇月一八日の欄は空欄になっていることが認められ、結局試合数は一一試合であると認められる。
 <証拠略>によれば、控訴人は、右認定のUCLAとの契約に基づき、フットボールゲーム七試合ダビング料等の名目で、UCLAの指示により、KTLAに対し、六一九三・七五ドル(円換算額一二九万七二八○円)を支払ったことが認められる。この支払の中に、昭和五五年一一月三〇日に東京で行われたUCLA対オレゴン州立大の試合の放映権料が含まれていることをうかがわせる証拠はない。
(二) 控訴人は、乙第二〇号証の一及び五は、調査対象者の署名押印もなく、内容的にも明確なものではないから、採用できない旨主張する。しかしながら、前記乙第二〇号証の一によれば、乙第二〇号証の一及び五は、四谷税務署池田博之事務官が税務調査の過程で、控訴人が保管していた送金依頼書等を確認しながら、控訴人の担当者小安啓一らの説明を聞いて作成した調査メモ及びその説明を録取したものであると認められ、控訴人からの具体的な反論がないまま、これを信用できないものとして排斥することはできないといわなければならない。
(三) 以上に説示の事実によれば、控訴人は、前記契約により、一九八○年UCLAのフットボールゲームをUCLAから提供されたビデオテープにより日本で放送する権利を取得し、前記六一九三・七五ドルの支払(支払順号8)は、ダビング料の名目にはなっているものの、右放送する権利の対価として支払われたものと認めるべきである。
6(一) (支払順号16)
 <証拠略>によれば、被控訴人の主張一6(一)(1)、(2)の事実が認められる。
 控訴人は、乙第二〇号証の一及び六は、採用できない旨主張するが、前記5で述べたと同様の理由により、控訴人の右主張は採用できない。また、右支払の名目がローズボール番組フィルム製作費となっていることも、右認定を左右するものではない。
(二) (支払順号25ないし28)
 被控訴人の主張一6(二)(1)、(2)及び(4)の事実は当事者間に争いがなく、同(5)の事実は控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、NBCIの提供する影像を利用する前記1(一)に判示したと同様の権利であると認められる。
7 (支払順号18)
 被控訴人の主張一7(一)の事実は、当事者間に争いがない。
8(一) (支払順号44、45)
 <証拠略>によれば、被控訴人の主張一8(一)の事実が認められる。
 控訴人は、米ソ対抗陸上のテープは、セットで押しつけられて買わされたとも考えられ、そうなると純粋な著作権の対価といえない旨主張する。しかしながら、そのような事情は、右テープ取得の動機又は契機にすぎないものというべきであり、右九〇〇〇ドルの支払の放映権取得の対価としての性質を何ら変更するものではないと認められる。
(二) (支払順号42、43、48)
 被控訴人の主張一8(二)(4)の事実は当事者間に争いがなく、同(5)の事実は控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。<証拠略>によれば、被控訴人の主張一8(二)(1)、(2)及び(6)の事実が認められる。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、一九八三年インディ五〇〇をABCスポーツの提供する影像を利用して衛星生中継で日本で放映する権利であり、競技の円滑で進行に影響を与えない限度で、控訴人側が競技場に立ち入って独自影像を撮影する及びホスト・ブロードキャスターの撮影した影像に右独自影像や日本語のアナウンス、解説を加えて編集した上で日本で放映することは、右放映する権利に当然付随するものとして許容されていると認められる。
9 (支払順号46、47)
 被控訴人の主張一9(一)、(二)及び(四)の事実は当事者問に争いがなく、同(五)の事実は控訴人においで明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
 右に説示の契約内容及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が取得した権利は、NCAAバスケットボール選手権を、控訴人の選択により、WPEの提供するビデオテープ又は影像を利用した衛星生中継により、日本で放映する権利であると認められる。控訴人は、全米大学バスケットボール公式戦が昭和五八年(一九八三年)一二月一五日、一六日、一八日、日本で行われ、これらの試合は日本テレビで放映されたが、これらの試合は控訴人が取得した右放映権に基づくものである旨主張する。<証拠略>によれば、控訴人主張のとおりのNCAAバスケットボール公式戦が日本で開催されたことが認められるが、このNCAAバスケットボール公式戦が右契約の対象となったNCAAバスケットボール選手権と同一のものとは認められないから、この点の控訴人の主張は採用できない。
10 小括
(一) 以上に認定の事実によれば、支払順号4のものは、著作物であることが明らかな編集済みのテレビ番組やビデオテープ等を使用して二次著作物を制作して放映する権利(なお、この権利は、米国著作権法上も保護されている(米国著作権法一〇六条(2)。)に係るものであるから、その許諾料の支払が、所得税法一六一条七号ロに規定する著作権等の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権等の使用の対価に該当することは明らかである。
(二) また、支払順号8、15、16、18、19、21ないし23、44、45のものは、主催団体からビデオテープ・フィルムの提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものである(後記主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものも、控訴人側の選択により又は衛星生中継による受信ができなかった等の事情により、ビデオテープの提供を受けた場合は、この類型に属するものである。)。
(三) 支払順号1、3、5、9ないし11、17、20、25ないし29、31ないし36、39ないし43、46ないし48のものは、主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものである。
三 著作物性について
1 映画の著作物であることについて
(一) 著作権法二条三項は、「『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」と規定しているが、この要件に当たるためには、@映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているか、A物に固定されているか、B内容的に著作物といえるか(著作権法二条一項一号参照)が問題となる。
(二) 本件においては、主催団体からビデオテープの提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものも、主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものも、@の要件を満たすことは明らかである。
(三)(1) Aの固定性の点については、主催団体からビデオテープの提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものについては、固定性の要件を満たすことは明らかである。
(2) 主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものについても、その影像が送信と同時に録画されている場合には、固定性の要件を満たすと認められる(なお、固定性の要件については、米国においても同様に解されており、創作行為と同時に収録される場合には、この要件は充足されると解されていると認められる(米国著作権法一〇一条参照)。)。同時固定では足りない旨の控訴人の主張は採用できない。
 本件においては、前記認定のとおり、衛星生中継による影像の提供とビデオテープ・フィルムの提供とが選択的な方法とされている場合が多く、また、<証拠略>によれば、ホスト・ブロードキャスターは影像の送信と同時にビデオテープ等に収録しているのが通常であると認められるから、本件における生放送のための影像も固定性の要件を満たすと認められる。また、<証拠略>によれば、競技場所の中継車等で、ホスト・ブロードキャスターから、ホスト・ブロードキャスターの編集した国際影像とともに、ホスト・ブロードキャスターの各カメラの撮影した影像を受け取り、それを受け取った控訴人側で取捨選択を行って日本に衛星生放送することがあることが認められるが、弁論の全趣旨によれば、右各カメラの撮影した影像をについても、スローモーション再生等のためにホスト・ブ口ードキャスターにおいて同時固定してい
るものと認められる。<証拠判断略>
(四) Bの知的創作性の要件については、本件におけるようなテレビ放映用のスポーツイベントの競技内容の影像は、競技そのものを漫然と撮影したものではなく、スポ−ツ競技の影像を効果的に表現するためにカメラワークの工夫、モンタージュやカット等の手法、フィルム編集等の何らかの知的な活動が行われ、創作性がそこに加味されているということができるから(<証拠路>によれば、一九八三年インディ五〇〇においても、右に述べたカメラワークの工夫等が行われていることが認められる。)、本件における国際影像は知的創作性の要件を満たすと認められ、この点は、ホスト・ブロードキャスターの各カメラが撮影した影像を受け取る場合であっても、カメラワーク等の工夫があることに変わりはないから、同様と認められる。
 控訴人は、国際影像やホスト・プロードキャスターの各カメラが撮影した影像は素材にすぎない旨主張するが、控訴人側が取捨選択するとの観点からは素材であっても、右説示のとおり、スボーツ番組を制作するために撮影された国際影像等自体も、スポーツ競技の影像を効果的に表現するためにカメラワークの工夫等が行われ、知的創作性を有するものであり、控訴人のこの点の主張は採用できない。
 さらに、控訴人は、衛星生中継により日本で放映された当該スポーツイベント番組の制作・著作者は、日本の放送事業者であり、放映画面にもそのように表示される旨主張するが、右放映画面における制作・著作者の表示と国際影像等が知的創作性を有するか否かとは直接関係しないから、控訴人の右主張から、国際影像等が知的創作性を有しないと解することはできない。
(五) 米国著作権法上も、映画その他視聴覚著作物が保護される著作物の一つとして掲記されており(米国著作権法一〇二条(a)(6)、ビデオテープ・フィルムの提供による場合も、影像の提供による場合も、同条の一定める著作権保護のための基準である固定性及び知的創作性の要件を満たすものと認められる。
(六) 以上によれば、本件におけるスポーツ競技を収録したビデオテープ及び生放送のための影像は、いずれも「映画の著作物」に当たり放映権料としての支払のうち右影像等を使用して日本でテレビ放送することに対応する部分は、所得税法一六一条七号ロに規定する著作権等の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権等の使用の対価に該当すると解すべきである。
 そして、このように解することが租税法律主義に反するとも認められない。
2 改作の許諾
 また、日本向けの番組にするために、主催団体の提供する影像やビデオテープに、独自影像や日本語のアナウンス、解説等を加えて日本でテレビ放送することの許諾は、改作利用権の行使である改作利用の許諾(著作権法二七条)及びその放送の許諾(同法二八条)であると認められ(なお、この点は米国著作権法上も同様であると解される(米国著作権法一〇六条(2)。)、本件におけるスポーツ競技を収録したビデオテープ及び生放送のための影像がいずれも「映画の著作物」に当たることは前記説示のとおりであるから、放映権料としての支払いのうち右改作利用の許諾及びその放送の許諾に対応する部分も、所得税法一六一条七号ロに規定する著作権等の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権等の使用の対価に該当すると解すべきである。
3 主催団体の契約権限について
 なお、控訴人は、主催団体が競技の映画の著作権者と認定することにおいて、書面による契約によらないことの問題を主張する。
 しかしながら、<証拠略>によれば、LPGAのトーナメント・スポンサーズ・マニュアルの「ブロードキャスティングコントラクツ」の項においては、テレビ、ラジオ放送に関するすべての権利はLPGAに帰属するものとされ、更に、スポンサーは、LPGA主催の競技が放送された場合には、当該放送を収録したテープのコピーをLPGAに提出することに同意することとされており、マツダ・ジャパン・クラシックに関するLPGAとスポニチサービスセンター(スポニチサービスセンターは、LPGAからマツダ・ジャパン・クラシックの開催権を取得し、日本でのテレビ放送権を毎日放送に譲渡したものである。)との契約においては、「テレビ及びラジオ放送並びに映画作成、展示のすべての権利、及び、トーナメントのすべてのその他の付随的権利は、LPGAの所有物であり、LPGAが留保する。…SSC(スポニチサービスセンター)は、LPGAが米国内又は日本以外の他の場所でトーナメントを放送するのに使用するため、日本に於ける各トーナメント放送の、一インチ又は二インチビデオテープを、無償でLPGAに提供することに同意する。」旨の規定が設けられていることが認められる。右認定の事実によれば、第一次的にホスト・ブロードキャスターに帰属するビデオテープ・フィルム及び国際影像の著作権の全部又は一部、少なくともその著作物を用いてその内容である影像を国外において放映することを許諾することができる権利が、書面による契約により主催団体に移転しているものと認めることができる。
 そして、<証拠略>によれば、放送関係者の問においては、主催団体は国際影像の製作をホスト・ブロードキャスターに委託するが、ホスト・ブロードキャスターが製作した国際影像に関する権利一切は主催団体に帰属するものと認識されており、本件における契約についても、主催団体が国際影像を使用して各国で放映することを許諾する契約を結ぶことにつき、ホスト・ブロードキャスター側から異議が出された等の事情もうかがわれないことに照らせば、右認定のLPGAとスポニチサービスセンター間の契約の場合と同様に、書面による契約が本件におけるその余の契約においても締結されていると推認すべきである。
 控訴人は、乙第三七号証の一ないし五は、原供述者の署名押印もなく、内容も、自ら経験していない事項を契約書など検討しないまま供述するものであり、信用性に欠けるものである旨主張するが、乙第三七号証の一ないし五が原供述者の署名押印がないことだけから信用できないものと認めることはできず、しかも、乙第三七号証の一ないし五に記載された内容は、乙第三一号証の一等により認められる主催団体とホスト・ブロードキャスターと同視すべき者との契約内容によっても裏付けられているから、この点の控訴人の主張は採用できない。
四 著作物の使用料と立入りの対価等が含まれている場合の処理
1 主催団体からビデオテープの提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係る類型のものについては、競技場に立ち入るなどして独自影像を撮影した等の事情もうかがわれないから、その許する著作権等の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権等の使用の対価に該当すると解すべきである。
2 主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係る類型のものについて、控訴人は、一九八三年インディ五〇〇における独自影像の割合は三、四割である旨主張するが、控訴人の自認の限度においても、一九八三年分の二程度は、ホスト・ブロードキャスターの撮影した影像にアナウンス、解説を加えたりしたものを使用しているものである上、前記<証拠略>によれば、一九八三年インディ五〇〇においては、独自影像とはいっても、インディ五〇〇の歴史やインデアナ州の由来を紹介する等の影像が多く、本体である自動車競走の放映については独自影像を使用している割合は尚一層低いことが認められる。他の競技においては、右の一九八三年インディ五〇〇以上に独自影像を使用している割合が高いことを認めるに足りる証拠はない。
 そして、前記認定のとおり、主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係る類型のもの(支払順号1、3、5、9ないし11、17、20、25ない29、31ないし36、39ないし43、46ないし48)についての契約においては、ホスト・ブロードキャスター撮影の影像を使用して放送することに対応する分及びホスト・ブロードキャスターの撮影した影像に独自影像や日本語のアナンウス、解説等を加えて日本で放送することに対応する分と、競技場に立ち入って独自影像を撮影することに対応する分とを分けずに、一体として放映権料の取決めがされているものである。
 そうすると、本件では、控訴人が支払った対価の一部に観念的には競技場に立ち入って独自影像を製作することの対価である部分が含まれているとしても、競技場に立ち入るなどして独自影像を撮影することに対応する部分が区別されて契約されておらず、それが放映時間中で占める割合も少ないといわざるを得ない本件の事実関係の下では、放映権契約に基づいて支払われた放映権料全体が、所得税法一六一条七号ロに規定する著作権等の使用料及び日米租税条約一四条(3)(a)に定める著作権等の使用の対価に該当すると解すべきである(なお、控訴人主張の技術料等の主張が認められないことは、後記五のとおりである。)。
 これに反する控訴人の主張は採用できない。
五 技術料等について
(1) 控訴人は、現地における番組制作に当たっては、放送スタッフ、ディレクター、プロデューサー、カメラマン、解説者、ゲスト、技術者その他多数のスタッフが競技場に立ち入る場所の確保、中継施設、中継車の設置場所の獲得、放送席、撮影場所、自由に動ける場所の確保等が必要であるため、主催者側から国際影像提供以外の各種の有形無形のサービス、しかも他より条件のよいサービスの提供を受けなければならないのであり、このために技術料が必要である旨主張し、<証拠略>中には、右主張に沿う供述がある。
(2) しかしながら、控訴人が技術料等のサービスの提供の対価として支払った金員であると主張するもののうち、支払順号4、15、19、21ないし23、26、28、43、45及び48の各金員については、その根拠となる各放映権契約において、技術料等を支払うとの条項は認められず、控訴人が技術料等を支払う必要があったことをうかがわせる事情も認められない(殊に、支払順号4の金員の支払については、既製のテレビ番組やビデオテープを使用して二次的著作物を製作することに関する契約に基づくものであり、その画像は既に完成しているから、契約先の米国法人による技術相談料のようなものが発生する余地はないと認められる。)。
(3) 支払順号1、3、5、9ないし11、17、20、32、34、36、40、41及び47の各金員については、前記認定のとおり、その根拠となる各放映権契約において、控訴人の支払う対価のうち一律五〇%に相当する金額を技術料等として支払う旨の約定が存在するが、いずれもTWIの関与の下に又はTWI自らが締結したものであり、かつ、右契約においては技術料等に係るサービスの内容は明記されていない。仮に、控訴人が主催団体から何らかのサービスを受けたことがあるとしても、控訴人主張の前記サービスの内容自体、放送席の確保、中継車の設置場所の確保、撮影スタッフが自由に動ける場所の確保等というものであり、それが対価として放映に関して支払う総額につき一律五〇%もの支払がなされることを要する程度のものとは到底認められず、右技術料等の額と控訴人が受けた便宜との間に合理的関連性があるとは認められない。
(4) 以上によれば、右の各契約における技術料等は名目にすぎず、実質的にはすべて放映権料として支払われたものと解されるから、控訴人の主張に沿う<証拠略>の各一部は採用できず、国内源泉所得ではない技術料等であるとする控訴人の主張は採用できない。
六 まとめ
 そうすると、本件各処分(ただし、別表2の昭和五六年九月分の処分のうちの順号欄02記載の金員の支払に関する処分、同年一二月分の処分のうちの順号欄03記載の金員の支払に関する部分及び昭和五八年一月分の処分を除き、昭和五九年七月一〇日付けの異議決定処分により取り消された後のもの)のうち、昭和五五年七月分(支払順号2)、同年九月分(支払順号6)、同年一〇月分(支払順号7)、昭和五六年六月分(支払順号12ないし14)、昭和五七年二月分(支払順号24)、同年五月分(支払順号30)、同年七月分(支払順号37)、同年八月分(支払順号38)及び昭和五八年八月分(支払順号49ないし51)を除く源泉徴収による所得税に係る各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分に違法はないと認められる。
第三 結論
 以上によれば、本件訴えのうち、昭和五五年七月、九月、一〇月、昭和五六年六月、昭和五七年二月、五月、七月、八月及び昭和五八年八月分の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定処分の取消しを求める部分は不適法であるから却下し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 伊藤博
裁判官 濱崎浩一
裁判官 市川正巳

別表1 <略>
   2 本件納税告知処分及び不服申立て等の状況表<略>                  
line
 
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