判例全文 | ||
【事件名】ドレンホースの不正競争事件 【年月日】平成8年11月28日 大阪地裁 平成6年(ワ)第12186号 判決 主文 一 原告の請求を棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求の趣旨 一 被告は、原告に対し、二七五万一六六七円及びこれに対する平成八年七月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。 二 仮執行の宣言 第二 事案の概要 一 事実関係 1 原告商品 原告は、別紙第一物件目録記載のドレンホース(甲第二号証、検乙第三号証の1ないし6。以下「原告商品」という。)を開発し、これを「結露防止用SCS断熱ドレンホース(エアコン用)」の商品名で製造販売している。(争いがない)。 右の原告商品の販売開始時期について、原告は平成四年三月二八日ころと主張するが、被告は平成二年四月ころと主張している(後記第三の三参照)。 2 被告の行為 被告は、平成六年七月から、訴外東拓工業株式会社(以下「東拓工業」という。)が製造した(乙第一二号証)ドレンホース(甲第三号証、検乙第一号証の1ないし6。以下「被告商品」という。)を、「断熱ドレンホースソフトタイプ」の商品名で販売している(争いがない)。 右の被告商品の特定について、原告は別紙第二物件目録(一)記載のとおりであると主張するのに対して、被告は別紙第二物件目録(二)記載のとおりであると主張する。右検乙第一号証の1ないし6及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は、正確には被告主張の第二物件目録(二)記載のとおりであることが認められるので、第二物件目録(二)記載のとおり特定するのが相当である。 3 原告の請求 原告は、被告商品は原告商品の形態を模倣したものであり、原告はこのような被告商品の販売によって営業上の利益を侵害されたと主張して、不正競争防止法二条一項三号、四条に基づき、被告が被告商品の販売を始めた平成六年七月から、原告商品の原告主張の販売開始日から起算して三年を経過した日である平成七年三月二七日までの間の損害賠償として、二七五万一六六七円及びこれに対する請求の趣旨変更申立書陳述の日の翌日である平成八年七月三日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。 二 争点 1 被告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか。 2 原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態であるか。 3 被告商品の販売開始は原告商品の販売開始日から起算して三年を経過した後であるか否かに関係して、原告商品の販売開始日はいつか。 4 被告が損害賠償義務を負う場合、原告に対し賠償すべき損害の額。 第三 争点に関する当事者の主張 一 争点1(被告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか) 【原告の主張】 1 被告商品は、以下のとおり、原告商品の新規性ある形態をすべて備えているから、原告商品の形態を模倣したものである。 (一) 原告商品は、次のような特徴を有している。 (1) 従来、エアコンの室内機に発生する水滴を室外に排出するドレンホースは、結露防止のためホースに別に断然材を巻いてテープで固定するなどしていたが、原告商品は、樹脂ホースそのものに可塑性のある断熱帯を付着させることにより、取扱いが極めて簡便になっている。 (2) 原告商品は、このように結露防止のための断熱帯を付着させ、これを一体即時形成して製造するものであるため、無制限の長尺ホースとすることができる。そして、原告は、右のような長尺断熱ドレンホースを短尺断熱ドレンホース製造用装置で製造すると送りのための駆動力が不足し、外周にシワが入ったり外径が変化して安定した製品ができなかったため、成型軸(マンドレル)の長さを短尺断熱ドレンホース製造用のものに比較して長くし、できあがった長尺断熱ドレンホースを二〇メートル引き取る引取台に補助駆動をつける、という製造装置の改良を行った。 (3) また、従来、五メートルぐらいの長さの断熱ドレンホースでホース芯として金属ワイヤー入りのものはあったが、これは、工事現場で任意の長さに切断することが困難であり、切断することができたとしてもその断面がギザギザになってしまい取扱いが極めて不便であったのに対し、原告商品は、金属製のホース芯に替えてプラスチック製ホース芯を使用しているため、切断がしやすく取扱いが便利になった。 (二) 原告商品の右特徴のうち、機能面を除いた形態だけで表現すれば、原告商品は、次の三つの新規性ある形態を有している。 @ 長尺ホースである。 A 外皮部分には内部に独立した伸縮自在のパッド状筒が内蔵されている。 B ホース芯がプラスチック製である。 (三) 被告商品も、 @ 長尺ホースである。 A 外皮部分には内部に独立した伸縮自在のパッド状筒が内蔵されている。 B ホース芯がプラスチック製である。 という形態を有しており、前記原告商品の新規性ある形態と一致する。 2 確かに、右形態のうち、外皮部分には内部に独立した伸縮自在のパッド状筒が内蔵されており(A)、ホース芯がプラスチック製であること(B)は、商品として利用する段階では、外から見ることはできないが、この点もやはり商品形態に当たるといえる。 (一) 商品の形態には、単に商品のデザインや外観のみではなく、色・つや・質感も含まれるところ、外皮の内側にはりめぐらされた太みのあるパッドは、ホースの質感、可塑感などに大きな特徴を与えている。 (二) 原告も被告も、そのカタログ(甲第二、第三号証)において、ホースを削ぎ切りした断面を商品特徴として売り出しており、パッドは商品の重要な要素となっている。 (三) 原告も被告も、原告商品、被告商品がカッターナイフなどで簡単に切断できると宣伝しているが、これの形態面は、ホース芯がプラスチック製であるということであり、やはり商品の重要な要素となっている。 3 被告主張の日立14ФRWMD一〇四一は短尺ホースであり、東芝14ФD四〇七七一〇五〇四も実用上は短尺ホースであり、いずれもホース断面に凹凸がありホース芯が鉄製であって、原告商品とは全く異なる。 【被告の主張】 1 不正競争防止法二条一項三号にいう「形態」とは商品の外観、形状をいい、商品の外観、形状のみが模倣という評価の対象となるのであって、原告の主張するような、商品の通常の使用態様において外見に顕れない内部構造ないし断面形状は一切問題とされない。 2 原告が主張するところの原告商品の特徴(前記【原告の主張】1(一)の(1)ないし(3))は、いずれも商品の形態による特徴ではなく、単に内部構造からもたらされる機能的特徴にすぎない。 その当然の帰結として、原告が原告商品の新規性ある形態として主張する@ないしBの点は、商品の機能面に着目して抽出した抽象的な要素であって、特許あるいは実用新案における保護対象である技術思想あるいはアイデアにほかならない(このことは、原告が原告商品の特定として主張する第一目録の表現が、原告出願に係る発明の公開特許公報〔乙第一号証〕における要約の記載と実質的に同じであることによっても裏付けられる。)。このような技術思想あるいはアイデアが不正競争防止法二条一項三号によって保護されないことは明らかである。 3 そこで、前記のような意味での商品の形態、すなわち外観、形状をみると、原告商品の形態は、原告主張の原告商品の販売開始日前の平成三年一二月ころから東拓工業が製造し訴外株式会社日立製作所が販売してきた日立14ФRWMD一〇四一(検乙第四号証の1・2)、及び昭和五九年一〇月ころから東拓工業が製造し訴外株式会社東芝が販売してきた東芝14ФD四〇七七一〇五〇四(検乙第五号証の1・2)の形態と一致する程度にまで類似するものである(原告は、これらの商品はホース断面に凹凸があるというが、原告主張の原告商品の形態である@ないしBの点からすれば無関係の議論である。)。 これに対し、被告商品の形態は、原告商品の形態とは異なり、むしろ、被告が被告商品の販売開始の約五年前の平成元年四月から販売してきた東拓工業製品5M(検乙第二号証の1・2)と一致するものであり、この商品の形態をそのまま踏襲したものであって、原告商品の形態を模倣したものではない。 4 なお、前記の原告商品の内部構造からもたらされる機能的特徴(【原告の主張】1(一)の(1)ないし(3))についても、以下のとおり原告商品に特有のものではない。 (一) (1)のうち、取扱いが極めて簡便という点は、従来からこの種商品の内部構造が有している機能的特色でしかない(前記東拓工業製品5M、日立14ФRWMD一〇四一、東芝14ФD四〇七七一〇五〇四)。 ドレンホースにおいて樹脂ホースそのものに可塑性のある断熱帯を付着させたものは、被告が既に昭和六二年から販売してきている(乙第八号証、検乙第七号証)。 (二) (2)の、断熱帯を付着させ、これを一体即時形成して製造するものであるため、無制限の長尺ホースとすることができるとの点も、従来からこの種商品が有している機能的特色でしかない(前記東拓工業製品5M、日立14ФRWMD一〇四一、東芝14ФD四〇七七一〇五〇四)。 (三) (3)について、原告は、ホース芯として金属ワイヤー入りのものは切断することが困難であるかのようにいうが、金属ワイヤー入りのものも切断は決して困難ではないのであって、前記東拓工業製品5Mは、現場で任意のサイズに切断することを前提にした五メートルの長尺ホースである。 また、金属製のホース芯に替えてプラスチック製ホース芯を使用しているとの点も、原告が原告商品の販売に先立って平成二年四月ころから(乙第三号証)訴外ダイキン工業株式会社に販売してきた「樹脂線入りの断熱ドレンホース」(検乙第六号証の1・2。以下「ダイキン向商品」という。)も備えている。 二 争点2(原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態であるか) 【被告の主張】 仮に、原告が原告商品の新規性ある形態として主張する@ないしBの点が、不正競争防止法二条一項三号にいう「商品の形態」に当たるとしても、これらは、新規性がなく、同種の商品が通常有する形態である(同号括弧書)。 1 @の長尺ホースであるとの点については、東拓工業出願に係る特公昭三六−一三九三二号特許公報(乙第六号証の1)、特公昭四六−一二〇〇〇号特許公報(同号証の2)の記載から明らかなように、この種の断熱ドレンホースは、連続的に長いホースを作り、使用に際して適当な長さに切断して用いるものである。 そして、原告が平成二年四月ころから販売していたダイキン向商品は、一本の長尺ホースとして製造された原告商品と全く同一の構造のドレンホースを用途に合わせて切断して販売していたものである。原告は、ダイキン向商品は短尺ホースで、かつ、ホース両端に部品を接続したものであって、原告商品とはその形態が全く異なると主張するが、断熱ドレンホースを長尺ホースで販売して、購入者がその用途に合わせて切断するという販売形態自体は、被告販売の東拓工業製品5M(検乙第二号証の1・2)、一九八七年度被告カタログ(乙第八号証)掲載の断熱ドレンホースセットDDH−14S、16Sにより公知となっていた。 したがって、長尺ホースであることは、新規性ある特徴とすることはできない。 2 Aの、外皮部分には内部に独立した伸縮自在のパッド状筒が内蔵されているとの点は、東拓工業出願に係る実公昭六三−九八三五号実用新案公報(乙第七号証)に、断熱材が内壁、外壁及び薄肉テープと「一体とされない」構造の可撓性断熱ホースが示されており、原告商品の販売開始前から通常の構造であったということができる。 3 Bの、ホース芯がプラスチック製であるとの点は、可撓性芯線に「樹脂ワイヤー」を用いるダイキン向商品も備えていること、前記実公昭六三−九八三五号実用新案公報に、内壁の形成帯状体の折返しにより包まれた金属線は硬質合成樹脂の線材でもよい旨記載されていることから、原告商品の販売開始前から通常の構造であったということができる。 【原告の主張】 被告指摘の他社商品は、その形態が原告商品のものと全く異なる(日立14ФRWMD一〇四一、東芝14ФD四〇七七一〇五〇四については前記一【原告の主張】3のとおり)から、原告主張の@ないしBの点は同種商品が通常有する形態ではない。 ダイキン向商品は、短尺ホースで、かつ、ホース両端に部品を接続したものであって、原告商品とはその形態が全く異なるものである。 三 争点3(被告商品の販売開始は原告商品の販売開始日から起算して三年を経過した後であるか否かに関係して、原告商品の販売開始日はいつか。) 【被告の主張】 原告が被告商品の販売開始日である平成六年七月より三年以上前の平成二年四月ころから販売してきたダイキン向商品は、一本の長尺ホースとして製造されたドレンホースである原告商品をその用途に合わせて切断して一定の長さにしたものにすぎず、それ故内部構造も原告商品と同一である。したがって、ダイキン向商品と原告商品とは全く同じ商品と評価できるか、その差は極めて僅かである。 そうすると、原告は、原告商品と同一の商品をすでに平成二年四月ころから製造販売していたことになるから、被告商品の販売開始は、原告商品の販売開始日から起算して三年以上経過した後ということになる(不正競争防止法二条一項三号括弧書)。 【原告の主張】 原告が原告商品の販売を始めたのは、平成四年三月二八日ころである。 被告主張のダイキン向商品は、前記のとおり、短尺ホースで、かつ、ホース両端に部品を接続したものであって、原告商品とはその形態が全く異なるものである。 四 争点4(被告が損害賠償義務を負う場合、原告に対し賠償すべき損害の額) 【原告の主張】 被告商品と原告商品とは市場において完全に競合しているところ、被告が平成六年七月から平成七年三月二七日までの間に被告商品の販売によって得た利益の額は、次の1と2の合計二七五万一六六七円であり、不正競争防止法五条一項により、右額は同期間に原告の受けた損害の額と推定される。 1 平成六年七月から同年一〇月末までの間 五〇万円 被告商品の平成六年七月から同年一〇月末までの間の売上額は五〇〇万円、その利益率は一〇パーセントと推定されるから、右期間内に被告は五〇万円の利益を得たことになる。 2 平成六年一一月から平成七年三月二七日までの間 二二五万一六六七円 (一) 平成四年、五年、六年の各一一月から翌年三月までの間の原告商品の売上実績は、次の(1)ないし(3)のとおりである。 (1) 平成四年一一月から平成五年三月までの間 二五五七万八〇〇〇円 (2) 平成五年一一月から平成六年三月までの間 三九五二万六〇〇〇円 (3) 平成六年一一月から平成七年三月までの間 三八五五万一〇〇〇円 右(2)の期間の売上げは、(1)の期間の売上げと比較すると五四・五パーセント増加しているのに対し、(3)の期間の売上げは、(2)の期間の売り上げと比較すると二・五パーセント減少している。もし被告商品の販売がなかったならば、(3)の期間の原告商品の売上げも、(2)の期間の売上げと比較して五四・五パーセント増加していたと推定できるので、(3)の期間の売上げは、六一〇六万七六七〇円(39,526,000×〔1+0.545〕)であったはずである。これと実際の売上額との差額である二二五一万六六七〇円(61,067,670−38,551,000)が被告商品の販売による平成六年一一月から平成七年三月二七日までの間の原告商品の売上げの減少額であり、これがすなわち同期間の被告商品の売上額と推定される。 (二) そして、被告商品の利益率は一〇パーセントと推定されるから、結局、平成六年一一月から平成七年三月二七日までの間に被告の得た利益は二二五万一六六七円となる。 第四 当裁判所の判断 一 争点1(被告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか)及び争点2(原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態であるか)について 1 原告は、被告商品は原告商品の新規性ある形態をすべて備えているから、原告商品の形態を模倣したものであると主張し、その原告商品の新規性ある形態として、@長尺ホースである、A外皮部分には内部に独立した伸縮自在のパッド状筒が内蔵されている、Bホース芯がプラスチック製である、との三点を挙げる。 そこで、まず、これらの点が不正競争防止法二条一項三号にいう「商品の形態」に当たるか否かについて検討するに、他人が商品化のために資金、労力を投下して開発した商品について、その機能面ではなく形態面における模倣をもって不正競争行為とする同号の立法趣旨及び「形態」という用語の通常の意味に照らせば、同号にいう「商品の形態」とは、商品の形状、模様、色彩、光沢等外観上認識することができるものをいうと解すべきである。 したがって、商品の機能、性能を実現するための構造は、それが外観に顕れる場合には右にいう「商品の形態」になりうるが、外観に顕れない内部構造にとどまる限りは「商品の形態」に当たらないといわなければならない(このような商品の機能、性能を実現するための内部構造は、要件を具備することにより特許法、実用新案法等による保護を受けることが可能であるから、権利保護に格別欠けるところはない。)。 そうすると、原告が原告商品の新規性ある形態として挙げる点のうち、前記A及びBの点は、外観上認識できないことが明らかであるから、前記「商品の形態」に当たらないというべきである。 原告は、右A及びBの点が商品として利用する段階では外から見ることができないことを認めながら、(1)商品の形態には、単に商品のデザインや外観のみではなく、色・つや・質感も含まれるところ、外皮の内側にはりめぐらされた太みのあるパッドは、ホースの質感、可塑感などに大きな特徴を与えている、(2)原告も被告も、そのカタログ(甲第二、第三号証)において、ホースを削ぎ切りした断面を商品特徴として売り出しており、パッドは商品の重要な要素となっている、 (3)原告も被告も、原告商品、被告商品がカッターナイフなどで簡単に切断できると宣伝しているが、これの形態面は、ホース芯がプラスチック製であるということであり、やはり商品の重要な要素となっているとして、商品形態に当たると主張する。 しかし、原告商品(検甲第四号証の1、検乙第三号証の1ないし3)において、外皮部分に内蔵されているパッドが質感、可塑感などに大きな影響を与えているものとは認められない。わずかに、やや力をいれて原告商品を握ると、右パッドのために若干弾力性のあることを感じることができるものの、外観のみから認識することはできない。仮に、外観のみから若干弾力性のあることが認識しうるとしても、また右パッドが原告商品の質感等に何らかの影響を与えているとしても、その場合には、外観上認識できる質感等そのものが「商品の形態」を構成するにすぎず、そのような質感等に影響を与えている商品の内部構造そのものをもって「商品の形態」ということはできない。 また、原告主張のとおり、原告も被告も、そのカタログ(甲第二、第三号証)においてホースを削ぎ切りした断面を商品特徴として売り出していること、原告商品、被告商品がカッターナイフなどで簡単に切断できると広告していること(右各号証)が認められる。しかしながら、原告商品、被告商品は結露防止用の断熱ドレンホースであって、外観上認識できる形状等もさることながら、液体を流すというホース本来の機能からそのホース内面の状態が重要であるとともに、結露防止用ということで断熱材が重要であることから、商品販売用のカタログを作成するに当たって、ホースを削ぎ切りした断面の写真を掲載することによって内部構造を明らかにすることはいわば当然ともいうべきことであって、かかるホースを削ぎ切りした断面によって明らかになる内部構造は、外観上認識できない以上、パッドがいかに原告主張のとおり重要な要素となっているとしても、パッドが「商品の形態」に当たるということはできないし、また、カッターナイフなどで簡単に切断することができるという点も、ホース芯がプラスチック製であるという商品の内部構造に基づく機能を説明するものであることにほかならないから、商品の機能の重要性を理由に外観上認識できない内部構造をもって「商品の形態」に当たるということはできない。 したがって、原告の主張は採用することができない。 2 これに対し、原告が、原告商品の新規性ある形態として挙げる点のうち、@の長尺ホースであるとの点は、一応、外観上認識できる形状であるということができる。 しかしながら、右にいう「長尺」とは、どの程度の長さをいうのか原告の主張によっても明らかでないところ、そもそもドレンホースは、エアコンの室内機に発生する水滴を室外に排出するためのものであるから、一定の長さを有するのは当然であり、その長短は相対的なものにすぎない。のみならず、原告商品の実際の長さは二〇メートルであると認められるところ(証人【A】)、証拠(乙第八、第一二号証、検乙第七号証、証人【B】)によれば、ドレンホースの構造にはスパイラル方式(原告商品、被告商品、日立14ФRWMD一〇四一〔検乙第四号証の1・2〕、東芝14ФD四〇七七一〇五〇四〔検乙第五号証の1・2〕)と蛇腹方式とがあって、その優劣はつけがたいところ、被告は、昭和六二年には長さ五メートルの蛇腹方式の断熱ドレンホースであって、エアコンを設置する現場で必要な長さに切断して使用するものを販売していたし、断熱材と一体となっていない蛇腹方式のドレンホースは、昭和五三年ころから長さ五〇メートルのものを販売していたことが認められる。 したがって、原告商品における前記@の長尺ホースであるとの点は、同種の商品が通常有する形態であるというべきである。 3 以上によれば、原告が原告商品の新規性ある形態として主張する@ないしBの点は、いずれも、そもそも不正競争防止法二条一項三号にいう「商品の形態」に当たらないか、同種の商品が通常有する形態にすぎないから、結局、同号による保護は受けられないということになる。 二 結論 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由のないことが明らかであるから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所 裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子 第一物件目録 軟質塩化ビニルよりなる内外周壁1a、1b間にスポンジ等の断熱材4を内装してなる断熱ドレンホースにおいて、内周壁1aの外周面に中空螺旋突条2を形成してあり、この中空螺旋突条2内にポリプロピレン等のオレフィン系樹脂よりなる可撓性芯線3を、該中空螺旋突条2の内面に接着させることなく内包させてホースを弯曲させた場合に中空螺旋突条2を芯線3から遊離する方向に波形状に屈曲変形させるように構成している別紙形態図の長尺のホース。 <32441−001> 第二物件目録(一) 内面を平滑面11aに形成している軟質合成樹脂よりなる内周壁11の外周面に該内周壁11と同一樹脂よりなる中空螺旋突条12を一体的に形成し、この中空螺旋突条12内に可撓性芯線13を内装すると共に前記内周壁11の外周面にスポンジ等の断熱材17を介して軟質合成樹脂よりなる外周壁15を一体的に層着してなる断熱ホースにおいて、前記中空螺旋突条12の両側壁部12b、12bの内端間を拡げてその内端を内周壁11の外周面に一体的に連設することによりこの中空螺旋突条12に内装した前記可撓性芯線13と該中空螺旋突条12の両側壁部12b、12bとの間に空隙部16、16を形成し、さらに、前記可撓性芯線13をポリプロピレン等のオレフィン系の合成樹脂によって形成して中空螺旋突条12に接着させることなく該中空螺旋突条12に内装してなる構造を有する断熱ホース(別紙図面(一)のとおり)。 図面(一) <32441−002> 第二物件目録(二) 第二物件目録(一)の一行目冒頭から五行目冒頭の「て、」までを、「内面を平滑面11aに形成している軟質合成樹脂製の帯状素材(防カビ処理が施されている。)を積層してなる内周壁11の外周面に、スポンジ等の断熱材17を介して軟質合成樹脂製の帯状素材を積層してなる外周壁15を層着するとともに、右内周壁11及び外周壁15を構成する各帯状素材により中空螺旋突条12を形成し、該中空螺旋突条12内に可撓性芯線13を内装してなる断熱ホースにおいて(別紙「図面(二)」のとおり)、」に改め、六行目の「一体的に」を削り、図面(二)を一部拡大図として付加するほかは、右目録及び図面(一)のとおり。 図面(二) <32441−003> |
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