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【事件名】ガレージキット事件
【年月日】平成9年7月17日
 京都地裁 平成7年(ワ)第1371号

判決
原告 X
右訴訟代理人弁護士 小野健二
被告 株式会社A
右代表者代表取締役 Y1
被告 Y1
被告 Y2
被告 Y3
右四名訴訟代理人弁護士 野々山宏
同 坂田均


主文
一 被告株式会社Aは、別紙目録一1ないし4記載の著作物の模型原型制作者名に、原告以外の者の名を表示して展示・販売し又は原告の名を表示しないで展示・販売してはならない。
二 被告株式会社Aは、別紙目録一1ないし4記載の著作物を、原告の意に反して変更、切除その他の改変をしてはならない。
三 被告Y2は、別紙目録一1、2記載の著作物を原告の意に反して変更、切除その他の改変をしてはならない。
四 被告Y3は、別紙目録一3、4記載の著作物を原告の意に反して変更、切除その他の改変をしてはならない。
五 被告株式会社Aは、別紙目録二1ないし4記載の著作物又はその複製品を展示・販売してはならない。
六 被告株式会社A、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し金二七万五〇〇〇円及びこれに対する被告株式会社Aは平成七年六月一七日、被告Y1は同月一八日、被告Y2は同月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被告株式会社A、被告Y1及び被告Y3は、各自、原告に対し金二七万五〇〇〇円及びこれに対する被告株式会社Aは平成七年六月一七日、被告Y1は同月一八日、Y3は同月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
九 訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告株式会社Aに生じた費用の四分の三を同被告の負担とし、原告に生じた費用の一二分の一と被告Y1に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、原告に生じた費用の六分の一と被告Y2に生じた費用の四分の三を同被告の負担とし、原告に生じた費用の六分の一と被告Y3に生じた費用の四分の三を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告ら各自に生じたその余の費用を原告の負担とする。
一〇 この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
一 主文一ないし五項と同旨
二 被告株式会社Aは、原告に対し、別紙広告目録一記載のとおりの謝罪広告を、株式会社ホビージャパン(住所省略)発行の月刊ホビージャパンの定期版に、同目録二記載のとおりの条件で一回掲載せよ。
三 被告株式会社A、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し金三九六万円及びこれに対する被告株式会社Aは平成七年六月一七日、被告Y1は同月一八日、被告Y2は同月二〇日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社A、被告Y1及び被告Y3は、各自、原告に対し金三四六万円及びこれに対する被告株式会社Aは平成七年六月一七日、被告Y1は同月一八日、被告Y3は同月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
 本件は、被告株式会社A(以下「被告会社」という)の元従業員であった原告が、在職中に制作したいわゆるガレージキットの模型原型を、被告会社の代表取締役である被告Y1(以下「被告Y1」という)の指示の下、被告Y2(以下「被告Y2」という)及び被告Y3(以下「被告Y3」という)が改変した上、被告会社がこれを商品化して被告Y2及び被告Y3を制作者として広告・販売したことが、原告の著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害するものであるとして、被告会社、被告Y2及び被告Y3に対し、原告の制作した模型原型の改変等の差止請求をするとともに、被告会社に対する謝罪広告及び被告らに対する損害賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実及び証拠(文中に掲記)により認定した前提事実
1 被告会社は、各種模型及び玩具の卸・小売販売及び中古品の売買を主たる目的とする会社であり、被告Y1は被告会社の代表者である。また被告Y2及び被告Y3は、被告会社の従業員であり、模型原型の造型に従事している(争いがない)。被告会社は、被告Y1及びその妻であるPが昭和四七年に創業した個人商店を昭和五五年に株式会社としたものであり、昭和五八年ころから、いわゆるガレージキット商品の製造販売を行うようになった(乙二九)。
2 原告は、昭和四九年ころから、被告会社の前身の個人商店の従業員として勤務した後、被告会社設立とともに同社に入社し、くずは店、塚口店の店長等を勤めるとともに、外部造型師の作品監修、商品の完成見本の制作等の仕事を行っていたが、昭和六○年ころから模型原型の造型も行うようになり、制作した模型原型に係る商品売却一個目から販売価格の五又は一〇パーセントの金銭の支払を被告会社から受けていた(甲二八、二九、乙二九、証人P一○回・三一、三二頁(証人Pの第一〇回口頭弁論期日の証人尋問調書別紙速記録の三一、三二頁一以下、同様に示す)、原告本人八回・二〜五頁)。
3 昭和六二年五月ころ、原告は、被告会社との間で、原告が制作した模型原型のうち五〇〇個を超えて製品化された場合には、被告会社が原告に対し販売価格の一〇パーセントを支払う旨の合意をした(以下「本件合意」という。この合意の性質については後述のとおり争いがある)(甲二九、乙二九、証人P一〇回・五三、五四頁、原告本人八回・二、三頁)。
 原告は、本件合意に基づき、別紙目録一1ないし4記載の模型原型(以下、順に「ジョーカー(原告)」、「フル装備(原告)」、「ジュノーン初期型(原告)」、「クロスミラージュ(原告)」といい、これらを併せて「本件模型原型」という)を制作し、被告会社は、それを商品化して、次のとおり販売した(甲二八、証人P一○回・六二〜六四頁)。
4 原告は、平成三年一月末に被告会社を退社した(甲二八)。
5 その後、被告会社は、被告Y1の指示により、被告Y2に別紙目録二1記載の模型原型(以下「アマテラス(被告)」という)を制作させて商品化し、平成四年七月二五日販売の模型雑誌「ホビージャパン」八月号の被告会社掲載の広告部分において、その商品に「一○○分の一レッドミラージュ・アマテラス」という名称を付して広告し(甲二八−一一頁)、同様に、被告Y2に別紙目録二2記載の模型原型(以下「フル装備(被告)」という)を制作させて商品化し、平成五年一二月号の同誌上において、その商品に「LED MIRAGE」、「1/100レッド・フル装備」という名称を付し「造型/Y2 and 「P/T」」と表示して広告し(甲一一)、これらの商品を販売した(甲三四、三五、乙二九、P一一回・一三頁)。
 また、被告会社は、被告Y1の指示により、被告Y3に別紙目録二3記載の模型原型(以下「ジュノーン初期型(被告)」という)を制作させて商品化し、平成五年五月二五日発売の同誌上において、その商品に「一○○分の一NEWジュノーン初期型」という名称を付して広告し(甲二八−一三頁)、同様に、被告Y3に別紙目録二4記載の模型原型(以下「クロスミラージュ(被告)」という)を制作させて商品化し、平成五年一一月号の同誌上において、その商品に「CROSS MIRAGE」、「1/100クロス・M雄型」という名称を付し、被告Y3が制作者である旨を表示して広告し(甲一〇)、これらの製品を販売した(以下、これらの四個の模型原型を「被告模型原型」という)(甲三四、三六、乙二九、P一一回・一三頁)。
6 前記3及び5の各商品は、ガレージキット又はレジンキャストと呼ばれる手作り模型(以下「ガレージキット」という)で、昭和五八年ころから販売されるようになった比較的新しい商品である。プラモデルの主流を占める「スケールモデル」(縮尺模型)は、実在する物体を正確、精密に縮小して模型化するため、実物あるいは実物の設計図面よりサイズを割り出して模型化用の設計図を作成し、それに基づき木製の立体型を造り、その木型を基にして、精密機械によって金型を作成して制作する。一方、ガレージキット、特にロボット、人形などのキャラクター模型の場合は、実物が存在しないため、造型の元となるのは、漫画、イラスト、アニメの画面等であり、樹脂塊や木片、プラスチック板等を芯材として、エポキシ粘土やポリエステル等の半練り状のパテを盛りつけ削るなどして成形した上、シリコンゴムで型取りして制作する(甲二八、証人P・一〇回・一三、七〜一一頁)。
 本件模型原型及び被告模型原型は、いずれも漫画家Qの漫画である「ファイブスター物語」(THE FIVE STAR STORIES)の登場キャラクター(モーターヘッドと呼ばれる人型兵器)を立体化したものである(甲二九、三五、三六、四〇、乙二二〜二五)。
7 右の漫画等の原作者は、株式会社トイズプレス(以下「トイズプレス」という)、日本サンライズ、創通エージェンシー、東宝映像、東映動画等に対し、著作権及び商品化権の管理を委託しており(以下、これらの委託を受ける会社を「版権元」という)、被告会社は、外部の造型師に模型原型の制作を依頼し、あるいは原告等が模型原型を制作するにあたっては、版権元との間で商品化権使用許諾契約を締結していた。原告が制作した本件模型原型の版権元は、トイズプレスであったところ、被告会社とトイズプレスとの間の同契約においては、同契約に基づいて商品に使用することを許諾された著作物の原型・原画・原稿等の複製物を制作したときは、その著作権及び所有権は、トイズプレスに帰属する旨の定めがあった(甲八、三一の1、2、3、乙二一、乙二九、証人P一○回・一三、一四、二六、二七項)。
8 なお、ガレージキットの商品の広告等には、その模型原型の制作者名が明記されることが多く、被告会社の商品も同様であり(甲一四、一五、一八〜一九)、本件模型原型に係る商品の広告にも「Xが責任造型しました」あるいは「X´」等と表示されていた(甲八、九、二八)。
三 争点
1 本件模型原型の著作物性の有無
2 本件模型原型に対する著作者人格権の帰属―法人著作の成否
3 著作者人格権侵害の有無
(一)被告模型原型は、本件模型原型を改変したものか。
(二)右改変はやむを得ない改変か。
(三)被告模型原型は、本件模型原型と異なる新たな第二次著作物か。
4 原告の損害
5 謝罪広告の必要性
四 争点に対する当事者の主張
1 争点1(本件模型原型の著作物性の有無)について
(一)原告
(1)本件模型原型は、著作権法一○条一項四号の「美術著作物」に該当する。すなわち、「美術著作物」とは思想又は感情が線・色彩・明暗をもって平面的あるいは立体的に表現されている著作物をいうとされており、また、「思想・感情」の語は、「かんがえ・きもち」ぐらいの広い意味に捉えるべきであり、一般に感情を表現するものは美術又は音楽著作物であるということができるとされる。まさしく、本件模型原型は、原型制作者である原告のキャラクターに対する感情、きもちをキャラクターの造型にあたって線・色彩・明暗をもって表現したものである。
(2)次に、本件模型原型は、原著作物であるキャラクターを立体化した造形物であるから、その立体化の過程で創作性が存在するか否かが問題になるが、創作性は、著作者の個性が著作物の中になんらかの形で現われていれば十分であり、キャラクターを基にして本件模型原型を創作した場合でも、原型制作者の個性が当該原型に表現されていれば著作物性を認めることができる。
(3)ところで、同一のキャラクターについても、トイズプレスは複数の商品化権使用許諾をなし、競合したガレージキット商品が販売されているが、そのことは一つの模型原型が造型される毎に、当該原型制作者の個性が模型原型に反映されることを意味している。またこれらガレージキット商品消費者は極めてマニアックな人達であり、その選択眼は自己が持つキャラクターに対して抱くイメージを、いずれの商品がより格好よく表現しているか(個性があるか否か)を見極めることに使われている。
(4)また、トイズプレスが商品化権使用許諾契約の際に使用する定型化された「商品化権使用契約書」でも模型原型を著作物と認めており、また被告会社が社外造型師に原型制作を依頼する際に使用してきた「業務提携契約書」でも原型制作者が著作権を有することを前提として著作権使用料を支払う旨規定している。
 なお、被告会社は、アマテラス(被告)及びジュノーン初期型(被告)に対する仮処分手続中は、ジョーカー(原告)及びジュノーン初期型(原告)の著作物性を認めていた。
(二)被告
(1)ガレージキット商品は、二次元的に表現された漫画、映画のキャラクターを、可能な限り忠実に立体化した商品である。したがって、これらの商品及びその立体化の途上で作成される模型原型に創作性はなく、著作物性を認めるべきではない。
 仮に、このような場合に著作物性を認めると、同一のキャラクターをテーマとする全ての立体に対し独占権を与えることになり、不都合な結果が生じる。なぜなら、同じキャラクターをテーマとした後発の立体は全てその原画への忠実性故に、先発の立体と実質的に類似性を有するもめとして、先発者に二次的著作権の侵害を主張されかねないからである。
(2)また、キャラクターの立体制作者は、その立体を二次元的に模写した者に対して、著作権侵害を主張することができることになる。この結果、立体制作者は、原画の著作権者と事実上同一の権利を取得するという不都合を生じさせることになる。商品化の度に二次的著作権を発生させることになる所論は、キャラクターのイメージの同一性を確保しつつ、かつ、権利の散逸を防止しながら種々の商品化を目指すキャラクター事業とは、到底相容れないものである。
(3)キャラクターを立体化するに際し、原型制作者は、原作、原画の数コマから代表的ポーズを抽出して描いた絵コンテあるいは原作者が制作したサイズ・フォルム・モールド等に関する設定資料を参考にして、可能な限り原画のキャラクターのイメージを忠実に立体化することを目標とする。この立体化の作業において重要なのは、原型制作者の模倣技術能力であって、多様な表現方法の存在を前提とした感性あるいは個性の発露の問題はおこらない。したがって創作性は否定されるべきである。
2 争点2(本件模型原型に対する著作者人格権の帰属−法人著作の成否)について
(一)原告
(1)本件合意は、「模型原型使用許諾契約」であり、原告は、本件模型原型を制作して、被告会社に預託したものである。したがって、原告は、本件模型原型に対し、著作者人格権を有する。
(2)被告は、本件模型原型につき法人著作が成立すると主張するが、法人著作が成立するためには、〈1〉法人等の発意に基づくものであること、〈2〉法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること、〈3〉法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること、〈4〉作成の時における契約、勤務規則その他で著作権が従業員に留保される旨の定めがないこと、の四つの要件を充たすことが必要であるところ、本件では、いずれの要件も充たさない。
 すなわち、原告は、本件模型原型の制作行為のいかなる段階にも被告会社からコントロールを受けなかったのであり、また制作行為全体にコントロールが及んでいる旨表明されたことはない(要件〈1〉の欠缺)。また「職務上作成」されたかという点についても、それは「職務上の義務」として作成されたものでなければならず、原告と被告会社との間にはそのような「職務上の義務」として作成するという約定は存在しなかった(要件〈2〉の欠缺)。逆に被告会社は、模型原型の制作については「契約」に基づいて作成されたことを認めているのである(甲三七)。
 さらに、原告制作の模型原型を複製した商品の公表にあたっても、被告会社は原告が著作者であることを明らかにした「原型X制作」という表示で業界雑誌に公表している(要件〈3〉の欠缺)。なお、原告が被告会社を退職した後にも、原告の造型した作品について、原告を著作者と認め右表示をして広告販売している。
 さらに、被告会社は、原告が被告会社を退職した後にも模型原型の使用許諾料の支払をなしていたのであり、このことは原告に「著作者の権利」があることを被告会社が認めていたことを意味する(要件〈4〉の欠缺)。
(3)また、本件模型原型の版権元であるトイズプレスと被告会社との間で、「模型原型の所有権並びに著作権を制作と同時に版権元に帰属する旨定めていた」としても、また、右事実を原告が知っていたとしても、契約の効果は、契約当事者を拘束する効力しかないのであるから、そのことから直ちに原告に本件模型原型の著作権が存在しないとの結論にはならないし、著作者人格権は、「著作者の一身に専属し、譲渡することができない」ものであるから、本件模型原型についての原告の有する著作者人格権が被告会社に帰属することもありえない。
(二)被告
(1)被告会社と原告との間の本件合意は、「模型原型使用許諾契約」ではなく、被告会社と従業員であった原告との間の報奨金支払合意にすぎない。すなわち、原告が模型原型の制作という被告会社におけるキャラクター商品化業務の一部を職務上担当したものであることを前提に、その職務に報いるため一種の報奨金として合意されたものであって、従業員の地位を離れて会社と契約関係に入ったものではない。また被告会社は、当該模型原型を所有権に基づき保有したのであって、原告が預託したものではない。
 本件では、原告に対する模型原型制作に関し、この報奨金支払合意が話し合われたにとどまり、著作者を原告とする等の権利帰属の合意は別段存在しなかった。したがって、本件模型原型の著作者は原則論に帰って法人である被告会社であり、結局、著作者人格権は被告会社に帰属するものである。
(2)ガレージキット商品は、次のとおり多くの作業工程が相互に密接不可分に関係し商品化に至るものである。
第一工程「商品化企画工程」
〈1〉アニメ・漫画の流行、競合各社の動向、顧客情報等を検討しながらキャラクターの選定・スケール・商品素材・販売予測数等の商品化に必要な事項を企画
〈2〉著作権者あるいは著作権管理会社に対するライセンス交渉、商品化契約の締結
〈3〉商品化契約の使用許諾の内容に基づき、具体的な商品化展開方法について検討
第二工程「原型制作工程」
〈1〉制作工程手順・制作期間・原型開発費を含む制作予算の検討
〈2〉仕様書、原作のコマを参考にした絵コンテ画制作
〈3〉原作設定資料集、絵コンテ画に忠実に原型作成
〈4〉原型分割
〈5〉社内、版権元、原作者による監修
第三工程「商品生産工程」
〈1〉生変型のための元型制作
〈2〉元型から生産型の制作
〈3〉生変型への商品素材の注入及び脱型
〈4〉箱詰
第四工程「販売」
〈1〉業界雑誌への宣伝・広告
〈2〉店頭・卸・通信販売
 原型制作は右の工程のうちの一工程であり、しかも、他の多くの作業工程と有機的に関連しながら実施される性質のものである。そしてこのようにして制作された原型は、社内及び著作権者により原作が忠実に反映されているかどうかという観点から厳重な監修がなされる。原告は、被告会社の発意にかかる商品化の指示命令にしたがい、従業員として職務上本件各模型の商品化の一工程を分担したにすぎないものであって、著作者人格権などの独立した共有主体とはなりえない。
(3)被告会社は、その完成商品の販売に際しては、被告会社あるいはそのライセンサーである原著作権者の著作者表示をしている。また、ガレージキット業界においては、著作者表示とは別に、原型制作者の氏名(本名あるいはペンネーム)が、パッケージ上あるいは広告上に表記されることがあるが、これは商品を特徴化する手段として作業工程の担当者を表記したにすぎないものであって、著作者表示と混同すべきではない。
(4)被告会社は、本件模型の版権元であるトイズプレスとの間で、模型原型の所有権及び著作権を制作と同時に版権元に帰属する旨定めていたところ、原告は、被告会社のベテラン従業員として、版権元から商品使用許諾契約を締結した上で制作することは承知していたものであり、権利帰属に関しては当然版権元が所有権及び著作権を留保していることも承知し得たものである。
 このような取り扱いの理由が、キャラクターの同一性を確保し、かつ、権利の散逸を防止しながら種々の商品化を目指すことにあることからして、著作者人格権に関してのみ従業員である原告に帰属させる合意(著作者を原告とする合意)が別に原告・被告会社間に存在することはあり得ない。
3 争点3(著作者人格権侵害の有無)について
(一)原告
(1)被告模型原型における各々の改変については、甲四の1ないし4、甲五の1、2、甲六の1ないし3、甲四二、甲四四のとおりであるが、例示すれば次のとおりである。
 ジョーカー(原告)の肩部分は、前部の六角形のハッチが別部品となっており、開けた状態にもでき又内部も造りこんであるが、アマテラス(被告)及びフル装備(被告)において、被告Y2はそれらを接着し、埋め潰して見えなくする等、原告の意に反した改変。行っている(甲四の1)。
 また、クロスミラージュ雄型は、背面部は一度も原作に描かれていないため、原告はオリジナルの形状で造型したが、被告Y3は、クロスミラージュ(被告)において、原告の原型を使用した上、原告の意に反した改変を加え、背面から肩上にかけて形状、モールドを変更したものである(甲五の1)。
(2)クロスミラージュの背面や、ジュノーン初期型の下半身(特に脚部)のように原作中に描かれていない部分等は、原型作者が独自に格好よいと思ったイメージで造型することが多い。原作は、平面における図面構成とその演出効果を重視して描写されるので、すべての部分が書き込まれるとは限らず、原型制作上そういうアレンジをする部分はかなり存する。
(3)同じ原作を元にしても、立体化する上においては、原型作者の個性が極めて強く反映するのはガレージキットの前提であり、周知の事実である(甲二七)。
(4)被告会社の代表者である被告Y1の指示の下、被告Y2及び被告Y3は、本件模型原型を改変し、かつ、被告会社は、被告模型原型を被告Y3及び被告Y2を制作者として表示して販売・広告したものであり、原告は、著作者人格権に基づき、被告会社に対し主文一、二、五項の、被告Y2に対し主文三項の、被告Y3に対し主文四項の、それぞれ差止請求権を有する。
(二)被告
(1)キャラクター商品の改変と原著作権者の意思
 被告模型原型には、各々対応する本件模型原型の同一性に影響を与える程度に重要な変更は存在しない。
 キャラクター商品は、時間の経過による陳腐化が早い性質を有することから、売れ筋商品のニュー・バージョンの制作販売は、当初販売戦略に折込済みのことである。その際、商品の一部に改変が生じることは原型引渡の段階で原型制作者は予め了解している。
 キャラクターの商品化に際しては、著作物の同一性保持に関する決定権は、原著作権者が有するとの業界慣行が存在する。すなわち、キャラクター事業においては、原著作権者が改変を望めば、原告・被告会社の意向にかかわらず、商品を改変せざるを得ないのである。
 キャラクターの商品化は、原著作権者の強力な権利支配のもと実施されるものであって、原著作権者が明示あるいは黙示的に付与した使用許諾の範囲内においてのみ商品化が許されること、すなわち、原著作権者の意思に合致する範囲内においてのみ許されることは被許諾者である被告会社のみならず、その従業員も当然熟知していることである。元従業員に、原型制作に関して金銭を支払ったということのみで、被許諾者ではない原告に対し、本件模型原型に関し改変の決定権を認めること、あるいはその決定権を原著作権者と共有させることは、キャラクター商品におけるライセンスシステムを無視した所論である。
(2)やむを得ない改変
 仮に原告主張の改変があるとしても、これらはいずれも組立の容易さ(機能性)に着眼した部品構成上の些細な改変であって「やむを得ない改変」に該当する。
(3)仮に原告の主張するように、本件模型原型が著作物として保護されるもので、マニアックな顧客がその作品の微妙な違いに着眼して「いずれの商品が格好よく表現しているか」を見極めているという前提で議論するならば、改変された被告模型原型は、本件模型原型との微妙な違い故に、別個の個性(創作性)を有する別個の作品になるはずである。そうであるなら、被告模型原型は本件模型原型とは別個の創作性をもつことから、もはや同一性保持権の侵害の問題は起こらないはずである。原告の著作物性に関する主張と同一性保持権に関する主張は矛盾している。
4 争点4(原告の損害)及び5(謝罪広告の必要性)について
(一)原告
(1)被告らは、原告の著作者人格権があることを知りながら又は過失により知らないで、本件模型原型に改変を加えて被告模型原型を制作し、前記第二、二5のとおり広告・販売し、原告の本件模型原型に対する著作者人格権を侵害したものであるところ、原告は、被告らの不法行為により、著作者としての社会的評価を著しく傷つけられるとともに、その影響は本業界にも及んでおり、これによって原告の被った精神的損害は、被告会社が被告模型原型を商品化し販売して得た経済的利益に匹敵こそすれ劣るものではない。
 そこで、原告は被告会社がトイズプレスから「商品化権使用契約書」を締結して一年以内に商品として通常販売すると推測される商品を各五〇〇個として、被告の純利益を次表のとおり推計し、暫定的に各販売個数に沿う精神的損害に対する慰謝料として合計四四二万円が相当と思料して請求する。
 なお、原告は、原告代理人弁護士に対して本訴訟の遂行を委任したが、被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用として三〇〇万円が相当である。
(2)原告は、被告会社との間の「模型原型使用許諾契約」に基づき、平成二年六月分から同年一二月分までの使用許諾料合計三八五万六四六六円を支払わないため、平成四年八月七日被告会社到達の書面で、到達後一○日を経過しても右金員の支払がない場合には、右契約を解除する旨の意思表示をした。
 被告会社は、本件模型原型を原告に無断で使用して被告模型原型を制作しそれらの複製品を完成商品として販売して利益をあげているが、これにより被告会社は法律上の原因なくして利得し、反面、原告は右利得と同額の損失を被っている。
 一方、著作権法一一四条は、著作権者の救済を容易にするために、損害の推定規定を設けているところその立法趣旨から不当利得返還請求権の場合にも類推適用が認められるべきである。
(3)また、原告が被告らの各行為により毀損された名誉を回復するためには、前記第一、二記載のとおりの謝罪広告を掲載させることが相当である。
(二)被告
 原告の主張は争う。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(著作物性の有無)について
1 一般に、漫画等のキャラクターをプラモデルや人形等に立体化する際、その立体化の過程において創作性が認められない場合には、そのプラモデルや人形は、美術著作物である当該キャラクターが描かれた漫画又は当該キャラクターの複製(著作権法二条一項一五号)であり、プラモデルや人形自体に第二次著作物としての著作物性を認めることはできない。しかしながら、キャラクターを立体化する場合においても、その立体化の過程において創作性が認められる場合には、当該キャラクターの描かれた漫画又は当該キャラクターの変形、すなわち美術著作物の変形(同法二条一項一一号、一〇条一項四号)として、第二次著作物としての著作物性が認められると解すべきである。
2 本件についてこれを見るに、ガレージキットと呼ばれる模型ジャンルは、漫画等のキャラクターを原画に忠実に立体化するという意味において、同一のキャラクターを立体化する限り、できあがったガレージキットの模型原型に大きな相違はないはずである。
 そして、検証の結果によれば、いずれも漫画「ファイブスター物語」のキャラクターを立体化した商品である次の(一)ないし(四)にそれぞれ記載した各商品は、その形状等が類似していることが認められる(なお、被告模型原型は原告模型原型を改変したものであると主張されているので、ここでは、被告模型原型は比較の対象としないこととする)。
(一)ジョーカー(原告)(平成元年九月発売)、海洋堂製(R制作)レッドミラージュ(平成三年四月発売)ワークショップ・キャスト製(原告制作)レッドミラージュ(平成七年二月発売)(乙二二−資料2、検証調書写真31〜35)。
(二)株式会社ウエーブ(以下「ウエーブ」という)製(R制作)レッドミラージュ(昭和六二年三月発売)及びフル装備(原告)(昭和六三年一月発売)(乙二三−資料2、3、検証調書写真21〜25)。
(三)ジュノーン初期型(原告)(昭和六三年八月発売)及びウエーブ製(S制作)ジュノーン初期型(昭和六三年三月発売)(乙二四−資料2、検証調書写真36〜40)。
(四)被告会社製(T制作)ジュノーン後期型(昭和六三年四月発売)、被告会社製(U制作)ジュノーン後期型(平成五年五月発売)及びワークショップ・キャスト製(原告制作)ジュノーン後期型(平成五年八月発売)(甲一二、二八、検証調書写真26〜30)。
3 しかしながら、前記第二、二6の事実及び証拠(甲一四、二七、二八、三〇、三四、四四、四五、原告本人八回・三四〜三七、四三〜四八頁)によれば、次の事実が認められる。
 ガレージキット、特に、ロボット、人形などのキャラクター模型の場合、実物は存在しないので、造型の元となるのは、漫画、イラスト、アニメの画面等の平面であるところ、造型師は、それらの各資料の中から、自分の感性で、そのキャラクター性をもっとも生かせると思えるイメージや表現を考えながら、一つ―つの部品を造りあげていく。漫画等から必ずしも当該キャラクターの大きさが判明するものではないことから、同一メーカーの同一シリーズでもサイズは一定しないことが多い。また、漫画等に表現されていない箇所があることなどから、サイズのみならず、全体のバランスやフォルムについて、模型の原型制作者のセンスや独自の解釈が加わり、結果として数社が同一のキャラクターを立体化した場合でも、フォルム、バランス、サイズが微妙に異なる作品ができあがる。そして、同一キャラクターの商品が異なる造型師によって数社から発売されることがあるが、その制作者の解釈、表現等が着目されて、マニアの好みにより選択され、その商品の人気等に影響している。このように、ガレージキット業界は、キャラクターの立体化の過程における当該キャラクターの解釈や表現の差異を競う模型ジャンルであるといえ、その制作の過程において、制作者の思想・感情の表現が看られるといえる。
4 これを前記2で対比した商品について具体的に検討すると、まず、前記2(一)のジョーカー(原告)、海洋堂製(R制作)レッドミラージュ及びワークショップ・キャスト製(原告制作)レッドミラージュについては、海洋堂製のレッドミラージュが最も小型に造られており肩高一五センチメートルであるが、これは、原作の設定にある「肩高一五メートル前後」という記述(甲四〇)に最も近く、他の二商品は、いずれも設定とは関係ないサイズで造られている。また、海洋堂製レッドミラージュは、胴体から脚部にかけては小さく造型しながらも、肩や楯は大きく、ボリュームをもたせてある。一方、ワークショップ・キャスト製レッドミラージュは、肩高二〇センチメートルと最も大きく、脚部の長さを強調して造られている(乙二二−資料2、検証調書・二丁表、裏、写真31〜35)。
 次に、前記2(二)のウエーブ社製(R制作)レードミラージュとフル装備(原告)については、前者は後者に比べて、全体的にひとまわり小さく、腰部の長さや太さの違いにおいてバランスも異なり、また、前者は、背中のタンク、右手に持った火炎放射器も小型で短いなど、各部の造型上の解釈も相互に異なることが認められる(甲四の2、3、乙二三−資料2、3、検証調書・二丁表、写真21〜25)。
 また、前記2(三)のウエーブ社製(S制作)ジュノーン初期型は、ジュノーン初期型(原告)に比べ、全体に角張った解釈でまとめられ、スカートは長大で広がるように造られ、背面のブースターは幅広い。また、設定画のない脚部(脛、足首)は、ジュノーン初期型(原告)とウエーブ社製ジュノーン初期型とでは、形状、長さ、幅ともに独自の表現による違いが認められる(乙二四−資料2、検証調書・二丁裏〜三丁表、写真36〜40)。
 なお、前記2(四)のジュノーン後期型の三商品については、同(一)ないし(三)の各商品の比較におけるより類似性が高いと考えられるものの、肩部分、脚部分、スカート部分等にそれぞれ解釈の違いが認められる(検証調書写真26〜30)。
5 以上の検討によれば、ガレージキットは、実在する車、飛行機等を忠実に再現する一般のスケールモデルとは異なり、その立体化の過程において制作者の思想・感情の表現が看られるのであって、当該キャラクターが描かれた漫画又は当該キャラクターという美術著作物の変形として、第二次著作物としての著作物性を有すると認めるのが相当である。なお、トイズプレスと被告会社の間の商品化権使用契約書(甲三一の1〜3)及び被告会社と外部造型師との間の業務提携契約書(甲三二の1〜6)においても、模型原型に著作権が発生することを前提とした内容の条項があり、これも右認定に沿うものである。さらに、原告が、被告会社に対し、アマテラス(被告)及びジュノーン初期型(被告)に係る商品の展示・販売の禁止等を求めた仮処分申請事件(平成五年(ヨ)第一〇六九号)において、被告会社自身、ジョーカー(原告)及びジュノーン初期型(原告)につき、漫画家Qの「ファイブスター物語」の登場キャラクターを原著作物として、異種複製することにより作成された変形著作物(あるいは翻訳著作物)であると主張していたことも認められる(甲一、甲三三)。
 したがって、本件模型原型の制作における立体化の過程に創作性がないことを理由として本件模型原型の著作物性を否定する被告らの主張は採用できない。
二 争点2(本件模型原型に対する著作者人格権の帰属−法人著作の成否)について
1 被告らは、本件模型原型に対する著作者人格権は、法人著作として被告会社に帰属するから、原告は著作者人格権を有しないと主張し、原告は、被告会社に法人著作は成立しないと主張するところ、法人著作が成立するためには、(一)著作物が、法人その他使用者の発意に基き作成されたものであること(法人等の発意)、(二)法人等の業務に従事する者が職務上作成した著作物であること(職務上の著作)、(三)その法人等が自己の著作の名義の下に公表する著作物であること(法人等の著作名義による公表)、(四)その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定がないこと(契約等に定めがないこと)、の四つの要件を充たすことが必要である(著作権法一五条一項)。そこで、以下、右要件について検討する。
2 本件合意及び本件模型原型制作に至る経緯等について
 証拠(甲二八、二九、乙二九、証人P一○回、一一回、原告本人八回、九回)によれば、次の事実が認められる。
(一)被告会社は、昭和六三年から平成四年までの間、複数の造型師との間で、「業務提携契約書」を取り交わし、模型原型の制作を委託していた。右業務提携契約書の内容は、基本的には、被告会社が模型原型の制作を造型師に依頼し、その代金として、小売り売価の七ないし一○パーセントを支払うというものであるが、右代金の名目は、「原型元型著作権使用料として支払う」とされており、造型師は、被告会社に対し、著作権料を受領する際の証として、著作権料支払済シールを発行するものとされていた(甲三二の1〜6、原告本人八回・九〜一一頁)。
(二)原告は、くずは店長、塚口店長を務めるとともに、外部造形師の作品の監修、商品の完成見本の制作等を行っていたところ、昭和六〇年ころからは、X´´名で造型をするようになったが、販売や渉外業務の傍らで制作したため、被告会社から給与とは別に販売された商品の一個目から、五又は一〇パーセントの割合の支払を受け取っていた(甲二八、証人P一〇回・三一頁、原告本人八回・三〜五頁)。
(三)昭和六一年秋ころ、雑誌「ニュータイプ」に連載されていたファイブスター物語が、ガレージキットマニアの間で話題となり、当時被告会社の塚口店長であった原告は、これを商品化したいと思ったものの、ファイブスター物語のキャラクターはデザインが複雑であり、ガレージキット化することが難しいこともあって、まず同じQの作品であるエルガイムを商品化することを提案し、社長、原告を含めた企画部門担当で協議をした結果、将来的にはファイブスター物語のキャラクターを商品化することを前提に、エルガイムから商品化することを決めた(甲二九、乙二九、証人P・一○回・四〇〜四二頁、原告本人・八回・七一〜七三頁)。
(四)そして、そのころ、Pがトイズプレスと交渉して、被告会社は、エルガイム及びファイブスター物語を商品化する版権を得、原告は、エルガイムの制作に取りかかった(原告本人八回・七九〜八〇頁、P一〇回・四二、四三頁)
(五)昭和六二年三月ころ、被告会社と競争関係にあるガレージキットの制作会社であるウエーブ社(当時は株式会社ラーク)が、Q原作の漫画ファイブスター物語のキャラクターの一つであるレッドミラージュのガレージキットを販売し、これがマニアの間でヒット商品となった。また業界の老舗である海洋堂もファイブスターシリーズに名乗りを上げたため、被告会社も至急ファイブスター物語のキャラクターの商品化にとりかかる必要に迫られた(乙二九、証人P一〇回・四五〜四八頁、原告本人八回・三七、三八頁)。
(六)そこで、昭和六二年五月ころ、被告Y1をはじめ役員で協議(原告は参加していない)した結果、外部造型師ではなく、原告にファイブスター物語のキャラクターの原型制作を頼むこととし、ウエーブ社の販売したレッドミラージュと同じ主役級のナイトオブゴールドを制作することとして、Pが、原告にそれを伝えた。しかし、当時、原告は、Qの別の作品であるエルガイムのキャラクターシリーズの原型制作を行っており、これへのこだわりがあって、ファイブスター物語のシリーズヘの転換には難色を示したこと、またファイブスター物語のキャラクターのデザインは複雑であるため、閉店後の時間だけでは制作に長期間を要することなどから、店長職以外の仕事は従前通りとするが店長職は免除すること、フレックスタイム制とすることなどの条件を呈示して、Pが説得した結果、原告と被告会社の間において、本件合意がなされ、原告は、ナイトオブゴールドを制作した。その後、原告は、本件模型原型を制作した(甲二九、乙二九、原告本人八回・三〜五頁、証人P一〇回・四九〜六四頁、同一一回一三七頁)
3 法人の発意(要件(一))について
 2の各事実によれば、Qの漫画であるエルガイム及びファイブスター物語のキャラクターの商品化は、被告Y1を含む企画部門で協議された上で決定され、被告会社においてトイズプレスから版権を得た上で、原告が制作したものであること、またファイブスター物語のキャラクターの商品化に際しては、原告は、Pから模型原型制作に係る条件の提示を受けて説得された上で、これを了承したものであることが認められ、本件模型原型の著作は、被告会社の発意に基づくものということができる。
 原告は、自分がファイブスター物語のシリーズ化を提案したものであり、また何を制作するかも自己が決定したと供述するが(原告本人八回・七、八、七一、七一頁)、前記2のとおり、当初は、原告からその企画の提案があったとしても、結局、被告会社において協議され、またそもそも被告会社が版権を取得しなければ原告としても本件模型原型の制作をしても意味がなかったことにかんがみれば、本件模型原型の著作の発意は、直接又は間接に被告会社の判断にかかっているといえるから、本件模型原型の著作は、被告会社の発意に基づくと評価することの妨げにならないというべきである。
 したがって、本件模型原型の制作は、原告の発意に基づくとの原告の主張は採用できない。
4 職務上の著作(要件(二))について
(一)本件模型原型の制作が職務上の著作であるといえるためには、当時、被告会社の従業員であった原告が雇用契約上の義務として制作したものであることを要すると解すべきところ、原告は、本件模型原型を制作するに先だって原告及び被告会社間でなされていた本件合意は、給与とは別の本件模型原型の使用料の支払契約であると主張し、被告らは、本件合意は、報奨金の支払合意にすぎないと主張するので、この点につき検討する。
(二)前記2のとおり被告会社は昭和六三年から平成四年までの間、複数の外部造型師との間において、業務提携契約なる契約(甲三二の1〜6)を締結しているところ、その内容は、基本的には商品が販売される一個目から七ないし一○パーセントの金銭を支払うというものであり、これは模型原型を制作することを内容とする請負契約であると解せられる。
 そして、本件合意がなされる前である昭和六〇年ころの原告と被告会社の間の合意は、この業務提携契約と全く同一内容であるかどうかはともかく、給与とは別に、右業務提携契約と同様に商品一個目から販売価格に対する割合(五又は一〇パーセント)でその支払が定められたものであること、材料費は原告の給与から天引きされていること(原告本人九回・二三頁)から、請負契約であると解するのが相当である。
(三)これに対し、本件合意は、給与とは別の金銭の支払を内容とするものではあるが、商品五〇一個目から一○パーセントの金員を支払う旨の合意であること、材料費も原則として会社が負担していたこと(証人P一〇回・五三、五五頁―原告は、本件合意後も材料費は自己負担であったと供述(原告本人九回・二三、二四頁)するが、あいまいであり(同・三九、四〇頁)採用できない)、本件合意の際には、原告は店長としての仕事は免除され、フレックスタイム制になったが、その後も店長手当は支給されていたこと(原告本人八回・一五頁)、原告自身も、商品が五〇〇個以下に終わればやった分が損になるが、ウエーブ社のレッドミラージュがその時点で一〇〇〇個を超えているうわさがあったので、あと五〇〇個は売れるのではないかという程度の認識であったこと(原告本人八回・七〜八、一六頁)などの事実が認められ、商品五〇〇個分については給与の対価的意味があるとして、その限りにおいて職務上の制作であると見る余地もないではない。
(四)しかしながら、原告は、平成二年九月に辞表を提出し、その後平成三年三月末に退職しているところ、その間、わずかに一体の模型原型(アシュラテンプル)(支払については三〇一個目から八パーセントと合意している)しか制作していないが、給与、身分等は従前のとおりであったこと(甲二九)、本件合意後、フレックスタイム制にはなったものの、従前から店長職の他に行っていた各部造形師の作品監修、商品の完成見本の制作、東京の模型雑誌社での撮影・雑誌掲載の交渉、商品のパッケージデザイン等の仕事はそのまま継続していたこと(甲二九、原告本人八回・五頁、九回・一七頁)、本件合意前に制作された模型原型と同様に、本件模型原型についても、退職後の販売分についても支払われる旨の合意がなされていたこと(証人P一一回・二四頁)、被告会社の税理士が行った原告の確定申告においては、本件合意等に基づく模型原型に関する収入は給与とは区別されて「事業(その他)」と記載されていること(甲四八の1)、結果的にジョーカー(原告)は、少なくとも一九一三セット製造され(甲七・別表)、その他の本件模型原型もこれに近い数が製造されたこと(甲七、証人P一○回・六四頁、弁論の全趣旨)などの事実が認められる。
 これらの各事実に加え、本件合意までは、原告は、被告会社との間における雇用契約とは別の請負契約に基づいて模型原型を制作していたこと、被告会社としてはファイブスター物語の商品化を急遽進める必要があったところ、外部造型師に頼むことは困難であったことから、原告にこれを承諾させるために好条件を提示する必要があったことなどの事情も総合すると、本件合意より以前は、原告は請負契約により模型原型を制作していたのに、本件合意により模型原型の制作を雇用契約上の義務の内容として加えたとみるよりは、本件合意は、それまでの原告と被告会社の模型原型制作に係る合意と同様に請負契約であり、店長勤務の免除やフレックスタイム制などの条件は、ファイブスター物語の商品化に取りかかることを原告に承諾させるためのものであり、ただ請負代金(制作料)の支払についてその条件を考慮し、給与という形態で支払われる金銭の一部を五〇〇個目までの代金としたと見るのが相当である。
(五)そうすると、本件模型原型は、原告と被告会社間の雇傭契約に基づいて制作されたものではなく、別個の請負契約によって制作されたものであるから、本件模型原型が、職務上制作されたと認めることはできない。
5 以上によれば、本件模型原型の著作については、被告会社の発意に基づくことは認められるものの、原告が職務上著作したものであるとは認められないから、法人著作が成立するためのその余の要件について検討するまでもなく、本件模型原型につき被告会社の法人著作は成立しない。したがって、本件模型原型につき、原告が著作者人格権を有すると認められる。
6 なお、被告らは、トイズプレスと被告会社の間では、第二次著作権は、版権元であるトイズプレスに留保されているから、原告が著作者人格権を取得することはできないと主張するが、トイズプレスと被告会社との間の契約は当然には原告に効力が及ぶものではないこと、第二次著作権については適法性は要件とされていないことから、右事実は、原告が著作者人格権を取得する妨げにならず、被告らの主張は理由がない。
 また、被告らは、右トイズプレスとの間で著作権が留保されておりこれを原告が知っていたと主張するが、仮に、原告が、右契約の存在を知っていたとしても、前記4で述べたところを総合すると、やはり本件模型原型の制作が雇用契約上の義務の内容となっていたと認めることはできないから、法人著作は成立しないとの認定が左右されるものではない。さらに、右合意が、原告から被告会社(または版権元)へ著作権を譲渡する旨の合意であるとしても、著作者人格権は譲渡できないから、原告が著作者人格権を有することに変わりはない。
三 争点3(著作者人格権侵害の有無)について
1 被告模型原型は、本件模型原型を改変したものか
(一)各模型原型の比較
(1)ジョーカー(原告)及びアマテラス(被告)について
<1> 乙二二及び検証の結果(写真1〜5、31〜35)によれば、アマテラス(被告)は、全体のサイズ、バランス、フォルムにおいて、ジョーカー(原告)とほぼ同一であり、一見して、その判別が困難なほど酷似していることが認められる。
<2> 特に、前記一2(一)の海洋堂製(R制作)レッドミラージュ及びワークショップキャスト製(原告制作)レッドミラージュとジョーカー(原告)を対比すると、前記一3で述べたようにサイズやバランスに相違が認められるのに対し、ジョーカー(原告)とアマテラス(被告)の間にはこのような相違は認められず、類似性の程度が相当異なるといえる(乙二二−資料2、検証調書31〜35)。
<3> また、ジョーカー(原告)とアマテラス(被告)の各部についてみると、頭部の角飾り、胸部、腰部、左右リフレクター(反射板)、左右肩カバー、左右下腕部、左右背面装甲、尻背面スカート、左右脚、左右足首、盾等は、彫刻や一部形状の相違が存するものもあるが、そのサイズ、基本的形状は、ほぼ同一であることが認められる(甲四二、四四−添付図面、乙二二−資料2、検証調書写真1〜5)。
(2)フル装備(原告)及びフル装備(被告)について
<1> 乙二三及び検証の結果(写真6〜10、21〜25)によれば、フル装備(被告)は、全体のサイズ、バランス、フォルムにおいて、フル装備(原告)とほぼ同一であり、一見して判別できないほど酷似していることが認められる。
<2> 特に、前記一2(二)のウエーブ社製(R制作)レッドミラージュと対比すると、前記一4で述べたようにサイズやバランスが異なる上、各部に造形上の相違が認められるが、フル装備(原告)と同(被告)の間においては、このような相違が認められず、類似性の程度が相当異なるといえる(乙二三−資料2、3、検証調書写真21〜25)。
<3> フル装備(原告)及び同(被告)のフレームランチャー、フレームユニット(フレームタンク)は、その彫刻等に若干の相違は見られるものの、サイズや基本形状はほとんど同一であるのに対し、ウエーブ社製レッドミラージュは、これらの大きさや形状が異なる(甲四の3、乙二三−資料2、3、検証調書写真25)。特に、フレームユニットは、設定資料では、大きく本体から飛び出して描かれているが、原告はこれではイメージとして大きく重すぎると感じて小さくして本体に隠れるような形で制作したものであることが認められるところ(甲四の4)、右のとおりフル装備(被告)もフレームユニットの形状、大きさはフル装備(原告)とほぼ同一である。
<4> その他の各部についてみると、右脚、左右足首、左右下腕、腰左右スカート、尻背面スカート等は、若干の彫刻の相違や一部形状の相違は見られるものの、そのサイズ、基本的形状はほぼ同一である(甲六の2、乙二三−資料2)。
(3)ジュノーン初期型(原告)及び同(被告)について
<1> 乙二四及び検証の結果(写真11〜15、36〜40)によれば、ジュノーン初期型(被告)は、全体のサイズ、バランス、フォルムにおいて、同(原告)とほぼ同一であり、一見して、その判別が困難なほど酷似していることが認められる。
<2> そして、例えば、ジュノーン初期型(被告)の胸部は、同(原告)と基本的に形状は同一であるものの、一部が削られたように狭くなっていること(甲四四)、ジュノーン初期型(被告)は、左手に持つ武器につながるパイプが存するが同(原告)にはこれはないことなどにおいて相違は見られるが、その他に相違点を見つけだすことも困難なほど酷似している(乙二四−資料2、検証調書写真11〜15)。
(4)クロスミラージュ(原告)及び同(被告)について
<1> 乙二五及び検証の結果(写真16〜10)によれば、クロスミラージュ(被告)は、全体のサイズ、バランス、フォルムにおいて、クロスミラージュ(原告)とほぼ同一であり、正面において両手で所持している武器(ルーターベール)の大きさが異なること及び背面スカート部分の長さが異なることを除けば、一見して判別しがたく、酷似していることが認められる。
<2> フル装備(被告)の胸の下面の左右に各々九本のスリットが存在するが、これはフル装備(原告)と同一である(甲五の2)。また、左腕、左脚についても若干の形状等の違いはあるもののよく似ており、さらに足首裏の部分については、設定にもイラストにも一切描かれていないため、原告は、自己のジョーカー(原告)のものを基に造型したものであるところ、クロスミラージュ(被告)の同部分は同一である(甲五の2)。
<3> 相違点としては、クロスミラージュ(被告)の頭部及び左右の肩がそれぞれひとまわり大型化しており、彫刻も異なる点、左右上腕、手首等の彫刻、形状が異なる点等がある(甲六の1)。
(5)なお、本件模型原型に係る商品の部品数は一○○個程度であるが、被告模型原型に係る商品の部品数は二〇ないし三〇個程度であって、被告模型原型はいずれも部品数が少なくなるように制作され、また、本件模型原型はアッセンブル・フリー方式(消費者が組み立てる際にポーズを選択して固定できる方式)であるが、被告模型原型は、当初からポーズが固定されている方式で制作されている(甲三五、三六、原告本人八回・六二、六五、六六)。
(二)右各事実によれば、本件模型原型とこれに対応する被告模型原型は、全体のサイズ、バランス、フォルムにおいて、ほとんど同一である上、各部についても、サイズ、基本形状がほぼ同一のものが多いことが認められる一方、各部において、形状等が異なるもの、あるいは基本形状等が同一であっても彫刻において相違があるものが使用されていることが認められる。そして、(一)で述べたサイズ、バランス、フォルムの類似性の高さ(特に他社製品と比較した場合に顕著である)は、本件模型原型と被告模型原型に使用された原画、設定資料等(甲四三、乙二二−資料6〜10、二三−資料5〜9、二四−資料4、二五−資料3〜5)を対比してみても、被告模型原型が本件模型原型を基に制作されたものでなければ、説明が困難であるから、結局、被告模型原型は、それぞれに対応する本件模型原型を元にして、その各部を改変するなどして制作したものと認定せざるを得ない。
 甲三五(被告Y2の陳述書)及び同三六(被告Y3の陳述書)の陳述中、これに反する部分は、採用できない。
2 やむを得ない改変にあたるか。
 次に、被告らは、仮に被告模型原型が本件模型原型を改変したものであっても、組立の容易さに着眼した部品構成上の些細な改変であって「やむを得ない改変」に当たると主張する。
 著作権法二〇条一項は、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」と規定し、この規定は「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」には適用されないこととされている(同条二項四号)ところ、同条二項は、一項に規定する同―性保持権が及ばないものとして、真にやむを得ないと認められる改変を必要最小限度において許容しようとする趣旨であると解される。
 そして、原告の著作者人格権は、模型原型に係るものであるところ、その製品化にあたっての部品数のみの変更はその完成状態が全く異ならない場合であれば、その利用の目的に照らしやむを得ない改変と見ることも考えられる。しかし、前記1で述べたとおり、部品の一部は異なるものを使用し、また部品のサイズ、形状等が基本的に同一のものについても、一部の形状変更や彫刻の変更がなされているのであるから、単に部品数を変更したにとどまらないものであって、その利用目的に照らし、やむを得ない改変に当たるということはできない。
 したがって、この点についての被告らの主張は採用できない。
3 被告模型原型は新たな第二次著作物か。
 さらに、被告らは、仮に被告模型原型が本件模型原型を改変したものであるとしても、被告模型原型は、本件模型原型とは別個の創作性をもつに至っているから、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害しないと主張する。
 しかし、前記1で述べたとおり、被告模型原型は、サイズ、バランス、フォルムにおいてほとんど同一である上、その部品にもサイズ、基本形状が同一のものが多いのであって、本件模型原型とは異なる新たな創作性を認めることはできず、新たな第二次的著作物とは到底認められない。
 よって、この点についての被告らの主張も採用できない。
4 以上によれば、被告らの本件模型原型に対する改変行為及びこれを商品化して被告Y2及び被告Y3を制作者として広告・販売する被告会社の行為は、いずれも原告の著作者人格権を侵害するから、原告の被告会社(主文一、二、五項)、被告Y2(同三項)、被告Y3(同四項)に対する差止請求は理由がある。
 また、被告Y3及び被告Y2は、被告会社の代表取締役である被告Y1の指示の下に、被告模型原型を制作し、被告会社はこれを製品化して、被告Y2及び被告Y3の名の下に広告・販売したものであるところ、被告らは、原告の著作者人格権があるのにないと誤信したことにつき、過失があると認められるから、被告らの右行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害し、不法行為を構成する。したがって、被告らは、これらの不法行為によって原告の被った損害(精神的損害)につき賠償する責を免れない。
四 争点4(損害)について
1 慰謝料
 原告は、被告らの不法行為により原告が被った精神的損害は、被告会社が被告模型原型を使用した商品を販売して得た経済的利益を下回るものではなく、その商品は少なくとも各五〇〇個は販売されたとして、その純利益により慰謝料額を算出している。
 なるほど、証拠(甲七、三五、三六、弁論の全趣旨)によれば、被告模型原型を使用した商品は、少なくとも各五〇〇個は販売されたことは優に推認することができる。しかしながら、被告らの不法行為により侵害された原告の権利は、本件模型原型についての著作財産権ではなく、著作者人格権であるから、被告会社の得た販売利益をそのまま原告の被った精神的損害とみることは到底できない。
 そして、本件著作者人格権は、ガレージキット業界という極めて限定された業界で取引される商品の模型原型に関するものであること、本件模型原型に係る制作料(原告の主張によれば原型使用許諾料)については、別の訴訟の控訴審において、原告が被告会社から相当の経済的利益を得ることを内容とする和解が成立していること(乙二六)、その他諸般の事情を総合すると、被告らの不法行為につき原告が被った精神的損害は、ジョーカー(原告)及びフル装備(原告)に関し二五万円(被告会社、被告Y1及び被告Y2の不真正連帯債務)、ジュノーン初期型(原告)及びクロスミラージュ(原告)に関し二五万円(被告会社、被告Y1及び被告Y2の不真正連帯債務)と認めるのが相当である。
2 不当利得
 原告は、被告会社に対し不当利得返還請求をし、かつ、不当利得返還請求につき著作権法一一四条の損害の推定規定が類推適用されるべきであると主張するが、被告会社が得た販売利益額を、原告の著作者人格権の侵害による原告の損失及び被告会社の利得とみることはできないから、原告の右請求は理由がない。
3 弁護士費用
 本件訴訟の内容その他一切の事情を考慮すると、被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、ジョーカー(原告)及びフル装備(原告)に関し二万五〇〇〇円(被告会社、被告Y1及び被告Y2の不真正連帯債務)、ジュノーン初期型(原告)及びクロスミラージュ(原告)に関し二万五〇〇〇円(被告会社、被告Y1及び被告Y3の不真正連帯債務)と認めるのが相当である。
五 争点5(謝罪広告の必要性)について
 著作権法一一五条は、「著作者は、故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し、………著作者の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。」と規定しているところ、同規定にいう名誉若しくは声望とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉、声望を指すものであって、名誉感情は含まれないものと解すべきである。これを本件についてみると、被告会社の原告に対する著作者人格権侵害行為により、原告の社会的名誉、声望が毀損されたと認めるに足りる証拠はないから、原告の被告会社に対する謝罪広告の請求は理由がない。
六 結語
 以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告会社に対する著作者人格権に基づく差止請求(主文一、二、五項)、被告Y2及び被告Y3に対する著作者人格権に基づく差止請求(主文三、四項)、被告会社、被告Y1及び被告Y2に対する不法行為に基づく各自二七万五〇〇〇円及び訴状送達の日の翌日(被告会社は平成七年六月一七日、被告Y1は同月一八日、被告Y2は同月二〇日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の請求(主文六項)、被告会社、被告Y1及び被告Y3に対する不法行為に基づく各自二七万五〇〇〇円及び訴状送達の日の翌日(被告会社及び被告Y1は前同、被告Y3は同月二四日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の請求(主文七項)の限度で理由があるから認容し、原告の被告らに対するその余の請求(被告会社に対する謝罪広告の請求、被告らに対する右を超える損害賠償の請求、被告会社に対する不当利得返還請求)は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

京都地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 井垣敏生
 裁判官 松本利幸
 裁判官 中尾彰


目録一
左記美術品 四件


(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 X
(二)制作の時 平成元年七月
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一○○分の一レッドミラージュ・ジョーカー三一○○」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 平成元年九月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 X
(二)制作の時 昭和六二年一一月
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一〇〇分の一レッドミラージュ・フル装備」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 昭和六三年一月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 X
(二)制作の時 昭和六三年七月
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一〇〇分の一ジュノーン初期型」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 昭和六三年八月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 X
(二)制作の時 昭和六三年四月
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一○○分の一クロスミラージュ(カルバリーC)」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 昭和六三年五月

目録二
左記美術品 四件


(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 Y2
(二)制作の時 平成四年三月二六日
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一○○分の一レッドミラージュ・アマテラス」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 平成四年九月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 Y2
(二)制作の時 平成五年九月ころ
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一○○分の一レッドミラージュ・フル装備」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 平成五年一一月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 Y3
(二)制作の時 平成五年三月四日
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一○○分の一ジュノーン初期型」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 平成五年五月

(一)制作者
  住所 <省略>
  氏名 Y3
(二)制作の時 平成五年九月ころ
(三)制作物の種類「ガレージキット」又は「レジンキャスト」
(四)制作物の題号「一〇〇分の一クロスミラージュ雄型」
(五)制作物の形状及び色彩
  別紙写真表示のとおり
(六)制作物公表の時 平成五年一〇月

広告目録
一 謝罪広告
 当社が発売しております「1/100スーパースピリッツシリーズ」のうち、「レッドミラージュ・アマテラス」「レッドミラージュ・フル装備ブラッディクロス」「ジュノーン・NEW初期型」「クロスミラージュ・カルベリィC雄型」の四点は、原型制作者であるX氏に無断で原型を流用改造し、作者名を変更して発表したものです。当社では、すでに裁判所の指示により同製品の製造、展示、販売を中止しておりますが、X氏ならびに業界関係各社様に多大なご迷惑をお掛けしました点、深くお詫び申し上げます。今後この様な事が無い様、厳重に注意していく所存です。まずはお詫び方々ご報告申し上げます。
 株式会社A
 右代表者代表取締役 Y1
二 掲載条件
掲載場所 月刊ホビージャパン誌 被告広告掲載紙面の見開片面下段1/2頁
字格
1 見出し 二四級(写植文字サイズ)
2 文面 一四級(右同)
3 責任者氏名 一六級(右同)
line
 
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